濃い緑の中に白い日差しが差し込む森の中、その木々の一本にできた穴の中に
イスラは身を潜めていた。
そっと胸に片手を当てると、己の心臓の鼓動が伝わってくる…死んではいない。
自分は確かに死んだはずだった。
帝国の軍部の名家の長男として生まれ、将来軍に入り家を継ぐ筈だった自分は、
父が召喚師のテロ集団「無色の派閥」の恨みを買い、その復讐の為に病魔の呪いをかけられた。
寿命が尽きるまで断末魔の苦しみを味わい、自ら命を絶つことすら叶わぬ体となった自分は、
家にとって疎ましい存在となり、自分の代わりに姉が軍に入隊したことで、自分の存在意義は消えた。
周りに迷惑しかかけられず苦しみ続けるなら、いっそ死んでしまいたい。
病床の中で絶望していたところを、無色が呪いを抑える代わりに自分達に手を貸せと交渉しに来たのだ。
その後呪いを抑え込み、自分も軍の諜報部に所属しつつ無色にも度々手を貸した。しかし、その間もずっと
自分の死ぬ方法を探していた。そして見つけたのだった。
二本の魔剣とその適格者同士なら、お互いを殺すことができる。適格者の資格を持っていた自分は、
偶然出会い同じく適格者であった
アティを挑発し、自分を殺させようとした。
しかしその願いは叶わず、抑え込んでいた呪詛を無色により急に解かれ、その反動で死ぬという
自分の望んだものとは違う結末をむかえた。
しかし今自分は生きている。体には特に異常はなく健康で、呪詛もかかっていないようだ。
(僕をこのゲームに参加させるために、あの
ヴォルマルフとかいう奴あたりが生き返らせたということか…)
先ほどまでの光景を思い出す。どこかの広間に集められた参加者達、一人になるまで殺し合いをしろと
言ったヴォルマルフと、奴と相対した金髪の青年。殺し合いを望むディエルゴという存在と
その事に驚いたアティ。吹き飛ぶ首と首輪…
そっと首を触ると、そこには広間で死んだ者と同じ首輪がはめられていた。
病魔の呪いの代わりに、今はこの首輪が自分の命を握っている。
「っふふ…ハハハ……」
ふいに笑いがこぼれる。
望んでいた結末ではなかったが、元々自分は死を望んでいたのだ。
そこを生き返らせてこんな首輪で命を管理されたところで、自分が恐怖に震えるなんて事はまずない。
だからこの事については特に問題はなかった。
それより気になるのはディエルゴの事。アティの言葉からしてあれは自分の持っていた魔剣「紅の暴君」
の心の核だろう。昔エルゴという絶対的存在に人間が成り代わるという実験の際に、暴走した実験体の
人間の心を二本の剣に封じたという事件があったことを知っている。その核を倒したが何故かこのゲーム
に関わっているということか…?これについては推測にしかならないことが多すぎる。
とりあえず今の状況の整理と今後の目的を決めなくてはいけない。
恐らくあの場所にいたヴォルマルフ以外の全員がこの地のどこかにいる。
参加の意思がない者、又は主催者を倒そうとする者もいるだろう。
勿論このゲームに乗る者もいると考えるべきだ。
支給品の袋に入っていた名簿を順に目を通す。
(アティの他に姉さん、
ビジュ…名前を見る限りじゃ知っているのは5人。あいつの空間転移術
と金髪青年を考えに入れると、異世界のやつらを数人ずつに分けて集めているかもしれない。
まずは仲間…とは言えないだろうが、アティか姉さんと合流したいな。それかあの金髪…多分
あいつはこのゲームに乗る気はないだろうしヴォルマルフと顔見知りみたいだから、上手く引き込んで
情報収集しよう。できれば首輪を外せる技術者とも出会えればいいんだけどね。)
とにかく当面の目的は決まった。
次は持ち物の確認である。袋の中身を順に取り出し並べる。
地図、水と食料、磁石、時計…親切な事に、一応一通り揃っている。
そして残りの二つは…
「へぇ…やっぱ殺し合いをさせるだけのことはあるってことかな?」
手にした支給品を見て、イスラはふっと笑った。
それは腕に装着して使う剣のようなものだった。しかし装着部分は殆ど金属で、剣の刃は少々粗かった。
しかしそんなことは問題ではなかった。自分のいた世界でも見かけた物だったので使い方は知っていた。
「それとこっちは…?」
もう一つの品は封筒だった。先ほどの剣の説明書というわけではないようだが、これ自身にも説明書は着いていない。
呪い付加系アイテムの可能性も否定できないが、封を開けてみた。中には一枚の手紙が入っていて、内容は…
『これを持ってる貴方の僕として頑張っちゃいま~す♪―メイメイ―』
一瞬今の状況を忘れ、イスラは唖然とした。
(これはいわゆる「ハズレ」なのかな?というか名簿にはあの店主の名前はなかったし…
このゲームに関与しているのか…ん?)
封筒と交互に手紙を見ながら、何かに気付く。その顔は謎が解けた時のような
達成感にもにた感情が見て取れた。
荷物の確認も終了し準備も整ったところで、行動を開始し始めたその時…!
(…誰か来る!?)
森の入り口付近にいたので外の平原はよく見渡せた。その平原から誰かが走ってくる。
近づいてくるにつれ、相手の姿が見えてくる。顔に恐怖の色を浮かべ何かから必死に逃げているようだ。
しかし後ろからは特に人影は見えない、撒いたのだろうか…?
入り口の木に寄りかかりながら愚痴をこぼしているようだ。一見しても武器は見当たらない。
(まずはあいつの様子を見て、声をかけてみるとするか…。)
その相手―
ネスティを見つめながら、静かにイスラは草陰に腰を下ろした。
【B-6/森入り口草陰/1日目・朝】
【イスラ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:メイメイの手紙@サモンナイト3
[道具]:支給品一式、チェンソウ@サモンナイト2
[思考]1:男(ネスティ)の様子を探り、接触する
2:アズリアかアティと合流する。
3:対主催者or参加拒否者と協力する。
4:自分や仲間を害する者、ゲームに乗る者は躊躇せず殺す。
[備考]
本編16話死亡直後
ディエルゴの事は詳細はわからないがアティの発言で
ある程度の推測はしています。
メイメイの手紙の秘密についてわかっているようです。
【B-6/森付近/1日目・朝】
【ネスティ@サモンナイト2】
[状態]:疲労、やや恐慌状態
[装備]:
封魔の首飾り@TO ダークロア@TO
[道具]:支給品一式
[思考]1:とりあえず落ち着くまで休む
2:協力者を探すため、城へ向かう
3:仲間たちとの接触も早めにしたい
ドリルタイプの武器。刃が高速回転して対象を切断する。
機界ロレイラルの機械兵士用の装備で、接続部分を持って装備する。
酔っ払い占い師メイメイが先生に渡した手紙。
全状態異常・憑依無効、誓約の儀式に使うと各世界の基本召喚獣が呼べる。
【機】ドリトル【鬼】ギョロメ【霊】ピコリット【獣】タマヒポ【無】サモンマテリアル
最終更新:2009年04月17日 08:54