死んだはずのオレがなぜここでこうして生きているのか、そんなことはどうでもよかった。
オレはチャンスを与えられた。ああ、オレは大いなる父フィラーハに感謝しよう。
――私達には神様がついておられるのです。
神はオレの罪を許し、そして最高のお恵みをくださった。そうだ、オレにはその神がついている。
殺人に対する抵抗感など皆無だ。オレはオレのためだけに行動する。ほかのやつらはオレのある目的のための礎となるのだ。
そう、この“素晴らしいゲーム”に優勝するというために――
目を閉じ、静かに待つ。五感は限界まで研ぎ澄まされ、向こうからやってくる獲物の動く音が正確に把握できる。
ここは木の上だ。向こうからは茂った葉が邪魔でこちらの姿は見えない。狙うは獲物が頭上まで来た時。
手にした刀を強く握る。体勢を変えて、即座に動けるようにする。獲物はもうすぐだ。
今が好機と確信した瞬間、オレは目を見開き短い掛け声とともに跳躍した。
空行く女――いいや、ガキが目を大きくした。そいつが何か口を開こうとした時には、オレはその細い足を左手で掴んでいた。
「きゃ、あああぁぁっ!」
これで地面へと一直線に、と思ったが予想外に落下は緩やかなものだった。
男一人の重量を足に受けてもガキは必死に羽ばたいて落ちまいとしている。天使というものを甘く見ていたかもしれない。
「あわ、わわわぁ!」
右手の刀をガキの目の前で振るった。思惑どおりにそれに驚き、落下は加速。
地面が近づいたところでオレは足を掴んでいた手を離した。
比較的柔らかい土に足から着地。瞬時に膝、腰、肩、背と転がり衝撃を殺す。
立ち上がると、しりもちをついて腰のあたりをさすっているガキを確認できた。
驚いた。あの高さからまともに落ちて、ダメージをそれほど受けていないようだ。
ただのガキではない。本気でやらなければならない。
「いたたた……。い、いきなり何をするんですか。危ない――」
立ち上がろうとするガキの目前まで一瞬で駆け寄る。そしてその腹に蹴りを見舞う。ガキは呻きながら大木のそばまで吹き飛んだ。
まだだ。オレはさらに同じようにしてガキの胸に蹴りを入れる。
悲鳴を聞き流して、その頭を左手で掴む。続いて真後ろにある大木にその小さな頭を叩きつける。繰り返し叩きつける。まだだ。もう一度。
「…………!?」
そこでようやくガキがオレの手首を両手で握り締めた。とたんに信じられないほどの怪力が加わり、オレは慌てて右足でガキの顔を蹴り上げた。
力が緩められた瞬間、オレは手を引いてその抵抗からやっと脱出した。危なかった。
「クソがッ!」
腹に蹴りを入れる。呻くガキを無視して、右手の刀を小さい首にあてがった。
「おいガキ、お前に訊きたいあることがある」
「…………て…………るの……か?」
「……なに?」
「どうして……こんなことを……」
再びガキの腹に蹴りを入れて、オレは問いを聞き捨てて本題に入った。
「質問に答えろ。
デニム、
カチュア、ランスロット・タルタロス――このいずれかに出会わなかったか?
もし会っていたら、そいつらに関する情報を教えてもらおう」
荒い呼吸音が聞こえる。ガキのものだ。それが徐々に小さくなって、落ち着いたのかようやく口を開いた。オレはその言葉に耳を傾けた。
「――今すぐこんなことはやめるんです! こんな状況で、分別がつかなくなってしまうのも無理はありません。
大丈夫です、きっと私たちはみんなで力を合わせれば無事に元いたところに帰れます! だから――」
笑い声が聞こえた。だれのものだ? オレのものだった。オレは笑っていた。森に大爆笑が木霊していた。
笑わずにはいられないほど面白い。このガキはオレを笑わかして、その隙に逃げようとでも思ってるのか? あいにくオレはそんなにバカじゃないさ。
オレはガキにほほえんでみせた。
「元の世界ではオレは死人なのさ」
「……え?」
刃をあてがっているところを掻き斬ろうと、勢いをつけるためにすこし首から刀を放す。これだけで十分だ。
次の瞬間には天使の血があたりにぶちまけられるだろう。無論、オレは返り血を浴びないためにその時には跳び退っているが。
「死ね――」
身体が何かを受けて反射的に引き締まる。その正体――殺気に気付いた瞬間、オレは飛び退っていた。
ガキは呆然とこちらを見ている。その首にはうっすらと朱線が見えるだけだ。
「チッ!」
また鋭い殺気を帯びた何かが襲い掛かってきた。横に転がってそれを避ける。それが飛んできた方向を向くと、一人の女が弓矢を構えて立っていた。
立ち上がった時には、女は矢をつがえていた。急いで近くの木に隠れる。すと、と小気味よい音が聞こえた。木に矢が突き刺さった音だ。
再び舌打ちをする。顔だけ出して状況を確認すると、オレは不利を悟った。
ガキはオレから距離をとっていた。今からそいつを人質にとるのは不可能に近い。
ガチで戦うか? いいや、向こうは二人。
あれだけの仕打ちを受けたんだ、ガキは攻撃してこないとは限らない。天使と弓を持った人間を相手にするのは、分が悪すぎる。
そう確信すると、オレはできるだけ木々の密集しているところに向かって逃げ出した。追い討ちはしてこないだろう。森を抜けなくとも、ある程度進めば安心だ。
一人逃した。だが、まだそう焦らなくてもいい。うかつな行動をして傷ついてはならないし、それにゲームの時間はたっぷりあるさ。
狩りの基本は、慎重に正確に狡猾に。
【E-4/森/一日目・朝】
【
ヴァイス@タクティクスオウガ】
[状態]:健康
[装備]:呪縛刀@FFT
[道具]:支給品一式(もう一つのアイテムは不明)
[思考]1:安全なところまで逃走
2:殺せるときには殺す。無理はしない
[備考]:カオスルート処刑直後
【F-4/森/一日目・朝】
【
フロン@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:後頭部から軽い出血 顔面、腹部、胸部に打撲 首にかすかな切り傷 腰を強打
[装備]:エクスカリバー@紋章の謎
[道具]:支給品一式 マイク型ハンディカラオケ(スピーカー付き)
[思考]1:神の愛を説きつつ、人々の争いを止める
2:協力者を集める。話を聞かない人はエクスカリバーで殴って黙らせる
3:
ラハールさんや
エトナさん達にも協力して貰う
4:主催者を打倒、もしくは神の教えに帰依させる
【
アグリアス@ファイナルファンタジータクティクス】
[状態]:健康
[装備]:クレシェンテ@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式(もう一つのアイテムは不明)
[思考]1:目の前の少女を助け、話を訊く
2:
ラムザたちと合流したい
3:襲われやむを得ない場合は、自衛による殺人もありうる
最終更新:2009年04月17日 01:02