上を向くと、陽はそろそろ姿を隠そうとしているところだった。
気温の低下は火照った身体を冷ましてくれるのでありがたいが、視界が暗くなるのは困り者だった。
夜目は常人より利くのだが、それでも当たり前のように明るいほうが遠くを捉えられる。
街道に沿って左右を見渡しながらここまで進んできたのだが、
今後は尋ね人の所在を予測してピンポイントで捜索しなければすれ違う可能性も大きくなる。
では、どう行くべきだろうか。
パッフェルは頭を掻きながら、手元の日記帳に視線を下ろした。
『もう一つの目的はこれだ。筆談でしかできない会話をする時やメモを残すにはこういった物が必要だ。
まあ紙とペンさえあればどこでもよかったが、まだお互いの事を話し合えてなく
支給品や目的を把握しきれていない状態で敵か見方かわからん奴等に立て続けに会っても行動し辛くなる。
そこで紙とペンがありそうで身を潜めやすい場所…書斎に目をつけた。』
悩みどころはこの文章に有益な情報がほとんどないということだ。
せめて「仲間」のことに少しでも触れていれば分かりやすかったのに。
……などと文句を言っている暇はない。
パッフェルは日記帳をデイパックに戻すと、斃れている男に近寄った。
不思議だった。その長髪の男は苦悶の表情とは正反対の顔をしていた。
袈裟懸けの強烈な一閃が致命傷だったと思われるが、即死だったとしてもこんな顔はできないだろう。
自身の最期に自分なりの納得と満足を見出したのだろうか。
……今となっては、何も訊くことはできないが。
「うーん……」
ここにある死体は一人分。
察するに、ここで襲撃者に遭い、この男は「仲間」を逃して敵と対峙した。
その「仲間」は戦力にならぬ者――戦闘技術を持たぬ一般人、あるいは戦うに十分な武具を持たぬ人間。
死体の様子から、死後二時間程度といったところか。
この男のものと思われるデイパックが装備やアイテムだけ抜き取られて放置されていることから、
襲撃者は男を殺害した後、すぐさま「仲間」を追いかけていった可能性が高い。
「はずなんですけどね、コレがなければ」
パッフェルは眉をひそめながら、不自然な血溜まりに目を向けた。
この男のものというには距離が離れすぎている。考えられるとしたら襲撃者のものだろう。
だがしかし、その血痕はあまりにも大きすぎる。通常ならば確実に死に至る量だ。
それなのに死体はどこにも見当たらない。
襲撃者は複数人で、生き残った一人が殺された一人を担いで別のところへ移動した?
……それはいくらなんでも苦しい。もし死体を移動させなければならない理由があったとしても、
せめて支給品の一部だけでも破棄して身を軽くしようとするはずだ。
だが、付近にそういったものは見当たらない。
となると何らかの方法で傷を塞いで命を保たせたことになる。
だが、そんな簡単に瀕死の人間を回復できるようなことを主催者が良しとするのだろうか。
……それとも最終的には絶望を免れないと確信して、あえて見せ掛けの「救い」を残しているのだろうか。
「……さて」
とはいえ、これ以上考えても仕方がない。
パッフェルは険しい目で北方を見やった。
イスラの言葉を信じれば、
ネスティは北東の森から逃げ延びたことになる。
どちらの方向へ行ったかは話になかったが、これまで出会わなかったことを考えると、
C-6の城、もしくはさらに西へ進んだ可能性が高い。
前者なら何事もなくあっさり合流できるが、後者だと追いかけっこをしてしまっていることになる。
「いえ、そっちのほうがいいかもしれませんね……」
イスラの言葉を思い出す。島の北東部は“ゲームに乗った”参加者が複数いるという。
それはすぐ傍にいる男の死体からも、ここが危険地帯であるのは明白だ。
それなら城にいるより、橋を渡って村と思われるところで潜伏していたほうが安全だというものだ。
では、これから真っ直ぐ村へと探しに行くかというと、それも考え物だ。
城にいる可能性がゼロというわけではないのだ。それに、幸いながら位置的にも近い。
仮に城にネスティの姿がなかったとしても、書斎に何か情報が残っていることも考えられる。
たとえばこの男の同行者がネスティだったとしたら、筆談のついでにそこに何か書き置きをしているかもしれない。
もしかしたらネスティの居場所を知る手がかりになるかもしれない。城へ行ってみる価値はあるだろう。
そうと決まれば善は急げ、だが――放送までに城で捜索を終えて橋を通り村へ到達するのはかなり難しい。
これまでかなりのスピードで移動してきた。疲労も溜まっている。小腹もすいている。
何があるかわからないのだから、体調もある程度気遣いながら行動すべきだ。
目的のネスティを見つけたとしても、そこで誰かに襲われて二人ともやられてしまったのでは話にならない。
だからこそ、焦ってはならない。
「……餞別に頂いておきますね」
パッフェルはポケットから一つのものを取り出した。それは男の身辺を探った時に懐から見つけたものだ。
わざわざ身につけていたものだ。ただの飴菓子ではないだろう。
城で包丁でも見つかれば周りの血糊も削り取れる。一応、持っておいて損はない。
パッフェルはそれを自分の懐に入れると、デイパックを背負い、バスケットを手にしながら北へ歩き出した。
【D-6/平原/1日目・夕方】
【パッフェル@サモンナイト2】
[状態]:健康、多少の疲労と空腹
[装備]:弦除去済みエレキギター(フェンダー製ストラトキャスター)
[道具]:エレキギター弦x6、スタングレネードx5、血塗れのカレーキャンディ×1、支給品一式×2、支給品入れはバスケット&デイパック
[思考]1:城の書斎を調べて休息を取り、C-3村へとネスティを探す
2:アティ・マグナを探す
3:イスラ以外の知り合いを探す
4:見知らぬ人間と遭遇時、基本的には馴れ合うことは無い
[備考]:
ナバールの残った支給品を回収しました。
水や食料などすぐに使わないものはデイパックに一括して移しています。
最終更新:2009年04月18日 00:32