川のせせらぎの伴奏のもと、6つの足が曲を奏でる。
横一直線に並ぶ、奏でている3人。
川側から
オグマ、
アズリア、
パッフェルだ。
なんともない話をしながらもそれぞれは有機的に動いている。
川を挟んだ向こう側はオグマが警戒し、平原側は視力に優れたパッフェルが眺め、
アズリアは主に後方に注意を払う。
彼らが進んでいるのは北。川に沿うようにして進んでいた。
パッフェルは最初、西に行くつもりだった。
例の雑音(歌?)が聞こえいたので、人が集まっているかもしれないという理由だった。
が、オグマとアズリアと合流できたし、何よりアズリア達と話をして時間を使いすぎた。
今更行ったところで、遅れて集まる人物に待ち伏せしている人がいないとも限らない。
まぁ、行ったところで待ち伏せているのは大ボケ鼻血天使とはだけた貧血騎士なのだが。
結局…話し合った結果、北上することになった。
3人で固まって行動していれば、殺人嗜好者でもそう簡単には手が出ない。
パッフェルを筆頭に視力もきく彼らは、むしろ見通しがいい場所のほうが
いくらか都合がいいのだ。
遠距離から攻撃される危険もあるが、少なくとも視界の外から
回避できないような攻撃を行う方法を彼らは知らない。
「パッフェル……」
「今度はなんですか、アズリアさん?」
しばしの沈黙。
「いや……そのギターの弦で戦えるのか?」
『なんともない話』をしながらもそれぞれは有機的に動いている。
『なんともない話』………さっきからずっとこんな感じである。
アズリアが何かをパッフェルに聞こうとして、逡巡したあとに
首を小さく横に振る。そして『なんともない質問』をするのである。
「ええ…ちょーっと武器としては頼りないですけど、素手よりはマシってとこですね」
(…これは…気付いていますね…アズリアさん)
アズリアの歯切れの悪い理由はもうパッフェルも分かっていた。
彼女が聞きたいことは―――自分の正体だろう。
少しの間くらいなら自分が"茨の君"だということを隠し通せるかと思っていたが
どうやら見通しが甘かったらしい。
アズリアが鋭いのか、それとも自分は自分で思ったほど変われてなかったのか。
(これ以上隠しても…不信を煽るだけですね)
パッフェルがそう決意し、口を開きかけたときだった。
警戒していた平原の隅っこ、街道上に人影を見つけたのだった。
瞬時に目を細め、その人影を凝視する。
ロングの黒髪の……女性?いやあの体つきは男性か?
いや、それ以前に見覚えがある………あれはまさか…
足を止め、目を凝らしたまま固まるパッフェルを怪訝そうに見る二人。
「パッフェル、何か見えたのか?」
アズリアの声が聞こえたのかどうかは分からないが、
パッフェルは開きかけた口である名前を呟いた。
数瞬、場の時が止まった。
時間が流れ出したときにはアズリアは全力でその人影へと走っていた。
アズリアが駆け出す数十分前。
既に、超危険地帯ともいえた森からは随分離れた。
かれこれ2時間は移動しているのだから当然だろう。
突然襲い掛かってきた剣士と血まみれの少女を思い出し、イスラはため息を吐いた。
森から離れて、岩山を海側へ回りこむようにして南下。
森が親指大の大きさになったところで森のほうをまじまじと見てみたが、人影はない。
できれば
ネスティと合流したかったのだが仕方がない。
探しに戻るかとも考えたがそんな愚はしない。
少なくとも、イスラは彼にそこまでの価値を見出してないのだ。
とはいっても、もしネスティが首輪解除の鍵を握るかもしれない人物だと知っていたとしても
彼の行動が変わったかどうかは分からない。
イスラは、
アティと同じ魂の輝きをもつ、精神的に似通った人物だ。
自分よりも自分の周囲の人が大事という本質は彼女とは変わらない。
だが、彼は彼なのである。
とにかく、イスラは南下した。とりたてて理由はない。
もしかしたら、街道というものを堂々と歩いてみたかったのかもしれない。
(そういえば…こんな気持ちで道を堂々と歩くなんてあったのかな?)
イスラは病魔の呪いにより、そもそも歩くことすら叶わなかった。
歩くことが叶うようになっても帝国軍に入るための訓練に勉強。
レヴィノス家の力があってこそ、一年足らずで軍に入ることができたわけだが
決して親の七光りで軍に入ったわけではないことは彼の実力が示している。
それだけの努力をした彼には、
のんびりと道を歩くような時間は与えられなかったのである。
任務で道を歩くこともあったがそれは全て姉への裏切りにつながる行為、
無色の派閥へ軍の情報を流す行為でしかなかった。
この見通しのよい道を歩いていて、少なくとも誰かの影が見えない限り
自分は何にも怯えないで済むのだ。
こう歩いている限り、心臓発作も罪の意識も襲ってこないのだから。
もしかしたら、この殺し合いの場において『生』を一番満喫しているのは
他でもないイスラなのかもしれない。
「さて…」
(僕の考えたことは…これで大体はまとまったかな?)
街道をてくてくと歩いていたイスラは自分に自問した。
自答の結果は―YESだ。
歩き続けた数時間、何の脅威もない散歩を楽しんでいただけではない。
彼は彼なりに、この殺し合いの場について考察をまとめていた。
この自分のまとめた考えは…自分が考える限りは穴はないが、粗い。
「できれば…召喚術に詳しい、アティか姉さんに話してみたいな」
彼の考えに穴がないかどうかは、
軍学校で非常に優秀な成績だった彼女らなら分かるだろうが――
彼女らにそれを話すことを考えると、とあるイメージがイスラを襲う。
非常に陰鬱なイメージだ。
涙ながらにアズリアに抱きつく。病魔の影も無色の影もないイスラは死ぬ理由はない。
もうアズリアに嫌われるような行動をする必要はないのだ。
そんな彼の一つの衝撃が。
背中に焼けるような痛み。
アズリアの誓いの剣が、背中に突き立っている。
『いまさら何を泣いている?部下の仇だ、死ねイスラ』
アズリアが暗い目でイスラを見下ろし、ゴミでも捨てるように突き飛ばした。
腎臓を一刺しされ、即死だ。
なのにイスラは死んでいない。激痛なんて生易しいものではないのに、
死ぬどころか意識を失いさえしない。
彼が倒れている傍らには、碧き光を放つ、銀髪の女性がいた。
手に持つのは"果てしなき蒼"。
『私はあなたを許しません!』
そう言って彼女が剣を一閃。左腕が胴体から切り離された。
また一閃。さらに一閃。そしてもう一度――右足、右腕、左足が吹き飛んでいった。
アティが醜い目でイスラを見ている。
碧の賢帝の狂気に支配されたような狂った目ではなく、理知的な侮蔑を込めた目。
――――やめろ、そんな目で見るな!
言いたくても言えない。失血で口が動かないし、そんな資格もないのを自覚しているのだ。
そして、碧き剣閃が首へと――
イメージを断ち切り、イスラは現実に立ち戻った。
イメージに捉われていたのは1秒にも満たない時間であろうが、
背中に嫌な汗を感じた。
そんな時である。
妄想に捉われる時間などない。そう思い顔を上げたときだった。
黒髪をなびかせて、全力で駆けてくる彼女を視界に捉えた。
「イスラ!イスラなんだろう!!?」
叫びながらも、走る足は止まらない。
距離は既に20mほどしか開いてなかった。
涙で視界が滲んでいたが、見間違えるはずもない。
最初に名簿で名前を見た時点では、できる限り考えないようにしていた。
同名の別人の可能性もあった。
むしろ、イスラは目の前で死んでいるのだ。その可能性のほうが圧倒的に高い。
広間に全参加者が集められたときに発見できなかったことも一因だ。
期待すれば裏切られたときのダメージは計り知れない。
だから、期待はしてなかった。
いや、期待しないように完全に思考からイスラのことは追い出していた。
が、現実に愛する弟が目の前に立っているのだ。
これで喜ばない人間がいるだろうか?
あと5m。
もう2歩もあればイスラを抱きしめることができる距離まで来て、
初めてイスラが口を開いた。
「来ないで姉さん!」
アズリアがぴたりと止まった。
涙に濡れた顔は、呆然としている。
『どこまでいっても僕とお前達は、絶対わかりあうことなんてできない』
イスラが死ぬ直前に、アズリア達に言った言葉が彼女の脳裏をよぎる。
一方のイスラも混乱していた。
話したいことはいっぱいある。謝罪や他愛ない話から、さっきまで考えていたこと。
にも関わらず、なぜ自分が『来ないで』なんて言ったのかわからない。
嫌われようと努力してきた条件反射とでもいうべきか、
それとも先程見た、陰鬱なイメージのせいか。
もしくは……やはり、自分が死んだときに姉を哀しませないためにか。
しばらく沈黙があたりを支配した。
遅れて来たオグマがアズリアに声をかけようとしたが
いつでも間に入れるような態勢のままパッフェルがそれを制した。
「姉さんは…なんでそんなにバカなのさ…。僕は姉さんを何度も殺そうとした。
なのに、なんで泣きながら僕に飛びつこうとするのさ?
ここは、殺し合いの場なんだよ?」
「イスラ…」
「姉さんが僕を抱きしめた瞬間、僕が姉さんを斬らない保障がどこにあるのさ?
笑っちゃうよ、その無防備さ、ははっ。
…………そんなんじゃ、今度こそ本当に死んじゃうよ?」
自分のイメージとは全く攻守が反対だ。
斬られるべきなのは自分――どこかにそんな自覚がある。
島でアズリアを挑発していたような軽口を叩くイスラだが…
その笑いには全くキレがない。
既に、イスラは死ぬことを望んでいない。
彼はもう1人で生きていける身体を手に入れている。
死なずとも迷惑をかけることなく生きていける身体を、だ。
そのことを自覚したとき、本心を隠すためにつけていた笑いの仮面は剥がれたのだ。
ザッ…
アズリアが一歩前に出た。もう手を伸ばせば届く距離だが、イスラは動かなかった。
ただ、泣きそうな笑い顔で…泣いた笑い顔のアズリアを見ていた。
アズリアは服の裾で顔を一回だけぬぐった。
その後にあるのは、眼は赤いことを除けば毅然とした表情のアズリア。
イスラは、その表情を形作る瞳に吸い込まれていく。
「私は……駄目な姉だった。弟が何を望んでいるかを聞くこともなく、
ただ自分が正しいと思うことをやってきた。
レヴィノス家を継いだのもそうだ。
………そのことで、お前を追い込んでいたなんて考えもせず」
―――違う。レヴィノス家の跡継ぎとしての自分の立場なんてどうでもよかった。
ただ、姉さんが…僕の代わりに危険と隣り合わせな軍に入るのが辛かった。
「そうだ…あの遺跡でも…お前よりも、アティを信じると言った。
弟を信じることもできない、本当にどうしようもない姉だ」
―――――違うんだ。そう仕向けたのは僕だ。
アティに剣を振るわせるため、そして僕が死んだときのために。
「だが……だがなっ…!」
アズリアの端正な顔がぐしゃぐしゃに崩れていく。拭ったはずの涙はとめどなく溢れてくる。
「姉が……私が弟を………お前を想う心に、嘘偽りはない。
私は…私はっ……!」
涙に歪んだアズリアからは声にならない声が漏れてくる。
「…もういいよ、姉さん」
イスラの起伏のない声があたりに響いた。
と同時にアズリアを包み込む優しい感覚。イスラの腕だ。
「僕が、全部僕が悪いんだ。姉さんが謝ることなんて、これっぽっちもないんだ。
……ごめん、ごめんなさい姉さん」
「……っ」
アズリアはイスラの胸の中で泣くしかできなかった。
イスラも淡々としているが、目から溢れる涙を抑えることはできなかった。
どれくらい二人はそうしていただろうか。
ようやく、動きがあった。
イスラがオグマ達に気付き、アズリアを背中へと隠したのだ。
アズリアは一瞬戸惑ったが、剣を持った見知らぬ男がいれば警戒もするだろうと思った。
涙に濡れた顔を再び裾で拭き、オグマ達の紹介をしようとしたアズリアの耳に届いたのは――
「なんで…お前がここにいるんだ、ヘイゼル!?」
予想の範疇かどうか、ボーダーライン上のイスラの言葉だった。
イスラは一目でわかったのだ。パッフェルが暗殺者"茨の君"ヘイゼルと同一人物なことに。
「どうしてお前が姉さんと一緒にいるんだ!?姉さんを殺す気だったのか!?」
一方のパッフェルは…殺気をぶつけられても苦笑いするしかなかった。
(案外、簡単にわかっちゃうものなんですねぇ…)
自分はヘイゼルとは似ても似つかないくらいに変わっていると思っていただけに少しヘコむ。
「ご安心ください。アズリアさんもイスラさんもオグマさんも傷つける気はありません」
苦笑いしたまま、そう言った。
パッフェルもまた嘘偽りはないのだからそう言うしかない。
「お前の言うことを信用できるか!」
「大丈夫だ、イスラ」
いきり立つイスラを、アズリアは止めた。
目は相変わらず充血しているが、もういつものアズリアの瞳だった。
「パッフェル……やっぱりお前はヘイゼルだったのか」
パッフェルを見据えてアズリアが言った。
しかし、その目には怒りや敵意といったものはない。
「……ええ。本当は最初に出会ったときに言うべきだったんでしょうけど…
私が敵ではないか信じてくれる自信がなかったので黙ってました。
あなたの………いえ、とにかくごめんなさい」
パッフェルはそれだけ言うと頭を垂れた。
『あなたの部下をたくさん殺した』ことについても謝ろうかとも思ったけど今はやめた。
その点についてはイスラも同罪なのだ。ここで言うべきではないだろう。
アズリアはイスラから離れて一歩前へと踏み出し、パッフェルを見た。
パッフェルの声が物語っていた。本心からの真摯な謝罪だ。
彼女が謝っているのは正体を偽ったことだけではないのがおぼろげに察しがついた。
昔の自分なら――少なくとも平手打ちの一発くらい浴びせただろうか。
(アイツに感化されたな、私も)
ふぅ、とため息をついてパッフェルに顔をあげるように頼んだ。
結局のところ、彼女らは"アイツ"に感化されたもの同士、お人好しなのだ。
「つまり…姉さん達は3人で行動していた以外には特に何もなかったんだね?」
「ああ。イスラのほうはどうだったんだ?」
とりあえず、パッフェル、イスラ、そしてアズリアの3人の中にあった
わだかまりはとけた。それは、表面上だけではある。
まだ、イスラとアズリアの間の誤解は解決していない。
が、今は悠長に話している場合ではない。
先にすべきこと―――既に情報交換に移っている。
「僕のほうの状況を話す前に…ちょっと姉さんに聞いてもらいたいことがあるんだけど」
イスラの顔が、一段と真剣味を増した。
「この、殺し合いの場についての僕なりの考察なんだけど」
その言葉を聞き、3人の顔にも真剣味が増した。
イスラが二の句を次ぐ前に、パッフェルが地面に何かを書き出した。いわく、
『何かしらの方法で主催者にこの話を聞かれるかもしれない。
無駄かもしれないがどこかで筆談でもしたほうがいいのでは?』
とのことだった。
「心配無用だよ、ヘイゼル。別に脱出の糸口にはならないようなことだから」
それはそれで問題はあるが、イスラは話を続けた。
「僕のこのチェンソウ。これはロレイラルの機械兵士の装備だよね?
そこの剣士さんが持っている剣は……姉さんやヘイゼルは見たことがあるかい?」
3人して、オグマの剣を見た。パッフェルもアズリアも首を横に振る。
「このことから、ここにいる参加者やアイテムはリィンバウム外のものも含まれる。
これは誰でもわかると思うんだ」
今度は、パッフェルもアズリアも、オグマも首を縦に振った。
「異界のものが多い島だけど…僕はここがどこか特定する――とまではいかなくても
リィンバウムかそれとも別の世界かを確認することができると思ってる」
「……!」
イスラの発言を聞き逃すまいと、全員がイスラの声に集中した。
「まだここに来てから見てはないけど…僕たちの世界を代表するような武器。
それは召喚術だ。異界の門を開き、召喚したものを誓約で縛り使役して…送還する。
………ところで姉さん。召喚術は…リィンバウム以外で使えるのかい?」
「…あ!」
「そう。リィンバウムで召喚術を使えるのはロレイラル・シルターン・サプレス・メイトルパと
隣接した世界だからこそできる芸当なんだ。少なくとも、サモナイト石を用いた召喚術は
リィンバウムでしか使えないはず」
「なるほど…イスラさんの理論は大体分かりました。
もしこの会場内で召喚術を使えれば…ここはリィンバウムである可能性が高い、と。
ここがリィンバウムだと確信が持てれば、脱出方法を探す足がかりになるかもしれない」
別に脱出の糸口になるようなことじゃない―――どこがですか。
パッフェルは高揚感を抑えるようにため息をついた。
主催者側に聞かれてなければいいけど、と願わずにはいられない。
「次はこれだ。姉さん、見てみて」
イスラはアズリアに封書のようなものを投げつけた。
パッフェルとオグマもその手紙を覗き込む。
既に封は切ってある。中から取り出した手紙には―――
『これを持ってる貴方の僕として頑張っちゃいま~す♪―メイメイ―』
「「「………」」」
どうやら、この手紙は読んだ者を呆然とさせる力があるらしい。
イスラは黙ってアズリアから封書を取り上げた。
「あの店主は今回の
参加者名簿には名前がなかった。
なのに、こんな手紙が僕の支給品だった。あはは…」
引きつった顔でのイスラの笑い。こんな笑いではあるが、
彼から自発的に出た笑いを彼女らは初めて見た気がした。
それに、なんだろう?呆れたような笑いの奥に、光を見たような気がする。
「彼女の力を借りて、アティや姉さん達が無限回廊と呼ばれる異界で訓練していたことは
スパイからも報告は得ていたし…そんな力を持つ人物を参加させるわけはないよね。
それどころか…逆に主催者側に一枚噛んでる可能性だってある」
「そんなっ…」
否定しかけたところでパッフェルは口をつぐんだ。
あの悲劇の島がハイネルのディエルゴの暴走で狂っている最中に、メイメイはアティに
『島を捨ててみんなで別のところに逃げないか。自分ならそれができる』
こういう提案をして断られたということを、
パッフェルは
マグナ達と島を訪れた際に聞いていた。
つまりは、
ヴォルマルフが唱えたデジョンという魔法と同等――転送すべき数を考えると
それの数十倍の効果を持つ何かを彼女は使えたということだ。
「でも、メイメイさんがこんなことに手を貸すなんて到底思えません」
「でも、人間なんて腹の底で何を考えているかなんて分かったもんじゃないんだよ。
僕よりもヘイゼルのほうがそれは分かってるんじゃない?」
パッフェルは何も言わない。
「もっとも、彼女が主催者側についてるってのは妄想でしかないよね。
それよりも。スパイからの報告では…無限回廊という異界の門を開くなんてことは、
エルゴの力があってこそ……と言ってたらしいじゃない?」
エルゴ。リィンバウムの世界の神にあたるような存在である。
「…何が言いたいんだ、イスラ?」
訝しげにイスラを見つめるアズリア。
「まだ分からないかい、姉さん?」
そう言って、先程アズリアから取り上げた封書、
メイメイの手紙をつまんでヒラヒラと揺らした。
「………!!」
アズリアとパッフェルが顔を見合わせた。
つまり、イスラの言いたいことはこうだ。
リィンバウム世界の下(正確にはエルゴの力を借りて)でなら、
無限回廊という異界の門を開けたり
(イスラは知らないが)集団を転移したりすることができる術者を
しもべにすることができるということができるのだ。
ここがリィンバウムだとして―――もし彼女にコンタクトすることができれば――?
脱出。
希望の二文字が見えてくる。
「まぁ、首輪をどうにかしない限りは籠の中の鳥なのに変わりはないけどね」
だが、今、鳥籠を覆っていた布は取り払われようとしている。
光が差し込んでいるのだ。
イスラの話を聞いていると同時に、アズリアの中で一つの考えが浮かんだ。
ここがリィンバウムだとしても、ディエルゴならば結界を張ってこの島を隠すことは可能だ。
その孤立した島の中で――ディエルゴの手の中で踊らされているような感覚。
ディエルゴを倒したあの島と同じような感覚だ。
(もしかしたら――ディエルゴは、あの遺跡の中にいたように、
この島の中…案外近くにいるんじゃないだろうか?)
「………姉さん?聞いてる?僕の理論でどこかおかしいところがあれば指摘して欲しいんだけど」
イスラの呼びかけで、アズリアは現実に引き戻された。
「あ、すまない。…………特に異論はない。じゃあ…これからどうする?
まずはサモナイト石でも探すか?」
「そうだね。ここがリィンバウムかどうかがこの理論の鍵を握る。
まずはそこからかな……しまったな。さっき出会った誰かが持っていたかもしれないのに…
サモナイト石を持っているかどうかだけでも確認しておくべきだったかな」
遥か北の岩山の向こうを見つめながら、イスラがため息をついた。
「人に会ったのか?」
「うん。一緒に話をしていたら何人かに襲撃されて散り散りになっちゃったんだけど…
一緒にいた彼の名前は…確か………ネスティさんだったかな」
「ネスティ!?」
パッフェルが大声をあげたので、周りの3人がびくりとする。
「ネスティって…眼鏡で色白で、顔と手以外殆ど露出してないあのネスティですか!?」
「あ、ああ。たぶんそのネスティだと思うよ」
「襲撃されたのは?」
「もう3時間前以上は前かな。地図でいうとおそらくはC-6の森だと思う…
って、ヘイゼル、どうするつもりだい?」
地図を一瞥した後、遥か北のほうを眺めるパッフェルを見てイスラが尋ねた。
いや、尋ねるまでもない。
「ネスティを探しに行きます」
「無茶だよ。あの森には襲撃者が複数いたんだ。それに…
上手く逃げおおせたと思うけど、まさか森には留まってるなんてことはないよ」
「イスラさんとアズリアさんならこの重要性がわかると思いますが…彼は融機人なんですよ」
「!!」
"アクセス"することで機械を内部から操作することのできる種族。
つまり、最大の枷――首輪の解除に最も近い人物。
彼がいれば、鳥の入った籠の錠前を開くことができるかもしれないのだ。
「そして…それ以上に、大切な仲間です」
彼が襲撃され、無事かどうかはイスラは確認していないようだ。
もし彼が無事でなければ――見えてきた希望が潰えるかもしれない。
いや、そんなことよりも―――マグナがどれほど哀しむだろうか。
「勝手な行動をしてごめんなさい」
イスラとアズリアが和解した以上、もう自分がアズリアを守る必要もないだろう。
彼女はイスラが守ってくれる。
オグマも特に不審な動きはなかった、安心していいだろう。
謝罪だけをつぶやき、パッフェルは駆け出した。
パッフェルの快足を止められる人物はそこにはいなかった。
【E-6・街道/日中】
【オグマ@紋章の謎】
[状態]:健康
[装備]:ライトセイバー@魔界戦記ディスガイア
[道具]:万能薬@FFT
[思考]
1:アズリアを守護しこの状況から脱出するための、手段・方法を探す。
2:
マルス、
シーダ、チキが心配。
3:
ナバールにはある種の心配とある種の信頼。
ハーディンに対しては疑問。
4:仲間たちと合流。
5:誰か、さっきの話の解説を頼む。知らない単語ばかりでさっぱりわからん。
6:パッフェルを追いかけたほうがいいのか?
【アズリア@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:ハマーンの杖@紋章の謎
[道具]:傷薬@紋章の謎
[思考]
1:イスラを守る。
2:オグマとイスラと協力しこの状況から脱出するための手段、方法を探す。
3:まずはサモナイト石を探したい。
4:アティ、
ベルフラウ、
ソノラと合流したい。
5:
ビジュがあのビジュなら短慮を起こさないか心配。しかし、あいつは死んだ筈…
6:パッフェルを止めるべきか?
【イスラ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:チェンソウ@サモンナイト2、メイメイの手紙@サモンナイト3
[道具]:支給品一式
[思考]
1:アズリアを守る。
2:サモナイト石を探したい。
3:対主催者or参加拒否者と協力する。
4:自分や仲間を害する者、ゲームに乗る者は躊躇せず殺す
【パッフェル@サモンナイト2】
[状態]:健康
[装備]:弦除去済みエレキギター(フェンダー製ストラトキャスター)@?
[道具]:エレキギター弦x6@?、スタングレネードx5@?、支給品一式、バスケット@サモンナイト2?
[思考]
1:ネスティ…どうか無事で…!
2:向かう先に襲撃者が複数いる可能性がある。知り合い以外は全員敵だと思うようにしよう。
3:マグナやアティ達と合流したい。
4:見知らぬ人間と遭遇時、基本的には馴れ合うことはしない。
最終更新:2009年04月17日 23:00