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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

2日目・No.2

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私のやんごとなき王子様












 さなぎに励まされて気合を入れたにもかかわらず、やっぱり翌日になってもどこを担当したいか決められなかった私は、朝のHRで真壁先生に怒られた。

 怒るといっても本気で怒られた訳ではなくて呆れ半分だったのだけど、明日の締め切りまでにはしっかりと決めるようにと念を押され、気付けば昼休み。

 ああ、私は一体この4時間何をしてたんだろう……って、真面目に授業を受けてたのよ。

 うん、真面目に――


 キリキリ――――


「う……」

「どうしたの、美羽?」


 急にうめいた私に、さなぎが心配そうな顔でこちらを向いた。

 お弁当を食べ終えて教室でさなぎと一緒に5限目の英語の課題の曖昧な所を見せ合っていた私は、突然の腹痛でお腹を押さえて机に覆い被さった。

 どうやら悩みすぎてお腹にきたみたい。

 こんなに決められ無いだなんて、本当に情けない。

 ……あ、なんだかどんどん胃が痛くなってきた。


「お腹痛いんなら保健室行く?」

「うん、ちょっと胃薬もらってくる」

「美羽だけだもんね、演劇祭の担当決めてないの。ストレスもたまるよ……一人で行ける?」

「大丈夫、一人で行ける。ここの英訳よろしくね」


 ふらりと立ち上がった私は自分も立ち上がろうとするさなぎを制して、一人保健室へと向かった。















 私は保健室の前で佇んでいた。

 何故かというと、うちの学園の保健医の鬼頭先生がちょっと苦手だからだ。

 真壁先生まではないけどスラリと背が高くて白衣が良く似合ってて、眼鏡が似合うと女子生徒に評判の先生なのだが、ちょっと意地悪というか、わざと人を怒らせるような事を言ったりするのだ。

 そこがまたクールでカッコいい。って女の子の間では人気なのだとさなぎに聞いたけど、私としてはそんな風に思えない。だって優しくされたほうがいいもん。

 廊下の前で思案する事3分。

 ただ立ってるだけじゃ何の解決にもならない。おまけに鬼頭先生の事まで考え出したおかげで余計に胃の痛みが増してしまった。

 これはもう苦手だとか言ってる場合じゃないと、意を決してノックした。


 コンコン


「どうぞ」


 中から低くてよく通る声で返事が聞こえ、私はドアを開けた。


「失礼します……」


 開けたドアの向こうには鬼頭先生が一人で机に向かって仕事をしている姿があった。

 もしかしたら他に具合の悪い生徒がいるんじゃないかって期待したけど、残念ながら今日は皆健康らしい。ベッドはどこも無人で、真っ白なシーツが眩しいくらいだった。


「――小日向? どうした?」


 鬼頭先生は私の顔を確認するといつものちょっと人を馬鹿にしたような視線を寄越し、微かに口の端を上げた。

 そう、これ。この顔が苦手なのだ。

 どうやってこいつをからかってやろうか。っていうのを隠そうともしないその不敵な顔。

 私は入り口の所に立ったまま静かに言った。


「お腹痛いので胃薬ください」

「へえ、お前でもストレス感じる事があるんだな」


 ほらね、やっぱり私の事馬鹿にしてる。

 ちょっとムッとしながらも先生だから文句も言えず、私は口を尖らせながら続けた。


「……早く薬ください」

「分かった。どうでもいいが早くドアを閉めて利用者カードに学年、クラス、名前を書け」

「あ、はい」


 二人きりになりたくはなかったけれど、仕方ないので中に入って入り口の近くに置いてある保健室利用者カードに素早く記入する。

 速記じゃないかってくらいの早さで書いた。

 薬を棚から出してコップに水を注ぐ先生の後姿をじっと見つめる。

 同級生の男の子とは違う、大人の男の人の背中。

 背格好は同じ位でも、年上だというだけでなんだか背中から滲み出る雰囲気も同級生とはずいぶん違うような気がする。

 そして薬を持って来てくれるものだと思ってそこで待っていた私に、先生はそのまま自分の机に座って仕事を再開しながら、あごでその机の脇に置いた薬と水の入ったコップを示した。


「さっさと飲んで寝てろ」

「いえ、飲んだら教室に戻ります」


 まあ、そんなに優しいわけはないって分かっていたけど、仮にも先生なんだからもう少し生徒を気遣ってくれても罰は当たらないと思うのは私だけ?

 仕方なく薬を取りに近づくと先生は手を止めてちらりと私を見上げた。

 性格にはかなり問題アリだけど、本当に顔はカッコいいんだよな。

 先生のファンの女の子達はきっと鬼頭先生の本性を知らないんだ。可愛そうに。

 なんて思いながら薬を口の中にほおり込んで一思いに飲み込むと、先生がふと笑った。


「どうせお前の事だから、演劇祭で何をするか決められずに悩みすぎて胃が痛くなったんだろ?」

「う……」


 真壁先生に聞いたのだろうか。二人は同期で仲が良いのだ。


「誰かに言われなければ何も決められないとは、お前は幼児と同じだな」

「ちっ、違いますっ! どこを手伝えば最高の演劇祭になるか真剣に考えてたら、まとまらなくなっただけです! それにっ……」

「――それに?」


 反論して声を荒げてしまった私は、昨日色んな人達に手伝いをしてくれと頼まれた事を思い出し、それを口走ろうとしたのを寸での所で止めた。

 もしその事を言ったらまた馬鹿にされそうで怖かったのだ。

 私だって学園で有名な男の子達から誘われたのは夢じゃないかって思ってるくらいなんだから、鬼頭先生に知られたら馬鹿にされるどころか、とうとう妄想までし始めたのか、って憐憫の目で見られるかもしれない。

 で、結局、


「――えっと、何でもないです」


 と、半ば降参気味にうな垂れてそう言うのが関の山だった。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、先生はペンを置いてゆっくり私に向き直った。


「どこの手伝いをするのが一番いいか、俺が教えてやろうか?」

「どうせ何もするなって言うんでしょ?」

「馬鹿かお前は。何もしないのは手伝いとは言わない。そんな事も分からないのか? まったく、高校生とは思えん会話力と理解力だな」


 本当にこの人は人のあらを探すのが好きだな。絶対口から先に生まれたに違いない。もし機会があったら先生のお母さんに確かめたいくらいだ。

 喉まで出掛かった文句をぐっと堪え、目をつぶって極力先生の顔を見ないようにした。


「すみません、馬鹿なものですから……良かったらどこの手伝いが私に最適か、ご教授ください、鬼頭先生」


 棒読みでそう言うと、鬼頭先生は満足したような声でこう言った。


「俺の手伝いをしろ」

「……はあっ!?」


 思わず目を見開いてしまった。


「な、なんでですか!?」


 驚く私を見てさらに満足そうに笑うと、先生は椅子に背中を預けて得意げに眼鏡のブリッジを上げた。


「お前をいじってると俺が退屈しないで済むからな。合宿中の生徒指導なんてかったるい仕事にも楽しみが出来る」

「――私は先生の暇つぶしですか……」

「暇つぶしとはえらく言葉が悪いな。おもちゃだ」


 ……そっちのほうが言葉が悪いです。


「はあ……」


 私はひとつ大きくため息を吐いた。













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