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チェンジ・ザ・ワールド☆
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波江3日目・No.2

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私のやんごとなき王子様












 星越学園の図書室は一つの大きな図書館のようになっている。とても広い館内には大抵の本は勿論、DVDなどの映像作品も揃っている。


「何を探してるの?」


 小さな声で波江君に尋ねる。


「白鳥の湖のDVDと、白鳥の湖のシーンが描かれた絵画の入った画集を何点か」


 潤君も小さな声で返してくれた。

 なんでもバレエ的な動きのしなやかさも、演出家はこの舞台で表現したいらしいのだ。そしてそのイメージを掴むためにDVDや画集を必要としているらしい。本当に本格的なんだなぁ……と今さらながらに実感する。

 まだ決まっていないキャストは、この後4時30分から、くじと投票で決定される。私なんかセリフもないような役だろうけど、それでも他の皆の足を引っ張るような事だけはしたくない。



 たくさんの棚の中から目当ての棚を探し出すだけでも一苦労だ。それでも何とか分類表を見ながら、画集のある棚へと辿り着いた。


「それじゃ、色々見ていこうか」

「はいっ!」


 棚には上から下まで様々な画集が並べらている。




「よし」


 私は一つ息をはくと、設置されている梯子に登った。


「先輩っ、上の方は僕が見ますっ」


 下から小声で潤君が声をかけてくれる。


「大丈夫、大丈夫―っとっと……!」




 潤君の方を向こうとした瞬間にバランスを崩してしまった。っていうかこれ――




「きゃっ!」

「先輩!」

 ドンッ!

「~~~~~っ」


 声にならない声で私は呻いた。でも思ったより痛くない……? 思わず瞑ってしまった目を開くと、私は誰かに抱きとめられていた……ってコレって!?




「潤君?!」


 思わず大きな声が出た。図書委員が迷惑そうに発した咳払いが遠くの方で聞こえた。でも……でも……これって。


「大丈夫ですか? 先輩」


 頭の上の方から潤君の声がする。そうだ、やっぱり――私、潤君が受け止めてくれて……っていうか今、しっかり抱きしめられてるっ。


「う……うん。ていうか潤君の方こそ大丈夫? 私なんか受け止めて」

「良かった……。先輩に怪我でもさせたら僕……」




 潤君の声が小さく震えているように聞こえた。完全に後ろから抱きしめられている形になっているから、潤君の表情は分からない。でも……。

 いつもは子犬みたいな潤君が妙に大人っぽく感じる。華奢にみえる潤君なのに、回された腕はガッチリとしていて間違いなく男の子のものだ。

 ……なんだか急速に恥ずかしくなってきた。




「ごっ、ごめんね! 本当に! 大丈夫?!」


 私は急いで身を翻して潤君を正面から見つめた。


「はい、僕は全然」


 潤君は少しだけ照れ臭そうにしながら、それでもにっこり笑ってくれた。


「潤君……」

「先輩が無事で良かったぁ」


 ほーっと息を吐きながら、今度は潤君が梯子に手をかける。


「上の方は僕が見ますから、先輩は下から見ていって貰えますか?」

「うん、分かった。潤君も気を付けてね。私が言えた事じゃないけど……」

「はいっ! 有難うございますっ」




 頭上から元気な声が聞こえる。私はそれをとても心地よいと思う。潤君は優しくて可愛い後輩――だけど少しだけ感じてしまった『男の子』に妙にドキドキしながら、私は画集を探し続けてた。
















 無事にお目当ての画集とDVDを借りる事に成功した私と潤君は、役者担当が集合している体育館へと向かった。


「先輩がどんな役になるのか、僕すっごく楽しみです!」

「私なんて、ただの村人Dだよ」

「そんな事無いです! 僕、先輩にはオデット役をやってほしいです!」

「あははっ、それはいくら潤君の希望でも叶えてあげられないなー」


 なんて会話をしていると、あっという間に体育館へと到着した。

 中へ入ると風名君や亜里沙様をはじめ、役者担当の子は皆揃っていた。




「遅くなりました! これ、頼まれていた資料です!」


「お、サンキュ」




 潤君から資料を受け取った演出担当の3年生は、DVDと画集を見ると満足そうに微笑んだ。


「小日向、役者選んでくれたんだな」


 ふいにかけられた言葉に驚いて声の主を見ると、風名くんが爽やかな笑顔で私に近づいてきてくれていた。


「うんっ、最後だから思い切ってみちゃった」

「小日向なら大丈夫だよ、俺が保障する」


 風名君の優しい言葉に不安が少しだけ解消される――と思った瞬間、棘のある視線を感じた。うっ、他の女の子達の視線だよね……。チラリと棘の先を確認すると、思ったとおり。亜里沙様を中心に座った女子のグループが刺すような視線を私に送っている。中心に優雅に座った亜里沙様は笑顔のままだけど、それが逆にすごく怖い。


「先輩! 今から女子の配役の投票開始するそうですよ!」




 そこへ潤君がいつもの調子で元気に微笑みながら現われてくれた。彼の無邪気さに凍っていた空気が溶けていくような心地すらする。なんだかとっても救われた気分だ。


「有難う!」




 風名君の王子様役と、潤君の王子様の従者役は既に決まっている。今から投票で決めるのはヒロインのオデット姫と、そのライバルであるオディール。これに選ばれなかった生徒達はくじで公平に役が振られる。

 役者担当の全員に投票用紙が配られ、それぞれオデットとオディールにふさわしいと思う人の名前を書く。私は勿論、オデットには亜里沙様を書いた。

 名前を記入している最中にふと顔を上げると、風名君がこっちを見ていてくれていて、私と目が合うとにっこりと笑ってくれた。なんだか少しだけ恥ずかしいようなそんな気持ちになってしまう。照れ隠しに私は急いで記入を終了した。

 全員の投票が終わると、演出担当の男子が用紙に書かれた名前を一人一人読み上げていく。ホワイトボードには正の字が増えていく。

 結果は当然のようにオデットには亜里沙様、オディールには3年でモデルをやっている子に決まった。驚いたのはオデット姫に私が2票も投票されていた事だ。一体誰が……?




「それじゃ、残りの配役をくじで決めまーす」




 演出担当の声でハッと意識が戻る。いけない、集中しなくちゃ。


「次ー、小日向さんくじ引いて下さーい」

「はいっ!」




 ガサゴソとくじの入った箱に手を入れ、紙を一枚引く。中をみると「オデットの友人C」と書いてあった。


「これです」

「はい、友人Cですねー」




 配役表に書きこまれる自分の名前――。うん、これ位が私にはちょうどいい。





「それじゃ、これで配役も決まりましたんで、明日からの合宿頑張っていきましょう!」

「はいっ!」


 全員が綺麗に返事を揃えた所で、今日は解散となった。


「あ、こひな――」


 風名君がこちらを向いて何か言いかけたその時、


「先輩! 良かったら途中まで一緒に帰りませんか?」




 潤君から可愛くお誘いを受けてしまった。


「もちろんだよ、潤君。私、舞台なんて初めてだから色々聞きたい事があるし。えっと、風名君?」

「あ、いや――なんでもない。じゃあな! 小日向、明日から頑張ろうな!」

「うんっ!」


 私は元気に頷いた。風名君が何を言いかけたのか少し気になるけど……。でもきっと合宿頑張ろう! っていう事が言いたかっただけだよね。








 
こうして私は潤君と並んで下校した。


「僕、オデット役には先輩を書いたんですよー」




 帰り道で潤君にそんな事を言われた。

 私は思わず笑ってしまった。だって私がオデットになんてなれるわけがないもの。でもそんな風に思ってくれた潤君の気持ちが少しだけ嬉しくて。

 弾むような気持ちで、私は帰宅する事が出来た。















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