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波江3日目・No.1

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私のやんごとなき王子様












3日目






「先生、遅くなりました!」




 私は朝一番、教室に向かう前に職員室に立ち寄り、真壁先生に例の担当希望記入用紙を提出していた。

 頭を下げて用紙を握った腕をずいと差し出した格好のままで止まる私に、




「おう、決めたか」

 と、相変わらずの調子で笑ってそう言うと、先生は用紙を受け取った。次にそこに書かれた部署を見て少し驚いた顔をする。




「……演劇か。お前演技なんて出来るのか?」
「えっと、村人Dくらいならなんとかなるかと……」


「まあ、王子役の風名以外のキャストは今日投票とくじで決めるらしいし、村人Dになることを祈っとくんだな」


 そう言って私の頭を軽く叩いた。




「はい。失礼します!」




 やっと清々しい気持ちが戻って来た。

 職員室から出て行く足取りも軽い。今なら100メートル走で自己ベストが出せそうってくらい軽い。















 私が選んだのは劇の出演者。風名君は相手役をやって欲しいだなんて言ってくれたけど、私にはそんな大役もちろん無理って分かってる。だけど潤君と同じようにヒロインの従者くらいなら、あるいは何とかなるかもしれない。

 ううん、それすらも私からしたらとんでもない大役。さっき先生に言った通り、私には村人Dくらいが分相応。だけど……。

 潤君があんな風に誘ってくれるものだから、少しだけ勇気が出たの。潤君と一緒に笑いながら過ごせたら、きっと苦しい練習だって乗り越えれると思う。それに間近で風名君と亜里沙様の演技を見れるなんて、実はすっごい事だし。って、ちょっとミーハーかな?

 でも自分の意志で出演者側を選ぶ人は、本当にごくわずかなんだよね。だって、ほら、うちの学校本物の芸能人がいっぱいでしょ? 一般人で立候補するのはよっぽどのアホか大物。 風名君を始めファンの子が抜け駆けして出演者になるのを選ぶっていうのはうちの生徒に限ってないから、ちょっと罪悪感……っていうか、周りから何て言われるかちょっと不安。




「うわ、今更怖くなってきちゃった……」


 どっと後ろから押し寄せて来たマイナス思考に思わず足を止めると、そこは1年生達のクラスのある4階だった。


「小日向先輩!」


 正面から私に向って手を振りながら子犬のように走ってくる生徒が見える。

 潤君だ。




「潤君? 廊下は走っちゃいけませんよーーっ」


 少しだけ大きな声で言うと、潤君はピタっと足を止め、その後すごく早足でこちらへと近付いて来て、あっという間に私の目の前に立っていた。




「小日向先輩! 聞きましたよっ! 演劇祭、舞台に立たれるんですね!」


「えぇ?! だ、誰に聞いたの?」


「え? 職員室の前で聞いたって、うちのクラスの女子達が話してたんですけど」


 う……やっぱり。

 演劇祭で舞台に立つというのはそれだけ注目されるという事。どこでどう話が漏れるのかは知らないが、毎年こうやってあっという間に舞台に立つ者の名前は知れ渡る。去年までは私も、そんな先輩や後輩達をきゃあきゃあ言いながら、さなぎと応援してたのに。……ハァ。なんだか気が重たくなってきちゃう。




「僕……僕、すっごく嬉しいです!」


 潤君は本当に嬉しそうに私に向って微笑んでくれている。なんだかその顔を見ていたら、ちょっとだけ気持ちが軽くなった。




「あ、僕今から先輩方に頼まれた資料を集めに図書室まで行くんですけど……」


「良かったら付き合おうか?」


 私がそう言うと潤君は顔をパァっと明るくした。その大きな目はより一層大きく見開いて、もし潤君に尻尾が生えていたら、ちぎれんばかりに振ってるだろうなって言う感じ。




「本当ですか?! うわぁ、僕すっごく嬉しいです! 行きましょう! ぜひ! もう早速!」




 うん。きっと大変な合宿になるだろうけど、潤君と一緒なら頑張れる――。

 そんな事を思いながら、私達は図書室へと向かった。











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