チェンジ・ザ・ワールド☆
鬼頭3日目・No.2
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私のやんごとなき王子様
「ほわあ……」
妙な感嘆の声を上げる私は今、鬼頭先生の車の助手席に座っている。
何故感嘆したかというと、先生の車がとてもカッコいいからだ。
私は車には詳しくないけど、ハンドルが左にあるし、どうみても高級外車っていうのくらいは分かる。
メタリックシルバーのボディは冷ややかで、鬼頭先生っぽいなあ、なんて思ってしまった。
車も持ち主も冷血なんて、冗談でも笑えないな。
「高そうな車ですね」
つい思っていたことをそのまま口にしてしまい、一瞬バカにされるんじゃないかと、じとりと先生の言葉を待つ。
だけど返って来た返事は意外なものだった。
「だろうな」
「……だろうなって、自分で買ったんじゃないんですか?」
驚く私を一瞬横目で見て、先生はふんと厭味に口元を綻ばせる。
「自分で買ってないから値段が分からないに決まってるだろ。俺が乗ってるからって俺が自分で買ったと思う方がおかしい。相変わらずお前の脳みそは貧相だな」
「貧相で悪かったですね……って、えっ? じゃあこの車、頂き物なんですかっ!?」
「そういうことだ」
「ええっ!? こーんな高そうな外車、どうして貰えたりするんですかっ!?」
「――うるさいな。くれるっていうから貰っただけだ、いちいち驚くな」
いやいやいや、驚くでしょ、誰だって! 外車をプレゼントされるだなんて一般庶民の私の中では絶対に無い出来事なんだもん。
おろおろし出した私に、先生が深いため息を吐く。
「はあ……落ち着け。これはうちの理事長から譲り受けたものだ」
「え、理事長?」
私は我が星越学園のとても理事長には見えない、すごく素敵な男性の顔を思い出した。
若くてモデルみたいにスタイルがよくって、品のいい顔をしてるのだ。
「ああ、なんでも親戚がこの車のメーカーのディーラーをしていて、日本での宣伝用として理事長に乗ってくれと頼んだものらしい。その期間が終わって車庫で眠る寸前だったのを、ちょうど車が壊れて困ってた俺に回って来たという訳だ」
「はあ、なんだか聞いてもよく理解出来ないスケールの大きなお話ですね」
「俺みたいなしがない高校教師の給料でこんな外車買える訳がないだろう? 少しは考えろ」
またバカにされた。
「鬼頭先生のご実家がお金持ちかも知れないじゃないですか」
「……なるほど、お前にしては珍しくまともな意見を言うな」
鬼頭先生といる所為なのか、妙に唇が乾いてしまった。
「珍しくってなんですか、失礼な……あっ」
一応反論し、乾いた唇をなんとかしようとポケットからリップを取り出すと、車が停止した反動で落としてしまった。
「どうした?」
「いや、リップを落としてしまって……」
先生の方に転がったような気がするな。
と、手を伸ばそうと身をかがめた瞬間だった。
ゴチン!!
「いたっ!?」
「っ!?」
鈍い音とおでこに受けた衝撃で、私は慌てて体を起こした。
見ると私の隣りでは鬼頭先生が鼻を押さえて私を睨んでいる……
や、やばい―――
「すっ、すみませんっ! あのっ、そのっ……申し訳ありませんでしたあっ!」
「……」
無言で再び身をかがめ、先生はすいと私の目の前にリップを差し出すと、青になった信号と同時に静かに車を発進させた。
「あの……ありがとうございます……せ、先生大丈夫ですか?」
恐る恐る尋ねると、先生は眼鏡をくいっと上げ、またため息。
「お前は……本当にいい度胸をしてるな。この俺にヘッドバッドを食らわせた女はお前が初めてだ」
「不可抗力ですっ! やりたくてヘッドバッドした訳じゃありませんっ!」
「俺には過程はどうでもいい、結果が全てだ。したがって、お前が落とした物を拾おうとしたのと俺が拾おうとしたのが同時になって偶然ぶつかったのだとしても、お前の石頭が俺の鼻にぶつかったことは変え様のない事実だ……俺の言っている事、分かるよな?」
「う……はい」
ようするに「許さない」って事ですね、先生……
まだ何一つ買い物は済んでないのに、私は買い物が終わるまで鬼頭先生にいじめられることが確定した。
でもでも、私悪くないよね?
目的地近くの駐車場が見えて来て、私は心の中でものすごく大きなため息を吐いた。
「取りあえず、まず俺の買い物に付き合ってもらう。それから真壁の買い物だ。帰りは遅くなるから覚悟してろ」
「――はあい……」
先生がものすごく楽しそうに見えるのは、多分私の気の所為じゃない。
はああ……どうか無事に家に帰り着けますように。
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