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鬼頭3日目・No.1

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私のやんごとなき王子様












3日目







「先生、遅くなりました!」


 私は朝一番、教室に向かう前に職員室に立ち寄り、真壁先生に例の担当希望記入用紙を提出していた。

 頭を下げて用紙を握った腕をずいと差し出した格好のままで止まる私に、


「おう、決めたか」


 と、相変わらずの調子で笑ってそう言うと、先生は用紙を受け取った。次にそこに書かれた部署を見てニヤリと口の端を上げる。


「そうか、俺達の手伝いをやってくれるか! いやあ、助かる。正直お前が他を選んだら困るって思ってたんだ。人手が足りなくてなあ」


 そう言って私の頭をぽんぽんと叩いた。


「そうですか……今からこき使われるのが目に浮かびますね」

「ははっ! まあそう言うな。やりがいあるぞ。あ、そうだ。お前ちょっと鬼頭の所に行ってこれ渡して来てくれ」


 そう言って先生が鞄の中から出したのはB5サイズの茶封筒だった。


「あいつに借りてた本だ。朝のうちに返せって言われてたんだがちょっと仕事があって保健室まで行けそうになくてな。悪いがお前保健室に寄ってくれ」

「はい。分かりました。それじゃあ失礼します!」


 やっと清々しい気持ちが戻って来た。

 職員室から出て行く足取りも軽い。今なら誰よりも早く100メートル走れそうってくらい軽かった。

 今から苦手な鬼頭先生の所に行くっていうのも、たいして気にならないくらい清々しい。
















 私が選んだのは真壁先生や鬼頭先生がいる生徒指導。色んな担当の手伝いが出来るって先生が言うから、どこか選ぶ事が出来なかった私には丁度いいと思って決めた。

 まあ、鬼頭先生にいじめられそうになったら真壁先生に助けを求めればいいし、忙しいなら私をいじめて遊ぶ暇もないだろうし。

 でもそんなに忙しい所を自ら選んじゃって、私、大丈夫かな……。


「ちょっと……いや、かなり心配かも」


 一抹の不安を抱えながらやって来たのは例の保健室前。

 ノックすると相変わらずいい声で返事が返って来た。


「失礼します」


 鬼頭先生は窓際の観葉植物に水をやっていて、私が中に入るとこちらを振り向いて小さく笑った。


「どうした、小日向。そんなに俺に会いたかったのか?」

「違います、真壁先生にこれを渡して来てくれって頼まれたんです」

「そんなことはお前が手に持ってる封筒を見れば分かる。冗談が分からないやつだな」


 もうっ! なんで朝からそんな憎まれ口叩くかなあ!

 私は無愛想な顔のまま封筒を机の上に置いて、頭を下げた。


「それじゃあ失礼しました」

「ちょっと待て」

「……なんですか?」

「お前、担当希望出して来たんだろ?」


 ああそうか。私は先生達のお手伝いをするんだから、一応鬼頭先生にも言っておいたほうがいいのかな。

 でもものすごく言いたくない。

 私が口ごもっていると、先生はこちらへ近づいて来た。


「なるほど、俺の言う事をちゃんと聞いて、俺のおもちゃになるのを選んだって訳か」

「せっ、先生のおもちゃになるために生徒指導の手伝いを選んだんじゃありません!」


 不適な顔で言われて私は慌てて食い下がる。


「まあお前がどう思おうとも結局はおもちゃになるんだし、諦めろ。それに現時点ですでにお前は俺に遊ばれてるしな」

「っ!?」


 悔しいけど言い返せない。だって口から生まれた鬼頭先生に口で勝てる訳ないんだもん。

 ぐうう、と変な声を出していると、先生が一瞬いつもと違う雰囲気になった……ような気がした。

 そして、


「真壁に頼まれていた買い物があるんだ。放課後付き合わせてやるから、HRが終わったら職員駐車場に来い。いいな?」


 どうしてこう、偉そうに言わないと気が済まないんだろう、この人は。

 でもなんだかちょっとだけ、この人は素直じゃない可哀想な人なんだと考えれば、人を見下したような物言いも可愛く思えないこともない。

 私は急に可笑しくなって、ちょっとだけ破顔した。


「……いいですよ。お付き合いします。それじゃあ、失礼します」


 どうあっても私をおもちゃにしたいらしい鬼頭先生に、少しだけ付き合ってあげようかな。









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