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波江4日目・No.4

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私のやんごとなき王子様












「おい、土屋! お前何やってんだ!? 水中大脱出でもやる気か、バカ!! 危ないだろうが!」


 もの凄い勢いで走って来ながら言ってる真壁先生の言葉が変だ。土屋君の状態を見てきっと動転してるんだろうな。なんて事を考えていると、土屋君が深いため息を吐いた。それはもう、深いため息を。


「はあ……全く、君達には呆れるよ。芸術というのはね、五感を常に多方向に向けていなければいけないんだ。僕のやろうとしている事が危ない? それこそ危険な考えだよ! 今その時にやりたいと感じた事をやらなければ、二度とその感覚を味わう事は出来ないんだ。僕は今、この海の光を体中で感じたいんだ。だから邪魔をしないでくれ!」

「お前のその芸術に対する考え方はすごいと思うぞ! だけどな、絶対に危険だと分かっている事を目の前にして、それを黙って見過ごすなんて出来る訳ないだろ?!」


 真壁先生はそう言って真剣な顔で怒った。


「そうですよ、危ないですよ、土屋先輩!」


 潤君も本当に不安げな表情だ。だけど土屋君はそんな事おかまい無しに続けた。


「僕が自分の意志でそうしたいんだ、僕の意志を邪魔する権利が君達にあるのかい? もし今この瞬間を逃したら、この感覚は二度と味わえないんだ、それとも君達が再び味わえると保証でもしてくれるのかい?!」

「そんな事を言ってるんじゃない! お前を心配してるんだ!」

「ははっ! それこそ大きなお世話ですよ、先生」


 プチン……

 その瞬間、私の何かが切れた。


「大きなお世話で結構っっっ!!!」


 私が急に大声を出したものだから、先生と潤君が驚いてこちらを振り向いた。

 私はというと、半分無意識のうちに肩を怒らせ、ずんずんと土屋君に近づいてまた声を荒げていた。


「自分の勝手で海に飛び込みたいって土屋君が言うんだったら、私も自分の勝手で土屋君を飛び込ませたりしない!」


 そして自分でも信じられない位の力で、惚けた顔の土屋君の腕をがっしりと掴んだ。


「――で、でかした! 小日向!」

「先輩さすがですっ!」


 真壁先生と潤君は漸く我に返り、急いで私に続いて土屋君を取り押さえた。


















 土屋君はひどく不機嫌そうな、納得いかないといった顔でベンチに座っていた。

 私達はそんな土屋君を囲むように立って、お互いの顔を見合わせため息を吐く。先ほどから先生が諭してるけど暖簾に腕押し。一言謝ればいいのに、どうしてこう変わり者というか偏屈? なのかな。


「いいか、お前がどう思おうと勝手だが、俺達はお前の事を心配して止めたんだぞ?」

「言われなくても分かっています。はあ……これでもう二度とあの美しさを体にも脳にも取り込むことは出来なくなってしまった。なんてもったいないんだ――」


 土屋君は本気でショックを受けているのか、すっかり項垂れてしまっている。


「はあ~~」


 先生が大きくため息をついた。そりゃ呆れるよ……どうしたらいいのかな。


「土屋先輩……僕、土屋先輩の絵が好きです」


 ふいに潤君が声を上げた。


「だからこそ土屋先輩に危ない事はして欲しくないんです。だって土屋先輩の新作が見られ無くなるなんて、悲しすぎますから!」


 潤君のその言葉に俯いていた土屋君が顔を上げる。これだ――!


「そうよ、土屋君! 土屋君に何かがあったら芸術界の大きな損失だよ! 土屋君には安全かつ健康にたくさんの絵を描いて貰わなくっちゃ!」


 私もそう言うと、いよいよ土屋君の目は輝きだして颯爽とベンチから立ちあがった。


「あっはっはっは! 君たち、中々分かっているじゃあないか! うん、良いね。実に良いよ! 僕はインスピレーションが舞い降りてきたから、これで失礼するよ。 あっはっはっは!」


 何がそんなにおかしいのか、土屋君は高笑いを響かせながら船室の方へと去って行った。


「……お前たち、凄いな」


 土屋君の後ろ姿を見送ると、先生が溜息交じりに私達を称賛した。

 潤君と私はお互いの顔を見合わせ、その後先生を見つめると――3人ともふいに笑いが込み上げて来て、一斉に吹き出してしまった。

 とにかく土屋君が無事で良かった。

 私達はほっとしながら、船室へと戻って行った。


















 船室で再び台本のチェックをする。

 ふと窓の外を見ると、遠くに島が見えた。

 トクンと胸が鳴る。



 もうすぐ到着するんだ。高校生活最後の合宿が、本当に始まるんだ――――















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