チェンジ・ザ・ワールド☆
波江4日目・No.3
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私のやんごとなき王子様
「はーっ」
ため息を大きく吐きながら、自動販売機でジュースを買った。
なんとか読み合わせは終わったものの、こんなんで本当に大丈夫かな?
そんな風に落ち込んでいると、ふいに背後から元気な声がかかった。
「先輩!」
振り向くとそこにはやっぱり潤君。
「潤君……」
「先輩、もし良かったら一緒に甲板にでも出ませんか?」
甲板か……。うん、潤君とならいい気分転換になりそう!
「うん、喜んで」
「本当ですか!? やったぁ!」
それだけの事なのに、潤君はにぱぁっと大きく微笑んだ。
うふふっ、潤君といると自然にこっちまで元気になれちゃうな。
甲板のベンチに二人で座る。風が凪いで気持ちいい。
「ふーっ」
私は大きく深呼吸をした。
「先輩、演技楽しいですか?」
潤君がふいにそんな事を聞く。
「……ちょっとだけ、辛いかな」
潤君にはなぜかいつも甘えてしまう――こんな本音も漏らせるほどに。
私の方が2年も年上で、本当なら私がしっかりサポートしなくちゃなのに。
それでも潤君の優しさは私にとって、この風のように心地よくて――いつもつい寄りかかってしまうのだ、その優しさに。
「なんとなく……そんな風に見えたんです」
ああ、この子は本当によく私を見ていてくれてるんだな、なんて思うと胸の奥がじんわりと温かくなるような気がした。
「風名先輩も桜先輩も凄いですもんね! 僕も圧倒されちゃいましたっ」
おどけたように笑う潤君。でもこれはポーズだ。私を慰めるための……。だって潤君は風名君に負けず劣らずの演技力だったんだもの。
「潤君……」
「でも、僕は先輩の演技が好きです! そりゃ……風名先輩達のようなプロのものでは無いかもしれないですけど……でもとっても真っ直ぐで、心がこもってて――僕はそんな先輩が」
そこまで言うと潤君は言葉を濁した。
「えっと、そんな先輩と一緒に演劇祭に参加できて嬉しいです!」
少しの間の後、潤君はそう続けた。その笑顔が眩しくて温かい。
「有難う、潤君」
そう私も微笑みかけたその時――
「うわあああああ! せんぱーーーーーい! なにしてるんですかーーーっ!?」
潤君が急に素っ頓狂な大声を上げた。
何事かと潤君の視線を追うとそこには、柵を乗り越えて今にも海へと飛び込もうとしている土屋君の姿が!
「きゃあーーーっ! つ、つ、つ、土屋君! 何してるのーーーっ!」
私も思わず大声で叫んでしまった。
「こっ、小日向先輩~~~っ!」
潤君が困った顔で私を見ている。
一体何を考えてるの!? ‘あの’土屋君は!
私達は慌てて土屋君の元へと駆けよった。
「なにしてるのよ! 土屋君!」
大きな声で土屋君を制す。けれど彼の顔はケロッとしたままで、顔色一つ変わっていない。
「なに、この海の光は素晴らしいから、是非とも体に染み込ませたいと思ってね」
なんて口走ってる。正気なの!?
……正気なんだろうな、彼の場合。
私は諦めて潤君に向き直ると、先生を呼んで来て貰えるように頼んだ。
「はいっ! 真壁先生を呼んできます!」
潤君はそう返事をすると、すごい速さで船室の方へと消えて行った。……さて。
「土屋君、どういうつもりなの?」
「どういうつもりも何も。君の方こそどういうつもりだい? こんな美しい海を、それに反射する光を見ても何も感じないのかい?」
「感じるわ、綺麗だと思うわよ。でもだからってそれが何で飛び込みに繋がるワケ?」
私が少しイライラしながらそう言うと、土屋君は実に愉快そうに笑い始めた。
「あっははは! 面白い事を言うね、君は。そんなの当たり前じゃないか。体に染み込んだ感覚というのは一生消えないんだよ? だから僕は飛び込むのさ。そうしてこの光を体いっぱいに受け止められれば、それは僕の脳に記憶として結びつき、それはやがてこの腕に力を与えるのさ! 素晴らしい水面を描く力にね!」
「……土屋君、あのね。一歩間違えれば命を落とすのよ? 分かってるの?」
「命? 芸術を探究した結果落とす命ならば惜しくはないね!」
「土屋君!」
そんなやりとりをしていると、遠くの方から潤君の「先生、こっちです!」という声が聞こえた。良かった、真壁先生見つかったんだ。
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