チェンジ・ザ・ワールド☆
真壁4日目・No.3
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私のやんごとなき王子様
「よし、取りあえず休憩するか」
フェリーに乗ってからも仕事は山積みだった。
乗り遅れた人がいないか再び点呼確認をし、各担当が乗船中に何をするのかその内容についての確認。それが終わると島についてから生徒達の宿泊する部屋と避難経路の確認や緊急時の連絡の仕方などを生徒指導のメンバーでしっかりと話し合いをした所で、やっと休憩となった。
「はあ……」
私は船室を出てデッキから流れる波しぶきを見つめて一息吐いた。
先生達って学校行事がある度にこんなに大変な仕事をやってたんだなあ。感謝しなきゃ。
そんな事を考えていると、
「ひゃっ!?」
突然ほっぺたに冷たい何かが当たって驚いた。
慌てて振り向くと、真壁先生がいたずらっ子の様ににかっと笑ってジュースを手に持っている。
「あ……もうっ、びっくりするじゃないですかっ!」
「ははは! 悪ぃ悪ぃ、ほれ、お疲れさん」
そう言ってそのジュースを私に渡すと、先生はもう一つ持っていたコーヒーを飲んだ。
「ありがとうございます」
受け取ったジュースを口に入れると、何だか疲れが少し取れるような気がした。
「なんかお前にばっかり仕事押しつけてるみたいで、すまないな」
「え? そんなことないです。皆同じように忙しいですし、それに私達よりやっぱり先生達のほうが全然忙しいじゃないですか」
「それが教師の仕事だからなあ。でも、本当に助かってるよ。なーんかお前を無理にこの仕事に引っ張ってきたみたいで、気が引けてたんだよな」
「私は自分で生徒指導の仕事を選んだんですよ。先生が気にする事じゃありません」
「そうかあ?」
真壁先生が困ったような嬉しいような複雑な顔をすると、遠くの方から先生を呼ぶ声が聞こえて来た。
「あれ? 先生、誰か呼んでるみたいです」
「ん? あ、あれは確か一年の―――波江?」
血相を変えて走って来たのは潤君だった。
潤君は私達の目の前まで来ると、今来た方を指差し早口で言った。
「せ、先生大変です! 土屋先輩がっ! 海に飛び込もうとしてっ……」
「なんだって?! どこだ!?」
次の瞬間真壁先生は走り出していた。
「こっちです!」
潤君もすぐに真壁先生と並んで走り出し、私はそれを慌てて追いかけた。
土屋君が海に飛び込もうとしてるって、一体どういうこと!?
確かに芸術家でちょっと変わった人だけれど、そんな馬鹿げた事をやるなんて! こんな走ってるフェリーから海に飛び込むなんて自殺行為じゃない!
潤君の説明によると、土屋君はこの船上から見える海と光の美しさを体に染み込ませたいから、飛び込むとかなんとか言い出したらしい。
そんな事して体に染み込ませても、死んじゃったら意味ないじゃない!
「おい、土屋! お前何やってんだ!? 水中大脱出でもやる気か、バカ!! 危ないだろうが!」
もの凄い勢いで走りながら言ってる真壁先生の言葉が変だ。土屋君の状態を見てきっと動転してるんだろうな。
なんて、かく言う私も動転してる。だって土屋君ったら柵の向こう側に立って、今にもその手を放しそうだったんだもん!
「つ、つ、つ、土屋君! 危ないよーー! 早くこっちに……いや、やっぱりゆっくりこっちに戻って!!」
そんな私達を見て、土屋君が深いため息を吐いた。それはもう、深いため息を。
「はあ……全く、君達には呆れるよ。芸術というのはね、五感を常に多方向に向けていなければいけないんだ。僕のやろうとしている事が危ない? それこそ危険な考えだよ! 今その時にやりたいと感じた事をやらなければ、二度とその感覚を味わう事は出来ないんだ。僕は今、この海の光を体中で感じたいんだ。だから邪魔をしないでくれ!」
「お前のその芸術に対する考え方はすごいと思うぞ! だけどな、絶対に危険だと分かっている事を目の前にして、それを黙って見過ごすなんて出来る訳ないだろ?!」
真壁先生はそう言って真剣な顔で怒った。
「そうですよ、危ないですよ、土屋先輩!」
潤君も本当に不安げな表情だ。だけど土屋君はそんな事おかまい無しに続けた。
「僕が自分の意志でそうしたいんだ、僕の意志を邪魔する権利が君達にあるのかい? もし今この瞬間を逃したら、この感覚は二度と味わえないんだ、それを君達が再び味わえると保証でもしてくれるのかい?!」
「そんな事を言ってるんじゃない! お前を心配してるんだ!」
「ははっ! それこそ大きなお世話ですよ、先生」
プチン……
その瞬間、私の何かが切れた。
「大きなお世話で結構っっっ!!!」
私が急に大声を出したものだから、先生と潤君が驚いてこちらを振り向いた。
私はというと、半分無意識のうちに肩を怒らせ、ずんずんと土屋君に近づいてまた声を荒げていた。
「自分の勝手で海に飛び込みたいって土屋君が言うんだったら、私も自分の勝手で土屋君を飛び込ませたりしない!」
そして自分でも信じられない位の力で、惚けた顔の土屋君の腕をがっしりと掴んだ。
「――で、でかした! 小日向!」
「先輩さすがですっ!」
真壁先生と潤君は漸く我に返り、急いで私に続いて土屋君を取り押さえた。
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