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チェンジ・ザ・ワールド☆
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風名5日目・No.3

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streetpoint

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私のやんごとなき王子様












 取材陣が出て行った後午後の練習も終わり、私は練習室を出て一人廊下を歩いていた。

 何だか歩く足が重たくて、中々前に進めない。おまけに頭も痛くなってきて、ふらふらする。


「小日向」


 そんな所に声を掛けられ、その声の主が誰か分かった私は足を止めただけで振り返る事が出来なかった。

 近くの窓枠に手を掛けて一つ息を吐き出すと、風名君が心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「大丈夫? 顔色すげぇ悪い。具合悪い?」

「ううん、大丈夫」


 首を振るのも頭が痛い。


「大丈夫……って顔じゃないよ。ほら、掴まって」


 そう言って片手で私の背中を支え、もう片方の手を私の前に差し出した。

 触れられてビクリとした私は、すぐにその手を振り払うように歩き出した。


「ほ、本当に大丈夫だから!」

「寝てないうえにさっきの取材のストレスで疲れたんだよ。どうせ俺の部屋は小日向の部屋の向かいなんだし、行く方向同じだろ? だから掴まれよ。無理すると倒れるぞ?」


 もう倒れてしまった方がいいんじゃないかって思った。私なんかいない方が、劇もスムーズに運ぶんじゃないかって……。

 だけど風名君の手がすごく優しくて暖かくて、もう振りほどく事は出来なかった。

 どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう?

 ……ああそうか、風名君は誰にでも優しいんだった。バカだな、私―――


「俺、小日向が倒れたらヤダよ」

「えっ?」


 頭の上から聞こえた風名君の呟きに、私は思わず顔を上げた。

 今、私が倒れたら嫌だって、言った?


「風……」

「美羽っ!?」


 突然前方から飛んで来たさなぎの叫び声によって、私の声は見事かき消されてしまった。


「あ……さなぎ」


 驚いていると、さなぎはすぐに風名君とは反対側の私の隣りに並ぶと、眉間に皺を寄せて私のおでこに手を当てた。


「あんた顔真っ青だよ! どうしたのよっ!」

「何でも無いよ」

「んな訳ないでしょ?! 風名君、美羽を運んできてくれてありがとう!」


 大げさな事言うな。なんて思っていると、さなぎは私の腕を肩に回して目の前のドアを開けた。

 担当は別だけど、部屋割りはクラス毎だから私とさなぎは同室なのだ。


「ほら美羽、風名君にちゃんとお礼言いなよ」

「ん……風名君、あの、色々とありがとう……それと、ごめんね」


 ごめんにはたくさんの意味が含めてあるんだけど、きっと風名君は分からないよね。ちゃんと謝らなきゃ。でも、きっと風名君は私が謝っても笑って「小日向が謝る事ないよ」って言うんだ。

 だって風名君は……皆のアイドルで、皆に優しいから。


「気にするなよ。ゆっくり休んで、明日からまた頑張ろうぜ」


 こくんと頷いた。本当はもう演じる事なんて楽しく出来ないかもしれないって思ってるけど、だけど今から逃げ出すなんて出来ないもん。

 昨日頑張るって言ったのに、私は本当に意志が弱い。ていうか、フラフラし過ぎなんだよな。


 ちょっとした事に心を揺らされて、自分で自分を傷付けてる。


 まだ心配そうな風名君と別れ、私はさなぎによってベッドへ投げ出された。


「……痛い」


 ベッドに顔から倒れ、それでも体を動かす気力もなかった私は取りあえず大きなため息と一緒に顔をしかめた。


「美羽~。何かあったの?」


 さなぎの言葉が胸に刺さる。私はゆっくりと体を仰向けにすると、天井を見つめて心の中に溜めた思いを吐き出した。


「なんかさ、違うんだよね」

「何が?」

「風名君や亜里沙様のコト」

「はあ? どういう意味?」


 チラリとさなぎを見ると、椅子に座って訝しそうに私を見下ろしていた。


「最初から分かってた事だよ。本当に分かってたの……。住む世界が違うって」

「……」


 黙ったままさなぎは私の話に耳を傾けてくれている。


「なのに……バカだよね、私。風名君がすごく優しいから、少しだけ近づけた気がして。亜里沙様も私なんかの事まで気遣ってくれるから、ひょっとしたら上手く――出演者として頑張れるかもって思ってた。でも」


 私は一つ大きく息を吐いた。


「でも違うの。当然だけど全然違う! さっきたくさんの人が取材に来たけど、私は――」


 もう言葉が出なかった。代わりに涙がボロボロと瞳から零れ落ちていく。


「美羽……」


 さなぎが悲しそうな顔でこっちを見ている。さなぎにまでこんな思いさせて、私は本当に何がしたいんだろう。


「美羽、私達はさ……そりゃ違うよ。芸能人でも無ければ良家の令嬢でもないし。なんてったって電車で現地集合だし?」


 そう言って少しだけおどけた表情を作るさなぎ。


「でもさ、そんな私達を――美羽を風名君は駅まで迎えに来てくれたじゃん。亜里沙様だってそうだよ。とりまきはともかく、亜里沙様はうちらにも優しいじゃん?」

「うん……」


 さなぎは私の顔を見つめると、にっこりと笑った。


「それってさ、きっと同じ学校に通う、同じ生徒だと思ってるからだと思う。芸能人だとかオジョーとか関係なくてさ、大切な――友達だって思ってくれてるんじゃないかな?」


 友達……?


「風名君や亜里沙様はいっつも今日来た取材の人達みたいな大人達に囲まれてるワケじゃない? だから、純粋に嬉しいんだと思うけどな。美羽が『普通』に接してくれる事が」

「嬉しい……?」

「うん、だって私だって嬉しいもん! 美羽が元気に笑って一緒に笑ったり怒ったり泣いたりしてくれるの、嬉しいもん」

「さなぎ……」

「違う事なんてないよ。ていうか、そりゃ違うんだけど、でもそうじゃないっていうか――あー、もうっ! 私ってば何言ってんの!? 自分でもワケ分んなくなってきた~~!」


 大げさに髪を振り乱して叫ぶさなぎを見て、私は思わずくすくすと笑ってしまう。


「そうそう! 美羽は笑ってんのが一番だよっ」


 さなぎはそう言って本当に優しく微笑んでくれた。


「ありがと……さなぎ。いつもゴメン」

「なーに言ってんの! なにかあったらいつでもさなぎお姉さまに相談なさい!」


 そう言って自分の胸を大きく叩くさなぎ。そんなさなぎと私はお互いに顔を見合せると、同時に噴き出した。

 ほがらかな笑いが部屋いっぱいに響き渡る。


「美羽、本当にさ――思いつめたらダメだかんね? 担当は違うけど、何かあったらいつでも私のトコに来なよ? 約束だよ?」

「うん」


 私は笑顔で頷いた。
















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