チェンジ・ザ・ワールド☆
倉持5日目・No.1
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私のやんごとなき王子様
うん、理事長を迎えに行くのも仕事だもんね! 行こう!
「分かりました、私、行きます」
「そうか、悪いな。俺も手が空いたら行くから」
「はい」
嬉しそうに言う真壁先生に明るく返事をし、私は船着場へと向かった。
理事長かあ……上手に挨拶出来るかな。またドジ踏まなきゃいいけど。
ちょっぴり不安を抱えながら、私は大きな入道雲が広がる青空を見上げた。
「おや?」
私は船着場で目の前に横付けされた立派なクルーザーから現れた男性の姿に緊張した。
さらりとエルメネジルド・ゼニアのスーツを着こなした素敵なその風貌に、思わず瞬きを忘れて見入ってしまう。
その男性は私の顔を見ると先の言葉を発し、すぐに微笑んで挨拶をくれた。
「こんにちは。君は確か真壁先生のクラスの……小日向さん、だね? もしかして迎えに来てくれたのかな?」
「あっ、はいっ! 先生に言われて来ました」
びっくりした。まさか一生徒である私の名前まで知ってるなんて。
そう、この素敵な男性が我が星越学園の理事長、倉持稀彦(くらもち まれひこ)さん。さなぎも言ってたけど、理事長には全く見えないモデルのような人だ。
真壁先生と同じ位の高い身長と柔らかな表情、でもその眼孔はキリリと鋭く、出来る人だという印象を一瞬にして与える。
「自分の島なんだからわざわざ迎えに来てくれなくても大丈夫だったんだけどね」
そう言って私の隣りに並んだ理事長は、さり気なく私の肩に手を置いて歩き出した。
「でも、せっかくこんなに可愛らしい人が来てくれたんだから、忙しい真壁先生とその気づかいに感謝しようかな」
「か、可愛らしいだなんて、そんな……」
こんな恥ずかしい台詞を言っても許されるのは、きっと理事長だからだ。
歩き方やしゃべり方、どれ一つをとっても隙のない理事長は前理事長のご子息で、元華族の血を引くだけあって多方面の著名人に顔が広い。おかげでこの演劇祭も盛り上がるのだけど、ここまで大々的に出来るのはこの理事長の手腕だからこそだと思う。
だけどそれを鼻にかけるような言動をしない理事長は、本当に大物だ。
「あのっ、お荷物お持ちします!」
さっきから理事長に驚かされっぱなしで、すっかり忘れてた。
私がそう申し出ると、理事長は静かに首を横に振る。
「自分の荷物なんだ、自分で持つよ。それに、女性に荷物を持たせる訳にはいかないからね」
「でも、理事長を迎えに行くように頼まれたのは私ですし」
「なるほど、仕事をしないと真壁先生に申し訳ないということかな? 真面目な子だね、君は……先生方の手伝いは大変じゃない?」
気さくに話しかけてくれる理事長は、どうしても荷物持ちをさせてくれそうにない。仕方ないのでそのまま歩くことにした。
「いいえ、とてもやりがいがあります。楽しいです」
「小日向さんは真面目で頑張り屋さんなんだね」
「えっ? いえ、普通です……」
こんなふうに理事長と会話をするなんて想像もしなかったけど、すごく話しやすい人だなあ。
学園では授業中にふらりとどこかの教室に入って来て授業を見学することはあるけど、基本忙しい人だから話す機会は滅多にないのだ。
ちょっと特別な時間を持てたことを嬉しく思っていると、向こうから真壁先生が走って来るのが見えた。
「あ、真壁先生」
「本当だ。せっかくの楽しいデートを邪魔されてしまったね」
いたずらっ子のように肩をすくめて笑う理事長に、私も吊られて笑顔になった。
「ふふっ、残念です」
「小日向さん、また僕とデートしてくれるかな?」
「えっ!? そんな、わ、私なんかでよければっ!」
からかわれているんだろうけど、思わず焦ってしまう。
「悪かったな、小日向。お前に頼まなくても良かった」
と、丁度そこへやって来た真壁先生が、申し訳なさそうにそう言った。
「健亮もなかなか気が利くようになったじゃないか」
「は?」
「こんなに可愛らしい子を僕の迎えに寄越すなんて」
そう言って微笑んだ理事長に私は見蕩れてしまった。
だってだって、すごく繊細でしなやかな笑顔なんですもの!
「可愛らしい? ははっ、良かったな小日向!」
「もう、先生!」
茶化す先生に頬を膨らませると、理事長がまた私を見て笑ってくれた。
「本当に可愛らしいよ、小日向さんは……そうだ、今日は取材が来るんだったね」
「はい、昼過ぎに来る予定です」
「そう。それじゃあ小日向さんには僕のお手伝いをしてもらおうかな」
「えっ? お手伝い、ですか?」
そんな、私に理事長のお手伝いなんて無理だよ! なんの知識もないし……。
「お手伝いと言っても取材用の部屋の準備だけだから」
私の心中を察したのか、理事長がそう言った。
「え、でも……」
まだ戸惑う私に、今度は真壁先生が横から口を挟む。
「今日は秘書の田中さんはいないんですか?」
「彼は僕の代わりに今日は出張中でね、ここへは明後日来る予定なんだ」
そっか、秘書さんがいないんだ。それじゃあ仕方ないよね。それに部屋のセッティングなら私でも出来るかも……。
うんと小さく頷いて、私は顔を上げた。
「分かりました、私でよければお手伝いさせて下さい!」
「良かった、助かるよ小日向さん。それじゃあ健亮、この子は僕が貰って行くよ」
も、貰って行くだなんて、なんだか恥ずかしい表現だな。
理事長の手が私の肩に触れると、真壁先生ははあっとため息を吐いて笑った。
「分かりました。でも仕事が終わったら返して下さいよ。こっちも仕事が山積みなんですから」
「う~ん。まあ、考えておくよ。さあ、行こうか。小日向さん」
「あっ、はい!」
私達は真壁先生と別れ、理事長専用のスイートルームへと向かった。
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