チェンジ・ザ・ワールド☆
倉持10日目・No.1
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私のやんごとなき王子様
10日目
「それじゃあ、後はよろしく頼むよ。健亮」
「はい、ありがとうございました!」
元気よく頭を下げる真壁先生の横に立つ私は、ずっと気持ちが晴れないままだった。
「小日向さんも、色々とありがとう。本当に助かったよ」
「あ、いえ……」
私は理事長に恋をしてしまった。
昨日の海での出来事は夢のような時間で、今でも鮮烈に私の脳裏に焼き付いている。
あの理事長の腕のぬくもりと甘いコロンの香り、そしてすぐ傍で囁く優しい声……
「本番まで後少しだから、頑張ってね」
「はい」
真っ直ぐに顔を見られなかった。
寂しさと恥ずかしさで、どんな顔で挨拶をすればいいか分からなかったのだ。
理事長所有のクルーザーはピカピカで、微笑んで船上から手を振る理事長を見送った私と真壁先生は、船が遠くに消えて行くのを見届けてほうと息を吐いた。
「理事長も忙しいのによく5日も滞在できたよな」
「まあ、秘書の方がその分ご苦労されてるみたいですけど」
「ああ、田中さんな……あの人仕事出来るくせに理事長から逃げるのは下手なんだよなあ。器用貧乏ってやつ?」
「――違うと思います」
くだらない真壁先生との会話がなんだかほっとする。
「まあ俺達も明日には戻るし、あと一踏ん張りだ。頑張ろうぜ」
「はい!」
理事長と離れてしまうのはやっぱり寂しいけど、私にはどうしていいか分からない。水原さんみたいに思いを告げるなんて出来ないし、かといってこのまま何も無かったように生活するのを我慢する事も出来ない。
なんてわがままなんだろう。
「え? 花火、大会?」
「え~、やだ美羽。知らなかったの?」
そう言って呆れたように言うさなぎに向かって、私は体をテーブルの上に乗り出した。
昼食の時間にさなぎとゆっくりしていると、急にそんな話題になったのだ。
「知らないよ! そんなの書いてあったっけ?」
「書いてはないけど、皆知ってるよ? この島の近くの無人島が打ち上げ場所になってて、クルージングしながら花火大会を観覧するっていうのを今年から売りにしたらしいよ」
ちょっぴり誇らし気にそう説明してくれるさなぎに、私は目を輝かせた。
「素敵! そんな素敵な企画考える会社があるんだね!」
「うちの理事長が一枚かんでるらしいよ。なんでもその島も理事長の所有地らしくてさ、知り合いの船舶会社と旅行会社に企画を持ち込んだとか」
さなぎの口から出た理事長という単語に、体が勝手に反応する。
「そうなんだ……ていうか、そんなに詳しいさなぎが凄い」
まさかの詳細まで知っているなんて、さすがさなぎ。情報網が半端じゃない。でも花火大会か――理事長と一緒に見れたら素敵だろうな……もちろんもう理事長はいないから無理だけど。
「ね、美羽は誰と行く?」
「えっ? 誰ってさなぎと一緒じゃないの?」
「何言ってんの~! 折角のチャンスじゃん! 美羽だって一緒に見たい人いるでしょ?」
そりゃいるけど……。でも――っていうか、
「さなぎにはいるの?」
「あははっ。実は――さ、この合宿中に彼氏が出来たんだよね~」
「えぇ!?」
恥ずかしそうに少しだけ俯いて衝撃の告白をしたさなぎを前に、私は思わずのけ反った。
「いいいいい、いつの間に!?」
「いやぁ~、同じ担当の子なんだけどね~」
嘘。どうして。さなぎ~~~!
「佐和山」
テーブルの向こう側から、ふいに声をかけられた。
視線を馳せると、そこには一人の男子の姿が。えっと、あれは確か3組の――
「あ、米倉~!」
そう、米倉君だ。
米倉君は私を目に留めると、にっこりと笑いながら軽く会釈をしてくれた。つられて私も思わずペコリ。
「紹介します! 私の彼氏の米倉君です!」
照れくさそうに、けれどどこか誇らしげに胸を張るさなぎ。その顔からは幸せがにじみ出ていて、何だか私まで嬉しい気持ちになる。
「佐和山と付き合える事になりました」
米倉君もにこにこと笑いながらに私に報告。なんか、いいな――
「さなぎの事、よろしくお願いします」
私は一つ大きく頭を下げた。
「や、やだも~、美羽ったらお母さんみたいじゃんか~~」
頭をあげて、二人と目を合わせると誰ともなく笑いだした。
「あははっ、おっかしい~」
笑うさなぎを私は肘で突きながら、軽く睨むフリ。
「ずっと黙ってるなんて薄情者~~」
「違うんだって~! ホント、付き合う事になったの昨日だったからさ~」
「急な話ですみません! ホント」
焦るさなぎを見て、米倉君がフォローに入る。
優しいんだな――愛されてるんだね、さなぎ。そんな二人を見ていると、自然と心が温かくなる。
「米倉が謝る事無いよ」
「そう、米倉君は悪くないよ」
なんて私もフォローをし返すと、3人一緒にまた笑いあった。
うん、米倉君とさなぎなら、きっと幸せなカップルになると思う!
「それじゃ、私そろそろ行くね」
あんまり二人の邪魔をするのも悪いと思って、私は担当場所へと移動する事にした。
「あ、待って!」
去ろうとした私の元へ、さなぎが駆け寄る。
「美羽、今夜の花火大会はホントに大チャンスだよ? 後悔しないように、頑張ってね!」
「うん、アリガト」
さなぎは私に好きな人がいる事を、うっすら感ずいているんだと思う。さなぎの励ましは嬉しいけど、残念ながら私の想い人はもうここにはいないんだ。
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