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日輪と笠原(道真)No.1

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 うーん、悩む……悩むけど、ここは一つ思い切って道真君にお願いして、みようかなーー?

 嫌な顔をされそうだと分かっていても、道真の弓道にはどこかしら魅力があるように感じる。


「あの、道真君と、一緒に試合に出たいです」


 漸く心を決めてともえが言うと、すぐに幸之助は頷いて道真を呼んだ。


「道真、お前がともえさんと一緒に我が道場の代表として試合に出なさい」

「……分かりました」


 頭に一瞬の間があったが、取りあえず了解をした道真をちらりと見る。と、すぐに真弓がともえの側にやって来て、


「緊張しなくても大丈夫。分からない事があったら道真に聞くといい、ちゃんと教えてくれるから。僕ももちろん手伝うから、頑張って」


 微笑む真弓に勢いよく頭を下げる。


「はい、ありがとうございます! 頑張ります!」


 緩慢な動きで真弓の隣りまでやってきた道真が、相変わらずともえと視線を合わせずにぼそりと呟いた。


「取りあえず、足手まといにだけはなるなよ」

「くっ……」


 悔しいが今のともえの実力では道真には到底及ばない。今に見てろと心の中で呟いて道真を睨み上げた所で、門下生達から拍手が起こった。代表者二人を激励してくれているのだ。


「よし、それでは道真、ともえさん」

「はいっ」


 ともえは背筋を伸ばし、幸之助をじっと見る。


「笠原道場に、二人でご挨拶に行きなさい。相手の代表者とも顔を会わせておくといいだろう」


 なんと、敵である笠原道場へ挨拶に行くよう突然言われた。ともえに緊張が走る。


「分かりました。おい、着替えて飯食ったら行くぞ」

「うん。分かった」


 やはり道真を選んだのは早計だったかと、多少の不安を抱えながらも、ともえと道真は笠原道場へ向かう事となったのだった。















 正直道真は女と一緒に行動をするのが面倒だと思っていた。

 弓道の道場としては名門と呼ばれる家柄に生まれ、顔立ちもそう悪くないおかげで昔から言い寄ってくる女は山ほどいた。が、どうにも慣れないのだ。

 ふと隣りを歩くともえの様子を伺う。やたらと声が大きくて元気が良いという印象を持ったが、弓を射る時の表情は真剣そのものだった。

 俺と同じ年だって、言ってたな……

 昨日初めて出会った時の事を思い出し、ともえから目を離して前を向く。


「ねえ」

「あ?」


 突然声をかけられ道真は内心慌てた。見ていた事がバレたのかと思ったのだ。そんな道真の考えなど知らないともえは、相変わらず芯の強そうな顔で道真を見上げると続ける。


「道真君は笠原道場に行った事あるの?」

「ああ。ガキの頃は交流試合を良くしてたからな。兄貴達と出向いてた」

「へえ……兄貴達って、真弓さんと垂司さんね?」


 聞きたくない名前に軽く舌打ちをする。どうにも道真は長男である垂司とは馬が合わない。

 道真の機嫌がどうやら損なわれたらしい事になんとなく気付いたともえは、話題を変える。


「あ、ねえ! 笠原限流師範って、どんな方なの?」

「限流師範……そうだな。まあ、厳しい」


 ともえが自分に気を利かせたと気付いた道真は、少し驚いて答えながらともえを見る。


「き、厳しいんだーー」

「でも頑固ながらに弓道に真剣に取り組んでる人だな。弓道を愛してるから、伝統を守りたいって思うんだろうし……見えて来たぞ」


 そう道真に言われ、ともえは前方へと視線を向けた。そこには日輪道場と同じ位大きくて立派な門が見えている。


「取りあえず、お前余計な事言うなよ」

「余計な事って何よ?」

「あそこは口が悪い門下生が多いからな。お前、何か言われたら口より手が先に出そうだし」

「子どもじゃないんだから、そんな事しないもんっ!」

「どうだか」


 道真が面倒臭そうにぼそりと呟いた所で丁度門の前に到着し、拳を握って重そうな門を叩く。

 しばらくするとゆっくりと門が開き、顔を覗かせた青年にともえはすかさず会釈した。


「こ、こんにちは! 日輪道場から参りました」

「雪人か。日輪道場の代表として挨拶に来た。限流師範は?」


 ジロリとともえと道真を睨むと、雪人と呼ばれた青年が口を開いた。


「道真君……君が代表とはね。てっきり真弓さんかと思っていたのだが……まあいい。君とは決着をつけなくてはいけないから、望む所だーーーところで、こちらの方は?」


 どこかしら冷たい雰囲気の雪人は、再びジロリとともえを見る。

 何だか怖そうな人だな……

 自分と同じ位の年齢だろう雪人に、ともえは気持ち身構える。


「えっと……那須ーーともえ? 安芸の那須道場から修行に来てる」

「那須……ああ、師範と昔一緒に修行をしていた方の」

「ちょっと、どうして私の名前が疑問系になってるのよ」


 ともえがジロリと睨むと、道真がため息を吐く。


「人の名前覚えんの苦手なんだよ、自分で自己紹介しろ」

「初めまして、那須ともえです! よろしくお願いします!」

「氷江雪人(ひのえゆきと)です。そうですか、まあ、日輪道場の女性は熱心ではないですからね。期待はしていませんが」


 そう言って今度はともえの姿を一通り眺めると、門の戸を広く開けた。

 ともえはため息まじりに自己紹介をして歩き出した雪人に目を丸くさせた。先ほど道真が言っていたのはこういう事だったのだ。なんとも人を寄せ付けないというか、見下した物言いに腹が立つ。

 納得しながらしばらく歩いていると、ふいに道真がともえに聞こえる位の小声で言った。


「次は多分もっと強烈なのが出て来るぞ。切れるなよ」

「え? ……う、うん」


 何だかんだと道真はともえの質問にも答えてくれるし、ただ単に嫌われているのではないらしい事が分かってほっとした。これなら試合までの修行も、なんとかやって行けそうだ。

 悪人だなんて思って悪かったな。などと、初対面の時の事を反省する。

 そして日輪家に勝るとも劣らない笠原家の庭を通り過ぎ、こちらも大きな弓道場が見えて来てともえは感心した。


「わあ、立派な道場ですねえ」

「当然でしょう? 我が笠原流は由緒正しい弓道の伝統を受け継ぐ道場なんです。どこかの緩い道場と一緒にしないで頂きたい」


 呆れたように言った雪人に、ともえがつい声を上げる。


「どこかってどこですか!? さっきからあなた失礼じゃないですか!」

「おや、僕はどこかの緩い道場と言っただけで、日輪道場の事だなどと一言も言っていませんが?」

「むっ!」

「おい雪人、笠原師範が入り口に見えてるぞ」


 雪人と顔を突き合わせて睨み合うと、道真がともえの体を引いてそう言った。

 そしてともえの耳に顔を近づける。


「だから、余計な事言うなって」

「だって!」

「ほら、挨拶する」


 道真に促され、ともえは慌てて居住まいを正して笠原限流なる人物に深く頭を下げる。


「はじめまして、那須ともえと申します!」

「ご無沙汰してます、限流師範。今日は日輪道場の代表として挨拶に伺いました」


 笠原限流は立派なひげを蓄えた厳つい顔の人物で、幸之助より小柄ながら威圧感は凄かった。挨拶をする二人にゆっくりと頷くと、


「良く来た。我が道場の代表を紹介しよう、こちらへ来なさい」


 そう言って道場へと消えて行った。

 ともえと道真は顔を見合わせそれに従う。雪人はというと、さっさと限流についていなくなっている。


「はあ。厳しそうな方……」












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