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日輪と笠原(垂司)No.2

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 ともえは腹を立てていた。

 挨拶に行った先の笠原道場で手痛い言葉の洗礼を受けたのだ。

 向こうの代表は氷江雪人(ひのえ ゆきと)という、なにやら道真と因縁のありそうな冷たい雰囲気の男性と、もう一人は橘雛菊(たちばな ひなぎく)と言う美しい少女だった。

 問題なのはこの橘の方で、最初から最後まで嫌味をたっぷりと当てられた。

 笠原道場の師範である限流は伝統を重んじる厳しい師範だという。しかしその門下生たちの殆どは嫌味に溢れた情けの無い人間であるように、ともえには見受けられた。

 いや、それは‘笠原という伝統に溢れた道場の門下生’という所からくる誇りゆえなのかもしれなかったが、ともえはとにかく情けなくて悔しい思いをして帰ってきたのであった。

 悔しさをばねに練習を積み上げ、笠原の者に目に物を見せてやろう! と息まいたともえは帰るなり自室に戻って着替えを済ませ、早速道場へと向かった。


「おかえり」


 その途中でまたしても垂司と出くわした。


「戻りました」


 そう言ってともえが小さく頭を下げると、垂司はあの憂いに満ちた目をともえに向けてきた。


「笠原はどうだった?」

「……あまり、いい思いはしませんでした」

「そう。相手は?」

「氷江雪人さんと橘雛菊さんです」

「……予想通りだな」

「ご存じなんですか?」

「もちろん」


 そう答えた垂司に、ともえは二人の事を詳しく聞いてみようか迷った。とくに橘の言いぶりには、この日輪家と何か浅からぬものを感じた。


「あの……橘さんなんですけど」


 次の瞬間にはともえは口を開いていた。聞こうと心底決心したわけでもなく、本当にぽろりとその言葉が口から零れてしまったのだ。


「彼女が何か言ってたかい?」

「口が達者なのは日輪の血筋とかなんとか」

「くっくっく。相変わらずだね、彼女は」


 垂司は目を細めて笑いをかみ殺していたが、ともえには何の事だかさっぱり見当もつかなかった。


「どうして橘さんはあんな事を?」

「私は棘のある薔薇も美しくて好きだけどね、傍においていつも愛でたいと思うのは、太陽のように温かなひまわりや可憐な白百合なんだよ」

「……なんの話ですか?」

「さて、なんの話だろうね。ま、おいおい……ね?」


 そう言ってくつくつと小さく笑いを洩らす垂司を、ともえは不思議そうな瞳で見つめていた。

 この垂司と言う男が何を考えているのか、ともえにはいまいち掴む事が出来ない。日輪の血筋に対して向けられた荒々しい橘の言葉にも、こうして目を細めて笑っているだけの、弓を捨てた日輪家の長男。飄々と生きているようではあるが、ともえにはどこか寂しそうに見えた。


「垂司さん……」

「おっと、道場へ行く途中だったんじゃないかな? 邪魔をしたね」

「あ、いいえっ」


 垂司にそう言われ、物思いに耽りかけていたともえは慌てて背筋を伸ばした。


「それでは、失礼します」

「ああ、頑張るんだよ」

「はいっ」


 元気に頷いて去っていたともえを見送ると、垂司は小さく言葉を紡いだ。


「雛菊の姫君か……。いやぁ、参ったねぇ」


 そう呟いて苦笑した垂司の顔は、やはりどこまでも美しかった。










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