チェンジ・ザ・ワールド☆
試合に向けて(美弦)No.1
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はなもあらしも
笠原道場に出向いた翌日の早朝、ともえはまだほの暗い道場で一人矢を一心に放っていた。
弦がこすれる音、矢が空気を裂きながら飛んで行く音、矢が的に的中する音。
朝の澄んだ空気にそのどれもがよく反響し合い、ともえの心を震わせていた。
田舎の道場ではそれなりに強かったともえだが、ここ日輪道場の面子の腕を見たともえは少し自信を消失しかけていた。誰もが自分より上手で、人を魅了する何かを持っている。
少しでも追いつきたい、足を引っ張りたくはないと強く煩悶し、こうして朝から一人で矢を射続けているのだが――
タンッ!
みっしりと的が見えないくらい矢が刺さった所でともえは息を吐いた。
「はあ……」
何度射ても分からない。自分には一体何が足りないのか。それとも気付いていないだけで、どこか悪い癖でもあるのだろうか?
「ともえ」
突然声をかけられ、ともえは反射的に振り返った。
「あ、美弦。おはよう」
振り向けばいつの間にか5歩ほど後ろに下がった所で、美弦がじっと控えていた。
「随分早いじゃないか」
「……負けたくないから」
いたずらっぽく声をかけた美弦に、しかしともえは微笑み返す余裕すらない。すかさず的へと身を向ける。
「おい」
「なに」
「おい」
「なによ」
そう言って振り向いた瞬間――
パチッ
「いたっ!」
美弦からデコピンされた事にともえが気付くのに、わずかばかりの間があった。
「な、なにするのよ! いきなり」
「眉間に皺、むっちゃ寄ってるぞ」
「……え」
「そんな風じゃ良い矢なんて放てない。弓道は精神状態が大きく左右する武芸だ。だから、そんなに気負ったって、良い一本なんて射られない」
「……精神……こころ……」
ともえはふと遠くの的に視線を移した。矢がまるで剣山のように的に刺さっている。
「ま、全部真弓兄さまの受け売りなんだけどさ。でも前に僕が躓いた時は、この言葉に救われたから」
「美弦……ありがとう」
一見、自分になど興味も無さそうな少年だが、確かに自分をパートナーとして認め、見つめていてくれていたと言う事実に、ふいにともえは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「あ、そうそう。今日は昼から美琴も来るから」
照れ隠しのように笑いながら美弦が放ったその名前に、ともえは今度は心の底からの笑顔を見せた。
「本当? 嬉しい!」
美琴はともえにとって、早くも心安らぐ存在になりつつあった。あの可愛らしい笑顔と話し方がとても好ましく、もっと沢山の時間を共有したいとさえ思っている。
自分には無いものをたくさん持っている美琴は、同じ女性であるともえから見ても本当に素晴らしい女性だと思う。
そんな素晴らしく愛らしい美琴という少女が身近に存在している美弦にとって、やはり女性というのは、美琴のように淑やかで可憐でなくてはならないのだろうか―――
ふいにそんな疑問がともえの心の片隅に沸いた。
「……え?」
「ん? どうかした?」
「あ、ううん。なんでも!」
すぐに取り繕ったともえだったが、内心の動揺は収まらなかった。なぜそんな事を自分が気にしているのか、その理由を見つけることが出来ない。そんな疑問を振り払うかのように慌てて首を横に激しく振る。
「そう? じゃ、僕も練習しなくちゃ。頑張ろうね」
「うん!」
とにかく、考えていても仕方がない。
私は、私の心のままに、矢を放つ――――胸の内でそう呟いてから、キッと前を見据えたともえの放った矢は、真っ直ぐに的へと向かって行った。