チェンジ・ザ・ワールド☆
道真の気持ち
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はなもあらしも
日輪道真18歳。
どこにでもいる普通の青年。口べたで自分から物事に首を突っ込むタイプではないと自覚している。
物心着く前から実家が弓道家という家柄のおかげで、毎日弓を握って成長して来た。腕前はそこそこ。
見た目は……決して悪い方ではないし、それなりに女性に告白なぞされた事もある。現在恋人という存在はいないが、特に必要だと思っていないし、上には兄が(一人は数に入れなくても問題ないが)二人もいるし、跡継ぎ云々には関係無いので、気楽なものだ。
だが、二週間程前にやって来た少女、那須ともえのおかげで、道真の生活は乱されつつあった。
日輪道場と笠原道場の確執は今に始まった事ではない。確かにまだ道真が幼い頃は交流もあり、互いに切磋琢磨し弓道界を牽引して行こうと華のある話しをしていた。だが、明治に入り世相も変わり、昔気質の笠原のやり方では門下生共々路頭に迷わせてしまう事になりかねないと、新たな道を進む事にした。
ともえがやって来るまでは父親の昔の修行仲間の娘と聞いて、花嫁修業程度のお気楽な女だと思っていたが、実際にともえが矢を射つ姿はしっかりとしていたし、何より弓道が好きだという気持ちが伝わって来た。
笠原道場で浴びせられた言葉の暴力には、自分の事よりも他人である日輪道場の事で悔しがり、そして翌日の早朝から一人黙々と鍛錬に励むその姿は、いくら他人に興味を持たない道真でも気を引かれるというものだ。
極めつけは昨日の出来事だ。
幸之助に頼まれて弓具店へ出かけようとするともえに声を掛け、自分も一緒に行こうと言いかけたのだ。しかし上手く伝わらずに結局一人で出かけたともえが気になり、後で追って家を出たのだが、なんと、道真の目の前でともえが叫び声をあげて倒れた。
それを見た瞬間、道真の中で何かが弾けるような音がし、気がつけば駆け寄っていた。
まさか……
そう自分で思わずにはいられない。まだ出会って日の浅いともえに、特別な感情を抱き始めているとでも言うのだろうか。
そこで道真は歩く廊下の先、弓道場から聞こえて来る音に我に返った。急いで道場へと向かう。
戸を開けた先にいたのは、やはりともえだった。
足が痛いのだろう、構える姿からは力強さは感じられず、放った矢も的に当たらない。
「おい!」
怒りを通り越して呆れたように声を掛けると、ともえは間の抜けた顔でこちらを振り向いた。
「道真くん。おはよう」
「お前は何やってんだ?」
「何って、練習だけど」
「昨日の俺の話し、聞いてなかったのか?」
強引にともえの手から弓を引き抜くと、睨むようにともえを見下ろす。それに負けじとともえは顔をぐいと上向け、
「覚えてるわよ、笠原道場にぐうの音も出ないくらいの大差を着けて勝つ! でしょ?」
「その後俺はその足を早く治せ。と言わなかったか?」
「……あ。いや、でも今日は添え木して殴っても分からないくらい包帯巻き付けてるから大丈夫だよ?」
どうやら忘れていたらしいともえの表情に、道真は大きくため息を吐き出した。
「そう言う問題じゃない。本当にお前は単細胞だな……いいか、今日は道場に立つな。絶対だ。代わりにこれやってろ」
そう言って道真が差し出したのはゴムが結びつけてある棒だった。最初はぶすくれていたともえだったが、そのゴムを目にしてすぐに顔を元に戻す。
「これは?」
「腕の筋肉を鍛える道具だ。足の治療をする間、これを本当の弓だと思って頭の中で一連の動きを思い描きながら引くんだ」
「へえ。こんなのがあるんだ」
感心したようにゴムを引くともえに、道真はほんの少し胸が揺らめく。
「いいからお前は邪魔をするな。大人しく隅っこに座ってろ」
そっぽを向いてともえを追いやると、道真は一人弓を引き始めた。
が、横から激しい視線を感じて手を止める。
「ーーー何だ?」
苛立ち半分ともえに視線を寄越すと、今までにないくらいに嬉しそうに微笑んでいた。
「良かった。道場から出て行けって言われるんじゃないかと思ったけど、ここで練習しててもいいんだよね?」
「あ? ああ……」
「私、道真くんの所作が好きなんだ。だから見てるだけでも勉強になるし、しっかり盗ませてもらうからね」
道真の心臓はその一言で確信を得た。
どうやら本当にこの那須ともえという少女の事を好きになってしまったらしい。
出来る事なら共に試合に出て勝ちたい。いや、勝たせてやりたいと、心から思った。
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