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心の奥(真弓)No.2

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 医者からの帰り道、ともえは嬉しい反面、まだ思い切り足を動かせない事への不満で複雑な顔をしていた。


「ともえちゃん、さっきから難しい顔をして……すれ違う人たちが皆驚いてるわよ?」

「だって、もうほとんど痛くないのに、試合まで四日しかないのに、包帯取れないから焦るんだもん」

「無理しなければ練習も普通にしていいって先生おっしゃってたじゃない。気持ちは分かるけど、真弓さんもともえちゃんの足を治す事が先決だって言ってらしたんだし、焦っちゃ駄目よ」


 ふとともえは真弓の顔を思い浮かべる。

 優しい真弓。


「ーーうん、そうだね……」


 歯切れの悪いともえの言葉に、美琴は一瞬悲しそうな表情を作った。


「ともちゃんも、真弓さんの事好きなのね」

「えっ!?」


 完全に言葉に詰まる。

 ともえも美琴も互いに足を止め、往来の真ん中で立ちすくんでいた。

 ともえの頭は混乱していて、何か言わなければと焦れば焦るほど何も良い言葉は思い浮かばず、落ち着き無く視線をあちらこちらへ動かすばかりだった。 

 しばらくして、美琴が自嘲気味に笑いながら歩き出した。

 ゆっくり、ゆっくりとーー

 それに付いて、ともえもゆっくり歩き出す。


「私ね、もう随分幼い頃から真弓さんの事が好きなの……」


 好きという言葉に、ともえは全身が痺れるような感触がした。美琴は続ける。


「でもね、日輪家は従兄弟同士の結婚は認めていないの」

「どうして?」


 それだけ聞くのがやっとだった。振り絞ったともえの声は情けない程弱々しい。

 美琴はこちらへ顔を上げ、その可愛らしい瞳に薄らと浮かべる涙にともえは再び胸が痛む。


「武芸の道は師匠から弟子へと受け継がれて行くものでしょう? 才能のある幼い子どもを引き取って、自分の跡取りにする事だってあるわ。血ではなく、実力が一番の世界なの……ともえちゃんなら分かるでしょう?」


 静かに頷いた。

 そう、剣術にしろ弓術にしろ、こと武芸に関しては血族の繋がりよりもその流派をいかにしてさらに高みへあげるかが一門の課題である。我が子に才能がなければ、免許皆伝は血筋に関係無く渡される。

 ともえの父にしろ、幸之助や笠原限流にしろ、元々の流派は違っても、一時期同じ師範に師事したのだ。そこでさらに己の技術を磨くため、散り散りになってもただただ強くなるために鍛錬を積み重ねてきた。


「真弓さんは、私にとっても美弦にとっても憧れの人。だけど、憧れで終わらせなきゃいけない人なの」

「美琴ちゃん、私……」


 美琴が真弓に好意を寄せている事は知っていたし、応援したいと思っていた。

 しかし、ともえは自分の気持ちが真弓に向かっている事にも気付いてしまったのだ。


「いいの、ともえちゃん。私はどんなに想っても真弓さんと結ばれる事はないけれど、ともえちゃんはチャンスがあるんですもの! それにね、あの日偶然見かけたような見知らぬ女の人に真弓さんがとられるのは嫌だけど、ともえちゃんなら私嬉しいの。だって、私ともえちゃんの事、真弓さんと同じくらい大好きだから!」

「美琴ちゃん……ありがとうーーーー」

「あら、やっぱり真弓さんの事を好きだと認めるのね?」

「ええっ!?」


 急にしたり顔になると、美琴は肩をすくめて可愛らしく笑うと、くるりと一回転してともえの目の前に立った。


「ふふふ。ともえちゃんの事を、真弓さんが好きになるように頑張らなくちゃ。でないと私、許さないんだから」


 ああ、本当に美琴は真弓を好いているんだーーー

 改めてともえは笑う美琴の姿に真弓の顔を重ねた。

 はっきりと言われた事で確信した自分の真弓に対する気持ちに、ともえは痛みの消えた足をチラリと見下ろして小さく一つ頷く。


「確約は出来ないけど、頑張る。私も、真弓さんと同じくらい美琴ちゃんの事好きだから」





 それからともえと美琴は手を繋いで道場へと歩いて帰った。

 美琴は一体どんな想いで真弓の事を好きで居続けたのだろう。決して結ばれる事の無い相手を思い続けるなど、ともえには恐ろしくて出来ない。美琴は本当に強い女性なのだと思った。

 そして自分も、心を強くしなければと。






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