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心の奥(美弦)No.2

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streetpoint

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 医者からの帰り道、ともえは嬉しい反面、まだ思い切り足を動かせない事への不満で複雑な顔をしていた。


「ともえちゃん、さっきから難しい顔をして……すれ違う人たちが皆驚いてるわよ?」

「だって、もうほとんど痛くないのに、試合まで四日しかないのに、包帯取れないから焦るんだもん」

「無理しなければ練習も普通にしていいって先生おっしゃってたじゃない。気持ちは分かるけど、美弦もともえちゃんの足が治る事が一番だって言ってたし、焦っちゃ駄目よ」


 美琴にそう言われ、ともえはふと美弦の顔を思い浮かべた。

 少しばかり素直じゃないけど、いつもともえをちゃんと見てくれている美弦。


「そう……だよね」

「そうよ」


 美琴はそう言うと、ふいにふふっと小さく笑った。


「どうしたの? 美琴ちゃん」

「私ね、ともえちゃんと美弦が一緒になってくれたらなぁって思ってる」

「えぇっ!?」


 急にそんな事を言われたものだから、ともえは思わず立ち止まってしまった。

 そんなともえを優しげに見つめて、美琴もその場で歩みを止める。

 往来の喧騒が嘘のように耳に入ってこない。何か言わなくちゃ―――そう思うともえはだが、歩きだすことすら出来なかった。完全に動揺してしまったのだ。


「ともえちゃん」


 美琴は澄んだ声で名前を呼ぶと、ともえの手を取り歩きだした。つられるような形でともえの足も動き出す。


「私ね、ともえちゃんの事が好きなの。だから、ともえちゃんには幸せになってほしい」

「私……には……?」

「うん。私は……無理だから」

「無理?」


 ともえがそう尋ねると、美琴はにっこりと微笑んでともえの顔を覗き込んだ。


「私ね、真弓さんが好きなの――ってともえちゃんはもう気付いてた……よね?」

「う、うん」


 ともえはぎこちなく頷いた。なんと答えていいものか分からなかったのだ。


「ふふっ。私ね、真弓さんの事がもうずぅっと前から好きなの。でも」

「でも?」

「でもね、日輪家は従兄弟同士の結婚は認めていないの」

「どうして?」


 美琴は瞳に寂しげな色をたたえて、遠く彼方へと視線を馳せた。小さくふぅっと息を吐くと、愛らしい唇を開く。


「武芸の道は師匠から弟子へと受け継がれて行くものでしょう? 才能のある幼い子どもを引き取って、自分の跡取りにする事だってあるわ。血ではなく、実力が一番の世界なの……ともえちゃんなら分かるでしょう?」


 静かに頷いた。

 そう、剣術にしろ弓術にしろ、こと武芸に関しては血族の繋がりよりもその流派をいかにしてさらに高みへあげるかが一門の課題である。我が子に才能がなければ、免許皆伝は血筋に関係無く渡される。

 ともえの父にしろ、幸之助や笠原限流にしろ、元々の流派は違っても、一時期同じ師範に師事したのだ。そこでさらに己の技術を磨くため、散り散りになってもただただ強くなるために鍛錬を積み重ねてきたのだ。


「真弓さんは、私にとっても美弦にとっても憧れの人。だけど、憧れで終わらせなきゃいけない人なの」

「美琴ちゃん……」


 美琴が真弓に好意を寄せている事は知っていたし、応援したいと思っていた。

 なのに、それは叶わないという。


「だからね、私……ともえちゃんには好きな人と一緒になって幸せになって欲しいの」


 好きな人――その言葉にともえの胸がドクンと音を立てる。


「って、美弦じゃ一緒になっても幸せとは言い難いかなぁ……」

「そんな事ない!」


 美琴の言葉を反射的に否定してしまい、ともえは顔を赤らめた。


「ともえちゃんのそういう素直な所に、私も美弦も惹かれるんだと思う」

「美琴ちゃん……ありがとう――――」


 ともえがそう礼を言うと、美琴はまた小さく笑った。

 美琴は優しくて芯の強い女性なんだと、改めてともえは感じた。本当は美琴だって大好きな真弓と一緒になりたいに違いないのだ。それでもともえを応援してくれる美琴を、ともえは友人としてより一層大切にしたいと思った。


「さ、帰りましょう」


 ともえと美琴は手を繋いだまま、再び道場への道を歩み始める。

 美琴のように強い心を、自分も手にしなければと――ともえはそう思った。









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