The Game Must Go on(4)





―――リュウセイ。

「…え?」
ジョシュアとの邂逅の後、休息をはさんでイングラムの捜索を再開していたリュウセイは、
不意に誰かに呼び止められた気がして、機体を操作する手を止めた。
思わず辺りを見回してみるが、視界には誰の姿も映らない。レーダーも沈黙を守ったままだ。
「…空耳、か?」
そんなことを呟きながらリュウセイはフェアリオンを振り返らせ、そして見た。
彼方の空を、一条の光が貫いていくのを。
猛る光は雲を切り裂き、このゲームの主催者―――ユーゼスの乗るヘルモーズへ向かい突き進み、
機体に触れる直前で、突如として空に浮かんだ波紋の中へ消えていった。
そして、遥か上空で展開された光景を見つめながら、彼は聞いた。
今、ここにいるはずの無い、捜し求める人物の声を。

―――後を、頼む。

そして―――。

―――すまなかった。

「…教、官?」
それは彼の念動力がなせる業か。それとも、彼に全てを託したイングラムの想いによるものか。
今の光の、その向こう側。彼は確かに、その言葉を耳にしたのだ。
「………教官ッ!」
そして彼は駆け出した。
あの光の下に、イングラムがいる。何故だか、彼はそれを確信した。
バーニアを限界までふかし、傷ついた機体に負荷をかけるとわかりながら、その速度をどんどんつり上げていく。
妖精の背から噴出す炎がまるで羽根のように広がり、舞い散る火の粉が煌く光となってその軌跡を描く。
そして妖精は、大空へと飛び立っていった。



同時刻。
イキマとの合流を果たし廃墟の小島から離脱しようと移動していた、
ジョシュア・ラドクリフもまた、その光景を目にしていた。
廃墟の中から、不意に放たれた一筋の光。
それが、あの主催者の乗る戦艦へ向かい、その直前で、歪む壁のような物に吸い込まれ消えていったのを。
あの光の下で何が起こったのか。それを知る術は彼には無い。だが、一つだけわかっていることがある。
誰かが、あの仮面の主催者へ反旗を翻したのだ。
だが、その一撃はあの仮面の男の乗る戦艦に届くことなく、虚しく消えていった。
―――続く砲撃は無い。
それはつまり、自らと同じ目的を掲げる誰かが、その命を散らした事の証明。
そして同時に、切り札と信じていたものが切り札足りえない事の証明だった。
無力感にかみ締めた唇から、血が滲む。
考えてみれば、当然だ。この機体は、あの主催者から支給されたもの。
奴は、その対抗策を持っていて然るべきだったのだ。その答えが、今の光を無効化したあのバリア。
モニターの中、あれほどの攻撃を受けてなお傷一つ受けることの無かったヘルモーズを睨み付ける。
あのバリアがある限り、この背に掲げる核もそこらの石ころと同じだ。
たとえ威力がどうであれ、当たらないという残酷な事実に変わりは無い。
その事実を、名も知らぬ誰かが命を賭して教えてくれたのだ。
しばしの時間、ジョシュアは目を閉じ祈りを捧げた。
後に続く者のため、道を照らす光となって散った、顔も名も知らぬ勇敢な一人の人間のために。
そして僅かな―――本当に僅かな時間だけの祈りを終え、ジョシュアは目を開く。
―――貴方の想いは、俺が継ぐ。せめて、安らかに眠ってください。
「…ジョシュア」
「あぁ…解ってる」
傍らのイキマの声に、ジョシュアは虚空を見詰めたまま言葉を返す。
悲しい事だけど、今は死を悼む時間すら惜しい。
たった今散った、尊い犠牲を無駄にしないためにも。
そしてこれ以上、このような悲しい犠牲者を増やさないためにも。
今はただ、前に進むしか道は無いのだ。



湖を越え、プレシアとチーフに再び合流するため地上を疾走するエステバリスの中で、
ガルドはその異変に気付き機体を反転させた。
そして彼もまた、ヘルモーズへと襲い掛かり、そして虚しく消えた一条の光を目撃する。
足を止めることなく移動を続けたまま、睨み付ける様に目を細めて、悠然と宙に聳える戦艦へと視線を注ぐ。
やがて無言のまま、彼は再び機体を反転させた。
目指すA-1の市街へ向けてエステバリスを加速させながら、ガルドはたった今目撃した光景を胸の内で反芻する。
―――あんたなのか、イングラム・プリスケン。
近隣にいた残る参加者達に、あの戦艦のバリアの存在を知らしめた一筋の光。
それが放たれたのは、紛れも無く自分が先程、イングラムと約束を交わしたあの廃墟だった。
自分が離れてから、果たして、あの場所で何があったのか。
僅かな時間ではあったが、言葉と―――そして、確かに互いの背負うものの重さを交わした、あの男は無事なのか。
瞳を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
―――よそう。
彼の安否は気がかりだが、だからといって、俺に出来ることなど何もない。
考えたとてどうにもならぬ思考を打ち消し、彼は新たに突きつけられた問題へと思考を切り替える。
手の込んだことだ。その思いを口には出さず、心の中でガルドは吐き捨てた。
この首輪だけに飽き足らず、あのようなバリアまで用意しているとは。
おそらく、昨日イサムを探している時に遭遇したあの光の壁と同じような原理なのだろう。
この機体に装備された、重力を操ることで空間を歪めるバリアとは、似て非なる原理だ。
空間操作。
信じ難いことではあるが、あの主催者はその術を持ち、自在に使うことが出来る。
奴にその力がある限り、このゲームから脱出することは困難だろう。
だが、それさえどうにかできれば。
あのバリアを、そしてあの光の壁を無効化させることが出来れば。
そうすれば、このゲームを脱出することも―――引いては、イサムをミュンの元へ生還させることも、出来るはずだ。
(恐らく、何処かに制御装置があるはずだ。それを見つけ出すしかないか)
ゲームが始まってからも、あの戦艦は移動を続けている。
それも、プレシアと出会うまでに一度目撃したときの位置関係からして、あの光の壁を使用していると考えていい。
このような出鱈目な事を仕出かす為の装置だ、余程精密な扱いが必要となるはず。
ならば、その装置自体が歪んだ空間に飛び込んで行くなどという不安定なことはすまい。
そして、あの抜け目の無い主催者のことだ。そんな重要な物を参加者達の手の届く場所に置くような事もしないだろう。
恐らくは、禁止エリア。
既にいくつか設定された禁止エリアのどこかに、それは存在しているはず。
とすれば―――。
(…首輪を、どうにかする必要があるな)
前を見据えたまま、ガルドは首元に手をやって首輪の感触を確認する。
それは、図らずも彼が先程遭遇したイングラムの推測と、寸分違わぬ物だった。
新たに加わった目的を成す為にすべき事を確認し、ガルドは意識をモニターへ向けた。
彼方に揺れる地平線の、その更に先。
プレシア達がいるはずの市街地を見据えて、彼は機体を走らせる。
行こう。
俺には、やらねばならない事がある。
他の事に構っている時間は、どこにもない。



「セレーナさん…あれは…」
傍らに浮かぶエルマが、モニターを見詰めて呆然と呟いた。
モニターには、先程の翼持つ機体が消えていった廃墟から突如として主催者の乗る巨大な戦艦へ向かって光の柱が迸り、
そして、ヘルモーズを貫くことなく、その直前で見えない何かに阻まれて朽ちていく映像が映されている。
セレーナ・レシタール。
彼女もまた、その光景を目撃した一人だった。
「アル。あれが何か、わかる?」
光が消え、未だ辺りに波紋の残滓が残るヘルモーズを注視しながら、アルへと尋ねる。
<空間の歪みを検知しました。恐らくは、空間自体を歪めて、別次元へと攻撃を受け流すバリアと思われます>
「そう。…突破する方法は、わからない?」
<現時点では情報が不足しています。効果的な方法は不明>
「…わかったわ。ありがと」
その会話の間に、波紋の残滓も消えていた。
まるで何事も無かったかのように大空に存在するヘルモーズの様子に、セレーナは歯噛みする。
全く、厄介な事だ。首輪の解析に加え、もう一つどうにかしなければならない問題が出来てしまった。
あのバリアを打ち破らない限り、奴を追い詰める事は出来ないだろう。
つまり、あのバリアをどうにかしない限り、奴から仇の情報を聞きだすことは出来ないということ。
あの戦艦の中で、恐らく奴は今、無駄な反抗に及んだ、あの光を放った参加者を嘲笑っているのだろう。
容易く浮かぶその情景に嫌悪を催し、セレーナはヘルモーズから視線を外す。
ともかく、まずは自分達が降下したあの廃墟へ向かおう。
あのバリアが示すように、相手の力は強大と言わざるを得ない。自分達だけで出来る事は限られている。
このゲームをぶち壊すには、他の参加者の力が必要だ。
まずはあの小島で、ゲームに乗っていない参加者を探す。今の光を見て、状況を確認しに来る者もいるかもしれない。
そうしてセレーナは湖の向こうに霞む廃墟に視線を向け、
次いで、今の彼女が知る数少ない信頼できる二人の人物を想い、瞳を閉じた。
リュウセイとイングラム。
彼らは、まだ無事でいるのだろうか。
その想いに、答えるものはいない。
そうして瞳を閉じたまま、セレーナは深く息を吐き、その思考を切り離した。
ここで彼らの安否を心配しても、どうなるというわけでもない。
そんな想いに駆られる暇があったら、一歩でも前に進むべきだろう。
まずは遠くに見える廃墟の小島へ向かい、信頼できる仲間を探す。
その後、G-6の基地へ向かったあの二人組と接触し、首輪の解析を手伝おう。エルマなら、きっと何かの役に立てるはずだ。
―――だけど、それはあの機体と接触してからでも遅くはない。
瞳を開いたセレーナの視界の中に、脇目も振らずに大地を疾走する赤い機体が映る。
先程、エルマ達が新たに捕捉した機体だ。
ECSを発動させているこちらに気がついている様子はない。砂埃を巻き上げて、こちらへと接近してくる。
疾走する機体―――エステバリスの主がゲームに乗った殺戮者でない事を祈りながら、セレーナはアーバレストを発進させた。



「ユーゼス様、お怪我は?」
「心配はいらん。バリアのお陰で私はおろか、ヘルモーズも無傷だ」
メガデウスの放った光が収まってすぐ、ラミアは自らの主の安否を確かめるべく、
ヘルモーズへ向けての通信を開いた。
答えはすぐに返ってきた。通信にノイズもみられない。
ユーゼスの言うように、バリアの働きでヘルモーズの損傷は皆無のようだ。
「…しかし、奴ももう少し賢い男だと思っていたのだがね」
通信機から溜息交じりに漏れた言葉に、ラミアはメガデウスへと視線を向けた。
地面にアンカーを打ち込んだにも関わらず、足元の地面を抉って後ずさったその姿のまま、巨人は制止している。
やがて光を放った巨大な砲身がぐらりと揺れ、音を立てて地面へと落下した。
―――鉄の巨人は、もう動かない。
「反抗にはペナルティが必要とはいえ、私の手で参加者を殺す事はあまりしたくなかったのだが…仕方あるまい」
落胆した様子で、ユーゼスは言葉を続けた。
このような形でイングラムとの因縁に決着をつけるのは、彼も望んではいなかったのだろう。
「…申し訳ございません、参加者達に、バリアの存在を知られてしまいました」
静止したメガデウスから視線を外し、ラミアはそう言って頭を垂れた。
「構わん。存在が露見したとて、バリア自体がなくなった訳でもない」
通信機からは、ぞんざいな答えが返ってきた。僅かながら、怒りを孕んだような声色に聞こえる。
「それよりもW17、何故イングラムと戦った」
「…は」
次いで発せられた言葉に、ラミアはそれを確信する。
紛う事なき怒気と共に叩きつけられた言葉に、ラミアは思わず口ごもった。
「何故イングラムと戦ったか、と聞いている。答えたまえ」
そんなラミアの様子に、ユーゼスはもう一度詰め寄った。最早、怒気を隠そうともしていない。
軽く息を吸って気を落ち着かせ、ラミアは最初にイングラムを標的にした理由を語る。
「あの男はユーゼス様を基に作られたコピー。
 ユーゼス様の空間操作がどのように行われているか気付く者が居たとしたら、それは彼のはずです。
 もしも彼がそれに気付けば、隠してある制御装置を破壊される可能性があります。
 ゲームを円滑に進行させる上で、彼の存在は邪魔になると判断しました」
すらすらと淀むことなく理由を告げ、ラミアは自らの主の言葉を待つ。
「…お前のその忠誠は嬉しく思う。だが、これ以上の勝手な真似は許さん。忘れるな、お前の首にも爆弾はついているのだ。
 あまり独断が過ぎるようだと、次はお前の首輪を爆発させるぞ」
「…了解いたしました」
やがて通信機から流れ出た主の言葉を、ラミアは神妙な面持ちで肯定した。
「お前は、私の言う事を聞いていればよいのだ。
 余計な事に気を回さず、ゲームを盛り上げ、進行させる事に従事しろ。いいな?」
「…仰せのままに。ユーゼス様」
そうしてラミアは、もう一度恭しく頭を垂れた。





メガデウスがその最後の舞台を演じ上げてから、約一時間。
クォウレー・ゴードンとトウマ・カノウは、再びあの光の壁を抜け、D-8の市街地へと戻ってきていた。
そして現在は、トウマの希望で道中の商店から持ち出したスコップを使い、
市街地のはずれにある、補給ポイント近くの地面にアルマナを埋葬している。
人一人がゆうに収まる穴を掘り終えて、トウマがゆっくりとその中にアルマナを横たえた。
最期の別れのつもりだろう。
既に冷たくなっているアルマナの手を握り締めて、トウマは青白いその顔をじっと見詰めていた。
同じように、クォヴレーもまたアルマナの顔へと視線を注いでいる。
だが、その瞳の捕らえているものはトウマと違っていた。
アルマナの唇に引かれた、薄い紅のような物。
乱雑に塗られたそれは、所々ではみ出し、あるいは足らずに、彼女の死に顔に咲いていた。
あれは、一体なんなのか。
死に化粧。そんな単語が、クォヴレーの中に浮かぶ。
だが、誰が?なんのために?
クォヴレーがそうやって思考に沈む中、穴から出たトウマがスコップを手に取り、アルマナに土をかけ始める。
段々と埋まっていくアルマナを見詰めながら、クォヴレーはただずっと深い思考の海を漂っていた。
「…どうした、クォヴレー?」
アルマナの遺体へ土をかける手を止め、トウマがスコップを地面に突き立てて思考に耽るクォヴレーに問いかける。
「…いや。いくつか、気になる事があってな」
「気になること?」
同じようにスコップを地面に突き立てて体を起こしたトウマに向き直り、
クォヴレーはずっと引っかかっていた疑問を告げる。
「何故彼らは、この娘の死体を持ち歩いていたんだ?」
「それは…首輪をはずして、調べるため…とかじゃないのか?」
少し考え、トウマはたどり着いた答えを述べた。
「そうだな。正直言って、俺もそれくらいしかわざわざ死体を運ぶ理由が思いつかない。
だが、彼女の名が放送で呼ばれたのは、昨日の夕方のはずだ。実際に死亡したのは、それよりも更に前だろう。
だとしたら、何故まだ彼女の首に首輪が巻かれている?それだけの時間があれば、外す事は出来たはずだ」
その結論は、クォヴレーもたどり着いている。
しかし、その事実が、その答えを否定している。
勿論彼らがそのつもりだった可能性がないわけではない。
だが、彼女が死んでから長時間に渡り横たわる時間の流れが、その結論に一つの大きな波紋を投げかけているのだ。
「それに、あの場にいたもう一人の参加者。俺達への攻撃を躊躇っているようだった」
次いで、クォヴレーはもう一つの疑問をトウマに告げた。
彼らがゲームに乗った参加者なら、あの時俺たちを撃つことに躊躇いなど覚えるはずがない。
なにせ、こちらは自動車とバイクだ。
飛んで火に入る夏の虫という諺を実践してみせたに等しい。
「けど、あいつの顔はみただろう!?あんな悪人面の…いや、それどころか人間とも思えないような―――」
「確かに、あれは驚いたがな…。だが、人を外見で判断すると痛い目をみる。木原マサキが良い例だ」
激昂したトウマの叫びに、クォヴレーはあくまで冷静に反論する。
昨夜彼らを襲った、あの少年。
気弱そうな外見の下に、鋭く研いだ牙を隠し持っていた。
確かにアルマナの遺体を持っていた男は人間とも思えぬ姿をしていたが、
それは彼の性格を決めるものではないはずだ。
「…ッ!だけど!あいつらはアルマナの死体を持っていたんだぞ!?
 死体を持ち歩こうなんて奴は、外道の類に決まってるだろう!?」
「じゃぁ、今の俺たちは何なんだ?」
「…あ」
なおも収まりつかない激昂のままに口をついたトウマの言葉に、やはりクォヴレーは冷静に言った。
それを受けて、トウマは口をあけたまま言葉を失う。

「彼らがゲームに乗っていないとはっきりしたわけじゃない。
 だが、不自然な点が多いのも確かだ。出来れば、もう一度会って話をしたいところだな」
いつの間にか再び思考に陥り、俯いていたクォヴレーが顔を上げる。
「そう…だな。もし、あいつらがゲームに乗っていなかったら、俺、謝らなきゃならない…」
「…気に病むな。あの状況じゃ、仕方なかったさ」
拳を握り締めてうなだれるトウマを慰めて、アルマナの埋葬を続けるためにクォヴレーはスコップを担ぎなおし―――。
「クォヴレー!伏せろッ!!」
「―――え?」
突如として響いたトウマの叫びに、後ろを振り向いた彼が見たのは、巨大な黄色い何かだった。
自分のすぐ頭上をその黄色い何かが通り過ぎ、ついで襲ってきた突風に我が身を吹き飛ばされそうになるのをどうにか堪える。
「…い、一体、何が―――」
そう呟いて辺りを見回した彼が見たのは、自分達のいる場所からわずか十数メートルの所に突如出現した、巨大な柱。
否、柱ではない。
それは、巨大な像だった。
頭部に鳥のような翼を持ち、何処か神秘的な雰囲気を宿した、まるで天使を思わせる白い機体が、そこに佇んでいた。
彼が見た黄色い何かは、その足の部分だ。
「…あら?」
クォヴレー達が呆気に取られて見上げる機体から、女性の声が発せられる。
「申し訳ございませんですわ。まさか、そのようなところに人がいるとは思っていませんでしたので」
そう言って、白い機体はクォヴレー達に向き直った。
口では謝っているが、悪びれた様子はない。
そんな様子に最初こそ戸惑っていたクォヴレーだったが、目の前の機体の参加者に敵意がない事を知り、声を張り上げる。
「あんた…このゲームに乗っていないようだな。それなら、一つ聞きたい。イングラム・プリスケンという男をしらないか?」
「あ、少々お待ちになってくださいませ」
イングラムの事を尋ねようとしたクォヴレーを機体の手を持ち上げて制し、
白い機体は補給ポイントへと歩み寄り、マイペースに補給を開始する。
「ふぅ。で、なんでございましたか?」
補給を終えて悠々と戻ってきた白い機体に、クォヴレーは溜息をついて、半ば呆れたような口調でもう一度問いかけた。
「…イングラム・プリスケンという男の事だ。人間を模した顔を持ち、非常に大きな腕をした黒い機体に乗っている。
何でも良い。もし彼のことを知っていたら、教えてくれ」
「あぁ、その機体でしたら―――」
大した期待を込めずに問いかけた言葉に、白い機体はぴん、とその指を一つ立て。
「―――あの壁を越えた先にある小島にございますですわ」
その指で、ビルとビルの隙間から見える光の壁を差してそう答えた。
「本当か!?」
「えぇ。先程、お会いになりましたから」
予想だにしなかった答えに、声を荒げて聞き返すクォヴレーに、白い機体の主は事も無げにそう返す。
「…わかった、ありがとう。それで、物は相談だが…俺達は、あの主催者を倒すために仲間を集めてるんだ。
あんたもゲームに乗っていないなら、一緒に行動しないか?」
思いがけずに探していたイングラムの足取りを知り、その情報をもたらしてくれた白い機体の参加者に礼を述べると、
クォヴレーは自分達の目的を明らかにし、仲間に誘おうとする。

「…申し訳ございません。私にはやることがございますので」
「そうか…」
返ってきた断りの言葉に、クォヴレーが肩を落としていると、再び白い機体から声が降り注ぐ。
「代わりと言っては何ですが、一つ良い事を教えて差し上げます」
「…良い事?」
眉を潜めて聞き返すクォヴレーに、白い神像の主ははふふ、と笑って言った。
「ブライシンクロンアルファとブライシンクロンマキシム。もしゲームに乗った参加者に襲われてどうしようもなくなったら、
この言葉を叫んで狼のマークのついたスイッチを押してみるといいでございますですわ」
「…何だ、それは?いや、それよりあんた、なんであのスイッチの事を知っている?」
その自らの機体を知っているかのような口ぶりに、クォヴレーは警戒を強め、聞き返した。
だが、帰ってくるのは先程と同じ、僅かな笑い声だけ。
「それでは、御機嫌よう、クォヴレー・ゴードン。精々頑張って生き延びて下さいませ」
白い機体は答えを残さず、それだけ言って、再び空へと舞い上がっていく。
「…ッ!?待てッ!!」
羽ばたきで巻き起こされた風を腕で遮りながら、名乗ってもいない自分の名を呼んだ見知らぬ参加者へと向かい叫びを上げる。
だが、その頃既に白い天使は遥か彼方の空へと遠ざかっていた。
「あいつ…なんで、お前の名前を…?」
事の推移を見守っていたトウマが、遠ざかっていく白い機体を見詰めながら声をかけた。
「…わからん。イングラムに聞いたのか、記憶を無くす前の知り合いだったのか。それとも…」
「どうする?追いかけるか?」
「いや、あの速度だ。俺たちじゃ逆立ちしても追いつけない。それよりも、イングラムを捜索しよう」
トウマの提案に、クォヴレーはかぶりを振った。
既に豆粒ほどの大きさになっているあの白い機体を今から追っても、追いつく事は出来ないだろう。
ならば、イングラムの捜索を優先するべきだ。
そしてスコップを手に取り、半ば土に埋もれたままのアルマナへと視線を送る。
「…まぁ、その前に、この娘の埋葬だな」
「…あぁ」
そして二人は、中断していたアルマナの埋葬を再開した。


「…クク」
その光景を、ヘルモーズのモニター越しに見ていたユーゼスがうれしそうに喉を鳴らす。
「そうだ、W17。それでいい」
堪えようともしない笑いを響かせながら、自らの部下へと賛辞を送る。
「あの程度の悪戯で脱落されてはつまらないと思っていたところだ…。ふふ、これでこのゲームも更に盛り上がることだろう」
ユーゼスは両の手を広げ、歌うようにして高らかに言い放った。
「さぁ、続けよう。絶望に彩られた、この最高のゲームを」



【ジョシュア・ラドクリフ 支給機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
 機体状況:良好
 パイロット状態:良好
 現在位置:F-1の小島より離脱中
 第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
 最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】

【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
 パイロット状況:腹部にダメージあり(無理をすれば歩ける程度)
 機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし。応急処置程度に自己修復している)
 現在位置:F-1の小島より離脱中
 第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
 最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】

【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:D-2
 第一行動方針:プレシア、チーフとの合流
 第二行動方針:イサムとの合流、および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる)
 第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
 最終行動方針:イサムの生還】

【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状況:健康
 機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
 現在位置:D-2
 第一行動方針:目の前の機体との接触
 第二行動方針:E-1の小島で、他の参加者を探し接触する
 第三行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
 第四行動方針:イングラム、並びにリュウセイを捜索する
 第呉行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
 最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
 備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2

【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:フェアリオン・S(バンプレオリジナル)
 パイロット状態:健康
 機体状態:装甲を大幅に破損。動く分には問題ないが、戦闘は厳しい
 現在位置:F-2
 第一行動方針:E-1に向かい、イングラムを探す
 第二行動方針:戦闘している人間を探し、止める
 第三行動方針:仲間を探す
 最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)】

【イングラム・プリスケン 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
 パイロット状態:死亡 
 機体状態:装甲に無数の傷。左腕装甲を損傷、反応がやや鈍っている。
      額から頬にかけて右目を横断する傷。右目からのアーク・ライン発射不可。
      頭頂部クリスタル破損。クロム・バスター使用不可。
      砲身欠損。ファイナルステージ使用不可。
      コクピット部装甲破損。ミサイル残弾僅か。
 現在位置:E-1】

【二日目 14:10】



【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好
 機体状態:サイドミラー欠損、車体左右に傷、装甲に弾痕(貫通はしていない)
 現在位置:D-8南部
 第一行動方針:アルマナを埋葬した後、E-1へ向かいイングラムを捜索する
 第二行動方針:トウマと共に仲間を探す
 第三行動方針:ラミアともう一度接触する
 第四行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
 最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
 備考1:左後部座席にトウマが乗っています
 備考2:水上・水中走行が可能と気が付いた。一部空中走行もしているが気が付いていない
 備考3:変形のキーワード、並びに方法を知る。しかし、その意味までは知らない】

【トウマ・カノウ 搭乗機体:なし(ブライサンダーの左後部座席に乗っています)
 パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
 機体状況:良好
 現在位置:D-8南部
 第一行動方針:アルマナを埋葬した後、E-1へ向かいイングラムを捜索する
 第二行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
 第三行動方針:もう一度イキマに会い、真相を尋ねる
 最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
 備考:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】

【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:D-8
 第一行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる
 最終行動方針:ゲームを進行させる】

【二日目 15:00】





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第173話「Last Boss 投下順 第175話「されど戦いは続く
第173話「Last Boss 時系列順 第168話「再開

前回 登場人物追跡 次回
第164話「人間式の弔い方 ジョシュア・ラドクリフ 第176話「反逆の牙
第164話「人間式の弔い方 イキマ 第176話「反逆の牙
第147話「内と外の悪鬼 ガルド・ゴア・ボーマン 第181話「友への決意
第150話「フェイク&フェイク セレーナ・レシタール 第181話「友への決意
第124話「すーぱーふぁんたじー大戦 リュウセイ・ダテ 第176話「反逆の牙
第164話「人間式の弔い方 クォヴレー・ゴードン 第176話「反逆の牙
第164話「人間式の弔い方 トウマ・カノウ 第176話「反逆の牙
第163話「水面下の情景Ⅲ ラミア・ラヴレス 第185話「巨人は朽ちず
第172話「蠢-ugomeki- ユーゼス・ゴッツォ 第192話「放送(第三回)
第157話「銃の系譜 イングラム・プリスケン

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最終更新:2008年05月31日 18:49