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Sweet & Small Secret

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Sweet & Small Secret



 きっかけは、取るに足らない思いつき。ほんのちょっとした悪戯心。
 それが彼女に“あんな行動”を取らせてしまっただけ―――というのは、いまとなってはただの言い訳に過ぎないのだろう。
 結果として、彼女が、とても人には言えない小さな小さな秘密を作る羽目になってしまったということ。「もうどうしてどうしてわたくしったら」と、いまでも思い返すだけで赤面してしまう。


 わたくしはなんてことをしてしまったのでしょう。


 軽挙であり愚行。世界のウィザードたちの規範であり象徴たるべくして存在するはずの自分が、どうしてあのようなことをしてしまったのだろうか。
 それは言うなれば、魔が差したとしか言いようのない行為のもたらした事故。
 悠久を生きる彼女の犯した過ちのひとつ。
 他人から見ればつまらない過失と言われるかもしれない。大した事じゃないだろうと笑われるかもしれない。

 だけど。

 そのことを思い出すだけで、自らの軽挙に叫びだしたい気持ちで一杯になるのは、しばらく続くかもしれませんわね。

 ほんのわずかの間かもしれないが―――
 そのことが彼女を一時悩ませ続けたことは、確かな事実なのであった―――






「い――――かげんにしやがれアァァァァァンゼロットォォォォォォッ――――――!」

 聞きなれた心地良い楽の音に耳を傾けるように、青年の叫び声を澄ました顔で聴いている。
 それは明らかに罵声であり、怒声なのだが、それを浴びせかけられた当人はどこ吹く風。
 むしろどこか楽しげに、嬉しげに、割鐘のような野太い声に聞き惚れているような風情があった。

 これこれ。柊さんのあの顔と声。

 内心でくすくすと笑いながら、だけど表面上は平静な表情を装ったまま。彼女はお気に入りのティーカップを手に取った。
 一部の側近だけが知る事実であるのだが、叫び声の主―――柊蓮司という名の一流のウィザードであり魔剣使い―――をおちょくるとき。

 ―――訂正。

 侵魔がらみの事件を解決してほしいと“依頼”をするとき。
 そういうときは、大抵彼女自身が「お気に入りのティーカップで、好みの銘柄の紅茶を嗜みながらでないといけませんわ」―――というルールがあるらしい。

「せっかくの観劇ですもの。わたくしの好きなお茶を、手触りの良いカップで楽しみながらでなくては」

 冗談か本心か判断がつきかねました―――とは、彼女にもっとも近しい側近のひとり、ロンギヌス・コイズミがなにがしかの折に語った言葉である。
 柊蓮司の、赤くなったり青くなったりする表情を、舞台上の役者の演技のように眺め。
 彼の発する怒声をオペラ歌手のバリトンのように聴き。
 世界中のウィザードたちの実質的・精神的指導者であり、“真昼の月”という麗々しい二つ名と、“世界の守護者”という荘厳たる呼び名を持つ彼女―――

 ―――アンゼロットは、今日も絶品の「歌劇」を楽しむのであった。






「これからする私のお願いに―――あら有難うございます柊さん」
「てめえアンゼロット! めんどくさくなってはしょりやがったな!?」

 時空の狭間に浮かぶ城。異界の虚空を漂う不可侵の地。
 通称アンゼロット宮殿と呼ばれる巨大な浮遊城の一室。
 謁見の間と呼ばれる長大な広間で、城主と、哀れなる捕らわれ人が最初に交わした挨拶がこれであった。
「んもう、柊さんったら。いつもはわたくしのお願いに『はい』と言って下さるじゃありませんか」
「俺がいつ『はい』なんて言った!?」
「………いつもわたくしのお願いには『イエス』と言って下さるじゃありませんか」
「同じだコノヤロウ!? お前、いつも俺の返事は無視するじゃねえか!?」

 大理石の床をダンダンと踏みつけながら、柊蓮司が叫んだ。わかりやすく言うと、これが「地団駄を踏む」という見本の姿である。

「それはまあいいんですが」「よくねえよっ!?」

 コンマ二秒で入るツッコミ。世界の守護者たるアンゼロットに、ここまで容赦のない台詞をぽんぽんと吐けるウィザードも、おそらくこの世に五人といまい。ましてや―――

 アンゼロットの姿に直面して、ここまで臆面もせず接することが出来る男というのは、なお稀であろう。

 名工の手がけた銀細工を、さらに微細に仕上げたような。
 さらには、星の瞬きをそこに織り交ぜて編んだような―――そんな髪。
 瞳に湛えられた青はどこまでも深い。海か、さもなければ空の青。宝石にたとえるものも、おそらくはいるであろう。
 細面の顔、整った鼻梁。どこか嬉しげにほころんだ、小さな唇はほのかな桜色。
 その美しい唇から発せられる言葉たちは、どれもが詩であり歌である。
 柳枝の如くに華奢で、均整の取れた小さな身体は黒いロングドレスに包まれていた。
 いや、ただの黒、ではない。
 彼女が身につけるならばその色は、「黒檀の深みを持つ夜」であり、「天鷲絨の滑らかさにも似た闇」とでも呼ぶべきだ。
 髪の毛一筋から爪先にいたるまでが可憐さに満ち満ちている。
 可憐でいて、ときに艶やか。艶やかでいて、ときには慈母のごとき深い抱擁を見せ。
 そうかと思えば、その姿はやはり見目麗しき少女のそれであり、また侵すべからざる高貴な輝きを放つのだ。
 年の頃は、十三、四歳の、この上もなく美しい少女。
 多くのウィザードに慕われ、またロンギヌスと呼ばれる彼女直轄の部隊に、絶大なカリスマを誇る美少女。視線を向けられれば心奪われ、微笑みかけられれば魂ごと蕩けさせられてしまう。
 それほどの美貌を誇る彼女に対しても―――

「今度はなんだってんだ、こらっ!?」

 このように無骨な叫びで返す数少ない男―――それが柊蓮司なのである。
 対象の愛らしさや美しさなど歯牙にもかけない。というよりも、美的感覚が備わっていないとしか思えないその素振り。
 それを無欲と呼ぶかどうかは議論が分かれるところであろうが、その無欲さゆえか不思議と柊の周囲には美少女の取り巻きが絶えることはない。
 もはや腐れ縁と呼ぶしかなくなってしまったアンゼロット。どういうわけか彼のことをお気に入りのようでもある“蠅の女王”ベール=ゼファー。
 この二人だけでも両手に花―――いや、片方は理不尽に任務を強要する疫病神で、残る一方は裏界の大魔王だから除外するとしても。
 幼馴染みである赤羽くれは。一個下の後輩である志宝エリス。
 どちらも目を見張るほどの美少女であり、また柊のことを強く想う仲間である。
 そして、どういうわけか。柊の周りにはなぜか美少女がたかるのだ。
 任務の度に。出歩く度に。はたまた異世界へと飛ばされる度に。
 柊が接してきた美少女たちの数は、(それこそ仲間のひとりである緋室灯も勘定に入れれば)両手両足の指を使っても数え切れないのではないだろうか。
 数多くの女性陣の中には、彼に対して“特別な”感情を抱いた娘も、実はいたりして。
 それでも柊蓮司という男は、そんなものを振り切っていく。いや、振り切るのではなく、始めから気づかないし気にしないし気にも留めないのである。
 柊蓮司の女性観というものは、ひょっとするとひどく単純なのかもしれない。
『疫病神』、『仲間』、『護る相手』。
 柊蓮司フォルダの中にはこの三つのファイルしかない。四つ目の、『恋人』あるいは『恋愛相手』というファイルは未作成のままなのだ。だからこそ―――

「まあ、そんなに大きな声を出さなくても。まずは落ち着いてお茶でもいかがですか?」

 花が咲くようなアンゼロットの微笑みですら、薬にもしたくない。
「いらねえよっ! 帰せ! 戻せ――――っ!」
 と、万事がこんな調子なのであった。

 アンゼロットが柊蓮司を頻繁に酷使する理由というのも、実はここに原因のひとつがあったりもする。
 世界の守護者と呼ばれ、絶大な力を秘めた彼女には、ロンギヌスを始めとしてそれこそ数多くの信奉者がいる。
 組織に属するものであろうが、フリーランスのウィザードであろうが、それは同様だ。

 それなのに彼は。
 柊蓮司は。
 アンゼロットのことを「お前」呼ばわりする。
 ひどいときには「てめえ」と罵ることもある。
 はたまた「おB(自主規制)」と信じ難い台詞を吐くこともしばしばである。
 それだけでも希少なのだ。それだけでも稀有なのだ。
 加えて、彼は有能なウィザードでもある。有能なだけのウィザードならば吐いて捨てるほどもいるのだが、柊蓮司はおそらく現存するウィザードたちの中でも最高クラスの魔剣使い。
 世界の危機を幾度となく救い、それはこの世界のみならず異世界すらも例外ではない。
 だが、それだけではない。
 そんなウィザードだって、彼のほかにまったくいないわけではないのだから。
 柊蓮司は、それだけではないのである。
 世界を救ったとか、最強の魔剣使いだとか。その手合いのウィザードなら、アンゼロットも十や二十、すぐさま諳んじることができるのだ。柊と彼らの違いは、そんなものではないのである。

 諦めない。へこたれない。真っ直ぐで。不器用で。鈍感で。口が悪くて。デリカシーがない。
 それなのに。大きくて。それなのに。温かくて。
 甘っちょろいし。子供みたいで。大らかで。明るくて。
 他人の心に疎いように見えるくせに。誰かの傷ついた気持ちなんかには時々すごく敏感で。
 だけどやっぱり。女心だけは理解しない。
 おまけに無礼だ。礼儀を知らない。世界の守護者にも食って掛かるし。
 それなのに憎めない。世界の危機が迫ると、最近ではなにかと彼の顔を思い浮かべてしまう。

 柊蓮司。
 柊―――さん。

 この若者の不思議な魅力は、アンゼロットの叡智を以ってしても、十分には図りかねる。
 だから、近頃の彼女はそのことを気にしないようにしていた。つまり―――

「問題ありません。さあ、貴方の任務は―――」

 アンゼロットは、それを気にしない代わりに徹底的に楽しむことにしたのである。
「待てっ! 俺はまだ受けるとは言ってねえぞっ!? こら、その天井からぶら下がった飾り紐はなんだっ!?」
「情景の事細かな解説、有難うございます。柊さんにわたくしの依頼を聞いていただく心の準備と余裕がないようなので―――」
 柊の言うとおり、天井から垂れた紐をグイッと握り締めるアンゼロット。

「とりあえず現地で事情を確認してくださぁ――――い」

 ぐいっ。ぱかっ。がくんっ。
 ひゅるるるるるうううううううううううっ~~~………。

 これがなんの音であるかは、いちいち説明を要しない。ただ、
「うおおいっ!? アァァンゼロットオォォォォォッ!? おぼえてやがれェェェェッ!?」
 といういつもの絶叫が次第に小さくなり、漆黒の宇宙空間を真っ逆さまに落ちていく柊が、成層圏へと消えていく姿に、
「ごきげんよう~~~」
 アンゼロットがハンカチをひらひらと振って別れを告げるという、いつもの光景が展開されただけである。
 キラン、と柊の姿が星になった。
 なにごともなかったかのように再びティーカップに口をつけるアンゼロットの背後に、
「お茶のおかわりなど―――?」
 絶妙のタイミングでロンギヌス・コイズミが立ち、ティーポットを掲げてみせた。






 それからわずか五日後。
 アンゼロット宮殿の一室で、再び柊蓮司の姿を見ることができた。
 大理石の床に座り込み、魔剣を杖代わりに身体を支え。疲労困憊の様子でいまにも崩れ落ちそうな姿は、痛々しいというよりどこかコミカルである。
 荒い呼吸をつく様は、まるでたったいまフルマラソンを完走したランナーのよう。ところどころ服が破れ、かすり傷やら青あざやらを作った姿を無惨にさらけ出していた。
 理不尽な任務を無事に終えた柊は、それと察したアンゼロットの手によって(例のごとくに)空からの捕獲という憂き目に遭い。
 任地で出合った仲間や助け出した少女(これも例のごとくである)との別れを惜しむ暇もなく、ここアンゼロット宮殿へと連れてこられたのである。

「ぜはー、ま、まさか、この足で、ぜはー、次の、任務だ、とか、言わない、だろうなー………」
 すっかり疑心暗鬼に陥ったどんよりした目で、眼前に立つ疫病神を睨みつける。
 へたり込んだ柊からわずか三歩の距離。
 この宮殿の主がにこやかに笑いながら立っていた。
「まさか。わたくしもそこまではいたしません。第一、いまの柊さんを放り出したところで、任務を無事に果たせるとは思えませんもの」
「そうかよ………そりゃ、ありがたい………話だ、な………」
 皮肉を言ったつもりだが、当のアンゼロットの面の皮には通じないであろう。確かにいまの柊ではものの役には立つまい。その言葉には反論の余地がなかった。
「柊さん―――?」
 これもいつもの彼らしからぬことだが、どうにもツッコミにキレがなかった。
 一歩、アンゼロットが柊に近づいた。もっと激しい怒声を浴びせられるかと思っていたのに。
 そうしたら、どうやって切り返してやろうかしら、とワクワクしていたのに。

「………すうぅーっ………すうぅーっ………」

 柊蓮司は―――極度の疲労のためであろうか、途端に眠りに落ちていた。
 頼みの魔剣に寄りかかり、器用にもその姿勢のままで。
 そんな柊の姿を、呆れたようにアンゼロットが見下ろした。
「柊さんったら。よりにもよってこのわたくしの前で寝こけるだなんて―――」
 もう一歩。アンゼロットが柊へと距離を詰める。
 しゃがみこまなければ顔の高さを合わせることも出来ない。だからそこが床であるにもかかわらず、アンゼロットはその場に膝をついた。
 正座をして、膝の上に軽く握った両の拳を置く。近づいてよく見れば、柊の目の下や、頬についた傷やあざはやはり傷ましかった。
 目を閉じて寝息を立てる姿は、しかし、遊び疲れた小さな子供が眠りを貪るようであり。
 なんとなく、アンゼロットは微笑んでしまう。
 五分。十分。飽くことなく、柊の寝顔を見つめる。不意に、

「任務、ご苦労様でした。わたくしの期待通りのお働きでしたよ、柊さん」

 掛け値なし、裏もなし。心の底からの賞賛とねぎらいの言葉が、アンゼロットの唇から紡ぎ出された。周囲に側近のひとりもいない。語りかける柊すらも、眠りの淵に落ちている。
 そんなときだからこそ言える。そんなときでなければ言えない。
 そんな言葉を、彼女は呟いた。

「ご褒美―――差し上げなければなりませんよ、ね」

 どことなく躊躇いがちなアンゼロットの呟き。
 言ってしまってから、ハッと気づく。
 どうしてこんなことを言ってしまったのかはわからない。だけど、言ってしまったのだからしかたがない。
 かつて、一度だけ同じ“ご褒美”を柊に与えたことを思い出す。アンゼロットが無意識に呟いてしまったのは、そのせいであろうか。
 それは、『あの事件』が解決された直後のこと。
 “金色の魔王”ルー=サイファーによる、蒼紅二人の巫女と神子を利用した世界掌握計画を、柊を始めとするウィザードたちが叩き潰した後。
 自らの居城に柊を招いたアンゼロットは、いまと同様に疲れた身体の柊に、普段の彼女らしからぬ“ご褒美”をあげたのだ。

 柊の戸惑った顔。なぜだか自然と、手が彼の服の裾を掴む。
 彼の頬を両手で掴み、視線が合わないように無理矢理横を向かせ。
「なんだよっ!?」
 警戒して叫び声を上げる柊の頬に、自らの唇を押し当てた―――

『傷も癒えたところで次の任務です』

 それは、一瞬だけ夢幻の世界に陥ってしまった二人を、もとのあるべき姿に戻すための無粋な呪文であった。子供のような、かすかに触れ合うだけの頬への優しい接吻。
 それが、アンゼロットのご褒美であった。
 いま、あの時と同じように、彼にご褒美をあげたい、と思っている自分がいる。
 戸惑いと、躊躇いと、ほんの少しの羞恥心。
 だけど、思ってしまったのだから。
 ご褒美を上げたいと思ってしまったのだからしかたがないじゃありませんか。
 自分自身を誤魔化すような、駄々っ子の理屈で自らをかばうアンゼロット。

 ひざまずいた形で、眠る柊に近づく。自分の呼吸が柊の頬にかかる距離。彼の寝息が耳に激しく届く距離。瞳を薄く閉じ、かすかに開いた唇を寄せる。
 傷だらけの頬。あざだらけの頬へ、小さな唇が次第に近づいて。
 そのとき、事件は起きた。

 このことについては柊を責められまい。深い眠りに落ちて意識はなく、ゆえに一切彼の意思とは無関係のところで起きた事件なのだから。

「んが」
 寝惚けて、ただ寝返りを打った。ただそれだけ。本当にただそれだけのことである。
 しかし、寝返りを打ったということは。
 柊が、期せずして「真横」を向いてしまったということであった。
 真横―――それはつまり、よりにもよって、迫るアンゼロットの真正面に顔を向けてしまったということであり―――。

「~~~~~~っ!?」

 柊の頬に触れるはずのアンゼロットの唇が。

 ―――頬ではない、別の場所と触れ合った。

 ばっ、と立ち上がり、自らの唇に手を当てるアンゼロット。その白皙の美貌が、瞬く間に朱に染め上げられていく。

「………ガッデム………なんということでしょう………」
 呆然と、力なく呟いたアンゼロットの声がかすかに震えていた。
 きっかけは、取るに足らない思いつき。ほんのちょっとした悪戯心。
 こんな行動を取ってしまったがゆえの、小さな事故。
 アンゼロットの軽挙が招いた小さな小さな秘密。

 わたくしはなんてことをしてしまったのでしょう。

 軽挙であり愚行。それは言うなれば、魔が差したとしか言いようのない行為のもたらした事故。
 悠久を生きる彼女の犯した過ちのひとつ。
 他人から見ればつまらない過失と言われるかもしれない。大した事じゃないだろうと笑われるかもしれない。

 だけど。

 恥ずかしさはあったけれども。
 不思議とこのことに、後悔の気持ちだけは沸き起こらなかった。
 眼前で寝息を立てる柊蓮司は―――この数瞬の事件にまったく気がつくこともなく、太平楽に眠り続けている。
 それがなぜだか腹立たしくて、アンゼロットは。

「柊さん。次の任務です」

 いつもの台詞を呟いてみる。

「ん、んが………むにゃ………」

 柊の寝顔が苦しげに歪む。
 鈴の音を転がすような声で少しだけ笑い、アンゼロットはようやく溜飲を下げ―――

「いまは、ただその身体を癒してくださいね」

 心の底からの労わりの言葉を囁くと、きびすを返して姿を消したのであった―――





(了)

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