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重なる手のひら

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takugess

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重なる手のひら



1.


 ライン、と呼ばれる街がある。

 エリンディルと呼ばれるこの大陸の中原に存在する都市国家の一つであり、『遺跡の街』とも呼ばれる。
 近隣7つの都市国家間で締結されたパリス同盟、その指導都市とされる一大勢力の盟主国である。
 また、国王エレウォンドが元冒険者であったこともあってか、近隣の遺跡の発掘に力を入れており、街には多くの冒険者が滞在する。
 踊る小鹿亭など、街に数ある酒場から彼らのにぎやかな声が絶える日はない。

 そのラインの街は、今三日間に渡る大きな祭りの真っ最中。
 街は人であふれかえり、そこら中に吟遊詩人や踊り子、曲芸師が闊歩し、人種も性別も国籍も関係なく、熱気と常ならぬ雰囲気が街全体を覆う。
 そんな中で一人、町角に設置されている小さな円柱型のオブジェに腰掛けて、中央通りの人の波を見てため息をついている少年がいた。
 赤毛のくせっ毛、まだあどけない少年ではあるものの、その腰には剣帯ときもち反りの入った細身の黒鞘―――東方の武器、カタナ―――がある。
 いかにも旅暮らし、という彼のいでたちを見て、冒険者だとわからない人間は相当の節穴だろう。

 ともあれ、祭りの見物客というにはやけにアンニュイなため息をついている少年。そんな彼に、声をかけるものがあった。

「……エイジ」
「あれ、フェルシアさん」

 長く伸びた銀糸の髪を、ゆらゆらと柳の枝のように揺らしながら現れたのは、透き通るような白い肌を夜闇のローブから覗かせる、少女と言っても通りそうな年頃の娘。
 しかし彼女―――フェルシアは、けして見た目どおりの年齢ではない。悠久の長きを生きる『銀の髪の』監視者、それが彼女の実の姿である。
 そんな彼女に気安く笑いながら、少年―――エイジは話しかける。

「どうしたんです? 僕らにシグさんに言伝するように頼んだから、別の用事に行ったと思ったんですけど」
「……計算外の事態が起きた。
 けど。結局今私は神殿に入れないから、あなたとアムに頼んで正解だった」

 一介の少年にしか見えないエイジと、人類の監視者であるフェルシアがこうも気安く話すのは、彼らがほんの少し前までギルドを組んでいたことが要因である。
 彼らの他にも、今名前の出たシグとアム、そしてもう一匹がそのギルドの人間であり―――とある事情により、そのギルドは事実上解散してしまっていた。

 別れた彼らは別々の道を歩むことになったのだが、ちょっとした偶然で再会し、ちょっとしたお使いを頼まれたのである。
 そのお使い―――かつてのギルドメンバーであるシグへの伝言―――に今のエイジの同行者であるアムが動くことはできても、彼はある事情により同行できない。
 だからこそ、今お使い中のアムを待って、エイジはまちぼうけを食らっていたのだった。
 エイジは苦笑しながら言う。

「今度はどんな悪いことしてるんです。わざわざアムを通さないと言えないことなんですか?」
「……悪いことをしているとは思っていないけれど。アムから、聞いていない?」
「『フェルシアからシグに伝言頼まれたからラインまで行くわよ』の一言だけですよ。あとはなにを聞いても答えてくれなくて」

 そうノロケ混じりの返事を聞いて、フェルシアは無言のままふるふると首を振った。

「……アムが話さないのなら、わたしが話す必要はない。そもそも、あまり人にもらしていいことでもないから」
「僕だけ、仲間はずれですか」

 少しだけ唇を尖らせて言ったエイジに、フェルシアは優しげな微笑を浮かべて答える。

「……アムがなぜ話さないのか、わたしはわかるから言うけれど。
 それはきっと、アムの優しさ。あなたに直接関わることではないけれど、あまり気分をよくするものでもないから」
「優しさ、ねぇ……」

 なにやら複雑そうな表情で考え込むエイジ。
 わかってはいる。アムの挙動は女の子としてはかなり乱暴で、さらに強気である。が、彼女が気弱なところもある女の子であるとエイジにはわかってはいるのだが―――
 生来の朴念仁気質もあいまってか、どこまでが本気でどこまでが照れ隠しなのか、長く付き合っている今でもいまいち判別がつきづらいのである。
 そんな悩める少年にくすり、とほんの少しだけ笑って、フェルシアはさらに告げる。

「……最初は、アムもこの仕事を渋ってた。けど、一ついいことを教えてあげたら、行くって言いだした」
「いいことって、なんですか?」
「シグがこの日来るはずのラインでは……お祭りをやってるって」

 悪戯っぽく笑うフェルシアに、頭に疑問符を大量に浮かべるエイジ。
 その鈍感っぷりに内心呆れながら、彼女は続ける。

「エイジ。あなたは、クラン=ベルでも祭になんて参加したことはないでしょう?」

 あ、と。エイジが間の抜けた声をあげた。

 クラン=ベル。パリス同盟加盟都市のひとつであり、またの名を『水の街』という。エイジと旅の仲間アムの生まれ故郷である。
 今現在、クラン=ベルは大きな川二つの合流する場所にある運河と水路の街となっているが、ほんの少し前までは砂漠の中の街であった。
 十数年間魔族の陰謀により水が枯れ果てさせられていたのがその理由であるが、その陰謀に巻き込まれたエイジの父ガイアは水の街から水を奪ったといわれなき罪を受け、
その子であるエイジにも辛い生活が強いられた。
 水により繁栄を迎えていたクラン=ベルは、その基盤を奪われ大きく衰退する。
 人々の心を一つにするための祭りも、罪人の家族を交えることはなかったのだ。
 そんなクラン=ベルも、エイジの立ち上げたギルド『のっとぎるてぃ』により再び過去の栄華を取り戻し、神官長代理のウェルチという少女の元復興の道をたどっている。

 ともあれ。エイジはそんなわけでこれまで祭に参加したことはない。
 それを知っていたアムは、エイジに祭を体験させてやるためにフェルシアの仕事を受けたのではないか、と彼女は言ったのだ。


 エイジの表情の変化を柔らかな表情で見つめていたフェルシアは、中央通りにひときわ背の高い赤いメイジハットを見つけ、無表情に戻る。

「……ごめん。わたし、仕事の時間になったから。これで行く」
「へ? あ、はい」

 反射的に返事をしたエイジに、フェルシアはもう一度だけぽつりとささやく。

「……エイジ。アムにお礼、しないと」

 そう告げて遠ざかっていく魔法使いの背中に、エイジは両手を拡声器のように添えて、叫ぶ。

「フェルシアさんも、お気をつけてっ!」

 声を背に、魔法使いは雑踏の中に入りこんでいく。懐からローブを取り出し、頭からかぶるところまではエイジにも見えたが、その後は人ごみの中に消えた。





2.


「お礼って言ってもなぁ……アムは何を喜ぶんだろ」

 出店の屋台で買ったカバル焼きを一口。
 しっとりとした卵の味のする柔らかな生地に甘酸っぱいベリーの味のする熱々のコンフィチュールが入っており、中々においしい。
 ……なんか変な鳥の形をしているが、そこらへんは気にしない方がいいだろう。たぶん。

 ともあれ。
 これまで彼は祭りなどに参加したことはないわけで、いまいち勝手が掴めない。
 とりあえず人の良さそうな店員の青年の言葉にほだされ、そんなに高くもなかったので一袋買ってしまったカバル焼きがおいしかったのは僥倖だったが、
今の彼の目的はアムへのお礼探しである。
 しかしこれまで贈り物なんて気の利いたことをあまりした経験のない彼にとっては、エルクレストカレッジの入試問題なんかよりもよほど難しい関門として立ちはだかる。
 下手なものを贈ったら軍隊仕込みの今や進化に進化を重ねた銃撃を受ける、なんてことになりはしないかと思っている彼の心中は必死である。

 なにが欲しいかアムにたずねたら迷わず『金!』と答えそうな気がした。それは人間として間違ってる気がするので却下。
 同じ女性として妹であるウェルチにたずねる、というのも考えたが今すぐたずねるのは限りなく無理だ。よって不可能。
 あと彼が知っている女性は、神殿関係者で会うことの不可能なシルヴァ、場所のわからない上参考になる気のしないベネット、そも会えるとも思えない魔族のショコラ。
 みんな今すぐ聞くことが不可能である人物ばかりだったわけで、アムが帰ってきたらすぐありがとうの気持ちを伝えたいエイジとしては参考になりえない。

 ……正直な話。第三者から見ると聞けなくて正解だと思える面子しかいないあたり、エイジの女運の悪さが垣間見える。

 閑話休題。
 そんな悩める少年に、声をかける者があった。

「ちょっとちょっと、そこ行く冒険者さん」

 真剣に悩んでいたエイジはその声で思索の海から現実に引き戻される。
 呼びかけられたのが自分なのかもわからなかったが、声のもとをたどろうと周囲を見渡す。その彼に再び声がかけられる。

「そうそう。今きょろきょろしてる冒険者さん、あなたあなた」

 声の方を振り向けば、そこにいたのはにこやかな笑顔を浮かべる長い金髪の女性の姿。
 深い藍色のメイジハット、それと同色のコートとよく似た色の瞳。おっとりとした雰囲気のあるヒューリン。
 『ブル』と書かれた看板のようなものがはみ出た大きなリュックを背負っているところを見ると行商人のようにも見えるが、
メイジハットや手に持つ杖を見る限り冒険者にも見える。
 不思議そうな表情をしているエイジの顔を特に気にしていない様子で、苦笑しながら女性は言う。

「ちょっと寝坊しちゃって。お店出しにきたんだけど、どこに出店届け出しに行けばいいのか昨日確かめたのに道がこの人ごみでわからなくなっちゃいまして。
 確か神殿に出しにいけばいいのまでは覚えてるんだけど、神殿までの道を教えてはもらえないです?」
「あ、商人さんだったんですか。神殿だったら、ここの中央通り沿いに歩いていくと、ラインでもう一つある大きな通りの神殿通りとぶつかるんで、そこを渡ったとこです」
「うわぁ、ありがとう~。
 もう。せっかく新しい目覚まし時計買ったのに、また焼いちゃって寝坊しちゃったからどうしようかと……」

 ほっとしたように胸を撫で下ろす女性。
 やや不審な言葉があったものの、柔らかい笑顔を見る限りいい人そうである。
 これまでまともな女性の知り合いのいなかったエイジ的にはこんな生き物が本当にいたことに涙があふれそうな気さえしてくる。
 感動にじーん、と打ち震えているエイジを見て女性はその柔らかな笑顔をエイジに向け、言う。

「本当にありがとうございます。お礼、と言ってはなんですが、冒険者さんはなにかご入用なものはありませんか?
 助けてもらったんですし、相互利益は商売の基本。普通のお値段よりも、ちょっと勉強させてもらいますよ?」

 なんでも言ってください、と女性は笑顔でエイジに告げる。

 初対面の人に言うことにためらいがなかったわけではない。
 しかし。
 正直なところ何をあげていいのかも、相談できる相手もいなかったエイジにとっては本当にありがたい申し出だったわけで。

 エイジは、にこやかに笑う女性に、ことのなりゆきを話しだした―――




3.


「―――っていうのが、フェルシアの言ってたことよ」
「ふぅん……そうか。こりゃ大ごとになりそうだな。
 アム、ご苦労さん。茶でも飲んでってくれ」

 ライン神殿にある巡礼神官用寝所の一室で、彼らは話をしていた。

 一人は軽めの装備を身につけた、鳶色の髪のヒューリンの冒険者少女―――アム。
 もう一人は重厚な防具を身に纏う、三つ角ドゥアンの体つきのよい待祭(アコライト)―――シグ。
 ともにギルド『のっとぎるてぃ』に一時身を置き、その功績により『クラン=ベルの四英雄』と呼ばれる内の二人である。
 アムは出てきたログレス産高級発酵茶を口にする。

「んじゃ、遠慮なくいただくわ」
「それにしても。ずいぶんと優しいじゃないか」
「なにがよ」
「エイジの奴が神殿に近寄れないのをわかってて一緒に来たのは、お祭り騒ぎを楽しませてやるためだろう?」

 シグがからかうようにニヤリと太い笑みを浮かべながら腕を組みながら告げる。
 その声を聞いて一瞬で顔をトマト並みに赤くするアム。

「な―――なに言ってんのよっ!?
 あたしはフェルシアにどうしてもお願いしますアム様って言われたから仕方なく来ただけで、別にエイジのためとか、そんなんじゃないんだからねっ!?」
「そうかい。それは悪かった」

 慌てふためくアムを、笑いながら横目で見つつシグも茶の器を傾けて飲む。
 久しぶりに会う年下のギルド仲間は、素直じゃないのも変わっていないようである。
 アムはむぅぅぅぅ、とむくれている。シグとしてもこれ以上アムを怒らせていらぬとばっちりを受けたくはないため、先ほどまでの話を反芻した。

「……しかし、また『粛正』の話とはな。神様はそんなに俺たちがお嫌いなのかね」

 神に仕える者としてはありえてはならない発言。
 それをふと漏らしてしまうほどに、今シグは重い話を聞いていたのだ。

 『粛正』。神々の意思によって作られた『救世装置』。
 世界を救う装置、といえば聞こえはいいが、やることといえば善し悪しを無視して全てを壊してやり直すための 装置(リセットボタン)だ。
 『粛正』とその装置は、アムたちの元ギルド『のっとぎるてぃ』と少しばかり因縁があるのだ。
 フェルシアからの伝言とは、新たな粛正が目覚めかけていることと、その粛正の鍵を握る者の監視を開始したこと。
 そして、シグたちが遭遇した粛正の時とは違い、装置そのものを破壊できる可能性があるが、それをしていいかどうか迷っていること。
 そしてこれが一番大きなことだが、最悪神殿側全てを敵に回す可能性があるため、敵対する覚悟を決めておいてほしいということ。
 今現在カナン神殿神官長補佐の護衛役として冒険者から神殿仕えになっているシグには、先に言っておきたかったのだという。

 そんなシグの重い口調を破砕するように、アムはやれやれ、と肩をすくめた。

「なに言ってんのよ、アンタは。あの日のこともう忘れたの?」

 彼女が思い返すのは、『のっとぎるてぃ』の解散の日。
 あの日彼女は一つの誓いを口にし、そしてそれを胸に彼女たちはそれぞれの道を歩き出した。
 だからこそ胸を張って、彼女は言う。

「『粛正』の起こらない世界を作るために、みんなでがんばる。それがあたしたち『のっとぎるてぃ』の仕事でしょうが。
 神様がどうとかはどうでもいいわ。『粛正』が起きるような状況を潰していくために、あんたも神殿であの女に協力してんでしょうに。
 いまさら神さまがどうのなんて言ってらんないでしょ。あたしたちはその神さまに人間はやれるんだってこと見せつけるためにやってるんだから、ね?」
「……そいつはそうだ。まったく、ガラにもないこと言っちまったな」

 苦笑しながら彼は言う。
 若さというのは時に全てを凌駕するだけの勢いを持つ。
 昔を振り返るだけでは前には進めないんだと、そう告げるように。そして、その考え知らずの無軌道に、シグも同意して彼のギルドに入ったのではなかったか。
 だから。


「フェルシアに会ったら了解したって言っといてくれ。タイミング見計らってウチのボスにも言っとくよ。
 ヴァンスターの方の妨害のことも含めてな」
「わかったわよ。ま、もし会ったらだけど。フェルシアもふらふらしててどこにいるかわかんないとこあるから」

 空になり、机に置いたアムのカップを取って彼は言う。

「悪いが、もうすぐ神殿会議でな。ウチのボスの護衛の仕事が入るんだ。
 人が来てごたごたするし、早いとこエイジんとこ戻ってやれ」
「そ、そうね。あいつこんな人ごみはじめてだろうから、人の波におぼれてないといいけど」
「あぁ。はじめて来る奴は結構人波に流されまくってエラいことになるからな、この町」

 だから早く行ってやれ、と言われ、丸め込まれて釈然としない様子ながらもアムは部屋を出た。
 シグはカップを流しに持っていきつつ、一言。

「若いってのはいいねぇ。
 ……ま。若い奴らに負けてもいらんねぇ、か」

 騒がしい足音が近づいてくるのを聞きながら、彼は上司の到着を待つ。ギルド仲間の忠告をどこまでどう聞かせるか、そんなことを悩みながら。



4.


「どこ行ってたのよ!」

 待っていろ、と言われた場所にエイジが戻ってくると、そこにはすでに戻ってきていてご立腹のアムがいた。
 体に染み付いた習慣により半ば反射的に謝る。

「ごめんアムっ! ちょっと道案内してて、それで……」
「ふん、あんたらしいけど。あたしがここで待ってなかったらどうするわけ?」
「ほんとにごめん、アム。あと……待っててくれてありがとう」
「なっ……ま、まぁいいわ。今日の夕飯代は全部あんた持ちくらいで許してあげる」

 うん。と素直にうなずく機嫌がよさそうなエイジ。
 ふん、と鼻を鳴らしつつアムはたずねた。

「なにかあったの? やけに機嫌よさそうだけど」
「そうかな、まぁそうなんだけど。
 ……うん、あのねアム。これ」

 言いながら、エイジは黒いなめし革に赤い小さな石と片翼の銀製アクセサリトップのついたチョーカーを手渡す。
 虚をつかれたアムはそれに一瞬反応ができない。
 反応がないことに少しびくびくしつつ、エイジは言う。

「これ、道案内した行商人のお姉さんが手ごろな値段で譲ってくれてさ」
「……あたし、に?」
「うん。アムにもらってほしい。その、お姉さんに色々と話は聞いたけど、僕が選んだんだ。
 お祭り見せてくれた、そのお礼」
「あ、あんたに祭り見せるためとかじゃなくてっ! あたしはフェルシアに頼まれて仕方なく……っ!」
「それでも。嬉しかったからさ、受け取ってくれないかな」

 照れたように笑って渡されたチョーカーをまじまじと見るアム。
 白銀の翼は陽の光を鈍くはね返し、ちらちらと燈を灯したように輝く。緋色の石は艶鮮ときらめく。
 動きを完全に止めていた自分を自覚し、顔が赤いのを自覚しながら彼女は言う。

「も、もらっておいて―――う、ううん。


 その……ありがと、エイジ」

「よろこんでもらえたなら、よかった」

 顔が赤くて直視できないのを自覚しながら、彼女はうつむく。
 うつむいてしまい、視線が外れたその一瞬。チョーカーを持たない方のアムの手を取りエイジが歩き出す。

「ちょ、エイジっ!? なに、なんなのっ!?」
「せっかくお祭りに来たんだから、一緒に楽しもう! あっちにね、カバル焼きのおいしいお店が……」
「ま、待ってってばっ! ちょっと引っ張らないで―――」

 そう言ったところで、はじめてのお祭りの告白もどきでテンションのおかしいことになっているエイジをアムは止められなかったわけで。
 二人ともやけに顔が赤いまま、人波の中に消えていく。


 そうして。
 祭りの輪に、片翼に赤い石のチョーカーをつけた女の子と、片翼に青い石の革ブレスレットの男の子が、手をつないで加わった。


fin

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