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最初の、戦友へ

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takugess

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最初の、戦友へ





陽当たりの良いベランダで椅子に座り、心地良くうたた寝を楽しんでいた柊は、突然、膝の上に柔らかく暖かいものを載せられて目を開けた。
「なぁ~ん」
「・・・・・・アゲハか」
 愛らしい、一匹の猫が柊の胸に前脚をかけ、身体を伸ばして顔を舐めてきた。
「よしよし。今、ミルクをやるからな」
 猫を抱き上げて立ち上がり、キッチンに足を運ぶ。冷蔵庫から取り出した牛乳をお椀に注ぎ、自分の指にエンチャント・フレイムをかけて突っ込み、温度を“上げる”。
「・・・・・・俺はもう、下がらない。下がらないんだ」
 ミルクが程よく温まると、柊はお椀を床に置き、猫が美味そうにそれを舐めるのを優しく見つめた。
「やっと、やっと平穏な生活を手に入れたんだ・・・・俺は、もう出席日数を気にしなくていいんだ・・・・」
 感慨に耽りながら、目を閉じた。目尻に、光るものがあった。
 やがて猫がミルクを飲み終わると、柊はお椀を拾い上げ・・・・ふと、カレンダーの日付が目に付いた。
「―――そうか。あれから、もう1年になるんだな・・・・・・」
 “星を継ぐ者”事件。マジカル・ウォーフェアの始まりとも言われる、世界の危機。
 その闘いで柊は、初めて戦友を得て・・・・・・そして、失った。
「高二んときは、ずっと単独任務で・・・・たまに、何人か集まる事があっても、勝手に戦うばかりで、戦友と呼べる奴はいなかったっけ。
俺にとっちゃ、アイツが、最初の仲間だった・・・・」
 それなのに。自分は。彼一人に総てを背負わせて・・・・・殆ど、何の役にも立っていなかった。
「―――何が最強の魔剣使いだ。マジカル・ウォーフェア最大の英雄だ。神殺しだ・・・・・・」
 仲間一人守れない、非力な、紙装甲の、特技:生死判定の足手まといでしかないってのに。
 ギシリと歯を噛み締め、柊は強張った表情のまま、猫に煮干を与えてから自室に向かった。

「確か、このへんに・・・・・・おお、あった、あった」
 あちこちの引き出しを引っ掻き回して便箋を取り出した柊は、暫く使っていない机の上にそれを広げ、
実に2年ぶりに机に向かうと、長い間使っていなかった鉛筆を取り出した。
「・・・・・・夢手紙、だっけか? もう会えない人に宛てて手紙を書いて、枕の下に引いて寝ると、夢の中に相手が出てきて返事をくれるとかいう都市伝説」
 なんとなく、夢に出てくる相手はエミュレイターの化けた偽者のような気もするが、それなら叩っ斬るだけだ。
そう思ってから柊は、こんな事を考えてしまう自分の思考パターンに悲しくなった。
「・・・・・・それより手紙だ、手紙。つっても、俺、手紙なんか書いた事ねーし、何書きゃいーんだ?」
 まあ、いいか。人に見せるもんじゃないし、と気楽に構え、柊は年賀状以外で初めて手紙を書いた。

 マサト。お前の守った世界は、今日も続いてる。くれはも無事だ。色々、やっかいな事もあったけど、全部丸く収まった。
そうだ、俺、卒業したんだぜ! 卒業したんだ! 卒業したんだよ! 
何度も学年下げられて、一度は中学生にまでされて、出席日数もやばかったけど、無事に卒業したんだ!
 お前も、もっと、学校に行きたかっただろうけど、それは俺が代わりにやっておいた。
学校にいる間だけ、お前が傍にいるような気がしたよ。お前、言ったよな。天文部に入って、友達を作ってみないかって。
あの時は腹立ったけど、俺のコトをまっとうに気にかけてくれた男はお前だけだったような気がするよ。
他の奴は弄るか殺そうとするか、なんか知らないけど敵意剥き出しだったりとか、ロクな奴がいねぇ。
ホント、お前は、最高の戦友だった。だった、んだよな。 もう いないんだよな
 おお、そうだ! くれはの奴、また妹分が出来たんだぜ。エリスって言ってな。料理が上手い、優しい、いい奴だ。
くれはンとこに住み込んでて、本当に姉妹みてぇなんだぜ。前に篝、だったっけ? お前の彼女。
くれはの奴、アイツと居た頃と同じようにあったかい笑顔をみせ


    篝



 なんで、なんでアイツは
 くれはは助かったのに、なんで

 すまねぇ、マサト。全部お前に押し付けちまった。どうやったって、俺がくれはのためにお前を犠牲にしたのはとりかえせねぇ。
けどよ。もう、絶対、あんなことはしねぇ。
 世界も、仲間も、全部守る。
 犠牲なんか、払わねぇ。これは俺のわがままだ。お前の供養のためじゃねぇ。
何をしたって、供養になんかなりゃしねぇんだ。それでも、俺はやる。お前から逃げてるだけかもしれねぇけどよ。
 なあ、一遍、顔見せに来てくれよ。罵ってくれてもいい。殴りかかってきてもいい。
 全部、受け止める。言い訳はしねぇ。避けもしねぇ。だから、一度、会いに来てくれないか?

「――こんな、トコかな・・・」
 思いつくままに書き殴った手紙を封筒に入れ、枕の下に置いた。
「・・・・これでマサトが出てきて、『気にするな』とか言い出したら、ぜってぇエミュレイターが化けてんな」
 柊は一人呟いて寝台に横たわり、静かに目を閉じた。

 夢の中のマサトは、篝とイチャついていた。ラブコメしていた。二人の為に世界はあるの状態だった。
 いくら柊が声をかけても、全く聞こえない様子で、篝しか見えていなかった。

「―――まあ、アイツ等が幸せなら、それでいっか・・・・・・」

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