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ある神姫の述懐

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takugess

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ある神姫の述懐



また、私を招聘しにきたのですか、ロンギヌス。
無駄足でしたね。私は、アンゼロット様にお仕えする事は出来ません。
私はエルンシャ様の神姫です。他の誰にも、お仕えする事はありません。

あれは、アルクスタの大森林で木々の嘆きを聞き、己の無力さに泣いていたときでした。
この世界、エル=ネイシアの“世界の守護者”、星王神エルンシャ様にお会いしたのは。

あの方は、お美しい面差しに深い憂いを湛えながら、温もりに満ちた声で告げたのです。
私を、優しいと。その優しさは、神姫となるに相応しいと。
神姫となり、世界を救って欲しい、と。

それは、この上も無く名誉な事でした。

そして、それ以上に、私はあの方の憂いを晴らしたいと、あの方の笑顔を見たいと思った
のです。
天上から世界を見守り、人々の安息を願い、世界を守る為にその身を砕き、世界の行く末
を憂う、あの方を。

私は弓を取り、志を同じくする下僕達とともに冥魔との戦いに身を投じました。
下僕達も皆、いつの日かエルンシャ様の笑顔を見る事を夢見ながら、私のような非力な娘
を支えてくれました。
下僕達の前では、私は神でした。神として、振舞わなければなりませんでした。それが神
姫の役目でした。
私は神として、幾度となく下僕達に死を命じなければなりませんでした。それでも皆、笑
いながら散っていきました。
私は何度も、何度も、死んでいく下僕達に微笑みを見せながら、よくやったと湛えながら、
その死を看取ってきました。
ですが、それもエルンシャ様の苦悩に比べれば、きっと些細な事なのでしょう。
あの方は、もっと多くの死を看取っている筈なのですから。

下僕にとって、主に身を捧げるのは至上の名誉。
この身もまた、我が主たる“世界の守護者”に捧げるものなのです。

下僕達は皆、良くやってくれました。
私と、エルンシャ様の為に、そのお顔の憂いを晴らす為に、どんな死地にも喜んで飛び込
んで逝きました。
中には、エルンシャ様が女神だったら完璧だったのにと、不敬な事を口にする輩も居りま
したが。

あるとき、私はエルンシャ様の御息女、聖木姫様に拝謁を賜る栄誉に恵まれました。
永き闘いの日々を過ごされた後、神の力を天へと返し、今はひっそりと穏やかに暮らす聖
木姫様は、とても気さくに接して下さいました。

そして、私は知ってしまったのです。
かつて、この世界を襲った災厄の元凶が、アンゼロット様であったという事を。

エルンシャ様に想いを寄せられたアンゼロット様が仕事をすっぽかした所為で、古代神の
封印が緩んで世界の危機が起きたのだと。

アンゼロット様はエルンシャ様を、“世界の守護者”を独占しようとしたというのです。
私は、エルンシャ様のお声を聞く事も、ご尊顔を拝する事もままならないというのに。

エルンシャ様は世界を守る為に、その身を引き裂いて聖姫様方を生み出し。
アンゼロット様は、聖姫様方に御自分の力を与えつくして、お命をなくされたそうですね。

この話を聞いて、私は疑念を覚えました。

エルンシャ様の、あの憂いに満ちた表情は、本当に世界の痛みを悲しむものだったのでし
ょうか?

その日から。
私は、自分が物心つく前に亡くなられた月女王陛下への嫉妬に苦しむようになったのです。

しばらくして、第八世界に転生したアンゼロット様がお越しになられて神姫を集め始め、
私のところにも招聘の使者が見えました。
世界を救う為にアンゼロット様に協力して欲しいと訴える使者の言葉に応じ、私はアンゼ
ロット様にお会いする事にしました。

初めて出会った“恋敵”は、思っていたよりも小さな方でした。
いえ、指導者としての器の事ではなく、体格の事ですが。
アンゼロット様は、その幼い容姿に似合わぬ老練さを感じされる威厳に満ちた態度で、私
に告げました。

「よく来てくださいました、神木の姫君。
 わたくしのお願いに“ハイ”か“イエス”でお返事してください。
貴女は聖木姫と懇意であると聞いています。
 行方の知れぬ聖木姫の居場所を、わたくしに教えてくださいませんか?」
「いいえ。お断りします」

私は、反射的に、そう口にしていました。
そして、アンゼロット様が口元を引き攣らせるのを見て、密かに溜飲を下げたのです。
アンゼロット様は私を罵りました。私も建前を押し通して抗弁しました。
永い闘いを終えた聖木姫様を再び戦場に出すなどもっての外であると。
これからは、この世界は、我等、星王神様の神姫が守るのだと。
私は星王神様の神姫であり、他の者には一切従わぬと。

それは建前でした。本当は、アンゼロット様を困らせたかったのです。

アンゼロット様の言う、セフィス女王が冥界の傀儡だと言う話は信じられませんでしたし、
ラース=フェリアはエルンシャ様の差し伸べた手を振り払って冥界に堕ちていったのだか
ら自業自得だという気持ちもありましたが。

私はアンゼロット様の元を去りました。
何故、生きて去らせて貰えたのか、今でもわかりません。
或いは私の後を付け、聖木姫様のところへ案内させようとしたのか、それとも・・・・

私は聖木姫様の元へは戻らず、下僕を率いて大陸各地で冥魔と闘いました。
戦って戦って、戦い続けて、ある日、エルンシャ様から神託を戴きました。
極めて強力な冥魔である、冥妖姫を討ち取れ、と。

私達と下僕達は冥妖姫と戦い、倒しました。

そして、力尽き、今、ここに倒れているのです。

私はアンゼロット様にお仕えする事は出来ません。
私はこれから、エルンシャ様の御許に召されるのです。

下僕達はどこにいったのか、ですか?
私の下僕達は皆、下僕玉にして冥妖姫に打ち込みました。
それで、今、ここにいるのは私だけなんです。
なぜ、そんな顔をするのですか、ロンギヌス?
私は幸せなんですよ。この命の総てを、主に捧げ尽くしたのですから。


エ・ルンシャ・・様・? 迎えに・・来て・下さった・・の・です・・か?
ああ・・・どうぞ、この身を・・御身のお傍へと・お召しに・・なって・くだ・・さい・・・
それこそが、我等、神姫の・・・最大の・喜び・・・・


・・・・・どうして?
どうして、そんなにも・・・憂いに・・満ちた、お顔を・されて・・いる・のですか?
どうして・・・そんなにも・・・悲しい・お顔を・・・される・の・・です・か・・・・
私は、使命を果たしたではありませんか?
褒めて・・・褒めてください・・・
なんで・・・なんで・・・謝る・・の・です・・か・・・・・・・
笑って・・・笑ってください・・・せめて、最期に・・・貴方の・・笑顔を・見せて、くださ・・い・・・・

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