725 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 01:42:57 ID:???
涼士(其の二)
バトルロワイヤル
一階に着くなり、刀夜は鍵の掛かっている部屋のドアを打ち壊し始めた。
「お、おいおい何やってんだよ」
「見れば判るだろう。
それとも先刻の話を聞いていなかったのか?」
相変わらず問答無用だな、とは思ったが、それで済む問題でもない。
何より涼士は警官だった。
「別に壊さんでもいいだろって言ってるんだ。
器物損壊だぞ」
「壊せば通れるのに、わざわざ鍵を外すのは二度手間だと・・・む?」
意味不明な言い訳の途中で何かに気付いたらしい。
そちらを見やると、部屋からメイドが出てきたところだった。
扉を壊す物音を聞きつけて、という訳ではなさそうだったが、こちらに気付くなり近寄ってくる。
「・・・何を、なさっているのです?」
何故か声を掛ける事をためらっていた様だが、その問いかけは至極まっとうなものだ。
「ゲームは開始されているのだろう?
目的の物を探しているのだ」
「出来れば屋敷を壊さないでいただきたいのですが。
後で直すのは私ですので」
俄かに信じられない発言だった。思わず訊き返してしまう。
「え? 修理、出来るんですか?
あなたが?」
「他に誰も居りませんから」
事も無げに言ってのける。
「ともかく、これもゲームの進行上必要な行為なのだ。それを妨げてもらっては困るな。
それとも鍵を渡してくれると言うのかね」
なぜ素直に鍵貸してと言えない?
とは思ったが事態が一刻を争うかもしれないので、ここは黙っておくことにする。
「仕方ありませんね。
これをお貸ししますので、どうぞ存分に続けてください」
726 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 01:47:27 ID:???
鍵束を渡すと、メイドは別の部屋へと去って行った。
本来の用事に戻るらしい。
「何を呆けている。朔夜を探すぞ」
促されて我に返る。
しかし、こんな深夜に彼女がどこに行くのか、なぜか気になるのだった。
「収穫なし、だったな」
朝の食事時間。部屋を出るなり刀夜が呟いた。
そう、昨晩一階を探した限りでは何の手掛かりも得られなかった。
ということは、やはり参加者の誰かが彼女を捕らえているのだろうか?
ふと隣の部屋を見れば、吹き飛んで無くなったドアが完全に元通りになっている。
涼士の部屋に刀夜が来たときは、まだ新しいドアを据え付けている最中だった。
間もなく気配が無くなったので、今夜は応急措置だけかと思い込んでいたのだが・・・。
あのメイドは只者で無いらしい。
それはともかく、やり場の無い苛立ちを拳に込めて、朝日の差し込む窓にぶつけてみる。
結果、全く苛立ちは収まらなかった。
音も立てずに拳はガラスに止められていた。
「屋敷から出られない。
つまり、まだゲームは終わっていない。
すなわち彼女は生きている」
刀夜の言うことは理解できる。
一晩が経っている以上、焦ったところで仕方ないのも分かる。
それでも、苛立たずにはいられない。
朔夜が無事でも、ゲームは続行中なのだ。
昨晩あの女が言っていた勝利条件が、頭の中をこだましていた。
(俺は、どうすればいい?)
朔夜を殺す事など出来る訳が無い。
ならば護り切るしかないが、ゲームを終わらせる為には刀夜か自分が死なねばならない。
間違っても刀夜が自分から死んでくれるとは思えなかった。
確実に戦うことになるだろう。
(まずは、朔夜を助け出してからだ)
727 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 01:49:04 ID:???
とりあえず自分にそう言い聞かせて食堂へと向かう。
「やはり情報を集めなくてはな」
参加者の面々を待ちながら刀夜が呟く。
情報が有ろうが無かろうが、戦いになれば同じ事だろうに。
と内心皮肉を言ってみるが、それは涼士とて同じことであった。
やがて参加者が、二人を除き全員集まった。
「おンやあ?
お姫さンと餓鬼は寝坊かい?
ひょっとして、二人っきりでおマセな遊びでもしてンのかな?」
例の最後に到着した男が朝から下品な冗談を喚いている。
しかし昨晩と同じで、食事には一切手を付けようとしない。
執事だけが食堂に来ており、メイドに何か言って食事をトレイに乗せている。
どうやら部屋に運ばせる気らしい。
「あなたの主人のあの少年には、早くテーブルマナーを教えておくべきですな」
執事が後ろを通る際に、刀夜はわざわざ親切めかして挑発した。
執事は何も応えずに去って行った。
やはり刀夜は昨晩、少年を取り逃がしたのが不服だったのだろうか。
例の軽口男は今度は最後から二番目に来たハーフの男をからかっている。
「何でぇ、青い顔しちまってよ。
下痢気味かい? んン?」
「・・・なるほどな」
刀夜が意味ありげに目配せしてくる。
それ以外の面子は昨日と特に変わった点が無いのを考えると、やはり例の人狼は・・・。
「貴様もテーブルマナーを学んでおくべきだな。
大体、食事をする気が無いなら、部屋に戻って天井の染みにでも好きなだけ話し掛けているが良かろう」
「ケッ、辛気臭い食卓を盛り上げてやってンのによォ!
ま、ここは言われた通りにしておくとすっかな。
あんたらだけで思う存分楽しんどいてくれや」
軽薄な笑いを響かせつつ、軽口男は退場する。
邪魔が無くなったところで、刀夜が例の男に話しかけた。
728 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 01:52:45 ID:???
「昨晩は少々はしゃぎ過ぎだった様ですな。
まあ、我々も似た様なものでしたが」
「・・・何の話ですか?」
その男はあくまで知らぬ振りをするつもりらしい。
「いえ、顔色が悪い様ですので。
こういう旅先の宿ではなかなか寝付けずに、つい夜更かししてしまうものだなあ、という事ですよ」
「失礼、仰るとおり気分が悪いので失礼させてもらいます」
食事もそこそこに彼も退場してしまった。
と、昨晩助言してくれた女が、何か言いたげにこちらを見ている。
なんとなく言いたい事が判ってしまい、涼士はこめかみを押さえた。
案の定、彼女が食事を終えてこちらの後ろを通るときに、
「あんたら露骨すぎ」
と呟かれてしまった。
「問題は猫が誰なのかって事だな」
部屋に戻ってくつろぎながらも、問題点だけは指摘してみる。
ソファに座る刀夜は指折り数えて応じた。
「残った参加者は、フードの男、大男、下品な軽口男、だな」
「執事もいるぜ」ふと思いついて指摘する。
「ふむ、その可能性もあるな。
そして、どれも怪しいといえば怪しい」
フードの男と大男は、今までで一言も発言していない。執事もそうだ。
三人とも、猫というイメージには合致しないが、魔物というのは化けようと思えば大抵の姿にはなれるのだ。
「しかし、連中はまるで情報が足りないからな・・・。
一番それらしいのがあの軽口男だが、もしそうなら他の連中をあそこまで挑発するのは少々矛盾するな。
どちらかというと奴は道化師・・・」
刀夜が考え込む間に時計が八時を告げた。
直後、奥側の部屋から轟音が響き渡った。
「行くぞ、高瀬!」
迷うそぶりすらなく、刀夜が廊下に飛び出る。
奥側の部屋は二階を回廊状に囲んでいる廊下の反対側だ。
729 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 01:57:07 ID:???
駆けつけると、執事と少年がいた筈の部屋から大男がのそりと出てきたところだった。
ドアは跡形も無く、部屋の内部が丸見えだ。
壁には人の形をした血の跡が大小二つ、人間のものとは思えない巨大な拳の跡と共に描き出されている。
「テーブルマナーは覚えずじまい、か」
大男の方はそんな凄惨な背景も気にすることなく、隣の自室に姿を消した。
「この部屋に朔夜は、居なかったらしいな」
いまだ館が開放されていないことから、あの血の跡の片方が朔夜でない事は断言できる。
「普通の猫は、こんな殺し方はしない」
あくまでも仮定だが、これであの大男は猫でない事になる。
「ということは、残る候補は二人だな」
「よし、乗り込もう」
早速、軽口男の部屋の方に向かおうとするが、刀夜はそれを止める。
「待て。まだ奴らがどんな力を隠し持っているかも分からん。
昨晩とて、危うく同士討ちになるところだったのだぞ」
「朔夜が無事かどうかだけでも確認しないと!
戦うかどうかはその時決めればいいだろう」
「勝利条件を考慮すれば、遅かれ早かれ戦うのだ。
こちらが不利な条件で事を起こす義理もあるまい」
果たしてそうだろうか、と涼士は心の隅で思う。
今のうちに、こちらが能動的に動いておく事も必要ではないだろうか。
どこかの誰かが、警察の仕事は基本的に負け戦だと言っていたことを思い出す。
何もかもが明らかになってからでは手遅れになっている、というのは警官をやっていれば必ず遭遇する事例だ。
このゲームでわざわざ警察の役になることはない。
しかし何か有効な策があるわけでもない。
答えが出ないまま、時間だけが過ぎ去ってゆく。
こういう状況で、有効に見えて最もまずいのは、事態が変化するまで様子を見ることだった。
何も起きていない状況ならば、それは確かに有効な手段なのだろうが・・・
その夜の食堂は閑散としていた。
人狼と思われるハーフの男も、例の軽口男も現れなかった。
少年と執事が参加できる筈もなく、涼士と刀夜を含めて五人しか居ないことになる。
730 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:00:41 ID:???
二人も殺した大男は、相変わらず無表情で平然と食卓についている。
恐らく、戦うことになっても今と同じく無表情なままなのだろう。
例の女やフードの怪しげな男も似たようなものだ。
刀夜はしきりに様子を伺っているが、こんな消極的な方法で何が分かると言うのだろうか。
涼士は早くも情報面については諦めていた。
「明日になっても何も動きがなければ、私は自分の目的のために動くぞ」
自室に戻るなり刀夜はそう宣言した。
やはりこの青年も動かない状況に苛立ってきているのだろう。
「皆殺しにするのか?
彼女との約束はどうなる?」
よく憶えていないが、朔夜が兄に逢いたいと言った時にそれを助けてやると刀夜が約束した様な記憶がある。
直後のごたごたでうろ覚えだが。
「私は何も約束などしていない。
敵を屠ってやろうと申し出たのだ。
その答えを聞く前に彼女は攫われてしまったがな。
それに、もう一つ誤解している様だな」
この男の何を誤解できると言うのだろうか。
「私の目的はこのゲームをひっくり返す事だ。
顔も見せん相手の掌で踊ってやるつもりは毛頭無い」
目的こそ立派だが、そこに至る為の手段はあるのだろうか。
心配しても恐らくそんなものは無いだろうから、とりあえず別のことを考える。
やはり無茶でも二人の候補の部屋を探るべきだろう。
しかし単身乗り込むのは、あまりにも無謀すぎる。
ここはどうしても刀夜の助力が必要だった。
だが、肝心の刀夜がこんな調子では・・・
結局、いくら考えても答えが出ないことに変わりは無いのだ。
やがて日付が変わる。
ゲーム開始から丸一日が経過したのだ。
同時に部屋のドアが吹き飛んだ。
731 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:06:01 ID:???
「またかよ!」
入り口に向き直ると、人狼が怒りの気配を撒き散らしてそこに立っていた。
「朔夜を、どこへやった!」
「我々が知るものか。
それが分かれば即刻、取り戻しに向かっている」
あくまで冷徹に刀夜が告げる。
ラピッドクロウは部屋の内部に彼女の気配が無いことを確認すると、舌打ちを残して立ち去ろうとする。
「待て。
人の部屋に押し込みを掛けておいて、挨拶もなしか」
ドアの無くなった戸口から廊下に出るなり、刀夜が呼び止める。
確かにせっかくの情報源が出向いてくれたのだから、逃がすことは無い。
「昨日といい今日といい、ゆっくり話も出来ないじゃないか。
それとも獣の言葉しか話せないか?」
「話すことなど無い」
「では昨日の続きと行くか?」
あからさまな挑発である。
彼がこれに乗るとは思えないのだが・・・
「どうした?
その爪も、牙も作り物のプラスチック製か?」
さすがにここまで言われて引き下がれる訳が無かった。
人狼が唸り声をあげ、低く構えを取る。
「お、おい・・・」
怒らせてどうすると言おうとして、涼士は刀夜の目的が怒らせる事そのものだったと気付いてしまった。
剣士の表情を見れば情報云々よりも、この一日の鬱憤を晴らしたくて堪らないのが一目瞭然だったからだ。
「があああッ!」
二十四時間前と全く同じ光景が展開されていた。
獣人特有の運動能力を活かし、屋内の限られた空間内で目にも留まらぬ高機動の格闘戦を仕掛けるラピッドクロウ。
対する刀夜は二刀を構えたまま、いつでも斬り返せる体勢を整えている。
人狼が仕掛ける。一撃、二撃と。
カウンターで切り返す刀夜だが、確かに捉えた筈のタイミングで、二度とも外してしまう。
人狼の爪が剣士の身体を切り刻んでゆく。
732 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:07:39 ID:???
刀夜の二刀を二発づつ食らっていれば、勝負は決まっていた筈。
だが、ラピッドクロウの一撃は昨日より確実に伸びを見せ、剣士の鉄壁の構えをかいくぐっているのだ。
「こうでなくてはな。
今度はこちらの番だ。ゆくぞ」
刀夜が仕掛ける。二刀が今度こそ人狼の身体を捉えた。
よろめくが、さすがに一撃では倒れない。
しかし、二人とも互いにあと一撃喰らえば倒れてしまうだろう。
それに気付いているからか、両者はしばし動きを止めて力を蓄え、相手の隙を探りあう。
「・・・はははっ。あはははは・・・」
不意に、どこからか聞こえてきた女の笑い声。
「何だ?」
出所を探るまでもなく、笑い声の主は現れた。
廊下の端に立つ、奇妙な光に包まれた魔女。
明らかに尋常な存在ではない。
「く、良いところで・・・」
刀夜の呟きが聞こえたが、あえて聞かなかった事にしておく。
その女は人狼とにらみ合う刀夜の後方の端から近付いて来ている。
ラピッドクロウも気付いてはいるが、剣士と同じく構えを解く気配は無いようだ。
自然、相対するのは涼士の役割になる。
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
扉の陰に一度身を隠して姿を現した涼士は、既に有機的なフォルムを持つ甲冑姿に変身を終えていた。
<もう一つの活動>のおかげで手に入れた力。
それがこの姿だった。
一方の魔女は律儀に待っていた訳ではないだろうが、目の前の事態に対して何の反応も見せずに、ただ気の触れた笑い声を上げているばかり。
「ままよ、シュートヴェント!」
繰り出した衝撃波は、しかし魔女の身に纏う怪しげな光によって逸らされてしまう。
即座に、そして初めて魔女が反応を見せた。
何気ない動作で手を振るう。
かすかに何か細長い糸らしきものが見え、慌てて身を翻した涼士の装甲表面を削っていった。
涼士(其の二) 未完
733 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:33:56 ID:???
アルト(其の三)解説
時間軸は其の二の直後(>705)より継続
・>少年の姿に変化する(>718)
<人間変身>は回数が限られているのだ。
シーン終了時に効果が終わるわけではないので、まだマシだが…。
・>声が出せなくなっていた(>718)
<舌を奪う>の業である。
・まくし立てる(>719)
ここで絆判定を要求してる筈。
・朔夜との会話(>720-721)
実際には、メタ情報として「生き別れの兄」について知っていたので、昨夜に共感させるよう会話をもっていったのだw
絆も芽生えるし、システム上正しい行いであるw
・人狼との会話(>722-723)
相手は<超嗅覚>とかあるし、隠しても無駄なので体を張って交渉。
戦力が欲しいという本音もあるしw
結果、隠された勝利条件を引き出すことが出来た。
・>二階から轟音(>723)
別視点で後述される
・“彼女”の様子(>724)
GMの伏線。
734 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:57:51 ID:???
涼士(其の二)解説
時間軸は刀夜編の直後(>712)より継続
・ドアを壊す(>725)
「破壊したい」のエゴ判定、だろうか?
・調査と情報収集(>726-729)
能力的に不向きなので全く進展しない
・>「あんたら露骨すぎ」(>728)
GMの本音だろうか?w
・大男の行動(>729)
GMはNPC達に設定したエゴで一定時間ごとに判定して、行動を決定していたようだ。
・様子を見る(>729)
文中の有効論は結果論だが、この手のセッションで慎重に行動しすぎて機を失うのはよくある現象である。
待ちに徹して雰囲気がだれてしまうという弊害もある。
・>自分の目的のために動くぞ(>730)
状況が動きそうに無いと悟ったらしい。
・>「朔夜を、どこへやった!」 (>731)
人狼は本文の時系列的には、前日の時点でもう居場所を知ってる筈だが…
編集時にアルト側の描写を一日すっとばしたんだろうか? 可能性はある。
・>確かに捉えた筈のタイミングで、二度とも外してしまう(>731)
愛で支援した記憶がある。つまり時系列はあってるのか…?
つまり、さっきの台詞はブラフか?
・奇妙な光に包まれた魔女
核心に向けて物語が動き出したようだ。
涼士(其の二)
バトルロワイヤル
一階に着くなり、刀夜は鍵の掛かっている部屋のドアを打ち壊し始めた。
「お、おいおい何やってんだよ」
「見れば判るだろう。
それとも先刻の話を聞いていなかったのか?」
相変わらず問答無用だな、とは思ったが、それで済む問題でもない。
何より涼士は警官だった。
「別に壊さんでもいいだろって言ってるんだ。
器物損壊だぞ」
「壊せば通れるのに、わざわざ鍵を外すのは二度手間だと・・・む?」
意味不明な言い訳の途中で何かに気付いたらしい。
そちらを見やると、部屋からメイドが出てきたところだった。
扉を壊す物音を聞きつけて、という訳ではなさそうだったが、こちらに気付くなり近寄ってくる。
「・・・何を、なさっているのです?」
何故か声を掛ける事をためらっていた様だが、その問いかけは至極まっとうなものだ。
「ゲームは開始されているのだろう?
目的の物を探しているのだ」
「出来れば屋敷を壊さないでいただきたいのですが。
後で直すのは私ですので」
俄かに信じられない発言だった。思わず訊き返してしまう。
「え? 修理、出来るんですか?
あなたが?」
「他に誰も居りませんから」
事も無げに言ってのける。
「ともかく、これもゲームの進行上必要な行為なのだ。それを妨げてもらっては困るな。
それとも鍵を渡してくれると言うのかね」
なぜ素直に鍵貸してと言えない?
とは思ったが事態が一刻を争うかもしれないので、ここは黙っておくことにする。
「仕方ありませんね。
これをお貸ししますので、どうぞ存分に続けてください」
726 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 01:47:27 ID:???
鍵束を渡すと、メイドは別の部屋へと去って行った。
本来の用事に戻るらしい。
「何を呆けている。朔夜を探すぞ」
促されて我に返る。
しかし、こんな深夜に彼女がどこに行くのか、なぜか気になるのだった。
「収穫なし、だったな」
朝の食事時間。部屋を出るなり刀夜が呟いた。
そう、昨晩一階を探した限りでは何の手掛かりも得られなかった。
ということは、やはり参加者の誰かが彼女を捕らえているのだろうか?
ふと隣の部屋を見れば、吹き飛んで無くなったドアが完全に元通りになっている。
涼士の部屋に刀夜が来たときは、まだ新しいドアを据え付けている最中だった。
間もなく気配が無くなったので、今夜は応急措置だけかと思い込んでいたのだが・・・。
あのメイドは只者で無いらしい。
それはともかく、やり場の無い苛立ちを拳に込めて、朝日の差し込む窓にぶつけてみる。
結果、全く苛立ちは収まらなかった。
音も立てずに拳はガラスに止められていた。
「屋敷から出られない。
つまり、まだゲームは終わっていない。
すなわち彼女は生きている」
刀夜の言うことは理解できる。
一晩が経っている以上、焦ったところで仕方ないのも分かる。
それでも、苛立たずにはいられない。
朔夜が無事でも、ゲームは続行中なのだ。
昨晩あの女が言っていた勝利条件が、頭の中をこだましていた。
(俺は、どうすればいい?)
朔夜を殺す事など出来る訳が無い。
ならば護り切るしかないが、ゲームを終わらせる為には刀夜か自分が死なねばならない。
間違っても刀夜が自分から死んでくれるとは思えなかった。
確実に戦うことになるだろう。
(まずは、朔夜を助け出してからだ)
727 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 01:49:04 ID:???
とりあえず自分にそう言い聞かせて食堂へと向かう。
「やはり情報を集めなくてはな」
参加者の面々を待ちながら刀夜が呟く。
情報が有ろうが無かろうが、戦いになれば同じ事だろうに。
と内心皮肉を言ってみるが、それは涼士とて同じことであった。
やがて参加者が、二人を除き全員集まった。
「おンやあ?
お姫さンと餓鬼は寝坊かい?
ひょっとして、二人っきりでおマセな遊びでもしてンのかな?」
例の最後に到着した男が朝から下品な冗談を喚いている。
しかし昨晩と同じで、食事には一切手を付けようとしない。
執事だけが食堂に来ており、メイドに何か言って食事をトレイに乗せている。
どうやら部屋に運ばせる気らしい。
「あなたの主人のあの少年には、早くテーブルマナーを教えておくべきですな」
執事が後ろを通る際に、刀夜はわざわざ親切めかして挑発した。
執事は何も応えずに去って行った。
やはり刀夜は昨晩、少年を取り逃がしたのが不服だったのだろうか。
例の軽口男は今度は最後から二番目に来たハーフの男をからかっている。
「何でぇ、青い顔しちまってよ。
下痢気味かい? んン?」
「・・・なるほどな」
刀夜が意味ありげに目配せしてくる。
それ以外の面子は昨日と特に変わった点が無いのを考えると、やはり例の人狼は・・・。
「貴様もテーブルマナーを学んでおくべきだな。
大体、食事をする気が無いなら、部屋に戻って天井の染みにでも好きなだけ話し掛けているが良かろう」
「ケッ、辛気臭い食卓を盛り上げてやってンのによォ!
ま、ここは言われた通りにしておくとすっかな。
あんたらだけで思う存分楽しんどいてくれや」
軽薄な笑いを響かせつつ、軽口男は退場する。
邪魔が無くなったところで、刀夜が例の男に話しかけた。
728 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 01:52:45 ID:???
「昨晩は少々はしゃぎ過ぎだった様ですな。
まあ、我々も似た様なものでしたが」
「・・・何の話ですか?」
その男はあくまで知らぬ振りをするつもりらしい。
「いえ、顔色が悪い様ですので。
こういう旅先の宿ではなかなか寝付けずに、つい夜更かししてしまうものだなあ、という事ですよ」
「失礼、仰るとおり気分が悪いので失礼させてもらいます」
食事もそこそこに彼も退場してしまった。
と、昨晩助言してくれた女が、何か言いたげにこちらを見ている。
なんとなく言いたい事が判ってしまい、涼士はこめかみを押さえた。
案の定、彼女が食事を終えてこちらの後ろを通るときに、
「あんたら露骨すぎ」
と呟かれてしまった。
「問題は猫が誰なのかって事だな」
部屋に戻ってくつろぎながらも、問題点だけは指摘してみる。
ソファに座る刀夜は指折り数えて応じた。
「残った参加者は、フードの男、大男、下品な軽口男、だな」
「執事もいるぜ」ふと思いついて指摘する。
「ふむ、その可能性もあるな。
そして、どれも怪しいといえば怪しい」
フードの男と大男は、今までで一言も発言していない。執事もそうだ。
三人とも、猫というイメージには合致しないが、魔物というのは化けようと思えば大抵の姿にはなれるのだ。
「しかし、連中はまるで情報が足りないからな・・・。
一番それらしいのがあの軽口男だが、もしそうなら他の連中をあそこまで挑発するのは少々矛盾するな。
どちらかというと奴は道化師・・・」
刀夜が考え込む間に時計が八時を告げた。
直後、奥側の部屋から轟音が響き渡った。
「行くぞ、高瀬!」
迷うそぶりすらなく、刀夜が廊下に飛び出る。
奥側の部屋は二階を回廊状に囲んでいる廊下の反対側だ。
729 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 01:57:07 ID:???
駆けつけると、執事と少年がいた筈の部屋から大男がのそりと出てきたところだった。
ドアは跡形も無く、部屋の内部が丸見えだ。
壁には人の形をした血の跡が大小二つ、人間のものとは思えない巨大な拳の跡と共に描き出されている。
「テーブルマナーは覚えずじまい、か」
大男の方はそんな凄惨な背景も気にすることなく、隣の自室に姿を消した。
「この部屋に朔夜は、居なかったらしいな」
いまだ館が開放されていないことから、あの血の跡の片方が朔夜でない事は断言できる。
「普通の猫は、こんな殺し方はしない」
あくまでも仮定だが、これであの大男は猫でない事になる。
「ということは、残る候補は二人だな」
「よし、乗り込もう」
早速、軽口男の部屋の方に向かおうとするが、刀夜はそれを止める。
「待て。まだ奴らがどんな力を隠し持っているかも分からん。
昨晩とて、危うく同士討ちになるところだったのだぞ」
「朔夜が無事かどうかだけでも確認しないと!
戦うかどうかはその時決めればいいだろう」
「勝利条件を考慮すれば、遅かれ早かれ戦うのだ。
こちらが不利な条件で事を起こす義理もあるまい」
果たしてそうだろうか、と涼士は心の隅で思う。
今のうちに、こちらが能動的に動いておく事も必要ではないだろうか。
どこかの誰かが、警察の仕事は基本的に負け戦だと言っていたことを思い出す。
何もかもが明らかになってからでは手遅れになっている、というのは警官をやっていれば必ず遭遇する事例だ。
このゲームでわざわざ警察の役になることはない。
しかし何か有効な策があるわけでもない。
答えが出ないまま、時間だけが過ぎ去ってゆく。
こういう状況で、有効に見えて最もまずいのは、事態が変化するまで様子を見ることだった。
何も起きていない状況ならば、それは確かに有効な手段なのだろうが・・・
その夜の食堂は閑散としていた。
人狼と思われるハーフの男も、例の軽口男も現れなかった。
少年と執事が参加できる筈もなく、涼士と刀夜を含めて五人しか居ないことになる。
730 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:00:41 ID:???
二人も殺した大男は、相変わらず無表情で平然と食卓についている。
恐らく、戦うことになっても今と同じく無表情なままなのだろう。
例の女やフードの怪しげな男も似たようなものだ。
刀夜はしきりに様子を伺っているが、こんな消極的な方法で何が分かると言うのだろうか。
涼士は早くも情報面については諦めていた。
「明日になっても何も動きがなければ、私は自分の目的のために動くぞ」
自室に戻るなり刀夜はそう宣言した。
やはりこの青年も動かない状況に苛立ってきているのだろう。
「皆殺しにするのか?
彼女との約束はどうなる?」
よく憶えていないが、朔夜が兄に逢いたいと言った時にそれを助けてやると刀夜が約束した様な記憶がある。
直後のごたごたでうろ覚えだが。
「私は何も約束などしていない。
敵を屠ってやろうと申し出たのだ。
その答えを聞く前に彼女は攫われてしまったがな。
それに、もう一つ誤解している様だな」
この男の何を誤解できると言うのだろうか。
「私の目的はこのゲームをひっくり返す事だ。
顔も見せん相手の掌で踊ってやるつもりは毛頭無い」
目的こそ立派だが、そこに至る為の手段はあるのだろうか。
心配しても恐らくそんなものは無いだろうから、とりあえず別のことを考える。
やはり無茶でも二人の候補の部屋を探るべきだろう。
しかし単身乗り込むのは、あまりにも無謀すぎる。
ここはどうしても刀夜の助力が必要だった。
だが、肝心の刀夜がこんな調子では・・・
結局、いくら考えても答えが出ないことに変わりは無いのだ。
やがて日付が変わる。
ゲーム開始から丸一日が経過したのだ。
同時に部屋のドアが吹き飛んだ。
731 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:06:01 ID:???
「またかよ!」
入り口に向き直ると、人狼が怒りの気配を撒き散らしてそこに立っていた。
「朔夜を、どこへやった!」
「我々が知るものか。
それが分かれば即刻、取り戻しに向かっている」
あくまで冷徹に刀夜が告げる。
ラピッドクロウは部屋の内部に彼女の気配が無いことを確認すると、舌打ちを残して立ち去ろうとする。
「待て。
人の部屋に押し込みを掛けておいて、挨拶もなしか」
ドアの無くなった戸口から廊下に出るなり、刀夜が呼び止める。
確かにせっかくの情報源が出向いてくれたのだから、逃がすことは無い。
「昨日といい今日といい、ゆっくり話も出来ないじゃないか。
それとも獣の言葉しか話せないか?」
「話すことなど無い」
「では昨日の続きと行くか?」
あからさまな挑発である。
彼がこれに乗るとは思えないのだが・・・
「どうした?
その爪も、牙も作り物のプラスチック製か?」
さすがにここまで言われて引き下がれる訳が無かった。
人狼が唸り声をあげ、低く構えを取る。
「お、おい・・・」
怒らせてどうすると言おうとして、涼士は刀夜の目的が怒らせる事そのものだったと気付いてしまった。
剣士の表情を見れば情報云々よりも、この一日の鬱憤を晴らしたくて堪らないのが一目瞭然だったからだ。
「があああッ!」
二十四時間前と全く同じ光景が展開されていた。
獣人特有の運動能力を活かし、屋内の限られた空間内で目にも留まらぬ高機動の格闘戦を仕掛けるラピッドクロウ。
対する刀夜は二刀を構えたまま、いつでも斬り返せる体勢を整えている。
人狼が仕掛ける。一撃、二撃と。
カウンターで切り返す刀夜だが、確かに捉えた筈のタイミングで、二度とも外してしまう。
人狼の爪が剣士の身体を切り刻んでゆく。
732 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:07:39 ID:???
刀夜の二刀を二発づつ食らっていれば、勝負は決まっていた筈。
だが、ラピッドクロウの一撃は昨日より確実に伸びを見せ、剣士の鉄壁の構えをかいくぐっているのだ。
「こうでなくてはな。
今度はこちらの番だ。ゆくぞ」
刀夜が仕掛ける。二刀が今度こそ人狼の身体を捉えた。
よろめくが、さすがに一撃では倒れない。
しかし、二人とも互いにあと一撃喰らえば倒れてしまうだろう。
それに気付いているからか、両者はしばし動きを止めて力を蓄え、相手の隙を探りあう。
「・・・はははっ。あはははは・・・」
不意に、どこからか聞こえてきた女の笑い声。
「何だ?」
出所を探るまでもなく、笑い声の主は現れた。
廊下の端に立つ、奇妙な光に包まれた魔女。
明らかに尋常な存在ではない。
「く、良いところで・・・」
刀夜の呟きが聞こえたが、あえて聞かなかった事にしておく。
その女は人狼とにらみ合う刀夜の後方の端から近付いて来ている。
ラピッドクロウも気付いてはいるが、剣士と同じく構えを解く気配は無いようだ。
自然、相対するのは涼士の役割になる。
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
扉の陰に一度身を隠して姿を現した涼士は、既に有機的なフォルムを持つ甲冑姿に変身を終えていた。
<もう一つの活動>のおかげで手に入れた力。
それがこの姿だった。
一方の魔女は律儀に待っていた訳ではないだろうが、目の前の事態に対して何の反応も見せずに、ただ気の触れた笑い声を上げているばかり。
「ままよ、シュートヴェント!」
繰り出した衝撃波は、しかし魔女の身に纏う怪しげな光によって逸らされてしまう。
即座に、そして初めて魔女が反応を見せた。
何気ない動作で手を振るう。
かすかに何か細長い糸らしきものが見え、慌てて身を翻した涼士の装甲表面を削っていった。
涼士(其の二) 未完
733 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:33:56 ID:???
アルト(其の三)解説
時間軸は其の二の直後(>705)より継続
・>少年の姿に変化する(>718)
<人間変身>は回数が限られているのだ。
シーン終了時に効果が終わるわけではないので、まだマシだが…。
・>声が出せなくなっていた(>718)
<舌を奪う>の業である。
・まくし立てる(>719)
ここで絆判定を要求してる筈。
・朔夜との会話(>720-721)
実際には、メタ情報として「生き別れの兄」について知っていたので、昨夜に共感させるよう会話をもっていったのだw
絆も芽生えるし、システム上正しい行いであるw
・人狼との会話(>722-723)
相手は<超嗅覚>とかあるし、隠しても無駄なので体を張って交渉。
戦力が欲しいという本音もあるしw
結果、隠された勝利条件を引き出すことが出来た。
・>二階から轟音(>723)
別視点で後述される
・“彼女”の様子(>724)
GMの伏線。
734 名前:罵蔑痴坊 投稿日:2006/06/11(日) 02:57:51 ID:???
涼士(其の二)解説
時間軸は刀夜編の直後(>712)より継続
・ドアを壊す(>725)
「破壊したい」のエゴ判定、だろうか?
・調査と情報収集(>726-729)
能力的に不向きなので全く進展しない
・>「あんたら露骨すぎ」(>728)
GMの本音だろうか?w
・大男の行動(>729)
GMはNPC達に設定したエゴで一定時間ごとに判定して、行動を決定していたようだ。
・様子を見る(>729)
文中の有効論は結果論だが、この手のセッションで慎重に行動しすぎて機を失うのはよくある現象である。
待ちに徹して雰囲気がだれてしまうという弊害もある。
・>自分の目的のために動くぞ(>730)
状況が動きそうに無いと悟ったらしい。
・>「朔夜を、どこへやった!」 (>731)
人狼は本文の時系列的には、前日の時点でもう居場所を知ってる筈だが…
編集時にアルト側の描写を一日すっとばしたんだろうか? 可能性はある。
・>確かに捉えた筈のタイミングで、二度とも外してしまう(>731)
愛で支援した記憶がある。つまり時系列はあってるのか…?
つまり、さっきの台詞はブラフか?
・奇妙な光に包まれた魔女
核心に向けて物語が動き出したようだ。