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act.1 <last of firestarter>

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―――それは、いまはむかしのおはなし。



歴史の裏に消えてしまった、一つの流れが結末へ至るまでの物語。
集う英雄達が世界を守る話でなく
選ばれし者がとらわれの姫を助ける話でなく

裏切りを粛清しようと激情にかられる哀れな娘と
―――ほんの少しだけ、諦めるのが早かった愚か者のお話。


***


act.1 <last of firestarter>

雲一つない青空の下、海風吹き荒れる崖の上。
ただただ何もない野原に、一組の男女が向かいあって立っていた。
間は10mほど。その間に流れるのは、けして暖かいものなどでなく。ただぴんと張り詰めた空気だけだった。

男が、疲れたようにため息をつきながら問う。

「何回か襲撃はかわしてきて、最近ぷっつり来なくなったから諦めたかと思ってたのにな。
 今度はお前かよ、翡翠」

翡翠と呼ばれた女は、その藍玉のごとき蒼の瞳にありったけの激情を込め、男を睨みつけて答える。

「お前を、私達が逃がすと思っているのか。
 人類の希望を絶った大罪人。我らが仕えるべき方をその手にかけた裏切り者を」

まだ年の頃は16、7といったところか。
幼いともいえるその容貌からは想像がつかないほど、壮絶な怒気を放ちながら翡翠は男を睨みつける。
怒りで人が殺せるのならば、まさにその威を発揮できるだろう敵意を、男は何の気負いもなく無視してもう一回ため息。
半眼で少女を軽く睨みながら、再びの問いを放つ。

「それで。やる気なのか?」

まるで夕飯の献立をたずねるかのような気安い言葉に、翡翠は一瞬呑まれかける。
彼女は相手のことをよく知っている。こんな自然体から、幾度となく刹那の合間に敵を狩ってきた剣士であることも。
ここで是と答えれば、確実に彼を敵に回すことを理解している。
だからこそ、退りそうな足に渇をいれて叫ぶ。己がこの戦場から逃げないために。

「うるさいっ……お前のせいで、どれだけの人間の運命が狂ったと思っている!?
 世界を守るために集められた者たちは一人、また一人と消えた!巫女様方は亡くなられた!世界は幾度も犠牲を払った!」

血を吐くような呪詛の言葉。それを浴びながら、男は拳を強く握り締めるが、その表情は変わらない。
そして男は、目の前の敵に向けて淡々と言い放つ。

「―――言いたいことはそれだけかよ?」

その切り捨てるような言葉を聞き、翡翠は今までこらえていた全ての枷を解き放つ。
身を焼く激情にかられながら虚空へと手を伸ばし

―――何もないはずの空間から、両刃の剣を抜き出した。

装飾は少なく、オーソドックスなスタイルの西洋の片手半剣。
鞘は見当たらず、どちらかというと実用的であろうその剣は、2箇所ほど通常の剣とは違う目を引く場所があった。
一つは刀身に彫りこまれた淡く輝きを放つ呪刻印。
見るものが見れば、その刻印は遠く北欧の地に伝わる『表威文字』・ルーンであることがわかるだろう。
そしてもう一つは、鍔の中心に据えられている青いオーブ。その玉が不思議な力を纏っていることは、見た者全てに伝わるほどだ。
それらの特徴は、彼女の引き出した剣がこの世の常識に測れぬものであることを示している。
地獄の底から響くような声で、翡翠は問う。

「お前こそ、死の間際の言葉はそれでいいんだな?」
「冗談。俺にもまだやりたいことがあるんでな、そう簡単に殺されてなんぞやらねぇよ」

ありとあらゆる怨嗟を詰め込んだようなその言葉を、何事もなかったかのように軽口で返しながら、男もまた虚空へと手を伸ばす。
その先から引き抜かれたのは、翡翠と同じ形、同じ装飾の剣。
たった一つ異なる点は、鍔のオーブの色が違うことだけ。
それを利き手に握り、男は翡翠へと語りかける。

「来いよ。久しぶりに相手してやる」
「その言葉、後悔させてやるっ!」

そうして少女は地を蹴った。


***


天空に紅い月が昇る時、世界は『敵』に侵される。
月の門を通りて現れ来るのは魔の眷属たち。
人の子は魔の眷属に対し抗す力を持たない―――人知れず、壊れゆく世界。

そんな紅い月の下を、駆け抜け魔を狩る者の存在があった。
人々に忘れ去られた魔法の力をもって、紅い夜を駆け夜に闇を取り戻す者たち。その名は―――

夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)。

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