赤と黒と青と
薄闇に映える赤髪の男は自らに治癒術を唱えながら、意識の片隅で耳を澄ませていた。
「そんな…」
無常な放送を聞き、傍にいる少女が小さく悲嘆を零す。
彼女が仕える主ヒューゴの娘。
彼女がよく知るリオン・マグナス――否、エミリオ・カトレットの姉。
ルーティ・カトレット。
彼女の名が呼ばれた。
そのルーティの死は、黒髪の少女を深い悲しみで支配する。 皮肉にも少女が縋るように抱いている剣は、今は亡きルーティが所持していた剣――ソーディアン・アトワイトである。
『マリアン…』
「マリアンちゃん…」
マリアンと呼ばれる少女と一緒にいる二人――正しくは一人と一本だが――が声をかける。
その内の一人アトワイトも、ルーティが死んだ衝撃と悲しみに染まっていた。
だがこのような姿になったとしても、彼女は軍人だ。
人の死など、日常茶飯事に体験してきたことだ。
諦めではないけれど、覚悟は既についている。
それに、何となく予想はついていたのかもしれない。
自分が、マスターであるルーティと離れ離れになった時点で
。 最初から嫌な予感はしていた。
杞憂であればいい、とは思っていたが、まさか本当になってしまうとは。
こんなことを一度でも思った自分を悔やんだ。
しかし同じく共に決意した。
こんなゲームを始めた…ルーティの命を奪ったミクトランを、必ず倒す。
そして新たなマスターであるマリアンを助ける。
そう、決意した。
「…ところで、マリアンちゃん。お願いがあるんだけど~」
放送が終わり、赤髪の男が軽い口調で言う。
こんな怪我をしているのに、どうしてこうも笑っていられるのだろうか。
それがマリアンには不思議であり、同時に悲しみの気持ちを和らげさせていた。
「何でしょうか…?」
「俺さま、何とか動ける位になってきたんだけど~…」
「だけど?」
「魔力が尽きちまって、これ以上回復できそーもないわ」
これは男も予想していなかったことらしい。
男の魔力は、普段より効果が低い回復力のおかげで、重ねて唱えることで尽きてしまった。
面目なさげにハハッと笑うと、何故かマリアンもつられ微かに笑ってしまう。
この男は、自然と相手の気持ちを和らげる力を持っていた――軟派みたいだけれども。
マリアンは微笑みを作り言う。
「なら少し休んでいて下さい、ゼロスさん。私が見張ってますから」
「ハニーに見張らせるなんて、俺さまイイ男失格だな~…でも、お言葉に甘えて休ませてもらうぜぇ…」
男…ゼロスはおちゃらけた笑みを浮かべると、急に集中を切らしたせいからか、糸が切れた人形のようにすぐ眠ってしまった。
マリアンはそれを見届けると、腕の中にあるアトワイトに向かって呟き始める。
「あの…アトワイト、回復する術を教えてくれませんか?」
『さっきも言ったけど、あまり力は使わない方が…』
「それでもゼロスさんを回復させないと。もう回復できないと言っていましたし、こんな怪我では…。
それに、少しでも早く動けるようにしておかなくてはいけませんから」
『…初歩的なファーストエイドなら、今のあなたでも使えると思うわ。
初歩的といっても、無いより余程マシね。手助けすることも出来るし。
さ、意識を集中して…』
言われた通り、マリアンは目を閉じ精神を集中する。
何かが巡るような感覚が体を支配する。
…直後、青い優しい光がゼロスの体を包み込んでいた。
胸の傷はまだ残っているが、肩の切創はほぼ完治したようなものだ。
体にどっと疲労が襲い掛かった気がした。
元々マリアンは戦う力を持っていないのだ。
こんな場所に連れてこられ、初めて術を行使したのである。無理はなかった。
ファーストエイドといえども、彼女にとっては大変な仕事をやり遂げたような気分だった。
これで私も役に立てる。そう思うと嬉しくなった。
『上出来ね、マリアン』
「ありがとう」
『でも…残念だけど、あなたは多くは使えないと思うわ。本当ならこんな場所に来るような人ではないもの』
「そうですか…でも、出来るだけでも充分です。何も出来ないよりは…」
『そうね。少なくとも人を救うことは出来るわ。このゲームでは重要なことよ』
「…はい」
アトワイトの言葉がひしひしと伝わってくる。
――ゲーム。
そう、こんなに人が死んでいるのに、これはゲームなのだ。
再びマリアンに現実が襲い掛かろうとする。
『大丈夫』
「え?」
しかし、アトワイトの声がそれをかき消した。
『必ず、あなたを守ってみせるから』
「そんな…」
無常な放送を聞き、傍にいる少女が小さく悲嘆を零す。
彼女が仕える主ヒューゴの娘。
彼女がよく知るリオン・マグナス――否、エミリオ・カトレットの姉。
ルーティ・カトレット。
彼女の名が呼ばれた。
そのルーティの死は、黒髪の少女を深い悲しみで支配する。 皮肉にも少女が縋るように抱いている剣は、今は亡きルーティが所持していた剣――ソーディアン・アトワイトである。
『マリアン…』
「マリアンちゃん…」
マリアンと呼ばれる少女と一緒にいる二人――正しくは一人と一本だが――が声をかける。
その内の一人アトワイトも、ルーティが死んだ衝撃と悲しみに染まっていた。
だがこのような姿になったとしても、彼女は軍人だ。
人の死など、日常茶飯事に体験してきたことだ。
諦めではないけれど、覚悟は既についている。
それに、何となく予想はついていたのかもしれない。
自分が、マスターであるルーティと離れ離れになった時点で
。 最初から嫌な予感はしていた。
杞憂であればいい、とは思っていたが、まさか本当になってしまうとは。
こんなことを一度でも思った自分を悔やんだ。
しかし同じく共に決意した。
こんなゲームを始めた…ルーティの命を奪ったミクトランを、必ず倒す。
そして新たなマスターであるマリアンを助ける。
そう、決意した。
「…ところで、マリアンちゃん。お願いがあるんだけど~」
放送が終わり、赤髪の男が軽い口調で言う。
こんな怪我をしているのに、どうしてこうも笑っていられるのだろうか。
それがマリアンには不思議であり、同時に悲しみの気持ちを和らげさせていた。
「何でしょうか…?」
「俺さま、何とか動ける位になってきたんだけど~…」
「だけど?」
「魔力が尽きちまって、これ以上回復できそーもないわ」
これは男も予想していなかったことらしい。
男の魔力は、普段より効果が低い回復力のおかげで、重ねて唱えることで尽きてしまった。
面目なさげにハハッと笑うと、何故かマリアンもつられ微かに笑ってしまう。
この男は、自然と相手の気持ちを和らげる力を持っていた――軟派みたいだけれども。
マリアンは微笑みを作り言う。
「なら少し休んでいて下さい、ゼロスさん。私が見張ってますから」
「ハニーに見張らせるなんて、俺さまイイ男失格だな~…でも、お言葉に甘えて休ませてもらうぜぇ…」
男…ゼロスはおちゃらけた笑みを浮かべると、急に集中を切らしたせいからか、糸が切れた人形のようにすぐ眠ってしまった。
マリアンはそれを見届けると、腕の中にあるアトワイトに向かって呟き始める。
「あの…アトワイト、回復する術を教えてくれませんか?」
『さっきも言ったけど、あまり力は使わない方が…』
「それでもゼロスさんを回復させないと。もう回復できないと言っていましたし、こんな怪我では…。
それに、少しでも早く動けるようにしておかなくてはいけませんから」
『…初歩的なファーストエイドなら、今のあなたでも使えると思うわ。
初歩的といっても、無いより余程マシね。手助けすることも出来るし。
さ、意識を集中して…』
言われた通り、マリアンは目を閉じ精神を集中する。
何かが巡るような感覚が体を支配する。
…直後、青い優しい光がゼロスの体を包み込んでいた。
胸の傷はまだ残っているが、肩の切創はほぼ完治したようなものだ。
体にどっと疲労が襲い掛かった気がした。
元々マリアンは戦う力を持っていないのだ。
こんな場所に連れてこられ、初めて術を行使したのである。無理はなかった。
ファーストエイドといえども、彼女にとっては大変な仕事をやり遂げたような気分だった。
これで私も役に立てる。そう思うと嬉しくなった。
『上出来ね、マリアン』
「ありがとう」
『でも…残念だけど、あなたは多くは使えないと思うわ。本当ならこんな場所に来るような人ではないもの』
「そうですか…でも、出来るだけでも充分です。何も出来ないよりは…」
『そうね。少なくとも人を救うことは出来るわ。このゲームでは重要なことよ』
「…はい」
アトワイトの言葉がひしひしと伝わってくる。
――ゲーム。
そう、こんなに人が死んでいるのに、これはゲームなのだ。
再びマリアンに現実が襲い掛かろうとする。
『大丈夫』
「え?」
しかし、アトワイトの声がそれをかき消した。
『必ず、あなたを守ってみせるから』
マリアンはおもむろに空を仰いだ。
黒い空に数多の星が散らばり、その中にぽつんと青い月が浮かんでいる。
傍には正反対な、赤い星がある。
マリアンはこのような世界でも…変わらず輝き続ける存在に、安心を感じるのであった。
隣で眠っているゼロスに視線を移す。
外見とはそぐわぬ静かな寝息、というのは失礼だろうか。
それほど音も立てず眠っていた。
――この人は、どこかエミリオに似ている。
外見も内面も違うけれども、纏うものは同じような気がした。
だからだろうか、この人を信じられると思ったのは。
荷物から名簿を取り出す。
そこに写っているのは、エミリオの姿。
もし再び会えたら、彼は協力してくれるのだろうか。
同じ風を持つゼロスが協力してくれたように、彼も。
一抹の願いを持ち、マリアンはソーディアンを固く抱いた。
黒い空に数多の星が散らばり、その中にぽつんと青い月が浮かんでいる。
傍には正反対な、赤い星がある。
マリアンはこのような世界でも…変わらず輝き続ける存在に、安心を感じるのであった。
隣で眠っているゼロスに視線を移す。
外見とはそぐわぬ静かな寝息、というのは失礼だろうか。
それほど音も立てず眠っていた。
――この人は、どこかエミリオに似ている。
外見も内面も違うけれども、纏うものは同じような気がした。
だからだろうか、この人を信じられると思ったのは。
荷物から名簿を取り出す。
そこに写っているのは、エミリオの姿。
もし再び会えたら、彼は協力してくれるのだろうか。
同じ風を持つゼロスが協力してくれたように、彼も。
一抹の願いを持ち、マリアンはソーディアンを固く抱いた。
【ゼロス 生存確認】
所持品:壊れたけん玉 ナイツサーベル ???? ????
現在位置:D8海岸
状態:切創 (胸の傷はまだ有り、肩は回復)、ほぼTP枯渇(睡眠により回復中)、睡眠
第一行動方針:寝る
第二行動方針:マリアンと共に行動
所持品:壊れたけん玉 ナイツサーベル ???? ????
現在位置:D8海岸
状態:切創 (胸の傷はまだ有り、肩は回復)、ほぼTP枯渇(睡眠により回復中)、睡眠
第一行動方針:寝る
第二行動方針:マリアンと共に行動
【マリアン 生存確認】
所持品:ソーディアン・アトワイト スペクタクルズ×14
現在位置:D8海岸
状態:軽度のショックと疲労、TP微消耗
第一行動方針:ゼロスの回復を待って共に行動
第二行動方針:アトワイトの提案した作戦を実行する
所持品:ソーディアン・アトワイト スペクタクルズ×14
現在位置:D8海岸
状態:軽度のショックと疲労、TP微消耗
第一行動方針:ゼロスの回復を待って共に行動
第二行動方針:アトワイトの提案した作戦を実行する