蛇を焼く光
「くくくくくく…はぁっはっはっはっはっはっはっはぁ!!」
小高い山の岩陰で、ソロンは哄笑していた。
先ほど南の海岸沿いで見ることの出来た至高のショー。
自らの手の内で他者を踊らせ、互いを噛み合わせて共倒れさせるという素晴らしい一幕が、彼をここまで哄笑させているのだ。
いつまでも続くとも知れぬソロンの哄笑。夜空に不気味に響く。あの光景をまぶたの裏側で反芻させるたびに、全身の血がたまらなくたぎる。
ソロンの人生の中で、最高の瞬間を幾度となく思い出す。
その高笑いは、いつまでも続くとも思えた。その不協和音が混ざり込む、その一瞬まで。
「ごぶっ!!」
くぐもった呻吟が、突如としてソロンの口から吐き出される。赤いものの混じった、凄惨な呻き声だった。
続けてソロンの口に何度も腹の奥から熱いものがこみ上げ、彼はたまらずそれを吐き出す。ソロンの口元は、彼自身の血で汚れた。
吐血の発作はそれで収まったが、ソロンはその後、何度も息絶え絶えといった様子で咳き込み、喉にわだかまっていた血を唾と共に吐き捨てる。
全てが終わるまで、1分かそこらはかかった。
荒い呼吸。ソロンの目に歓喜はすでになく、代わってすさまじい憤怒に満たされてゆく。
「糞が……ダニが…蛆虫がドブネズミがくたばり損ないのゴキブリ野郎がぁぁぁっ!!!」
ソロンはあらん限りの語彙を駆使して、凄まじい罵りの言葉を叩きつける。
蛇を思わせるその目元には、狂気じみた憤怒に憎悪も加わって、まさしく地獄の悪鬼もかくやというほどの凄絶な眼光が宿っていた。
俗に「蛇に睨まれた蛙」という言い回しをするが、ソロンの視線はそんな生易しいものではない。蛙どころか、竜でさえすくみ上がりそうなほど強烈な力がこもっている。
「あの赤髪のクソ野郎…よくも私にこんな傷を負わせやがりましたね…!!!」
ソロンの犬歯が、毒牙のようにこの会場の月…赤と青の月の光を受け、妖しくきらめいた。
ソロンは自らの腹部をかばいながら吼えたが、しかし不思議なことにそこに外傷らしい外傷は一切存在していなかった。
時は、ゼロスの最期の一撃にまで戻る。
ゼロスが自らの命と引き換えに放った天使術「ジャッジメント」。「ジャッジメント」を放った瞬間、ソロンはあろうことか、術者であるゼロスのすぐそばに立っていた。
無論、油断が即座に死を呼ぶ世界など、ソロンは慣れっこである。それに最期の一撃の存在は十分予見出来ていたので、術自体への対処は迅速であった。
天から裁きの光が降り注ぐのを見て、ソロンは即座に体内の闘気を練り上げ、防魔の障壁を展開し、難は逃れた。逃れたはずだった。
しかし。だとすれば。この内臓を直接炎であぶられるような、体内の激痛は何なのだろう。
ソロンはあの赤髪の男が、防魔の障壁すら貫通するようなとんでもない隠し玉を持っていた、ということまでは容易に推測出来ていた。
しかし、その「とんでもない隠し玉」の正体は、皆目見当も付かなかった。
小高い山の岩陰で、ソロンは哄笑していた。
先ほど南の海岸沿いで見ることの出来た至高のショー。
自らの手の内で他者を踊らせ、互いを噛み合わせて共倒れさせるという素晴らしい一幕が、彼をここまで哄笑させているのだ。
いつまでも続くとも知れぬソロンの哄笑。夜空に不気味に響く。あの光景をまぶたの裏側で反芻させるたびに、全身の血がたまらなくたぎる。
ソロンの人生の中で、最高の瞬間を幾度となく思い出す。
その高笑いは、いつまでも続くとも思えた。その不協和音が混ざり込む、その一瞬まで。
「ごぶっ!!」
くぐもった呻吟が、突如としてソロンの口から吐き出される。赤いものの混じった、凄惨な呻き声だった。
続けてソロンの口に何度も腹の奥から熱いものがこみ上げ、彼はたまらずそれを吐き出す。ソロンの口元は、彼自身の血で汚れた。
吐血の発作はそれで収まったが、ソロンはその後、何度も息絶え絶えといった様子で咳き込み、喉にわだかまっていた血を唾と共に吐き捨てる。
全てが終わるまで、1分かそこらはかかった。
荒い呼吸。ソロンの目に歓喜はすでになく、代わってすさまじい憤怒に満たされてゆく。
「糞が……ダニが…蛆虫がドブネズミがくたばり損ないのゴキブリ野郎がぁぁぁっ!!!」
ソロンはあらん限りの語彙を駆使して、凄まじい罵りの言葉を叩きつける。
蛇を思わせるその目元には、狂気じみた憤怒に憎悪も加わって、まさしく地獄の悪鬼もかくやというほどの凄絶な眼光が宿っていた。
俗に「蛇に睨まれた蛙」という言い回しをするが、ソロンの視線はそんな生易しいものではない。蛙どころか、竜でさえすくみ上がりそうなほど強烈な力がこもっている。
「あの赤髪のクソ野郎…よくも私にこんな傷を負わせやがりましたね…!!!」
ソロンの犬歯が、毒牙のようにこの会場の月…赤と青の月の光を受け、妖しくきらめいた。
ソロンは自らの腹部をかばいながら吼えたが、しかし不思議なことにそこに外傷らしい外傷は一切存在していなかった。
時は、ゼロスの最期の一撃にまで戻る。
ゼロスが自らの命と引き換えに放った天使術「ジャッジメント」。「ジャッジメント」を放った瞬間、ソロンはあろうことか、術者であるゼロスのすぐそばに立っていた。
無論、油断が即座に死を呼ぶ世界など、ソロンは慣れっこである。それに最期の一撃の存在は十分予見出来ていたので、術自体への対処は迅速であった。
天から裁きの光が降り注ぐのを見て、ソロンは即座に体内の闘気を練り上げ、防魔の障壁を展開し、難は逃れた。逃れたはずだった。
しかし。だとすれば。この内臓を直接炎であぶられるような、体内の激痛は何なのだろう。
ソロンはあの赤髪の男が、防魔の障壁すら貫通するようなとんでもない隠し玉を持っていた、ということまでは容易に推測出来ていた。
しかし、その「とんでもない隠し玉」の正体は、皆目見当も付かなかった。
ソロンのあずかり知らぬその「隠し玉」…それは光。ゼロスが自らの命と引き換えに放った、極限まで高められた光の力なのだ。
ゼロスの住まっていた繁栄世界テセアラでは、光に関する研究において、1つの事実が記されていた。
特殊な鉱石を用いるか、さもなくば光をマナの力で極限まで強化すると、人体すら透過する不可視の光が放たれることは以前から知られていた。
その極限まで強化された光は人体を透過する際、その体内を直接焼き払い、また種々の病を引き起こす。その性質から、その光は「死の光」、もしくは「放射線」と呼ばれる。
そしてゼロスの天使術「ジャッジメント」は、もともと強力な光の力で敵を焼く術である。
ゼロスの着けるクルシスの輝石、死に瀕したゼロスの覚悟、これら二者がただでさえ強力な「ジャッジメント」の光を更に強化し、結果として「ジャッジメント」に「死の光」を付与するに至ったのだ。
ソロンの展開した防魔の障壁は半透明…すなわち「ジャッジメント」の魔力の炸裂は遮断できても、「ジャッジメント」の「死の光」は遮断できなかった。
結果、今ソロンは、体内を直接火であぶられるような痛苦に悶えているのだ。
もちろん、ゼロスが「死の光」の存在を知った上で、ここまで見越して「ジャッジメント」を放ったか否かは、ゼロス亡き今となっては憶測する他ない。
だが、ゼロスの最期の一撃は、こうして確実にソロンを傷付けていたことは事実なのだ。
この「バトル・ロワイアル」において、理不尽な死を甘受せねばならなくなったゼロスにとって、理不尽な死をもたらす男に一矢報いてやれたこと…。
それが、せめてもの彼にとっての救いの1つになったのかもしれない。
それでも、ソロンの内なる怒りと嗜虐心、そして生存本能の火をかき消すには到底及ばなかったのではあるが。
「はぁ…はぁ……さて…発作も収まってきましたところで…行きましょうか」
ソロンは自らの怒りと発作がある程度落ち着いて来たところで、重い腰を持ち上げた。この発作が原因なのか、全身が妙にだるい。
それでも、ソロンは進まねばならない。この「バトル・ロワイアル」を生き残るためには。
ソロンの影は夜の帳の下りた岩陰に、一陣の風のように滑り込み、そして溶けるようにしてその姿を消した。
ゼロスの住まっていた繁栄世界テセアラでは、光に関する研究において、1つの事実が記されていた。
特殊な鉱石を用いるか、さもなくば光をマナの力で極限まで強化すると、人体すら透過する不可視の光が放たれることは以前から知られていた。
その極限まで強化された光は人体を透過する際、その体内を直接焼き払い、また種々の病を引き起こす。その性質から、その光は「死の光」、もしくは「放射線」と呼ばれる。
そしてゼロスの天使術「ジャッジメント」は、もともと強力な光の力で敵を焼く術である。
ゼロスの着けるクルシスの輝石、死に瀕したゼロスの覚悟、これら二者がただでさえ強力な「ジャッジメント」の光を更に強化し、結果として「ジャッジメント」に「死の光」を付与するに至ったのだ。
ソロンの展開した防魔の障壁は半透明…すなわち「ジャッジメント」の魔力の炸裂は遮断できても、「ジャッジメント」の「死の光」は遮断できなかった。
結果、今ソロンは、体内を直接火であぶられるような痛苦に悶えているのだ。
もちろん、ゼロスが「死の光」の存在を知った上で、ここまで見越して「ジャッジメント」を放ったか否かは、ゼロス亡き今となっては憶測する他ない。
だが、ゼロスの最期の一撃は、こうして確実にソロンを傷付けていたことは事実なのだ。
この「バトル・ロワイアル」において、理不尽な死を甘受せねばならなくなったゼロスにとって、理不尽な死をもたらす男に一矢報いてやれたこと…。
それが、せめてもの彼にとっての救いの1つになったのかもしれない。
それでも、ソロンの内なる怒りと嗜虐心、そして生存本能の火をかき消すには到底及ばなかったのではあるが。
「はぁ…はぁ……さて…発作も収まってきましたところで…行きましょうか」
ソロンは自らの怒りと発作がある程度落ち着いて来たところで、重い腰を持ち上げた。この発作が原因なのか、全身が妙にだるい。
それでも、ソロンは進まねばならない。この「バトル・ロワイアル」を生き残るためには。
ソロンの影は夜の帳の下りた岩陰に、一陣の風のように滑り込み、そして溶けるようにしてその姿を消した。
【ソロン 生存確認】
状態:外傷なし 放射線障害(吐血と内臓の激痛がたまに起き、慢性的倦怠感を感じる)
所持品:ソーディアン・ディムロス クナイ(残り八枚)
第一行動方針:周りをかき乱し、傍観して楽しむ
第二行動方針:ジェイの監視
現在位置:C7の山岳地帯
状態:外傷なし 放射線障害(吐血と内臓の激痛がたまに起き、慢性的倦怠感を感じる)
所持品:ソーディアン・ディムロス クナイ(残り八枚)
第一行動方針:周りをかき乱し、傍観して楽しむ
第二行動方針:ジェイの監視
現在位置:C7の山岳地帯