閉幕は遥か彼方
「はぁはぁ…………」
一人の男が、森の中をよろよろと歩いていた。
風の如く移動するいつもの姿からは想像も出来ないほどのおぼつかない足取り。
男――ソロンは、再び激痛と倦怠感に襲われていた。
「ぐ、ぐふぉぁ」
立ち止まり、木に寄りかかったかと思うと、吐血をする。
先ほどから、激痛と吐血に襲われる間隔がどんどん短くなっている気がする。
「あの赤髪めぇ。随分とふざけた真似を…………」
自分をこのような状況へ追い込んだ赤髪の男の姿を思い出し、忌々しくなって頭を掻き毟る。
しかし、すると今度は掻き毟った髪が、はらはらと抜けていくではないか。
まさかと思い、試しに髪を掴んで引っ張ってみるといとも簡単に掴んだ髪が抜けていった。
一人の男が、森の中をよろよろと歩いていた。
風の如く移動するいつもの姿からは想像も出来ないほどのおぼつかない足取り。
男――ソロンは、再び激痛と倦怠感に襲われていた。
「ぐ、ぐふぉぁ」
立ち止まり、木に寄りかかったかと思うと、吐血をする。
先ほどから、激痛と吐血に襲われる間隔がどんどん短くなっている気がする。
「あの赤髪めぇ。随分とふざけた真似を…………」
自分をこのような状況へ追い込んだ赤髪の男の姿を思い出し、忌々しくなって頭を掻き毟る。
しかし、すると今度は掻き毟った髪が、はらはらと抜けていくではないか。
まさかと思い、試しに髪を掴んで引っ張ってみるといとも簡単に掴んだ髪が抜けていった。
――そう、放射能が影響を与えたのは内臓だけではない。頭部を含め、至る所に被害を及ぼしているのだ。
「ウジ蟲がぁぁぁぁ!!」
男の憤怒の叫びが夜の山に響く。
しかし、こんな絶望的な状況でも彼は生への執着を捨てていなかった。
「私はぁ……私はこのゲームを盛り上げなければいけないのですよぉ……。ここで死ぬわけがないでしょうにぃ…………」
彼は、この殺し合いゲームをより血みどろに演出することに喜びを感じていた。
いわば、彼は島を舞台にした殺し合いがテーマの悲劇(彼にとっては喜劇だが)において、演出家を気取っていたのだ。
そして、彼には演出家としてまだまだやりたい事が山のようにあった。
男の憤怒の叫びが夜の山に響く。
しかし、こんな絶望的な状況でも彼は生への執着を捨てていなかった。
「私はぁ……私はこのゲームを盛り上げなければいけないのですよぉ……。ここで死ぬわけがないでしょうにぃ…………」
彼は、この殺し合いゲームをより血みどろに演出することに喜びを感じていた。
いわば、彼は島を舞台にした殺し合いがテーマの悲劇(彼にとっては喜劇だが)において、演出家を気取っていたのだ。
そして、彼には演出家としてまだまだやりたい事が山のようにあった。
――信頼で結ばれた集団を疑心暗鬼にして仲間内の殺し合いをさせてみたい。
――マーダーをゲームに乗らない連中の方へと誘導して、一方的な殺戮を観賞するのも面白いかもしれない。
――マーダーをゲームに乗らない連中の方へと誘導して、一方的な殺戮を観賞するのも面白いかもしれない。
彼は、そういった欲望と生への渇望を糧にして、何とか歩いてゆく。
そうしてふらふらと歩いていると、人影が見えた。
黒髪の華奢な体つきの少年…………忘れもしない、自分の演出した殺し合いで役者を務めたリオン・マグナスだ。
彼は、どうも目を閉じて木陰で横になっているようだった。
ある程度近づいているはずだが、例の機械のようなものには目もくれていない。
これは、完全に眠っている――ソロンはそう判断すると、彼へとゆっくりと近づいていった…………。
そうしてふらふらと歩いていると、人影が見えた。
黒髪の華奢な体つきの少年…………忘れもしない、自分の演出した殺し合いで役者を務めたリオン・マグナスだ。
彼は、どうも目を閉じて木陰で横になっているようだった。
ある程度近づいているはずだが、例の機械のようなものには目もくれていない。
これは、完全に眠っている――ソロンはそう判断すると、彼へとゆっくりと近づいていった…………。
リオンを見下すような位置に立って、彼を睨みつけているソロン。
そこには、憎悪の念が立ち込めていた。
そこには、憎悪の念が立ち込めていた。
――こいつさえ、しっかりと赤髪男にとどめさえ与えていれば、自分は今苦しんでいなかったはずだ。
――結局は、こいつもジェイのように出来損ないの手駒だったのだろう……。
――結局は、こいつもジェイのように出来損ないの手駒だったのだろう……。
放射能による苦痛のせいもあって、彼の苛立ちはピークに達していた。
「殺しも満足に出来ない役者に用はありませんねぇ」
彼はぶつぶつとつぶやきながら、ザックからディムロスを取り出す。
「少し不本意ですが、役者の始末をするのも私の仕事ですし……」
ディムロスを大きく振り上げると、その振り下ろす先をリオンの頭上に固定する。
そして、無情にもそれを勢いを付けて振り下ろし、それは彼の頭を切り裂いた!
「殺しも満足に出来ない役者に用はありませんねぇ」
彼はぶつぶつとつぶやきながら、ザックからディムロスを取り出す。
「少し不本意ですが、役者の始末をするのも私の仕事ですし……」
ディムロスを大きく振り上げると、その振り下ろす先をリオンの頭上に固定する。
そして、無情にもそれを勢いを付けて振り下ろし、それは彼の頭を切り裂いた!
――はずだったのだが、現実は違った。
振り下ろそうとした瞬間、リオンが体を起き上がらせ、ソロンの腹部をシャルティエで貫いていたのだ。
ソロンは、ディムロスを握ったまま、滅多に見せない“驚愕”の表情を浮かべた。
「な、何故です!? 眠っていたはずな――」
しかし、彼の言葉は途切れる。
腹から抜かれたシャルティエが、今度はディムロスを握る手を肘から腕ごと斬り落としたのだ。
「散々山の中で大声をあげておいて、『何故』だって? 笑わせてくれる」
ソロンは、ディムロスを握ったまま、滅多に見せない“驚愕”の表情を浮かべた。
「な、何故です!? 眠っていたはずな――」
しかし、彼の言葉は途切れる。
腹から抜かれたシャルティエが、今度はディムロスを握る手を肘から腕ごと斬り落としたのだ。
「散々山の中で大声をあげておいて、『何故』だって? 笑わせてくれる」
リオンは、ソロンが憤怒の叫びをあげた時に目が覚めたのだ。
忘れるはずも無い。マリアンに自分の醜態を見せるように仕向けたあの男の声だ。
音源は近い位置にあったので、すぐにでもその声の方向へ向かい、声の主を殺したかった。
だが、疲労がたまるその体がそれを許さない。
だから彼には、男が自らこちらに赴いてくるを期待する事しか出来なかった。
そして彼の期待通り、男は彼の至近距離にまでやってきた、そして今にいたるのであった。
忘れるはずも無い。マリアンに自分の醜態を見せるように仕向けたあの男の声だ。
音源は近い位置にあったので、すぐにでもその声の方向へ向かい、声の主を殺したかった。
だが、疲労がたまるその体がそれを許さない。
だから彼には、男が自らこちらに赴いてくるを期待する事しか出来なかった。
そして彼の期待通り、男は彼の至近距離にまでやってきた、そして今にいたるのであった。
ソロンは、普段の狡猾な姿からは想像も出来なような二つのミスを犯した。
一つは、目を瞑って動いていないだけで、彼が眠っていると確証してしまったこと。
もう一つは、クナイを使って殺さずに、わざわざ至近距離まで近づいていってしまったこと。
それは、放射能のよる倦怠感が呼んだ判断力の低下が起こした悲劇だったのだろう。
「ぐがぁぁぁあ!?!」
ともかくミスを犯した彼に待っていたのは、腕の切断という現実。
苦悶の表情を浮かべ、残る方の手で肘の断面から吹き出す血を止めようとするが、そちらの方の腕もリオンは肘から斬り落とす。
「ぐげっ!」
苦痛の余り歪みに歪んだ顔は酷く醜く、口からは放射能のせいか腹部を刺されたからか分からないほど大量の血を吐き出した。
もはや、そこには演出家としての余裕も暗殺者としての冷酷さも無い。
今の彼からは、誰が見ても“絶望”しか連想できないだろう。
そして、そんな哀れな男をリオンは見下す。
「僕は、マリアンを殺そうとしたお前だけは許さない」
しかし、それでもソロン本人は生き永らえようと必死だった。
「わ、私はまだ死ぬわ――」
シャルティエが、そんな生への渇望と止めなかった男の言葉を首ごと刎ねた。
一つは、目を瞑って動いていないだけで、彼が眠っていると確証してしまったこと。
もう一つは、クナイを使って殺さずに、わざわざ至近距離まで近づいていってしまったこと。
それは、放射能のよる倦怠感が呼んだ判断力の低下が起こした悲劇だったのだろう。
「ぐがぁぁぁあ!?!」
ともかくミスを犯した彼に待っていたのは、腕の切断という現実。
苦悶の表情を浮かべ、残る方の手で肘の断面から吹き出す血を止めようとするが、そちらの方の腕もリオンは肘から斬り落とす。
「ぐげっ!」
苦痛の余り歪みに歪んだ顔は酷く醜く、口からは放射能のせいか腹部を刺されたからか分からないほど大量の血を吐き出した。
もはや、そこには演出家としての余裕も暗殺者としての冷酷さも無い。
今の彼からは、誰が見ても“絶望”しか連想できないだろう。
そして、そんな哀れな男をリオンは見下す。
「僕は、マリアンを殺そうとしたお前だけは許さない」
しかし、それでもソロン本人は生き永らえようと必死だった。
「わ、私はまだ死ぬわ――」
シャルティエが、そんな生への渇望と止めなかった男の言葉を首ごと刎ねた。
こうして、一人の演出家が舞台から去った。
しかし演出家が一人欠けた所で、この悲劇の幕が閉じるわけが無い。
舞台が存在し、役者が二人以上いる限り、この悲劇は永遠に続くのであった…………。
しかし演出家が一人欠けた所で、この悲劇の幕が閉じるわけが無い。
舞台が存在し、役者が二人以上いる限り、この悲劇は永遠に続くのであった…………。
首と両腕が分断された無残な骸を一瞥もせずに、斬り落とした腕からディムロスを拾うと、リオンはその場から離れた。
この憎き男の血で穢れた場所などで、一秒たりとも寝れるはずが無い。
彼は、少し離れた場所の木陰に着くと、今度こそ深い眠りについた…………。
『リオン…………』
そして、そんな眠るリオンの横でディムロスは、彼にかけるべき言葉を見つけられずにいた。
この憎き男の血で穢れた場所などで、一秒たりとも寝れるはずが無い。
彼は、少し離れた場所の木陰に着くと、今度こそ深い眠りについた…………。
『リオン…………』
そして、そんな眠るリオンの横でディムロスは、彼にかけるべき言葉を見つけられずにいた。
【リオン・マグナス 生存確認】
状態:極度の疲労 睡眠 全身に軽い火傷 上半身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 肩に刺し傷
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー
第一行動方針:睡眠
第二行動方針:マリアンとの再会(ただし再会を恐れてもいる)
第三行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:C7の森
状態:極度の疲労 睡眠 全身に軽い火傷 上半身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 肩に刺し傷
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー
第一行動方針:睡眠
第二行動方針:マリアンとの再会(ただし再会を恐れてもいる)
第三行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:C7の森
【ソロン 死亡】
【残り38人】
【残り38人】