夢であるように
ジョニーはあの後、村中を駆けずり回り、棚や倉庫などありとあらゆる場所を漁って、解毒に使えそうなものを探した。
(パナシーアボトルやリキュールボトルがあればいいのだが…………)
彼は今、ファラを救う方法を探すのに精一杯だった。
だが、そんな努力の甲斐なく、結局解毒できるような薬どころか薬草の類すら見つからなかった。
恐らくミクトランの意図的な操作だろう。
ジョニーは気落ちしながらも、ファラのいる家へと戻る。
(パナシーアボトルやリキュールボトルがあればいいのだが…………)
彼は今、ファラを救う方法を探すのに精一杯だった。
だが、そんな努力の甲斐なく、結局解毒できるような薬どころか薬草の類すら見つからなかった。
恐らくミクトランの意図的な操作だろう。
ジョニーは気落ちしながらも、ファラのいる家へと戻る。
あの後、ファラはジョニーによって、ベッドに横にされていた。
毒を飲んだ当初よりも呼吸は安定しているが、依然として虫の息なのは変わらない。
家に戻り、ベッドの横に腰掛けるジョニーの表情は暗い。
自分がこういった時に無力なのが悔しかった。
かつて、スタンらと旅をした時も自分は周囲の仲間達と違い、剣術に長けていたわけでもないし、晶術が使えるわけでもなかった。
自分に出来る事は、歌を歌う事のみ。
歌によって、仲間の士気を高めたり、敵の攻撃のリズムを崩したり、時には歌声自体を武器にしたり……。
「歌、か…………」
ジョニーはふと思い出したかのように、リュートを弾く仕草をする。
せめて、歌が彼女を癒してくれないか? そんな想いを胸にジョニーは穏やかな声で歌い始めた。
毒を飲んだ当初よりも呼吸は安定しているが、依然として虫の息なのは変わらない。
家に戻り、ベッドの横に腰掛けるジョニーの表情は暗い。
自分がこういった時に無力なのが悔しかった。
かつて、スタンらと旅をした時も自分は周囲の仲間達と違い、剣術に長けていたわけでもないし、晶術が使えるわけでもなかった。
自分に出来る事は、歌を歌う事のみ。
歌によって、仲間の士気を高めたり、敵の攻撃のリズムを崩したり、時には歌声自体を武器にしたり……。
「歌、か…………」
ジョニーはふと思い出したかのように、リュートを弾く仕草をする。
せめて、歌が彼女を癒してくれないか? そんな想いを胸にジョニーは穏やかな声で歌い始めた。
答えが見つからないもどかしさで
いつからか空回りしていた
違う誰かの所に行く君を責められるはずもない
なんとなく気付いていた君の迷い……
「迷い、ねぇ……」
迷っているのは彼女ではない。自分だ。
相手がファラを殺そうとしていた奴だったとはいえ、自分は既にこのゲームで人を一人殺している。
名簿の写真で見れば、自分が殺したピンク髪の娘――アーチェというらしい――は、見るからに明るそうな娘だった。
そんな子を手にかけた自分は果たして正しかったのか?
自衛の為、と言えば話は早いだろうが、襲ってきた彼女もある種の自衛で自分達を襲ってきたのかもしれない。
そう考えると、この島には絶対の正義なんてものは存在しないのかもしれない。
誰もが生き残る為に殺している。それを悪だと言い切っていいのだろうか? そしてそれを殺してもいいのだろうか?
そんなことを思いながら、ファラの顔を覗く。
「…………今のジョニーさんの歌?」
すると、どういうことか突然、彼女は意識を取り戻し、口を開いた!
ジョニーは当然ながら驚く。
一時的に毒の効果が抑えられているのか、それとも歌が生気を与えたとでも言うのか?
何はともあれ、ジョニーは安堵した表情を浮かべた。
「ま、まさか…………大丈夫なのかい?」
「うん、イケるイケる…………って言いたいのは山々なんだけどね……」
ファラは弱弱しく微笑んだ。
横になったまま、彼女の手がジョニーに触れようと持ち上がるが、その手は小刻みに震えている。
しかも持ち上がった腕は、すぐに落ちてしまう。
神経性の毒が回ってきている証拠だ。
言葉がきちんと紡がれているのが不思議なくらいの状況だ。
ジョニーは安堵するのはまだ早い、と痛いくらいに認識する。
「無理は止めた方がいい。俺が解毒方法を探してくるから、それまで安静に――」
「待って! …………頼みたいことがあるの」
ファラの目は毒で弱っているとは思えないほどの強い意志を持っていた…………。
迷っているのは彼女ではない。自分だ。
相手がファラを殺そうとしていた奴だったとはいえ、自分は既にこのゲームで人を一人殺している。
名簿の写真で見れば、自分が殺したピンク髪の娘――アーチェというらしい――は、見るからに明るそうな娘だった。
そんな子を手にかけた自分は果たして正しかったのか?
自衛の為、と言えば話は早いだろうが、襲ってきた彼女もある種の自衛で自分達を襲ってきたのかもしれない。
そう考えると、この島には絶対の正義なんてものは存在しないのかもしれない。
誰もが生き残る為に殺している。それを悪だと言い切っていいのだろうか? そしてそれを殺してもいいのだろうか?
そんなことを思いながら、ファラの顔を覗く。
「…………今のジョニーさんの歌?」
すると、どういうことか突然、彼女は意識を取り戻し、口を開いた!
ジョニーは当然ながら驚く。
一時的に毒の効果が抑えられているのか、それとも歌が生気を与えたとでも言うのか?
何はともあれ、ジョニーは安堵した表情を浮かべた。
「ま、まさか…………大丈夫なのかい?」
「うん、イケるイケる…………って言いたいのは山々なんだけどね……」
ファラは弱弱しく微笑んだ。
横になったまま、彼女の手がジョニーに触れようと持ち上がるが、その手は小刻みに震えている。
しかも持ち上がった腕は、すぐに落ちてしまう。
神経性の毒が回ってきている証拠だ。
言葉がきちんと紡がれているのが不思議なくらいの状況だ。
ジョニーは安堵するのはまだ早い、と痛いくらいに認識する。
「無理は止めた方がいい。俺が解毒方法を探してくるから、それまで安静に――」
「待って! …………頼みたいことがあるの」
ファラの目は毒で弱っているとは思えないほどの強い意志を持っていた…………。
ファラが頼んだのは拡声器を持ってきてほしいということ。
ジョニーには彼女が何をしようとしているかが手に取るように分かる。
よって、大きく反対する。
「駄目だ。前にも言ったが、危険すぎる!」
「だ、だけど私達が出来るこ、けほっ! 出来る事っていったらやっぱり……げほっ、けほっ!」
咳き込む度にファラの口から鮮血がシーツへと飛散する。
それでも必死に起き上がろうとしては失敗する彼女の姿はとても痛々しい。
「それに何より、君の今の容態では…………。とにかく今は安静に……」
「だ、大丈夫だよ。少しくらいなら…………」
すると、彼女は目を閉じ、精神集中をはじめた。
体が弱っているにも関わらず、それが出来るのは武道を極めたファラだからこそかもしれない。
それを十分にすると目を見開き、両手を上へと持ち上げる。
「解毒功――!!」
彼女の言葉に連動して一瞬彼女の体は緑の光に覆われる。
そして、光が消えると同時に彼女は体をゆっくりを起こし始めた。
「ほら……イケるでしょ?」
そう言って微笑むそれは、確かに先程よりは色艶がいいかもしれない。
だが、それは相対的な問題だ。
普通に見たら、まだまだ危険な域を脱していない事は明白である。
それに加えて、起き上がったその体も、今にも倒れそうな程弱弱しく見える。
ジョニーには彼女が何をしようとしているかが手に取るように分かる。
よって、大きく反対する。
「駄目だ。前にも言ったが、危険すぎる!」
「だ、だけど私達が出来るこ、けほっ! 出来る事っていったらやっぱり……げほっ、けほっ!」
咳き込む度にファラの口から鮮血がシーツへと飛散する。
それでも必死に起き上がろうとしては失敗する彼女の姿はとても痛々しい。
「それに何より、君の今の容態では…………。とにかく今は安静に……」
「だ、大丈夫だよ。少しくらいなら…………」
すると、彼女は目を閉じ、精神集中をはじめた。
体が弱っているにも関わらず、それが出来るのは武道を極めたファラだからこそかもしれない。
それを十分にすると目を見開き、両手を上へと持ち上げる。
「解毒功――!!」
彼女の言葉に連動して一瞬彼女の体は緑の光に覆われる。
そして、光が消えると同時に彼女は体をゆっくりを起こし始めた。
「ほら……イケるでしょ?」
そう言って微笑むそれは、確かに先程よりは色艶がいいかもしれない。
だが、それは相対的な問題だ。
普通に見たら、まだまだ危険な域を脱していない事は明白である。
それに加えて、起き上がったその体も、今にも倒れそうな程弱弱しく見える。
――ファラの解毒功は、毒の回りが早かったせいもあって、かなり効果が薄くなっていたのだ。
「やっぱり止めておいた方がいい。そんな体で声を張り上げようものなら……」
「駄目! 今……今じゃないと手遅れになるかもしれないから…………だからお願い!」
その顔には不安や恐怖の表情はなく、何かを決意したものの表情があった。
かつて自分もこんな表情をした頃があった――ジョニーはそんなことを思っていた。
あれは、最愛の人を殺したティベリウス大王への復讐を誓い、吟遊詩人になろうと決めた時か……。
家族や兄弟は、何度も家から出て行くのを引き止めた。
それに相手は剣豪ティベリウス。貴族出身の吟遊詩人ごときがかなう相手ではないことも分かっている。
だが、それでも決意は揺らがなかった。
つまりは決意とは、そんなものではないだろうか?
誰になんと言われようと、物理的に無理であろうと、本人が意を決した時、それは誰にも崩せない強さを持つもの。それが決意なのだろう。
今のファラからも、その決意への思いが感じられる。
ジョニーに彼女の決意を無理矢理壊す真似など出来るわけがなかった……。
「…………本当に仕方がないレディだよ、君は」
「じゃ、じゃあ……」
ファラが顔を明るくするが、ジョニーは釘を刺す。
「ただし! それが終わったら絶対に安静にしてもらう。いいね?」
「うん、分かった。ありがとうジョニー……」
ファラが今迄で一番輝かしい笑顔をジョニーに向けた。
「駄目! 今……今じゃないと手遅れになるかもしれないから…………だからお願い!」
その顔には不安や恐怖の表情はなく、何かを決意したものの表情があった。
かつて自分もこんな表情をした頃があった――ジョニーはそんなことを思っていた。
あれは、最愛の人を殺したティベリウス大王への復讐を誓い、吟遊詩人になろうと決めた時か……。
家族や兄弟は、何度も家から出て行くのを引き止めた。
それに相手は剣豪ティベリウス。貴族出身の吟遊詩人ごときがかなう相手ではないことも分かっている。
だが、それでも決意は揺らがなかった。
つまりは決意とは、そんなものではないだろうか?
誰になんと言われようと、物理的に無理であろうと、本人が意を決した時、それは誰にも崩せない強さを持つもの。それが決意なのだろう。
今のファラからも、その決意への思いが感じられる。
ジョニーに彼女の決意を無理矢理壊す真似など出来るわけがなかった……。
「…………本当に仕方がないレディだよ、君は」
「じゃ、じゃあ……」
ファラが顔を明るくするが、ジョニーは釘を刺す。
「ただし! それが終わったら絶対に安静にしてもらう。いいね?」
「うん、分かった。ありがとうジョニー……」
ファラが今迄で一番輝かしい笑顔をジョニーに向けた。
「…………ここでいいのかい?」
「うん、ありがとう」
ファラとジョニーがいるのは、村で一番高い建物である鐘楼、その最上部。
ここならば、声が良く届くだろうというファラの提案だった。
ファラは最初こそ一人で歩ける、と手助け無しに歩いて見せたが、やはり限界が来たらしく、途中からはジョニーにおぶってもらい、ここまでたどり着いた。
その彼女は今、鐘楼の手すりに寄りかかり、拡声器を片手に目を閉じ、気を落ち着かせている。
ここまで連れて来ておいて言うのもおかしな話かもしれないが、ジョニーにはやはりファラの容態が心配だった。
こんなものを持って大声を張り上げたら、どうなるか? ジョニーにもそれは予想がつく。
「何なら俺が喋ってもいいんだよ」
しかし、ファラは首を横に振る。
「ううん、これは私がやろうって決めたことだから……。だから私に喋らせて……」
体の方は不安定だったが、声に限って言えば先程から咳き込みを全くしていないファラ。
声帯だけが元に戻ったかのような様子だった。
「それで……何を喋るつもりなんだい? 『自分に戦う意志が無い』ってことだけを伝える為だったら、それこそ俺が……」
「ん~、私が元気だったらそれでも良かったんだけどね……。だけど、あれから色々考えて思ったことがあるから、それを伝えようかな~って」
「色々?」
ジョニーが問うと、ファラはいつになく真剣な表情に変わった。
「うん、色々……。だけど、一番言いたいのは、皆で結束してもらいたいってことかな?」
「結束……か」
今までに十数名の命が奪われ、皆が疑心暗鬼になっているだろうこの現状でも、結束は成立するのか? それは現実的に考えて疑問だった。
それでも結束をして欲しいと考えているファラは、理想主義者なのかそれとも……。
「よし! じゃあ、そろそろ大演説を始めちゃおう!」
気合を入れて、寄りかかっていた手すりから離れ、立ち上がるファラ。
それをジョニーが支える。
「ありがと……」
「いやいや、レディを支えてあげるのもジェントルマンの仕事ですから」
「うん。それじゃあ……いくよ!」
「うん、ありがとう」
ファラとジョニーがいるのは、村で一番高い建物である鐘楼、その最上部。
ここならば、声が良く届くだろうというファラの提案だった。
ファラは最初こそ一人で歩ける、と手助け無しに歩いて見せたが、やはり限界が来たらしく、途中からはジョニーにおぶってもらい、ここまでたどり着いた。
その彼女は今、鐘楼の手すりに寄りかかり、拡声器を片手に目を閉じ、気を落ち着かせている。
ここまで連れて来ておいて言うのもおかしな話かもしれないが、ジョニーにはやはりファラの容態が心配だった。
こんなものを持って大声を張り上げたら、どうなるか? ジョニーにもそれは予想がつく。
「何なら俺が喋ってもいいんだよ」
しかし、ファラは首を横に振る。
「ううん、これは私がやろうって決めたことだから……。だから私に喋らせて……」
体の方は不安定だったが、声に限って言えば先程から咳き込みを全くしていないファラ。
声帯だけが元に戻ったかのような様子だった。
「それで……何を喋るつもりなんだい? 『自分に戦う意志が無い』ってことだけを伝える為だったら、それこそ俺が……」
「ん~、私が元気だったらそれでも良かったんだけどね……。だけど、あれから色々考えて思ったことがあるから、それを伝えようかな~って」
「色々?」
ジョニーが問うと、ファラはいつになく真剣な表情に変わった。
「うん、色々……。だけど、一番言いたいのは、皆で結束してもらいたいってことかな?」
「結束……か」
今までに十数名の命が奪われ、皆が疑心暗鬼になっているだろうこの現状でも、結束は成立するのか? それは現実的に考えて疑問だった。
それでも結束をして欲しいと考えているファラは、理想主義者なのかそれとも……。
「よし! じゃあ、そろそろ大演説を始めちゃおう!」
気合を入れて、寄りかかっていた手すりから離れ、立ち上がるファラ。
それをジョニーが支える。
「ありがと……」
「いやいや、レディを支えてあげるのもジェントルマンの仕事ですから」
「うん。それじゃあ……いくよ!」
ファラには分かっていた。自分がもう長くない事が。
即死しなかったのが不思議なくらいの猛毒だったはずだ。
解毒功をかけてみたものの、弱っている体でかけているし、精神集中も不十分だったから、不完全な解毒しか出来ていない。
何とか体が動かせ、声を日常のそれと変わらないくらいちゃんと出せる程度の解毒。しかも一時的な解毒。
毒が再び体を侵食すれば、精神的に疲労した自分にはもう解毒功すら放てなくなるだろう。
つまり、毒が自分を完全に食い尽くすのをただ待つだけ。
だからこそ、解毒状態が続いているうちに、やるべき事があった。
それが、拡声器の使用。
最早、身を守る事すらも満足に出来ない自分にとって、出来る事といえばこの島にいる皆に呼びかけをする事。
この呼びかけに皆が応じてくれれば、自分の願いは達成された事になる。
……いや、欲を言えばリッドやキール、メルディに会っておきたいという願いもある。
放送を聴いて駆けつけてくれる仲間達。それはまるで物語のようによく出来た筋書き。
だけど、現実がそんなに都合よくないことは知っている。
だから思うのだ。
――せめて、自分の声がリッド達に届きますように……――
「うん、イケる、イケる!」
彼女はそんな願いを胸に、拡声器のスイッチを入れ、息を大きく吸い込んだ…………。
即死しなかったのが不思議なくらいの猛毒だったはずだ。
解毒功をかけてみたものの、弱っている体でかけているし、精神集中も不十分だったから、不完全な解毒しか出来ていない。
何とか体が動かせ、声を日常のそれと変わらないくらいちゃんと出せる程度の解毒。しかも一時的な解毒。
毒が再び体を侵食すれば、精神的に疲労した自分にはもう解毒功すら放てなくなるだろう。
つまり、毒が自分を完全に食い尽くすのをただ待つだけ。
だからこそ、解毒状態が続いているうちに、やるべき事があった。
それが、拡声器の使用。
最早、身を守る事すらも満足に出来ない自分にとって、出来る事といえばこの島にいる皆に呼びかけをする事。
この呼びかけに皆が応じてくれれば、自分の願いは達成された事になる。
……いや、欲を言えばリッドやキール、メルディに会っておきたいという願いもある。
放送を聴いて駆けつけてくれる仲間達。それはまるで物語のようによく出来た筋書き。
だけど、現実がそんなに都合よくないことは知っている。
だから思うのだ。
――せめて、自分の声がリッド達に届きますように……――
「うん、イケる、イケる!」
彼女はそんな願いを胸に、拡声器のスイッチを入れ、息を大きく吸い込んだ…………。
『皆聞える!? 私はファラ、ファラ・エルステッド!――』
演説は始まった。
耳をつんざくような大音量。それに重ねて、拡声器の音割れがキンキンと響く。
しかし、そんな大音量の演説を、ジョニーは嫌な顔一つせずに、目を閉じて聞いていた。
『皆に聞いて欲しい事があって、C3の村から喋っているの! 聞える? リッド、キール、メルディ!』
リッド、キール、メルディ……ファラとの会話中に彼女の口から何度も出てくる名前、彼女が最も信頼している仲間達。
そして、この演説を一番聴いて欲しいと思っている人達……。
『この島にいる皆は、このバトルロワイヤルについてどう思う!? 私は反対! どう考えたって、こんなのおかしいよ! 人の命をこんな風に使うなんて許せない!
確かに殺さなくちゃ殺されるのかもしれない。誰かが誰かを殺さないと全員死んじゃうのかもしれない! だけど、げほっ、それで本当に、げほっ、本当にいいの!? もう一度、げほっ、よく考えて!』
突如再発した吐血。
白かった拡声器が紅く染まり出す。
「おい、やっぱりもう止めないと……」
「大丈夫、大丈夫だから、お願い…………」
「だが、君の命がっ!」
「お願い! これが私の……最期の仕事になるかもしれ――あ」
拡声器のスイッチが入ったままであることにファラはそこで気付いた。
そして、彼女は拡声器を持ち直して、再び演説を続けた。
『…………私も誰か知らない女の子に殺されそうになった! だけど、げほっ! 私もその女の子を傷つけてしまった! こんなのって、ごほっ、あんまりだよ!
別の場所であっていたら、絶対友達になれたはずなのに、だよ! それなのにけほっ、このゲームは、そんな友達になれそうな子とも殺し合いをさせるの!
私は、私達にそんなことをさせるミクトランとかいう人を絶対に許さない! げほっ! 絶対に許さない!!』
ファラは血を吐きながらも、その目には固い意志がこめられていた。
『も、もし、私と同じ、ごほっ、同じ考えの人たちがいるのなら、絶対協力して!! 私はそんなに頭がよくないから分からないけど、げほっ、絶対にこんなゲームをやめさせる方法があるはずだから! 協力し合えば、けほ、きっとその方法だって見つけられるよ!!
殺し合いなんて絶対だめ!! げほっ! もう私みたいに苦しむ人が出て欲しくないよ!! ごほっ、だから……皆、協力し合って、お願い!!』
ファラの言う事は、実に単純明快なことだった。
だが、その単純さゆえに、ジョニーの心にもその意志は伝わる。
恐らく、この演説を聞いた人たちの中にも伝わった人はいるだろう。
『最後に……リッド、キール、それにメルディ!! 私、げほっ、リッド達をごほっ、信じてるんだからね!! げほっ、リッド達ならイケる、イケるよね!?』
ファラは、そう演説を締め、拡声器のスイッチを切った。
耳をつんざくような大音量。それに重ねて、拡声器の音割れがキンキンと響く。
しかし、そんな大音量の演説を、ジョニーは嫌な顔一つせずに、目を閉じて聞いていた。
『皆に聞いて欲しい事があって、C3の村から喋っているの! 聞える? リッド、キール、メルディ!』
リッド、キール、メルディ……ファラとの会話中に彼女の口から何度も出てくる名前、彼女が最も信頼している仲間達。
そして、この演説を一番聴いて欲しいと思っている人達……。
『この島にいる皆は、このバトルロワイヤルについてどう思う!? 私は反対! どう考えたって、こんなのおかしいよ! 人の命をこんな風に使うなんて許せない!
確かに殺さなくちゃ殺されるのかもしれない。誰かが誰かを殺さないと全員死んじゃうのかもしれない! だけど、げほっ、それで本当に、げほっ、本当にいいの!? もう一度、げほっ、よく考えて!』
突如再発した吐血。
白かった拡声器が紅く染まり出す。
「おい、やっぱりもう止めないと……」
「大丈夫、大丈夫だから、お願い…………」
「だが、君の命がっ!」
「お願い! これが私の……最期の仕事になるかもしれ――あ」
拡声器のスイッチが入ったままであることにファラはそこで気付いた。
そして、彼女は拡声器を持ち直して、再び演説を続けた。
『…………私も誰か知らない女の子に殺されそうになった! だけど、げほっ! 私もその女の子を傷つけてしまった! こんなのって、ごほっ、あんまりだよ!
別の場所であっていたら、絶対友達になれたはずなのに、だよ! それなのにけほっ、このゲームは、そんな友達になれそうな子とも殺し合いをさせるの!
私は、私達にそんなことをさせるミクトランとかいう人を絶対に許さない! げほっ! 絶対に許さない!!』
ファラは血を吐きながらも、その目には固い意志がこめられていた。
『も、もし、私と同じ、ごほっ、同じ考えの人たちがいるのなら、絶対協力して!! 私はそんなに頭がよくないから分からないけど、げほっ、絶対にこんなゲームをやめさせる方法があるはずだから! 協力し合えば、けほ、きっとその方法だって見つけられるよ!!
殺し合いなんて絶対だめ!! げほっ! もう私みたいに苦しむ人が出て欲しくないよ!! ごほっ、だから……皆、協力し合って、お願い!!』
ファラの言う事は、実に単純明快なことだった。
だが、その単純さゆえに、ジョニーの心にもその意志は伝わる。
恐らく、この演説を聞いた人たちの中にも伝わった人はいるだろう。
『最後に……リッド、キール、それにメルディ!! 私、げほっ、リッド達をごほっ、信じてるんだからね!! げほっ、リッド達ならイケる、イケるよね!?』
ファラは、そう演説を締め、拡声器のスイッチを切った。
言いたい事を言い切ったファラは、急に体の力が抜けたように崩れた。
「はぁ……はぁ……。よかった、言い切れたよジョニー……」
「あぁ、良くやった。だから、早くベッドへ……」
ジョニーがファラを抱えると、彼女は弱弱しくジョニーの服の袖を引っ張った。
「歌……ジョニーの歌を聞かせて……」
「あぁ、ベッドに横にしたらいくらでも――」
「今、がいいな。だめかな?」
弱弱しく微笑むファラを見て、ジョニーが断れるわけが無かった。
「仕方がないレディだよ、君は……」
彼は苦笑しつつその場に座ると、彼女を膝枕したままで歌い始めた。
「はぁ……はぁ……。よかった、言い切れたよジョニー……」
「あぁ、良くやった。だから、早くベッドへ……」
ジョニーがファラを抱えると、彼女は弱弱しくジョニーの服の袖を引っ張った。
「歌……ジョニーの歌を聞かせて……」
「あぁ、ベッドに横にしたらいくらでも――」
「今、がいいな。だめかな?」
弱弱しく微笑むファラを見て、ジョニーが断れるわけが無かった。
「仕方がないレディだよ、君は……」
彼は苦笑しつつその場に座ると、彼女を膝枕したままで歌い始めた。
夢であるように 瞳を閉じてあの日を思う
風に抱かれて笑っていた二人
いつか描いてた未来(あした)へ もう一度歩きだそう
たとえすべてを失っても 何かが生まれると信じて
きっとふたりの出逢いも 遠い日の奇跡だったから
今のこの状況……いや、バトルロワイアル自体が夢であって欲しい。
だが、夢で無い事は百も承知だ。
しかし、こんな夢であってほしい状況下で自分にとって幸運だったのはファラと出逢ったことかもしれない。
本当に短い間だったが、彼女と一緒に会話をしたりして時を過ごしたおかげで、こんなバトルロワイアルというゲームを少しでも忘れる事が出来た。
それに加え、彼女の明るさが迷いを秘めていた自分の心のそれを少しずつ照らしてくれた。
まさにファラとの出逢いはこんな血なまぐさい島での“奇跡”だったのかもしれない……。
だが、夢で無い事は百も承知だ。
しかし、こんな夢であってほしい状況下で自分にとって幸運だったのはファラと出逢ったことかもしれない。
本当に短い間だったが、彼女と一緒に会話をしたりして時を過ごしたおかげで、こんなバトルロワイアルというゲームを少しでも忘れる事が出来た。
それに加え、彼女の明るさが迷いを秘めていた自分の心のそれを少しずつ照らしてくれた。
まさにファラとの出逢いはこんな血なまぐさい島での“奇跡”だったのかもしれない……。
ジョニーが歌い終えると、ファラは拍手をしてくれた。
「ジョニー……やっぱり歌上手だね」
「一応、吟遊詩人だからね」
ジョニーは精一杯の笑みをファラに見せる。
するとファラも弱弱しいが笑みの表情を崩さずにいた。
「……あのさジョニー、またお願いなんだけど……」
「今度はなんだい?」
「リッド……リッド達とも出来れば会ってあげて……。そしてジョニーの仲間と一緒に協力し合って……」
彼女のリッドという少年達への信頼。
それは、十分に分かっていた。
「あぁ。分かっているさ」
「うん、ありがと………………」
急に言葉尻が小さくなったファラ。
続けてゆっくりと目を閉じ、体から力が抜けていった。
その様子を見て、まさかとジョニーは彼女の顔を見る。
「……ファラ?」
「……………………」
彼女は目を閉じたまま開こうとしない。
だが、その表情は穏やかなままだ。
首筋を触り、脈を確認する。そして、それを終えると……
「………………そうか」
ジョニーはただそう言って、彼女の髪を撫でる事しか出来なかった。
彼の頬から、水が滴り落ち、それが彼女の顔に当たる。
その水の流れはしばらく止まりそうに無かった…………。
「ジョニー……やっぱり歌上手だね」
「一応、吟遊詩人だからね」
ジョニーは精一杯の笑みをファラに見せる。
するとファラも弱弱しいが笑みの表情を崩さずにいた。
「……あのさジョニー、またお願いなんだけど……」
「今度はなんだい?」
「リッド……リッド達とも出来れば会ってあげて……。そしてジョニーの仲間と一緒に協力し合って……」
彼女のリッドという少年達への信頼。
それは、十分に分かっていた。
「あぁ。分かっているさ」
「うん、ありがと………………」
急に言葉尻が小さくなったファラ。
続けてゆっくりと目を閉じ、体から力が抜けていった。
その様子を見て、まさかとジョニーは彼女の顔を見る。
「……ファラ?」
「……………………」
彼女は目を閉じたまま開こうとしない。
だが、その表情は穏やかなままだ。
首筋を触り、脈を確認する。そして、それを終えると……
「………………そうか」
ジョニーはただそう言って、彼女の髪を撫でる事しか出来なかった。
彼の頬から、水が滴り落ち、それが彼女の顔に当たる。
その水の流れはしばらく止まりそうに無かった…………。
【ジョニー・シデン 生存確認】
所持品:メンタルリング 稲刈り鎌 アイフリードの旗 BCロッド サバイバルナイフ 拡声器
※ファラの荷物(アーチェの荷物含む)をどうするかは次の人に任せます
状態:深い悲しみ 新たな決意
基本行動方針:ファラの遺志を継ぐ ゲームからの脱出
第二行動方針:仲間との合流
第三行動方針:リッド達との合流
現在位置:C3の村
所持品:メンタルリング 稲刈り鎌 アイフリードの旗 BCロッド サバイバルナイフ 拡声器
※ファラの荷物(アーチェの荷物含む)をどうするかは次の人に任せます
状態:深い悲しみ 新たな決意
基本行動方針:ファラの遺志を継ぐ ゲームからの脱出
第二行動方針:仲間との合流
第三行動方針:リッド達との合流
現在位置:C3の村
【ファラ・エルステッド 死亡】
【残り33人】
【残り33人】