抱かぬ筈の彼女への情を彼は抱き
「──…ル・ユグドラシル、サレ、ミミー・ブレッド。以上の…」
ああ、そうか。
やはりあの首の無い死体はミミーだったのか。
今更ながら改めて告げられる事実に、トーマは決して取り乱すことなく理解した。
その前に呼ばれたかつての同僚の名など、気にかけもしなかった。元々毛嫌いしていたのもあるのだが。
歩は止まらず、前に進みながらミクトランの放送を聞く。
やはりあの首の無い死体はミミーだったのか。
今更ながら改めて告げられる事実に、トーマは決して取り乱すことなく理解した。
その前に呼ばれたかつての同僚の名など、気にかけもしなかった。元々毛嫌いしていたのもあるのだが。
歩は止まらず、前に進みながらミクトランの放送を聞く。
「──…アンとミミーは首輪が爆発し死亡した。禁止エリアに侵入したり等すれば彼女達と同じ、首から上を失う末路を辿る…」
あの町の区域は禁止エリアだったのか、と知る。
もっと早く知っていれば…しかし、そんな後悔など遅すぎて意味を持たない。
彼女をそのまま放置してきたが、誰かが見つけたら彼女の死を悲しんでくれるのだろうか。
彼女を弔えなかったのは禁止エリアに入ってしまうこともあったが、何よりあの惨い姿を見ていられなかったからだ。
首から上がなく、辺りに赤い血と「何か」が散らばっている光景。
今でも瞼の裏に焼き付いている。思い出す度に心が痛む。
彼女をこんな目に合わせたのは誰なのか…?
今手元にある、ない筈の武器。それは彼女の近くにあった。
もっと早く知っていれば…しかし、そんな後悔など遅すぎて意味を持たない。
彼女をそのまま放置してきたが、誰かが見つけたら彼女の死を悲しんでくれるのだろうか。
彼女を弔えなかったのは禁止エリアに入ってしまうこともあったが、何よりあの惨い姿を見ていられなかったからだ。
首から上がなく、辺りに赤い血と「何か」が散らばっている光景。
今でも瞼の裏に焼き付いている。思い出す度に心が痛む。
彼女をこんな目に合わせたのは誰なのか…?
今手元にある、ない筈の武器。それは彼女の近くにあった。
何故? 答えは直ぐに分かる。彼女が持ってきてくれたのだ。禁止エリアだとも知らず、わざわざ町にまで戻って。
だがその結果、ミミーは死んだ。
つまり、自分の不甲斐なさのせいで、彼女は死んだ。自分が殺したも当然だ。
彼女の命と武器、秤に掛けても圧倒的に命の方が重いのに。
──後悔しても後悔しきれない。それならするだけ無駄か。
この武器は彼女の置き土産。死と引き換えに持ってきてくれた、彼女の遺志。
ならば。
自分はこれで彼女の遺志に応えねばなるまい。
非業の死を迎えるなど、彼女は微塵も思っていなかっただろう。いや、死んだということを理解する時間さえあったのか?
こんな空しい結末を迎えさせるなど出来ない。彼女にはまだ未来が、生きる権利があるのだ。
間接的にでも彼女を殺してしまった自分に出来ることは、彼女を復活させることのみ。
その為には、全員を殺さなくてはならない。
後ろめたさや恐怖はなかった。王の盾、しかも四星の一人である自分に、人を殺めることへの戸惑いなど無い。
この胸の喪失感を埋める手立ては、彼女を復活させる以外ないのだから。
だがその結果、ミミーは死んだ。
つまり、自分の不甲斐なさのせいで、彼女は死んだ。自分が殺したも当然だ。
彼女の命と武器、秤に掛けても圧倒的に命の方が重いのに。
──後悔しても後悔しきれない。それならするだけ無駄か。
この武器は彼女の置き土産。死と引き換えに持ってきてくれた、彼女の遺志。
ならば。
自分はこれで彼女の遺志に応えねばなるまい。
非業の死を迎えるなど、彼女は微塵も思っていなかっただろう。いや、死んだということを理解する時間さえあったのか?
こんな空しい結末を迎えさせるなど出来ない。彼女にはまだ未来が、生きる権利があるのだ。
間接的にでも彼女を殺してしまった自分に出来ることは、彼女を復活させることのみ。
その為には、全員を殺さなくてはならない。
後ろめたさや恐怖はなかった。王の盾、しかも四星の一人である自分に、人を殺めることへの戸惑いなど無い。
この胸の喪失感を埋める手立ては、彼女を復活させる以外ないのだから。
彼はそもそも、ガジュマ至上主義者だった。
脆弱なるヒューマはガジュマに平伏すべきだ、そう考えていたから彼は同じガジュマ至上主義者のジルバに従っていた。
ヒューマなど利用するもの。例え居なくても構わない、寧ろ居なければいい。そう思っていた。
だが彼がこのゲームで一緒にいた少女、ミミー・ブレッドは、彼の目から見れば世界の二種族の片方、ヒューマであった。
本来なら分かりあえないヒューマの少女。しかし彼女は違かった。
敵かもしれない自分にパンを与えてくれ、話してくれ、笑いかけてくれ、共に行動してくれた。
彼女は太陽だった。
暖かい陽射しのような包容力。絶対の存在感を思わせる笑顔。
気付けば彼女の存在は大きいものと化していた。ヒューマを蔑ろにしていた彼にとって、彼女の存在は特別なものだった。
だが、今は。
足元の水面に映るのは、深い闇の空と無数の瞬きを見せる星、赤と青の二つの月。
そこにはない。
太陽は、没してしまったのだ。
そして彼の心に真の夜明けは訪れない。太陽が蘇るまでは。
脆弱なるヒューマはガジュマに平伏すべきだ、そう考えていたから彼は同じガジュマ至上主義者のジルバに従っていた。
ヒューマなど利用するもの。例え居なくても構わない、寧ろ居なければいい。そう思っていた。
だが彼がこのゲームで一緒にいた少女、ミミー・ブレッドは、彼の目から見れば世界の二種族の片方、ヒューマであった。
本来なら分かりあえないヒューマの少女。しかし彼女は違かった。
敵かもしれない自分にパンを与えてくれ、話してくれ、笑いかけてくれ、共に行動してくれた。
彼女は太陽だった。
暖かい陽射しのような包容力。絶対の存在感を思わせる笑顔。
気付けば彼女の存在は大きいものと化していた。ヒューマを蔑ろにしていた彼にとって、彼女の存在は特別なものだった。
だが、今は。
足元の水面に映るのは、深い闇の空と無数の瞬きを見せる星、赤と青の二つの月。
そこにはない。
太陽は、没してしまったのだ。
そして彼の心に真の夜明けは訪れない。太陽が蘇るまでは。
彼がこのバトル・ロワイアルで学んだことは大きい。
しかし、それ故に彼は血塗られた道を歩まねばならぬのである。
しかし、それ故に彼は血塗られた道を歩まねばならぬのである。
それは彼の意思。自ら選択した道。
悲壮な覚悟を決めた彼を誰が止められようか?
後を追うポットラビッチヌスでさえ、彼の行く手を遮ることは出来なかった。
ゲームに勝利し、ミミーを復活させる。
トーマはこの大前提を軸として動いていた。
悲壮な覚悟を決めた彼を誰が止められようか?
後を追うポットラビッチヌスでさえ、彼の行く手を遮ることは出来なかった。
ゲームに勝利し、ミミーを復活させる。
トーマはこの大前提を軸として動いていた。
その時、北から聞こえた甲高い悲鳴。
気のせいか? あのジファイブの町に居た女の声に似ていた気がした。
これも願望が成せる幻聴なのだろうか。だが、そんなことは関係ない。
誰かが居る。しかも悲鳴があの女のものなら、ジファイブの四人がいると考えていい。
彼女を死に追いやった原因の奴ら──根本的な原因は自分にあると考えているが──がすぐ近くに居るのだ。見逃す手はない。
彼は背後を振り返り、まるで体格差の違う青い獣に語り掛ける。
気のせいか? あのジファイブの町に居た女の声に似ていた気がした。
これも願望が成せる幻聴なのだろうか。だが、そんなことは関係ない。
誰かが居る。しかも悲鳴があの女のものなら、ジファイブの四人がいると考えていい。
彼女を死に追いやった原因の奴ら──根本的な原因は自分にあると考えているが──がすぐ近くに居るのだ。見逃す手はない。
彼は背後を振り返り、まるで体格差の違う青い獣に語り掛ける。
「クィッキー、俺はミミーを復活させる為に全員を殺す。構わないぞ、離れても。ヒトが死ぬ所などお前も見たくないだろう?」
「クィィィィ…」
「クィィィィ…」
青の獣クィッキーは嫌がったようだった。声色には明らかな不満の色が出ている。
自分も仲間だ。最後まで見届けさせてくれ、と言わんばかりの眼差しだった。
本当は、暴走に近いトーマが心配で不安で見ていられないからだった。
自分も仲間だ。最後まで見届けさせてくれ、と言わんばかりの眼差しだった。
本当は、暴走に近いトーマが心配で不安で見ていられないからだった。
「そうか…悪いことをさせるな」
「クィッキ!」
「クィッキ!」
トーマは前に向き直り、前進を開始する。
本当は川を直接越えて北西、正しくは演説があったシースリ村(トーマはジファイブの町に向かう途中ファラの放送を聞いていた)を目指す予定だった。
今居るE5エリアの川は比較的広く浅く、歩いて横断するのも無理ではなかった。
が、悲鳴が聞こえてしまった以上、行き先を変更するもやむなし。
まずこの──メガグランチャーをあの四人に撃ち込まねば気が済まない。
それは客観的に見れば、自己満足や八つ当たりにしか見えないのかもしれない。
禁止エリアを決めたのはミクトランで、あの四人は実質彼女に何の危害も加えていない。
せいぜい火計を行ったことと彼女の帽子を燃やしたこと、あとは胡椒を振り掛けてきたことくらいか。
よくよく考えれば唯の自己防衛と思える。
だが、今の自分は誰かに罪を被せなければ、動くことは出来なかった。理由なく動くのと、無差別に人を殺すのは今は同じ意味になる。
今の自分はあくまで彼女の為に。
その為には、「彼女を殺した連中へ向ける復讐の矛先」が必要なのだ。
それが、あの四人。
本当は川を直接越えて北西、正しくは演説があったシースリ村(トーマはジファイブの町に向かう途中ファラの放送を聞いていた)を目指す予定だった。
今居るE5エリアの川は比較的広く浅く、歩いて横断するのも無理ではなかった。
が、悲鳴が聞こえてしまった以上、行き先を変更するもやむなし。
まずこの──メガグランチャーをあの四人に撃ち込まねば気が済まない。
それは客観的に見れば、自己満足や八つ当たりにしか見えないのかもしれない。
禁止エリアを決めたのはミクトランで、あの四人は実質彼女に何の危害も加えていない。
せいぜい火計を行ったことと彼女の帽子を燃やしたこと、あとは胡椒を振り掛けてきたことくらいか。
よくよく考えれば唯の自己防衛と思える。
だが、今の自分は誰かに罪を被せなければ、動くことは出来なかった。理由なく動くのと、無差別に人を殺すのは今は同じ意味になる。
今の自分はあくまで彼女の為に。
その為には、「彼女を殺した連中へ向ける復讐の矛先」が必要なのだ。
それが、あの四人。
偽りの標的を作らねばならない程、彼の願いは盲目で、成し遂げたい願いであった。
全ては一人のヒューマの少女の為に。
【トーマ 生存確認】
状態:右肩に擦り傷(軽傷) 軽い火傷 TP小消費 漆黒の翼への強い復讐心
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、メガグランチャー、ライフボトル、ウィングパック×2 イクストリーム 金のフライパン マジカルポーチ ペルシャブーツ
基本行動方針:ミミーを蘇らせる
第一行動方針:声が聞こえた方角(北)へ向かう
第二行動方針:漆黒の翼に復讐する
現在地:E5 川中央部
状態:右肩に擦り傷(軽傷) 軽い火傷 TP小消費 漆黒の翼への強い復讐心
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、メガグランチャー、ライフボトル、ウィングパック×2 イクストリーム 金のフライパン マジカルポーチ ペルシャブーツ
基本行動方針:ミミーを蘇らせる
第一行動方針:声が聞こえた方角(北)へ向かう
第二行動方針:漆黒の翼に復讐する
現在地:E5 川中央部
クィッキー
状態:不安
第一行動方針:トーマについていく
状態:不安
第一行動方針:トーマについていく