同床異夢
【Side L】
キィンッ!
夜の帳も下りようとする頃、E5の平原地帯には、絶えず剣戟の音が響いていた。
リオンは目の前の不気味な男――自身と同じ顔、同じ容姿をした――を見据えて、対抗し、技を放つべくソーディアン・シャルティエを構える。
リオンは目の前の不気味な男――自身と同じ顔、同じ容姿をした――を見据えて、対抗し、技を放つべくソーディアン・シャルティエを構える。
走り、目前に迫った相手を目掛けて曲刀を振り上げる。それは『虎牙破斬』というリオンの特技の一つだったが、黒衣の剣士にはいとも容易くかわされてしまった。
――どういうことだ?
まだ初撃のモーションに入ったばかりだというのに、その男はまるで勝手知ったる、とでも言わんばかりに軽々と飛翔してみせ、気付けばリオンのすぐ傍まで接近していた。
そして何の躊躇も感じられない動作で双剣を構え、斬りつける。
「くっ……!」
リオンは多少混乱しつつも体勢を立て直し、地面を転がってその一撃を回避した。
だが、すかさずそこへ男の追撃が迫る。
リオンは止む無くシャルティエを振りかざし、左腕一本で男の剣を受け止めた。しかし自身と同じく華奢な身体から繰り出される剣圧は想像以上に重く、腰が沈みかける。
『坊ちゃん!』
だが、すかさずそこへ男の追撃が迫る。
リオンは止む無くシャルティエを振りかざし、左腕一本で男の剣を受け止めた。しかし自身と同じく華奢な身体から繰り出される剣圧は想像以上に重く、腰が沈みかける。
『坊ちゃん!』
堪らずシャルティエが声を上げた。うるさい、とリオンは一言憎まれ口を叩くと、右腕をシャルティエの柄に添え、男の刃を弾いた。全身に力を入れた一瞬、不意に腹部の痛みが増した。
けれども今はそんなことを気にしている暇はない。
早くこの気味の悪い男を片付け、マリアンを生き返らせなければならないのだ。彼女はこんな醜い場所で死んでいい人間ではないのだから。
けれども今はそんなことを気にしている暇はない。
早くこの気味の悪い男を片付け、マリアンを生き返らせなければならないのだ。彼女はこんな醜い場所で死んでいい人間ではないのだから。
「はぁっ!」
一旦、距離を取った男――ジューダス――を目掛けてリオンは再び走る。
「爪竜連牙斬!」
目にもとまらぬ四連続の斬りつけ……ところが、この攻撃も全て、ジューダスの双剣によって阻まれた。掠り傷一つ負わせることが出来ず、思わずリオンは目を瞠る。
(何故だ? ……まさか、僕の攻撃が全て読まれているとでもいうのか!?)
動きが鈍ったリオンに、ジューダスは再び攻撃を仕掛けようとはせず、一定の間合いを取りつつ、この戦いが始まってから初めて口を開いた。
「お前……先ほど“マリアンを生き返らせる”と言っていたな。どういう意味だ? よもやミクトランの言葉を信じているだなんてことは……ないだろうな」
語尾には自嘲とも取れる響き。
されどリオンはシャルティエを構え直し、ジューダスの問いに答える気はない、ということを無言で示した。
されどリオンはシャルティエを構え直し、ジューダスの問いに答える気はない、ということを無言で示した。
「フン、答える気はないか。まぁ無理もない。ならば、力尽くでも聞き出すまでだ!」
「……貴様にそれができるのなら、な!」
「……貴様にそれができるのなら、な!」
二人は同時に走り出した。ジューダスは剣を抜き、真っ直ぐにリオンを見据える。
近づき、二つの剣が衝突するかと思いきや――リオンの姿は消えていた。
男が振り仰いだ先には、シャルティエを垂直に構え、落下の姿勢を取るリオンの姿。『空襲剣』だ。バックスッテップして大きく跳躍した後、相手の頭上を目掛けて突きを繰り出す特技。
ジューダスはそれすら難なく避ける――が、リオンが狙っていたのは『空襲剣』の直撃ではなかった。
ジューダスの一瞬の隙を突き、技そのものの勢いで近くの草叢へと転がり込む。そして間髪入れずに意識を剣に集中した。シャルティエのコアクリスタルが、ぽうっと不穏な光を宿す。
ここからは相手の姿が丸見えだが、あちらからリオンの姿を確認するのには、少々の時間が掛かるだろう。しかし、そのほんの少しの時間でさえ、リオンが技を発動するには十分だった。
会場内のマナの力を取り込んで、コアクリスタルの光が徐々に大きく膨らんでいく。
近づき、二つの剣が衝突するかと思いきや――リオンの姿は消えていた。
男が振り仰いだ先には、シャルティエを垂直に構え、落下の姿勢を取るリオンの姿。『空襲剣』だ。バックスッテップして大きく跳躍した後、相手の頭上を目掛けて突きを繰り出す特技。
ジューダスはそれすら難なく避ける――が、リオンが狙っていたのは『空襲剣』の直撃ではなかった。
ジューダスの一瞬の隙を突き、技そのものの勢いで近くの草叢へと転がり込む。そして間髪入れずに意識を剣に集中した。シャルティエのコアクリスタルが、ぽうっと不穏な光を宿す。
ここからは相手の姿が丸見えだが、あちらからリオンの姿を確認するのには、少々の時間が掛かるだろう。しかし、そのほんの少しの時間でさえ、リオンが技を発動するには十分だった。
会場内のマナの力を取り込んで、コアクリスタルの光が徐々に大きく膨らんでいく。
「プレス!」
突如、ジューダスの頭上に巨大な岩が出現した。その岩は狙いを違わず、地へと吸い込まれるように落下していく。
ゴォォン!!
轟音を立てて岩が落下した場所には、ジューダスの姿はなかった。そして、リオンの姿も。
技の影響で陥没した大地に、まるで砂漠のようにもうもうと砂煙が舞っている。
技の影響で陥没した大地に、まるで砂漠のようにもうもうと砂煙が舞っている。
(僕の技や術が避けられることは……悔しいがわかっていた。ならば!)
リオンは数時間前に遭遇した桃色の髪をした女性――ハロルド――のことを思い出していた。彼女もリオンの術の発動をいち早く感知し、見事に避けきってみせたのだ。
この男もそうだ。いや、この男はあの女よりも性質が悪い。
術だけでなく剣技までも、まるで先を読むかのように、するりとかわしていくのだ。
この男もそうだ。いや、この男はあの女よりも性質が悪い。
術だけでなく剣技までも、まるで先を読むかのように、するりとかわしていくのだ。
そう、だからこの晶術『プレス』は相手の注意を引くためだけの囮に過ぎなかった。端から命中するなどという愚かな期待はしていない。目的は相手の視界を一時的にでも奪うこと――リオンは簡易レーダーに視線を落とし、素早い身のこなしで、ジューダスの背後に近づいた。
確実に致命傷を与えられるよう、首筋に狙いを定め、剣を振るう。
確実に致命傷を与えられるよう、首筋に狙いを定め、剣を振るう。
――これで終わりだ!
『坊ちゃん、駄目だ!』
「なにっ!?」
「なにっ!?」
シャルティエが何に対して『駄目だ』と言ったのかはわからない。僕の間合いについてか? それとも、別の何か――……
「……幻影回帰」
リオンが思案からハッと我に帰り、気付くと目の前に男の姿はなく、代わりに自分と同じ声が背後から聞こえていた。
「なっ……!?」
一瞬、反応が遅れた。それにより、直撃は免れたものの、ジューダスの刃の一撃がリオンの荷物袋を弾き飛ばす。
……と、袋の中身が飛び出し、ごとり、と地面に落ちた。
最愛の彼女――マリアンが入っていたペットボトルが無惨にも切断され、大地に転がっていた。赫い血が、彼女の一部が、じわりじわりと一所に留まらず広がっていく。
―――このまま抱き合えると思っていた。
「エ、ミ゛………」彼女の掠れた声。
「え…?」自分の情けない声。
そして、その後に起こったのは―――
「マ…リ、アン……」
リオンは呆然と呟いた。
彼の目に映るのは、今は肉塊と化した、自らが愛した……最も愛されたかった女性の変わり果てた姿。
彼の目に映るのは、今は肉塊と化した、自らが愛した……最も愛されたかった女性の変わり果てた姿。
――全身が震えた。
シャルティエを握り締める左手の指の骨が、あまりにも強いその力に軋み、音を立てる。
――心の支えが、また無くなってしまった。
「うああああああっ! マリアン、マリアンが……!!」
リオンは混乱していた。彼の脳裏に過ぎるのは、かつてマリアンを失ったときの記憶。そして今また、ようやく一つに収まったと思った彼女の亡骸が、地に飛び散った。赫く染まった記憶は、彼の理性を奪った。
――憎い……マリアンをまたバラバラにしたアイツが、同じ声をした、同じ顔をしたアイツが!
「魔人闇!!」
自身の身体の損傷も気にせず、全ての力を注いで、リオンはあの憎い男に放つ。
射程距離が広い、シャルティエによるその五連突きは、流石のジューダスでも全てを防ぎきることはできなかったようだ。
双剣を交差し、猛烈な勢いで迫り来る突きを受け止めるだけで精一杯のように見えた。
射程距離が広い、シャルティエによるその五連突きは、流石のジューダスでも全てを防ぎきることはできなかったようだ。
双剣を交差し、猛烈な勢いで迫り来る突きを受け止めるだけで精一杯のように見えた。
「ぐっ……!」
リオンの猛攻は尚も止まない。ジューダスは右手に構えたアイスコフィンに渾身の力を込めてシャルティエを弾き、左手に構えた短剣をリオンの首元に据えた。
これで動きが止まると思ったのだろう。
しかし、今のリオンは己が置かれている状況を理解できるほど、冷静ではなかったのだ。
これで動きが止まると思ったのだろう。
しかし、今のリオンは己が置かれている状況を理解できるほど、冷静ではなかったのだ。
ブツリ、とリオンの首筋に忍刀桔梗の刃が食い込み、血が一筋流れる。
けれどリオンは構わなかった。ジューダスが怯んで剣を反すのを見て取ると、本来、近接技ではない『魔神剣』を超至近距離で撃つ。
けれどリオンは構わなかった。ジューダスが怯んで剣を反すのを見て取ると、本来、近接技ではない『魔神剣』を超至近距離で撃つ。
「ぐあぁっ!」
男の悲鳴を聞き、リオンの口元が歪んだ笑みに象られた。だが、次の瞬間、彼の目はまたしても驚愕により見開かれることになる。
『魔神剣』の剣圧により竜骨の仮面が吹き飛んだ男の顔は、正に“自分自身”そのものだったのだ――
【Side J】
ジューダスは混乱していた。
理由の一つは、生き残っていればいずれは訪れるであろう“自分”との出逢い。
名簿を見たときから覚悟していたが、いざ目の前に居るのだ、過去の自分が。
これはエルレイン――ジューダスの元の世界に居た聖女の一人――が見せた幻でも、夢でもない。紛れもない現実。
実際、目の前に居るもう一人の自分は、呼吸をして、二本の足でしっかりと大地を踏みしめている。
名簿を見たときから覚悟していたが、いざ目の前に居るのだ、過去の自分が。
これはエルレイン――ジューダスの元の世界に居た聖女の一人――が見せた幻でも、夢でもない。紛れもない現実。
実際、目の前に居るもう一人の自分は、呼吸をして、二本の足でしっかりと大地を踏みしめている。
そして二つめ……それは、今でも変わらず愛情を注ぐ女性、マリアンの死亡(リタイア)だった。
忌々しいミクトランの放送によると、彼女は参加者の誰かに殺害されたのではなく、“首輪が爆発した”ために死亡したのだという。
ジューダスはこの“首輪の爆発”という死因に何か引っ掛かりを感じていた。彼女は自ら禁止エリアに踏み込むほど愚かではない。恐らく、寝過ごして放送を聞き逃した、などということもないだろう。……では何故?
忌々しいミクトランの放送によると、彼女は参加者の誰かに殺害されたのではなく、“首輪が爆発した”ために死亡したのだという。
ジューダスはこの“首輪の爆発”という死因に何か引っ掛かりを感じていた。彼女は自ら禁止エリアに踏み込むほど愚かではない。恐らく、寝過ごして放送を聞き逃した、などということもないだろう。……では何故?
考えられるのは、誰かに禁止エリアに突き飛ばされたか――これは最も考えたくはないが――自殺か。
それとも、主催者であるミクトラン自らが手を下した、のどれかだ。
お喋りなミクトランのことだ、もう少し情報を漏らすのでは……とも考えたが、流石にそこまで軽率ではなかったらしい。首輪の爆発による死者二人の、詳しい死亡理由は聞かされないまま、放送は終わった。
『首輪は私が望んだ瞬間に爆発させられる。死にたくなければ、私の機嫌を損ねるような真似は止めておけ』
ジューダスの耳に、このバトル・ロワイアルが始まってからすぐ、ルールを説明していたミクトランの声が蘇った。
そうだ、主催者ならばいつでも首輪を発動させることは可能だ。
ジューダスの耳に、このバトル・ロワイアルが始まってからすぐ、ルールを説明していたミクトランの声が蘇った。
そうだ、主催者ならばいつでも首輪を発動させることは可能だ。
そして、そのマリアンの遺体の一部を、自分――リオンが所持していたということ。
首輪が発動したとき、もしかすると彼はそのすぐ傍に居たのではないか?
リオンの性格から推測するに、彼自身が彼女に直接手を下すとは考え難い。
それに、他人の話をまったく聞かない、まるで、過去の“ある一部分”にトリップしてしまったかのような状態……ジューダスは、自らの犯した事実ながら、苦笑するしかなかった。そして尚更強く確信するのだ、あれは自分なのだ、と。
首輪が発動したとき、もしかすると彼はそのすぐ傍に居たのではないか?
リオンの性格から推測するに、彼自身が彼女に直接手を下すとは考え難い。
それに、他人の話をまったく聞かない、まるで、過去の“ある一部分”にトリップしてしまったかのような状態……ジューダスは、自らの犯した事実ながら、苦笑するしかなかった。そして尚更強く確信するのだ、あれは自分なのだ、と。
とにかく、詳しい話をリオンから聞き出すには、まず彼を落ち着かせるしかない。――例えどんな手段を持ってしても。
一見、冷静を装っていながらも、ジューダスの頭の中は様々な憶測や疑問、これからのこと、目の前に居る自分のこと……一度には解決できない問題で溢れかえっていた。
一見、冷静を装っていながらも、ジューダスの頭の中は様々な憶測や疑問、これからのこと、目の前に居る自分のこと……一度には解決できない問題で溢れかえっていた。
そんなジューダスの心情を知ってか知らずか、今のリオンの状態からいえばきっと後者だろうが、彼は戸惑いなく剣を振るってみせた。
リオンの左手に握られている、ソーディアン・シャルティエ。
ジューダスの世界ではもう失われてしまった相棒を、彼は懐かしい気持ちで見つめた。
リオンの左手に握られている、ソーディアン・シャルティエ。
ジューダスの世界ではもう失われてしまった相棒を、彼は懐かしい気持ちで見つめた。
リオンがそのシャルティエを振り上げる。これは、特技『虎牙破斬』の最初の動きだ。対象を剣で斬り上げた後、そのまま斬り下ろす二段斬り、そして突進を加えるという攻撃方法。
ジューダスには手に取るように、その動きが予測できた。
何せ、昔自分が散々稽古し、体に叩き込んだ技だ。忘れようがない。
ジューダスには手に取るように、その動きが予測できた。
何せ、昔自分が散々稽古し、体に叩き込んだ技だ。忘れようがない。
あっさりかわしてみせると、リオンはいささか驚いたようだった。
無理もないだろう。目前に己と同じ顔の男が居て、繰り出した技すら掠りもしない。……まるでドッペルゲンガーとでも戦っているような気分なのだろうか。
無理もないだろう。目前に己と同じ顔の男が居て、繰り出した技すら掠りもしない。……まるでドッペルゲンガーとでも戦っているような気分なのだろうか。
ジューダスはその一瞬の隙を見逃さず、すぐさまリオンに対して双剣を振るった。しかし、流石というべきか、何というべきか……もしかしたらリオン自身も何か感じるところがあるのだろうか、直前でその攻撃は回避されてしまった。
だが姿勢を崩したリオンに向かい、ジューダスは再びアイスコフィンと忍刀桔梗で追い撃ちをかける――が、
だが姿勢を崩したリオンに向かい、ジューダスは再びアイスコフィンと忍刀桔梗で追い撃ちをかける――が、
『坊ちゃん!』
今は亡き自身の片割れ……シャルティエの声を聞き、ジューダスの動きが止まった。そう、いつも傍にいた。最期まで共にあった声だ。
その声は恐らくリオンに対して発せられたものだったのだろうが、ジューダスにとっては、決心が揺らぐ一因になった。そして、新たな疑問が首をもたげる。
思わず距離を取ったジューダスに、リオンの剣、シャルティエが迫る。
その声は恐らくリオンに対して発せられたものだったのだろうが、ジューダスにとっては、決心が揺らぐ一因になった。そして、新たな疑問が首をもたげる。
思わず距離を取ったジューダスに、リオンの剣、シャルティエが迫る。
「爪竜連牙斬!」
チッ、とジューダスは内心舌打ちし、後方へ退き、双剣でその凄まじい突きを弾き、防ぐ。全ての攻撃を阻まれたことに、やはりリオンは驚き、目を瞬いたようだ。
ジューダスは一度剣を納め、しかし警戒は解かずに口を開いた。
「お前……先ほど“マリアンを生き返らせる”と言っていたな。どういう意味だ? よもやミクトランの言葉を信じているだなんてことは……ないだろうな」
ミクトランを信じる――ヒューゴを信じる。
昔の自分が行った罪。責任を押し付ける気は毛頭ないが、その発端となった存在・ミクトラン。
そんな奴に、また“自分”は良いように操られているのか。
もしそうだとしたら、落胆、失望する以外に何ができよう。
昔の自分が行った罪。責任を押し付ける気は毛頭ないが、その発端となった存在・ミクトラン。
そんな奴に、また“自分”は良いように操られているのか。
もしそうだとしたら、落胆、失望する以外に何ができよう。
しかしながら、リオンは答える気はないらしく、チャキ、とシャルティエを構え、改めてジューダスを無言で睨み据えた。
その頑なともいえる姿勢に、ジューダスは苛立ちを感じた。
何故、何故僕はいつも、他者に頼るのを良しとしなかった? それが、結果的にマリアンを最も傷つけることになると、薄々わかっていながら……――
何故、何故僕はいつも、他者に頼るのを良しとしなかった? それが、結果的にマリアンを最も傷つけることになると、薄々わかっていながら……――
「フン、答える気はないか。まぁ無理もない。ならば、力尽くでも聞き出すまでだ!」
「……貴様にそれができるのなら、な!」
「……貴様にそれができるのなら、な!」
ジューダスの言葉に、今度はリオンも気迫で応えた。
二人はお互いを目掛けて走り出す。
またがむしゃらな攻撃を仕掛けてくるか、とジューダスが受け流しの姿勢を取ろうとしたとき、既にリオンの姿は目の前になかった。
またがむしゃらな攻撃を仕掛けてくるか、とジューダスが受け流しの姿勢を取ろうとしたとき、既にリオンの姿は目の前になかった。
(これは……!)
『空襲剣』――ジューダスは、その後、襲ってくるであろう上空からの突き攻撃を想定し、その場から離れた。
しかし、リオンの狙いはそうではなかったのだ。
リオンは落下の勢いのまま地面を転がり、近くにあった草叢へと身を隠した。急ぎジューダスもその姿を目で追う、けれど、タッチの差で、もうリオンを確認できなくなっていた。
しかし、リオンの狙いはそうではなかったのだ。
リオンは落下の勢いのまま地面を転がり、近くにあった草叢へと身を隠した。急ぎジューダスもその姿を目で追う、けれど、タッチの差で、もうリオンを確認できなくなっていた。
(晶術を撃つ気か……? それなら……)
ジューダスは精神を落ち着かせ、研ぎ澄ませる。目を瞑り、会場内のマナの流れを感じ取る。リオンが術を撃つのなら、シャルティエのコアクリスタルにマナを取り込むことが必須だ。例えそれがわずかな時間でも――
「プレス!」
予想通り、彼は草叢の影から晶術を放ってきた。大岩が落下する。辺りに土煙がたちこめ、視界を奪う。
……と、リオンの気配をすぐ近くに感じた。
けれどジューダスは焦らず、特技『幻影刃』を発動し、そして、追加特技の『幻影回帰』により、リオンの一閃を避けることに成功した。『幻影回帰』はその名の通り、『幻影刃』を発動した位置から高速で移動して相手の背後に回り、再び元の位置に戻ってくるという技だ。
……と、リオンの気配をすぐ近くに感じた。
けれどジューダスは焦らず、特技『幻影刃』を発動し、そして、追加特技の『幻影回帰』により、リオンの一閃を避けることに成功した。『幻影回帰』はその名の通り、『幻影刃』を発動した位置から高速で移動して相手の背後に回り、再び元の位置に戻ってくるという技だ。
『坊ちゃん、駄目だ!』
「なにっ!?」
「なにっ!?」
シャルティエの注意も虚しく、空振りした剣は宙を裂き、リオンには大きな隙が出来た。その間にジューダスは彼の背後に回り、アイスコフィンを横一線に薙ぎ払った。
「なっ……!?」
リオンの驚愕の声。しかし、瞬時に体勢を立て直したため直撃は避けられてしまった。ジューダスが斬ったのは、リオンのマントの端と、背負っていた荷物袋……。
しまった。
そう思ったときには遅かった。マリアンだった“モノ”は地面に広がり、その場に赤黒い絨毯を敷いていた。
(アレが……マリアン? まさか、まさかそんな……!!)
ジューダスはまじまじとその肉片を目にし、改めて現実を突きつけられた気がした。彼女の死を。過去の自分の愚かさを。
「マ…リ、アン……」
リオンの、呆然とした、今にも泣き出しそうな呟きが耳に入る。
泣き出したいのは自分も同じだった。
狙ったわけではない、僕は、わざわざマリアンを、こんな風にしたかったわけじゃ……!
泣き出したいのは自分も同じだった。
狙ったわけではない、僕は、わざわざマリアンを、こんな風にしたかったわけじゃ……!
「うああああああっ! マリアン、マリアンが……!!」
箍(たが)が外れてしまったかのように、リオンが悲痛な叫びを上げる。頭を抱え、悶え苦しむように地面に膝を突く。必死に何かを振り払おうとしているのか、頭を振り、泣き叫ぶ。
攻撃するには恰好の機会だった。しかし、ジューダスも思わず足が竦んで、動くことができなかった。それに、今の自分にリオンを斬るなど、できそうになかった。マリアンを喪った哀しみは、二人とも同じなのだから。
暫く時間が経った頃だろうか。五分だったのか、三十分だったのか、それとも一時間だったのか……わからない。ジューダスもまた混乱していたのだ。
すると、不意にリオンが立ち上がった。
振り返ってこちらを見る目には、恐ろしいほどの激情が宿っていた。
すると、不意にリオンが立ち上がった。
振り返ってこちらを見る目には、恐ろしいほどの激情が宿っていた。
「魔人闇!!」
突如、リオンが刹那にして距離を詰め、光速の五連突きを放ってきた。勢いも気迫も、今までの彼とは比較にもならない。放心していたジューダスは、突きが命中する瞬間、咄嗟に我に帰り剣を抜いた。硬質な音を立てて、シャルティエの刃を弾き返す。
「ぐっ……!」
リオンの猛攻は尚も止まない。ジューダスは右手に構えたアイスコフィンに渾身の力を込めてシャルティエを弾き、左手に構えた短剣をリオンの首元に据えた。
これで、動きが止まるかと思った。
しかし、今のリオンは己が置かれている状況を正常に理解できるほど、冷静ではなかったのだ。
これで、動きが止まるかと思った。
しかし、今のリオンは己が置かれている状況を正常に理解できるほど、冷静ではなかったのだ。
ブツリ、とリオンの首筋に忍刀桔梗の刃が食い込み、血が一筋流れる。
だがリオンは止まらず、刃が更に深く突き刺さろうとも、一歩も退こうとはしなかった。
やばい……! ジューダスはそう思い、短刀を首から離す。殺しては駄目だ、コイツからは聞かなければならないことが山ほどある!
だがリオンは止まらず、刃が更に深く突き刺さろうとも、一歩も退こうとはしなかった。
やばい……! ジューダスはそう思い、短刀を首から離す。殺しては駄目だ、コイツからは聞かなければならないことが山ほどある!
けれど、その判断が命取りになった。
リオンは、本来、近接技ではない『魔神剣』を超至近距離で撃ったのだ。
リオンは、本来、近接技ではない『魔神剣』を超至近距離で撃ったのだ。
「ぐあぁっ!」
双剣では対応しきれず、ジューダスの肉体は剣圧により引き裂かれ、真っ赤な血が噴出した。左胸から右肩に掛けて裂傷ができる。
その瞬間、目の端で、にやりと口元を歪めるリオンを捉えた。
その瞬間、目の端で、にやりと口元を歪めるリオンを捉えた。
――もう駄目なのか? やはり、過去の自分は殺さなければならないのか……!?
しかし、追撃を加えてくると思われたリオンは、驚愕の表情でそこに立ち尽くしているだけだった。
『魔神剣』の剣圧により竜骨の仮面が吹き飛び、ジューダスの素顔が、顕わになった瞬間だった……。
【Side E】
正に「生き写し」という言葉がぴったりと当てはまる二人だった。
否、その表現はおかしい。
何故なら、この二人はそもそも同一人物なのだから。
否、その表現はおかしい。
何故なら、この二人はそもそも同一人物なのだから。
「な……何なんだ、お前……」
先に声を発したのはどちらのほうだろうか。
リオンだ。
唖然たる面持ちで、左腕にはソーディアン・シャルティエをぶら下げている。
その紫の瞳は驚愕に見開かれ、信じられない、といった表情を作っていた。
リオンだ。
唖然たる面持ちで、左腕にはソーディアン・シャルティエをぶら下げている。
その紫の瞳は驚愕に見開かれ、信じられない、といった表情を作っていた。
「…………」
無言で立ち上がったのは、黒衣の少年。ジューダス。
傷口からは血が滴っていたが、気にする素振りも見せず、目の前の相手――リオンに向き直る。
彼は右手にひやりとした輝きを宿す剣、アイスコフィンを握っている。左手には、血のついた短剣を持っていた。
傷口からは血が滴っていたが、気にする素振りも見せず、目の前の相手――リオンに向き直る。
彼は右手にひやりとした輝きを宿す剣、アイスコフィンを握っている。左手には、血のついた短剣を持っていた。
ジューダスは黙って仮面の弾き飛ばされたほうを見遣る。それは何とか形を保ってはいたが、再び強い衝撃を与えればいとも容易く壊れるだろう。
「僕は……お前だ。わかっているのだろう?」
「気味の悪いことを言うな! 僕は僕だ、一人しか居ない! 貴様とは違う!」
「気味の悪いことを言うな! 僕は僕だ、一人しか居ない! 貴様とは違う!」
リオンは声を荒げた。
対してジューダスは、ただ静かに立っているだけ。
対してジューダスは、ただ静かに立っているだけ。
「ヒューゴの隠し子か何かだろう!? でなければ、説明がつかん!」
「違う」
「じゃあ一体誰なんだ!? ……ミクトランに作られた、僕の代わり何かか!?」
「違う! 僕は代わりじゃない。お前は……代わりを作られるほど、ミクトランにとって必要な“何か”なのか?」
「それは……っ!」
「違う」
「じゃあ一体誰なんだ!? ……ミクトランに作られた、僕の代わり何かか!?」
「違う! 僕は代わりじゃない。お前は……代わりを作られるほど、ミクトランにとって必要な“何か”なのか?」
「それは……っ!」
リオンは言葉に詰まった。自分はこのゲームにジョーカーとして送り込まれた。そんなこと、迂闊に口に出せるものではない。特に、特にこんな……
「誰だ誰だ誰だ誰だっ!? 僕と同じ顔、同じ声! 気持ちが悪い!」
「お前だ……どうせ説明しても、信じないだろうがな」
「うるさい、黙れ! それ以上、僕と同じ声で喋るな!」
「お前だ……どうせ説明しても、信じないだろうがな」
「うるさい、黙れ! それ以上、僕と同じ声で喋るな!」
リオンは剣を構えた。そして、それをジューダスの喉元を目掛けて突きつける。
「僕は一人だ……マリアンに愛されるのも、僕一人だけでいい!」
「…………」
「だからもうお前の正体なんかどうだっていい。死んでもらうだけだ!」
「…………」
「だからもうお前の正体なんかどうだっていい。死んでもらうだけだ!」
二人の間を一迅の風が吹き抜けた。
お互いの、リオンの紅色のマントを、ジューダスの漆黒のマントをはためかせて。二人の黒髪もまた、同じように風に弄られて形を崩す。
お互いの、リオンの紅色のマントを、ジューダスの漆黒のマントをはためかせて。二人の黒髪もまた、同じように風に弄られて形を崩す。
「いくぞっ!」
言うなり、リオンを地を蹴った。素早くジューダスへと詰め寄り、縦横無尽に剣を振るう。
対して冷静な――哀れみを込めたような表情を見せるジューダスは、軽々とリオンの攻撃を避け、双剣を構える。
リオンが斬りつけ、ジューダスがそれを弾き返す。
決してジューダスは自分から攻撃を仕掛けようという素振りは見せなかった。
それを疑問に思うこともなく、リオンはひたすら目の前の“誰か”に向かって剣を振るい続ける。
引き裂く、薙ぎ払う、しかしどの攻撃もすべてかわされ、防がれる。
対して冷静な――哀れみを込めたような表情を見せるジューダスは、軽々とリオンの攻撃を避け、双剣を構える。
リオンが斬りつけ、ジューダスがそれを弾き返す。
決してジューダスは自分から攻撃を仕掛けようという素振りは見せなかった。
それを疑問に思うこともなく、リオンはひたすら目の前の“誰か”に向かって剣を振るい続ける。
引き裂く、薙ぎ払う、しかしどの攻撃もすべてかわされ、防がれる。
気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い!
どうして僕が二人いる!? コイツはマリアンをバラバラにした……! しかも、僕と同じ顔で!! こんな奴が、僕のはずはない! 許せない、ゆるさない……――
そのとき、D5の山岳地帯より、大きな音が二人の耳に届いた。
リオンは一瞬、意識をそちらに逸らされる。
リオンは一瞬、意識をそちらに逸らされる。
そして次の瞬間、視界が反転した。
咄嗟に飛び掛ったジューダスによって、地面に押さえつけられていたからだ。その際にしたたかに背中を打ち、苦痛に顔を歪める。
リオンは痛みに涙が滲んだ目を開け、目の前の顔を見た。その、悲しみに歪んだ表情を見た。
リオンは痛みに涙が滲んだ目を開け、目の前の顔を見た。その、悲しみに歪んだ表情を見た。
――自分なんだ。紛れもなく。
何故だかそう感じた。確信してしまった。
動かない左腕にはシャルティエが握られたまま。何故か、『彼』は一言も言葉を発さなかった。
否定しない、それは、“奴”が“自分”であるということなのだろうか。
動かない左腕にはシャルティエが握られたまま。何故か、『彼』は一言も言葉を発さなかった。
否定しない、それは、“奴”が“自分”であるということなのだろうか。
リオンはただジューダスを見ていた。振り上げられた右手には、青く光る刀身。
それは、確実に自分の息の根を止めるために存在するもの。
それは、確実に自分の息の根を止めるために存在するもの。
ヒュッ――
風を切る音がやけに耳に響いた。
そのとき、リオンの右手は、荷物袋から零れ落ちた手榴弾を握っていた。
そのとき、リオンの右手は、荷物袋から零れ落ちた手榴弾を握っていた。
カチリ。栓が外れる。
ドスッ。地面に剣が突き刺さる。
――それはリオンの頬を浅く斬り、髪の毛を何本か切断した程度だった。
――それはリオンの頬を浅く斬り、髪の毛を何本か切断した程度だった。
「なん……で……」
その掠れた声は、果たしてどちらのものだったか。
【ジューダス:生存確認】
状態:左胸から右肩に掛けて中程度の裂傷 リオンに対して哀れみ
所持品:アイスコフィン 忍刀桔梗(上記2つ二刀流可) エリクシール 首輪
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:リオンを倒して話を聞く
第二行動方針:ハロルドを捕まえて首輪解除の方法を模索する
第三行動方針:協力してくれる仲間を探す(特に首輪の解除ができる人物を優先)
第四行動方針:ヴェイグと行動
現在位置:E5東より
状態:左胸から右肩に掛けて中程度の裂傷 リオンに対して哀れみ
所持品:アイスコフィン 忍刀桔梗(上記2つ二刀流可) エリクシール 首輪
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:リオンを倒して話を聞く
第二行動方針:ハロルドを捕まえて首輪解除の方法を模索する
第三行動方針:協力してくれる仲間を探す(特に首輪の解除ができる人物を優先)
第四行動方針:ヴェイグと行動
現在位置:E5東より
【リオン 生存確認】
状態:腹部に痛み(軽め) 右頬に浅い裂傷 酷い混乱状態
所持品:ソーディアン・シャルティエ 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り) ※荷物袋切断により、中身が散乱
基本行動方針:マリアンを生き返らせる
第一行動方針:ジューダスの処理
第二行動方針:ハロルドを追いかける
第三行動方針:目的を阻む者の排除
現在位置:E5東より
状態:腹部に痛み(軽め) 右頬に浅い裂傷 酷い混乱状態
所持品:ソーディアン・シャルティエ 手榴弾×1 簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り) ※荷物袋切断により、中身が散乱
基本行動方針:マリアンを生き返らせる
第一行動方針:ジューダスの処理
第二行動方針:ハロルドを追いかける
第三行動方針:目的を阻む者の排除
現在位置:E5東より