運命は時に厳しい
砂漠。 レーダーに反応のあった方向に歩を進めると、小さな湖が見えた。
オアシスというにはあまりに小さく、巨大な水溜りと言う方が適切かもしれないので、地図には載っていない様だった。
そしてその傍らに、一人の女性が立っている。手にした壷に水を汲んでいる様だった。
「ん?」
褐色の男、ロニ・デュナミスは一瞬立ち止まり、目を細めた。知っている誰かに似ている。
よく見極めようとし、更に進むと、不意に女がこちらを振り向いた。
目が合った。お互いに緊張と疑惑が走る。
「──魔神剣!」
女が手にしている棒を振り、地を這う衝撃波を放った。
ロニは驚愕の表情を浮かべた。そして体を右にずらして攻撃をかわす。
衝撃波によって生じた砂塵が、視界を曇らした。
一瞬女を見失う。次の瞬間、砂煙から突如棒の先端が現れた。
突然のことに全く反応できないでいたロニは、棒によって顎を跳ねられた。
更に追撃の横薙ぎが頬を打つ。口の中が微かに切れた感触がした。
その場に尻餅を付きそうになるのを堪えて、二、三歩下がる。
そして至近距離ではっきりと女の顔を見た。
間違いない、この人は・・・・・・
直も追撃をやめない女は、体を縮ませ溜めを作っているようだった。
「獅子──」
まずい、ロニはそう思うと同時に自身の右手に獅子の闘気を纏わせた。
「戦吼爆っ破!!」
右の掌底を思い切り振った。
女の獅子と、彼の獅子がぶつかり合う。
しかし向こうの方が威力が高かったらしく、彼は派手に吹っ飛んだ。
女の方も衝撃は伝わったらしく、微かに揺らいだ様だった。
ロニが急いで立ち上がると、女も表情を引き締め、再度向かってくる。
だが・・・・・・
駄目だ・・・これ以上は・・・
彼はそう思い、咄嗟に叫んだ。
それを口にすることで当面の問題は解決できても、
新たな問題を作ることを理解しながら。
「待ってくれ・・・マリーさん!」
女、マリー・エージェントは明らかに戸惑いの表情を浮かべて、中途半端に佇んだ。
「私のことを知ってるのか?」
やはり・・・とロニは思った。このマリーさんは、十八年前のマリーさんだ。当然、自分のことなど知る由も無い。
「はい。あなたとは戦うつもりはありません」
「お前は何者だ?」
言われて、返答に詰まった。
十八年後の世界から連れてこられました、なんて言っても、信用してもらえそうに無い。
いや、明らかにこのゲーム自体が異様な顔ぶれで行われているから、あるいは信じてくれるかもしれない。
勿論、名簿で見て名前を知ったなど言うのは論外だ。
それでは信用されるどころかまた攻撃を受けかねない。
ちなみに、ここに来るまでに名簿を見て気に入った女性をチェックしていたことはここだけの秘密だ。
しばらく考えた挙句、とりあえず無難な回答をすることにした。
「あなたとソーディアンチームの活躍は常日頃聞いています。ファンなんですよ、俺」
あながち嘘ではない。
「そうか・・・」
「特にあなたとルーティさんにほれぼれとしております。仲がいいですよね」
「ルーティ・・・か・・・」
少しずつマリーの顔から戸惑いと疑惑が消えていった。
つたない弁論だったが、何とか敵ではないと思ってもらえたようだ。
「・・・つまりロニ・デュナミス。お前はゲームに乗った者の討伐を優先して動いているのか?」
小さな湖で水を汲ませてもらいながら、ロニは答えた。
「ええ。勿論仲間達との合流も優先すべきですが、
乗った奴等を放置しておけば何の罪も無い者達にも被害が及びます。俺はそれを見過ごせない」
そうか、と言うマリーを横目に見ながら、
ロニは水を入れたペットボトル─マリーに会うまでに飲みつくしてしまっていたそれ─をザックに入れた。
そして身なりを整え、レーダーを構えた。中心の光点に、赤い点が一つ映っていた。
「マリーさん」
声をかけ、こちらを向いた。
「よければ、一緒に・・・」
彼女はしばらく目を瞑り、何事か考えているようだったが、やがて目を開けると、
「・・・いや、それは無理だな」
ロニは黙っていたが、ショックは大きかった。・・・まるで告白に失敗したみたいじゃないか、おい・・・
マリーが続けた。
「お前は私を知っている様だが、私はお前を知らない。
このゲームにおいて、あまり面識の無い者が組むのは危険と私は考える。
今はこうして普通にしているが、やがて切羽詰った状況に陥った時、
お互いがお互いを信頼しあって動けるかどうかは疑わしいものなんだ。」
彼女の言っていることは確かに納得できることだった。
だが、それゆえに悲しかった。
・・・ルーティさんの友人であるあなたを、俺が裏切ったりする訳無い・・・
その秘密を打ち明けることが出来れば、どんなに楽だろうか。
しかしそれは出来ない。それを口にすることでこの場のみならず、
彼女等や彼等の元居た世界にどんな影響を及ぼすか、計り知れなかったからだ。
・・・最も、このゲーム自体が既に参加者達の居た世界にどれだけの影響を与えているか分からなかったが。
「・・・・・・分かりました。俺は俺の道を進むます」
「すまないな・・・私のことを薄情な人間と思っているかもしれない。ルーティに会ったら私は元気だと伝えてくれ」
「はい。マリーさんも、スタンさんやルーティさんに会ったらよろしく伝えてください」
ロニは身を翻した。空が既に薄暗い。
「これからどうする?」
「向こうっ側に行ってみようと思います」
そう言って彼は東の方角を指した。
「そうか。私はもうしばらくここに居よう。もう夜になるから、暑さも薄れるだろうからな。
あまり動き回ると体力を消耗する上に、敵に遭遇しそうだからな」
「分かりました。では・・・」
「ああ。達者でな」
マリーと別れてしばらくした後、ロニはふと振り返った。
既に彼女の姿は見えなかったが、彼はしばらく砂丘を見つめ続けていた。
もし、彼女の身に何かあれば、それは経過は関係無しに自分が彼女を見捨てたことになる。
いや、逆もありうる。自分が誰かの手にかかって、彼女が生きて逃げ切る可能性もある。
しかしそれはくだらない考察だった。この状況においては、どんなことだってありうるのだ。
せめてお互いが仲間と合流して生きて再会できるように祈りながら、彼は再び歩き出した。
オアシスというにはあまりに小さく、巨大な水溜りと言う方が適切かもしれないので、地図には載っていない様だった。
そしてその傍らに、一人の女性が立っている。手にした壷に水を汲んでいる様だった。
「ん?」
褐色の男、ロニ・デュナミスは一瞬立ち止まり、目を細めた。知っている誰かに似ている。
よく見極めようとし、更に進むと、不意に女がこちらを振り向いた。
目が合った。お互いに緊張と疑惑が走る。
「──魔神剣!」
女が手にしている棒を振り、地を這う衝撃波を放った。
ロニは驚愕の表情を浮かべた。そして体を右にずらして攻撃をかわす。
衝撃波によって生じた砂塵が、視界を曇らした。
一瞬女を見失う。次の瞬間、砂煙から突如棒の先端が現れた。
突然のことに全く反応できないでいたロニは、棒によって顎を跳ねられた。
更に追撃の横薙ぎが頬を打つ。口の中が微かに切れた感触がした。
その場に尻餅を付きそうになるのを堪えて、二、三歩下がる。
そして至近距離ではっきりと女の顔を見た。
間違いない、この人は・・・・・・
直も追撃をやめない女は、体を縮ませ溜めを作っているようだった。
「獅子──」
まずい、ロニはそう思うと同時に自身の右手に獅子の闘気を纏わせた。
「戦吼爆っ破!!」
右の掌底を思い切り振った。
女の獅子と、彼の獅子がぶつかり合う。
しかし向こうの方が威力が高かったらしく、彼は派手に吹っ飛んだ。
女の方も衝撃は伝わったらしく、微かに揺らいだ様だった。
ロニが急いで立ち上がると、女も表情を引き締め、再度向かってくる。
だが・・・・・・
駄目だ・・・これ以上は・・・
彼はそう思い、咄嗟に叫んだ。
それを口にすることで当面の問題は解決できても、
新たな問題を作ることを理解しながら。
「待ってくれ・・・マリーさん!」
女、マリー・エージェントは明らかに戸惑いの表情を浮かべて、中途半端に佇んだ。
「私のことを知ってるのか?」
やはり・・・とロニは思った。このマリーさんは、十八年前のマリーさんだ。当然、自分のことなど知る由も無い。
「はい。あなたとは戦うつもりはありません」
「お前は何者だ?」
言われて、返答に詰まった。
十八年後の世界から連れてこられました、なんて言っても、信用してもらえそうに無い。
いや、明らかにこのゲーム自体が異様な顔ぶれで行われているから、あるいは信じてくれるかもしれない。
勿論、名簿で見て名前を知ったなど言うのは論外だ。
それでは信用されるどころかまた攻撃を受けかねない。
ちなみに、ここに来るまでに名簿を見て気に入った女性をチェックしていたことはここだけの秘密だ。
しばらく考えた挙句、とりあえず無難な回答をすることにした。
「あなたとソーディアンチームの活躍は常日頃聞いています。ファンなんですよ、俺」
あながち嘘ではない。
「そうか・・・」
「特にあなたとルーティさんにほれぼれとしております。仲がいいですよね」
「ルーティ・・・か・・・」
少しずつマリーの顔から戸惑いと疑惑が消えていった。
つたない弁論だったが、何とか敵ではないと思ってもらえたようだ。
「・・・つまりロニ・デュナミス。お前はゲームに乗った者の討伐を優先して動いているのか?」
小さな湖で水を汲ませてもらいながら、ロニは答えた。
「ええ。勿論仲間達との合流も優先すべきですが、
乗った奴等を放置しておけば何の罪も無い者達にも被害が及びます。俺はそれを見過ごせない」
そうか、と言うマリーを横目に見ながら、
ロニは水を入れたペットボトル─マリーに会うまでに飲みつくしてしまっていたそれ─をザックに入れた。
そして身なりを整え、レーダーを構えた。中心の光点に、赤い点が一つ映っていた。
「マリーさん」
声をかけ、こちらを向いた。
「よければ、一緒に・・・」
彼女はしばらく目を瞑り、何事か考えているようだったが、やがて目を開けると、
「・・・いや、それは無理だな」
ロニは黙っていたが、ショックは大きかった。・・・まるで告白に失敗したみたいじゃないか、おい・・・
マリーが続けた。
「お前は私を知っている様だが、私はお前を知らない。
このゲームにおいて、あまり面識の無い者が組むのは危険と私は考える。
今はこうして普通にしているが、やがて切羽詰った状況に陥った時、
お互いがお互いを信頼しあって動けるかどうかは疑わしいものなんだ。」
彼女の言っていることは確かに納得できることだった。
だが、それゆえに悲しかった。
・・・ルーティさんの友人であるあなたを、俺が裏切ったりする訳無い・・・
その秘密を打ち明けることが出来れば、どんなに楽だろうか。
しかしそれは出来ない。それを口にすることでこの場のみならず、
彼女等や彼等の元居た世界にどんな影響を及ぼすか、計り知れなかったからだ。
・・・最も、このゲーム自体が既に参加者達の居た世界にどれだけの影響を与えているか分からなかったが。
「・・・・・・分かりました。俺は俺の道を進むます」
「すまないな・・・私のことを薄情な人間と思っているかもしれない。ルーティに会ったら私は元気だと伝えてくれ」
「はい。マリーさんも、スタンさんやルーティさんに会ったらよろしく伝えてください」
ロニは身を翻した。空が既に薄暗い。
「これからどうする?」
「向こうっ側に行ってみようと思います」
そう言って彼は東の方角を指した。
「そうか。私はもうしばらくここに居よう。もう夜になるから、暑さも薄れるだろうからな。
あまり動き回ると体力を消耗する上に、敵に遭遇しそうだからな」
「分かりました。では・・・」
「ああ。達者でな」
マリーと別れてしばらくした後、ロニはふと振り返った。
既に彼女の姿は見えなかったが、彼はしばらく砂丘を見つめ続けていた。
もし、彼女の身に何かあれば、それは経過は関係無しに自分が彼女を見捨てたことになる。
いや、逆もありうる。自分が誰かの手にかかって、彼女が生きて逃げ切る可能性もある。
しかしそれはくだらない考察だった。この状況においては、どんなことだってありうるのだ。
せめてお互いが仲間と合流して生きて再会できるように祈りながら、彼は再び歩き出した。
【ロニ 生存確認】
状態:無傷
所持品:簡易レーダー なりきり剣士セット
行動方針:ゲームに乗った者の駆除
:仲間との合流
:武器の調達
現在地:E4の砂漠地帯から北東へ移動中
状態:無傷
所持品:簡易レーダー なりきり剣士セット
行動方針:ゲームに乗った者の駆除
:仲間との合流
:武器の調達
現在地:E4の砂漠地帯から北東へ移動中
【マリー 生存確認】
状態:無傷
所持品:ハヌマンシャフト ディクティオン(壷)
行動方針:しばらく休憩
:生きるために動く
:仲間との合流
現在地:E4の砂漠地帯
状態:無傷
所持品:ハヌマンシャフト ディクティオン(壷)
行動方針:しばらく休憩
:生きるために動く
:仲間との合流
現在地:E4の砂漠地帯