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22-2

 ―――森上 悠希は、それが夢であることは知覚していた。
 しかしそれを差し引いても、その身に走る警告はとてつもなくリアリティを与えていた。
 何故このような夢を見るのか―――考えてはみたものの、結局答えは出ぬままこうして―――戦っている。
 鬼の形相をした悠希が、今という意識を持つ悠希に手当たり次第に刀を振り回す。
 しかしそれらは一見して出鱈目に動いてるように見えて、その実は計算と慣性を制御した連撃であることは、十分に解っていた。
 そしてもう一人、歳を取った―――としか表現できない、僅かに老けた悠希もまた、こちらの隙を絶好のタイミングで狙って売る。
 未だは素手の悠希にとって、2対1は致命的に分が悪い。
 特に向こうが得物持ちと云うのがいやらしく、そしてどうしようもないほど状況を悪くしている。
 これではどうすることもできない。
 ではどうする?このまま眼が醒めるまで、一方的に弄られるだけでいいのか?
 逃げるだけでいいのか?
 どうすることもできない………と投げ出したいところだが、まだ可能性は―――あるのだ。 
 今日までずっと、眼が醒めるまでずっと逃げの一手だった。だがそれは、決してそれしかなかったからというわけではない。
 こうして毎日同じ夢を見るのには、何か意味があるハズだと、悠希は考えた。
 ならば、この夢の相手をどうにかすれば、何かあるのでは………と、そう思えもしたのだ。
 勿論確証なんか、ない。
 夢は夢だ。現実ではない。
 途中で見ることがなくなる可能性だってある。
 そんなあやふやな事に思考のリソースを割く暇があるなら、もっと戦術機の制御について考えた方が、まだ何倍もマシなはずだ。
 それでも、それらを踏まえてもこの夢で戦うことの意味は―――正直、自分でも解らない。
 それでも、心の底から沸き上がる何かが、この夢で勝つ事を望んでいる。あるいは、勝負である以上、勝つことが当然なのだという欲求が沸いている。
 夢だというのに。所詮枕の上での出来事だというのに。
 それでも悠希は、戦うことを選んだ。
 が、覚悟を決めたところで状況は芳しくない事はなんら変わらない。ではどうする。
 彼らの向こう側を見ると、相も変わらず師の屍を抱く悠希の姿が見えた。
 ―――やはり勝機は、師に突き刺さる刀を得られるかどうか、か。
 しかし、この2人を相手しながら無傷であれを得るには、かなりの条件が必要になるだろう。そしてその多くは、手に入れるには夢の中であっても不可能だろう。
 ではどうする?どう動く?
 ―――迷う暇は、ないッ!
 こうしてる内にも、眼を醒ましてしまうかも知れない。ただ逃げるだけの夢にもしたくない。
 であれば………真っ向から立ち向かうしかない!
 そう意を決すると、悠希は走る。前へ。師の方へ。武器がある、方へ!
 その動きを察知した鬼・悠希が追撃する。雪の上をアスファルト同然の速度で走る。踏み込み、蹴り出す度に白い雪が舞い上がる。
 完全に横に付けられた―――そう思った直後、問答無用でその手に握られた刀が閃く。寸前に辛うじて頬を斬りながらも回避し、雪の上を転がる。それでも足を止めず、前へ、前へと走る。
 歳の往った悠希も追っては来るが、何故か妙に足が遅い。こちらに追い付けていない。わざとか、あるいは本当にあれがアレの全力なのか………
 そう考えながらも悠希は走り、避け、転がり、掠り、避け切りながらも師の元へ向かう。
 夢の中だと云うのに息が上がる。それでも足は止められない。
 後数歩―――そこまで来たところで、鬼・悠希が完全に前を塞ぐ。
 最後の最後で相手を絶望せしめた………云わんばかりに、口元が大きく釣り上がる。同じ顔とは思えぬ、随分と卑しい笑みだと、ふと思った。
 しかし相手はそんなことは気にしてはくれない。大きく刀を振り被り、渾身の力を持って悠希を叩き伏せようとする。
 ―――好機は、ここしかない!
 そう思うが早いか、前へ踏み出す。体ごと、前のめりになりながら。
 強く、意地でも前へと。
 予想外の動き―――でないのだろう、向こうはあたかもそうしてくるのが解っていたかのように後ろへ飛び退く。が、それこそ好機!
 足が浮いてる今こそ、腕が上にまだある今だからこそ、さらに一歩、前へ踏み出す。
 空中にいる以上、防御姿勢も、体勢を立て直すことも、ましてや腕だってまだ上にある以上、どうすることもできない。
 鬼・悠希に体当たりする形となり、衝撃はモロにその鬼・悠希へと伝わり―――結果、大きく吹っ飛ぶ。
 悠希はそれを確認すると、肩で息をしながらも、目的のものを………武器を探す。
 すぐ目の前には、1年前の悠希と、師がそこにいた。
「………師匠………」
 その笑みを―――その刀を―――あの感触を―――思い出す。
 肉を突き抜け、骨を擦り、激しく動く鼓動を一直線に貫いた、あの感触を。
 夢だとうのに、頭の中にあの時の光景がちらつく。
 自身の鼓動が、息が荒くなるのが解る。
 どんなに粋がっても、強くあろうとしても、やはり森上 悠希にとってのトラウマは拭えないのだと、強く痛感する。
 ―――だが、それでも。
 いつかは乗り越えなければならない。
 雫を守りたいという願いの前では、こんなトラウマに何時までも付き合ってる暇はないのだ。
 だから、確信を持って、師匠の胸に突き刺さる刀を握る。隣で泣く、昔の悠希に動きはない。
 手に握る感触が、嫌でも、むしろ強くあの時の衝撃を思い出させる。

 痛い。胸が、痛い。

 苦しい。

 悲しい。

 色々なものが綯い交ぜになった想いが、悠希の心を埋め尽くす。
 それでも。
 あぁ、それでも。
 抜かねばならない。
 意地でもこの夢に終わりを告げるためにも。
 この意味不明な夢に抗うためにも。
 渾身の、あらゆる過去のしがらみをも引き千切る勢いで。
 悠希は、刀を抜いた。
 その時―――
「それで―――良い」
 と、師の声が、聞こえた気がした。



「―――はっ!?」
 眼を見開くと、見慣れた景色が広がっていた。
 いつもの宿舎。
 いつもの天井。
 いつもの寝息。
 それらが夢以上に強烈な存在感を放ち、夢から眼が醒めたのだと主張していた。
 背中には寝汗で湿っているのが解り、嫌が応でも意識が急速に覚醒していく。
 時計を見れば、起床ラッパまでまだ少しあるのが解る。
「………とはいえ、気が重いのは変わらない…か」
 現実に帰れば、また云う事を聞かない戦術機と楽しい踊りが待っている。
 なるべく考えないようにはしていたが、やはり意識はせざる得ない。
 早くなんとかしなければ………そうは思っていても、現実は中々そうもいかない。
 努力することはやめないが、憂鬱なのは変わりない。
 それでも悠希は、諦めることを諦めなかった。
 しかし現実はかくも厳しく………
 最後の審判はすぐ目の前に迫っていた―――







 午前から301衛士訓練部隊の面々はブリーフィングルームに召集されていた。
 ついに実機の戦術機に乗れるとあって、ほぼ全員の息が荒い。
 テンションが高い者に至っては、我慢できず苛立ちを募らせ貧乏揺すりまでしている始末。
 中には今にも吼えそうなほど前のめりとなり、それを抑えようと必死になってるのも居た。
 そんな全員の様々な様子に内心苦笑しつつも平静を装い、一度もっともらしく全員を一瞥する。
「さて諸君、ついにお待ちかねの実機による演習を開始する。嬉しいだろう?」
『はいッ!』
「ふ………やけに元気の良い返事だ。普段からこれくらい出して見せろ。
 本日は簡単な演習だ。近接遭遇戦を想定の状況とし、各分隊に分かれてもらう。
 勝利条件は敵の全滅。敗北条件はその反対だ。また、制限時間が過ぎた場合は撃墜数が多い方を勝ちとする。
 装備はミサイルコンテナの使用は禁止とするがそれ以外の装備は原則自由。各自特色を生かしたセットアップを目指せ」
 淡々とではあるが、その内容が実質「貴様達の大好きなガチンコ勝負だ」と云っているようなもので、テンションはドンドン上がっていた。
「演習時間は開始より30分までとし、演習区画はこの地点からこのエリア内とする―――以上、質問は?」
 と云われ、雫が手を上げる。発言を許可すると立ち上がり、
「装備の自由という事は、陣形や作戦等も各分隊に一任ということで良いのでしょうか?」
「勿論だ。我々の方からこうしろあぁしろとは云わん。好きにやれ」
「了解しました」
「他にはないか?」
 と、促すが全員の意識は既に演習へ向かっているのか、特に返事はない。
「では次に対戦表を発表する」

  第1戦:A分隊 対 B分隊
  第2戦:C分隊 対 D分隊
  第3戦:E分隊 対 F分隊

「簡単にではあるが、こんなものだろう」
 ある程度の成績が近しい分隊との相対となった。
 実に簡潔で、同時に闘争心を掻き立てやすい構図となっている。
 故に、全員の闘志に火が付き、殺気にも似た圧力を放つことになる。
 その光景に僅かに口元を緩める氷室。が、何かを思い出したのか、
「なお、第1戦でのことだが、森上への攻撃は状況開始より20分は禁止とする」
『え?』
 その言葉に、B分隊の面々が口を揃えた。
「そ、それは流石に贔屓なのでは!?」
 渚が手を上げながら慌てて抗議する。それに続き朋也も、
「個人補習からずっと思ってましたが、それは”ずるい”くないですか!?」
「個々の評価は行わないのが訓練部隊の鉄則だったじゃないですか!」
「それなのにまともに制御できなかったからってそれを放置しろとか!これでいきなり攻撃してきたらどうすんですか!」
 2人の追求に、しかし氷室は涼しい顔をして、
「騒ぐな虫共。今のことを口にしてもらわんと理解できんのか?」
 そう静かに語る氷室は、悠希に視線を向けた。
 その悠希は、いつも通りの無関心な表情を見せていたが、しかし氷室にはしっかりと焦りと「ついに来たか………」と云わんばかりの落胆の色が見えていた。
 それに気付いている雫が、チラリと横―――隣に座る悠希を盗み見る。が、かける言葉は、何もなかった。
「教官の云う通りだ2人とも。これは一種の最後通告なんだ―――森上へのな」
 そう補足するのは、中岡だった。
 その作られた言葉に、全員が注視する。そして、促されていることを意識した中岡は続ける。
「いくら生身での成績が優秀でも、俺達は衛士となるために掻き集められた存在なんだ。
『その身1つでなら強くとも戦術機は使えません』では、ここに居る意味はない。
 ここは戦術機を操り、人類の刃となる者を育成する場所。つまり、その大元の大儀を成せないようなのはいらない―――ここまでは、そこでの常識だ」
 そこまで口を滑らせ、1度氷室を見る。「この先も話して良いでしょうか」と言外に語る視線に、「好きにしろ」と返す氷室。
「そんな中で、森上はシミュレーターであっては最下位―――軽く調べただけでも、ここまで成果の上がらない訓練兵は過去に居なかったのは解る。
 しかも補習を入れても一向に上達する気配を見せない。
 そんなある種の異質な存在だ。教官達も、ある種の諦観と一抹の期待を抱いての、しかし同時に”無能”にタダ飯を食らわせるほど甘くない。
 もっとも、教官達なりの恩情なのは間違いない。何がしかの理由で早期退場が許されないのも解る。
 だから、教官達も諦めるキッカケの1つとして、そして最後の機会として、この処置なんだ。
『これで乗りこなせなければ貴様は不要だ』という、解りやすい目安を置いてな」
 だがな、と中岡はそこまで云って言葉を1度切る。
 そして立ち上がり、悠希の方を向き、指差し、
「勝ち逃げだけは許さん!最後に貴様を処断するのはこの俺だ!
 こんな結果だけは、絶対に受け入れないからな!」
 と、全員に聞こえるように言い放った。
 しかし、悠希はそれに応じず、ただ事前に渡された資料に目を通すのみだった。
「英雄気取りは済んだか中岡。さっさと座れ邪魔だ」
「………はッ」
 云いたいことを云った中岡は席に座る。
 そんな中岡の圧に気圧された渚と朋也は、互いに顔を見合わせながら、しかしおずおずと席に座った。
「邪魔が入ったな………さて、実はもう1点、通達がある」
 そう云って言葉を切ると、氷室は都に目配りし、一度目を閉じ、そして言った。
「朝倉、お前はこの演習に参加せず、”いつもの”の場所へ行け」
「え………えぇ~!?」
 それは、実に解りやすい落胆を表現した嘆きだった。
 ここまでずっと頑張って来たのだ。だと云うのに、目前になって「乗せません」と云われては、流石に嘆きもする。それを堪える努力も、しようとはしたがやはり出来なかった。
 氷室とて、彼女の思いは理解している。自分でもそうだったのだ。云いたいことは山ほどあるだろう。
 しかし都は、落胆しつつも、嘆き以上の言葉を続けなかった。
 我慢強い子だ、と思う。
 それが出来る子であるからこそ、氷室はその心に胸を痛めながら、
「これから散々乗る事になるのだ。1日くらいの遅れはすぐに挽回できる。今は指示に従え」
「了解…ですぅ………」
 都にとっては、その1日が致命的だと強く思った。が、この事で噛み付いても意味が無いことも、理解できていた。
 そんな彼女を慮ってか、雫は宥めながら強くこう思った。
「都が実際に乗れる時まで、実機に乗った時の感想を話すのは止めよう」と。
 斜め後ろに座る綾華に目を配らせると、「委細了解です」と云った風に小さく敬礼した。
 一連の様子を見終え、次に移れると判断した氷室は、
「では早速始めよう。第1戦となる分隊には30分の余裕を与える」
 その言葉に、各員は一斉に動き出した。



「しっかしよぉ、どうすんだよ分隊長?こっちは実質4人で数においては完全に負けちまってるぜ?」
 30101A―――そう左肩に表記された【吹雪】の前で、A分隊の面々は額を向け合っていた。
 この表記がある【吹雪】は、雫に与えられた物だ。
 栄えある百里基地の衛士訓練部隊の、その1番目の機体。教官達が使う【夕雲】とは別の、訓練兵達にとってある種の特別を含む、その番号。
 そんな番号に意味はないと知りつつも、しかしその名誉は確かに雫の心をしっかりと支える。
 その愛機となる戦術機の前で、雫達は作戦を練る。
「6対4………普通に考えなくても、負けは確定ですよね、これ」
 書記役として綾華が入力端末を片手に持って制御しつつ、強化服を経由して各自の網膜投影にデータを映し出していく。
 意図的に悠希をカウントしてない形になっているが、これは雫も当の悠希も覚悟していることなので、何も云わない。
 顔を突き合わせては居ても、実質的に戦術機動に加われない悠希も、しかしそれを気にせず話に加わる。
「数で負けるのはBETAの基本だ。嘆くほどじゃない」
 それは、自身の不甲斐なさに嘆く悠希の、せめてもの助力だった。
 それが解るから、全員が頷く。
「数が少ないなら、少ないなりにやるだけよ。それに、ある意味私たちの方が楽なのだから」
「と、云うと?」
 雫の言に、相槌を打つ久我。
「考えてもみて?数で負けてるんだからこの演習、云ってしまえば私たちは負け戦を強要されてる状況なのよ?」
「そりゃぁまぁそうでしょうねぇ。でも、それが何故”ラク”に?」
「………あぁ、なるほど。そういうことですか」
「え、な、何?」
「いやお前ら2人で勝手に納得すんなよ!ちゃんと説明しろよ!」
 雫の問いかけに答えを得た綾華。それに気付かず久我と勝名は答えを求める。
 それに綾華は応じた。
「つまり、私たちは負けて当然。だから評価に響くことは少ない。
 抜けるのが森上さんだけだったならあまり変わりませんが、今回は急遽都さんが抜けました。
 これは恐らく教官も考慮してなかった事態です。
 よって、この試合、私たちは負けても罰はそれほど大きい物になることはないんです。
 数の不利を、どうしても考慮しないといけなくなりますから」
 そこから先を引き継ぐように、雫が割って入る。
「対してB分隊はその人数そのままであるから、これで勝つのは必定。
 むしろ負けることが許されない状況なの。
 数の差で上回りながら負けるという状況………勝名、貴女ならそんな人たちをどうする?」
「そりゃ泣いたり笑ったりできなくなるくらい徹底的に叩き直すな」
「あぁ………だから”ラク”なんね」
 そう、と雫は頷き、勝名もようやっと答えに気付き、手を叩いた。
「つまりこうか、オレ達は負けてオーケー。でも相手は負けるのは許されないって」
「そう。だから楽なの。必要以上に気負い過ぎる必要がないから」
 そう云って雫は、「だけれども、ね」と、全員を引き締め直す。
「だからと云って”はい負けます”は私が許さないの。私の信条がそれを認めないわ。
 負けを認めることは、私たちにとってそれは今後の妥協点になって一生付いて回るわよ。
 だから―――勝ちに行くわよッ!」
 その言葉に、全員が―――悠希を除く、だが―――力強く返事を返した。



「―――と、云うわけで私たちは正直、あまり良くない状況なんです」
 B分隊の面々の前で、中原 渚は状況を説明した。
「一見A分隊が負担が多いと見せかけて、実際にハイリスクを背負わされたのは我々………か」
 坂上の感想に、全員がその意味に僅かにプレッシャーを感じていた。
 勝って当然、負ければ赤っ恥。
 ただの演習に見えて、実際はとんでもなく嫌な舞台を設けてくれたものだと、坂上は内心でボヤいた。
「なので私たちは、死の物狂いで勝利を取りに行かないといけません。しかも辛勝ではなく、圧勝を」
「普通に勝つ、じゃなくて、余裕を持って勝ちに行くんだな」
「はい、朋也くん。でなければ、どんな罰が待ってるか解ったものではありませんし」
 そう云うと、一度全員を見渡す。
「それじゃ、全員の意識が統一されたところで作戦会議に入りましょう。
 数は6対4。
 向こうの内訳はなんでも問題なく出来る源さんが基点となって動くはずです」
 そう云って、渚は網膜投影に推測した装備を全員の網膜に投影する。

  30101A= 源 雫機 :兵装 迎撃後衛
  30103A=齊藤 綾華機:兵装 迎撃後衛
  30104A=勝名 澄子機:兵装 強襲前衛
  30105A=久我 応馬機:兵装 迎撃後衛

  論外
  30102A=森上 悠希機:兵装 多分突撃前衛

「これまでの特性や癖を考えれば、こんなところかな………」
「この編成でしたら、勝名さんが前に出てきて、3人の内誰かがそのエレメント役………
 そのチームがこちらをかき回しつつ残りの2人が個別撃破を狙ってくる、って感じになりそうですね」
 葵と優奈はそれぞれ推察に対し意見を述べる。
「あるいは、分隊を分散させず、迎撃体勢を取りつつ時間一杯まで粘るか…か」
「消極的な戦術だが、だが負ける確率は少ないな、ソレ。
 坂上、アンタならどうする?」
「この編成ならこれ以外の作戦は無理だろう?仮にそれ以外の装備で挑まれても、こちらには数の強みがある」
 数の多さは、BETAから強く、そして嫌でも教えられる。
 数の暴力を使えることは少ない。故に坂上は殆どの状況にも対応できる戦術を提案する。
「包囲殲滅。数の多さを利点に、砲門の数で包み込んで潰す」
「流石元砲手ッ、云うことが違うな!」
 そう朋也に持て囃される坂上だが、1つ頭に引っかかるものがった。
 それはとても小さく、やもすれば気付きそのものを忘れそうなほど僅かな引っかかりだったが、
(………妙だな。そんな簡単に行く相手か?)
 よく思い出してみても、相手のA分隊は前々から色々おかしい点がある。
 常に何がしかの足枷ありきで訓練に臨み、一切の不和なく相乗効果をもたらしているB分隊に比類する成績を叩き出す連中。
 それが”たかが人数が減った程度で”そんな良くある手を使ってくるような連中だっただろうか?
 おかしい………そんなわけないだろう………と思いつつも、しかしそれを言葉に出来ず、口を閉じる。
「では、私たちは2機連携によるエレメントでA分隊を包囲、殲滅する作戦を取ります。
 各員の装備ですが―――」
 そう云って渚はデータを再度送信する。

  30101B=中原 渚  :兵装 迎撃後衛
  30102B=中村 朋也 :兵装 強襲掃討
  30103B=中岡 裕次郎:兵装 突撃前衛
  30104B=佐橋 優奈 :兵装 迎撃後衛
  30105B=坂上 史郎 :兵装 砲撃支援
  30106B=松浦 葵  :兵装 強襲前衛

「私と朋也くんでAチーム、中岡さんと優奈ちゃんのBチーム、葵ちゃんと坂上さんのCチームによる3分隊編成で行きたいと思います。
 以上ですが、何か質問はありますか?」
 異議なし―――全員がそう云おうとした時、中岡がそれを静止した。
「みんなに悪いが………森上は、」
「あぁ………お前が引導を渡してやれ」
 先ほどのブリーフィングの時に云った、中岡の発言。それはB分隊全員、ちゃんと覚えている。
 だからこそ、皆まで云うなと、朋也は制止したのだ。
 悪い、気を使わせた―――とう小さく呟く中岡に、
「気にすんなって」
 と、笑顔で答えたのだった。
 その後ろで、坂上は先ほどにも感じた妙なひっかかりに、ずっと違和感を抱いてた。
 それは数十分後、答えを得ることになる―――



 ―――演習開始まであと3分。
 A分隊とB分隊は既に所定の位置に着き、瓦礫越しに相対していた。
 互いの装備はその障害によりまだ見えない。が、互いの闘気がその向こうから感じる。そんな気がした。
 30102A、森上機はそんな彼らとは大きく離れた位置に、外部からの優先制御により移動させられている。
 ―――真っ向勝負。
 そんな状況を、1人管制ユニットに抱かれながら、僅かに顔を曇らせて思う。
 普通に動かせていたならば、既にあそこに立ち、雫の剣として振舞えたはずなのだ。
 それができない事への憤り、無力感、情けなさ。それらをひっくるめた、己への失望。
 そんな綯い交ぜになった歯がゆさを抱きつつ、しかしそんな悠希を無視して氷室は通信にて告げた。
「これより実機による模擬演習を行う。勝利条件は先に告げた通り。
 全員、今まで学んだことを全て生かせ」
 それはこれから起きる巨人達の舞踏に対する激励か。
 あるいは未熟な者たちへ向けた叱咤か。
 いずれとも解らぬが、しかし氷室は宣言した。
「―――状況開始!」
 ―――噴射剤を撒き散らす轟音が一斉に響いた。


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最終更新:2011年12月21日 10:48
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