ダブルメンテナンス 立ち読み版
気取った口説き文句は要らない。
いちいちご機嫌を伺わなくていい。
愛想も振りまかなくてもいい。そんなものは邪魔なだけ。
リップサービスももちろん必要ない。相手の顔色も見なくていい。天気や体調の話も無駄なだけ。
相手を乗せる冗談も駆け引きも、恋愛の指南書も、世間で言うところの相性も関係ない。血液型、性格、星座、そんな曖昧なデータを元にした占いも必要ない。
希代香はうっすら笑って指先に力をこめた。
「ほら、こんなに簡単」
指につまんでいるのは小さな部品だ。丸く小さな突起のような部品を弄くるだけで、腕の中に抱いた少女が身震いして腿を擦り合わせる。
面倒なことは何もない。
ただ単に手順通りに触れるだけで、いともあっさりと快感を得ることの出来る存在。それがサイバーヒューマノイドだ。人の脳と機械のボディを組み合わせた存在……サイバーヒューマノイドは単にヒューマノイドと略されて呼ばれることが多い。
小さな部品の形を確かめるように指を動かす。ヒューマノイドの部品の中でも、特にこの部分のセンサーの感度は大抵はMAXに設定されている。少女の耳元に息をわざと吹きかけ、希代香はずぶ濡れになったショーツの中で指をしきりに動かした。人で言えばクリトリスにあたる部分を指の腹で擦ると面白いくらいに少女が反応する。
本当に手軽で楽だ。希代香は少女の背を壁に押しつけ、片手で胸をつかんだ。フリルがたくさんついたブラウスのボタンは外され、ブラジャーはずれ、少女の乳房は露出している。形の良い人工の乳房の先には薄いピンクの乳首がついている。希代香は少女の胸に顔を寄せ、乳房をつかんだ指の間にはみ出している乳首を見つめた。乳輪と乳首の付け根にうっすらと継ぎ目が見える。
「本当に手軽ね。ちょっと触っただけでこんなに人工乳首が立って」
「やっ! 恥ずかしいっ!」
「恥ずかしがっても無駄よ。どうしようもなく感じてるくせに」
震える声で嫌がる少女に囁きかけ、希代香は乳房をつかむ指に力をこめた。ヒューマノイドの乳房は人のそれよりずっと柔らかい。乳房に指がぐっと食い込んだ分、ピンクの乳首が隆起し、部品の継ぎ目が開く。
「ほら。乳首の付け根が開いちゃってる。限界まで勃起してるものね」
「やだっ、お願い、言わないでぇ」
微かに揺れる声には甘えるような響きが混ざっている。希代香の愛撫にも感じているのだろうが、言葉にも反応しているのだ。恥ずかしいと感じた分だけ快感が増す。そういう風に少女は作られている。だからこれは自然な反応だ。
せり出した乳首の先端は丸く、つるんとしている。人の皮膚とはあきらかに違うその部分にわざと触れず、希代香は乳房をゆっくり揉み始めた。同時にショーツに突っ込んでいた手も動かし、作り物のクリトリスを指先でつつくように弄る。
「悪いのはあなたよ? 私が助けなかったら、どうなっていたか判るかしら?」
窓からは明るい光が差し込んでいる。営業中は閉められているカーテンも今は開き、並んだテーブルや椅子は明るく照らし出されている。営業中にあちこちから聞こえる艶めかしい声も今はなく、この少女一人の声がするだけだ。だから余計に恥ずかしいのだろう。少女は普段より敏感に反応している。
ここは夜間にのみ営業しているちょっと変わった喫茶店だ。客は入り口で会員であることを示すカードを提示し、ディスプレイに表示されている中から好きな子をチョイスする。そしてカーテンや硝子で仕切られたテーブル席で、注文した子にタッチ出来る。飲料代として客が支払う代金の中にはお触り代が含まれている。変わっているとは言っても見かけはどこにでもある風俗店だ。
ただ、ここの店に勤めているのは全てヒューマノイドだ。そのことを客は知らない。だからこの店にはタッチは出来るが服を脱がせてはいけないという、特殊なルールがある。営業中はピンクのライトが灯って薄暗くなってはいるが、完全に服を脱いでしまうと客にヒューマノイドだとばれる危険がある。
「ここも、ここも」
囁きながら希代香は少女の乳首を指先で押さえ、ショーツの中に入れた方の手で作り物のクリトリスを押さえた。その途端に少女がびくっと身を竦める。
「人間とは違うの。見られたらお客様にばれちゃうでしょう?」
押し込んだ乳首とクリトリスの部品から指を離す。するとかちん、という微かに音を立てて二つの部品が飛び出す。ちょうど少女の喘ぎの合間だったせいで、静まりかえったフロアにその音はやけに響いた。
「ごっ、ごめんなさいぃ、ごめんなさいっ」
口では謝りながら少女の表情は陶酔しきったものへと変わっている。本当に手軽だ。
「感じているの? 叱っているのに」
いけない子ね、と言って希代香は再び指で二つの部品を押し込んだ。今度は少し強く擦りながら押し込む。すると少女が目を見張って口を開き、短い悲鳴のような声を上げる。
「どうしたの?」
「あっ……ああっ……」
「説明してごらんなさい。今、あなたはどうなっているの?」
うっとりとした表情をした少女に希代香は少し強い口調で言った。乳首とクリトリスの部分が指の力を抜くとせり出してくる。
「駄目ですぅ、主任、あたし、あたしぃ」
甘えた声で言って少女が泣きそうな表情になる。希代香は目を細めて少女から手を離した。すると少女が切なそうに吐息をつき、腿を擦って身を捩る。
「口で説明が出来ないなら見せてもらうしかないわ。見せなさい」
希代香は少女から少し離れ、腕組みをした。恥ずかしそうにしつつも少女が短いスカートをたくし上げる。ニーハイソックスに覆われた腿には人工の愛液が垂れ、染みになってしまっている。少女がぐっしょりと濡れたショーツに指を引っかけ、ゆっくりと下ろす。羞恥心を煽られても欲情出来るように作られているのがヒューマノイドだ。恥ずかしいという気持ちそのものも、ヒューマノイドにとってはただの快感に過ぎない。
ほんっとにお手軽。希代香は内心で呟いて笑った。目の前にいる少女だけじゃない。この店に勤めている全てのヒューマノイドがそうだ。
少女が身に着けているのはフリルがたっぷりの愛らしい白いブラウス、頭にはブラウスとお揃いの白いカチューシャ、そして胸が強調されるようなデザインのサスペンダースカート、腰の後ろで紐を結ぶエプロンだ。足にはニーハイソックスかガーターベルトとストッキングを着けることになっている。靴はエナメルのリボン付きのものが支給される。客の相手をする店員は全員、その服を身に着けなければならない。
まじまじと少女の格好を眺めてから、希代香はのんびりと視線をずらして少女の股間に注目した。ここに勤めるヒューマノイドの股間には人のようにアンダーヘアはない。高級品になると中には植毛されているモノもあるが、今、裏社会で出回っているのは大抵は安物だ。
丸見えになっている少女の股間には小さな赤いランプが灯っている。スカートを持ち上げた少女はもじもじと腿を擦り合わせ、目で何かを訴えている。だが希代香はそれを無視して身を屈め、少女の股間を覗き込んだ。
「いけない子ね、本当に。叱られながらいっちゃったのね」
「ご、ごめんなさい」
この少女の股間に設えてあるクリトリスの部品にはLEDランプが組み込まれていて、機体状態を簡単に表すようになっている。赤色に光っているのは、快感が最大値に達したことを表しているのだ。
「恥ずかしいと思わない? 叱られているはずなのに、弄られただけでいってしまうなんて」
「は、恥ずかしいです……」
少女が消え入りそうな声で言う。そう、恥ずかしいわね、と笑って希代香は点灯しているクリトリスの部品を指につまんで弄り始めた。
「ああっ!」
「ここなんて、ただのランプなのにね。モーターの音も聞こえるわ」
「いやっ、言わないでぇ!」
「恥ずかしい子ね。人工膣が駆動しているの、判っているんでしょう?」
わざとそこには触れず、希代香はクリトリスの部品だけ弄り回した。身悶えした少女が震えながら足を開き、作り物の膣から人工の愛液を垂れ流す。
「自分から足を開くなんて。だからお客様にスカートをめくられても黙っていたのね。いけない子。快感が足りない時はどうするの?」
「あっ、は、はい、お願いします」
「何を?」
希代香は薄い笑みを浮かべて赤く灯るランプを指先で軽く撫でた。少女が首を振り、泣きそうな顔をして腰を突き出す。
「お願いしますぅ! 恥ずかしいあたしに、もっとエッチなことを」
「具体的に言わないと判らないわ」
きっと人間なら真っ赤になっているに違いない。だが安物の少女の顔色はいつもと変わりない。だが表情を変えられるだけマシだろう。ヒューマノイドの中にはそれすら出来ないモノもあると聞く。
「あの、えっと……あそこに」
「どこに?」
「あう……」
首を傾げた希代香を見つめて少女が目尻に涙を浮かべる。この機体は作りが結構まともだ。涙を出す機能はオプションで付けなければならない。そんなことをのんびりと考えつつ、希代香は少女の返事を待った。