※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

(メカギャル文庫) 冒頭立ち読み版



 いつ見てもシンプルな部屋だ。まるで病室のような白い床に白い壁、白い天井にはLEDライトが四ヶ所に灯っている。明るすぎるほど明るくしてあるのは、部屋の中央に置かれたベッドをよく照らすためだ。
 キングサイズのベッドはしっかりベッドメイクされている。新品のシーツは眩しいくらいに白い。その上に転がっているのは三人の……いや、三体の女性だった。裸で横たえられた女性達の意識はない。
「悪趣味なことで」
 呟くように言って池田水輝は微かに笑った。ベッドの向こう側に立っていた女が白衣のポケットに手を突っ込んで首を傾げてみせる。
「あら、そう? でもわたしは強要は一度もしていないわ。必要な子に必要なモノを差し出しているだけ」
「目の前に餌をぶら下げるのは、差し出す、じゃなくて釣りじゃねえの?」
「わたしは食いつけと命令はしていないわ」
 軽く肩を竦めて言い返してくる。この女はいつもそうだ。何度やっても自分が悪いとは思っていない。あくまでも欲しい女性に欲しいモノを提供しているだけだ、と思っている。
 やれやれと笑い、水輝は手を伸ばした。女が白衣のポケットから一枚の写真を取り出す。それと一緒に水輝は一台の携帯端末を受け取った。手の中に納まるサイズの携帯端末に触れると文字が表示される。
 写真の中央に横向きの知らない女性が写されている。女性はカメラを一切意識していない。隠し撮りだ。古典的な方法だがデジタルの画像データより、紙に焼き付けてあるデータの方が処分が楽だ。
「今度はこれか。……学校? 編入手続きは?」
 写真を眺め、端末に表示されたデータを読んだ水輝は低い声で問うた。これはオプション付きになる。
「手続きはもちろん済んでいるわ。部屋も制服も用意してあるから問題はないでしょう?」
「これは別オプションだろ。乗せてくれるんだろうな?」
「もちろん。前払いで既に半額が入っているわ。何なら確認する?」
 今時、わざわざ金を預けた金融機関に行かなくても、全てインターネット上で確認出来る。女が指差した手の中の携帯端末を見て、水輝は顔をしかめた。
「あんたがそう言うなら入ってるだろ。問題ねえ。請ける」
「そう。それじゃ、契約成立ね」
 そう言って笑い、女が屈み、横たわる女性達をベッドの隅に無造作に転がす。その様子を見た水輝は吐き気がするな、と呟いて上着を脱いだ。


 西木さゆり、二十五歳。担当教科は生物学、私立海燈高等学校に勤めて三年が経つ。そして今年は初めて二年生のクラス担任になった。四月からこの六月まで幸いにもクラス内にトラブルはなく、さゆりは生徒の保護者達とも上手くやれている自信があった。
 そんなさゆりにトラブルとはいかないまでも、日常とは異なる事象が襲いかかった。時期外れの編入生がさゆりのクラスに入ることになったのだ。たかが編入者一人がクラスに増える程度のこと、本来は大したことではない。さゆりが驚いたのは、事前に何の相談も会議もなく、しかも編入試験が行われたことすら報されず、今朝急にそのことを知らされたからだ。
 写真の添付された簡単な履歴書と傍に立つ生徒を見比べる。
「ええ、と? 池田、水輝くん? よね?」
「はい」
 心地良い答えが返ってくる。見慣れない制服はこの近隣の学校のものではない。水輝はここからはかなり離れた場所から引っ越してきたらしい。真っ白の学生服はきっちりとアイロンが掛けられ、汚れや染みひとつ見当たらない。それだけでさゆりの水輝に対する好感度は上がった。きっと前の学校でも生活態度は良かったに違いない。
 この学校には職員室というものはない。教師達は教科ごとに部屋を分けられ、そこで作業することになっている。教師の席は若い者がドアに近い、つまり下座になるように配置される。さゆりの机は理科準備室の真ん中辺りだ。理科準備室には数人の教師が残っているだけだ。クラス担任の教師は少し前に朝のホームルームに向かった。
 さゆりは水輝のプロフィールをチェックした。貼られた写真を見て、さゆりは写りが悪いわね、と思った。写真の水輝も充分に整った顔をしているのだが、本物を見るとどうしても写りが悪いように見えてしまう。
 背は百七十強、肢体すらっとしてはいるが、弱々しくは見えない。そして顔立ちは整いすぎていて、格好良いというよりは綺麗と言った方がいいかも知れない。なのに眼差しは鋭く、触れると切れそうな雰囲気がある。
 学校の中にも格好良いな、と思う生徒は数人はいる。特に二年生を越えると男子生徒はあっという間に成長する。一年生の頃にはまだ中学生の名残があるのに、成長期を終えると男子生徒は男の子から急に男になる。
「先生?」
 水輝を見上げてぼんやりと考え込んでいたさゆりは我に返った。いけない。学校でこんなことを考えるなんて教師失格だ。自分に戒めの言葉を心の中で投げかけ、さゆりは気を取り直して微笑んでみせた。

続きが気になる方はこちらで購入できます!