ドールファイト 立ち読み版
対戦相手であるウィンディに足払いをかけてバランスを崩し床に引き倒してから、太股に取り付いて股間を攻める……予定だった。
しかし足払いでバランスを崩したウィンディは、とっさに萌菜の腰にすがりついてくる。巻き込まれるように倒れ込んだと思ったら、ウィンディは素早く萌菜の下腹部に取り付いていた。
「いっくわよ!」
ウィンディが可愛いかけ声をあげて萌菜の股間を弄り始める。感じまいと思っても感じてしまうのが機械仕掛けの身体だ。萌菜は悲鳴を上げて身をよじり、ウィンディの攻撃をかわそうとした。
攻撃といっても格闘技の寝技ではない。相手を倒したら今のように相手の股間を弄ったり、胸をつかんで揉んだりという性的な行為で相手に快感を与えるルールになっている。
萌菜は必死で身をよじった。漏れ出た合成愛液で股間がびしょびしょになり、クリストリスや乳首はコスチューム越しにもわかるくらい勃起してはいるが、まだ動ける。萌菜が歯を食いしばってウィンディの拘束から何とか抜け出した時、客から大きな歓声が上がった。そのことに萌菜は正直ほっとした。
ウィンディはルーキーでこれが初戦だ。対して萌菜は半年ほどのキャリアがある。ウィンディは初戦を善戦するものの、惜しくも敗れる、というシナリオになっているはずなのだ。
ウィンディもそれは聞いているはずだが、試合が見せ物として面白ければ多少のイレギュラーは発生しても問題にはされない。ウィンディはシナリオを無視して勝つつもりなのかもしれない。
立ち上がろうとするウィンディを見て、萌菜はウィンディの膝に必死で飛びついた。ウィンディは受け身も出来ずにうつぶせに倒れこんでしまう。
それがうけたらしい。客が歓声を上げる。
その時にはもう、萌菜はうつぶせになっていたウィンディを転がして仰向けにさせて押さえつけ、馬乗りになっていた。身体で身体を押さえつけるようにすると、お互いの乳房が押しつけられて薄い布から膨らみだけでなく乳首までがはみ出してしまう。だがそんなことに萌菜は構っていられなかった。ウィンディが突然のことに驚いた悲鳴をあげている間にケリをつけないといけない。時間も押しているのだ。
手早くきめようとして、萌菜はウィンディの唇を強引に唇で塞いだ。キスのような性的攻撃はポイントも高く、客受けもいい。しかももみ合いになるため、衣装がはだけたり破けたりもする。それを見越して破れやすい素材のものを着ているのだが、客はそれすら楽しんでいるのだ。
萌菜に唇を塞がれたウィンディが一瞬、目を見張る。すぐに逃げたいところだろうが、その前に萌菜はウィンディの口に舌を入れて、口腔部を舐めまくった。最初は我慢していたらしいウィンディも萌菜が得意とするディープキスに抵抗出来なくなった。
喉から呻くような喘ぎを漏らしてウィンディが身悶えすると、客の歓声はより大きくなった。萌菜はそこを狙って、すかさずウィンディの股間を手でつかむように覆った。
熱対策には色々あるが、ウィンディの場合は股間の人間で言えば膣口にあたる部分から排熱が行われている。ウィンディのコスチュームの股間部分がメッシュになっていて、ピンク色の丸い穴が透けて見える。ここを塞げばウェンディは熱暴走を起こす仕様になっているのだ。
事前に決められたシナリオ通り、萌菜が上から押さえつけるようにしてウィンディの股間を覆った時点で、勝敗はほぼ決していた。悲鳴をあげていたウィンディの動きが急に変化し、艶っぽい喘ぎ声をあげて乳房をつかんで自慰を始める。
ステージの周囲に満ちた歓声を聞きながら、萌菜は酷く心が冷めるのを感じていた。ドールファイトと呼ばれているこれは、バトルや戦いと言い切るには難しいルールになっている。殴ったり蹴ったりして相手を行動不能にしてもいいのだが、それではもらえるポイントが低い。
ドールファイトに参加する者は全員、身体が機械仕掛けの女だ。人間の脳まで機械化し、機械仕掛けの身体に機械化脳を組み込んだサイバーヒューマノイド、略してヒューマノイドと呼ばれるモノ。それが萌菜やウィンディなのだ。萌菜たちのようなヒューマノイドたちが客のために演出する、バトルというよりはエロティックな絡み合い。それがドールファイトだ。機械らしく人間には無理なこと、例えば物理的に壊れるようなところを披露しても客は盛り上がる。
排熱を妨げられたウィンディの機体内部から激しいファンの音が響く。それを聞いた客たちが一斉に立ち上がって盛り上がる。客たちはドールファイトに出演するのはヒューマノイドだけだと知っている。だからそれらしい壊れ方や、戦闘不能状態に陥るのを待っているのだ。機械的な動作をすればするほど、客は喜び、盛り上がる。
不毛。
萌菜は心の中で呟いた。客たちが望んでいるモノも、ギャランティーが多く出るモノも、何もかも判っている上で萌菜とウィンディはステージにいるのだ。それを見て楽しいと感じる客の心境は理解出来ない。
だが萌菜もウィンディも、その他のファイターたちも、ドールファイトに出ないと機体を維持出来ない。何事にもコストがかかるものだ。好きで出演している者もいるが、萌菜と同じようにやむにやまれぬ事情を抱えている者もある。
ウィンディの動きが急にぎこちなくなる。予定通りにウィンディの制御コンピューターが熱暴走を起こしたのだろう。それを自分のことのように感じた萌菜はつい顔をしかめそうになった。が、何とか思いとどまる。なめらかな動きから一転し、乱雑な動きでウィンディが自らの乳房をつかむ。加減のない力でつかんだせいで、薄く脆い布が引き裂かれ、ウィンディの服は胸の部分から破れて腹部まで露わになった。それと同時にウィンディの乳房が捻れて根元の部分から千切れるように裂けてしまう。それを待っていたのだろう。客が声を上げて喜ぶ。
ウィンディの乳房は内部にシリコン素材が詰まっている。それが熱を帯びて周囲に飛び散り、乳首の部品が硬い音を立ててステージに転がる。ステージ前にいた客の誰かが転がり落ちた乳首パーツを拾って自慢げに周囲に見せびらかしている。そんな客たちをちらりと見てから、萌菜はウィンディに目を戻した。仰け反ったウィンディの股間は片手で押さえたまま、もう片方の手で裂けていない方の乳房を握るように揉む。
ウィンディが動作停止したのはその直後だった。放熱出来ずにオーバーヒートして緊急停止したのだ。ヒューマノイドは動いている間は人間のように見えるが、作動停止すれば、作り物の人形のように見える。
いや、結局のところ、ヒューマノイドは機械仕掛けで動く人形なのだ。この興行がドールファイトと呼ばれているのは伊達ではない。
萌菜は歓声に包まれながら立ち上がり、客に向かって投げキッスをした。客から飛んでくる花やボーナスを拾うのは様々な意匠のメイド服に身を包んだメイドタイプのヒューマノイドたちだ。中には拾っている間に胸の谷間にボーナスをねじ込まれるメイドもいる。萌菜が愛想笑いを振りまいている間に、動きを止めたウィンディが一足先に舞台裏に運ばれていく。
ウィンディの壊れ方は一見酷く見えるが、実際は見た目ほどダメージを受けているわけではない。部品交換等のメンテナンスをすれば問題ないレベルだ。ドールファイトでオーバーホールが必要なほどに壊れることは滅多にない。壊れるのも演出のうちだからだ。
客にひとしきり愛想笑いをした後、萌菜はきびすを返して舞台裏に引っ込んだ。