Chapter14「浦島ステべえ」
梨子湖、湖畔西側には森が茂り、その北西には白く透き通った砂と岩の硝子砂丘。砂丘の西端からは狩澄渡(カルスト)の山に通じており、山頂のカルデラに雨水が溜まって形成された湖からは梨子湖へと川が流れ落ちる。
狩澄渡の山腹からは北方に煙を吐き出し続ける赤い山が連なっているのが見えた。ステイがあれは何なのかと尋ねると、コテツは「銅(アカガネ)の山脈だ」と説明した。
癒には金、銀、銅、鉄の四つの山脈が存在する。順にコガネ、シロガネ、アカガネ、クロガネと呼ばれるそれらは、癒島中央に鎮座する紫柴に次いで、この癒國を代表する山々である。
クロガネが鉄を豊富に含む黒き山。その土壌の影響か、そこに自生する木々も黒い葉をつけるために山が黒く見える。それゆえにかこの山はかつてより忌み嫌われており、あの大蛇が封印されていたのもこの場所だと云われる。
さらにイザヨイによれば、梅華に伝えられる昔話のカルスト伝説の中にこのクロガネ山が登場し、そこにはスサという村があったという。そういえばタワシから聞いた昔話にもスサという名前が出てきたな、とステイが頷いた。
次にシロガネは癒島の北東部に位置する雪と氷に覆われた山々だ。北東の果てにある先刃(サキバ)へ向かうには必ずここを通ることになる。九尾の攻撃からコテツを救ったあの聖水はイザヨイがその先刃で手に入れてきたものだった。大蛇との戦いの後に旅立ったカリバーが目指して行った場所も先刃だ。今頃はもう到着しているだろうか。
続いてコガネ。これは癒の本島ではなく、紫柴北方の離島に存在する山。かつては金鉱だったが今は枯れてしまっている。それよりもむしろ、癒では上空に神々の国があるという伝説でよく知られている場所だ。
そして最後にアカガネ。崖を挟んで向こう側に見えているこの赤い山はクロガネに同じく鉄分を豊富に含む活火山。その火山活動と酸化した鉄分によってその山肌は赤く見える。この山を挟んでさらに向こうには白い大地が見えているが、そこから先はもう癒國の大地ではない。
「じゃあ、あれ国境なんだ。癒じゃなかったら、あっちはなんなの?」
「最知(モシリ)の国ですよ。聞くところによると、雪と氷の厳しい場所だと聞きます」
それまで説明していたコテツに代わってイザヨイが答えた。
モシリについて癒ではあまりよく知られていない。隣国ではあるのだが、唯一の国境が険しい山々、しかも活火山であるため往来がほとんどなく、それゆえに交流もほとんどないのが原因だ。そのため、癒ではモシリは謎多き神秘の国と呼ばれている。
「わかってるのは寒くて何もない場所ということと、私たちが癒にやってくるよりもずっと昔からそこに住んでいる原住民たちが暮らしているということぐらいなんです」
イザヨイが説明していると、そこにコテツが口を挟んだ。
「いや。何もないように思うかもしれないが、結構そうでもねぇモンだぜ。村もたくさんあったし、自然を祀る儀式なンかもいろいろあってだなァ…」
「あら、詳しいんですね。コテツさんはモシリに行ったことが?」
「それよりも”たくさんあった”ってなんで過去形なのかな。何か知ってるわけ?」
「あ、いや、それはだな……っと、見ろ。そろそろ鳴都が見えてきたようだぜぃ!」
コテツは一瞬「しまった」というような表情を見せたが、モシリについてそれ以上は何も話すことはなく、すぐに話題を変えてはぐらかしてしまった。何か隠しているんだろうとシエラが詰め寄ったが、コテツは答えなかった。
「モシリに何かあるのかな」
「まぁ誰にだって秘密のひとつぐらいはありますよ。辛い思い出でもあるんじゃないかしら」
「さぁ。行ったことはあるけど原住民と喧嘩しちゃったとか、どうせそんなんでしょ。あのコテツだし」
もうそれ以上は言うつもりはないと言わんばかりに、コテツが先頭に出て鳴都へと駆け出していく。その後ろ姿を見つめながら、残りの三人は顔を寄せ合ってコテツの秘密を推し量るのだった。
狩澄渡の山腹からは北方に煙を吐き出し続ける赤い山が連なっているのが見えた。ステイがあれは何なのかと尋ねると、コテツは「銅(アカガネ)の山脈だ」と説明した。
癒には金、銀、銅、鉄の四つの山脈が存在する。順にコガネ、シロガネ、アカガネ、クロガネと呼ばれるそれらは、癒島中央に鎮座する紫柴に次いで、この癒國を代表する山々である。
クロガネが鉄を豊富に含む黒き山。その土壌の影響か、そこに自生する木々も黒い葉をつけるために山が黒く見える。それゆえにかこの山はかつてより忌み嫌われており、あの大蛇が封印されていたのもこの場所だと云われる。
さらにイザヨイによれば、梅華に伝えられる昔話のカルスト伝説の中にこのクロガネ山が登場し、そこにはスサという村があったという。そういえばタワシから聞いた昔話にもスサという名前が出てきたな、とステイが頷いた。
次にシロガネは癒島の北東部に位置する雪と氷に覆われた山々だ。北東の果てにある先刃(サキバ)へ向かうには必ずここを通ることになる。九尾の攻撃からコテツを救ったあの聖水はイザヨイがその先刃で手に入れてきたものだった。大蛇との戦いの後に旅立ったカリバーが目指して行った場所も先刃だ。今頃はもう到着しているだろうか。
続いてコガネ。これは癒の本島ではなく、紫柴北方の離島に存在する山。かつては金鉱だったが今は枯れてしまっている。それよりもむしろ、癒では上空に神々の国があるという伝説でよく知られている場所だ。
そして最後にアカガネ。崖を挟んで向こう側に見えているこの赤い山はクロガネに同じく鉄分を豊富に含む活火山。その火山活動と酸化した鉄分によってその山肌は赤く見える。この山を挟んでさらに向こうには白い大地が見えているが、そこから先はもう癒國の大地ではない。
「じゃあ、あれ国境なんだ。癒じゃなかったら、あっちはなんなの?」
「最知(モシリ)の国ですよ。聞くところによると、雪と氷の厳しい場所だと聞きます」
それまで説明していたコテツに代わってイザヨイが答えた。
モシリについて癒ではあまりよく知られていない。隣国ではあるのだが、唯一の国境が険しい山々、しかも活火山であるため往来がほとんどなく、それゆえに交流もほとんどないのが原因だ。そのため、癒ではモシリは謎多き神秘の国と呼ばれている。
「わかってるのは寒くて何もない場所ということと、私たちが癒にやってくるよりもずっと昔からそこに住んでいる原住民たちが暮らしているということぐらいなんです」
イザヨイが説明していると、そこにコテツが口を挟んだ。
「いや。何もないように思うかもしれないが、結構そうでもねぇモンだぜ。村もたくさんあったし、自然を祀る儀式なンかもいろいろあってだなァ…」
「あら、詳しいんですね。コテツさんはモシリに行ったことが?」
「それよりも”たくさんあった”ってなんで過去形なのかな。何か知ってるわけ?」
「あ、いや、それはだな……っと、見ろ。そろそろ鳴都が見えてきたようだぜぃ!」
コテツは一瞬「しまった」というような表情を見せたが、モシリについてそれ以上は何も話すことはなく、すぐに話題を変えてはぐらかしてしまった。何か隠しているんだろうとシエラが詰め寄ったが、コテツは答えなかった。
「モシリに何かあるのかな」
「まぁ誰にだって秘密のひとつぐらいはありますよ。辛い思い出でもあるんじゃないかしら」
「さぁ。行ったことはあるけど原住民と喧嘩しちゃったとか、どうせそんなんでしょ。あのコテツだし」
もうそれ以上は言うつもりはないと言わんばかりに、コテツが先頭に出て鳴都へと駆け出していく。その後ろ姿を見つめながら、残りの三人は顔を寄せ合ってコテツの秘密を推し量るのだった。
狩澄渡の山を抜けるともう鳴都は目の前だ。
海の都、鳴都。エメラルドブルーの海と広がる砂浜。鼻をくすぐる潮の香り。潮風が運んでくるのは港に集まるウミネコと鳴都の主な住民たる猫の鳴き声。広がる水平線の開放的な景色に映えるのは、朱に塗られた独特な様式の建造物。
「わぁ! すごい。まるで別の国に来たみたい」
初めて見る海の都の景色をステイは両手を広げて身体いっぱいに堪能する。それまで勘繰っていたコテツとモシリの関係性については、もうどこへやらだ。
浜辺には木や藁で作られた簡素な小屋。その隣には海藻や魚、貝などが吊るしたり並べられたりして干されている。
「これなにやってんのかな。あっ、そこのにゃんこ、これは何? おしえておしえて」
「にゃんこ言うな! それは海の幸を干しとるんじゃい。そしたら長持ちするけぇの。大事な売りもんじゃけぇ、盗み食いすんなよ」
「しないよ! それにおいら肉のほうがいい。メーとか」
「ならええんじゃ。まぁ、そういうわしがちっとつまみ食いしてしもうたんじゃがな…」
「やっぱにゃんこじゃん」
新しく見る光景に興味津々なステイは目を輝かせながら、早速あちこちに飛び付いてはなぜなにのつぶて。あっという間に観光モードに切り替わってしまった。そんなために来たんじゃないと、いくらコテツが口を酸っぱくなるほど言っても、こうなったステイはまるで聞きやしない。
「もういいや…。オイラは船の手配をしてくる。おめぇら、あいつがどっか波にさらわれたりしないように見張っといてくれ」
「はいはい、任せて。ステイは波にさらわれるというより、自分から飛び込んでっちゃいそうだけどね」
シエラとイザヨイを残してコテツは港の活気の中へと溶け込んでいった。
「そういえば」とイザヨイが切り出した。「シエラは自分の家を探しているのよね。ここは猫が多いようだけど、ここは違うの?」
「まーねぇ。あたいもっと広々としたとこで育ったもん。こんなごちゃごちゃしてないよ」
「ごちゃごちゃ? 私は十分広々としてると思うけど…。ここよりも広い場所って一体?」
「でも、ここも悪くないかな。魚もいっぱい獲れるし。もうここに住んじゃおっかなー、なんて」
「獲るのはいいけど、盗っちゃだめよ」
「あはは。さすがにしないよ。そしたらあたいが捕られちゃうし」
そんなことを話しているうちにステイは目の前の砂浜を右に左に、何度も往復して駆けまわっていた。
そのうちにコテツが戻って来た。空はよく晴れているが、どうもその表情は晴れない様子だった。
「なんかあったの?」
「それが、船が出せないンだってよ」
空は快晴、波は静かだし、風は落ち着いている。嵐が来ているようでもない。それなのに、コテツが問い合わせにいくと船は出せないと返ってきたのである。それも向かう先、咲華羅大陸行の船だけではない。この鳴都の船すべてを今出すことはできないのだという。
そういえば鳴都に到着したとき、何かが足りないと実はコテツは違和感を感じていた。そう、海の都でありながら眼前に広がるエメラルドブルーの海には一艘一隻の船の姿もなかったのだ。
「ふーん。なんで?」
「いや、それがだな。今このあたりの海域には…」
そのとき砂浜のほうから呼び声が聞こえてきた。ステイの声だ。
「たいへんたいへん! すぐに来て!」
海の都、鳴都。エメラルドブルーの海と広がる砂浜。鼻をくすぐる潮の香り。潮風が運んでくるのは港に集まるウミネコと鳴都の主な住民たる猫の鳴き声。広がる水平線の開放的な景色に映えるのは、朱に塗られた独特な様式の建造物。
「わぁ! すごい。まるで別の国に来たみたい」
初めて見る海の都の景色をステイは両手を広げて身体いっぱいに堪能する。それまで勘繰っていたコテツとモシリの関係性については、もうどこへやらだ。
浜辺には木や藁で作られた簡素な小屋。その隣には海藻や魚、貝などが吊るしたり並べられたりして干されている。
「これなにやってんのかな。あっ、そこのにゃんこ、これは何? おしえておしえて」
「にゃんこ言うな! それは海の幸を干しとるんじゃい。そしたら長持ちするけぇの。大事な売りもんじゃけぇ、盗み食いすんなよ」
「しないよ! それにおいら肉のほうがいい。メーとか」
「ならええんじゃ。まぁ、そういうわしがちっとつまみ食いしてしもうたんじゃがな…」
「やっぱにゃんこじゃん」
新しく見る光景に興味津々なステイは目を輝かせながら、早速あちこちに飛び付いてはなぜなにのつぶて。あっという間に観光モードに切り替わってしまった。そんなために来たんじゃないと、いくらコテツが口を酸っぱくなるほど言っても、こうなったステイはまるで聞きやしない。
「もういいや…。オイラは船の手配をしてくる。おめぇら、あいつがどっか波にさらわれたりしないように見張っといてくれ」
「はいはい、任せて。ステイは波にさらわれるというより、自分から飛び込んでっちゃいそうだけどね」
シエラとイザヨイを残してコテツは港の活気の中へと溶け込んでいった。
「そういえば」とイザヨイが切り出した。「シエラは自分の家を探しているのよね。ここは猫が多いようだけど、ここは違うの?」
「まーねぇ。あたいもっと広々としたとこで育ったもん。こんなごちゃごちゃしてないよ」
「ごちゃごちゃ? 私は十分広々としてると思うけど…。ここよりも広い場所って一体?」
「でも、ここも悪くないかな。魚もいっぱい獲れるし。もうここに住んじゃおっかなー、なんて」
「獲るのはいいけど、盗っちゃだめよ」
「あはは。さすがにしないよ。そしたらあたいが捕られちゃうし」
そんなことを話しているうちにステイは目の前の砂浜を右に左に、何度も往復して駆けまわっていた。
そのうちにコテツが戻って来た。空はよく晴れているが、どうもその表情は晴れない様子だった。
「なんかあったの?」
「それが、船が出せないンだってよ」
空は快晴、波は静かだし、風は落ち着いている。嵐が来ているようでもない。それなのに、コテツが問い合わせにいくと船は出せないと返ってきたのである。それも向かう先、咲華羅大陸行の船だけではない。この鳴都の船すべてを今出すことはできないのだという。
そういえば鳴都に到着したとき、何かが足りないと実はコテツは違和感を感じていた。そう、海の都でありながら眼前に広がるエメラルドブルーの海には一艘一隻の船の姿もなかったのだ。
「ふーん。なんで?」
「いや、それがだな。今このあたりの海域には…」
そのとき砂浜のほうから呼び声が聞こえてきた。ステイの声だ。
「たいへんたいへん! すぐに来て!」
ステイの声に三人はすぐに駆けつけた。
走りながらコテツが言いかけたことの続きを話す。
「今このあたりの海で水龍が出るらしいンだ。それで危ねぇから船は出せないってンだが…」
「竜……ですか? ステイさんと同じような」
「いや、もっとでかい。竜じゃなくて龍なンだ」
竜族は主に二対の翼と四肢を持つ空の種族だ。竜族にも様々な種類が存在するが、それらは一部例外を除けばほとんどが魔法に長けており、とくに特化した能力によって火竜や水竜などというように呼ばれる。または二対の翼と二つの後ろ脚を持つ竜を飛竜と呼ぶ。それらをまとめて呼ぶときに竜という呼称が用いられる。ちなみにステイは竜人族で竜とは違う、竜の亜種のようなものだ。
遠く西部の海では龍も竜の一種に数えられているが、東部に位置する癒やその周辺では龍は竜と異なる種族とされている。ほとんどが竜よりも大きく、そして体長も長い。また翼を持たないが、魔力によって空を飛ぶことができるという特徴を持つ。強い魔力を持つ蛇が龍の一種だとして数えられることもあるという。
「まさか龍が出たってンじゃねぇだろうな…!」
正面には人だかり、いや猫だかりができている。何か騒ぎが起こっている様子だ。そしてステイの姿もそこにあった。
万が一に備えて気を引き締めながらステイの下へと急ぐ。
「何かあったのか!?」
慌てて駆けつけるとステイは真剣な表情でそれを指さして言った。
「見て。子猫たちがなんかヘンないきものいぢめてる!」
「そンなの知るかァー!」
そのままコテツはステイの前を駆け抜けた。
見ると、砂浜に集まった子猫の輪の内では何やら奇妙な生き物が転がっている。方々から猫パンチを受けては右へ左へとそれはころころと転がっている。念のために確認してみるも、それがメタディアというわけでもなく危険性は感じられない。メタディアに共通するのは紫色系統の体色をしていること。この転がっているよくわからないものはむしろ黄色っぽい。
「坊やにお嬢ちゃーん、なにやってるのかなぁ」とシエラが子猫たちの輪に割り込んだ。
「なんだよねーちゃんは。これはぼくらが先に見つけたんだぞ」
「あげないよ! 面白いもん」
子猫たちは口々に言った。そしてシエラたちには見向きもしないで、それを転がし続けている。
「まぁ、別に欲しくはないけどね。でもなんでだろう。それ見てるとなんだかうずうずしてきちゃうんだよね…。ああ、だめだ! もう我慢できないッ! あたいも混ぜてぇー!!」
そのままシエラは子猫たちの輪に混ざってそれを転がし始めてしまった。猫は猫である。
「もう、しえしえ何やってんの」
転がされている奇妙な生き物は何やらうめき声を上げている。
「でもなんだか可哀そう…。そういうのはあまり良くないと思います」
「そう! そうだよ、イザヨイはちゃんとわかってる! だから助けてあげなくっちゃ」
「そういうことなら私に任せてください」
イザヨイが念じると、その周囲に蒼い火の玉が浮かび上がった。イザヨイの妖術だ。火の玉は子猫たちの輪の中へすうっと移動すると不気味に揺れながら浮遊する。
「うわっ、オバケだ!」「オバケ嫌い!」「逃げろー!」
火の玉に驚いた子猫たちは一目散に走り去って行った。
「ま、こんなもんですよ」
役目を終えた火の玉はイザヨイの合図とともに静かに消えていった。
「やったね! きっと虐められたのは亀だよ。助けたお礼に竜宮城に連れてってもらえるかも!」
「え、ステイさん…」
呆れるイザヨイをよそにさっそくステイは、その奇妙な生き物を確認に向かった。それとは入れ替わりに子猫たちと一緒に輪に加わっていたシエラが戻ってくる。
「あーあ。面白かったのに」
「だめよ、いっしょになってちゃ」
「ごめーん。なんか本能的につい」
一方騒ぎが収まったところで駆け抜けて行ったコテツも戻ってきてステイの隣に立った。そこから首を伸ばして騒ぎの中心にいたそれの正体を確かめる。
転がされ続けてボロ雑巾のようになっていたそれは、ふらふらしながらもなんとか立ち上がった。丸い胴体に手足が生えたような姿をしており、頭上には一本の鞭毛のようなものも確認できる。そして腰をさすりながらえらい目に合ったなどと口にした。
「しゃべった!」
「というかオイラ、こいつを前にも見たことがあるンだが…」
そのヒョウタンのような形をした奇妙な生き物は、自分を眺めている二人に気が付くと親しそうに声をかけた。
「いやー、助かったのだ! 危うく弾けてポップコーンになってしまうところだったのだ。おお、よく見れば君たちはこの前の。そうかそうか、私を覚えていてくれたんだな。そして危険な猛獣に襲われる私を見つけて、ああっ可哀想でもう見てらんないッ! ってことで、すかさず助けに来てくれたのだね。いやぁ、持つべきものは友達なのだ。ワッハッハ」
それはいつぞや出逢ったあのインゲン星人……もといタネはかせだった。なぜかいつの間にか友達ということにされているらしい。そりゃあ奇妙な出で立ちをしているのだもの。子猫にころころされても仕方がない。
奇妙な生き物の正体が判明したところでステイとコテツは揃ってため息を吐いた。
「なーんだ」
「なんだとはなんなのだ!」
「水龍じゃねぇのか。じゃあどうでもいいや」
「どうでもいいとはなんなのだ!」
騒ぎの原因がわかったところで、駆けつけた三人はやれやれと解散していった。そんなことよりも、なんとか咲華羅へ行く別の船を探すか、水龍の問題をどうにかするのか、何か方法を見つけなくてはならない。
自分を無視する四人に文句を言いながら砂浜に一人騒ぎ立てるタネはかせ。するとその背後に黒い影が迫った。そこから手が伸びると、それはゆっくりとタネはかせの頭に迫る。不穏な気配を感じ取って振り返ったときにはもう遅かった。
「はっ……うわっ! な、何をするのだ!」
「つーかまーえたっと。暇だからインゲン星人エサにして釣りでもしよっと」
「やめろ、放せ……ああっ、そこ持っちゃだめなのだ! わ、私の最後の一本が……ぬ、抜けてしまう! やめて!」
暇を持て余したステイはタネはかせを片手に、もう一方の手で器用に糸をくくりつけると、手頃な海岸に移動して勢い良く海へ投げ入れた。糸を辿るとそれは木を削って作られたステイお手製の釣りざおに繋がっている。その場にどっしりと腰を据えると、竿を両手にステイは獲物がかかるのを待つのだった。
「くそーッ! 私は天さ、わっぷ。て、天才なんだぞ! それをこんなひどい仕打ち……ハ、ハゲて出てやるのだ! あ、間違った。バケて出てやるーっ!!」
断末魔の叫びを残してインゲン星人は海中へ消えた。
走りながらコテツが言いかけたことの続きを話す。
「今このあたりの海で水龍が出るらしいンだ。それで危ねぇから船は出せないってンだが…」
「竜……ですか? ステイさんと同じような」
「いや、もっとでかい。竜じゃなくて龍なンだ」
竜族は主に二対の翼と四肢を持つ空の種族だ。竜族にも様々な種類が存在するが、それらは一部例外を除けばほとんどが魔法に長けており、とくに特化した能力によって火竜や水竜などというように呼ばれる。または二対の翼と二つの後ろ脚を持つ竜を飛竜と呼ぶ。それらをまとめて呼ぶときに竜という呼称が用いられる。ちなみにステイは竜人族で竜とは違う、竜の亜種のようなものだ。
遠く西部の海では龍も竜の一種に数えられているが、東部に位置する癒やその周辺では龍は竜と異なる種族とされている。ほとんどが竜よりも大きく、そして体長も長い。また翼を持たないが、魔力によって空を飛ぶことができるという特徴を持つ。強い魔力を持つ蛇が龍の一種だとして数えられることもあるという。
「まさか龍が出たってンじゃねぇだろうな…!」
正面には人だかり、いや猫だかりができている。何か騒ぎが起こっている様子だ。そしてステイの姿もそこにあった。
万が一に備えて気を引き締めながらステイの下へと急ぐ。
「何かあったのか!?」
慌てて駆けつけるとステイは真剣な表情でそれを指さして言った。
「見て。子猫たちがなんかヘンないきものいぢめてる!」
「そンなの知るかァー!」
そのままコテツはステイの前を駆け抜けた。
見ると、砂浜に集まった子猫の輪の内では何やら奇妙な生き物が転がっている。方々から猫パンチを受けては右へ左へとそれはころころと転がっている。念のために確認してみるも、それがメタディアというわけでもなく危険性は感じられない。メタディアに共通するのは紫色系統の体色をしていること。この転がっているよくわからないものはむしろ黄色っぽい。
「坊やにお嬢ちゃーん、なにやってるのかなぁ」とシエラが子猫たちの輪に割り込んだ。
「なんだよねーちゃんは。これはぼくらが先に見つけたんだぞ」
「あげないよ! 面白いもん」
子猫たちは口々に言った。そしてシエラたちには見向きもしないで、それを転がし続けている。
「まぁ、別に欲しくはないけどね。でもなんでだろう。それ見てるとなんだかうずうずしてきちゃうんだよね…。ああ、だめだ! もう我慢できないッ! あたいも混ぜてぇー!!」
そのままシエラは子猫たちの輪に混ざってそれを転がし始めてしまった。猫は猫である。
「もう、しえしえ何やってんの」
転がされている奇妙な生き物は何やらうめき声を上げている。
「でもなんだか可哀そう…。そういうのはあまり良くないと思います」
「そう! そうだよ、イザヨイはちゃんとわかってる! だから助けてあげなくっちゃ」
「そういうことなら私に任せてください」
イザヨイが念じると、その周囲に蒼い火の玉が浮かび上がった。イザヨイの妖術だ。火の玉は子猫たちの輪の中へすうっと移動すると不気味に揺れながら浮遊する。
「うわっ、オバケだ!」「オバケ嫌い!」「逃げろー!」
火の玉に驚いた子猫たちは一目散に走り去って行った。
「ま、こんなもんですよ」
役目を終えた火の玉はイザヨイの合図とともに静かに消えていった。
「やったね! きっと虐められたのは亀だよ。助けたお礼に竜宮城に連れてってもらえるかも!」
「え、ステイさん…」
呆れるイザヨイをよそにさっそくステイは、その奇妙な生き物を確認に向かった。それとは入れ替わりに子猫たちと一緒に輪に加わっていたシエラが戻ってくる。
「あーあ。面白かったのに」
「だめよ、いっしょになってちゃ」
「ごめーん。なんか本能的につい」
一方騒ぎが収まったところで駆け抜けて行ったコテツも戻ってきてステイの隣に立った。そこから首を伸ばして騒ぎの中心にいたそれの正体を確かめる。
転がされ続けてボロ雑巾のようになっていたそれは、ふらふらしながらもなんとか立ち上がった。丸い胴体に手足が生えたような姿をしており、頭上には一本の鞭毛のようなものも確認できる。そして腰をさすりながらえらい目に合ったなどと口にした。
「しゃべった!」
「というかオイラ、こいつを前にも見たことがあるンだが…」
そのヒョウタンのような形をした奇妙な生き物は、自分を眺めている二人に気が付くと親しそうに声をかけた。
「いやー、助かったのだ! 危うく弾けてポップコーンになってしまうところだったのだ。おお、よく見れば君たちはこの前の。そうかそうか、私を覚えていてくれたんだな。そして危険な猛獣に襲われる私を見つけて、ああっ可哀想でもう見てらんないッ! ってことで、すかさず助けに来てくれたのだね。いやぁ、持つべきものは友達なのだ。ワッハッハ」
それはいつぞや出逢ったあのインゲン星人……もといタネはかせだった。なぜかいつの間にか友達ということにされているらしい。そりゃあ奇妙な出で立ちをしているのだもの。子猫にころころされても仕方がない。
奇妙な生き物の正体が判明したところでステイとコテツは揃ってため息を吐いた。
「なーんだ」
「なんだとはなんなのだ!」
「水龍じゃねぇのか。じゃあどうでもいいや」
「どうでもいいとはなんなのだ!」
騒ぎの原因がわかったところで、駆けつけた三人はやれやれと解散していった。そんなことよりも、なんとか咲華羅へ行く別の船を探すか、水龍の問題をどうにかするのか、何か方法を見つけなくてはならない。
自分を無視する四人に文句を言いながら砂浜に一人騒ぎ立てるタネはかせ。するとその背後に黒い影が迫った。そこから手が伸びると、それはゆっくりとタネはかせの頭に迫る。不穏な気配を感じ取って振り返ったときにはもう遅かった。
「はっ……うわっ! な、何をするのだ!」
「つーかまーえたっと。暇だからインゲン星人エサにして釣りでもしよっと」
「やめろ、放せ……ああっ、そこ持っちゃだめなのだ! わ、私の最後の一本が……ぬ、抜けてしまう! やめて!」
暇を持て余したステイはタネはかせを片手に、もう一方の手で器用に糸をくくりつけると、手頃な海岸に移動して勢い良く海へ投げ入れた。糸を辿るとそれは木を削って作られたステイお手製の釣りざおに繋がっている。その場にどっしりと腰を据えると、竿を両手にステイは獲物がかかるのを待つのだった。
「くそーッ! 私は天さ、わっぷ。て、天才なんだぞ! それをこんなひどい仕打ち……ハ、ハゲて出てやるのだ! あ、間違った。バケて出てやるーっ!!」
断末魔の叫びを残してインゲン星人は海中へ消えた。
しばらくして再びステイを除く三人は海岸沿いに集まる。
コテツは鳴都の港を端から端まで駆けまわった。漁船から貸しボートまで、船と名のつくものには片っ端から当たってみた。だが誰もが「水龍が水龍が」と言うばかりで、船を出そうという者は一人も見つからない。もし何かあったら責任が取れないからと船を貸す者もいなかった。
イザヨイは鳴都の居住区をまわって水龍についての情報を集めた。それはつい最近現れるようになったもので、今までは見たことも聞いたこともなかったという。水龍は何の前触れもなく現れて近海を暴れ回るらしい。これに巻き込まれてすでに数隻の漁船や連絡船が海底に沈んでいる。いつ水龍が暴れ出すかわからないからこそ、危険を恐れて誰も船を出したがらないのだ。
一方シエラは市場をまわって魚をどっさりかかえて戻ってきた。
「なンでおめぇだけ買い物を満喫してンだよ!」
「途中で食べようと思って。ほら、何かと長旅になりそうでしょ。食糧の確保も大事じゃない」
「そンなに魚ばかりあっても腐っちまうだろ。というかおめぇ、どこにそンなに金を溜めこンでたンだ」
「こういう魔法が珍しい地域じゃ、ちょっと腕前を披露するだけであっという間だもんね」
(……いいのか、そンなことに魔法を使って)
情報収集と偏重した食糧調達はできたが、やはり船は出ない。船が無ければ海を渡ることはできない。
「海が静かになるまで足止めなんでしょうか…」
行き詰った状況に頭を悩ませていると、海岸のほうから呼び声が聞こえてきた。ステイの声だ。
「たいへんたいへん! すぐに来て!」
こんどは何だと集まってみると、さっきまではそこになかったはずの島が沖のほうにできている。
「な、なンだありゃァ!?」
よく見ると島は波に揺られて動いているように見える。さらによく見ればその島には頭があって、鰭があって……
「亀!?」
島に見えたそれは大きな亀の甲羅だったのだ。甲羅には一面に苔が生えていて、これが島のように見えたというわけだ。
「おいらが釣ったんだよ。さすがインゲン星人、食い付きが違ったね」
「し、信じらンねぇぜぃ…」
「でも、あの亀に乗せてもらえれば海を渡れるんじゃないでしょうか?」
イザヨイの提案にコテツは目から鱗が落ちた。海を行くのは船だけじゃない。さすがにステイに乗って飛んでいくには遠すぎるし、全員が乗るにはその背中は狭すぎるが、あれほど大きい亀ならステイが100人いたとしても十分なスペースがあるだろう。まぁ、あんなのが100人もいては溜まったものではないが。とにかく、これで海を渡れるかもしれない。
大亀は沖のほうにいるのでステイが言葉を伝えることにした。近づくステイに気付いた亀が首を伸ばす。
しばらくしてステイが戻って来た。その後について亀が寄ってきて海岸に身体を寄せる。コテツたちが背に飛び乗ったのを確認すると亀は大海原へと出発した。
ある程度、海を行ったところで亀の身体が海中に潜り始めた。
「おい、沈んでるぞ! どうなってンだ」
「水中を行ったほうが速いとか、それか安全とか、そういうことなんじゃないでしょうか」
「空気なら心配いらないよ。あたいが魔法で水を押し退けてあげるから」
予想外の方向に進み始めた亀に驚いていると、そんな三人に向かってステイが少し言いにくそうに説明した。
「えっと、それがね……」
コテツは鳴都の港を端から端まで駆けまわった。漁船から貸しボートまで、船と名のつくものには片っ端から当たってみた。だが誰もが「水龍が水龍が」と言うばかりで、船を出そうという者は一人も見つからない。もし何かあったら責任が取れないからと船を貸す者もいなかった。
イザヨイは鳴都の居住区をまわって水龍についての情報を集めた。それはつい最近現れるようになったもので、今までは見たことも聞いたこともなかったという。水龍は何の前触れもなく現れて近海を暴れ回るらしい。これに巻き込まれてすでに数隻の漁船や連絡船が海底に沈んでいる。いつ水龍が暴れ出すかわからないからこそ、危険を恐れて誰も船を出したがらないのだ。
一方シエラは市場をまわって魚をどっさりかかえて戻ってきた。
「なンでおめぇだけ買い物を満喫してンだよ!」
「途中で食べようと思って。ほら、何かと長旅になりそうでしょ。食糧の確保も大事じゃない」
「そンなに魚ばかりあっても腐っちまうだろ。というかおめぇ、どこにそンなに金を溜めこンでたンだ」
「こういう魔法が珍しい地域じゃ、ちょっと腕前を披露するだけであっという間だもんね」
(……いいのか、そンなことに魔法を使って)
情報収集と偏重した食糧調達はできたが、やはり船は出ない。船が無ければ海を渡ることはできない。
「海が静かになるまで足止めなんでしょうか…」
行き詰った状況に頭を悩ませていると、海岸のほうから呼び声が聞こえてきた。ステイの声だ。
「たいへんたいへん! すぐに来て!」
こんどは何だと集まってみると、さっきまではそこになかったはずの島が沖のほうにできている。
「な、なンだありゃァ!?」
よく見ると島は波に揺られて動いているように見える。さらによく見ればその島には頭があって、鰭があって……
「亀!?」
島に見えたそれは大きな亀の甲羅だったのだ。甲羅には一面に苔が生えていて、これが島のように見えたというわけだ。
「おいらが釣ったんだよ。さすがインゲン星人、食い付きが違ったね」
「し、信じらンねぇぜぃ…」
「でも、あの亀に乗せてもらえれば海を渡れるんじゃないでしょうか?」
イザヨイの提案にコテツは目から鱗が落ちた。海を行くのは船だけじゃない。さすがにステイに乗って飛んでいくには遠すぎるし、全員が乗るにはその背中は狭すぎるが、あれほど大きい亀ならステイが100人いたとしても十分なスペースがあるだろう。まぁ、あんなのが100人もいては溜まったものではないが。とにかく、これで海を渡れるかもしれない。
大亀は沖のほうにいるのでステイが言葉を伝えることにした。近づくステイに気付いた亀が首を伸ばす。
しばらくしてステイが戻って来た。その後について亀が寄ってきて海岸に身体を寄せる。コテツたちが背に飛び乗ったのを確認すると亀は大海原へと出発した。
ある程度、海を行ったところで亀の身体が海中に潜り始めた。
「おい、沈んでるぞ! どうなってンだ」
「水中を行ったほうが速いとか、それか安全とか、そういうことなんじゃないでしょうか」
「空気なら心配いらないよ。あたいが魔法で水を押し退けてあげるから」
予想外の方向に進み始めた亀に驚いていると、そんな三人に向かってステイが少し言いにくそうに説明した。
「えっと、それがね……」
それはステイが亀に近づいて背中に乗せてもらうことを頼みに行ったときのことだ。
近づいてくる存在に気付いた亀は首を伸ばして先にステイに話しかけた。
「わしを釣り上げたのはおまえさんか。いやぁ、助かったわい。水龍様の起こした水流に流されて、岩に引っ掛かって困っておったんじゃ。これは何かおまえさんに礼をせんとのぅ」
亀はこう言っている。これは都合がいい、とステイは背中に乗せて隣の大陸まで海を渡って欲しいと頼みかけたが、それよりも先にこの年老いた亀が話し始めた。
「そうじゃ! お礼におまえさんを竜宮城に招待しよう。そうだ、それがいい! さぁ、もたもたしてないでわしの背中に乗りなさい。時は待ってくれないぞ、さぁ出発じゃ」
「竜宮城!! 本当にあるの!?」
「もちろんじゃ。おまえさんが来てくれれば、きっと乙姫様も歓迎することじゃろう」
「乙姫様!! 見たい見たい、行く行く! あ、他に仲間がいるんだけど、一緒に行ってもいいよね?」
「多いほうが乙姫様も喜ぶはずじゃ。では全員でわしの背に乗りなさい。気が変わらないうちに、さぁ早く」
そこでステイは仲間のいる海岸まで亀を誘導して、そこにコテツたちが乗り込んだ……というわけだった。
近づいてくる存在に気付いた亀は首を伸ばして先にステイに話しかけた。
「わしを釣り上げたのはおまえさんか。いやぁ、助かったわい。水龍様の起こした水流に流されて、岩に引っ掛かって困っておったんじゃ。これは何かおまえさんに礼をせんとのぅ」
亀はこう言っている。これは都合がいい、とステイは背中に乗せて隣の大陸まで海を渡って欲しいと頼みかけたが、それよりも先にこの年老いた亀が話し始めた。
「そうじゃ! お礼におまえさんを竜宮城に招待しよう。そうだ、それがいい! さぁ、もたもたしてないでわしの背中に乗りなさい。時は待ってくれないぞ、さぁ出発じゃ」
「竜宮城!! 本当にあるの!?」
「もちろんじゃ。おまえさんが来てくれれば、きっと乙姫様も歓迎することじゃろう」
「乙姫様!! 見たい見たい、行く行く! あ、他に仲間がいるんだけど、一緒に行ってもいいよね?」
「多いほうが乙姫様も喜ぶはずじゃ。では全員でわしの背に乗りなさい。気が変わらないうちに、さぁ早く」
そこでステイは仲間のいる海岸まで亀を誘導して、そこにコテツたちが乗り込んだ……というわけだった。
「竜宮城!? 聞いてねぇぞ、オイラは!」
話を聞いたコテツは血相を変えてステイに詰め寄る。
「まぁいいじゃない。ほら、竜宮城にもコテツが強くなるための秘密があるかもしれないよ。例えば……玉手箱とか」
「そンなモンいるか! すぐに引き返せ、オイラは竜宮城なンて行かねぇ!」
赤い顔で怒鳴るコテツにシエラとイザヨイが説得を試みる。
「でも魚いっぱい獲れるんじゃない? 天国だよ」
「そりゃおめぇだけだろ!」
「いいじゃないですか。これだって貴重な経験になると思いますよ」
「だめだ。無理だ。オイラ行かねぇ」
どうしてそこまで頑なに拒否するのかと問うと、こんどは蒼い顔でコテツが答えた。
「オ、オイラ……泳げねぇンだよ…」
「わんこのくせに!」
「うるせェ! こちとら雪国育ちでィ! 泳ぎには縁がなかったンだよ、悪いか!!」
そうしているうちにも亀は海中へと沈んでいく。
シエラは魔法で水を押し退けて酸素を確保し、取り乱すコテツをステイが押さえ付けて、そんな様子を見てイザヨイが笑い声を上げる。
その道中、背中に乗せた”客たち”には気付かれないように亀はぼそりと呟いた。
(しめしめ、うまくいったわい。こいつらに問題を解決させれば、乙姫様もきっとお喜びになるじゃろうて……)
そんな賑やかな空気と不穏な空気を乗せて亀は海の底へ。海底の都、竜宮城へと向かう。
話を聞いたコテツは血相を変えてステイに詰め寄る。
「まぁいいじゃない。ほら、竜宮城にもコテツが強くなるための秘密があるかもしれないよ。例えば……玉手箱とか」
「そンなモンいるか! すぐに引き返せ、オイラは竜宮城なンて行かねぇ!」
赤い顔で怒鳴るコテツにシエラとイザヨイが説得を試みる。
「でも魚いっぱい獲れるんじゃない? 天国だよ」
「そりゃおめぇだけだろ!」
「いいじゃないですか。これだって貴重な経験になると思いますよ」
「だめだ。無理だ。オイラ行かねぇ」
どうしてそこまで頑なに拒否するのかと問うと、こんどは蒼い顔でコテツが答えた。
「オ、オイラ……泳げねぇンだよ…」
「わんこのくせに!」
「うるせェ! こちとら雪国育ちでィ! 泳ぎには縁がなかったンだよ、悪いか!!」
そうしているうちにも亀は海中へと沈んでいく。
シエラは魔法で水を押し退けて酸素を確保し、取り乱すコテツをステイが押さえ付けて、そんな様子を見てイザヨイが笑い声を上げる。
その道中、背中に乗せた”客たち”には気付かれないように亀はぼそりと呟いた。
(しめしめ、うまくいったわい。こいつらに問題を解決させれば、乙姫様もきっとお喜びになるじゃろうて……)
そんな賑やかな空気と不穏な空気を乗せて亀は海の底へ。海底の都、竜宮城へと向かう。