見えざる糸 ◆GO82qGZUNE
「……」
「……」
「……」
「………………」
「………………………………………………………………………」
◆
自衛隊基地を目指そうとアクセルを吹かしてから十分ほどの時間が過ぎていた。
移動は今のところ順調そのものだ。襲撃どころか人影すら全く見えない。いや害意さえ無けりゃいい加減誰かと会いたい気持ちもあるのだけど、邪魔がないという意味では順調だった。
それはいい。だが問題がひとつ。
移動は今のところ順調そのものだ。襲撃どころか人影すら全く見えない。いや害意さえ無けりゃいい加減誰かと会いたい気持ちもあるのだけど、邪魔がないという意味では順調だった。
それはいい。だが問題がひとつ。
「………………」
「……なあ、これからのことなんだけどさ」
「黙って前を向いていろ」
「……」
「……」
気まずい。
本当に気まずい。
いつも一緒にいた広斗だって似たようなむっすり野郎だったけど、でもなんだろう、方向性が違う。広斗は「ああ今機嫌が悪いんだな」とか「これ面倒だって思ってるんだな」と分かるが、こっちは何を考えているのかまるで分からない。何その表情、どんな感情の顔それ。
しかもさっきから微動だにせずこっちの背中を見つめてきてる。後ろを振り向いたわけじゃないけどそれは分かる。だって視線が痛いほど突き刺さってくるし。いや俺そんな殺気とか云々に敏感なありがちな達人じゃねえんだけど、でもなんで分かっちまうんだこれ。どんな視線だ、マジでこえぇんだけど。なにこいつ。
さっきから何度も話しかけてはいるけど、その度に素っ気なく返される。安全運転しろってのはその通りだけど、でも色々話さなきゃいけないことってあるじゃん。もうちょっと愛想よくしてくれたっていいんじゃねえの? せめて事務的な会話くらいはさぁ。
本当に気まずい。
いつも一緒にいた広斗だって似たようなむっすり野郎だったけど、でもなんだろう、方向性が違う。広斗は「ああ今機嫌が悪いんだな」とか「これ面倒だって思ってるんだな」と分かるが、こっちは何を考えているのかまるで分からない。何その表情、どんな感情の顔それ。
しかもさっきから微動だにせずこっちの背中を見つめてきてる。後ろを振り向いたわけじゃないけどそれは分かる。だって視線が痛いほど突き刺さってくるし。いや俺そんな殺気とか云々に敏感なありがちな達人じゃねえんだけど、でもなんで分かっちまうんだこれ。どんな視線だ、マジでこえぇんだけど。なにこいつ。
さっきから何度も話しかけてはいるけど、その度に素っ気なく返される。安全運転しろってのはその通りだけど、でも色々話さなきゃいけないことってあるじゃん。もうちょっと愛想よくしてくれたっていいんじゃねえの? せめて事務的な会話くらいはさぁ。
などとぶつくさ考えながらバイクを走らせ、そろそろ街を抜けるかというところに差し掛かった。
その時だった。
その時だった。
「止まれ」
突拍子もない義勇の一言。雅貴は僅かな躊躇もなくバイクを横倒しに急停止させた。
アスファルトを擦る特有の音は一瞬、すぐに静寂がその場を満たす。
アスファルトを擦る特有の音は一瞬、すぐに静寂がその場を満たす。
「誰かいるのか」
「敵だ」
言われ、周囲を見渡す。誰もいない。街中を抜け出たばかりの一帯は舗装された路地だけが一直線に伸びており、一番近い建造物でも50mは向こうにある。誰かが近づいているならば見落としようもない立地。
ならばどこに誰がいるのか。雅貴は一歩足を踏み出し。
ならばどこに誰がいるのか。雅貴は一歩足を踏み出し。
ぞわり、と肌が泡立った。
「……!」
視線を正面に固定したまま、ゆっくりとカードデッキを構える。ミラーに映る自分の姿を見るよりも早く、漆黒の装甲が音もなく瞬着する。
何かが、いる。
姿は見えず声も聞こえない。だが、いる。確実に。
姿は見えず声も聞こえない。だが、いる。確実に。
自分の物ではない誰かの視線と意思が周囲の空間を満たし、巨大な生物の体内に閉じ込められたような感覚。鎧で体を覆っているにも関わらず、丸裸で雪原に放り出されたかのように肌に突き刺さる怜悧な殺意。
いや、これは殺意や敵意といった熱のあるものではなく……
昆虫の捕食本能めいた、もっと無機質な脅威にも思えた。
いや、これは殺意や敵意といった熱のあるものではなく……
昆虫の捕食本能めいた、もっと無機質な脅威にも思えた。
"……義勇"
口にしかけた言葉を寸前で呑みこむ。声を発した瞬間に奴は襲ってくる───そんな確信がある。義勇が白銀色の剣を下段に構える様を視界の端で捉える。空気が重い。あまりに音が無さすぎて、逆に耳鳴りが聞こえてきそうだった。
相手の正体も攻撃方法も分からないこの状況で、もっとも適切な防御手段は「避ける」こと。オルタナティブ・ゼロという強固な鎧こそあるが、水澤悠のような人智を超えた力の持ち主を、雅貴は既に知っている。とにかく相手の能力を見極めないことには「受け止める」ことも「撃ち落とす」こともままならない。まずは攻撃方法を正確に見極める目と、攻撃より早く動く足が必要だ。
相手の正体も攻撃方法も分からないこの状況で、もっとも適切な防御手段は「避ける」こと。オルタナティブ・ゼロという強固な鎧こそあるが、水澤悠のような人智を超えた力の持ち主を、雅貴は既に知っている。とにかく相手の能力を見極めないことには「受け止める」ことも「撃ち落とす」こともままならない。まずは攻撃方法を正確に見極める目と、攻撃より早く動く足が必要だ。
どこから来る?
半身に構えた手先が汗に濡れ、心臓が鼓動を増していく。小さく息を吸い込み、吐き出し、圧力の放たれる先に向かって更に一歩、踏み込む。
その瞬間、雅貴は自分の間違いに気付いた。
正しい選択は「避ける」ことではなく「受け止める」ことだった。
その瞬間、雅貴は自分の間違いに気付いた。
正しい選択は「避ける」ことではなく「受け止める」ことだった。
───攻撃は全方位360度からやってきた。
咄嗟に後方へ跳躍し、裏拳の形に握った右手を水平に振り抜くことで精一杯だった。
上空、地面、四方の空間───考え得るありとあらゆる場所から突き出た「なにか」が、あらゆる角度から雅貴を襲ったのだ。
振り抜いた拳が正面と右方からの攻撃を撃ち落とし、脱出のためのスペースを生む。半ば倒れ込むような格好で着地すると同時、雅貴の横を滑り込む形で義勇が踏み込んだ。
上空、地面、四方の空間───考え得るありとあらゆる場所から突き出た「なにか」が、あらゆる角度から雅貴を襲ったのだ。
振り抜いた拳が正面と右方からの攻撃を撃ち落とし、脱出のためのスペースを生む。半ば倒れ込むような格好で着地すると同時、雅貴の横を滑り込む形で義勇が踏み込んだ。
───水の呼吸 拾壱ノ型 凪
踏み込み一閃。空間を塗り潰す邪気の一切と共に、暴威の悉くが薙ぎ払われる。
裁断され宙を舞う細かな破片。雅貴はそこで、やっと攻撃の正体を認識する。
裁断され宙を舞う細かな破片。雅貴はそこで、やっと攻撃の正体を認識する。
(これ、触手……か?)
それは一言で言うならば、クラゲの触腕めいた半透明の物体。
シャボン液めいて七色に明滅する柔らかなそれが、方向の別なく殺到し地面からは針山のように突き出していた。
シャボン液めいて七色に明滅する柔らかなそれが、方向の別なく殺到し地面からは針山のように突き出していた。
「下がっていろ」
雅貴の困惑に先んじて義勇が動く。尚も止むことのない触手の波濤に向けての二撃目、殺意の塊が切り払われる。視認もできない致死の猛撃が無為なゼラチン質の塊となって飛散し、次々と地面に落ちていった。
結果だけを論じるならば、初撃における雅貴の「後退」という選択は正しかったと言えるだろう。何故なら彼が飛んだ先は義勇の間合い、すなわち凪が及ぶ範囲の中であったのだから。
水の呼吸拾壱ノ型・凪。それは間合いの域を踏み越えて結界の領域に到達した斬閃の嵐。通り過ぎた先は全てが無となる。凪と化す。
だがそれも、あくまで刃の届く先までだ。冨岡義勇は人であり、条理を無視した血鬼術を使う鬼とは違う。剣理とはすなわち理論的に構築された術理であり、不可能を可能とするものではない。
然るに雅貴が凪の間合いに退避したのは間違いなく正答であり、同時に斬撃の結界に守られた彼らがその場から動けない理由もまた明らかだった。
結果だけを論じるならば、初撃における雅貴の「後退」という選択は正しかったと言えるだろう。何故なら彼が飛んだ先は義勇の間合い、すなわち凪が及ぶ範囲の中であったのだから。
水の呼吸拾壱ノ型・凪。それは間合いの域を踏み越えて結界の領域に到達した斬閃の嵐。通り過ぎた先は全てが無となる。凪と化す。
だがそれも、あくまで刃の届く先までだ。冨岡義勇は人であり、条理を無視した血鬼術を使う鬼とは違う。剣理とはすなわち理論的に構築された術理であり、不可能を可能とするものではない。
然るに雅貴が凪の間合いに退避したのは間違いなく正答であり、同時に斬撃の結界に守られた彼らがその場から動けない理由もまた明らかだった。
(これをやってる奴の姿が見えねえ。それと)
知れず、雅貴は仮面の裏で唇を噛む。
(俺を庇ってるから、だよな)
あるいは義勇一人だけならば、凪を維持したまま周囲の索敵ならび殲滅に移ることも可能だっただろう。
しかし雅貴がここにおり、更に敵手の姿も見えないとなれば当然、下手に動くことはできない。攻撃が縦横無尽に襲ってくるのもマイナスに働いた。銃弾のような直線的な攻撃と違って、それのみでは発射の方向を推察することができないのだ。
そして当然、人智を超えた怪物と鍛えただけの人間では、先に限界が来るのは人間の側。この状況に追い込まれたならジリ貧になるのは分かりきっていたことだろうに。
しかし雅貴がここにおり、更に敵手の姿も見えないとなれば当然、下手に動くことはできない。攻撃が縦横無尽に襲ってくるのもマイナスに働いた。銃弾のような直線的な攻撃と違って、それのみでは発射の方向を推察することができないのだ。
そして当然、人智を超えた怪物と鍛えただけの人間では、先に限界が来るのは人間の側。この状況に追い込まれたならジリ貧になるのは分かりきっていたことだろうに。
(やっぱこいつ、悪い奴じゃねえんだよな)
膝をついた体勢から身を起こし、横を見遣る。義勇は変わらず無表情で何を考えているか分からないし、何も喋らないし、まあ正直苦手なタイプであることに変わりはないのだけど。
何となく、こいつがどういう奴なのかは分かった……ような気がする。
何となく、こいつがどういう奴なのかは分かった……ような気がする。
「ワリぃけどちょっと聞けない相談だわ、それ。女の子とならともかく男と共倒れとか勘弁願いたいし」
「何を」
「まあ見てろって」
「何を」
「まあ見てろって」
言って腰のデッキからカードを引き抜く。この鎧、オルタナティブ・ゼロの使用方法はおおまかに理解している。鏡に映すことで"変身"できるだけでなく、カードを読み込むことで発動する特殊能力についてもだ。
装填されるカード、【ADVENT】の機械音声、そして空間をぶち割って出現する召喚モンスターサイコローグの姿。
実体化を迎え戦意の咆哮をあげようとしたその刹那、サイコローグの体を不可視の触手が貫いた。
装填されるカード、【ADVENT】の機械音声、そして空間をぶち割って出現する召喚モンスターサイコローグの姿。
実体化を迎え戦意の咆哮をあげようとしたその刹那、サイコローグの体を不可視の触手が貫いた。
◆
正直な話、雅貴としては未だに信じられないことが結構ある。
板切れを装着しただけで出現するSFめいたパワードスーツとか、カードでモンスター召喚とか、はっきり言って色々と突っ込みたい気持ちでいっぱいだ。
挙句の果てには鬼とかアマゾン?とか出てくるし、侍とサムライが果し合いみたいなことしてたし、そのSAMURAIな義勇は明らかに人間業じゃないことやらかしてるし、広斗は美人な子とタンデムするし、いい加減普通の常識的な人間と会いたかった。
まあ何が言いたいかってーと、異常は異常として受け入れることができてきたってわけで。
そういうものを前提とした思考も段々とできるようになってきたということだ。
板切れを装着しただけで出現するSFめいたパワードスーツとか、カードでモンスター召喚とか、はっきり言って色々と突っ込みたい気持ちでいっぱいだ。
挙句の果てには鬼とかアマゾン?とか出てくるし、侍とサムライが果し合いみたいなことしてたし、そのSAMURAIな義勇は明らかに人間業じゃないことやらかしてるし、広斗は美人な子とタンデムするし、いい加減普通の常識的な人間と会いたかった。
まあ何が言いたいかってーと、異常は異常として受け入れることができてきたってわけで。
そういうものを前提とした思考も段々とできるようになってきたということだ。
「やっぱそう来るよな」
出現早々串刺しとなったサイコローグを目の前に、しかし雅貴は狙い通りと言いたげな声を上げる。
不可視の敵の性質を、雅貴は何となくだが看破していた。常日頃相手をしている人間のような打算と殺気入り混じったものではない、禰豆子のような獣じみた敵意でもない。昆虫か何かのような無機的な意の発露。
合理的に、けれども迅速に。それは一見すれば厄介この上ない性質だが、裏返せばシンプルな挙動しかできない機械のような単純さも併せ持っていた。
例えば今、突然第三者が乱入してくればどうするか?
人間や動物ならば、まず距離を取るなり警戒するなりの行動を取るだろう。友好的ならば話しかけるし、敵対的ならば隙を伺う。知能の差こそあれ、生物が取る行動とはそういうものだ。
奴は違った。
圧倒的な物量と射程距離を持つ奴は"それ"ができてしまうため、突如出現したサイコローグを"咄嗟に攻撃して"しまった。
そしてそれは熟慮を重ねた結果ではなく時を移さず行動した結果として、全方位からのものではなく直線的な軌跡を描いている。
その先に続いているのは、最早言うまでもない。
不可視の敵の性質を、雅貴は何となくだが看破していた。常日頃相手をしている人間のような打算と殺気入り混じったものではない、禰豆子のような獣じみた敵意でもない。昆虫か何かのような無機的な意の発露。
合理的に、けれども迅速に。それは一見すれば厄介この上ない性質だが、裏返せばシンプルな挙動しかできない機械のような単純さも併せ持っていた。
例えば今、突然第三者が乱入してくればどうするか?
人間や動物ならば、まず距離を取るなり警戒するなりの行動を取るだろう。友好的ならば話しかけるし、敵対的ならば隙を伺う。知能の差こそあれ、生物が取る行動とはそういうものだ。
奴は違った。
圧倒的な物量と射程距離を持つ奴は"それ"ができてしまうため、突如出現したサイコローグを"咄嗟に攻撃して"しまった。
そしてそれは熟慮を重ねた結果ではなく時を移さず行動した結果として、全方位からのものではなく直線的な軌跡を描いている。
その先に続いているのは、最早言うまでもない。
「ッシャアッ、ビンゴ!」
視線の先、揺らめく陽炎のような輪郭を見つける。
それは紛うことなき敵の姿。今まで安全地帯から散々自分達を嬲ってきた倒すべき相手の居場所に他ならない。
気合裂帛。踏み込んだ足が地を削り、加速度が水のように全身の筋肉を伝う。
視界の果てでは新たに無数の触手が爆縮するように放たれるが、遅い。
それは紛うことなき敵の姿。今まで安全地帯から散々自分達を嬲ってきた倒すべき相手の居場所に他ならない。
気合裂帛。踏み込んだ足が地を削り、加速度が水のように全身の筋肉を伝う。
視界の果てでは新たに無数の触手が爆縮するように放たれるが、遅い。
「オォ、ッラァ!」
全力の加速はそのままに、捻りを加え跳躍することで無理やりに側方への転換を成し遂げる。顔面の数センチ脇を触手の大群が通り過ぎるのを感覚で把握した瞬間には、着地と同時に疾走を開始。狙い撃ちの的になるつもりはなく、故に動きを止める理由もない。
正面からの攻撃を撃ち払おうとした瞬間、触手の軌道が変化する。文字通り意思を持った生物のように、無数の触手はそれぞれ独立した動きで腕を掻い潜り、雅貴の懐に忍び込もうとする。
正面からの攻撃を撃ち払おうとした瞬間、触手の軌道が変化する。文字通り意思を持った生物のように、無数の触手はそれぞれ独立した動きで腕を掻い潜り、雅貴の懐に忍び込もうとする。
【ACCEL VENT】
その一手前には既に行動を完了していた雅貴の腰部から放たれる機械音声。
瞬間、雅貴を貫かんと迫る触手は細かな肉塊とばらけ、彼の肉体は誰しもの視界より掻き消えた。
瞬間、雅貴を貫かんと迫る触手は細かな肉塊とばらけ、彼の肉体は誰しもの視界より掻き消えた。
……人間とは繊細な生物だ。感覚器官や肉体の各部が何か一つでも突出してしまえば、すぐさま全体のバランスが崩れてしまうようにできている。
耳が良くなれば自然と視覚情報が鈍ってしまうものであり、その逆もまた然り。どこか一点を強化すれば、途端にプラスが見込めるほど生命は単純な構造をしていない。
仮に千里眼を手に入れてもそれを十全に活用できず、逆に目に頼る癖がついてしまえば総合的にはマイナスだろう。
如何に身体能力が向上し、動作速度が極限まで上がろうと、知覚領域がそのままである以上加速する肉体に思考が追いつかず、ライダーデッキの性能を十全に発揮できる者は極少数であったように。
重要なのは強化された感覚や身体能力を適切に活かせるかということであり、だからこそ雨宮雅貴は卓越した戦闘者だった。
耳が良くなれば自然と視覚情報が鈍ってしまうものであり、その逆もまた然り。どこか一点を強化すれば、途端にプラスが見込めるほど生命は単純な構造をしていない。
仮に千里眼を手に入れてもそれを十全に活用できず、逆に目に頼る癖がついてしまえば総合的にはマイナスだろう。
如何に身体能力が向上し、動作速度が極限まで上がろうと、知覚領域がそのままである以上加速する肉体に思考が追いつかず、ライダーデッキの性能を十全に発揮できる者は極少数であったように。
重要なのは強化された感覚や身体能力を適切に活かせるかということであり、だからこそ雨宮雅貴は卓越した戦闘者だった。
滑るように地を駆け、20mの距離を一瞬で0にする。空気抵抗が体の表面を流れ、微かな風を鎧越しに感じた。
踏み込みざまに、一撃。
突き出した右の拳は人体ならば粉々になるほどの威力を以て進み、何の抵抗もなく敵手の肉体に突き刺さった。
踏み込みざまに、一撃。
突き出した右の拳は人体ならば粉々になるほどの威力を以て進み、何の抵抗もなく敵手の肉体に突き刺さった。
そう、何の抵抗もなく。
「って、嘘だろぉ!?」
空中に波紋を浮かべるようにして現れた敵手の肉体は、あろうことか雅貴の拳を無抵抗に受け入れ、そのまま呑みこんでしまったのだ。まるで水の塊を叩いたかのような感触。胴体を貫通するという明らかな致命傷であるにも関わらず、ダメージを与えた手応えが全く感じられない。
そのくせ、突っ込んだ腕は絡め取られたかのように動かない。崩れた体勢を立て直す暇もなく、新たな触手の一群が胎動を始め───
そのくせ、突っ込んだ腕は絡め取られたかのように動かない。崩れた体勢を立て直す暇もなく、新たな触手の一群が胎動を始め───
その不可視なる総身を、清流が如き刃の軌跡が断ち切った。
流水に落花の如く、雅貴の目の前に舞い降りる人影。重さをまるで感じさせない足取りは見紛うはずもない冨岡義勇の姿。彼の振るう刃の煌めきが、さながら清水の激流に見えたのはきっと幻視の類ではあるまい。極限まで鍛え上げられた玉鋼の刃紋が時として雫を帯びる様に見えるのと同じく、それほどまでに流麗な一撃だったのだ。
水の呼吸弐ノ型・水車。垂直方向の斬閃は大型の異形に対して有効に働く、広範囲斬撃の型である。
水の呼吸弐ノ型・水車。垂直方向の斬閃は大型の異形に対して有効に働く、広範囲斬撃の型である。
そして義勇を挟んだその向こうでは、水面めいて波紋を浮かべる陽炎の輪郭が水の刃に裂かれ、とうとう限界を迎えたのか徐々にその姿を浮き彫りにしていた。
「……はは、マジでクラゲかよ」
引き攣った顔で笑いをこぼす雅貴の視線の先に佇むのは、海月と人体を掛け合わせたかのような戯画的な怪物の姿。
見てとれるほぼ全てが醜悪なその姿の中にあって、そこだけは普通の人間と酷似した造形の顔面には、無感を体現したかのような静謐の表情だけが張り付いていた。
そのはず、なのだが。
彫刻めいて冷たさしか感じられないはずの表情に、何か別なものが現れているような、そんな気がして。
見てとれるほぼ全てが醜悪なその姿の中にあって、そこだけは普通の人間と酷似した造形の顔面には、無感を体現したかのような静謐の表情だけが張り付いていた。
そのはず、なのだが。
彫刻めいて冷たさしか感じられないはずの表情に、何か別なものが現れているような、そんな気がして。
「もう一度言う」
耳に飛び込む一言。
「下がれ」
忘我に近かった思考に浴びせられる声に、はっと気が付く。
その瞬間には既に、冨岡義勇は攻撃動作を完了させていた。
水の呼吸陸ノ型・ねじれ渦。肉体の捻りにより文字通りの渦を発生させる、より多くの面積を削り取ることに特化した型。
流体に近い性質を持つ敵手を相手取るには通常の斬撃では効果が薄いと判断した義勇による一撃だ。発生した刃の颶風は致死の竜巻めいて、刃も拳も通さぬはずの揺らめく総身を削岩するかのように削り取った。
だがそれでも、クラゲアマゾンの無尽蔵の生命力は尽きることなく。
砕かれようが押し寄せる。
崩されようが押し寄せる。
それは底のない無尽蔵の力として、絶えず削られながらも拮抗するほどの再生能力で以て押し返す。
足りない。この質量と再生速度を凌駕するだけの殲滅力が。
その瞬間には既に、冨岡義勇は攻撃動作を完了させていた。
水の呼吸陸ノ型・ねじれ渦。肉体の捻りにより文字通りの渦を発生させる、より多くの面積を削り取ることに特化した型。
流体に近い性質を持つ敵手を相手取るには通常の斬撃では効果が薄いと判断した義勇による一撃だ。発生した刃の颶風は致死の竜巻めいて、刃も拳も通さぬはずの揺らめく総身を削岩するかのように削り取った。
だがそれでも、クラゲアマゾンの無尽蔵の生命力は尽きることなく。
砕かれようが押し寄せる。
崩されようが押し寄せる。
それは底のない無尽蔵の力として、絶えず削られながらも拮抗するほどの再生能力で以て押し返す。
足りない。この質量と再生速度を凌駕するだけの殲滅力が。
「じゃあ俺ももっかい言うわ。嫌だね」
故にこそ、その一撃は訪れた。
吹き付ける烈風に首を動かすまでもなく、自分たちに向けて旋回・突進する巨躯の大質量を義勇は理解した。
理解するからこそ迫る暴威に迎撃の凪ではなく離脱の流流舞いを選択する。
玉響に掻き消える義勇、残される異形。そしてその視界の全面を覆うように、漆黒の鉄塊が押し迫り。
吹き付ける烈風に首を動かすまでもなく、自分たちに向けて旋回・突進する巨躯の大質量を義勇は理解した。
理解するからこそ迫る暴威に迎撃の凪ではなく離脱の流流舞いを選択する。
玉響に掻き消える義勇、残される異形。そしてその視界の全面を覆うように、漆黒の鉄塊が押し迫り。
「人間舐めんなよ、ファンタジー!」
───耳を劈く爆轟が、辺りの大気を震わせた。
◆
「あー……やっぱこうなるよなぁ」
バイクに跨って一人、雅貴はカードデッキを持った手をひらひらと振る。
そこには先程まであった力満つ紋章は消えてなくなり、無地の表面を晒しているのだった。
ライダーデッキは契約モンスターの力を行使するものであり、デッキにはそのモンスターを象徴する紋章が施される。
逆に言えば契約モンスターが死亡した場合はその力と紋章は消えてなくなり、カードデッキは空っぽの器───ブランク体となってしまうのだ。
オルタナティブ・ゼロの契約モンスターであるサイコローグは召喚されてすぐにクラゲの異形に串刺しにされ、瀕死の状態で更にファイナルベントの変身を遂げて特攻し、爆発四散した。
まさに尊い犠牲だったと言うべきだろう。ブランク体のオルタナティブ・ゼロはそれでも普通の人間など及びもつかないスペックを有するが、大幅な戦力減は免れない。
惜しい奴を亡くした、と黙祷。0.3秒で瞼を開け義勇に向き直る。
そこには先程まであった力満つ紋章は消えてなくなり、無地の表面を晒しているのだった。
ライダーデッキは契約モンスターの力を行使するものであり、デッキにはそのモンスターを象徴する紋章が施される。
逆に言えば契約モンスターが死亡した場合はその力と紋章は消えてなくなり、カードデッキは空っぽの器───ブランク体となってしまうのだ。
オルタナティブ・ゼロの契約モンスターであるサイコローグは召喚されてすぐにクラゲの異形に串刺しにされ、瀕死の状態で更にファイナルベントの変身を遂げて特攻し、爆発四散した。
まさに尊い犠牲だったと言うべきだろう。ブランク体のオルタナティブ・ゼロはそれでも普通の人間など及びもつかないスペックを有するが、大幅な戦力減は免れない。
惜しい奴を亡くした、と黙祷。0.3秒で瞼を開け義勇に向き直る。
「そんで、あいつ死んだと思う?」
「知らん」
あまりに簡潔かついい加減な返答に、思わず非難がましい視線を向ける。一瞬の間、義勇は一つ息を吐き。
「……奴はこの時間帯、日向の場所に出てきた。俺の知る鬼ではありえない。そして俺は、鬼以外の超常を知らない」
だから何とも言えん、と締めくくった。なるほど、と雅貴。あまりに人間離れした剣術を扱う男だと思ってはいたが、やはりというべきかこいつも非日常の住人だったらしい。
だが、それにしても。
だが、それにしても。
「鬼……鬼、ねえ」
つい先ほどの光景を思い出す。手を振って別れた悠と禰豆子の姿。海月のバケモンに見えた、無感の表情に翳る何かの感情。
それは、上手く言えないけど何というか。
それは、上手く言えないけど何というか。
「なんつーか……禰豆子ちゃんとちょっと似てた、のか?」
まさかなぁ、と笑って顔を上げると、そこには相変わらずぽけっとした、けれど目を見開いた義勇の顔。
いや、だからどんな気持ちの顔それ。
いや、だからどんな気持ちの顔それ。
【C-5/1日目・朝】
【雨宮雅貴@HiGH&LOW】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW、明神切村正@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、コブラのスカーフ、カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×数個@現実、オルタナティブ・ゼロのカードデッキ(ブランク体)、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:弟、仲間と一緒に生還する
1:自衛隊入間基地でコブラの遺体を探す。
2:広斗との合流
3:中野姉妹、鑢姉妹、竃門炭治郎を探す
4:村山とスモーキーは……まあ余裕があったら探してもいいかな
5:いずれ水澤悠、竃門禰豆子と合流する
6:あのクラゲのバケモン、なんか気になるんだよな
[備考]
※水澤悠と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。
※鑢七花を女性だと確信しています。
[状態]:疲労(中)
[装備]:ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW、明神切村正@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、コブラのスカーフ、カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×数個@現実、オルタナティブ・ゼロのカードデッキ(ブランク体)、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:弟、仲間と一緒に生還する
1:自衛隊入間基地でコブラの遺体を探す。
2:広斗との合流
3:中野姉妹、鑢姉妹、竃門炭治郎を探す
4:村山とスモーキーは……まあ余裕があったら探してもいいかな
5:いずれ水澤悠、竃門禰豆子と合流する
6:あのクラゲのバケモン、なんか気になるんだよな
[備考]
※水澤悠と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。
※鑢七花を女性だと確信しています。
【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小)
[装備]:無毀なる湖光@FGO、
[道具]:基本支給品一式×2、木剣、ランダム支給品0~3、真っ二つの半半羽織(私物)@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
0:禰豆子……だと?
1:鬼が潜んでいる可能性のある自衛隊入間基地に向かう。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。
[状態]:疲労(小)
[装備]:無毀なる湖光@FGO、
[道具]:基本支給品一式×2、木剣、ランダム支給品0~3、真っ二つの半半羽織(私物)@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
0:禰豆子……だと?
1:鬼が潜んでいる可能性のある自衛隊入間基地に向かう。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。
【クラゲアマゾン@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ダメージ(大・回復中)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本方針:――千■、■
1:邪魔する者は攻撃する。
[備考]
※九話より参戦です。
[状態]:ダメージ(大・回復中)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本方針:――千■、■
1:邪魔する者は攻撃する。
[備考]
※九話より参戦です。
| 前話 | お名前 | 次話 |
| 顔 | 冨岡義勇 | あんた、あの娘のなんなのさ |
| 雨宮雅貴 | ||
| 時すでに始まりを刻む | クラゲアマゾン | FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 |