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華の歌姫

最終更新:2023年07月20日 14:30

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あらすじ

開花の刻。トレセン学園に咲く満開の花園。彼女の名前はフラワリングタイム。彼女という才能を、満開まで咲かせる時。彼女はどのような歴史を刻んで来ただろうか。これは、有り得たかもしれないもうひとつの物語。

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主要な登場人物

フラワリングタイム
主人公。桃色の髪が特徴的な小柄なウマ娘。しっかり者で苦労人。少々自信家。成績優秀だが、ちょっと頭が固い。有り得たかもしれない、もうひとつの世界の彼女。
早田トレーナー
フラワリングタイムの担当トレーナー。試験を好成績で突破した天才トレーナーと噂されている。本名は早田サツキ。基本的に作中ではトレーナーと呼ばれている。有り得たかもしれない、もう一人の担当トレーナー。
ライジョウドウ
チームカオスのメンバー。フラワリングタイムの友達として、いつも彼女のサポートに付き合ってくれている。性格は掴みどころが無いが、心優しき良き友人。
マヤノトップガン
フラワリングタイムの同期であり、ライバル。ドキドキと胸が高鳴る最高のレースと、大人のお姉さんを目指して今日もコックピットからレースにフライトイン。
ナリタブライアン
世代で言えば、フラワリングタイムより一つ上の先輩。三冠ウマ娘として世間に名を轟かせた絶対的な怪物。フラワリングタイムとは結構仲良くしている。
サクラローレル
世代で言えば、フラワリングタイムより一つ上の先輩。怪我でなかなか出走できていないが、目標は世界の凱旋門賞制覇。ナリタブライアンとも仲が良い。
マーベラスサンデー
フラワリングタイムの同期であり、ライバル。世界をマーベラスにするべく、レースでマーベラスしている。目指せ、マーベラスサンデーワールド。ベリーマーベラス。

本編

第1話:華の歌姫

+ ...
開花の刻。夢の蕾は、大きく花弁を広げて中央の花園に咲き誇っていた。周囲の華達をも束ねて、ひとつの花束としてしまうほどに。その娘の名は、フラワリングタイム。艶やかな桃色の髪が美しい、背丈の小さなウマ娘。彼女はウマ娘として本格化を迎え、クラシック戦線に名乗りを上げていた。
『さあ、ここで伸びてきた!フラワリングタイムだ!強い強い!』
「はあああああああああっ!!」
GI、オークス。世代最強の女王を決めるこの舞台でも、彼女は比類なき才能を存分に発揮していた。第四コーナーで仕掛ければ、一閃。美しい曲線を描きながら、息を飲むような美しい末脚を繰り出す。その脚は並み居る猛者達をいとも容易く抜き去り、彼女は先頭でゴール板を駆け抜けた。
『圧倒的な強さだ!大きく差を広げてゴールイン!もはやティアラに敵はいない!フラワリングタイム、これで二冠達成です!』
満開の笑顔を咲かせて、観客に感謝を伝える。ふわりとした笑顔に、和風の装いがキリリと引き締まった彼女は既に女王の風格を醸し出していた。
「フラりん!おめでとう!」
「トレーナーさん!」
そして彼女が、この大舞台にフラワリングタイムを連れて来た、期待の新人にして天才トレーナー。
名を早田サツキ。専属になって1年目でGIを取り、既にGIタイトルを3つも獲得。フラワリングタイムの才能を引き出したのも彼女だ。
「これで花束に一つ追加だね!」
「はい!」
二人でハイタッチ。その表情は、希望と自信に満ち溢れていた。これからも二人で沢山の花束を。そう約束しているように見えた。そんな彼女達の強さと美しさを讃え、万雷の拍手が彼女達を包み込んだ。

これは、有り得たかもしれない
もう一つの物語――――



出会いは偶然だった。たまたま気が向いて、いつものランニングコースから外れてみた。そこに、小さな花を見つけた。まだ蕾だったけれど、きっと綺麗な花になると思った。
『育ててくれた皆に、感謝の花束を贈りたい』
彼女は、自分の夢を語った。丁寧な口調とは裏腹に、かなりの野心家だった。じつに面白い。私は、彼女の夢に賛同した。私が大輪を咲かせてやろうじゃないか、と意気込んだ。
『その夢、私にも一緒に見させて欲しい!』
『選んで後悔はさせないよ!』
自信満々にスカウトしたのを覚えている。しかし…今、私こと早田サツキの頭の中は真っ白だ。いきなりの専属。初めての担当。緊張しないわけが無い。私は必死に呼吸を整えながら、彼女との初めてのトレーニングの準備をしていた。
「スポーツドリンク良し…応急処置用の道具良し…メモ用紙良し…タイマー良し…」
必要な知識は頭に蓄えてきた。しかし実践は違う。ウマ娘一人一人の人生を背負うのだ。昔から憧れてきた仕事ではあるが、やはり過酷だなあと常々実感する。
「おはようございます!」
「おふぁっ!?おは、おはようフラワリングタイムちゃん!」
早速来た。桃色の髪が美しい、ちまっとしたサイズのウマ娘。彼女が私の最初に担当するウマ娘、フラワリングタイム。小学校から飛び級してきたらしく、年齢的にはまだ小学六年生。しかし、しっかり者で礼儀正しく、既に高等部の子とも目を見て話せるような肝も座っている。
「今日からお世話になります!よろしくお願いします!」
「よ、よろしく!あ〜…とりあえず座って座って!」
「失礼します!」
立ち話もなんなので、座って頂く。他愛ない世間話を交えながら、最初の方針について説明した。先ずは適性見極め。どんな距離が向いているのかをチェックする。噂では短距離でとても強いと聞いているが、果たして。
「ゴール!お疲れ様!確かに、ラップは短距離やマイルの方が早いね!」
「やっぱりそうですか…そうなると、得意な距離の短距離路線で進んだ方が良いですかね?」
「うーん、そうとも言いきれないね。クラシックディスタンスのタイムもこの時期にしては上出来。まだ最適な距離がどこか見抜けない感じかな」
どこが強いか分かれば、特化させて育てれば良いが、彼女はどちらかと言うとオールラウンダー。どの距離でもそれなりにこなせている。
「才能が芽吹けば、クラシック三冠も狙えるかもしれないね。だから、得意距離に拘らず、君の行きたい路線を選ぶべきだと思うかな」
「私の行きたい路線……それなら、ティアラ路線に行きたいです!」
「ほほう、どうして?」
「桃の花に樫の花、花束にピッタリで素敵だなって思いまして。私の作る花束に、力強く、優雅で華麗な花を添えてみせます!」
彼女らしい理由だ。けれど、それは私も考えていた路線でもある。距離的にも彼女の才能を活かすにはピッタリだ。
「良いね。君の目標にもピッタリだ。それじゃあティアラ路線を目標にトレーニングを組むよ。先ずはデビューに向けて頑張ろう!」
「はいっ!」
トレーニングが始まった。彼女の才能は凄まじかった。デビュー前から短距離レースの模擬戦で好成績を残し、今後の活躍が大いに期待されていた。しかし、私達はトレーニングを重ねるうちに、彼女の弱点に気が付いてしまった。
「ゴール!タイムは……うーん、あんまり伸びないね」
「そうですか…」
彼女の弱点。それは、あまりスピードに乗り切れないこと。確かに彼女の脚は速いが、一定の速度で止まってしまい、残りの距離はそのままスタミナで補っている状態だ。この走りは、模範的かつ標準的。良く言えば隙が無く、悪く言えば成長を見出す余地が無い。喜ばしくもあり、難しくもある。
「まあ落ち込まないで!伸びてないと言っても、君の走りどの距離になっても最低水準の速度を保ててる。何かきっかけがあれば、大きく化けるかもしれない」
「きっかけ……」
「…と言っても、これ以上はオーバーワークだね。それを探すのはまた今度にしようか」
「はい……」
彼女は年齢で言えばまだ小学生で、本格化に合わせて一足飛び級でトレセン学園に来ている。その為、身体の成長を阻害しないよう専門のトレーニングメニューを組む必要がある。そのため負荷も小さめだ。身体の安全を考えれば仕方ない事だが、メニューが緩い分伸び代が少ない。それが本人も気になるのか、顔がどこか浮かない。
「やっぱり、メニューが少ないのが不満?」
「そう……ですね。私の事を思っての事だというのは分かるのですが……」
もうちょっと頑張りたい。そんな様子が伝わってくる。しかし、ここで折れてはトレーナーの名折れだ。身体に関することで妥協は出来ない。
「気持ちは分かるよ。確かに少ないもんね。……だけど、君の身体の事もある。だから、これ以上のトレーニングはダメだよ」
「どうしても……ですか?」
「どうしても」
「わかりました……」
断固として拒否。落ち込ませるのは少々心苦しいが仕方ない。彼女は花が萎れるように落ち込んでいく。ちょっと可哀想になってきたので助け舟。
「……でも。ダメなのは『トレーニングだけ』だね。他を見学するのは君の自由。自分が練習できない時は、他人の技を見て盗む。競走生活では大事なテクニックだよ」
「!……それじゃあ…!」
「うん。好きに見学しておいで。ただし、一緒にトレーニングに混ざったりしちゃダメだよ。君が混ざってないか、皆に聞いて回るからね」
「はいっ!大丈夫です!……行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
彼女を見送って、自分も明日のメニューを再確認。過負荷にならないか。伸び代を確保できるか。臆病に、慎重に育てなければならない、まさに花のようなウマ娘だ。下手に指導すれば、壊れてしまうような。けれど育ち切れば、必ず綺麗な花を咲かせるはずだ。

学園内をチョコチョコと走るフラワリングタイム。学園には知り合いが沢山いるし、特にこれと言って見たい相手がいる訳では無い。相手が誰であっても、きっと学ぶ事はある。そんなスタンスだ。彼女が見つけたのは、同室のウマ娘。スレンダーな体型にぴったりな、サラリと伸ばした芦毛が美しいウマ娘。ライジョウドウ。突飛な性格でいつも振り回されているが、根は優しい子なのでフラワリングタイムも気に入っている。
「ライジョウドウさん!」
「フラりん。どうしたの?」
「今日はもうトレーニング出来ませんので、他の方の見学に。見て行っても大丈夫ですか?」
「うん、もちろん良いよ。トレーナーに伝えてくるね」
トレーナーからも承諾を受け、さっそく見学開始。彼女のトレーニングを見ながら、思ったことを逐一メモに書き記していく。彼女の走法はとても綺麗だ。理想的なフォームと言っても良い。しかし、どこかぎこちなさを感じる。確かに綺麗だが、何かが噛み合っていないような感じだ。
「ふぅ……ごぉーる!」
「お疲れ様。軽く歩いたら、休んでいて良いわよ」
「はーい……」
ヘロヘロと歩いていくライジョウドウを横目に、フラワリングタイムはメモを見返す。今後のクラシックレースを見据えたピッチ走法と理想的な低いフォーム。これは自分も見習うべきだ。しかし……
「彼女には合っていないと思う、かしら?」
「……え?は、はいっ!」
ノートを覗き込んではにかんだのは、ライジョウドウの担当トレーナー。フラワリングタイムは恥ずかしくなり、顔を赤くしてノートをパタンと閉じる。
「良い着眼点ね。私もあの子のフォームは合っていないと思うのよ」
「え……貴女もそう思っていらしたのですか?」
「ええ。彼女の走る時のフォーム。あれは確かに理想的なものよ。けれど不自然なのよ。それだけ綺麗な走りが出来る子が、何故かレースに関する知識は驚く程に覚えていない」
「たしかにおかしいですね……ライジョウドウさん、何かワケがあるんでしょうか?」
「きっとそうね。でも、それをどうにかするのは私の仕事。アナタはアナタの事に集中していて良いのよ」
「はい…」
とは言っても、同室の子が問題を抱えているとなれば、ほっとけない性質。なにか力になれそうな時は彼女に協力しようと心の中で誓うのだった。
「それと、ノートを勝手に見たお詫びに。アナタの強みを教えてあげるわ」
「はえ?……わ、私のですか?」
「ええ。アナタのその相手を観察する力。それは間違いなく強力な武器になるわ」
「観察する力……」
敵を知り、己を知れば百戦危うからずという言葉があるように。相手の情報をまとめ、調べ上げ、徹底的に対策を行えば勝利はグッと近くなる。フラワリングタイムは、その相手を調べる力がずば抜けているらしい。
「レースにおいて情報は生命線。どのウマ娘が出るのか。どんな展開になるのか。相手のデータを調べ上げ、常に最前の手を練る。簡単な事では無いけれど、アナタはそれができる」
「そんな力が……私に……?」
「ふふ、まあ頑張ってみなさい。そろそろウチの子が戻って来るから、構ってあげてくれる?」
「……あ、はい!喜んで!」
休憩に入ったライジョウドウと、楽しくお喋りして過ごす。その日の見学も終わり、二人は流れでそのまま一緒に寮に戻ったのだった。

「ぼふんぼふん。ホッピングうさぎ部隊、敵機発見!お布団山に隠れろーっ!」
「あんまり暴れるとまた頭をぶつけますよ……」
「フラりんも隠れて!」
「は、はいっ!?」
促されるまま、布団に滑り込む。布団の中でじたばたするライジョウドウを眺めながら、敵機が去るのをのんびりと待つ。
「…ふう、危なかったね。もう少しでとろろにされるとこだったよ」
「とろろ……?」
お布団から出ると、今度は布団つむり状態のライジョウドウが彼女の腕を優しく掴んだ。なにかと思って布団を覗き込む。
「ライジョウドウさん?」
「今日は山芋すりおろし器部隊が多いから一緒に寝よう」
「山芋すりおろし……」
「……だめ?」
「……ふふ。良いですよ」
彼女は定期的に、こうして寂しがる。なにがあったのかは知らないが、フラワリングタイムは決して事情を聞かなかった。ただ優しく微笑み、包み込むようにして添い寝する。子供のように甘える彼女を、歳下だけど聖母のように甘やかした。
「……おやすみ。フラりん」
「おやすみなさい……」
……もし、彼女が甘える理由を聞いていたら、ライジョウドウはこんな風に甘えたりはしない。けど聞かなかったのだから、それで良いじゃあないか。
静かに、夜が、更けていく。

フラワリングタイムに観察力があると言われて数日。未だにきっかけは掴めないでいるが、努力の方向性はそれとなく掴めてきていた。トレーニング終了後は、学園にいる人達を片っ端から調べ上げてデータをまとめる。大変な作業だが、トレーナーも勝つ為ならと喜んで助力してくれた。
「データもいい感じに集まったね。これだけのデータがあれば、本番を想定した作戦なんかも組めるね」
「本当ですか!集めて良かった……!」
「よく頑張りました!えらいえらい」
「えへへへ…」
彼女の頭を撫でつつ、トレーナーは集めたデータを羅列していく。それから強そうな子を何人かピックアップし、そのデータをまとめて彼女に渡した。
「それじゃあ今日の課題はこれ。イメージトレーニングをしよう」
「イメージトレーニング?」
「自分の今の実力をイメージして、それで調べたデータを相手に脳内でレースする。自分が有利になるイメージで構わないけど、相手の実力をなるべく正確にイメージすること」
「なるほど……分かりました!」
さっそくやってみるらしく、目を閉じ脳内でイメージを膨らませていく。データとして記録した猛者達に、自分が果敢に挑んでいく。第四コーナーまで差し掛かり、やがて最終直線。勢い良く加速する相手に自分は……
「どう?勝てたかな?」
「……いえ。負けました…」
「そっか……それじゃあ何故負けるのかを考えてみて。それがきっかけになるかもしれないから」
「……はい!」
それから、寮に戻っても何度かイメージレースをしてみたが、どうしても最後で勝てない。自分には「何か」が足りないようだ。スタミナか。スピードか。悶々と悩んでいると、ライジョウドウが顔を覗き込んできた。
「悩んでるの?」
「はい……かくかくしかじか…」
「なるほど。いめーじれーす」
また画期的なトレーニングをしているなあと驚くライジョウドウ。自分が同じ事をすれば、勝つ妄想で湧き上がってしまいそうだ。
「私には何が足りないんでしょうか……ライジョウドウさん、分かります?」
「んー……脚の速さ?」
「う……それはそうですね……」
データと自分を比較した上で分かったこととして、自分は最高速が低い。ウマ娘の持つ身体的才能の部分。そこを補うだけの何かを手に入れなければ、レースに勝てないままだろう。
「考え込んで分からないなら、少し息抜きしない?」
「そうですね……一旦リセットしたいです。一緒に何かして遊びますか?」
「うん!」
二人が選んだのは、トランプ。ポーカーだったりババ抜きだったり。年頃の子供らしくはしゃぎ回り、色々やって時間はあっという間に過ぎていった。就寝時間が近くなり、二人は布団に潜る事にした。
「フラりんってさ、負けず嫌いだよね」
「へ…そ、そうでしたか?」
「ん。だって、ババ抜きで負けそうになったら掴んで抵抗するし」
「ギクッ」
「負けたら思いっきり悔しがるし」
「ギクギクッ」
大人っぽい子だと思っていたが、意外と子供な所も残っているね、と笑う。フラワリングタイムは恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。
「ぅ…子供っぽいですよね……」
「ううん。フラりんも同じなんだなって思ったよ」
「同じ……?」
「Zzz…」
「……もう寝てるー!?」
眠り込んでしまった彼女にむすっとなりつつ、自分も眠ることにする。負けず嫌い。彼女も同じ。なにかが引っかかりながら、フラワリングタイムは眠りについた。

それから更に時は過ぎ、いよいよデビューの日がやってきた。未だにきっかけは掴めないでいるが、彼女の実力の高さは模擬レースで証明済。他に有力候補もいないため、そのまま一番人気で本番を迎えることになる。
「これでよし。ゼッケンのサイズは大丈夫?」
「はい、大丈夫です!今日の作戦はどうしますか?」
「いつも通り、後方で待機して差しを狙いたいね。君の行きたいと思ったタイミングで加速して欲しい」
「分かりました!」
足首、体幹、筋肉、脂肪、体重、共に問題なし。トレーナーの徹底した検査を済ませたら、いよいよ本番だ。いっぱいの自信と少しの不安を胸に、フラワリングタイムは芝にその脚を下ろした。
「(パンパンの良バ場。私好みです!)」
天気は快晴。蕾良好。
いざ、メイクデビュー。

『今年もこの時期がやって来ました!次世代を担う新人達の登場です!一番人気はこのウマ娘!輝くか花笑み娘!フラワリングタイム!』
客席に手を振りながら、コースへ向かう。並んでみると分かるが、やはりフラワリングタイムは一回り小さい。果たして、年上のお姉さん達と対等に渡り合えるのか。
「フラリン!」
「ヴィクトリアさん!」
彼女に声をかけたのは、美しい黄金の髪を靡かせた、優雅なお嬢様。一際美しいそんな彼女は今日の二番人気。周りより一回り大きく恵まれた体格が評価されていた。
彼女の名は、ザヴィクトリア。
正確にはThe Victoriaだが、日本に帰化する際にこの名前で登録した。本人も周りも、ヴィクトリアと呼ぶのが楽なのでそう呼んでいる。「・は使えませんの!?」とゴネたので有名。
「今日は負けませんわ」
「こちらこそ、負けませんよ」
互いに握手。クラスメイトでライバルということもあり、お互いの事はよく知り合っていた。好位置を陣取り、後方から差すフラワリングタイム。対するは、持ち前のスピードを活かし、逃げの手を取るザヴィクトリア。お互いに対策はしっかり考えてきていた。
「ふふ、終わったら一緒にスイーツでもいかがですこと?」
「本当ですか?それは喜んで。…でも、そんな事でレースから意識を逸らしたりはしませんよ」
「あら。やっぱり簡単な揺さぶりは効きませんわね」
と、肩をすくめてみせる。……が、フラワリングタイムがほんの少しスイーツに心揺れ動きそうになったのは内緒だ。
「いいでしょう。正々堂々、真っ向勝負と行きましょう」
「はい!行きますよ!」
全員がゲートに収まり、静寂がレース場を包み込んだ。ガコン!と気持ち良い音と共に、初めてのレースをウマ娘達が走り始めた。
「行きますわよーっ!」
先頭を突き進むザヴィクトリア。デビュー戦のこの時期、まだウマ娘達はレースというものに慣れていない。であれば、大半のウマ娘は自分のペースで道を行く。スタミナ配分を確かめるために。その中で一際脚の速い者が、一番前を走る逃げの形になる。
「(作戦通り、私は後方……)」
ずんずん前を行く彼女を見ながら、フラワリングタイムは後方集団に入り脚を溜める。
『コーナー曲がって最後の直線!相変わらずザヴィクトリアが先頭だ!』
いよいよ仕掛け時。自分も皆も、ここで仕掛けるはずだ。最終コーナーを曲がりながら、注意深くウマ娘達の動きを注視する。
「(私はそんなに脚が速くない。だから私には他の「武器」がいる)」
一つは、周囲を見定める観察力。
誰がどこを走るのか。どう動くのか。それらを注意深く観察し、自身の情報と照らし合わせる。そして。
「(貴方達なら……きっとこう動く!)」
「嘘っ!?」
「そこ抜けられるの……!?」
『おっと!内側からフラワリングタイムごぼう抜き!前に勢い良く迫ってくる!』
一つは、それらを活かす直感力。
知識だけでレースに勝てるのなら、誰も苦労はしない。コースや相手の事を猛勉強し、それだけで大レースをいくつも取れるだろう。そう甘い世界では無い。
敵を知り、己を知り、最大効率で自分という力を活かす。蓄えた知識と、展開を読む直感力。両者を兼ね備えたフラワリングタイムには、それが出来る。
「行ける!行けるよフラりん!」
遠目に、自分を応援するトレーナーの姿が見えた。フラワリングタイムは彼女に笑顔を咲かすため、更に脚を強めていく。
「(勝負です、ヴィクトリアさん!)」
────ダンッ!
『フラワリングタイム伸びてくる!しかしザヴィクトリアも譲らない!粘る粘るぞ!』
「(このまま…逃げ切りますわ……!)」
「(追いつけない……っ!)」
だが、それでもまだ力不足。脚の速さという、生まれ持った才能の差。努力だけでは埋まらぬ力の差。それを補うだけの何かを、フラワリングタイムはまだ見つけられていない。
「(届かない……負け…る………)」
何かを見つけないと。
何か。
『貴方の夢、とっても素敵だね!』
武器は。
『常に最前の手を練る。アナタにはそれが出来る』
負ける。
『フラりんってさ、負けず嫌いだよね』
負けたく…………ない。
勝ちたい。たくさんの勝利を飾って、私の夢を掴みたい。送り出してくれた皆に。一緒に居てくれる友に。選んでくれたトレーナーさんに。
────応えたい。

「負け……るかあああああああっ!!」
「っ……!?」
最後のひとつ。
フラワリングタイムを最強に伸し上げる最後のピースが今ハマった。渾身の力で、脚を踏み込む。ついに手に入れた、彼女が持てる力をすべて引き出すためのトリガー。
それは『勝ちたい』という気持ち。
その気持ちが、彼女の脚を更に強くする。想いが身体に力を託す。それは力強く、優雅で可憐で。信じられないほどの加速をものにしていた。
『交わした交わした!フラワリングタイム!人気に応えて今ゴールイン!』
「はぁ……はぁ……」
「はぁ…はぁ……負けましたわ!」
「ふふ…私の……勝ちですね……」
「ええ……完敗でしたわ……」
ぜーぜーはーはー。二人とも息を切らしながら、互いの健闘を讃え合う。全力を出し合ったレースに、互いに悔いは無かった。
「今回は負けましたけども……次は負けませんわよ」
「私も、次も負けません!」
握手を交わし、二人で軽く笑い合う。後に彼女は、ティアラ路線で冠を取り合うライバルとして何度も競い合うことになる。
「フラりん!」
「トレーナーさん!私…勝てました!」
「うんうん!おめでとう!」
むぎゅっと抱きしめて、よしよしと頭を撫で回す。まだメイクデビューを勝っただけなのに大袈裟な……と思うかもしれないが、ここを勝てない子が大半なのが現実だ。トレーナーとして喜び冥利に尽きることだろう。
「よく頑張ったね。とっっっても嬉しいよ!」
「えへへへ…私も嬉しいです……」
「ふふふふ。……フラりん。自分だけの武器、見つけられた?」
「……はいっ!」
自信満々に答える彼女に、トレーナーもホッと一息する。彼女はきっとこれから強くなる。GIを取れるくらいに。不思議と、そんな気がした。
「それは良かった。…それじゃあ、ライブを済ませに行こうか!」
「はい!」
歌う曲はメイクデビュー。ウマ娘なら最も慣れ親しんだ曲だろう。輝く未来を君とみたいから。ここを勝ち上がった娘の未来を願うファン達の想いを乗せた素晴らしい歌だ。
高らかに歌い上げるフラワリングタイム。優雅に可憐で美しい。レースも歌も超一流。そんな彼女を、ファンになった人々はこう呼び始めた。

華の歌姫と。


第2話:トモ

+ ...
6戦6勝。無敗で二冠を制覇し、手に入れたGIは既に三つ。目標を着々と達成していく中で、フラワリングタイムは気がかりな事があった。それはライブの帰り道。地下バ道での出来事だった。邂逅したのは、今回も2着で負けたライバル、ザヴィクトリアだった。
「ヴィクトリアさん…」
「……また…届きませんでしたわね」
「……」
「…気に病む必要はありませんわ。勝者がいれば、必ず裏に敗者はいる。この世界の常ですわ」
「はい……」
「…貴女は優しい方ですから、私のことを気にかけて下さっている事も存じています。でも、その優しさが……今は痛い」
「……ごめんなさい。先に行きますね」
「……ええ」
泣き崩れる彼女をそのままに、フラワリングタイムは学園へと戻った。後ろで泣き続ける彼女を、どうしても忘れきれなかった。

「……という事がありまして」
翌日のトレーニング。普段よりぎこちない動きを見せた彼女を問い詰めた所、彼女は素直にワケを話してくれた。自分が勝つだけ、誰かを泣かせてしまい、申し訳ないと思うようになってしまったとのことだ。
「なるほど。確かに、誰かが勝てば、その裏で誰かは泣いてしまう。レースとはそういう世界だからね」
「はい…ここまで夢の為に勝ち進んで来ましたけど、私が夢を叶える度に誰かの夢を壊していて、悪い事をしたなって思ってしまうんです」
「そっか……それは悪いことじゃ無いんだよ。誰もが夢を持ち、挑み、敗れ、その多くが夢を諦めている。巡り合わせが悪ければ、私達もそちら側にいたかもしれない」
トレーナーはそう言って、鍵をかけておいた引き出しの中から大量の手紙が入った箱を引っ張り出した。大きな箱が一つに、小さな箱が一つ。箱の中には、大量の手紙がぎっしりと詰まっていた。
「こっちの小さい箱。君に夢を破られたウマ娘や、彼女達のファンの人達から向けられたものだ。君の言う通り、夢破れた者の悔しさ、悲しみがぎっしり詰まっている」
「……っ……読んでみても…?」
「……ダメとは言わないよ」
おそるおそる、手紙を手に取り内容に目を通す。否定的な感情が波のように押し寄せた。貴女に負けて悔しかった。貴女は運が良かっただけ。夢を奪われた。中には罵詈雑言も混ざっており、敗者達の悔しい気持ちがストレートに伝わってきた。
「……こんなに……多くの人を泣かせてきたんですね……」
震えて、前が滲んで見えなかった。涙がぽたぽたと垂れているのに気が付いた。勝ってしまってごめんなさい、と言いかけてしまった。それを言ってしまったら、何かが欠けてしまう気がして、喉が嗚咽のように引っ込めた。
「そうだね。君が勝てば、それだけ多くの人が悲しむ。それは紛れもない事実。否定はしないよ。…でもね」
大きい方の箱を開く。こちらに詰まっていたのは、彼女へ向けられたファンレター。小さな箱とは比べ物にならないほど、どっさりと大量の手紙が詰まっていた。
「君が勝てば、それだけ喜ぶ人も大勢いる。君の走りが、どれだけの人に希望や勇気を与えてきたと思う?」
「それは……分かりません……」
「ふふ。私も分からない。でも知っておいて欲しいな。これだけの人が、貴女に期待している。貴女に支えられている。貴女に救われている」
大きな箱の手紙にも目を通した。そこに書かれていたのは、フラワリングタイムという、時代を背負うウマ娘へと賛美と賞賛。そして、彼女の走りに救われた人達の想い。これからも勝って欲しい。これからも強くあり続けて欲しい。手紙を読み進める程に、胸の中がワッと熱くなるのを感じた。
「……嬉しい……こんなに…たくさんの方に応援して頂いてるんですね」
「そう。君の勝利は誰かを泣かせてしまう。けれど、もっと多くの誰かを笑顔にする。君が勝利を詫びる必要なんて無いんだよ」
「……はい!」
ゴシゴシと涙を拭う。ゆっくりとだけど、これで立ち直れるだろう。貴女の綺麗な花園で、多くの人を笑顔にして欲しい。トレーナーは心の中でそう呟くのだった。
「……そうそう、ヴィクトリアちゃんからもお手紙を貰ったんだよね」
「えっ!?ヴィクトリアさんから!」
がっついてくる彼女に、トレーナーはすぐ手紙を渡した。本当はさっきの手紙の中に混ぜて読ませても良かったけれど、これは最後に読んでもらうべきだと判断した。
『フラりんさんへ
この内容を直接言うには難しく…この様な形で申し訳ありません。先日のレース、お疲れ様でした。正直に申しますと、天賦の才を持つ貴女が羨ましくてたまりません。私も貴女のようになりたかったです』
先ず、文句が飛んできた。
『けれども、私も貴女に負けっぱなしで終わるつもりはありません。流れるような綺麗な位置取り、完璧なコーナリング、猛烈な末脚。どこを取っても一流で、思わず見惚れてしまいそうな走り。私の目指す目標はなんと高く険しいことか。しかし目標が高ければ高いほど、燃える性格ですので』
快活な彼女らしくなってきた。
『脚を洗って待っていなさい。夏合宿で強くなって、必ず貴女を見返す程に成長してみせます。次ぶつかる時は負けません。この闘志尽きぬ限り、何度でも挑んでみせます。貴女から、私の勝利を奪い返します』
「……!」
手紙を読んで、頭の中に浮かんでいたピースがすべてが噛み合った。負けたくない。負けたら悔しい。次こそは勝ちたい。負けた皆の手紙からも、似たような想いが何度もぶつけられてきた。
クシャッと、手紙を握る力が強くなった。
「私だって……負けない…」
ただ泣いて終わりでは無いんだ。負けた皆も、そのファンの皆も、夢を諦めている訳じゃない。何度でも挑み続けるだろう。そして私は追われ続ける。夢を掴んだ王者として。
「譲れない…渡したくない…!」
私にも譲れないものがある。勝ちたいと思う気持ち。私が勝つ事で、与えられる希望を、多くの笑顔を、守り続けたい。ならば、守りきってみせよう。私を支えてくれるファンの想いを。最強の女王に求められる、圧倒的な強さで。
「……ありがとうございます。トレーナーさん。私……皆さんのおかげで、なんとかなりそうです!」
「良かった!立ち直れたみたいだね。トレーニングはどうする?」
「やります!今すぐ!」
元気だねー、と笑いながらも、内心ホッと一安心なトレーナーだった。この歳にして、二冠ウマ娘という大任を背負っている。その上で、レースの現実というものを教えなくてはならなかった。彼女の心労を思えば危険な博打だったかもしれない。
……もし、心が折れてしまえば、きっと夢はそこまでだから。

「手紙、読んで頂けました?」
「はい。読ませて頂きました」
「…なんだか恥ずかしいですわね…変ではありませんでした?」
「まさか。素直な気持ち、受け取りましたよ。ありがとうございます」
「……ふふ。それは良かった。手紙で言いたいことは全て言いましたわ。後は言わずとも…分かりますわね」
「……はいっ!」

春シーズンのGIレースも、宝塚記念を残して終了。梅雨も上がり、暑く厳しい夏が訪れた。トレセン学園の生徒は夏合宿の時期を迎え、生徒達は続々とバスに乗り込んでいた。フラワリングタイムも、皆と共に合宿が行われる海へと向かっていた。
「ねえねえフラリン!菊花賞に出るって聞いたけど本当なの!?」
「はい。次の目標は菊花賞ですよ」
「すごーい!…あれ?ってか、トリプルティアラは良いの?」
「それがですね……」
もくもくと回想を思い出す。オークスも終わり、秋シーズンへ向けて調整を行っていた時のことだ。メディアも本人も、次の目標は最終冠のエリザベス女王杯に向かうものだと思われていた。
『フラりん。次の目標は菊花賞にしない?』
『えっ!?』
唐突にそう言い出すトレーナー。トリプルティアラにあと一手という所なのに、まさかの菊花賞。信じられないと言った顔のフラワリングタイムに、彼女は丁寧に説明した。
『まあまあ落ち着いて。ちゃんと順を追って説明するからさ。最初にこれを見て欲しい』
そう言って、彼女が見せたのはレース関連のニュース。それを読むと、来年からトリプルティアラ三冠目のエリザベス女王杯は、シニア戦線に開放されるらしい。代わりに秋華賞というレースが三冠目に追加される予定とのこと。
『なるほど……三冠目は来年以降も狙えるから、今年の秋は別のGIを狙うってことですか?』
『そういうこと!さすが飲み込みが早くて助かるね〜』
『それは構わないのですが……菊花賞ですか。距離適性が不安ですね…』
『ふふ、そう来ると思ったよ。じゃじゃーん。これを見てみて!』
バサッと広げたのは、フラワリングタイムのレース結果表。1位がズラーっと並んだ単調なものだが、得意げに広げる辺り何かあるのだろう。
『これは君のレース結果だけど…今回注目するのはここ!』
指さしたのは、2位との着差。距離が伸びれば伸びるほど、2位との差が広まっているのがわかる。長い距離ほど、強みが発揮されていると考えるのが自然だ。
『なるほど…!確かにこれなら距離が伸びても戦えるかも……』
『でしょ?……あ、もちろん今年トリプルティアラをしたいって思うならそれでも大丈夫だよ』
一生に一度のクラシック級。道を強要するのではなく、本人の悔いが残らないように選択させてあげたい。
『すぐじゃなくても良いから、君の意見を聞かせて。行きたい方で良いからね』
『分かりました!じっくり考えてみますね』
トリプルティアラを取るか、新たな可能性を模索するか。悩みながら学園をフラフラしていると、あるウマ娘と出会った。
『ローレルさん!』
『フラりん!今日はもう練習終わりなのかな?』
『はい。少し考え事をしてまして』
『どうしたの?悩み事?』
出会ったのは、サクラローレル。彼女はフラワリングタイムより一つ上の世代の先輩で、ナリタブライアンの同期にあたる。彼女はクラシックこそなかなか勝てなかったが、条件戦を勝ち上がり、中山金杯を制覇して天皇賞・春を目指す。しかし、その直前で大怪我を負ってしまい、競争生命が危ぶまれる程になってしまっていた。学園内でリハビリに勤しんでいる為、トレーニング上がりが早いフラワリングタイムとは自然と会う機会があり、よく喋るお友達になっていた。
『……という訳なんです』
『そっか……とっても贅沢な悩みだね』
『あはは……そうですね。GIを選り好みするなんて、最高の贅沢です』
『本当にね……』
彼女のさする脚が、フラワリングタイムの目に印象強く映った。サクラローレルは、一息入れてからこう伝えた。
『C’est en forgeant qu’on devient forgeron.』
『鍛冶屋になるには鉄を打て……ですか?』
『正解。貴女が夢見る道の果て。自分がどうなりたいか。それを見据えて、道を選ぶべきだと私は思うな』
鍛冶屋になるには鉄を打て。まず挑戦してみないことには、その目標に進む事は無いという意味だ。その意味を咀嚼した上で、フラワリングタイムは結論を出した。
『……私は、最強になりたい。夢を叶える為に最強に』
ならば、選ぶべき道は決まった。最強に近付くべく、最初に挑むべき関門。それは、最も強いウマ娘が勝つと言われるレース。
『……決まったみたいだね。応援してるね!』
『…はい!おかげさまで……ありがとうございます!』
『どういたしまして!』
それから、フラワリングタイムが去っていくのを彼女は見送った。誰もいなくなった夜のターフを一人見つめながら、サクラローレルはポツリと呟いた。
「……咲くのは、私だ」
蕾が、凛と小さく揺れた。








「……それで、菊花賞を選んだわけですね」
彼女が話終えると、バスの中はしんと静まり返った。それから、遅れてきたように熱気がワッと車内に溢れかえってきた。
「すごい!目指すは世代最強のウマ娘!応援するね!」
「頑張ってね!私現地まで見に行くから!」
「ほう、変則三冠ですか。見事なものですね」
「同じクラスとして誇らしいよ!」
やいのやいのと騒ぎまくるクラスメイト達。例え同期のライバルであっても、世代最強に挑む友達を応援せずにはいられないだろう。
「ありがとうございます。私、頑張ります!」
どんちゃん騒ぎの車内に痺れを切らした運転手に、皆で仲良く叱られたのは内緒だ。

合宿所に着くと、ウマ娘達はそれぞれの担当トレーナーの元へ向かう。今日から2ヶ月間、秋へ向けて合宿トレーニングを行う。夏はGIレースがない関係で、トレーニングに専念する者も多い。その需要に答えたのが、この夏合宿と言えるだろう。
「フラりーん!」
「トレーナーさん!…」
フラワリングタイムは気付いた。夏合宿では、浜辺でのトレーニングを行うために水着に着替える。トレーナーも、砂で汚れても良いように水着に着替えている。彼女の理想的なプロポーションに。
「……どうしたの?」
「いえ……別に……」
幼いとはいえ、自分も女性。理想的な体型の彼女をちょっと羨ましいと思いつつ、それを飲み込む。
「そう?……じゃあ菊花賞に向けてのメニューを伝えるね」
菊花賞。ティアラ路線のウマ娘はまず挑まないとされる、クラシック最終冠。挑まない理由は様々だが、その中でも大きいのが距離の問題だ。ティアラ路線はマイルから中距離のスペシャリストが集まりやすく、レース距離は最長でも2400m戦だ。そこから更に3ハロンの延長。特に、桜花賞を制覇したマイラー気質のウマ娘には厳しいものがある。
「長距離に適応するためのスタミナトレーニングが中心…ですね」
「そう。君は長距離を走れるだけのスタミナは十分にある。でも、それは一人で走っている時の話」
「レースには駆け引きがありますからね」
それはフラワリングタイムとて例外では無い。マイル戦を勝つだけのスピード。長距離を走りきるだけのスタミナ。両者を併せ持つなど、天才でなくては不可能だ。大抵は、どちらかを努力で補う必要がある。
当陣営が補うのが、スタミナだ。最低限の地力はあるだろうが、マイル距離での勝利実績は、逆に長距離に挑む上で足枷になる。速すぎるスピードは、顕著にスタミナを奪う。根比べの長距離との相性は最悪だ。故に、尽きぬスタミナを作る。無尽蔵の体力を以て、相手を振り落とす。
「ラスト一周!」
「はいっ!」
重く熱い浜辺の砂は、スタミナを鍛えるのに最適だ。踏み込む度に、深くめり込んで滑るように進む。十分な推進力を得るには素早く脚を回さねばならず、蹴り続けるパワーとスタミナとが求められる。
「はあっ……はあっ……ふぅ…」
「ゴール!お疲れ様。時間的に、今日はここまでだね。疲れはどう?」
「そうですね…思ったよりは疲れていないと思います。脚への負担も、普段とそこまで変わりません」
「おっけー。念の為触診させてね」
頭、腕、胸部、臀部、トモ、足先。それらを念入りに、触ってボディチェック。天才トレーナーと呼ばれるだけあって、彼女の肉体に異変があれば即座に気付く。この小さな花を護るような丁寧な心遣いがあってはじめて、フラワリングタイムは思い切り咲き誇れる。
「……いつも、ありがとうございます」
「こちらこそ、素敵な走りをいつもありがとう!」
「えへへ……」
「ふふっ」
まるで友達のように、笑い合った。

この春、大きな激震がレース界に襲いかかっていた。三冠ウマ娘ナリタブライアンの、怪我による春シーズン休養。加えて、春に復活を遂げたヒーロー、ライスシャワーの故障引退。シニアの主役級が次々脱落する現状にファン達はどよめき、大いに混乱した。
その代わりにスポットライトが当たったのが、ダブルティアラでありながら、三冠を後に回し、菊花賞を選択したフラワリングタイム陣営である。夏合宿中も取材が後を絶たず、都度トレーナーが丁寧に追い返していた。夏も終わる頃には、世間の話題は「ナリタブライアンの復活」と「フラワリングタイムの挑戦」に絞られてきた。

「……ふぅ」
「お疲れ様!…良い感じ!来た時より着実にタイムが上がってるよ!」
「ありがとうございます。この調子なら菊花賞も狙えそうですね!」
「そうだね!タイムもスタミナも申し分無し。菊の舞台に上がれるだけの身体は出来上がってきたかな」
「やった!」
ぴょんぴょんと小さく跳ねる。あざといなと思いつつも、しっかり萌えるトレーナー。
「ふふ……さて、明日の帰宅に向けて今日は早めに終了!荷物きっちり確認しておいてね!」
「はいっ!」

彼女なら
そんな心配
しなくても
友達の分も
やってあげてるよね
トレーナー 心の一句

荷物の準備は前日に済ませてるタイプのフラワリングタイムは、念の為荷物を再点検してから、今日も見学に繰り出していた。ふと耳を澄ませば、砂を蹴る音が聞こえてくる。そこに居たのは、同期でクラスメイトのウマ娘。マヤノトップガンだ。
「あ、フラりん!」
「マヤノさん!トレーニング中ですか?」
「うん。でも今は休憩中だよ。……そうだ!フラりん、マヤも菊花賞に出るから!」
「えっ!そうなんですか!?」
マヤノトップガンはなかなか勝ち上がれず、夏まで燻っていたが、今季のレースを境に覚醒。夏の上がりウマ娘として、陣営は菊花賞を目標にすることを決めていた。
「うん!マヤ、メラメラでワクワクの熱いレースがしたいから!フラりんがライバルなら燃えるでしょ?」
「……そうですね。マヤノさんがライバルなら、私も燃えると思います!」
「だよねだよね!だから待っててね!もっともっと強くなって、菊花賞で勝負だよ!ユー・コピー?」
「もちろんです!アイ・コピー!」
待ってます、という意味を込めて手を差し出す。友として、ライバルとして、マヤノトップガンと握手を交わした。彼女のトレーニングを軽く見学させてもらうと、彼女が如何に天才であるかが見て取れた。しなやかな脚の動き、素晴らしいペース配分、並外れた洞察力。これは間違いなく強敵になる、と固唾を飲んだフラワリングタイムだった。
夏合宿も終わり、生徒達は学園に帰る時が来た。厳しい暑さも終わりを告げ、秋の涼しい風がバスに吹き込んだ。その風を感じながら、それぞれが先を見据えて、胸襟を呟いた。
「「「(いよいよ、秋だ)」」」


第3話:菊花賞

+ ...
秋。フラワリングタイム陣営は、宣言通り菊花賞への直行を選択した。本来、菊花賞に行くのであれば、セントライト記念等をステップレースに使うのだが、身体への負荷を考えて、前哨戦は使わずに一発勝負を行う事になった。
それでも、フラワリングタイムは一番人気を背負っていた。皐月賞ウマ娘のマムホワイトは未出走、ダービーウマ娘のツヨイキラボシは近走で負けてしまい、人気が落ち込んでしまっていた。クラシックの有力候補も出走していたが、それらを跳ね除ける程に強いと期待されている証拠でもあった。
「うそ……!?」
「ここから……伸びるの!?」
「はあああああっ!!」
フラワリングタイムも、実戦離れしすぎないよう、学園内で何度も実戦的な模擬レースを行っていた。そのためか仕上がりは上々。本番も問題なく走れるだろう。
「ひー……こりゃ敵いませんわ……一番人気も納得だね〜」
「はぁ…はぁ…凄い!これなら絶対菊花賞も取れるよ!」
「ありがとうございます。絶対、勝ってみせますね!」
練習に付き合ってくれる友人達に感謝しつつ、本番に向けて鋭い牙を研いでいく。いよいよ、空気も冷え始め、鎬を削る秋のGI戦線がスタートした。

秋の戦線は、まずどよめきから始まった。その中心はシニア戦線。中距離GI、天皇賞・秋。無敵の三冠ウマ娘、ナリタブライアンの失墜。一番人気を背負ったナリタブライアンが12着と惨敗。怪我からの復帰戦という事もあり、まだ本調子では無いというのが周囲の見解だった。画面越しに見ていた本陣営も、同じような感想を抱いていた。
「ブライアンさん……」
けれど、迷っている暇は無い。わたしたちが目指す菊の舞台はすぐそこだ。

『絶好の良バ場、天気にも恵まれました京都レース場!まさにレース日和と言って良いでしょう!では、本日のメインレース。GI菊花賞の本バ場入場です!』
大歓声に包まれながら、ウマ娘達が続々と姿を現す。一際大きな歓声が上がったのが、三番人気、マヤノトップガンの登場だった。
「マヤノー!頑張れよー!」
「今回こそ勝てるからね!」
勝負服に身を包み、堂々と歩く姿はまさにGI級。観客に愛想良く笑顔を振りまく姿も無垢で愛らしい。レース結果も上々で、前哨戦の神戸新聞杯を2着と好走。人気も頷ける状態に仕上がっていた。
『さあ一番人気!異例のコースで変則三冠を狙う!華の歌姫は菊の花をも華麗にもぎ取って行くのか!』
『2枠4番 フラワリングタイム!』
今日一番の歓声を浴びながら、ターフに姿を現す。初のクラシック路線でありながら、プレッシャーにもまったく緊張していない。まさに王者の風格を漂わせていた。
「フラりん!」
「マヤノさん。今日は負けませんよ」
「それはどうかな?フラりんも皆も追い抜いて、マヤが勝つから!」
「おお、皆とは大きく出たものだな。マヤノトップガン」
突然つっかかって来たのは、二番人気のナリタキング。京都新聞杯を1着で勝ち上がり、二番人気を獲得していた。ナリタの名が付くウマ娘が近年は好成績を収めているため、彼女への期待も一際大きいという点もあるだろう。
「あ、ナリキンちゃん」
「キングと呼びたまえ!キングと!」
ノリツッコミの後、軽く咳払いをして続けた。
「良いか。人気を集めている我らは皆からマークされているという事だ。軽々しく皆を倒す等と言ってみろ。余計に皆から注目を集めてしまうぞ」
注目を集められれば、その分マークされてしまう。不利になるという点において、ナリタキングの言い分は間違ってはいない。
「そうなの?……んー。まあ別に良いかな!マヤが勝つつもりなのは変わりないし!」
「おお、なんという強心臓!流石だねマヤノトップガン。フラワリングタイム、君はどう思う?」
「私も気にしませんね。一番人気ですから、対策はされているでしょうし」
「…ふふ。はーっはっはっは!そうだそうだ!上に立つ者はそうでなくちゃいけない。対策された上で、尽くを力でねじ伏せる。まさしく王の走り!それでこそ、我がライバルに相応しい!」
ひとしきり笑ってから、彼女は優雅にマントを翻した。
「そろそろ時間だね。ではこれで。諸君、良いレースをしよう!」
「うん!負けないからね!ナリキンちゃん!」
「……キングだ!」

ファンファーレが鳴り響き、ウマ娘達がゲートに収まっていく。フラワリングタイムが今回マークするのはもちろんマヤノトップガン。彼女を自由にさせてしまえば、それだけでレースを有利に運ばれてしまうだろう。動きを注意深く見極め、仕掛ける必要がある。
「フラりん……頑張って!」
「(勝ちますよ、トレーナーさん!)」
『ゲートイン完了。最後の菊の冠を求めて、最強を目指すウマ娘達が今!』
────ガコン!
『スタートしました!出遅れはありません!揃った綺麗なスタート!』
「(前には行かせない!)」
マヤノトップガンの逃げを封じ込めるべく、先頭集団が続々と前に並んでいく。その後ろ四、五番手にマヤノトップガンとナリタキングが並んでいる。2〜3バ身後ろのやや中団に取り付けたフラワリングタイム。差しと言うよりはやや先行の位置に近いだろうか。少し特殊なポジションに立っていた。
『さあライトビームが先頭だ!ややバラけて来ているでしょうか!』
「(マヤノさんをマークしながら脚を溜めるにはここしかない…!)」
中団で脚を溜めるのは難しいが、勝つ為にはやるしかない。菊花賞の最終直線は356m。2ハロンにも満たない距離でバ身を詰め切るのは難しく、どうしても前が有利になる。最後まで振り落とされずに前に残れるかのスタミナ勝負となる。
「1000m通過は1分09…平均ペースではあるね……」
トレーナーが手元のストップウォッチを見る。展開は前の奪い合いでこそあったが、ペースはややスロー。ナリタキング、マヤノトップガンを気にしなければならないが、それよりも注意したい相手がいるからだ。この距離でハイペースになれば、前は総崩れになる。そこに刺して来るのが……
「「「(フラワリングタイム……!)」」」
一番人気。当然、誰もが警戒する。誰もがマークする。圧倒的な威圧感だが、彼女も負けていなかった。落ち着いて息を整え、仕掛け時をじっくりと待ち構えている。
「(こんな後ろで大丈夫かな……)」
「(もう仕掛けてしまおうか……)」
向こう正面。痺れを切らしたウマ娘が続々と前に仕掛けていくが、人気のウマ娘達はまだ動かない。自分の脚に、絶対の自信を持っているからだ。
やがて、前を行ったウマ娘達が徐々にペースを落としていく。それが京都レース場名物、第三コーナー。内回りの高低差は3m。魔物が住む坂である。ここが山場であり、勝負どころでもある。
「「「(仕掛けるなら……ここだ!)」」」
────ダンッ!
坂の下り。マヤノトップガン、ナリタキングらが先頭集団に取り付くように加速を開始する。フラワリングタイムも遅れて中団から抜けるように速度を上げていく。
『さあ最終コーナー!ここでマヤノトップガンが先頭!ナリタキングも食らいついていく!』
後方集団も加速し、集団が一つに纏まっていく。その集団を引っ張るのが先頭を突き進むマヤノトップガンだ。後続もゴール目掛けて凄まじい加速を繰り出している。
「(…行きますよ、マヤノさん!)」
脚色十分。外に持ち出して、フラワリングタイムが猛追を開始する。秋の京都レース場に、美しい花筏が敷き詰められていく。その圧倒的な加速に、美しさに、強さに、観客も、横を走っていたウマ娘さえも思わず息を飲んだ。
「はあああああああっ!!」
ラスト1ハロン、最後の直線。フラワリングタイムは変わらない末脚でマヤノトップガンを追い詰める。けれど、届かない。マヤノトップガンとの距離はなかなか縮まらない。3000mという長い長い距離が、負担が、疲れが、重く脚にのしかかる。それは誰もがそうだ。疲労と、苦しみと戦っている。必死に脚を動かして前に進まなければならない。
「(マヤが……最強に……!)」
ならば、最後まで足を動かし続けられる者はどんな者だろうか。より強い想いを持った者だろう。より強い願いを抱いた者だろう。マヤノトップガンの抱いている夢は強かった。
「(最強になって……!誰よりも高いところで、あの空を飛んでやる!フラりんにもブライアンさんにも勝って!マヤが一番に!)」
エンジンが点火する。フライト準備完了。目標地点確定。風よし。速度よし。こころよし。進路クリア。オールグリーン。
《JetStream:Code.F-14》

「っ……!?」
突風が吹き抜けた。マヤノトップガンは、その地点から更に加速した。横にいたナリタキングでさえ驚く程の速度で。神速で迫り来る花筏さえも、ジェット機はゆうに振り払って見せた。突き抜けるほどに美しい青空に、マヤノトップガンはただ一人飛び立った。宣言通り、後ろを置き去りにして。
「はあああああああああっ!!」
「(負けない……!)……やああああああああああっ!!」
逃げるマヤノトップガン。追うフラワリングタイム。二人のデッドヒートはものの数秒でありながら、まるで何時間も経っているかのように熱く、長かった。熾烈なデッドヒートを制し、最後にゴール板を駆け抜けたのは。

『ゴール!混戦の菊花賞を制したのは、マヤノトップガン!鮮やかな逃げ切り勝ちだ!』
ワァァァァァァァッ!!と大歓声が響き渡る。フラワリングタイムは1バ身差の2着。圧倒的、とまでは言わずとも完敗。人生で初めて味わった敗北。その悔しさと至らなさに打ちのめされていた。
「やった……マヤが勝ったんだ…!」
記録は3分04秒4。菊花賞のレコードタイムだ。レコード勝ちの驚き。マヤノトップガンへの祝福。善戦したフラワリングタイムへの慰め。それらが混ざりあって、京都レース場は歓声と拍手に包まれたのだった。

「……お疲れ様」
地下バ道。フラワリングタイムは一足先に、ターフから去っていた。トレーナーに出迎えられ、縋るように彼女にしがみついた。
「……ありがとう…ございます」
「…我慢しなくて良いよ」
包み込むような優しい抱擁。フラワリングタイムは堪えきれず、声を上げて泣いた。人生で初めての敗北。夢を奪われる辛さを、その身をもって学んだ。彼女はもっと成長するだろう、この敗北を糧に。
「……負けるって、悔しいですね……とっても……」
「うん……うん……」
今は、自分を優しく労わろう。これからも走り続ける為に。


第4話:変化の刻

+ ...
冬季。陣営は打倒マヤノトップガンに向けて、年末の有馬記念を目標にすることを伝えた。マヤノトップガン側も挑戦を受けるつもりで、何時でもかかってこい的なコメントを取材陣に残していた。
「はっ……はっ……はっ……」
敗北を喫してから、フラワリングタイムはより一層トレーニングに注力するようになった。悔しい気持ちを糧に突き進む。その姿は、負けて落ち込んでいたウマ娘達をも励ましていたとか。
「はっ……ふぅ……」
この時期に嬉しい情報が一つ。フラワリングタイムの肉体年齢も周りと同じ程に成長したため、少しずつトレーニングの負荷を上げられるようになった事。もちろん、一つ年下という点は変わらない為、ハードなトレーニングは出来ないが。
「フラりん、そろそろオーバーワークになっちゃうから休もう!」
「あ……はいっ!」
マヤノトップガンに追い付きたい。多少無理をしても大丈夫になった。その二つが重なり、若干トレーニングの時間を伸ばしすぎている節があった。
「もう…あんまりやりすぎると怪我に繋がるからね」
「すみません……普通のトレーニングだと追い付ける気がしなくて…」
「そうだね……気持ちは分かるよ。マヤノトップガンちゃん。彼女は天才だね」
夏の上がりウマ娘と言えど、あれほどまでに強かった前例はそう無い。菊花賞レコードともなれば、これからの伸び代も高いだろう。現役最強のナリタブライアンにさえ届きうるかもしれない。
「でも、君に無茶はさせられない。君には君の磨き方がある」
「……はい……」
不満げな彼女の為に、トレーナーは資料をどっさりと持ってきた。有馬記念に向けた対戦相手のデータ資料集だ。足りない分は知略で。合理的だが、それでは勝てない気がしてならなかった。
今年の面子は実に豪華だ。皐月賞ウマ娘、秋天2着のマムホワイト。女傑ヒシアマゾン。古豪ナイスネイチャ。菊花賞レコードのマヤノトップガン。そして三冠ウマ娘、ナリタブライアン。
才能も、努力量も自分より上。足りないトレーニング量で勝てるのだろうか。また負けてしまうのではないかと。徐々に心は焦りと不安に蝕まれて行った。
────そして。

「っ……!?」

ある日のトレーニング。突如脚に違和感を覚え、練習中に急失速を行ってしまう。痛みと違和感。トレーナーに抱えられて保健室に急ぐ。症状を診てもらい『軽い肉離れ』という診断結果が出た。だが、無理をすれば悪化して再発しかねない。念の為、今年度中はレースに出ないように命じられてしまった。
「ごめんなさい。私がトレーニング量を見誤ってしまった」
「いえ…トレーナーさんは悪くありません。私が悪いんです」
フラワリングタイムは、トレーニングを我慢出来ずに夜中に無断でトレーニングを行ってしまっていた。共に走る相手を知る事。知る事で、勝てないと分かってしまう恐怖。不安をかき消すために必死に走った。そのせいで疲労が過度に溜まってしまっていた。その旨を、正直にトレーナーに伝えた。
「そっか……大丈夫。そうさせてしまったのは私。自分を責めないでね」
「……でも…」
「……当分トレーニングは中止。有馬記念も出走は取り消し。約束を守らなかった罰は十分受けてる」
トレーナーは優しい手つきで、彼女の頭を撫でた。
「軽い怪我で良かった。もう無茶なマネはしないでね」
「………はい…」
ポタリ、と手が濡れた。零れてきたのはトレーナーの涙。ここまで、二人三脚で走ってきた大切な相棒だ。そんな相棒を、指導不足で怪我させてしまったのだ。自らの力不足に彼女は泣いていた。
「トレーナー…さん……」
「……ごめんね。見苦しいとこ見せちゃって。怪我が治ったら、また一緒に夢を目指そう?」
「……はい……はいっ……!」
トレーナーが帰ってから、フラワリングタイムは泣き出してしまった。自分がした事がどんなことなのか。信じてくれるトレーナーを裏切って勝手なマネをして、目標も、応援してくれる人も、大切な人も、すべて裏切ってしまった。悔やんでも、もう刻は戻らない。下を向くな。後ろを振り返るな。ならば、今自分がすべきことはひとつ。
贖罪。
もう、裏切らない。
信じて、前へ進み続けることだ。



「おはようございます!」
「おはよう、フラりん」
「……昨日は、申し訳ありませんでした!」
「気にしないで。やる気を失わないでいてくれただけで十分だよ」
「……ありがとうございます。ビデオ、お借りしますね!」
「うんっ!」
翌日。トレーニングは中止だが、トレーナー室に朝一番でやってきた。そのまま意気揚々と椅子に座り、早速ビデオをテレビに挿入。内容は、有馬記念に出走する面々。昨日の事は思い出さないように、穴が空くほど熱心にビデオを見つめる。それから手元のノートに、メモを逐一追加していく。しばらく書き込みを続けてから、目を休めるために軽く一息ついた。
「……ふう」
「……あ、お疲れ様。お茶入れたけど一緒に飲まない?」
「いただきます!」
もくもくと次に見るビデオを片付けてから、お茶請けのお菓子を黙々と食べ進める。お茶を丁寧に飲んでから、ノートを黙々と書き進める。あんまり機械的なので、ちょっと心配になって声をかけた。
「ねえ、フラりん?」
「……は、ふぁい?」
食べかけていた羊羹を丸呑みする。
「休憩の時は、手を止めて肩の力を抜いた方が良いよ!オンオフはハッキリさせた方が集中出来るからね」
「あ……すみません!」
「大丈夫大丈夫。フラりんはなんでも出来ちゃうし、皆より歳下だから…追いつこうとして、なんでも急いでこなそうとしちゃうでしょ?ゆっくりで良いんだよ」
「ゆっくり……そうですね。焦って怪我しちゃいましたから。一歩ずつ進んでみます!」
完璧な人間なんていない。少しずつ成長すれば良い。フラワリングタイムは今回の学びを活かして、より立派な選手になれるだろう。トレーナーはそう確信した。

「有馬記念、一緒に見学に行く人募集中!」
と書いた立て札をもって校内をウロウロしているフラワリングタイム。出れなかったレースをせめてしっかり見てやろうとS席を購入。その財力をトレーナーにドン引きされた。
怪我で出れなかっただけに、皆も哀れに思っていて、誰も彼女に声をかけられないでいた。そんな彼女に声をかけたのは、奇しくも同じ運命を辿っているウマ娘だった。
「フラりん、何してるの?」
「あ、ローレルさん。一緒に有馬記念を見に行く方を募集してるんです!」
「へぇー!有馬記念!……ってアレ?フラりんって走る側じゃないの?」
「あはは……実はレース前に怪我してしまいまして……大した怪我じゃないんですけど、こんな感じなんです」
太ももの包帯を見せる。表からは見えないが、この下には痛々しく内出血した跡が残っている。
「そっか……辛いよね。分かるよ、その気持ち……痛いほど……」
「はい……」
自分はひと月も休めば治るだろう怪我なのだが、一年近くもレースに出れていない彼女に同情して貰っている。なんとも情けない。
「だからせめて、レースを見学しに行こうかと思いまして。ローレルさんも一緒にいかがですか?」
「それなら喜んで!私もちょうど見に行こうかなって思ってたの!」
「ありがとうございます!……ローレルさんは、ブライアンさんを見るのが目的ですか?」
「んー、半分正解ってとこかな?私はね、ブライアンちゃんを見て……彼女に勝つ為に研究するの!」
もう、一年もレースに出れていないのにこの闘志。とても選手生命さえ危ぶまれた怪我を負っている者とは思えない。
「あの最強のブライアンさんに、勝ちたいんですね」
「うん…!彼女に勝って…サクラローレルの時代を築く!そしていつか…って話が逸れちゃったね」
「いえいえ。お気持ち、よく伝わりましたよ!……もし、怪我から復帰したら、私達はライバルですね」
「……そうだね。次は私が咲いてみせる。いつかぶつかることがあったら全力で競おう!」
「はいっ!」
手を取り合い、ライバル宣言。まあこの二人はまだ走れないのだが…そんな面白いやり取りを聞いていたウマ娘が一人、ひょっこりと顔を覗かせた。
「マーベラース☆」
「マベちゃん!いつの間に!」
「マーベラスさん、こんにちは!」
「こんにちマーベラス★とっても面白そうな話をしてたから混ざりに来たよ☆」
彼女はマーベラスサンデー。フラワリングタイムの同期で、クラシックレースは未出走。というのも、怪我に悩まされているらしく、まだ本格的にレースに出られていないのだ。今期も怪我で休養中。奇しくも、怪我で休養トリオになってしまった。
「有馬記念の観戦に行く話をしていたんです。マーベラスさんも一緒にどうですか?」
「それはとってもマーベラスだね!三人ならもっとマーベラスかも!」
「決まりですね!よろしくお願いしマーベラス!」
「マーベラス!マーベラス!アナタもアタシもマーベラス!」
「マーベラース!」
世界がマーベラス空間に切り替わった。サクラローレルが宇宙猫状態になってしまうが、二人は気にせずマーベラスな交信を続けている。なんでついていけるんだろう……と脳を爆発させるサクラローレルだった。




『さあ六番人気!空の彼方から参戦です!マッハの速度で勝ちを奪えるか!マヤノトップガン!』
有馬記念。ファン投票で選ばれたメンバーが激突する、まさに夢のグランプリ。会場は大盛り上がりだが、流石にS席だけあってそれなりには静かである。見学に来たのは、集まった怪我で休養三人組。トレーナーは流石にS席は無理なので学園でお仕事中。
「(フラりん、見ててね!マヤが一番になるよ!)」
「(もちろんです!)」
お互いにグッドサイン。今回の見学は、ライバルであり友達であるマヤノトップガンの応援も兼ねている。
『さあ二番人気!秋の雪辱はグランプリで果たす!最強の三冠ウマ娘、ナリタブライアンの登場だ!』
「来たーっ!」
「頑張れ、ブライアーン!」
「怪我なんか乗り越えちまえ!」
湧き上がる大観衆。ナリタブライアンは復活する。そう信じて止まない者達の祈りの叫びだ。けれども、今のナリタブライアンには、何かが足りない。
「………チッ」
ただ一言、そう呟いてナリタブライアンは歩いていく。周りから見ればいつも通りなのだ。けれども、何かが。それが何なのかは、そこにいる誰もが分かっていなかった。
「よう!ブライアン。今日こそケリを付けようじゃないか!」
「……アマさんか」
一番人気を背負ったのが、この女傑ヒシアマゾンだ。ナリタブライアンに真っ向から勝負を挑み、互角以上に渡り合っている猛者の一人だ。
「おうともよ。さあタイマンだ!腹括ってかかってきな!」
「………ああ」
「………ブライアン…」

12人の猛者達が、ゲートに収まっていく。そして、レースが始まった。最後方に陣取るヒシアマゾン。中団にナリタブライアン。そして、先頭を奪いに行くマヤノトップガン。誰もが心を奪われる夢のグランプリ、その先頭を取ったのはマヤノトップガンだった。
「(よーし…マヤのペースにするよ!)」
六番人気と言えど、菊花賞のレコードホルダー。簡単に逃がしてはならないだろう。だが、誰も迂闊に手が出せない。理由は簡単だ。後方のナリタブライアンとヒシアマゾン。彼女らの末脚は脅威でしかない。本気を出させれば一瞬で負けてしまう。であれば、垂れる可能性のあるマヤノトップガンを行かせる方が得策だ。
「マーベラス☆マヤノのペースになってるね!」
「ですね!ブライアンさんは中団でヒシアマさんは後方。普段通り……でしょうか?」
「今のところはそうだね……」
澱みなくレースは進んでいく。ナリタブライアンを徹底マークするヒシアマゾン。その姿に妙な違和感を感じていた。
「(……変だね。いつものような威圧感はどこに行ったんだい…?)」
ナリタブライアン。普段は一緒に走っているだけで、圧倒的な威圧感を感じるはずだ。だが、今日はそれを感じない。妙だなと思いつつ、普段通りタイマンの準備を進める。
依然、マヤノトップガンのペースが続き、そのまま最終コーナーへとなだれ込んでいく。最高のワクワクを感じるべく、マヤノトップガンが一気にフライトを開始する。飛んでこい。怪物、撃ち落としてやろうと言わんばかりに。
「ォ……ォオおおおおおっ……!」
怪物が唸る。吼える。大地を踏みしめ、一気に加速する。ナリタブライアンの復活だ。好位置から一気に迫り、二番手からマヤノトップガンを猛追する。その迫力はまさに最強の風格。
「来た!」
「負けないで!マヤノさん!」
「行けっ!ブライアンちゃん!」
応援が最盛を迎える。湧き上がる観客を横目に、怪物は進んでいく。止まらない。止まらない。ついにマヤノトップガンに迫る。
……はずだった。
『……伸びない!ナリタブライアン三番手!これは苦しいか!マヤノトップガンだ!二番手はドライアイス!マヤノトップガン!そのまま逃げ切ってゴールイン!』
ナリタブライアンは最終直線で失速。4着に終わった。彼女をマークしていたヒシアマゾンも、前に追い付けず5着に終わってしまった。大敗でこそないが、終わってしまえばマヤノトップガンの独擅場。怪物が復活することは終ぞ無かった。
「ぶー、ぶーぶー!」
一着のマヤノトップガンがケチをつけにくる。
「…………なんだ」
「ブライアンさん、マヤの事ちゃんと追って来てた?」
「……当たり前だ」
「えー、嘘だよ!そんな事無いもん。ブライアンさんは本気を出せばもっと強いもん!」
拗ねてる彼女を見つけ、ヒシアマゾンが仲裁に来る。
「……お、おい。マヤノ…」
「次はちゃんと追ってきてよね!マヤとの約束!」
「………チッ」
ナリタブライアンは、それだけ言って去ってしまう。不満そうに燻るマヤノトップガンと、困り果てたヒシアマゾンだけがターフに残った。

観客席の方も、ざわめき、どよめいていた。やはりナリタブライアンは復活しないのか?否が応でも脳裏にその言葉が過ぎってくる。S席を買ったフラワリングタイム達も、怪訝な反応をしていた。
「マヤノさんが勝ったのは嬉しいですが……やっぱり不自然ですね」
「うん……ブライアンちゃん…どうしちゃったんだろう……私、様子を見てくるね!」
「あっ、ローレルさん!?……ローレルさんなら大丈夫ですね」
ライジョウドウさんじゃないし。と脳内で注釈を入れる。
「私達もマヤノさんの所に行きませんか?」
「うんうん、それがマーベラスだね!」

・・・ʚïɞ

「マヤノさん、勝利おめでとうございます!」
「マーベラース!だね!」
「二人ともありがとう!……でもね、今日のレースはちっともワクワクしなかったんだ」
「やっぱりそうですか…」
マヤノトップガンはレースでの熱いデッドヒートを楽しみにしている。期待していたナリタブライアンが仕掛けてこなかったので興を削がれてしまったのだろう。
「だからリベンジするね!今度は本気でぶつかり合って、ドキドキワクワクなレースにする!」
「そうですね!次こそ最強のブライアンさんにぶつかって貰いましょう!」
「うんうん!それがマーベラスだね★」
「よーし、宣戦布告しちゃうぞー!」
と楽しげなマヤノトップガン。しかし、フラワリングタイムは気がかりだった。何故、ナリタブライアンは失速したのか。本気を出していない訳が無いだろう。レースでわざと手を抜けば、永久追放処分だ。となると考えられるのは。
「(本気を出しても、伸びていない可能性がある……?)」

「ブライアンちゃん!」
「ローレルか。今日はよく絡まれるな」
「今日のレースなんだけど……どうしちゃったの?」
「……答える義理は無い」
そう言って、立ち去ろうとする。
「待って!」
「………」
「怪我が……原因なんじゃない?復帰に時間がかかっているとか…それだったら私……」
「………大丈夫だ」
それだけ言って、もう聞く耳を持たなかった。その背中は、以前のように強く大きなものでは無かった。まるで風前の灯火を見ているかのような、儚い感情を浮かばせるものだ。
「ブライアンちゃん……」
……だからこそ。勝たなくちゃいけない。その火を再び灯すために。小さくなる背中を見つめながら、拳を固く握った。失った力はもう戻って来ない。けれど、闘志を失わなければウマ娘はまた走れる。精一杯、彼女に見せ付けてやろう。満開の桜を。
最強の私(サクラローレル)を。


第5話:芽吹く乙女達

+ ...
有馬記念も終わり、年末年始。フラワリングタイムは、トレーニング復帰への軽い肉体チェックも兼ねて、実家の神社近くのランニングコースを走っていた。浦和トレセンの生徒達もよくここを使うので、時々地元っぽいジャージの人とすれ違う。ダブルティアラのウマ娘なだけあって有名人で、キャーキャー言われてサインをせがまれたりした。彼女らの対応をしつつランニングを続けていると、見知った顔を見かけた。
「フラりーん!」
「トレーナーさん!?いらっしゃったんですか?」
「電車で1時間くらいだからね。愛する担当の為ならそれくらいチョチョイのチョイ」
「年始ですし、休んでても良かったんですよ……?」
「まあまあ、フラりんといる方が実家より休めるのよ〜」
「……何かあるんですか……?」
トレーナーのおちゃらけていた顔がちょっと硬くなる。
「家族の早く旦那連れて来いコールがね……あはあはあは……」
「お察しします……」
せっかく来てもらったので、トレーナーと共に初詣へ向かう。二人で御籤を引いてから、今年度のお願いをしに行く。
「(フラりんが元気でいられますように……!)」
「(トレーナーさんが元気でいられますように……!)」
レースに関しての頼み事はしない。夢や目標は自分で掴むものだから。とはいえ、それを手にする為に身体は大事にしておかないといけない。この二人は、お互いの安全を祈っているようだけども。
「フラりんは何を願ったの?」
「トレーナーさんの健康です!」
「えっ!?…私はフラりんの健康を願ったよ!」
「あはは……お揃いですね!」
「うん、おそろいだね!」
くすくすと笑い合いながら、二人で神社の階段を降りていく。先生と生徒くらい、二人には歳の差はあるけれど、二人は大切な親友のような間柄になっていた。
「良かったら、実家に寄って行きませんか?ここから近いので!」
「本当?お邪魔させてもらおうかな。親御さんにも挨拶しておきたいし」
彼女のススメで、フラワリングタイムの実家に。そこは大きな花屋。門から先に緑が一面に広がっていて、あちこちに花が綺麗に咲いている。その真ん中にポツンと(……いや結構豪邸だけど)建っているのが、フラワリングタイムのお店兼お家だ。昼間は門が開放されているので、客人は自由に花を見て回れる。すごい。
「お母さん、ただいま!」
「おかえりなさい。……あら、トレーナーさん?」
「うん、お世話になってるトレーナーさんだよ。トレーナーさん、どうぞ入ってください!」
「お邪魔します……あっ、フラりんのお母様!いつも彼女にお世話になっております早田と申します」
家族だとタメ口なんだ……と驚きつつ挨拶を済ませる。彼女の母も、フラりんに似て、優しい雰囲気に包まれていた。
「いえいえ、こちらこそ娘が世話になっています。お陰様でGIを三つも…なんとお礼を申して良いか……」
「いやいや。頑張ったのは私ではなく彼女ですよ。思いっきり褒めてあげてください」
「…そうね……トレーナーさんも、あなたも、本当によく頑張ってるわ。えらいえらい」
「えへへぇ……」
優しい家庭に育ったからこその性格なんだなあと感心しつつ、ちょっと可愛いのでニヤニヤ顔でフラりんの方を見てしまう。
「トレーナーさん、良ければ上がっていってください。お正月料理くらいでしたらお出しできますから」
「い、いえ!そこまでは」
ぐうううううう。と腹の音が正直に返事した。せっかくなのでお邪魔させてもらい、美味しいおせちと埼玉風のお雑煮をパクパクさせて貰う。
お腹いっぱいになった所で、少々大人な話題を母から投げかけられた。
「この様な事はトレーナーさんにしか聞けませんので、不躾ですが、貴女にお尋ねします。あの子は、レースを楽しんでいますでしょうか?」
「楽しむ……ですか」
「はい。あの子は飛び級でトレセン学園に上がりました。ですから、周りについて行くので手一杯な気がするのです。もし、勉強や友人関係に悩んでいて、レースを楽しめていないのなら…私はあの子に酷い事をしたのでは無いかと…」
「お母さん……その点は心配いりませんよ。楽しくないものに、ここまでのめり込める子なんていません」
「……!」
「走るのが大好きで、かけっこが大得意だからトレセンに来た。彼女はそう言っていました。もし走るのが嫌いで、楽しくないのなら、厳しいトレーニングに耐えられなくなってしまうはずです」
「確かに……」
「はい!それに、彼女は要領の良い子です。勉強について行く、どころか自分が逆に年上の子を支えていますよ!…私が保証します。彼女は学園生活も、レースも、問題なく楽しんでいます!だから大丈夫です。お母さんの選択は間違っていませんよ」
「……良かった……あの子は本格化するのが早くて……私も焦燥して送り出してしまったものですから」
ほっと胸を撫で下ろす母親。優しくて心配性な所まで、本当にそっくりなんだなぁと思いつつ、皿洗いに従事する彼女の方をちらと見つめた。
「……あの子のこと、これからもよろしくお願いします」
「任せてください!」
これからも、沢山の花束を。家族にそう誓って、二人は地元を離れるのだった。

楽しい正月もゆっくり幕を下ろし、冬のトレーニングが始まった。トレーニングに復帰したフラワリングタイムは、調子を落とすどころか、すっかり好調。これなら春シーズンから乗り込んでいけると確信した。
菊花賞での2着、レコードで制覇したマヤノトップガンに食らいついたという実績を考慮し、春シーズンの目標を天皇賞・春に定めることにした。そのため、最初の狙いはステップレースの阪神大賞典(GII)。ここにはナリタブライアン、マヤノトップガンも参戦するため、早速リベンジのチャンスという事になる。
「いきなり最強の敵……って感じですよね」
「そうだね。特にマヤノトップガンちゃんは絶好調。間違いなく厳しい勝負になるね」
前年度の成績を元に、マヤノトップガンは年度代表ウマ娘になった。表彰式には皆でお祝いに行った。ちなみに、フラワリングタイムも最優秀ティアラウマ娘として表彰されている。
彼女の勢いは留まる所を知らず、次も間違いなく勝つだろうと、新聞などに大々的に書かれていた。まさに今は、マヤノトップガンの時代といっても過言では無いだろう。
「次のレースも、マヤノトップガンちゃんを徹底的にマークしよう」
「はいっ!」
資料を読み、イメージトレーニングを反復し、ハードな練習を重ねていく。打倒、マヤノトップガン。彼女は天才だ。あらゆる脚質で変幻自在に立ち回り、相手を思うがままに撹乱する。まさにトップガンの名に相応しい機動力。加えて、レースの展開を読む天才的なセンス。正直、あまり比較したくはないが、自分の上位互換に近い存在だろう。故に、真正面からぶつかってもスペックの差で潰されるだけ。
「(何か……搦手が使えれば良いんですが……)」
搦手と言っても、小手先の戦法など使っても効かないだろう。なるべくは自分の得意なスタイルで。であれば、アレが良いだろうか。
「(…やってみる価値はありますね!)」


厳しい寒さも終わりを告げ、再び暖かな春がやってきた。まず春に驚きのニュースを届けたのは、サクラローレル。休養から復帰し、初戦を9番人気ながらに圧勝。天皇賞・春へ進むと陣営が発表。マヤノトップガンらとの対決が期待された。
当然、次に期待されるのは、マヤノトップガンとナリタブライアン、フラワリングタイムの三つ巴の阪神大賞典。
阪神レース場、芝3000m右回り。重賞の中でもトップクラスの距離を誇るこのレースでさえ、天皇賞・春からは1ハロンも短い。ここを好走出来なければ、本番を勝つなど難しいだろう。まさにステップレースのお手本のような登竜門。
天気は晴れ、良バ場。一番人気はもちろんマヤノトップガン。続く二番人気にナリタブライアン。僅差の三番人気にフラワリングタイムが推されていた。この人気ぶりからも、ナリタブライアンは復活を根強く望まれていることが見て取れる。三冠ウマ娘とは、それだけ人々を湧かせる存在だ。
「ブライアン先輩」
「……タイム」
「私も……待っています。最強の花束になる為に、最強の貴方を超えます」
「……お前もか」
「……はい。貴方に伝えたい事は、私の周りの皆さんが、溢れるほどに伝えて下さっています。だから…私は本気でぶつかるだけです」
体操着姿だと言うのに、まるでGIのような熱い闘志。フラワリングタイムが、このレースに本気で臨んでいることは見て取れた。
「………」
「お先に失礼します!」
一人立ち尽くすナリタブライアン。前を行く彼女の熱気に当てられてか。或いはマヤノトップガンの挑発に当てられてか。或いはサクラローレルの……いや。或いは、そのどれもが違うかもしれない。だが、自分の内側に、微かに炎が宿るのを感じていた。何かが唸るのを感じていた。
「…行くか」
ただ、静かに芝に降りた。

『本日のメインレースは、春の楯に続く王道路線!GII阪神大賞典!今年の有力候補が集まっています!』
現役最強、マヤノトップガン。
三冠の復活、ナリタブライアン。
華の歌姫、フラワリングタイム。
それぞれの紹介が終わり、ゲートインが始まっていく。フラワリングタイムは落ち着いた様子で、静かにゲートに収まっていく。
────ガコンッ!
『春の楯を目指して、ウマ娘達がスタートしました!』
各自揃った綺麗なスタート。メンバーもGI級なだけあり、誰もが落ち着いてレースを進めている。マヤノトップガンが取った作戦は、先行策。他のウマ娘に前を行かせ、自分は四番手に控えた。ナリタブライアンがそれに続く。
「(ブライアンさんはマヤの後ろ……フラりんは……)」
横目に周囲を見回すが、彼女の姿は見当たらない。その事を不思議に思いながら走る。菊花賞で既に、マヤノトップガンはフラワリングタイムの性質を理解していた。彼女はマーク屋。一番強い相手をマークし、相手の性質を見定め、ここ一番の所で切れ味を活かし、素早く抜き去る。故に今回も自分にマークしていると思ったのだが。
「(マヤを見てこないなら……それでも良いかな!)」
しかし、それは誤算だった。マヤノトップガンの見解は当たっていた。彼女は今回も、マヤノトップガンとナリタブライアンを徹底的にマークしている。ただ、今回の彼女の走りはひとつ違った。
「(…真後ろですよ。マヤノさん!)」
彼女が陣取ったのは、マヤノトップガンの真後ろ。ギリギリ視野が届かない位置に隠れ、不気味に陣取る。前を走るマヤノトップガンには、彼女の走りが分からない。
「いい調子だよ……フラりん!」
トレーナーが静かに呟く。手元のストップウォッチには、1000m通過のタイムが刻まれていた。通過タイムは1分3秒0。ややスローペースに持ち込まれていた。

「(……ちっ)」
ナリタブライアンは、燻っていた。燃える材料は揃っている。だが上手く火がつかない。それはまるで、折角付いた火種が薪に燃え移らないように。何かが。彼女の脚に、心に、深く刺さっていた。
「(……だが……それでも)」
奮い立たせねばならない。ふと、横を走るフラワリングタイムの姿が見えた。真っ直ぐに前を見ている瞳。勝ちを羨望する眼差し。そして。
「(………なに…!?)」
それに気が付いた。フラワリングタイムは、ただ真後ろに隠れているだけでは無い。猛烈なペースで回る脚のリズム。踏み込みのタイミング。それさえも、マヤノトップガンに合わせている。故に気付かない。ごく自然に、一輪の花のように、背景に溶け込んでいる。彼女から隠れる。ただその一点の為だけに。信じられない努力を重ねてきたのだろう。
「(……タイム…!)」
「(いずれ気付かれる……!それでも少しでも長く……!)」
マヤノトップガンを倒す。ただそれだけの為に、彼女はここまで努力を重ねて来た。なんという精神力だろう。なんという狂気だろう。並々ならぬ努力に、感服さえしてしまいそうだ。
「(その闘志を…喰らってみたい…!)」
当てられていく。熱い想いに。
当てられていく。強い意志に。
さあ、もう休み飽きただろう。
…出かけるぞ。狩りに。

ずしり。と。
一気に空気が重たくなった。その変化で、猛者達は気付いた。集団の中央にいる怪物。彼女がついに目覚めはじめたと。
「(……やっと……やっと来たね…ブライアンさん…!)」
マヤノトップガンは、恐怖と歓喜の表情を浮かべながら、エンジンを始動させる。本気のナリタブライアンとの、全身全霊のマッチレース。再び、トップガンが空を駆ける。第四コーナーを通り、最後の直線へと向かう。ここで抜け出したのが、マヤノトップガンだ。
「(今だ…!私も……っ…!?)」
瞬間、フラワリングタイムは僅かに気圧された。その理由は、言うまでもないだろう。フラワリングタイムのすぐ横。飢えた餓狼が鋭く牙を向いていたのだから。
「(戦いたい。勝ちたい。お前達のような強い相手と……!)」
大地を踏みしめ、怪物が飛び出す。影を切り裂き、突き進む。
ああ、喉が渇く。
渇望する。
もう、限界だ。
止められるものなら止めてみろ。
これが、三冠ウマ娘だ。
これが、ナリタブライアンだ。
《影をも喰らう怪物》

────ゴォッ!

突風が吹き抜けたかのようだった。解き放たれた怪物はあっという間に先頭集団をごぼう抜きし、マヤノトップガンのすぐ後ろまで辿り着いていた。続いて、1バ身差で後を追いかけるフラワリングタイム。そこから後ろは即座に大きく離され、もはや三人以外は着いて来れない程に距離が広がった。
「これ……本当にGIIか……?」
誰かが呟いた。無理もない。先頭を走る三人は、GI級の攻防を繰り広げていたのだから。先頭を突き進むマヤノトップガン。まるで閃光のように、先頭をただ突き進む。殆ど差が無くナリタブライアンが並び、すぐ後ろをフラワリングタイムが駆け抜ける。
「はああああああああああっ!!」
「おおおおおおおおおおおっ!!」
「っ……はぁぁぁぁぁぁっ!!!」
届かない。マヤノトップガンを完璧にマークし、末脚を残して前に迫ることが出来た。けれども、まだ。怪物と戦闘機は、遥か彼方へと飛んでいく。
「ファイナルアプローチ!!!」
「逃がすかァァァァァッ!!」
「っあああああああああああッ!」
『ゴオオオール!!ナリタブライアンとマヤノトップガン!殆ど同時に突っ込みました!これは写真判定でしょう!』
先頭は、ほとんど同時にゴール。半バ身ほど遅れて、3着にフラワリングタイムが入り込んだ。疲れ果ててターフに転がってみれば、悔しい気持ちでいっぱいだ。全力で挑んでもなお、二人には届かなかった。判定の結果、ナリタブライアンが僅かに勝利。復活を飾ったのだった。
「すごいぞ!ナリタブライアン!」
「マヤノトップガン最高!」
「完全復活だ!」
「フラリンもよくやったぞー!」
「おめでとう!ブライアーン!」
観客席からは、歓喜の声がこれでもかと溢れてくる。息を整えながら、フラワリングタイムは勝者のナリタブライアンの元へ歩いていく。
「おめでとうございます。完全復活…ですね!」
「ああ。……おかげさまでな」
「え?私ですか…?」
「正確にはお前達、だな」
そう言われて、マヤノトップガンは嬉しそうに、にへらと笑う。
「えへへ〜。ブライアンさん。約束通り、マヤに本気で向かってきてくれてありがとう!やっぱり、強い人達と走るとワクワクするー!」
「次も楽しみにしていろ。必ず私が喰らいつくしてやる」
「望むとこだよ!ね、フラりん!」
「ですね!受けてたちましょう!」
祝福の音色を浴びながら、ナリタブライアンは一人、厳かに観客席に歩いていく。向かった先にいたのはとあるウマ娘、もう一人のお前達。僅かに微笑む彼女に、ナリタブライアンはそっと何かを伝えた。それを聞いて、笑顔の桜が満開になった。
「…お前の時代にはさせんぞ」
そう言って去る彼女の背は、随分と満足気だった。


第6話:春の感謝祭

+ ...
「あーん、また負けましたー!」
「うんうん、辛かったねぇ」
こちらはレース明けのフラワリングタイム。悔しい時は子供らしく、トレーナーに思いっきり泣き付く癖を覚えた様子。マヤノトップガンへのマーク作戦は完遂したが、地力の差で負けてしまい3着。天皇賞・春はかなり厳しい戦いになるだろう。とはいえ、2着と付いた差は半バ身。あと1ハロンの延長があれば、本番では二人に届くかもしれない。
「でも、届かない走りじゃなかった!次こそ勝てるよ!」
「はい……」
彼女にしては珍しく、自信なさげな返事。無理もない。事前の情報収集はもちろん、集団内での立ち位置の練習、先行策でのペース配分の練習に、マークしたマヤノトップガンの模倣。やれることを全てこなし、その上で叩き潰されたのだから。
「……大丈夫。確かに作戦は通じなかったけど…それは相性が悪かったからだよ」
「相性……ですか?」
「うん。マークしたマヤノトップガンちゃんは、自由奔放な走りで安定した成績を出せるから、マークしてペースを乱してもすぐ適応して来る」
そのレースセンスは天才のそれだ。自分自身のことをなによりも理解していると言って良い。菊花賞レコードも、その柔軟性を持つが故に叩き出せた記録だろう。
「だから、フラりんがマークしていても殆ど動揺しなかった。どんな相手でも、どんな展開でも、構わず自分の完璧なパフォーマンスをすれば良いだけの話だからね」
「確かに…それじゃあマヤノさんを徹底マークしても効果が薄いですね」
「うん。そういう事になるね。でも、君の作戦は悪くなかった。完璧な模倣は必ず相手の心に隙を生む。そこで……狙い目を変えよう」
そこで提案。マヤノトップガンに徹底的なマークは効果が薄い。では徹底的にマークした時に大きな効果を得られるのは誰だろうか。…いるではないか。彼女の闘争心に駆られ、飢えて涎を滴らせる獣が。
「……ブライアンさん!」
「そう!今度はナリタブライアンちゃんを全力でマークするよ!という訳で……」
ドン!と置かれたのは研究用の資料達。ナリタブライアンの大量の資料集。デビューから先日のレースまでとことん用意されている。
「……本番までに彼女の走りを覚えてね!」
「……………マジですか」
「マジ」
「………本当に?」
「本当」
マヤノトップガンの模倣だって、血の滲むような鬼の努力で手に入れた賜物だ。目標の天皇賞・春は1ヶ月後。それまでにあの怪物の走りを覚えないといけない。だが勝つ為だ。とことんやってやる。
「…ちゃんと出来たらご褒美にスイーツを頂いても良いですか!?」
「良いよ!好きなだけ食べさせてあげよう!さあ頑張れ!」
「はいっ!うおおおおおおお!!」
山のような資料にかじりつく彼女を尻目に微笑みながら、トレーナーは窓の外に目をやった。そこを走っているのは、先日ついに戦線復帰したサクラローレル。
「(彼女も要注意…だね)」
彼女もまた、侮れない逸材だ。友達の復帰レースということでフラワリングタイムに誘われて、見学に行ったが、信じられない光景だった。

『内からマムホワイト仕掛けた!皐月賞ウマ娘の意地を見せるか!』
そこに居たのは、皐月賞ウマ娘のマムホワイト。最内を誰よりも早く突き抜けて、そのままゴール板へと向かっていく。
「頑張れ!ローレルさん!」
『さあマムホワイト先頭!外からサクラローレル!伸びてきた!サクラローレルだ!』
しかし、それを咎めるウマ娘が一人いた。大外から一気に突き抜けていくサクラローレル。1年1ヶ月のブランクとは思えない、圧倒的な速度。
『二人並んだ!マムホワイト!サクラローレル!マムホワイト!サクラローレル!最後に咲くのはどちらだー!』
「はあああああああっ!!」
最後は皐月賞ウマ娘、マムホワイトを交わして一気に先頭へ。彼女に1と3/4バ身差で勝利し、見事に重賞を制覇して見せた。
「凄い……!」
「凄かったね……」
これはGIに届きうる逸材かもしれない。そこにいる誰もがそう思った。いや、確信した。マムホワイトとて油断した訳では無い。完璧な走りで勝ちパターンを掴んでいたのだ。それをも交わせる者など。GI級と呼ぶより他に無いだろう。
「(絶好調……かな!見ていてくれたよね、フラりん!)」
「(それと……)」
歓喜に包まれ、サクラローレルは大きく手を振った。ファンの皆に応えるように。友達に見えるように。
ナリタブライアンに、届くように。

4月。数多の猛者が名を連ねる天皇賞・春は注目を集め、多くの記事が出回った。一番人気は当然ナリタブライアン。続く二番人気にマヤノトップガン。三番人気がサクラローレルとなり、フラワリングタイムは僅かに下の四番人気になった。ここまでは誰が勝ってもおかしくない『四強』のような状態となり、勝者予想は割れに割れた。そんな大盛り上がりの真っ只中、期待を煽るかのように、春のファン感謝祭が行われた。

「いらっしゃいませ!中央トレセン喫茶、フラワーガーデンにようこそ!」
フラワリングタイムが担当しているのは、所謂メイド喫茶。開店と同時に予約していた客達が整列して店内に入ってくる。ダブルティアラのウマ娘のクラスなだけあって、入店用チケットの抽選倍率は凄まじく、激戦を潜り抜けた客人達の振舞いはとても上品だ。いや、中には庶民もいるだろう。だが、場所の雰囲気に飲まれて自ずとお淑やかに振舞っている者もいる。
それもそのはず、メイド喫茶と言ってもミニスカメイドでは無い。格式高いクラシック式メイド喫茶。ロングスカートで慎ましやかに歩くメイド達と、学園の花壇を借りて造られた花園。まさにお嬢様気分にさせられる喫茶店。それが、このクラスの出し物、フラワーガーデンだ。
「こちらはメニューになります。お決まりになりましたら、お手元のベルを鳴らしてお申し付けください」
てきぱき動くクラシカルメイド達。雰囲気は貴族風でありながら、メニューの値段はリーズナブル。フラワリングタイムの実家から取り寄せるという荒業で、珍しい風味の食材を手軽に用意出来る。
「(……というか、フラりんにそこまで出させて良いのかな?)」
「(お店の宣伝になるから良いらしいよ。損して得取れって言ってた)」
なんて会話を、調理担当のウマ娘達が交わしていた。メニューは店名の通り、バタフライピーや、マロウブルー等の花に纏わる商品がずらりと並んでいる。
「いらっしゃいませ。…マックイーンさん」
「こんにちは。フラリンさん。美味しいお茶を頂けるとお聞きしまして」
最初の担当は、スイーツ大好きお嬢様、メジロマックイーン。抽選を潜り抜けて、お客様として招待されたらしい。その時の喜びようは言葉にできない程だったとか。
「はい。お眼鏡にかなうと思います」
「自信ありげのようですわね。それでは……こちらの、ローズヒップハイビスカスと蜂蜜のパウンドケーキを頂けますかしら」
「かしこまりました。ご主人様」
ちんまいクラシカルメイドがせかせか歩いていく。背丈の低さに少々キュートな雰囲気を感じてしまうが、それでも立派なメイド長。彼女が目当てで来た客人達の視線を、しっかりと集めていた。
「……やっぱりフラりんだよね…!」
「わかる…健気で真面目で優しくて…春天こそ絶対勝って欲しい…!」
「マジそれな……!」
近くのファンの声が、マックイーンの耳に入ってくる。ファン達に集められる期待。その期待に応え続ける重圧。彼女が背負うにはあまりにも大きく見える。だが、彼女にはそれを背負うだけの自信がある。頂点に立つ為に挑み続ける勇気がある。しゃんと伸びた背筋から、それをありありと感じ取った。
「(……誰かさんにそっくりですわね)」
クスリと微笑む。5分もしないうちに、フラワリングタイムがお茶を運んできた。開店と同時に仄かに香ってきた甘い香りが店内に充満し、メジロマックイーンの胃袋をいたずらにくすぐった。
「お待たせ致しました。ローズヒップハイビスカスとはちみつパウンドケーキになります」
「ありがとうございます。いただきます」
ぱくりとひとくち。ふんわりとしたパウンドケーキの独特な甘味が口いっぱいに広がる。材料の違いだろうか。不思議な味だが、絶品だ。舌鼓を打ちながら、静かにお茶を飲む。
「(これは…!)」
先程の独特の味わいが、お茶に流される事によって変化する。ほんのりと残留している甘味が、紅茶のスッキリした味と酸味によって見事にハーモニーを奏でている。メリハリの効いた味は、まさに一流店舗のそれのようだった。
「……とても美味しいですわ!」
「それは良かったです。心ゆくまで、お楽しみくださいませ」
スカートの裾をつまんで、丁寧にお辞儀。次のお客様の元へと向かう姿も、自信に満ち溢れていた。強さと気品。ティアラ路線のファンから求められる需要に、完璧な形で応えている。
そして気が付いた。フラワーガーデンとは、花壇を借りた花園を模したカフェの名前では無い。フラワリングタイムという花園。その気品と美しさに、ファン達をも取り込んでしまう場所を、そう名付けたのだ。
なんと傲慢で。
なんと美しく。
なんと恐ろしい。
メジロマックイーンはそう思いながら、本日5杯目のお茶のおかわりをするのだった。

ライジョウドウは学園内を走っていた。ぴょこぴょこ跳ねる白い毛が兎のようで愛らしい。自分がなんで走っているかは、忘れてしまった。
「ん?」
前に誰かいたので、とりあえずブレーキ。そこに立っていたのは、黒のツインテールに、しいたけみたいな目が特徴的なウマ娘。
「マーベラス…」
「どうしたの?」
「こんなのマーベラスじゃないよ……」
「……まーべらす?」
訳を聞いてみれば、ファン感謝祭に来てみて、同期がファンに囲まれている中、自分はまだ勝ち切れていなくてファンがおらず、マーベラスでは無くなってしまったとのこと。
「んー……そっか」
「あはは!マーベラスじゃない話しちゃってごめんね★」
「良いよー。……あ、そうだ。ちょっと来て」
「マーベラス?」
ʚïɞ・・・
彼女が連れて来たのは、ファン感謝祭で行われている競技の一つ。闘魂バレーボール大会。そこには、フラワリングタイムの同期でライバルのザヴィクトリアが出場していた。
「さあ皆さま!行きますわよ!」
どっせえええい、というかけ声と共に、サーブをぶち込む。超人的なサーブを相手チームがなんとかいなすと、返しのスマッシュが撃ち込まれる。
「バラカさん!」
「僕ですか!?ふっ!」
ポーンと華麗に打ち上げる。それをチームメイトの芦毛お嬢様がトスすると、強靭な脚力を活かして空高く舞い上がる。
「ナイストスですわ!っらあああああああっ!!!」
天空からボールをたたき落とし、相手チームのコートに直撃させる。それと同時にボールが弾け飛ぶが、地面に付いていたので問題無し。それと同時に、彼女のファンが湧き上がって拍手する。
「ワォ!マーベラスだね★」
「うん。…彼女も負け続けてたんだって」
「マーベラス?」
フラワリングタイムからよく聞かされていた。彼女はエリザベス女王杯も振るわず、それから随分勝利から遠ざかっていた。それでも諦めずに鬼のような努力を重ね、ついに春先に重賞を掴んだという。
「……どんなに苦境でも、頑張ってれば必ず君にもファンは付くよ」
「マーベラス……!」
「君もまーべらすに、なれる」
「……うん!よーし!マーベラスになっちゃうよ★」
曇っていた顔も晴れ、いつもの彼女を取り戻していた。笑顔になってくれて良かった。ライジョウドウは嬉しそうに微笑んだ。美しい春の空にマーベラスが芽吹き始めていた。


第7話:天皇賞・春

+ ...
感謝祭も終わり、ついに天皇賞春の日になった。歴代でもトップクラスのメンバーが集ったレースには数多の観客が押し寄せ、満員での開催になった。フラワリングタイムは変わらず四番人気を背負い、勝負服に袖を通した。
「帯よし、衿よし、スカートよし、ネックレスよし、靴よし…完璧だね!」
「はいっ!今日の作戦はブライアンさんのマークで大丈夫ですか?」
「そうだね。……それと、フラりんも警戒してるかもしれないけど……」
「ローレルさん……ですね」
「そう。余裕があれば、彼女にも気を配って欲しい」
「……頑張ります!」
それが難しいことはトレーナーも分かっている。相手を熱心に観察して模倣し、情報を頭に叩き込み、その上で彼女のレースセンスを存分に引き出して初めて完成する神業だ。それを行いながら他に気を配れば、どちらかが欠けるだろう。
「期待してるね!満開の君の走りを見せて…春の楯も花束に加えよう!」
「はいっ!……行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
地下バ道を歩いていく。自分が最後なのか、道には誰もいない。真っ直ぐに進んでいく。やがて光が差し込むターフへの入口付近に、一人のウマ娘が見えた。
「フラりん」
「ローレルさん。ついに来ましたね」
「うん。…ついに来たよ」
花園の前に立つのは、ついに咲き誇った満開の桜。三番人気、サクラローレル。勝負服に身を包み、究極に仕上がったその風貌は、まさに圧巻の一言。
「今日は勝利宣言に来たんだ。フラりん。春の楯は私が貰うよ」
「いいえ、譲りませんよ。春の楯は私が貰います」
歩みを進めていく。やがて、真紅の瞳が、桜色の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「「咲くのは、私だ」」
満開の春が、幕を開ける。

『さあ役者が揃いました!最長距離GI、天皇賞・春!数多の歴戦を潜り抜けて来た猛者達の戦いが今!』
────ガコン!
スタートが切られる。勢い良く飛び出したジャンボタカラとヒノキロッテが一気に先頭へ向かっていく。二人の作戦は大逃げ。自分のペースに持ち込み、後ろを撹乱する作戦だ。
「(普通に競り合ったら勝てない…!)」
「(勝つなら……この形!)」
先頭二人から、大きく離れた前から四番手。先行集団にマヤノトップガンが付き、すぐ後ろにナリタブライアン。その後ろに付いたのが、フラワリングタイムとサクラローレル。
「(作戦通り……!)」
フラワリングタイムは、作戦通りナリタブライアンの真後ろに。サクラローレルは、ナリタブライアンを見るように斜め後ろに付いている。隠れるようなフラワリングタイムとは対照的に、見せ付けるように徹底的なマークを付けている。
「(ブライアンちゃん…!)」
挑発のつもりだろう。ナリタブライアンが無視するのは容易い。だが違う。それでは満たされない。最強のライバルを、最高の形で喰らう。それでこそ怪物は満たされる。故に。
「(良いだろう。……受けて立つ)」
怪物はサクラローレル"を"見た。誰もが目を奪われる満開の桜に。散らしてやろうと牙を立てる。
「(…どうしよう)」
マヤノトップガンは焦っていた。今までのレースは、自分が完璧に主導権を握っていた。自分のペースに持ち込めば、それで勝てる。だが今回は違う。ペースを握っているのは前の二人。後ろには強豪の三人が控えている。もし、仕掛けどころを間違えれば、一瞬で追い抜かれる。
「(どうしよう……どうしよう…トレーナーちゃん…!)」
『大人のレディはピンチの時こそ冷静に動くんだよ』
「(ピンチの時こそ……冷静に!)」
トレーナーの言葉を思い出し、即座に冷静に周囲を見回した。前の二人は飛ばしすぎだ。焦る必要は無い。あの二人は、そのうち疲れて遅くなる。今はペースを緩めて、自分の力を最大限に活用する。
「ふぅ……っ…!」
「(マヤノさんの動きが変わった…!)」
向正面。前二人をそのままに、後ろは流れるようなスローペース。大逃げにマヤノトップガンが着いていかなければ、彼女をマークしている後ろの面々もつられて遅くなる。スタミナ配分が最重要な長距離。後ろの撹乱ができず、いたずらに体力を削る作戦の大逃げはむしろ仇になってしまった。
「「(着いてこない!?)」」
大失態。スタミナを温存するべく失速するが、既に目の前には魔物が佇んでいた。京都名物、第三コーナーの淀の坂だ。内回りよりも更に高低差が広がるここは、ウマ娘達の脚に強烈な負担をかける。
「(前の二人は追い抜ける……後は後ろに気を付けて行くよ…!)」
第三コーナーの定石は、ゆっくり登って、勢いを付けて降りること。マヤノトップガン達もペースを上げることなく登り、最後のラストスパートに備える。
────どくん。
大気が震える。近くのウマ娘達が緊張する。淀の魔物を喰い荒らし、最強の怪物が姿を現す。マヤノトップガンのその後ろ。ついに怪物が動き始めた。
「行くぞ……」
「「「(来た……!)」」」
四人が動き始める。先ず、先頭を突き進むマヤノトップガン。外に回ったサクラローレル。内側から猛追するナリタブライアン。そして、最内に切り替えるフラワリングタイム。やはりこの四人だ。最終直線に突入し、ファンの盛り上がりも最高潮を迎える。
『先頭はマヤノトップガン!そしてナリタブライアン!内からフラワリングタイム!サクラローレルも迫っているぞ!』
「はああああああああっ!!」
「おおおおおおおおッ!!!」
最長距離の負担が、ウマ娘達に重くのしかかる。最後の振り落としにかかる。ここから先は、最強でなければ着いてこられない。
「(っ…あと…ちょっとなのにッ…!)」
大逃げが予想以上に響いたか。マヤノトップガンが失速し、ナリタブライアンが先頭へ迫っていく。そのまま抜き去ると、先頭でゴールへ突き進んでいく。
『来たぞ!ナリタブライアンだ!ナリタブライアン先頭!マヤノトップガンは苦しいか!サクラローレルは懸命に三番手!』
「(まだ脚は使える。開け。届け。満開の私……!)」
最内を突くフラワリングタイムも恐ろしいほどの加速を見せていた。鬼気迫る表情で、前を見つめる。渡さない。勝つのは私だ。
満開の花が咲き誇る。多種多様の美しい花達が、彼女の道を彩る。これは今まで咲かせてきた笑顔の花達。自分の走りが、笑顔を咲かせる。だから勝ちたい。皆に笑顔を。応援してくれるすべての人に勇気を。
《春一文字》

────ゴオッ!
と、突風が吹き抜けるのを聞いた。フラワリングタイムは一本の矢のように加速し、ナリタブライアンの横にまで並ぶ。
「フラりん!」
「頑張れー!」
「あと少しだー!!」
トレーナーはもちろん、観客も大盛り上がり。数多の応援を受けながら歌姫は進んでいく。怪物は横を走る猛者を見て、僅かに口角を上げた。
「(来たか……来い…!フラワリングタイム!そして……!)」
「行くぞ!ナリタブライアン!」
待ち焦がれた。待ち焦がれすぎてしまった。けれど、焦らない。私はきっと咲ける。信じて、努めて、信じて、努め続けてきた。こうして、今の私がある。私は応えたい。支え続けてくれた皆に。応援してくれるファンの皆に。私という花を咲かせて喜んで欲しい。そして────
「これが……サクラローレルだああああああああああ!!!!」
《スター・ブロッサム》
大外。フラワリングタイムが信じられない加速を見せた横で、サクラローレルが更に速度を上げて加速していく。彼女もナリタブライアンに並びかけ、先頭を目指して突き進んでいく。
「はあああああああああああっ!!」
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
「やあああああああああああっ!!」
ラスト200m。三人並んで横一列。互いに譲らないが、サクラローレルが徐々に抜け出しはじめていた。最内を突いたフラワリングタイムも抜けて追い縋るが、追い付けない。なんという綺麗な桜だろう。
だが、それでも。
「(行かせない……!咲くのは私だ!)」
「(譲らない!咲くのは私だ!)」
「「はああああああああああああっ!!!」」
観客は思わず息を飲んだ。なんと可憐で、激しく、優雅で、力強く、貪欲で、見事な戦いだろう。満開の桜が花吹雪を巻き起こす。地上の花園が、負けじと花を咲き誇らせ、会場全体を包み込んでいるかのようだった。
大地を踏む音が、猛々しく唸る。蹴り上げる脚が、逞しく風を切る。遠くからでも感じる芝の匂い。煮え滾るような熱い熱気に、観客は心の底から叫びを上げた。渾身の応援を、自分の大好きな花に向けて。
「行けーっ!フラりーんっ!」
「っああああああああああ!!!」
『さあ最後はこの二人!今こそ花開け!来た!来た!……ゴオオオォォォォル!!!』
決まった。完璧に。先頭を駆け抜けたのは、サクラローレル。半バ身ほど遅れてフラワリングタイム。そこから1バ身後ろに、ナリタブライアンが入り込んでゴールした。春の楯を手に入れたのは、ついに花開いた満開の桜。
「勝った……私が……っ!」
滝のような汗を流し、乱れすぎた呼吸を整え、サクラローレルはようやっと勝利を噛み締めた。手足に力が戻る頃には、思わず腕を上げて喜んでいた。
「勝ちましたぁぁぁぁっ!!!」
瞬間、ワッと盛り上がる大歓声。一年のブランクから復活した勇者。彼女の活躍に勇気づけられた者も多いだろう。それだけに、かけられた期待も大きかった。彼女は、見事に期待に応え、復活し勝利して見せた。
「……おめでとうございます」
「フラりん…ありがとう!」
「今回は貴女に咲かれてしまいましたけど……次は負けませんから!」
「うん!私も、次も負けるつもりは無いよ!」
グッと手を取り、握手。新しいライバルの登場に、観客は思わず拍手で迎える。
「期待しています!…ブライアンさん!」
「………なんだ」
こっそり去ろうとしてたのに…とバツが悪そうに戻ってくる。フラワリングタイムは、彼女を呼ぶなり含み笑いを浮かべながら、こう伝えた。
「ローレルさん、きっと貴方に伝えたい事があるんじゃないかなーと思いまして!」
「…そうだね。伝えたいこと、いっぱいあるよ!」
「……なんだ」
「ブライアンちゃん。私ね……」
サクラローレルは思いの丈をぶつけた。
ナリタブライアンを超えたかった事。
全力でぶつかれて嬉しかった事。
そして、最後にこう宣言した。
「これからは、私が時代を背負うよ。それが嫌なら……追いかけてきて!」
ナリタブライアンをも超える、夢にまで見たサクラローレルの時代。最強という王座に君臨する者の、新たな時代の宣誓だった。
「……ああ」
「もちろんです!」
頷く二人。しかし、不満そうな声が横から飛んできた。
「ぶー!ぶーぶー!」
「あっ、マヤちゃん!」
「マヤ抜きでそんな面白そうな話をするなんてずるい!マヤだって、時代欲しいもん!」
「……そうだね!マヤちゃんも私の大切なライバル。受けて立つよ!ユー・コピー?」
「アイ・コピー!よーし!次は負けないよー!」
時代を彩っていく優駿達。彼女達の熱い戦いは、後の時代にも語り継がれて行くだろう。誰もが力を振り絞り、最強という栄光を目指して突き進んだ。満開の花が咲き誇った春の天皇賞を、人々は最高の春として心に強く刻み付けるのだった。


第8話:次を担う者

+ ...
花は、いずれ散り逝く。どんなに栄華を極めた華でも、やがては枯れて散ってしまう。
空を往くパイロットはそれを落日に例えた。
満開の桜はそれを悔しさで例えた。
花園はそれに涙を流した。
その悲劇が起きたのは、春も終わりを迎えるであろう5月。中京レース場で行われたGI、高松宮記念。会場は大歓声に包まれていた。春の開花ラッシュに示し合わせるかのように短距離路線でも花が開花。フラワリングタイムの同期でクラスメイトのカラフルフラワーが勝利した。見学に来ていたマヤノトップガンらと共に、同期のGI制覇を祝福した。しかし、問題はその後だった。
4着に入っていたのは、なんとあのナリタブライアン。陣営は驚きの距離短縮を行い、電撃参戦。距離の壁に負けず掲示板に粘りこんだナリタブライアンの健闘を讃えた。ところがその後。
『ナリタブライアン、屈腱炎により引退』
新聞の一面を飾る文字。衝撃的なニュースが流れ、世間を騒がせた。伝説の三冠ウマ娘が屈腱炎により引退した。無理な距離変更が祟ったのではないか?という風潮が強まり、抗議や苦情の手紙がトレセン学園に大量に送られた。誹謗中傷の嵐を向けられたのは、ナリタブライアンの担当トレーナー。当陣営も、相応にショックを受けていた。
「こうなっちゃったか……」
「ブライアンさん……大丈夫でしょうか……」
「大丈夫……では無いだろうね。とは言ったものの、私達にはどうしようも出来ない」
気持ちを切り替えてトレーニングに移ろう、となるものでもない。ナリタブライアンは、天皇賞まで何度も模倣してきた相手。それだけに、思い入れも強かった。
「過去は変えられない。ナリタブライアンがいなくなってしまった分も、君達が盛り上げるんだ」
「……はい」
ファンは活躍を望んでいる。ならば挫けている暇は無い。ナリタブライアンを失った喪失感に包まれながらも、フラワリングタイムはなんとかトレーニングを続けて行った。
けれども、彼女の調子は戻らない。距離短縮への挑戦の意味を込めてチャレンジした安田記念では6着。続いて、ファン投票で票を集め、参加した宝塚記念でも3着。決して悪い数字では無いが、クラシック期の気高い走りは失われてしまっていた。
「……ごめんなさい。また負けてしまいました」
「大丈夫。掲示板に入ったのなら立派だよ。えらいえらい」
くしゃくしゃと頭を撫でられる。それでも、申し訳無かった。期待に応えられない自分が。少しずつ小さくなる、ファンの歓声が。期待が小さくなっていくのを感じる。
「今年の夏で強くなろう。君はまだ返り咲ける」
「…はいっ!」
空元気で答えた返事に、自信が持てなかった。本当に情けなかった。これからも走り続けようと誓い合ったライバルが消えてしまっただけで、こんなに落ち込むなんて。着替えに向かった彼女の小さな背中を見つめながら、トレーナーは呟いた。
「私がなんとかしないと…だね」

夏合宿。分かってはいたが、やはりタイムが伸びてこない。肉体は健康そのものなので、やはり気持ちが身体に着いて来れないようだ。そこでトレーナーは少し提案をすることにした。
「フラりん、今日は早めに切り上げて友達と話して来て欲しい」
「友達と……ですか?」
「うん。ローレルちゃんとか、マヤノちゃんとか!彼女達の意見を聞いてきて欲しいな」
「……!わかりました!」
賢い彼女の事だ。意図はすぐ理解しただろう。聞いてくるのはもちろんナリタブライアンについて。彼女達がどう思っているのかを、聞かなければならないだろう。
「行ってらっしゃーい。……さて、私は私で頑張らないとねー」

さて、彼女達はどこにいるのだろうか。あてもなく砂浜を駆け抜けていると、なんという偶然か、二人が一緒にトレーニングを行っているではないか。邪魔をしないよう、トレーニングが終わるのを待ってから声をかけた。
「……という訳なんです」
「そっか。それでフラりんは悩んでたんだね」
「うんうん、その気持ちはよく分かるよ…」
しかし、意外と二人は平気そうというか、フラワリングタイムほど悩んでいる様子は無かった。その証拠に、マヤノトップガンは宝塚記念で1着をもぎ取っていた。
「確かにブライアンさんはマヤをドキドキさせてくれたけど……今は皆がいるでしょ?だから平気だよ!」
「そうだね。私も同じだよ。ブライアンちゃんは凄かった。それこそ、時代を作り上げてしまうほどに。もう走ってはいないけどね」
でもね。と彼女は続けた。
「引退してしまっても、彼女はまだ走り続けてるんだ。私達を食べてしまわんとするほどに、強くね」
「え……ど、どういうことですか?」
ナリタブライアンは引退してしまった。その事実は変わらない。なのにまだ走り続けているとは、どういうことだろうか?
「世間の反応を見て?皆がブライアンちゃんを想ってる。皆がブライアンちゃんを労っている。時代はまだ、ナリタブライアンのものなんだよ」
「……!」
思えばそうだ。勝ったカラフルフラワーの事よりも、負けたナリタブライアンのこと。今を駈ける優駿達よりも、引退したナリタブライアンのこと。
そして、今を走っている私よりも、引退したナリタブライアンのこと。やっと理解した。私は彼女に飲まれていたのだ。引退したとしても、心の中に走りは残り続けている。
ならば、超えなければならない。倒さなければならない。時代を牛耳る、最強の三冠ウマ娘の幻影を。
「だから、勝つ為に走り続ける。でしょ、マヤちゃん」
「うん!マヤはこの空をマヤのものにしたいからね。ブライアンさんだけにあげるなんてマヤが許さない!」
「そういうこと。だから、燻って無いで上がっておいでよ。私のライバル!」
「そうそう!フラりんがそんなままじゃ、マヤつまんないよ!一緒に最強を目指そう!」
「………はいっ!次ぶつかる時は、私が勝ちますっ!!」
なんとつまらない事で悩んでいたんだろう。ナリタブライアンは消えていない。ここに残り続けている。そして、欠けた心の隙間を埋めるように、強いライバルが立ち上がってくれる。競い合える友がいる。私は、なんて幸せ者なんだろう。

「その顔は…どうやら解決したみたいだね」
「はい。私は……良い友達(ライバル)を持ちましたね」
「ふふ。私もそう思う」
これで彼女も復活するだろう。しかし万が一、ライバルとのお話で復活出来なかった時の為に、サブプランを用意しておいた。
「それじゃあ張り切ってトレーニングに移ろうか!今日は、特別な練習相手に来てもらったよ」
「特別な練習相手?」
ぱんぱかぱーん、と現れたのは、なんとナリタブライアン。いつも通りの荘厳な顔付きと、あまりの意外性にフラワリングタイムは呆然。
「ぶ、ブライアンさん!?どうしてここに!?」
「なんだ。いちゃ悪かったか?」
「いえ!意外だなあと思いまして……」
引退したのであれば、合宿に来る必要も無いだろう。
「それについてはアタシから説明するよ!」
「ヒシアマ姐さん!?」
「はっはっは。嬉しい呼び方だねえ。実はコイツ、アンタの事を結構気にかけてるみたいでね」
ばしばし、とナリタブライアンの背中を叩く。こんな絡み方出来るの彼女くらいだろう…
「アンタのトレーナーさんから電話が来たんだ。それでスランプだって聞いた途端、合宿所に行くって言って聞かなくてな。すっ飛ばしてここまで来たってワケさ」
「アマさん。それは言わない約束だろう」
「そうだったかい?朝急に起こされたから覚えてなくてね。ともかく、アンタの力になってくれるそうだ」
「……ありがとうございます!でも、どうして私なんですか?」
ナリタブライアンのライバルなら他に沢山いただろう。それこそサクラローレルとか。もちろん、自分を贔屓にしてくれるのは嬉しいが。
「……色々世話になっているからな」
思い返せば、彼女が苦手な野菜を食べてあげた記憶があるし、おしゃべりの相手になった記憶もある。一緒にお洒落に悩んだり、困った時は協力したり、練習相手になったり、友達としてかなり親しくしてきた過去がある。
「最もそれだけじゃないが…長話は時間の無駄か。アマさん、始めてくれ」
「おう!それじゃあフラリン、今日からアタシとトレーニングするぞ!」
「あ、はいっ!……ちなみに、どんなトレーニングを?」
「トレーニング内容は普段通りで構わん。だが、トレーニングに目標を課す。この夏中にアマさんを超えろ。具体的には、模擬レースで勝て」
「レースで……」
ヒシアマゾンは、あのナリタブライアンとも渡り合った女傑。彼女もまた最前線を走るウマ娘だ。彼女を超えるのは至難の業だが、最強を目指すのではあれば勝たねばならない。
「分かりました。必ず、ヒシアマ姐さんを超えてみせます!」
「おっ、言ってくれるね。それでこそやりがいがあるってもんだ」
「決まりだな。……早田さん。後はよろしく頼む」
「任せといて!二人とも覚悟は良い?ビシバシしごいて行くよ!」
「はい!」「おう!」

そんなわけで、トレーナー特注の豪華メンツでトレーニング。ヒシアマゾンは流石と言うべきか、トレーニングをしているだけで、フラワリングタイムよりも一歩も二歩も上回っているのが感じ取れる。
「模擬レースは週末に行う。アマさんを見て学び、超えるんだ」
「はい!」
まず、最初の週末。結果は惨敗。流石は女傑。あのナリタブライアンに迫っただけの事はある。ボコボコに打ちのめされたが、フラワリングタイムの闘志は消えなかった。むしろ強く燃え上がり、必ず追い付くと決意した表情だった。
「違う!アマさんのコーナリングはもっと小さいぞ!」
「はいっ!っあああああ!」
二週目の週末。今回も惨敗。だが、少しずつ理解してきた。自分がなぜ勝てないのかを。相手を学び、真似するだけでは駄目だ。それは「劣化コピー」でしかない。であれば。
「良いよフラりん!そこからスパート!」
「はあああああああっ!!」
三週目の週末。今回は惜敗。ようやく掴んできた。最強という頂点に立つ為に必要な何かを。これを掴み取れれば、ヒシアマゾンを超えることが出来るかもしれない。更に苛烈なトレーニングに身を投じ、フラワリングタイムは開花の時を待つ。
「さて、今日が夏合宿で最後の模擬レースだ。フラリン、準備は良いかい」
「もちろんです。私の全身全霊を以てヒシアマ姐さんを超えてみせます」
そう答えた彼女の表情は、自信に満ち溢れていた。これは期待しても良さそうだ。距離は今までと同じく、中距離2200mでの模擬レース。ヒシアマゾンの最も得意とするタイマンレースだ。
「ここでゴールだね。それじゃあ二人とも位置について……!」
パン!と乾いた発砲音が鳴り響く。それと同時に勢い良く飛び出す。フラワリングタイムは差し位置へ。ヒシアマゾンはその後ろの後方へ。この数週間、フラワリングタイムが勝てなかった理由はここにある。
マークされる側。普段は強い相手を見続けていれば走れるが、自分より強い相手にマークされると途端に弱くなる。無理は無い。フラワリングタイムは実力差を奇策でひっくり返すトリックスター。真正面からぶつかられれば、地力の差で押し負けてしまう。人気になればなるほど、相手が強くなるほど、出し抜くのは難しくなる。
ではどうすれば良いか?簡単だ。地力を更に鍛え上げれば良い。引き出せる力を更に強く。更に多く。筋肉という筋肉を肥大化させて。普通のウマ娘には難しいが、フラワリングタイムにはそれが出来る。彼女は今成長期真っ盛りなのだから。
「(思い出せ……負けた日々を……)」
「(皆の期待に……応えられなかったあの日を……!)」
強靭に鍛え上げられた身体に、何かが宿る。満開に開いた花を更に彩る何かが。鼓動が強くなる。拍動が速くなる。さあ、今こそ勝利の刻だ。
《????》
────ドンッ!!
「なっ……!」
第三コーナー。溜め込んでいた力を解き放つかのように、フラワリングタイムが加速する。速く。速く。強く。強く。それはまるで、一人だけ時を飛び越えているかのような。信じられない加速だった。
「掴んだね……それじゃあ行こうか!タイマン……開始だ!」
ゆらり、と炎が燃える。それは整えられた花園とは程遠い、植物が生い茂るアマゾンの原生林。野生の鼓動を唸らせながら、一人の戦士が駆け抜ける。その戦士の名はヒシアマゾン。気高き女戦士。アマゾネス。
────いざ、尋常に勝負。
「ッオオオオオオオ!!!!」
「っ……はあああああああっ!!!」
これが、怪物にさえ届きうる、最強の刃。ヒシアマゾンの最後の豪脚。直線で刃を振るえば、その力はまさに天下一品。ついに目覚めたフラワリングタイムにすら、あっという間に追いついてしまう。
「はあああああああああっ!!!」
「うおおおおおおおおおっ!!!」
まさに死闘。闇雲に脚を蹴り続ける二人は、ゴールした事にさえ気付かずに全身全霊で走り抜ける。どちらが勝ったのかさえ忘れ、二人はどこまでも駆け抜けてしまっていた。
「っは!?……っはぁ……っはぁ…っ」
「はぁ……ふぅ……やるじゃないか!」
「ありがとう……ございます……!」
「ふぃ〜…こりゃアタシの負けだね。よく見てなかったけど」
「そう……でしょうか……?はぁ……はぁ……」
二人ともよく見てなかった。無理もない。走ることに精一杯で、横なんて見ていないだろうし。ヘロヘロになりながらトレーナーの方を見て、彼女が満足そうに親指を立てているのが見えた。多分勝ったんじゃ無いかなぁと思いながら、呼吸を整えるのに集中するのだった。

「どうかな?ブライアンちゃん」
「合格だな。本気のアマさんに勝ったんだ。アンタの目論見通り、フラワリングタイムは一皮剥けた」
「うんうん、ついに目覚めたか……って感じだよね」
レースに携わる者……中でも、ウマ娘に密接な者なら、誰しも朧気に存在を知っている存在。ゾーンとも呼ばれるそれは、限界を超えた先にようやく辿り着く無我夢中の境地とも呼ばれる次元だ。先頭を走り、時代を創るウマ娘達は誰しもこの次元に到達するという。
「後は実戦で活かせるかどうかだな」
「だね。……本当にありがとう!ブライアンちゃん!」
「気にするな。……アイツなら、掴んでくれると思ったんだ」
その瞳は、綺麗な花園を見つめるにはあまりにも哀しい色をしていた。トレーナーはすべてを察して、静かに言葉を飲み込んだ。
「…最高の走りをさせてやってくれ」
「……任せておいて!」
トレーナーの返事を聞いて安心したのだろう。ナリタブライアンは僅かに微笑んだ。それから、疲れきって起き上がれないフラワリングタイムを起こしに行くのだった。夏の夕陽が、沈んでいくのを背景に。


「本当にありがとうございました!」
「良いって事よ!またいつでも力になるからね!なっ、ブライアン」
「………ああ」
恥ずかしそうにする彼女を引き連れつつ、自分たちの帰路へと付くヒシアマゾン達。フラワリングタイムは彼女達を見送ってから、トレーナーの元へと帰ってきた。
「お待たせしました。…本当に充実した夏でしたね」
「そうだね……フラりんも大きく成長出来たと思うし、秋が楽しみだよ」
「ふふ。期待していて下さい。ブライアンさん達の厚意に応える為にも必ず勝ってみせます!」
「その意気だよ!…でもまずは、学園に戻ってゆっくりしよう!」
「ですね!」
はりきりすぎて、二人とも疲れきってしまったのか、帰りのバス車内ではグッスリだったとか。厳しい夏も終わり、いよいよ秋のGI戦線が始まろうとしていた。


第9話:天皇賞・秋

+ ...
復帰初戦。フラワリングタイムが選んだのは、天皇賞秋のステップレースにして、GIクラスの面子が集まると噂の毎日王冠。しかし、今年度の主役達はいない。となれば、フラワリングタイムの敵では無いだろう。一番人気で見事に快勝し、久々の勝利を掲げて観客を大いに湧かせた。復活という事もあり、勝利後のインタビューにお呼ばれしていた。
「優勝おめでとうございます!次走はやはり秋の天皇賞でしょうか!?」
「はい。春より更に成長した私を見せ付けて、秋の楯を頂きます!」
ファンはもちろん、観客も大盛り上がり。それもそのはず、快速ダブルティアラの彼女が最も得意とするのは、やはり中距離路線だろう。となれば、以前の面子相手にやり返せるかもしれない。

そして、そんな彼女の裏で密かに盛り上がりを見せていたのが、マーベラスサンデーだ。夏の頃から合わせて、驚異の重賞5連勝。夏の札幌記念、秋の京都大賞典を制覇する徹底ぶりから、天皇賞・秋への参戦が濃厚との見解が強まった。
『次走はやはり天皇賞・秋でしょうか!』
『マーベラスだよ!』
『マーベラスですか!』
『うん!貴方も、私も、みーんなマーベラース★』
「……これは来ますね」
「うん、来るね」
テレビに釘付けなフラワリングタイムとライジョウドウ。を後ろから見守っているトレーナー。眉間に皺を寄せながら、彼女は訊ねた。
「……二人とも、マーベラスサンデーちゃんがなんて言ってたか分かったの?」
「はい!マーベラスですから」
「うんうん。マーベラス」
自分がおかしくなったのかと頬をつねるが痛いし正常だ。なんにしても彼女らは今の返答で天皇賞・秋に来ると分かったらしい。であれば。
「よく分からないけど、彼女が来るなら対策を練らないとだね」
「そうですね。マーベラスサンデーさんの動画は集めてありますが……」
「暇なら、ライジョウドウちゃんも一緒に見る?」
「見る〜」
彼女は今週はおやすみらしい。そのため今日は自由に行動しても良いのだが、フラワリングタイムのとこにやって来たらしい。彼女の独創的なセンスに着いてこれるのも一部のメンバーくらいで、フラワリングタイムもその一人だ。加えて、二人は同室の親友だそう。そばに居ると、居心地が良いのだろう。
「これってどう?」
「いいコーナリングだと思いますね」
「そっか。じゃあこれは……」
「そこは……」
お喋りも弾んでいるみたいだし、今はそっとしておこう。友達同士だから気付ける事だってあるはず。トレーナーは甘いココアを一口飲んでから、外のターフに目をやった。
「はっ……はっ……!」
「やああああああっ!!」
そこに居たのは、共に時代を創っていくと宣言したライバル達。サクラローレルとマヤノトップガン。彼女達も順調に駒を進め、天皇賞秋に出走登録。フラワリングタイム、マーベラスサンデーも含めた4強がカギを握ると噂されていた。
「(ライバルは多い……フラりんが勝つ為には私が頑張らないと…!)」
トレーナーは静かに決意を決め、甘いココアをぐっと飲み干した。ビデオに釘付けな二人の後ろで、自分のかき集めた情報が記されたノートと真剣に向き合うのだった。

秋のGI、天皇賞・秋。東京レース場、芝2000m左回り。マイル路線から中距離路線のスペシャリスト達が集うレースだ。高い瞬発力とそれを維持するスタミナが要求される、シニア級の中でも特にハイレベルなGIレース。過酷なレースを乗り越え、優勝した者に名誉ある秋の楯が贈られる。
「トレーナーさん、今日の作戦はどうしますか?」
「前半はマーベラスサンデーちゃんを見て走ろう。今回、一番勢いがあるのは多分彼女だからね」
「分かりました。マヤノさんやローレルさんでは無いんですか?」
「うん。二人の前哨戦も何度か見返したけど……春の頃ほど勢いが無い。多分、マーベラスサンデーちゃんをマークした方が君も自由に動けるはず」
「そうですね…それは私も薄々感じていました。前半はマベさんを見て…後半はどうしますか?」
「後半は…君の自由に走って欲しい」
「私の……」
自由。それは意外にも、フラワリングタイムに初めて課された走り方。今までは作戦通り相手をマークして走り、最後だけ自分でバ場状態を見てスパートをかけるという走り方をしていた。その走り方をしていた理由は主にふたつ。一つ目は、身体が仕上がらない内に独自の癖を付けないため。そして二つ目。足りない実力差を、どうにか補う為だった。
それを止める。
彼女も、その意図に気付いた。
「……今の君なら、大丈夫。満開に咲いて見せて。フラワリングタイム」
「…分かりました。きっと必ず!」
約束を済ませ、彼女を見送る。彼女の小さな背中は、いつの間にかとても大きく、頼もしく見えた。胸いっぱいの花束を抱えて、彼女は行く。皆を勇気付けられる、最強の女王となるために。

『さあ!柔らかな陽射しに照らされて絶好のレース日和!本日のメインレースが始まります!東京レース場11R!GI、天皇賞・秋!』
今年の秋の天皇賞には錚々たる面子が集った。まず、去年のクラシックを分け合ったマムホワイト、マヤノトップガン。古豪ナイスネイチャも健在だ。ティアラの猛者フラワリングタイムに、勢いのある夏の上がりウマ娘マーベラスサンデー。
そして、春に覚醒したサクラローレル。流石と言うか、この面子を押し退けての一番人気だ。
「ローレルさん!」
「フラりん!」
「今日は咲き返して見せますよ!」
「……ふふ。受けて立つよ!」
……少し変だ。普段ならここでマヤノトップガンも元気に乗ってくるのだが、今日は元気が無い。レースに集中しているのかもしれないが。彼女の方に視線をやる。
「……ローレルさんに勝たなきゃ…」
彼女はそう呟いて、一人静かに歩いていく。今日のマヤノトップガンは珍しく四番人気。前走のオールカマーでは、一番人気ながら、サクラローレルに敗れてしまっていた。
「……とても集中してるみたい。私達も負けてられないね」
「ですね……いざ、勝負です!」
「うん!」
澄んだ秋空に、高らかにファンファーレが鳴り響く。歴戦の猛者達が繰り広げる熱き戦い。ファンの期待を背負い、彼女達がゲートに収まっていく。
「(マベさんをマーク……彼女の走りは模倣出来ない。今回は最初から姿を見せて行くしかない)」
と言っても、隠れる利点はあまり無いだろう。マーベラスサンデーも自分の世界に入り込むタイプ。であれば、ペースを伺い、その上で自分の得意な展開に持ち込めば良い。
「(そして……私の走りを!)」
『ゲートイン完了!さあ役者が揃いました。係員が離れて態勢完了!秋の大一番へいざ!』
────ガコンッ!
スタートが切られる。全員揃って綺麗なスタート。出遅れは無く、各自自分の得意なポジションに着いていく。
『さあ勢い良くトウカイジロウいいスタート!そのまま先頭に立ちます!ゴーイングゴーが続いて……』
マヤノトップガンは先行4番手。その後ろにマーベラスサンデー。それにつけるような位置でフラワリングタイムだ。サクラローレルは後方集団の外側。
外側を走るサクラローレルが眉を顰めた。天皇賞・秋はGIでも屈指の難コースと言われる。その理由がこれだ。
「(内側に入れない……!)」
スタートの直後、即座にカーブがはじまる。そのため、外枠を引いてしまうと、外を回るのを強制されてしまう。加えて、内側に避ければ。
「…無理に内側に行けばメジロマックイーンの二の舞になってしまう。外枠の子は早めに上がるか外周りを受け入れるしかない…」
メジロマックイーンの斜行。内に入る為に強引にコースを変更した結果後方のウマ娘達が接触。運良く誰も転ばなかったが、審議となり、その結果、彼女は18着に降着となった。
その点、フラワリングタイムは運が良かった。今回、彼女は内枠。先行内側につけて無駄なくコーナリングを行っていく。
「(マベさんに付けることは出来た。私は見えているでしょうが…)」
「(マーベラス!フラりんにマークされてる★)」
マークされていると分かった上で、自分のリズムは崩さない。やはり自己ペースを安定して保てるようだ。揺さぶりをかけても無駄だろう。このままのペースで突き進む。
「(ナリタキングさんが前。あまり競り合ってる様子は無い……恐らくペースはミドル…!)」
フラワリングタイムの予感は的中。1000mの通過タイムは1分ちょうど。流れるようなペースであれば先行集団の方が有利だ。はやる気持ちを抑え、最後に向けて脚を溜める。満開の華を咲かせる為に。
集団の差は殆ど開かず、一団となって第三コーナーへ。徐々にウマ娘達の動きが早くなっていく。フラワリングタイムは耳を澄ませ、周囲の足音を探る。周りの様子はどうだ。ここから仕掛けられるか。
その時、異常に気が付いた。
「(ッ……!?)」
第四コーナーに差し掛かり、マヤノトップガンが仕掛けた。まるで獲物を捕らえにかかるかのように。瞳に赤い閃光を滾らせ、ターゲットに向かって一直線に進んでいく。あれは言うなれば、執念だろうか。とてつもない加速だ。
「(ブライアンさんも……ローレルさんも……超えて見せる!この空を飛ぶのはマヤノトップガンだ!!)」
時代を掴みたい。その想いが彼女の脚に力を宿す。ジェット機が空を行く。誰にも追いつけない程に。

いや。

「マーベラス★」
塗り替えられた。一瞬で。マヤノトップガンが放つ威圧感をものともせず、マーベラスサンデーが動いた。時代を掴むのは、ジェット機でも、桜でもない。このマーベラス。マーベラスがマーベラスであり、マーベラスだからマーベラスなのだ。大外、必死に迫るサクラローレルさえも超えるような末脚で、マヤノトップガンに迫っていく。

でも。
超えるのは、私だ。

満開の花園がそこにあった。万雷の拍手が彼女を包んだ。頂いた華の数は数知れず。歌った曲も数知れず。強く、気高く、美しく、故に彼女は特別な存在だった。誰もが憧れる栄光のティアラを戴冠して。
さあ、貴方も、私と共に。
誓おう。永遠に続く花園を。咲かせよう。貴方が抱いた最高の夢を。手を取り謡おう。華の歌姫の時代を。
今こそ、開花の刻。
《千紫万紅・華の歌姫》

「っはああああああああああ!!!」
そこにいる誰もがそれを見た。
最終コーナーを抜けた内側。フラワリングタイムが一番前で駆け抜けているのを、見つめていた。なんと華麗で、なんと美しく、誠に強く走る少女であろうか。
「来た!」
「フラりんだ!」
「フラワリングタイムが先頭だ!」
声援が大きくなるのを感じる。フラワリングタイムのファンも。他のファンの皆も、精一杯の応援を投げかける。走れ。届け。進め。大歓声に迎えられながら、レースは最終局面を迎える。
「……行け!フラりん!」

ラスト200m。フラワリングタイムが先頭だが、マヤノトップガンがすぐそこまで迫っている。更にマーベラスサンデーも大外から飛んできている。まさに、意地と意地とのぶつかり合い。
『フラワリングタイム!マヤノトップガン!フラワリングタイム!マヤノトップガン!届くか!内からゴーイングゴーも迫っている!』
「(……皆が私を支えてくれたから、私は今ここにいる。ファンの皆も。友達の皆も。ライバルの皆も。……トレーナーさんも)」
だから……
「(皆の期待に答えるんだ。……走れ!フラワリングタイム!脚も!肺も!心臓も!すべて動かせ!)」
『フラワリングタイム!マヤノトップガン!勝つのはどっちだ!』
「……ああああああああああああっ!!!!!」
「やああああああああああっ!!!!!!」
瞬間。刻が止まった。クタクタの脚も、破れそうな肺も、途端にすべてを感じなくなった。信じられないほど軽くなった身体で、フラワリングタイムは全身全霊でゴール板を駆け抜けた。何も感じない。何も聞こえない。世界が私だけのような……

「「「「「ワァァァァァァァァァァァァ!!!!!」」」」」

耳をつんざくような大歓声に包まれて、ようやく現実感を取り戻す。肺が痛い。脚が動かない。子鹿みたいにプルプルしたポーズのまま、顔をぼんやりと掲示板に向けた。
「あれ……私……」
一着に表示されているのは4番。自分の番号だ。それを理解すると同時に、とてつもない喜びが胸の内から込み上げてきた。
「勝っ……た…勝ったんですね……!」
久々の。そして、競い合ったライバル達への勝利。まだぼんやりとしか感覚が残っていない両腕を思いっきり突き上げて、全身の限りに喜びを表した。
「……勝ちましたー!!!!」
「おめでとうー!」
「やったな!フラリン!」
「カッコ良かったぞー!」
「一生ファンになりますうう!!!」
ファン達も大喜び。会場は歓声と温かい拍手に包まれる。フラワリングタイムはプルプルしたまま、ぺこりとファンの皆に感謝のお礼をした。
「マーベラース!★」
「うわ!?マベさん!?」
「今日の走り、とってもマーベラスだったよ!」
「あ、ありがとうございます……!」
ビリビリ痺れてる手をブンブン握手される。
「フラりん。おめでとう!」
「マヤノさん…ありがとうございます」
「悔しいけど……今日はフラりんに完敗だね。マヤ、負けない事ばっかり考えてて、ドキドキするの忘れちゃってた」
「マヤノさん……」
「でもね、今日のフラりんはとってもドキドキした!マヤにドキドキを思い出させてくれてありがとう!」
「……それは良かったです。どういたしまして!」
「えへへ。次は負けないよー!」
満開の笑顔を咲かせたフラワリングタイム。サクラローレルは、その輪に入れなかった。要因は、今日のレースの出来だ。実力を認められ、一番人気を背負い走ったものの、最初から僅かに出遅れてしまった。調子を崩したか、スローからミドルペースなのを見誤り、前に出れず。最後は外へ抜け出せずに3着。4着に入ったマーベラスサンデーの方がよほど堅実にレースをしていた。
「これじゃ…ダメだ。私はあそこに入る資格がない……」
彼女達のライバルを名乗るには、あまりに拙い走り。おそらくは実戦経験の足らなさが要因だろう。悔しいが、悔やんでも仕方が無い。……ならば、次こそは取り返す。満開のサクラローレルを見せ付ける。
「(次こそ……必ず!)」
サクラローレルは泣かない。めげない。諦めない。サクラの大輪は一足先にターフを去るのだった。

「フラりーん!おめでとうー!」
「トレーナーさん!?」
トレーナーもターフに降りてきて、思いっきり彼女を抱擁。久方ぶりの勝利に浮かれたのだろう。抱きしめてグルグル回る。
「良かった……良かったよぉ〜!」
「あはは…本当に良かったです!」
フラワリングタイムも彼女を抱きしめ返し、優しく微笑む。その柔らかな笑顔は本当に綺麗で、美しい。
「トレーナーさん。貴女のお陰で……また返り咲けました!」
「うん……うん……!でも…頑張ったのはフラりんだよ〜!」
わーん、と泣いてしまう。思いっきり背伸びして、彼女の頭を優しく撫でてあやす。逆じゃないの?と観客にちょっと笑われつつ、フラワリングタイムは彼女の涙をハンカチで拭った。
「トレーナーさん。これからも、私とファンの皆さんの為に、一緒に夢を追いかけて貰えますか?」
「…うん!もちろんだよ!これからもいっぱい華を咲かせよう!」
これからもよろしく、と手を取り合って握手。照れくさそうに笑い合いながら、きっと最高のパートナーであるとお互いに実感する。
「よし……じゃあファンの皆にも感謝を伝えに行こう!」
「はいっ!」
勝者が立つステージ、ウイニングライブへ。ついにセンターを掴んだ華の歌姫は、高らかに歌い始める。その美しい歌声で、ファンをめいっぱい湧かせたのだった。


第10話:時代の寵児

+ ...
その脚で時代を動かし、観客を沸かす優駿達。彼女らが目指す「時代」を掴むのであれば、必ず取らねばならぬレースがある。ファン投票で人気を勝ち取り、数多の優駿の中から最も頂点に挑む権利を与えられた者達が集う夢のグランプリレース。
「今年もこの時期ですね」
「だね!有馬記念!」
当然、フラワリングタイム陣営も参加を決める。去年は怪我をして参加出来なかったが、今年は身体の調子も極めて良好。天皇賞・秋の優勝もあってか、ファン投票数は全体の4割近くを占める一位。サクラローレルやマヤノトップガンも参戦を決めており、新ライバルのマーベラスサンデーも参戦。皐月賞ウマ娘のマムホワイトや、女傑ヒシアマゾンに加え、今年度からティアラ三冠目のレースとなった秋華賞の初制覇者ファビュラスレディも参戦を表明。更にダートからも女王ホクトシチセイが参戦。近年稀に見る超豪華メンバーとなり、関連する記事や商品は飛ぶように売れた。
「あっ!フラリンさんだ!」
「握手してください!」
「はい、良いですよ〜」
ファンの子供と握手。人気投票1位なだけあって、街を歩けばすっかり人気者。それもそのはず、今や時代を引っ張る最前線のウマ娘の一人に数えられる程になったのだから。
「またねー!フラリンさん!有馬記念も絶対勝ってねー!」
「はい!任せて下さい!」
「ふふふ。人気者だねぇ」
「そうですね。今、日本中の皆さんが有馬記念に注目している。私はその先頭に立っていますから」
トレーナーと共に、クリスマスの街を行く。一応トレセンも冬休み。有馬記念も間近という事で、肩の力を抜くべく、軽い息抜きに二人で遊びに来ていた。
「それにしても、私で良かったの?お友達と遊んで来ても良かったのに」
「皆さんはそれぞれ自分のペースでトレーニングをしてますから。邪魔にならないよう、大一番が終わってから、遊ぶつもりです!」
「そっか!フラりんは優しいねえ…」
それで自分と予定がピッタリなトレーナーを誘ったらしい。さて、この組み合わせ。パッと見てみれば、ダブルティアラの女王様と見目麗しい担当トレーナー。だが、正直トレーナーは内心焦っていた。
「(……最近の子ってどう遊ぶの!?)」
自分が新人として就職した際に、担当のフラワリングタイムは飛び級で入ってきた。言っちゃなんだが、普通に10歳くらい年下の子である。もはやジェネレーションギャップを感じざるを得ない年齢差だ。
「あっ!見えてきましたね!」
「ふぁ!?あ、う、うん!」
とりあえず女の子同士ショッピングに洒落込むかあと決めたものの、後は全く考え付いてない。洋服、コスメ、香水やアロマと、女子らしいものを買って回る。ついでに備品もちゃっかり購入しておく。これもスポーツ選手の性か…と二人で笑い合うひとときも楽しかった。
「いっぱい買い込みましたね!」
「だね。両手がもうパンパン!」
休憩を兼ねて、モール内のカフェでひと息。大量の荷物に、有馬記念の一番人気の子というだけあって、客の視線はこちらに超集中。しかし、流石に二人とも慣れている様子。
「ふー。おなごの手にはあの大量の荷物は応える……」
「そうでしたか?では帰りは私が持ちますよ!」
「いやいや!自分の荷物だし自分で持つよ!気にしないで!」
ウマ娘の彼女的には、まだ軽い方なんだろう。そんな彼女を見て、胸の奥底に隠していた僅かな思いが、こっそりと顔を覗かせて来る。

『ウマ娘って良いな…』
小さい頃から、ずっとウマ娘に憧れていた。とても速く走れて、力も強くて、とってもカッコイイ。私はウマ耳も尻尾も生えていないけど、いつか彼女達みたいに、思いっきり走って競い合ってみたかった。
『……ちゃん!競走しよ!』
『良いけど……着いてこれる?』
『大丈夫!私男子より速いもん!』
けれど、現実は残酷だった。遠ざかる背中。着いていけない私。ウマ娘には敵わない。それをまじまじと体験させられた。
『私も……ウマ娘だったら良かったのに……』
私はあそこで走れない。小さい頃からの夢を奪われて、厳しいだけの現実を知った。でも塞ぎ込むのは勿体ないって思った。私なりの方法で。必ずあの舞台に立ってみせる。
『妹は大丈夫だ!妹は大丈夫だ!ナリタブライアン三冠達成ー!』
私は、トレーナーを目指した。いつか私の夢を一緒に背負ってくれる、最高のパートナーに出会う為に。そして見つけた。皆の想いも、私の夢も一緒に背負ってくれる最高のパートナー。君の笑顔が見る度、私の胸の燻りも消えていくの。
…だから。もう大丈夫。私は、ウマ娘じゃなくても良いよ。君と一緒に夢を見させて。

「……トレーナーさん?」
「……はっ、ごめん!ちょっとぼーっとしてた!疲れてたみたい!」
「そうでしたか…すみません。疲れているのに連れ回してしまって…」
しゅーんとしてしまう。
「わー!大丈夫大丈夫!フラりんと遊べてとっても楽しかったから!落ち込まないで!ねっ!」
「それなら良かったです…!私も、トレーナーさんと遊べて、とっても楽しい一日でした!」
そう言って笑う彼女の笑顔は、屈託が無くて、眩しくて、幸せにさせられるものだった。……私、君をパートナーに選んで良かったな。
「……そうだ。このあと、寄りたい場所があるんですが……付き合って貰えますか?」
「うん。もちろん良いよ!」
少々不安だったが、お買い物で彼女が楽しめているのなら良かった。正直この後どうするか決まってもいなかったので、彼女から提案して貰えるのは大変助かる。
「ありがとうございます!では……」

彼女に連れられてやってきたのは、クリスマスのライトで彩られたイルミネーションが綺麗な夜の街。少し時間があったので、一旦トレセンに戻って荷物は置いてきている。
「ふふ。とっても綺麗だね。フラりんが来たかったのはここ?」
「はい!イルミネーションが綺麗だと聞いていて。トレーナーさんと一緒に見たかったんです」
「そっか!私と一緒に。…嬉しいな。人がいっぱいだし……はぐれないようにしよっか」
「あ、はいっ……!」
ぎゅっと手を繋ぎ、夜の街を歩いていく。さながら、仲の良い姉妹のように。イルミネーションを眺めながら、あれは綺麗、これは綺麗とはしゃいで回る。本当の姉妹のようでとても楽しかった。やがて、メインのイルミネーションであろう大きなもみの木の下へと辿り着いた。
「「わぁ………」」
と、思わず二人で息を飲む。それから、ハモったのがおかしくなって、くすくすと笑いあった。満天の星空にも負けず輝くクリスマスツリーは希望の灯火のようで、それに肖るかのように、人々はその下でそれぞれ友達や恋人と連れ添っていた。
「……ちょっと恋人ばっかで羨ましいな…」
「あら…では私が恋人役というのはどうです?」
「それは嬉しい!是非私のお嫁さんになってー!」
「あははは……」
抱きついてスリスリしてくるトレーナーを優しく撫で返してから、フラワリングタイムは自分のスカートのポケットをごそごそと漁った。目当てのものを見つけたのか、一瞬目を綻ばせて、伝えた。
「トレーナーさん。お渡ししたいものがあるんです」
「え……私に?」
「はい。……これを」
丁寧にラッピングされた小さな箱。リボンの結び目まで見事なものだ。
「ありがとう!……開けてみても?」
「はいっ!お願いします」
しゅるり、と綺麗に解けたリボンの中から出てきたのは、小さなお花を模した髪飾り。愛らしい花弁が凛々と小さく咲き誇っている。
「可愛い……!」
「サクラソウの髪飾りです。トレーナーさんに似合うかなと思って、実家から取り寄せました」
「私の為に……」
サクラソウの花言葉は、あこがれや純情。そして、長続きする愛情。大好きなトレーナーの事を想い、選別した花だと彼女は伝えてくれた。
「いつも私の事を第一に考えて、トレーニングを考えて下さって、一緒に泣いて、一緒に笑って、たまに喧嘩して……いつも一緒に、夢を見て下さって、ありがとうございます」
「……こちらこそ!」
「えへへ。これからも……私を見守っていてください。そのサクラソウと一緒に」
「もちろん!……むしろ、私からもお願いするよ」
瞬間、サクラソウが咲き誇った。しんしんと降り始めた、初雪にさえ負けぬ純真の輝きを放ちながら。
「私も、貴女という至高の花束に加えてください。最強の華の歌姫、フラワリングタイムさん!」
「…はい!喜んで!」
彼女と手を取り、離さぬように固く握手する。これからもお互い、最高のパートナーで。誰もが思わず見てしまうような美しい仕草で、固く誓い合う二人だった。

時代とは、どう掴むものだろう。
力強く、圧倒的な走りは、見る者の心を掴む。
美しく、可憐な走りは、見る者を魅了して離さない。
速く、誰よりも先を往く走りは、見る者を驚嘆させ、視線を釘付けにする。
けれども、それだけで時代は靡かない。
数多の星が無数に瞬くそれもまた、一つの時代だ。例えるなら、それらを飲み込んでしまうほどの一番星。その星こそが、その時代を掴むのに相応しい。
そして、その星を決める舞台が今整った。
さあ、始めよう。
時代を掴む者への挑戦を。





1枠1番。最も幸運な枠を引き当てたのは、七年目、未だ現役の尖兵。その名をエルズウィン。ようやく目覚めた脚を、今こそGIにぶつけよう。

2枠2番。黄金の名を冠するは、現代装飾品のパイオニア。その名をゴールドクロス。代名詞とも取れるチークピーシーズと共に、いざ勝利へ。

3枠3番。裂空を裂くパイロットが再びターフへ姿を現す。昨年の圧倒的な勇姿を覚えている者は多いだろう。三番人気を背負い降り立つ。その名はマヤノトップガン。

3枠4番。秋の屈辱は忘れない。怒涛の連戦を潜り抜け、再びGIの舞台へと降り立つ。七夕賞での激走を今こそ。その名もブリッジコンプ。

4枠5番。怪物は、ここにもう一人いる。あのナリタブライアンをも追い詰めた女傑が牙を剥く。鬼の豪脚が姿を現す。さあ、食らいつけ。女傑ヒシアマゾン。

4枠6番。満開の桜が、今再び咲き誇る。桜吹雪に乗せて、時代さえも掴み取る。二番人気を背負い、サクラローレルがやってくる。芽吹け。今こそ、花開く時。

5枠7番。皐月の誇りを胸に。同期達になど負けていられない。この大舞台で、返り咲きを見せよう。そのウマ娘の名は、マムホワイト。

5枠8番。皐月も、ダービーも、菊も届かなかった。けれど、確かな実力をその手に。世代屈指の実力者が有馬へ手を伸ばす。私が勝者だ。ミラクルロイヤル。

6枠9番。ダート転向後、破竹の勢いで連勝。その女王の名を知らぬ者は居ないだろう。今や、ダートの時代さえも背負って立つ気高き女王。人々は彼女をこう呼ぶ。夜空に瞬くホクトシチセイと。

6枠10番。新タイトルの女王が名乗りを上げた。いざ、秋華の冠の力を見せよう。誰よりもファビュラスな走りを。ファビュラスレディ。

7枠11番。夏の上がりは伊達じゃない。四番人気のそのウマ娘は、まさにマーベラス。世界は今こそマーベラス。時代をその手に。マーベラスサンデー。

7枠12番。目覚めたウマ娘はサクラローレルだけでは無い。四連勝を決めて重賞制覇へ。一気に辿り着いたGIの舞台。マールイシス。

8枠13番。神速の早足。世代のマイルGIを制覇。ジャパンカップにも果敢に挑んだ勇者が今ここに。栄光を見せつけろ。フォーチュンクッキー。

8枠14番。大外も、彼女にとってはちょうど良い試練だろう。秋。ついに咲き誇った、最強の歌姫。大勢のファンの期待を背負って、貴方の夢が走ります。一番人気。千紫万紅。満開の刻。フラワリングタイム。

時代を掴むのは、誰だ。


第11話:有馬記念

+ ...
今年を彩った優駿達。彼女達ひとりひとりに、ドラマがある。ロマンがある。夢がある。だから人々は精一杯、声を上げて応援をするのだ。
「(必ず、勝つ)」
パドックでの準備運動を済ませて、一番人気のフラワリングタイムは最終確認に戻った。湧き上がるような会場の熱気は、関係者の控え室にまで伝わってくる。
「トレーナーさん。準備完了です!」
「よし!……いい顔だね。フラりん」
「えへへ。…これから、私は皆さんの期待を背負って走りますから。堂々と胸を張りませんと!」
むん、と胸を張る彼女だが、まだまだ背は小さくて愛らしい。肩書きは立派な歌姫だが、まだまだ、これからの成長が楽しみだ。
「ふふ。……本当に立派だね。私がフラりんだったら緊張しちゃうかも」
「……そうですね。私も、少しだけ緊張はしちゃいます。でも……」
そう言って、一歩だけ近付く。
「私には、トレーナーさんがいますから!貴女が影で支えてくれるから……私はいつも堂々と歩けました。貴女のおかげなんです」
「……!」
その言葉を聞いて、胸の内がぶわっと熱くなるのを感じた。思わず涙腺が緩みそうになる。
「…ありがとう。私も、フラりんにいっぱい勇気を貰ったよ…!」
「ふふっ…どういたしまして。トレーナーさん。泣くのは勝ってからにしましょう!」
「うん……そだね……!」
ゴシゴシっと目元を拭う。
「……作戦はいつも通り!今日はローレルちゃんをマークして、後半は君のペースで!行ける!?」
「行けます!」
「よし……!もう言うことは無いよ!後は君にすべて任せる!全力でぶつかってきなさい!!」
「はいっ!!!」
いざ、時代を掴む決戦の刻。




14人の優駿が、ターフに集う。先にゲート前に来ていた13人が、最後にやってきたフラワリングタイムを迎え撃つ形になった。
「お待たせしました。準備はよろしいですか?」
各々、準備万端の姿勢を見せる。特に仲の良い面子は、彼女にそれぞれ宣戦布告をしに来た。
「人気は譲っちゃったけど、勝つのはマヤだよ。フラりん、今日もドキドキの全力で行こうね!」
「はい!マヤノさんとも全力で勝負です!負けませんよ!」
「マーベラース!今日のレースもとってもマーベラス!フラりんもマーベラスにしちゃうよ!」
「ふふ。いい意気込みですね。ですが、マーベラスにはなりませんよ。今日は満開にさせますから!」
「そうだね。今日は満開になるよ。…ただし、フラりんじゃなくてサクラローレルが…だけどね!」
「ローレルさん。良いですよ。満開になってください。……その上で、私が更に貴女を凌駕します!」
ライバル達との宣戦布告。既にバチバチと、熱い火花が散っているかのようだ。そしてついに、その時が訪れる。高らかに鳴り響くファンファーレ。今年最後の大演奏が冬空に響き渡る。
『今年最後のGIレース!時代を彩る優駿達が、今中山に集いました!誰が勝ってもおかしくない!夢のグランプリが始まろうとしています!』
今年最後の大一番。夢と期待を背負い、ウマ娘達がゲートに収まっていく。しん、と静まり返る会場とは裏腹に、その場にいる誰もが、心拍数を上げて期待に胸を踊らせている。
「(……行きます!)」
最後に大外枠。フラワリングタイムもゲートに収まる。中山レース場。芝2500m。右回り。天気は晴れ。芝状態は絶好の良バ場。絶好の舞台と言えるだろう。
『ゲートイン完了!係員が離れて…態勢整いました!あなたの夢、わたしの夢が走ります!』

────ガコンッ!

『スタートしました!ヒシアマゾンやや遅れたか!?エルズウィンも後方から!しかし大きな遅れはありません!』
「(スタート良し…まずは状況を見極めます……!)」
先頭を突き進むのは、逃げ宣言のゴールドクロス。その後ろの先行集団に、マヤノトップガンとファビュラスレディ。やや後ろにマーベラスサンデーが付け、後方集団の最内側にサクラローレル。その真後ろにつけた自分と、最後方にヒシアマゾン。
「(しまった……!ローレルさんに最内に付けられた……!)」
「(一番人気を徹底マークする。フラりんの基本戦術だよね…!)」
最内側。フラワリングタイムが最も得意とする切れ味勝負で使用する内側のコーナー。そこに陣取られてしまえば、簡単に前へ抜け出す事が出来なくなる。
「(……大丈夫。落ち着いて行こう)」
一番人気には、何度もなった事がある。であれば、これくらいは想定済だ。焦らず機会を伺えば良い。サクラローレルが徹底マークしてくるのならむしろ好都合だ。
「(私も……誰より貴女を見ていますから……!)」
大歓声に迎えられながら、一周目のスタンド前を駆け抜けていく。誰よりも近くで、誰よりも間近で、トレーナーも担当ウマ娘達を応援する。
「頑張れ……フラりん……!」
応援しつつ、手元のストップウォッチを確認する。現在のハロン毎のラップタイムはおおよそ12.5秒。後半の加速を考えれば、十分に息を入れられるペースだ。であれば、最後の末脚比べ。フラワリングタイムは世代の猛者達に打ち勝てるだろうか。
「(ローレルだけ見てて良いのかい!アンタの周りにいるのは……!)」
「(最強のウマ娘だよ!)」
フォーチュンクッキーとヒシアマゾンのマークを感じ取る。けれど、フラワリングタイムは決してペースを乱さない。
「(ヒシアマ姐さん。私を育てて下さってありがとうございます。…今日は、成長した私を見せ付けます!)」
ズッ……と。空気が重くなるのを感じ取る。圧倒的な威圧感。それを発したのは誰だろうか。無論、他でも無い。ターフの中央に咲く、満開の花園。
「(ええっ!?)」
「(なんつー威圧感だ…!アタシはとんでもないヤツを目覚めさせちまったみたいだね……!)」
だが、GI級のウマ娘達がその程度で怯えるか。否。むしろ燃えたぎる闘志を見せ付けるだろう。ヒシアマゾンも呼応して徐々に圧が強くなっていく。
「(だけど……その方が面白い!)」
張り詰めていく空気。後ろの面々はもちろん、前を走る面子も同様だ。向正面に入り、少しずつ緊張感が膨らんでいく。今か今かと、弾け出そうとしている。
「(負けない……!今日の為に……このドキドキの為に。マヤは精一杯やって来たんだから!)」
すぅ。と。僅かに一呼吸。それで理解した。動き出すと。第三コーナーに差し掛かると同時に、マヤノトップガンが真っ先に動いた。
「空を飛ぶのは……マヤだ!」
────ダンッ!!!
力強く大地を踏みしめて、一気に先頭へ並びかけていく。マヤノトップガンの勝ちパターンだ。今こそ宙を掴む時。最速のパイロットよ。準備は良いか。握れ。そのレバーを。掴め。最強の頂きを。
ジェットエンジンが火を上げる。翼を大きく広げ、大空へと羽ばたいていく。あの大きな夕焼けさえも、超えていけ。全速前進だ。突き進め。マヤノトップガン。
「っはああああああああああ!!!」
呼応するように、後ろもスパートをかけて行く。真っ先に反応したのは外を回るマーベラスサンデー。自分の世界に入り込み、自らの内に秘めた神秘を繰り出さんと力を込める。
マーベラス。今こそ、世界すべてをマーベラスに染め上げる。夢のようなマーベラス。誰もがみんなマーベラス。時代を掴むのは、マーベラス以外有り得ない!走れ。走れ。今こそマーベラスサンデーの時だ。
────ズッ……!
「…マーベラスッ!!!」
先行集団が一気に弾け飛んだ。前半のペースを考えても脚色は十分。加速を見せてグングン後ろを突き放していく。だが、フラワリングタイムは仕掛けられない。サクラローレルが最内にいるから。
「(フラりんはもう出てこれないはず…私も……前へ行くよ!)」
ふっ。と呼吸を整え。サクラ前線が加速を始める。瞳に輝く花弁は、遥か遠くの空を見つめている。私の夢はもっと遠く。こんな所で負ける訳にはいかない。
「(進め……!目覚めろ……!サクラローレル!)」
あの日、ナリタブライアンを下した日のように。満開の桜が花を開き始める。誰もが目を奪われるような大きな桜が、再びターフに芽吹いていく。これでこそ。これでこそサクラローレルだ。会場のファン達も一気に大歓声を上げる。
「はあああああああああっ!!!」
サクラローレルの作戦に、フラワリングタイムは完璧に嵌った。もはやスパートさえ出来ず、勝ち上がる事は不可能だろう。周りの誰もが、そう見えてしまった。もう大丈夫(だめ)だと僅かに気を緩めた。
「……ううん。違う」
フラワリングタイムは作戦に嵌っていた訳じゃない。

最初から、分かっていた。

「はあああああああああああああああああ!!!!」
「「「ッ……!?」」」
最内。フラワリングタイムはバ群を縫うように猛加速して上がってきていた。サクラローレルが蓋をしていたはずでは。誰もがそう思った。いや。正確には、何人かだけ理解していた。
「(ローレルさんの勝ちパターンは、中盤から後半にかけて、外に回して一気に差すこと。最内の私のマークが外れることは……最初から分かっていましたよ!)」
「(やっぱり……!それでこそフラりんだよ!これだから……君は面白い!楽しい!まるで……!)」
まるで、ナリタブライアンと走っているかのようだ。全力で競い合える友達。いつだって本気でぶつかっていける、最高のライバル。サクラローレルも。マヤノトップガンも。マーベラスサンデーも。ヒシアマゾンも。彼女という存在に紡がれ、高め合い、成長して来れた。その触れ合いは正しく乙女達の才が花開く、開花の刻。
君と出会えたこの時代に。
あなた達と出会えたこの時代に。
最高の感謝を込めて。
さあ、最終局面だ。この美しき時代を掴むに相応しいのは誰か。決着を付けようではないか。

「「「「はあああああああああああああああああっ!!!!」」」」

先頭を駆けるマヤノトップガン。だがそれも長くは続かない。外から迫るマーベラスサンデーと、サクラローレルが更に外から猛追する。最内からはフラワリングタイムも迫ってくる。筋肉が軋む。脚が痛む。肺は破れそうだ。心臓の鼓動は爆発しそうだ。それでも、それでも。あれが欲しい。あれを掴みたい。誰もが全身全霊で手を伸ばす。負けない。勝ちたい。勝ちたい。ファンの皆と。育ててくれた皆と。期待に。

《君と勝ちたい》

瞬間。ウマ娘達の表情が変わった。辛く、苦しく、吠える様な雄叫びを上げているような顔だった彼女達の表情は、不思議と笑っていた。競い合える仲間。最高のライバル。こんな僅かな時間でさえ、最高のひとときに感じ取れる。
それでも、終わりは来る。ラスト200m。現実が。才能が。適性が。強く強くウマ娘達に襲い来る。抜け出したのはサクラローレル。そして最内を突いたフラワリングタイム。二人には、もはや何も聞こえていない。ただ全身全霊を以て、会場を自分色に染め上げるのみだ。
『やはりラストはこの二人だ!サクラローレル!フラワリングタイム!花開け!夢開け!満開の今を!』
「行け!ローレル!!」
「行け……フラりん!!」
「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」

ゴール板を駆け抜けた瞬間。満開の華が、中山レース場に咲き誇った。二人が後ろに付けた着差は2バ身。あれだけの面子を相手に、大きく差を広げてゴールして見せたのだ。
「っはぁ……っ!はぁ……っ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
先頭の二人は、ほとんど同時にゴールイン。掲示板には写真判定の文字が浮かんでいる。当人達は、息を整えるので精一杯だ。どちらが勝ったのだろうか。緊張の糸がほぐれないまま、時間だけがいたずらに過ぎていく。ようやっと先頭の二人が息を落ち着けて来た頃。掲示板のランプが点灯した。
1着 6番 サクラローレル
2着 14番 フラワリングタイム

「「…………!!」」

一瞬。会場を静寂が包んだ。しびれを切らしたかのように、ワッと大歓声が盛り上がった。今年最後のGIを勝ったのは、サクラローレル。再び満開の花を咲かせ、GI2つ目のタイトルをその手に掴んだ。
「おめでとうー!ローレル!」
「桜満開だよー!!」
「……ありがとうございますー!!」
ファンの大歓声に、必死に手を振って応える。あと僅かに届かなかった。けれど、負けは負け。ライバルの優勝を祝福し、フラワリングタイムは精一杯の拍手を贈った。
「おめでとうございます。ローレルさん!……完敗です!」
「ありがとう!今日は私の勝ちだね。でも、今日の勝ちはギリギリで本当に危なかったよ。運が悪かったら私が負けたかもしれない」
だから。とサクラローレルは彼女の方に向き直った。
「今日のレースだけで決着を付けるなんて勿体ないよね。これからも、何度でも、一緒に走り続けよう!今を駆け抜ける、私達の時代を彩ろう!」
「……はいっ!何度でも、競い合いましょう!次は負けません!」
グッ、と硬い握手を交わす。観客も思わず拍手を送る。それと同時に、マヤノトップガン達もやいのやいのと混ざってきた。そのウマ娘達の楽しげな姿は、きっと観客達の心に深く刻まれて行っただろう。そして、ウイニングライブも終了し、今年度の有馬記念は大盛り上がりで幕を閉じた。



最終話:これからも

+ ...
年末。フラワリングタイムは、年度代表ウマ娘を決める授賞式に招待されていた。今年一年を代表する年度代表ウマ娘は、サクラローレルに決定した。サクラローレルは宣言通り、この時代を自らの手に収めたのだった。
フラワリングタイムはもちろん、他の誰も異論を挟まない満場一致の結果だった。同時に、フラワリングタイムも名誉ある最優秀シニアティアラウマ娘の称号を賜った。
「フラりん!おめでとうー!」
「皆様、ありがとうございます。今後も最優秀ティアラに恥じぬよう、優秀な成績を収めて参ります」
優雅に、華麗に一礼。まさにティアラを代表するに相応しい仕草だ。この一年、本当にたくさん泣いたし、たくさん笑わせて貰った。最高の舞台を君と走れて良かった。
なんだかしんみりしちゃったけど。まだ終わったわけじゃない。これからも君と、出来る限り沢山の花束を作って行きたいな。
「フラりん、お疲れ様!」
「トレーナーさん。ありがとうございます。お疲れ様でした」
指先まで冷えきってしまいそうな寒い冬空の下だが、フラりんと歩く夜道はとても温かかった。寒いから寄り添って欲しい、と甘えてくる彼女は、まだまだ子供だねぇと思った。
「……ねえ、フラりん」
「はい?」
「私と一緒で……良かった?」
「もちろんです!貴女と一緒に歩んで来れたこと……誇りに思います」
「そっか……嬉しい」
なんとも言えない、甘ったるいような、むず痒いような雰囲気。幸せに満ち足りた帰り道。偶然か。あるいは、無意識に向かっていたのか。二人の知っている場所に辿り着いていた。
「あれ……ここって……」
「ここは……トレーナーさんと出会った場所ですね」
川沿いにこっそり隠れている、小さな隠れ花園。今はなんの花も咲いていないけれど。春には満開の花畑を開いて、私達を楽しませてくれた。
「折角来たし、少し休んで行こっか」
「はいっ!」
ベンチに腰かけ、二人でおしゃべりを続ける。私は、君のいる時間が大好きだ。だから他愛ないお喋りもずっと続けられる。
「……それでね……」
「はい!……ふふふ……」
思えば、あの頃から、だいぶ成長したものだ。今でも覚えている。はじめてのトレーニングのあの日。緊張しまくって、ガタガタ震えながら彼女の対応をしたこと。どうしたら彼女が上手く成長出来るか。考えに考え抜いた事。今手元にある花束のすべてに、あの時、この場所からの積み重ねがある。
「あははは……!…っと、そろそろ戻らないと遅くなっちゃうね」
「……あ、そうですね。戻る前に一つだけ……良いですか?」
「うん。もちろん良いよ!」
「それでは……」
こほん。と彼女は咳払いしてから、すっくと立ち上がる。それから、私の方を向いて。
「……トレーナーさん。私をここまで連れてきてくださって、本当にありがとうございます!」
「えへへ……どういたしまして。でもここまで来れたのは、君の力があったからだよ」
私こそ、ありがとう。そう伝えて、彼女をぎゅっと抱きしめる。いきなりこんなことしてセクハラじゃないかしらと不安になりつつ、彼女も抱き締め返してくれた。
「ぷは……これからも……一緒に走り続けてくださいますか?」
「……喜んで!華の歌姫様!」
満開の花は、これからも咲き誇り続けていく。これからもずっと。私達が走り続けた軌跡に、満開の記憶が咲き続けて行くだろう。
これで、私達のお話はおしまい。私達の描いた花園が、皆の心にも、ずっと咲き続けますように。
















残念。もうちっとだけ続くんじゃ。
もう一度、春がやってきた。フラワリングタイムは宣言通り現役を続けており、今やシニア級でもトップクラスの選手になっていた。次の目標は、春の天皇賞。昨年の屈辱を糧に今年こそ勝ってみせよう。意気込む陣営に、一人の客人が訪れた。
「タイムはいるか?」
「あれ?ナリタブライアンちゃん。今は出払ってるけど、どうしたの?」
「アイツに頼みがあるんだ」
「頼み……?」
彼女の頼みを聞くなり、トレーナーは嬉しそうに、にんまり笑う。これはフラりんも喜んで受けてくれるはず、と大急ぎで本人とURAに連絡を送る。
「もちろん、構いませんよ!むしろ喜んで!」
おおむねそのような返事を、両者から受けたのだった。彼女の頼みを受けてから数日後、ついに天皇賞・春がやってきた。今年の面子もじつに豪華だ。スランプを脱し、再覚醒したマヤノトップガン。冬を経て更に成長を見せたマーベラスサンデー。前年度の覇者、サクラローレル。そして、フラワリングタイムだ。誰も彼もが、時代の頂点を奪い合う最強のウマ娘達。観客動員も、例年以上に盛り上がりを見せた。
『さあ二番人気の登場です!去年の屈辱を今年こそ!ダブルティアラのウマ娘!フラワリングタイム!』
「「「ワァァァァァァァ!!!」」」
と、盛り上がりを見せてから、観客達は彼女の違和感に気付いた。彼女がいつも付けている、エメラルドグリーンの菱形の首飾り。今日はそれがついていないのだ。不思議がる観客を見回してから、フラワリングタイムは徐ろに懐からブツを取り出して見せた。
「おおっ!?」
「アレは……シャドーロール!?」
誰もが見覚えのある、首から下げる白のシャドーロール。迫る影をも跳ね除け、ウマ娘を勝利に導くとされる装飾品。それは、当時を知っている者なら誰もが見たことがあるであろうウマ娘の象徴。
「(付けますよ!ブライアンさん!)」
シャドーロールを首から下げ、見た事のあるポーズで舞台からパドックに降りる。その姿を見れば、誰なのかはもう一目瞭然だろう。
「「「ナリタブライアン!」」」
『なんと!シャドーロールを着けましたフラワリングタイム!その姿はまるでナリタブライアン!…これはどういう事でしょう!?』
困惑する実況者に、隣の解説さんがポンと手紙を渡した。
『おっと!URAからお手紙が届いていますね!どれどれ……引退したナリタブライアン氏の意向により、今日だけはシャドーロールを付けた特別衣装で走るそうです!』
その発言に、観客は驚きと歓喜の渦を起こしはじめる。ナリタブライアンの意志を継ぐのか。彼女ならば継いでも良いんじゃないか。彼女にその役が務まるだろうか。様々な反応があったが。
「皆さん!今日私がこのシャドーロールを付けるのは、彼女の意志を継ぐためではありません!」
鶴の一声で、観客はしんと静かになった。このカリスマ性は彼女に似ている所だろうか。
「私は私として走ります。ですが、今日は彼女の想いと共に走ります。このシャドーロールを受け取った時。ブライアンさんは、もっとライバル達と走りたかったと、私に素直に伝えて下さいました」
そっと手に取る。僅かに色あせたシャドーロールから滲む雰囲気は、数多の激闘を潜り抜けて来た、彼女の想いが刻まれていた。
「私は……走れなかった皆の想いも背負って走りたい。満開の花園に、涙を流す者を出したくは無い。皆が笑って競い合えるレースを目指したい」
必ず、誰かは涙を流す。誰も彼もの苦しみを背負うことはきっと不可能だろう。だけど。
「だから。私は彼女の想いを受け取りました。私が彼女の想いを背負うように……これからを走る皆さんが、負けていった方や、走れなくなってしまった方達のことを、少しでも思い出してあげて下されば嬉しいです」
少しでも、皆の想いが無駄にならない時代を目指したい。華の歌姫はついに最終目標を見つけたのだった。だから、彼女は走り続ける。それはいつか、彼女から教わった教えだ。
「想いは受け継がれていく。ナリタブライアンの走りを。力を。想いを。私が証明してみせましょう」
すぅ、と手に持っていたマイクに息が入る。
「マヤノトップガン!」
「はーい!」
「マーベラスサンデー!」
「マーベラス!」
「サクラローレル!」
「…!」
「そして……会場にいるウマ娘達!全員まとめてかかって来い!今日は私が相手だ!!」
キィーン!と音割れするかのような轟音。彼女らしからぬ大胆な宣戦布告に、会場は一瞬しんとなるが。その意図を理解すると同時に、大歓声が湧き上がる。凄まじい拍手喝采を浴びながら、赤面している彼女はマイクを職員さんに回す。
「(は、恥ずかしかった……)」
壇上から降りると、先程呼びかけたライバル達が彼女を待っていた。その身体は最高潮。各々が最高の状態に仕上がっていた。
「マーベラス★今のスピーチ!とってもマーベラスだったよ!」
「うんうん!マヤ、もうドキドキし始めちゃった!」
「本当だよ。こんなに熱くさせてくれるなんて。レースも期待して良いんだよね」
「もちろんです!最高の状態に仕上げて来ましたよ。宣言通り、全員まとめて倒してあげますよ!」
「マーベラス!そう簡単にはいかないよ!」
「そうそう!今日勝つのはマヤだもんねー!」
「違うよ!フラリアンちゃんに勝つのは私ー!」
楽しそうに喋るライバルに混ざりながら、彼女はちらりと視線を遠くに移した。そこにいたのは、シャドーロールを渡した本人。ナリタブライアンだった。
「(……行ってこい)」
「(はい。……今日は、貴方も一緒に)」

『春GIの季節がやってきた!今年は果たして誰が勝つのか!最長距離GI、天皇賞・春!今年も豪華メンバーに恵まれております!』
「全力で飛ばして行っちゃうよー!」
「マーベラス!今日こそマーベラスにするよ★」
「春!再びサクラを満開に!」
「今度こそ、春の楯を花園に!」

『態勢完了!……今!』


────ガコン!

『スタートしました!』


夢の華道は続いて行く。刻を彩る優駿達と共に。今日もどこかで、あなたの夢、わたしの夢が走ります。


おまけ

歌姫の忘れ物

+ ...
今年も秋の例大祭が行われていた。秋のGI戦線を前に行われるこの行事は、ウマ娘達の現在の姿をファンに見せるのにピッタリな行事だったりもする。そんな中、我らがフラワリングタイムはと言うと。
「やあやあ我こそは富良野与一なり」
「面白い。この扇を射ってみよ」
チームメンバーの皆と時代劇(脚本:ツキノミフネ)に参加していた。和風の勝負服も合うことながら、時代を引っ張る主役級の彼女の大立ち回りは、見るものをあっと驚かせた。
「はっ!」
鏑矢を射抜く。カッ!と雅な音を立て、華麗に奥義が宙を舞う。会場からは思わず拍手が舞い上がる。
「お見事!富良野与一!」
見事な流鏑馬に、船(に見立てた備品)の上に乗っていたボバーっとした子が踊り始める。というか、その強靭な脚力を活かして、爆速で反復横跳びしている。
「富良野よ。あれも射止めよ」
「はっ」
もう一本の矢をつがえ、キリキリと引き絞る。遠くの信じられない速度で反復横跳びするアレを狙う。ホントに撃つの?当たるの?という観客のざわめきとは裏腹に、富良野は落ち着いていた。
「(……そこだ!)」
ヒュッ。
ペタッ。
脳天に矢が直撃。反復横跳びしていたボバーっぽい子は倒れ……はしなかった。流石に今回はおもちゃの矢。当たっても痛くも痒くもないものだ。見事に射抜いた彼女に、観客は安堵と感心の拍手を贈った。
「天晴れ。見事だ富良野よ」
「はっ。有り難きお言葉」
ヒュっと踵を返した彼女の姿は、まさに那須与一そのものだった。ここだけで終わればカッコ良いが、これはチームでの出し物。これだけで終わるわけが無い。
「よくも射抜いてくれたなぁぁぁ」
「えっ」
「今度はこっちの番だ!覚悟しろ!」
相棒のワルサーP38が火を噴くぜ!と言っても、こっちも玩具のペタッとくっつくやつ。二丁拳銃でガン=カタを披露しながら滅茶苦茶に撃ってくるので、フラリンはもちろん、後ろの観客席にも飛んできて大盛り上がりだ。
「くっ!殿!どうしましょう!(……台本にありましたっけ?)」
「ううむ……とんでもない怪物を目覚めさせてしまったらしい。勝ち目は無い!引け!引けー!(もちろん無いよ)」
「待てー!富良野与一!」
バキュンバキュンペタンペタン。蜂の巣になりながらなんとかその場を離れるライジョウ殿と富良野与一なのであった。
「劇がめちゃくちゃだね」
「あはは……学園祭らしくて良いんじゃないですか?」
「んー……まあそう思う」
こういう所も気が合うなあと思いながら、二人はハチャメチャになった時代劇を、役者として存分に楽しんで行くのだった。

「楽しかったですね!」
「うん、とっても〜」
親友のライジョウドウと仲良く出店を周り、今年度のファン大感謝祭も楽しく終わりを迎えた。フラワリングタイムは食べすぎて体重が少し増えたのは内緒だ。
「あ、そうだ。フラりん、エリザベス女王杯に出るんでしょ?」
「はい。そうですね。私がクラシックに残してきた忘れ物……最後のティアラを頂きに参ります」
当時、菊花賞に挑戦する関係で、三冠目のエリザベス女王杯は戴冠出来なかった。当レースが翌年からシニア戦線にも解放されるという点も考慮し、来年度以降に冠を取りに行くと陣営で決断したのだ。
「そっかー。じゃあ厳しい戦いになるね」
「厳しい……ですか?」
「うん。ヴィクトリアちゃんも出るんだって」
「ヴィクトリアさんが!」
最後に走ったのは数年前だが、もちろん彼女も覚えている。ザヴィクトリア。かつて、共にティアラ路線で凌ぎを削った友達にしてライバル。何度もフラワリングタイムが話題に出すもんだから、ライジョウドウも知り合ってるらしく、そこそこ彼女の動向を知っている。
「ありがとうございます。彼女が出るのなら対策を練りませんとね…!」
「ん、どういたしまして」
どんな相手も決して手は抜かない。フラワリングタイムの圧倒的な強さはそこから来ている。ライジョウドウの情報を元に、彼女のこれまでの戦績を探り出す。
ザヴィクトリア。自分たちが菊花賞に挑んでいる頃から低迷が見えていたが、春の重賞を制覇。そこからはコンスタントに重賞やエリザベス女王杯でも掲示板に収まり、今年こそ制覇すると言った具合で駒を進めてきていた。
翌日。他のメンバーもしっかり調べてみたが、やはり一番警戒したいのはザヴィクトリアだろう。ジュニア、クラシックと彼女の豪快な逃げには苦戦させられてきた。
「マークを徹底すれば先行策を強制させられる……後ろに行けば彼女を自由に走らせる事になる……」
加えて、フラワリングタイムは圧倒的な一番人気。実績、実力ともに桁外れと評価されている。その為、全員から鬼のようなマークを受ける。実質、コース上の全員が壁となる。一番前を見ている余裕は無い。
「苦しくても後ろから差すべきか…」
うんうんと頭を悩ませる。ただ、作戦をどうしようかと悩んでいる間はとても楽しかった。クラシックのあの頃。足りない自分の力をどう活かすか考えていた。今それを、満ち足りた自分の力で行っている。成長を実感するひとときだった。
その頃。一緒にいるはずのトレーナーはどうしていたかと言うと。フラワリングタイムの代わりに、相手のウマ娘の視察に赴いていた。
「塚田さん、おはようございます」
「おはようございます。早田さん」
彼女が視察に来たのは、ライバルで二番人気を背負っているザヴィクトリア。彼女の担当、塚田トレーナーの承諾を頂いて、見学に赴いていた。
「本日は見学のお時間を頂き、ありがとうございます」
「いやいや。気にしないで下さい。あいつ、フラリンの担当と聞いたら喜んで承諾してくれましたから」
「それは良かったです。……塚田さんは良かったのですか?自分の手の内を知られるようなマネですが…」
「構いませんよ。あなた達の強さの秘訣は、その圧倒的な情報収集力。今更見られて困るような情報は、こちらにはありませんから」
思えば、ジュニア級からの長い付き合いだ。お互い、今更隠すような情報も無いだろう。こちらの手は筒抜けだし、相手の手もよく読める。それなら快く見学した方がお互いの関係としても好都合だ。
「なるほど。では遠慮なく見させて頂きますね」
ザヴィクトリアの動きは、まさに軽快そのもの。ジュニアやクラシックで見た頃よりも、更に軽やかにスピーディーに走るようになっていた。
「彼女も成長しているんですね」
「はい。…ヴィクトリアのやつ、フラリンと走れると分かってから普段よりやる気を出してましてね。最近は特に調子が良いですよ」
そう言ってザヴィクトリアを見るトレーナーの顔は、明るく希望に満ちていた。まだ彼らは、GIを一つも取れていない。それでも、こんなに良い顔をするんだ、と。早田トレーナーは、塚田トレーナーのするこの顔が、不思議と好きだった。
「……いつか、勝てると良いですね」
「そうですね……って、次は貴方のとこのウマ娘と戦うんですよ!」
「あはは……そうでした」
ライバルを応援するなんてトレーナー失格ですねぇと笑い合いつつ。彼女達との思い出話に花を咲かせる。ザヴィクトリアがトレーニングに行って戻ってこない内に、二人は話しておきたいことがあった。
「……そろそろ、彼女達もあの時期ですね」
「そうですね。すべてのウマ娘に等しく訪れる……」
どんな花も、やがては枯れて散って行ってしまう。ウマ娘の平均競走寿命はおおよそ5〜6年。長い子だと10年ほど続くが、基本的に、最初の3年間の後、個人差で成長期のピークを迎える。その成長期のピークが終わり次第、誰もが緩やかに実力を落としていく。
「……覚悟は出来ていますか」
塚田トレーナーは静かに尋ねた。いつか来るとは分かっていたが、目を逸らしていた。自分達が初めて見た担当が、引退していくのだ。
「……出来ている。と言えば嘘になりますね。怖いです。ずっと一緒にやってきた……彼女が去っていってしまうのが」
「……俺もです。彼女に出来る限りの事をしてやれただろうか。トレーナーとして、彼女の才能を開かせられただろうか。そう思うと不安で仕方ない」
早田トレーナーは、きっと出来る限りの事はしてやれただろう。フラワリングタイムは、大輪で咲いた。けど、次の子はそうじゃなかったら?夢半ばで心が折れてしまったら?
塚田トレーナーも、きっと出来る限りの事はしてきただろう。ザヴィクトリアは、重賞を勝ってみせた。けど、本当はもっと高みへ行ける子ではなかったのか?自分の指導が悪かったのではないか?
きっと、彼女達との別れの時に、結論は出るだろう。彼女達の口から。それを聞くのが、とても怖い。
「「────」」
これからも、彼等は数多のウマ娘達と向き合っていく。その全員を満足に終わらせる事はきっと出来ない。
それでも、指導し続けるんだ。一人でも多く、夢を掴む為に。
「……例え、嫌われる結末になるとしても。彼女達には常に全力で向き合っていたい。そう思います」
「私もそうです。出来る限りのことをやって……それでも、嫌われてしまう時もあると思う。だけど、常に彼女達の事を第一に思いたいです」
彼等の想いは、トレーナーの在り方として、理想的であった。であれば彼等が言われる言葉は、きっといつも変わらないだろう。
「トレーナーさん!ただいま終わりましたわー!」
「……おう、お疲れ様。そろそろ交代時間だから、河原のランニングに切り替えようか」
「承知致しましたわ!……あら、早田さん。見学にいらしていたのですね」
「うん。また前よりだいぶ強くなったね!」
「ありがとう存じますわ!今やフラりんにも負ける気はしませんのよ!」
「うへー、それは怖いねぇ。でも負ける気はないよ。うちのフラりんも、君とやる気満々だからね!」
「望むところですわ!とお伝えくださいませ!では、私は準備がありますのでこれで!」
「またね!……元気で良い子ですね」
「そうですね。本当に元気で、明るくて、周りを照らすような子です。彼女の担当になれて……良かった」
「……塚田さん」
「……やばっ。ちょっと今の恥ずかしかったですね。すみません、自分も準備があるので行きますね」
「はい。行ってらっしゃい!見学ありがとうございました!」
「……どういたしまして!」
駆け足で、笑いながらそう言った。
……素敵だなぁ。







GI、エリザベス女王杯。トリプルティアラの最終冠という立ち位置から外れて、ティアラ路線の最強女王を決めるレースに変化を遂げていた。けれどもこの日だけは、観客はティアラ路線を見ているかのような高揚感に包まれていた。
それもそのはず。時代を担う、最強の女王。彼女が忘れていった、最後の冠を頂きに上がったのだから。万雷の拍手と、数多の歓声が会場を包み込む。
『さあ!お待たせ致しました!本日の主役の登場です!時を超え、今掴み取れ、最後の冠!』
彼女の支持率は驚異の50%超え。京都レース場に押しかけた観客の半数以上が、そのウマ娘のファンになっていた。圧倒的一番人気。そのウマ娘の名は。
『ダブルティアラの最強女王!フラワリングタイムの入場です!』
彼女の入場と共に、興奮は最高潮に達する。ティアラ路線には似つかわしくない、喧騒に近しい盛り上がり。けれど、ティアラ路線のファンのマダム達はそれを容認した。彼女の花園は、それ程までに大きく、強く、美しいものだから。
「ワォ!とってもマーベラス★」
「流石フラりんだね!よーし、マヤも精一杯応援しちゃうぞー!」
「私も!頑張れー!フラりーん!……ほらほら、ブライアンちゃんも!」
「………これで良いか」
フリフリと応援うちわを振る。その可愛らしさと、珍しい素直さに、サクラローレルはクスリと笑った。今日は全員揃って、ライバルの応援。
「(……こんなにも沢山の方に、応援して貰える私になれた)」
フラワリングタイムは、大歓声の中を進む。パドックに立つと、高らかに拳を天に突き立てた。ひとつ。ふたつ。ピースサイン形に、指を立てていく。
「(今日は皆さんに、最高の私を!)」
そして、みっつめの指を立てた。
言葉を発さずとも、その意図を。誰もが即座に理解した。そして、大いに盛り上がった。ついに届くのか。まさに異例の変則三冠。大歓声を浴びながら、準備運動を進めていく。
「……」
14人。女王以外の、ターフに揃った精鋭達。彼女達はGI級。だが、フラワリングタイムの威圧感に押されていた。実績が違う。次元が違う。ケタが違う。必死に、その震えを気張って正していた。
……ただ一人を除いて。
「フラりんさん」
「ヴィクトリアさん。……仕上げてきましたね」
「ええ。今日この時、貴女を倒す為に。……いつか渡した手紙の事、覚えていらっしゃいますか?」
「もちろんです。落ち込みそうだった時、貴女の手紙に励まされました。そして、学ばされました。上に立つ者がどうあるべきか。私が女王でいられるのも、貴方の手紙のお陰です」
「……ふふ。それは良かった。では後半の内容も、覚えていて下さりますわよね」
「もちろんです。貴女がしてきた努力を……すべて私にぶつけて下さい。その上で、私がそれを上回る!」
「それでこそ。さあ行きましょう。その傲慢ちきな玉座から、引きずり下ろして差し上げますわ!」
「望むところです!」
三冠か。新たなる女王の誕生か。やわらかな秋の陽射しに照らされながら、最強の女王を決める気高き戦いが幕を開けた。
『いよいよゲートインです!落ち着いて、ウマ娘達が続々とゲートに収まって行きます!』
京都レース場。芝2200m右回り。天候は晴れ。パンパンの良バ場。女王好みのコースだ。全員のゲートインが終わり、態勢完了する。
「(私の走りで、最強を証明してみせます。そして……)」
「(私の走りで、最強の貴女を超えてみせます。そして……)」
「「(……一番前で、私が勝つ!)」」
『さあ女王を目指して!栄光のレースが今!』
────ガコン!
『スタートしました!全員揃って横一列!綺麗なスタートです!』
大歓声に見守られながら、15人のウマ娘が一斉に駆け抜ける。最初に立ち上がったのは、逃げウマ娘のエイシンサニー。グングンと速度を上げて、集団の一番前へ躍り出る。
「(フラリンもヴィクトリアも怖い…!勝つなら、私が主導権を握る!)」
『外からエイシンサニーがグングン伸びて先頭!ビワエイジも果敢に押して行きます!……あれ?』
ふと、解説が不思議に思った。それと同時に、会場も不思議などよめきに包まれる。ティアラ路線を見ている者なら知っているはずなのだ。いつも、全力で競り合いを制して前を取るウマ娘がいることを。先行集団も、その違和感に気付いた。
「(おかしい……!ヴィクトリアがいない……!?)」
『な……なんと!?二番人気のザヴィクトリア後方!出遅れたか!?前を譲り、後ろに控えました!』
ザヴィクトリアが走っているのは、普段の作戦とは大きく異なる、後方集団。逃げて後ろを突き放す彼女らしからぬ走り方だった。
「……いや。あれは出遅れじゃないよね」
「ああ。スタートは間違いなく綺麗に出ていた」
「うんうん。出てすぐにペースを落としてたもんね!」
ライバル達を含め、観客席の何人かは理解していた。あれは出遅れでは無い。彼女は意図的にその位置に陣取った。その理由は何故か。決まっている。得意な策を捨ててまで、わざわざその位置に陣取るのだ。
「(私が見たいのは……ただ一人!)」
「(前に付かれた……!)」
一番人気。フラワリングタイムへの徹底的なマーク。その一点に他ならない。どよめく会場とは裏腹に、彼女の表情は自身に満ち溢れていた。
「(トレーナーさんと……貴方をいつも見て来ましたわ…!)」
ティアラを制し、貴方が遥か高みへ行ってしまっても。私達はいつも貴方の幻影を追っていた。届かなかった走りの時も。貴方が強豪達と時代を奪い合う時も。横に並べぬ自分を叱咤激励して、貴方を追い続けた。
「(貴方に勝つために……私は今ここにいる!)」
「(っ……!?)」
信じられない威圧感を放つ。その異質さに、周りのウマ娘も思わず緊張が走った。観客席のトレーナーも、彼女の作戦の成功に僅かに笑みを浮かべた。
「いいぞ…その調子だ……!」
「ヴィクトリアちゃんが差し…!?塚田さん、もしかして隠してました?」
「……はい。今日この日、フラワリングタイムを倒す為に。早田さんには悪いけど……隠れてトレーニングさせて貰いました」
「っ………」
やられた。フラワリングタイムには何か奇策があるはずと伝えてはあったが、まさか後方に付いてマークしてくるとは。
『エイシンサニーが後続を引き連れて向正面へ!後ろとは三バ身くらいでしょうか一人旅!』
「(……流石はヴィクトリアさん。私の事をしっかり研究してきている)」
得意な最内を詰め、苦手なマークを徹底し、揺さぶるようなリズムでこちらの前後を移動している。下手に外へ避けようものなら、ザヴィクトリアとの距離差が大きく開く。
「(ですが……それも想定内です!)」
トン、とリズムが僅かに乱れた。それはフラワリングタイムの後退。速度を落としてマークが厳しい後方集団から離れ、最後方集団に出来ている広い空間に自らを下げた。
「(ここで後退……どういう意図が…)」
妙な動き。ザヴィクトリアは即座に思考を巡らせた。後ろに下がった所で、最内は自分が入っている。押し出して強引に抜けるのは不可能だ。かと言って、ただマークを外す為だけに後ろに下がるのはリスクがありすぎる。
「(……まさか……!)」
そして辿り着いた。彼女のやろうとしている事の答え。フラワリングタイムが最後方に下がってまでマークを外しに来た理由。
「……仕掛ける気だな」
観客席。意図を理解したナリタブライアンが呟いた。フラワリングタイムが後ろに下がった理由。それはマークを外すと同時に、最後の末脚比べに全てを賭けるつもりだ。
元より、フラワリングタイムは他の誰よりも末脚が強い。最強の豪脚を用いて、全員を一瞬でごぼう抜きにするつもりだ。そのためか、彼女の動きは既に脚を溜める動きに移行している。
「(っ……フラりんさん…貴方だからこそ出来る芸当……!)」
ザヴィクトリアは彼女の後退に着いていけない。もしそんな真似をすれば、絶対に勝てない末脚勝負に持ち込まれてしまう。更に、前のウマ娘達を抜かせるかさえ怪しくなる。
だが。フラワリングタイムならそれが出来る。ザヴィクトリアも、他のウマ娘達もまとめてなで切る。
「(落ち着け……私の脚なら届く。前までおよそ十三バ身…届いてみせる!)」
まさに、時代を彩ってきた最強の女王であるから出来る走り。その強心臓と、圧倒的な自信が、周りのウマ娘達を更に萎縮させていく。
『さあ前半1000mの通過タイムは59秒4!少々速いでしょうか!まずまずのペース!』
エイシンサニーが引っ張った分、全体はやや速く流れている。フラワリングタイムとしては追い風だ。前が速ければ速いほど、全員の体力に余裕は無くなる。その分だけ、温存していた後ろが詰められる。
「(仕掛けるにはまだ早いですわね…淀の坂……そして、フラりんさん)」
マークしていたはずの彼女が、後ろに隠れている。こちらから見えないと言うだけで、威圧感が凄い。流れる汗の中に、冷や汗も混ざっているかもしれない。それでも、ザヴィクトリアは冷静に勝機を伺う。
「(彼女に勝負を仕掛けるなら第三コーナー。いくらフラりんさんでも一筋縄であの坂は通れないはず。淀の魔物を味方に付けますわ!)」
京都レース場第三コーナーに聳える高低差3mの坂。並のウマ娘であれば、ここを勢いよく登ったりしてしまえば、最後の直線で魔物に脚を掬われる。故に、勝負が大きく動くのなら、確実にこの場所だろう。
「(フラリンにもヴィクトリアにも前は渡さない!先頭でゴールするのは私だ!)」
そして、ついに第三コーナー。ウマ娘達はゆっくりと坂を登り、勢いを付けて下っていく。まさにお手本のようなGI級の走り。
だが。
彼女は違った。
「っらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
第三コーナーの登り。淀の坂を全身全霊で駆け登り、スピードをそのままに周りのウマ娘達をごぼう抜きにしていく。
「「「!?」」」
とんでもない走りに、会場は更にどよめいた。セオリーを無視した、型破りな峠越え。そんな真似をすれば魔物と化した坂の負担が、膝に。足首に。脚に。全身に。ずしりと重たくのしかかる。
「(ぐ……!やはり応えますわね……!でも……!)ま、だまだァ!!!」
「(しまった……!)」
まさに、命懸けの乾坤一擲。もし、走る力が切れてしまえば。もし、走るスタミナが尽きてしまえば。勝負にさえならない。無茶を通り越した無謀に等しい行為。
だが、それでも。
そうしてでも。
彼女はフラワリングタイムに勝ちたかった。
『すごい!すごいぞ!ザヴィクトリア!坂を一気に駆け下りて今!先頭に並びかけています!』
「私が……勝ああああああつ!!!!」
────ピシッ…
と。空気が僅かに揺れる。ザヴィクトリアもついに。彼女もまた、目覚めようとしていた。時代を動かす優駿の一人に。
「(…流石です、ヴィクトリアさん。私の為に数々の作戦を用意して……本当に貴方は……!)」
本当に、最高のライバルだ。だからこそ。最強の女王として、ザヴィクトリアのライバルとして。貴方に敬意を表そう。
今こそ見せよう。満開の華園を。歌ってみせよう。永遠に続く栄光を。幾千の。幾万の。数多の華を。
咲かせ。咲かせ。咲かせ。
摘んで。摘んで。摘んで。
さあ開け。満開のブルームガーデンよ。さあ仰ぎ見ろ。数多の華を摘み束ねた女王の姿を。
『最強』とは、こういう事だ。
……今こそ、開花の刻。
《千紫万紅・華の歌姫》
────ドッ!!!
空気が揺らぐ。華が開花する。第四コーナー。一足先に先頭へ抜けたザヴィクトリアを、後方から一気に強襲するフラワリングタイム。その作戦は、まさかの大外ぶん回し。得意な内側を捨てて、末脚にすべて賭けて勝負に出た。
「(なんてスピード……!)」
「(これが女王……ッ!)」
圧倒的な力で次々とウマ娘を抜き、最終直線であっという間に先頭集団へと食らいついた。その鬼のような末脚に、観客席は信じられない程の盛り上がりを見せる。
「来た!来た!行けー!フラりーん!」
「頑張れーっ!」
「届けえぇっ!!」
残るは、先頭を進むザヴィクトリアただ一人のみ。それは奇しくも、あるいは運命なのか。いつかのティアラ路線の最後を飾るような形の勝負になった。逃げるザヴィクトリア。追うフラワリングタイム。その差は徐々に縮まっていく。
「(追い…付かれる……!)」
ラスト1ハロン。ザヴィクトリアの手足は既に限界を迎えていた。後ろから猛追する華の歌姫。淀の坂での無茶が祟ったか。一秒がものすごく遅く感じる。もう少しなのに、脚が全然前に進まない。あと少し耐えれば、彼女に勝てるのに。
「(負けたくない……負けたくない……!)」
何か、打開策は。縋るように、僅かに視線を横に向けた。
そして、見えた。
嬉しそうに走る、ライバルの姿が。
嗚呼、良かった。
あなたも……同じなんですのね。私もこのひとときが、最高に楽しい。そして、最高に負けたくない。ご存知でしょうけど、私は負けず嫌いなんです。貴方に負けず劣らず。
そして、見えた。
精一杯応援してくれる、大好きなトレーナーさんが。この時の為に、全身全霊を捧げてくださった、大切なパートナー。どうか見ていてください。私が咲くところを。
花園を、超えるところを。
────ピシリ…

《The Victoria》

「っあああああああああ!!!!」
ついに目覚めた。交わされるかと思ったその瞬間、ザヴィクトリアは渾身の力を振り絞り、粘り込みを見せ始める。彼女の闘志に観客は思わず大盛り上がりを見せる。
彼女は負けない。走り続ける。瞳の先にある、勝利だけを目指して。
『譲らない!粘る!粘るぞザヴィクトリア!だがフラワリングタイムも諦めない!迫る!粘る!迫る!』
「頑張れ!フラりん!」
「行け!ヴィクトリア!」

「あああああああああああっ!!」
「はああああああああああっ!!」

気付けば、二人は綺麗なターフの上に立っていた。目の前にいるのは、いつも隣で競い合ったライバル。誰もいない、二人きりの空間。喧騒のないターフは静かで、綺麗で、少しもの悲しかった。
『思えば、随分と長く走って来ましたわね』
『そうですね。それぞれ、違う道を進みましたが……よく思い出すのは、貴女とのレースでした』
『私もです。貴女がいてくれたから私は走り続けられた。私の最高の目標でいてくれてありがとう。フラりんさん』
『どういたしまして。こちらこそ、私のライバルとして、最高の友達でいてくださって、本当にありがとうございます。ヴィクトリアさん』
歩みを進める度、二人の後ろには華が咲いていく。なんとも綺麗で、途方も無く伸びていて、美しい。華が増える度、喧騒が戻ってくる。夢の時間が、終わろうとしている。
『貴方に、伝えたい事があります』
『奇遇ですね。私もです!』

『これからも、最高の関係を!』






「「はああああああああああっ!!」」
『並んだ!並んだ!三冠か!栄光か!二人のウマ娘が並んで今!ゴールイン!!』
突き抜けた。最後のゴール板を駆け抜けて、二人は満足そうに、芝に思い切り倒れ込んだ。悔いは無い。どちらも、やれるだけの事をやって全力でぶつかりあったレースだから。
先頭を駆け抜けた二人は、すぐに掲示板を見はしなかった。ただ息を整えながら、最高のひとときを駆け抜けた戦友に、感謝の想いを向けていた。
「出し切り……ましたわね……」
「はい……私の持てる全部……」
「ふふ……それは良かった。どんな結果でも…悔いはありませんわ」
「私もです。……せーので見ましょうか」
「ええ。……行きますわよ!」
「「せーのっ!」」

1着 フラワリングタイム 2:10.5
2着 ザヴィクトリア ハナ
3着 エイシンサニー 7バ身

「「────っ!!」」

『結果が出ました!勝ったのはフラワリングタイム!二年の時を経て、今!変則トリプルティアラを達成しました!』
「「「「ワァァァァァァァァァァッ!!!!!」」」」
決着が着いた。勝ったのは、フラワリングタイム。これで正真正銘、フラワリングタイムは変則三冠をその手にしたのだった。結果が出ると同時に会場は大盛り上がり。それと同時に、驚愕に包まれていた。
「凄いよフラりん!…って言うか、2分10秒5って……」
掲示板に灯る、レコードの文字。シニア開放後に行われた、前年度の覇者の記録を、4秒近くも塗り替える驚異のレコード更新。誰もがその力を認める、まさに最強の女王。
「届かなかった上にレコード……完璧にやられましたわね……」
「はい。私の勝ちです。でも、私がここまで速くなれたのは、ヴィクトリアさん。貴方のお陰です」
「どういたしまして。負けた私を労う癖も、本当に変わりませんわね。…あの頃からずっと」
負けた私にも、優しくしてくれる。あの頃はその優しさが、とても痛かった。拙い慈しみが、嫌味にしか感じ取れなかった。お互いに、幼かったからだろう。
「‎そうですね…変わらないです。やっぱり一緒に走ってくれた方にも、出来る限り、笑っていて欲しいですから。燃えるような、素敵なレースをありがとうって、感謝を伝えたい」
「……フラりんさん…」
「だから、私は走り続けます。貴女の悔しい気持ちも背負って。先頭に立ち続けます。数多のウマ娘を打ち負かして作った、花束を背負って。それが、共に走って下さった皆さんへの感謝…ですよね!」
本当に貴女は、傲慢で、とても強くて、眩しくて、とても優しい。すべてを背負って立とうとする姿は、まさに女王の座に相応しい。
「まったく…貴女は本当に……立派ですわね。それでこそ、私が認めたライバルですわ!」
「えへへ…ありがとうございます。貴女の走りも、素晴らしかったです。私の…最高のライバル!」
ぎゅっと、硬く握手する。史上稀に見る苛烈なデッドヒートを披露してくれた二人に、場内から温かい拍手が贈られる。女王を祝福するかのように、フラりんコールが場内で湧き上がり始めた。
「…あら。皆が貴女を呼んでいますわ。行って来なさい。私達の頂点に立つ、華の歌姫さん」
「はい。行ってきます。ヴィクトリアさん。……また走りましょう!」
「ええ!」
親友に送られて、彼女は大観衆の前に立った。そうして、トリプルティアラを制覇した証として、三本の指を高々と掲げたのであった。
「おめでとー!フラりーん!」
「マーベラース!☆」
「おめでとうー!」
「……フッ。やるな」
ありがとうございます、と感謝の一礼をしてから、彼女は地下バ道へと向かった。大騒ぎの舞台の喧騒から離れると、控え室のパートナーの元へと向かった。
「トレーナーさん!」
「フラりん!おかえりなさい!」
「ただいまです!」
ぎゅっと、優しく抱きしめ合う。もう何度目かも分からない、最高の勝利を二人で分かち合う。沢山の花束を、そっと彼女に手渡すように。
「遂に辿り着けましたね。目標のトリプルティアラに!」
「うん!おめでとう!しかもレコードで勝つなんて、君は最高のトリプルティアラだよー!」
「えへへ…ありがとうございます!」
「ふふ……そっかぁ……フラりんがちゃんとトリプルティアラになれたんだ……」
花開き、ついに実った夢。トレーナーは感動に涙腺を刺激され、ポロポロ涙を零してしまっている。何年も一緒に歩んできた担当だ。嬉しくて嬉しくて仕方ないだろう。フラワリングタイムは、彼女を優しく抱きしめて、頭を撫でた。
「貴女が私を育てて下さったから、夢を叶えることが出来ました。ありがとうございます。トレーナーさん」
「こちらこそ、沢山のタイトルをありがとう!嬉しい…おめでとう…!夢が叶って良かったね……!」
ぐすぐすと泣いている彼女を、満開の笑顔で包み込んだ。一緒に夢を叶えてくれてありがとう。でも、まだ道は続いていますから。これからも最高の走りを魅せて行きましょう。
私と、貴女と二人で。

『貴女を選んで、良かったです!』

遠い未来で。きっとそう答える。最後まで、気高く咲き続けよう。開花の刻は、まだ終わっていない。









その日、変則トリプルティアラ達成記念として、特別に彩fantasiaが歌われた。歌い慣れた二人のライブパフォーマンスは見事なもので、観客は魅入られたとかなんとか。
「…悪い。勝たせてやれなかったな」
「構いませんわ。今日はフラりんさんと全力で競い合えましたもの。悔いはありません」
ライブ後の帰り道。友人達との会話を済ませて、ザヴィクトリア陣営も帰路に付いていた。
「……そうか…」
「……何を暗い顔をなさっているの!私が満足と言ったら満足ですわ!貴方が恥じる必要は無くってよ!」
「…君はそう言ってくれるか。優しいな」
でも、ダメなんだ。どんなに頑張っても、負けは負け。勝たせてやれなかった奴はダメトレーナーだ。彼のもの悲しげな背中を、ザヴィクトリアはぶっ叩いた。
「いでっ!?」
「……なにをぼさっとしていますの!負けは負け!さっさと認める!その上で次どうするかを考えるのが貴方の仕事でしょう!」
「ははは……手厳しいな。…どうしても悔しくてさ。君に勝利を届けられなかったことが」
「……ええ。その気持ちは、よく伝わっておりますわ。今日の為に、必勝の作戦まで考えて下さっていた。それで届かなかったのですから、私の力不足ですわ」
「いや、君は完璧に動けていた。俺の指導不足だ」
「……私ですわ」
「……俺だって」
「私です!」
「俺だって!」
ぐぬぬぬぬ……といがみ合ってから、二人揃ってふぅ、と息を付いた。分かっている。二人で、完璧なコンビネーションを発揮して、その上で、フラワリングタイムに叩き潰されたのだ。どちらが悪いとか、そういう話では無い。
「……君の言う通りだ。次どうするかをきちんと考えるよ。今日の君は本当に強かった。その脚で、次こそ大きなタイトルを掴もう!」
「ええ!任せてくださいまし!次こそ私が最強の座に立ってみせますわ!おーっほっほっほ!」
お互い、相手のど根性が気に入っていた。どんなに負けても、打ちのめされても、最後は必ず立ち上がる。そんな彼(女)が、大好きだった。

彼女が、GIタイトルを獲得するのはもう少しだけ先のお話だ。
彼女も、遠い未来、きっとこう言うだろう。
『貴方を選んで、良かった!』









彼女達の物語は続いて行く。ターフに、満開の華が咲いて、散って、また咲いていく。流れ行く時の中で、名を刻んでいく優駿達。彼女達は走り続ける。瞳の先にある、ゴールだけを目指して。

『新しい担当の子ですか?』
『うん!とても速くて、見込みがあるんだ!』
『それは楽しみです!早速会いに行きましょう!』
『初めまして!私は早田サツキ。こっちは……って、知ってるか!』
『はじめまして。フラワリングタイムです。よろしくお願いします!』
『早速自己紹介してもらおっか!まずお名前からどうぞ!』
『は、はいっ!私の名前は………』
またひとつ。
小さな蕾が、ターフに芽吹いた。


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