煌煌と白く輝く太陽が赤みを増して沈みゆく一日の暮れ。同室の友人と別れ、三女神像の前でウマホを片手に空を仰ぐ。時刻にして午後五時を迎えようとする、逢魔時或いは大禍時。汗ばむ額を拭い、改めて時刻欄を見つめる。
「――ライトニーングっ⚡」
「――ッ!?……ホーラ先輩でしたか、お疲れ様です!」
「お疲れ様、ライトニング⚡興味持ってくれてホーラも嬉しいから!」
背後からの声に振り返ると、そこに居たのは私と同じくジャージに身を包んだ少女。気を抜いていたせいで危うく「ダメな顔」を晒し掛けたけど、何とか踏み止まれたと思う。
……瞳の中に鮮烈な稲妻を湛えて微笑みかけてくる、ライトニングホーラことホーラ先輩。日に照らされてなお水色に輝く髪と、同じ色を持つ瞳。気持ち3cmほど背が高いので、私がホーラ先輩の顔を見上げる構図になる。
同じチーム&同じ寮ということで、挨拶したりトレーニングをご一緒する機会はあった私達。そんな私が彼女を待っていた理由は、少し前に遡る……
「――ライトニーングっ⚡」
「――ッ!?……ホーラ先輩でしたか、お疲れ様です!」
「お疲れ様、ライトニング⚡興味持ってくれてホーラも嬉しいから!」
背後からの声に振り返ると、そこに居たのは私と同じくジャージに身を包んだ少女。気を抜いていたせいで危うく「ダメな顔」を晒し掛けたけど、何とか踏み止まれたと思う。
……瞳の中に鮮烈な稲妻を湛えて微笑みかけてくる、ライトニングホーラことホーラ先輩。日に照らされてなお水色に輝く髪と、同じ色を持つ瞳。気持ち3cmほど背が高いので、私がホーラ先輩の顔を見上げる構図になる。
同じチーム&同じ寮ということで、挨拶したりトレーニングをご一緒する機会はあった私達。そんな私が彼女を待っていた理由は、少し前に遡る……
数日前。私達が在籍するチームのグループチャットに、一枚の写真が投稿された。
【⚡全国ガチ心霊スポット巡り⚡】
そう書かれた看板を担ぎ、キラキラした視線をカメラのレンズに向けていた、他ならぬホーラ先輩の姿。元々夜にホラー映画鑑賞会を実施したいとか、色々な催しを提案してくれていた娘だ。海外の出身ということもあって、そのレパートリーは本当に多岐に富んでいた。
……ただ、一つだけ問題があったとすれば。私達のチームのウマ娘、大体……うん、割と大半が、ホラーとか恐怖体験とかがダメな面々だったってこと。なのでまあ、悲しいことにホーラ先輩の投稿はスルーされてしまっていた。そんな中で声を上げる勇気というか、チームの中で話を広げるのはマズいと思ったので……
『ホーラ先輩、ミラージュです! 心霊スポット巡り、ちょっと興味あるので教えてもらっていいですか?』
『もちろん⚡ライトニング⚡せっかくだし直接会って話す?』
個人チャットの方にメッセージを送ってみたら、思った以上に反応が良くて。
そんなこんなで、お互いのトレーニングの予定が合う日に合流することになったのが、今回の顛末。
【⚡全国ガチ心霊スポット巡り⚡】
そう書かれた看板を担ぎ、キラキラした視線をカメラのレンズに向けていた、他ならぬホーラ先輩の姿。元々夜にホラー映画鑑賞会を実施したいとか、色々な催しを提案してくれていた娘だ。海外の出身ということもあって、そのレパートリーは本当に多岐に富んでいた。
……ただ、一つだけ問題があったとすれば。私達のチームのウマ娘、大体……うん、割と大半が、ホラーとか恐怖体験とかがダメな面々だったってこと。なのでまあ、悲しいことにホーラ先輩の投稿はスルーされてしまっていた。そんな中で声を上げる勇気というか、チームの中で話を広げるのはマズいと思ったので……
『ホーラ先輩、ミラージュです! 心霊スポット巡り、ちょっと興味あるので教えてもらっていいですか?』
『もちろん⚡ライトニング⚡せっかくだし直接会って話す?』
個人チャットの方にメッセージを送ってみたら、思った以上に反応が良くて。
そんなこんなで、お互いのトレーニングの予定が合う日に合流することになったのが、今回の顛末。
~~
「へえ……!中京レース場の近くに、そんな場所があるんですか!」
「日本だと小学生でも習うって聞いたよ!カジちゃんも知ってたみたいだしね!」
ホーラ先輩から色々なスポットの話を聞き、手元に書き留めていく。一応この話のために買ってきた新品のメモ帳……他の先輩とかに見られちゃったら申し訳ないからね。ちなみに今聞いていたのは■■■古戦場近辺の話。歴史では知っていたけど、こういう話に繋がるのは知らなかった。勉強になる。
「ちなみに⚡カジちゃんが今回の話に興味持ってくれたのって、どうしてなの?」
「あー、えっとですね……」
当然気になる疑問、ただ私にとっては中々クリティカルな質問が投げかけられる。どこまで言ったものか、お化け屋敷でニコニコ笑顔を浮かべて、フラりんさんにビビられた話をするのは色々申し訳ないし。だからといって、ガチ心霊の前に怖がる練習をしたいからとか、理由としてはふざけすぎてるし……
「心霊スポット自体にも興味はあったんですけど」
「うんうん」
「……ホーラ先輩と、色々ご一緒してみたいって思ったからですね。これを機にお近づきになりたいなって……!」
「うんうん、そう言ってもらえると嬉しいな!ホーラもカジちゃんと話したりしたかったし⚡」
うん、嘘は一つたりとも言ってない。実際、お化けの話とかだいぶ興味あったし。人を怖がらせる存在、人の心に残り続ける存在。そういうのに憧れないかって言えば、それこそ嘘になる。
それに、ホーラ先輩も。芝中長距離を主戦にするウマ娘っていうのは、日頃のトレーニングを見ていても分かる。デビュー時期とかは聞いてないけど、時期次第ならシニア級で戦うことになることだってあり得るわけで。交流を広げたいって意味でも、未来の対戦相手を知るって意味でも……彼女とは交流してみたいと思っていたわけだ。
「それじゃ、今度みんなでレース行くとき巡ってみよう!カジちゃんの勉強とかに負担掛けてもダメだしね!」
「はい、その時は是非……!」
ということで、無事交渉は締結。遠方に向かうのは夏休みとかレース遠征とかの時期に合わせることにして、しばらくは近辺を回ることになった。ちょっと悲しい言い方かもだけど、こうして誰かと遊びに行く約束とかもしたこと無かったんだよね……ご一緒させてもらうからには楽しまなきゃ!
「日本だと小学生でも習うって聞いたよ!カジちゃんも知ってたみたいだしね!」
ホーラ先輩から色々なスポットの話を聞き、手元に書き留めていく。一応この話のために買ってきた新品のメモ帳……他の先輩とかに見られちゃったら申し訳ないからね。ちなみに今聞いていたのは■■■古戦場近辺の話。歴史では知っていたけど、こういう話に繋がるのは知らなかった。勉強になる。
「ちなみに⚡カジちゃんが今回の話に興味持ってくれたのって、どうしてなの?」
「あー、えっとですね……」
当然気になる疑問、ただ私にとっては中々クリティカルな質問が投げかけられる。どこまで言ったものか、お化け屋敷でニコニコ笑顔を浮かべて、フラりんさんにビビられた話をするのは色々申し訳ないし。だからといって、ガチ心霊の前に怖がる練習をしたいからとか、理由としてはふざけすぎてるし……
「心霊スポット自体にも興味はあったんですけど」
「うんうん」
「……ホーラ先輩と、色々ご一緒してみたいって思ったからですね。これを機にお近づきになりたいなって……!」
「うんうん、そう言ってもらえると嬉しいな!ホーラもカジちゃんと話したりしたかったし⚡」
うん、嘘は一つたりとも言ってない。実際、お化けの話とかだいぶ興味あったし。人を怖がらせる存在、人の心に残り続ける存在。そういうのに憧れないかって言えば、それこそ嘘になる。
それに、ホーラ先輩も。芝中長距離を主戦にするウマ娘っていうのは、日頃のトレーニングを見ていても分かる。デビュー時期とかは聞いてないけど、時期次第ならシニア級で戦うことになることだってあり得るわけで。交流を広げたいって意味でも、未来の対戦相手を知るって意味でも……彼女とは交流してみたいと思っていたわけだ。
「それじゃ、今度みんなでレース行くとき巡ってみよう!カジちゃんの勉強とかに負担掛けてもダメだしね!」
「はい、その時は是非……!」
ということで、無事交渉は締結。遠方に向かうのは夏休みとかレース遠征とかの時期に合わせることにして、しばらくは近辺を回ることになった。ちょっと悲しい言い方かもだけど、こうして誰かと遊びに行く約束とかもしたこと無かったんだよね……ご一緒させてもらうからには楽しまなきゃ!
~~
「そういえばカジちゃん」
「はい?」
色々教えてもらって時間も経っていたのか、あんなに赤かった夕日も沈み星々が顔を覗かせ始める。夏も近いとはいえ少し涼しくなり始める時間、そろそろ別れた方がいいかなと思い始めたところで、ホーラ先輩から声を掛けられた。
「いつものギラギラしたカジちゃん、今日は見せてくれないの?」
「……えーっと、何の話です?」
ちょっと待っていつ見られてた?エスキーちゃんにはバレてるけど言いふらすとも思えないし、エノラちゃんにはまだ気付かれていないはず。出任せを言っているようには思わないけど、このくらいの踏み込みなら騙し切れないかな。というか……
「ギラギラしてるって、ホーラ先輩の方が似合うと思うんですけど?あの、如何にもビリビリしてるって感じ」
「……ライトニーング⚡」
笑顔を保ちながら、しかし私を見下ろす眼光──稲光が鋭くなるホーラ先輩。……私が彼女に興味を持った、もう一つの理由。
ライトニングホーラというウマ娘は、普段のアッパーテンションな、それでいて人を惹き付けるような振る舞いとは裏腹に……一度レース場に立てば、周りに立つ者全てを怯えさせることもあるという。
率直に言って……最初に感じたのは、親近感。暗い自分を隠すために振る舞いを作っている私と並べられるのは、きっと業腹だろうけど。怯えという記憶を刻み込む彼女、絶望というトラウマで心を塗り潰したい私。……普段と、本性の、違い。彼女の事を知れば、私が『私』を作る為の何かに繋がるかもしれない……エノラを含め、他のチームメンバーに抱かなかった感情が、彼女にだけは向いた。だから……こんな形で声を掛けたというのもあるんだろう。
「……な、なーんて!ごめんなさい変なこと言っちゃって!ビリビリしてるとか失礼しました!」
「気にしてないない!誰かが乗り移ってたり雰囲気が変わったりするのもホラーの王道だから、ね!」
けど、ホーラ先輩の素性を深掘りしてこっちがバレるのはダメだし。ちょっと退かせてもらおうかな、ホーラ先輩も意図を汲んでくれたみたいだから。
今日はただ、名所巡りについて相談した先輩と後輩。そんな関係だけで十分、ということにさせてもらおう。
「はい?」
色々教えてもらって時間も経っていたのか、あんなに赤かった夕日も沈み星々が顔を覗かせ始める。夏も近いとはいえ少し涼しくなり始める時間、そろそろ別れた方がいいかなと思い始めたところで、ホーラ先輩から声を掛けられた。
「いつものギラギラしたカジちゃん、今日は見せてくれないの?」
「……えーっと、何の話です?」
ちょっと待っていつ見られてた?エスキーちゃんにはバレてるけど言いふらすとも思えないし、エノラちゃんにはまだ気付かれていないはず。出任せを言っているようには思わないけど、このくらいの踏み込みなら騙し切れないかな。というか……
「ギラギラしてるって、ホーラ先輩の方が似合うと思うんですけど?あの、如何にもビリビリしてるって感じ」
「……ライトニーング⚡」
笑顔を保ちながら、しかし私を見下ろす眼光──稲光が鋭くなるホーラ先輩。……私が彼女に興味を持った、もう一つの理由。
ライトニングホーラというウマ娘は、普段のアッパーテンションな、それでいて人を惹き付けるような振る舞いとは裏腹に……一度レース場に立てば、周りに立つ者全てを怯えさせることもあるという。
率直に言って……最初に感じたのは、親近感。暗い自分を隠すために振る舞いを作っている私と並べられるのは、きっと業腹だろうけど。怯えという記憶を刻み込む彼女、絶望というトラウマで心を塗り潰したい私。……普段と、本性の、違い。彼女の事を知れば、私が『私』を作る為の何かに繋がるかもしれない……エノラを含め、他のチームメンバーに抱かなかった感情が、彼女にだけは向いた。だから……こんな形で声を掛けたというのもあるんだろう。
「……な、なーんて!ごめんなさい変なこと言っちゃって!ビリビリしてるとか失礼しました!」
「気にしてないない!誰かが乗り移ってたり雰囲気が変わったりするのもホラーの王道だから、ね!」
けど、ホーラ先輩の素性を深掘りしてこっちがバレるのはダメだし。ちょっと退かせてもらおうかな、ホーラ先輩も意図を汲んでくれたみたいだから。
今日はただ、名所巡りについて相談した先輩と後輩。そんな関係だけで十分、ということにさせてもらおう。
~~
二人の少女が、ただ視線を交わす。見上げるように、見下ろすように。口元を、空に浮かぶ三日月よりも鋭く歪めて。吹き始めた風が、短く深い黒髪と長く薄ら青い髪を揺らす。
「今日はもう遅いけど、カジちゃんとも一緒に走ってみたいな!きっとすっごくライトニング⚡だろうし!」
「……そう言ってもらえるなら、私も練習を頑張るモチベになるってものですね!」
三女神の像に背を向け、歩き始める。今までの会話をなぞるように、取り留めもない言葉を重ねながら。
「……カジちゃん?」
「はい、ホーラ先輩?」
寮の入口を前にして、足を止める二人。夜の帳は下り、薄暗い空間で互いの表情は伺えず。
「I'd like to see your frighten face on the racetrack in the future.」(いつか、レース場で怯えたカジちゃんの顔を見てみたいね)
「At that time... I'll give you, some presents...」(その時は……こちらも何か、お渡しできたらと思いますよ)
そうして二人は、それぞれの在処へ戻る。一人は荒れ狂う紫電を、もう一人は澱み切った深淵を瞳に宿し。
彼女達が同じ時、同じ場で競い合うことになるのか、否か……その未来は、また別の話。
「今日はもう遅いけど、カジちゃんとも一緒に走ってみたいな!きっとすっごくライトニング⚡だろうし!」
「……そう言ってもらえるなら、私も練習を頑張るモチベになるってものですね!」
三女神の像に背を向け、歩き始める。今までの会話をなぞるように、取り留めもない言葉を重ねながら。
「……カジちゃん?」
「はい、ホーラ先輩?」
寮の入口を前にして、足を止める二人。夜の帳は下り、薄暗い空間で互いの表情は伺えず。
「I'd like to see your frighten face on the racetrack in the future.」(いつか、レース場で怯えたカジちゃんの顔を見てみたいね)
「At that time... I'll give you, some presents...」(その時は……こちらも何か、お渡しできたらと思いますよ)
そうして二人は、それぞれの在処へ戻る。一人は荒れ狂う紫電を、もう一人は澱み切った深淵を瞳に宿し。
彼女達が同じ時、同じ場で競い合うことになるのか、否か……その未来は、また別の話。