ならば貴方の身柄を私が買います。今日から、私だけの剣(もの)になりなさい

「ならば貴方の身柄を私が買います。今日から、私だけの剣(もの)になりなさい」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

ならば貴方の身柄を私が買います。今日から、私だけの剣(もの)になりなさい - (2020/05/01 (金) 09:44:11) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

発言者:[[ニナ・オルロック]] 対象者:[[トシロー・カシマ]] &size(17){&color(#BFB9BF){&bold(){「私が、北米西部&ruby(ディアスポラ){鎖輪}公子}――&bold(){ニナ・オルロックです。}}} &size(18){&color(#BFB9BF){―――&bold(){貴方が、噂に聞く“サムライ”ですか&size(17){」}}}} それが、紛争に揺れる鎖輪に現れた謎めいた来訪者への、&ruby(プリンシパル){公子}ニナの最初の言葉だった。 &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){他者にそう見えることを意識して形作った、凛と張り詰めた表情と物腰。}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){その為に費やした努力の量。それを支える&ruby(モチベーション){動機}と精神力。}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){それら代表者として評価されるべき美点。}}} &size(15){&color(#040414){――&bold(){同時に、そのどれもがどこか浮足立っているという危うさ。}}} それが[[過去>https://w.atwiki.jp/vermili/pages/40.html]]を隠し、生き場を求めて流れ着いたトシローの、ニナ・オルロックに対する最初の印象であった。 直に接触してきた公子に元々の鎖輪、自分達に協力してきた目的を問われても、真意の掴めない回答を重ねるトシロー。 それは閉鎖的な鎖輪という社会において、疑いを抱かれても止むを得ないものであったが、 ニナは特に追及することもなく、質問を続けようという態度であった。 そうした公子の自分に対する姿勢に、トシローも一般の縛血者とは違うものを感じ、 そこを糸口とすべく、自分の明かせる限りの手札を見せることで応じようとした。 彼が日本、その闘いの技と深く関わりがあると告げ、本名を明かすと、ニナは、一人の素直な少女のように目を輝かせた。 &size(13){&color(#BFB9BF){&bold(){「トシロー……だなんて。有名なサムライ映画の俳優と同じなのね。つい奇遇に思って」}}} &size(13){&color(#040414){&bold(){「侍に興味が?」}}} &size(13){&color(#BFB9BF){&bold(){「ええ。その映画がきっかけで……}}}  &size(13){&color(#BFB9BF){&bold(){少数の善のサムライたちが、弱き民を守るために圧倒的多数の盗賊と闘う、というものでした」}}} だが彼女の目に宿っていたのは、無邪気な関心だけではなく…… &size(14){&color(#BFB9BF){&bold(){「……サムライとは、一度忠誠を誓った相手は決して裏切らないと聞いています。}}}  &size(14){&color(#BFB9BF){―――&bold(){本当にその通りなの?」}}} &bold(){その最後の問の言葉に、強い思いが籠っていること}をトシローは見逃さなかった。 トシローは、眼前の公子に武士、武士道について、自分の考え―― &bold(){名誉を美徳とする戦士階級にして、その「道」とはその生き方を規定し、縛りを与える概念である}――を説いた。 その上で、目の前の女性の真なる望みを見透かすように、 &bold(){士は、死すらも厭わず尽くす……} &bold(){しかしそれは深く己を理解し認める存在に対してであって、誰しもがその資格に値するものではない}と告げる。 &size(14){&color(#040414){&bold(){「ただ命令のままに動く剣。それが侍と思ってもらっては困る」}}} 若干の動揺を見せながらも、 ニナは彼に対し「今この瞬間から私に忠誠を誓え」と告げたならばどうするのか……そう問を投げかけた。 だが、トシローは、それに答える前に、 それまで感じていたニナという縛血者――&bold(){周りの世界に対する怯えや揺らぎを必死に押し隠そうとする、} &bold(){まるで外見相応の&ruby(・・・・・){人間の少女}にしか見えぬ存在}――への疑問を、&color(#040414){&bold(){御身は縛血者……いや、藍血貴であるのか?}}という問いとしてぶつける。 その答えは、&bold(){彼女がまだ&ruby(バプテスマ){[[洗礼>洗礼(Vermilion)]]}を受けて二年……まだ幼童の時期を抜けたばかりの縛血者にして、血親より地位を継いだ、}というもの。 それは、鎖輪の基本的な慣習――血統と経年を重んじ、かつ中立公正を保つため公子位は世襲を避ける――からは信じがたい「異常な」事実であった。 少女・ニナはその問いに怒りを交え、同時に自分に必死に言い聞かせるようにして告げる。 &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){「しかし、私を公子に任じたのは、父上……先代にして初代公子であるベラ・オルロック卿その人です」}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){「彼は偉大な統治者でした。}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){その父上が……オルロック卿が、私ならその務めを果たせると認めてくれたのです……!」}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){「故に公子としての私に対する侮辱は、その父上の聖断を侮辱する事……決して許しませんよ」}}} 眼前の少女の、公子として異例すぎる在り方に強く興味を惹かれるトシロー。 そんな彼を力強く見据え、ニナは彼がこの土地で見せた剣の腕前を評価しているとし、その上で改めて告げる。 &size(16){&color(#BFB9BF){――&bold(){私には貴方の力が必要です。サムライとして、私に忠誠を誓ってくれますか?}}} &size(16){&color(#1B1947){――&bold(){すまない。それは、俺には出来ん……}}} 答えは……拒絶。言葉を無くすニナにしかし、トシローは&bold(){別の答え}を提示しようとする。 &size(17){&color(#040414){&bold(){「だが、御身の剣にはなろう。その意志のまま振るわれる剣には」}}} &size(18){&color(#040414){&bold(){「侍としてではなく、一振りの剣として……そう扱ってくれて構わん。}}} &size(18){&color(#040414){&bold(){理も由も問わず、斬れと言われた敵を斬ろう。ニナ・オルロックの命じた敵を」}}} そう語るトシローの脳裏に過ぎるのは、&color(#1B1947){かつて[[愛する者>https://w.atwiki.jp/vermili/pages/275.html]]と引き換えに[[武士としての道を棄てた苦い過去。>https://w.atwiki.jp/vermili/pages/904.html]]} &color(#1B1947){&bold(){仕えるべき主君を、掟を裏切った&ruby(落伍者){不忠者}……そんな&ruby(きず){過去}を抱えた己には、未来永劫侍として生きる資格などない。}} &color(#1B1947){&bold(){ただ誇りを持たず、命令のままに動く剣として、生きることがふさわしいのだろうと。}} 当然、その語られぬ過去など知る由もないニナにとっては、男の答え、そこに秘められた願いは掴めず…… &bold(){それでも、公子としての道を違わず歩み続けるために、屈辱を噛み殺して。}彼女は冷たい眼差しを向けて、答える。 &size(19){&color(#BFB9BF){&bold(){「判りました……私では、サムライとして仕えるに値しない主君と言う訳ですね」}}} &size(20){&color(#BFB9BF){&bold(){「では、トシロー・カシマ。}}} &size(20){&color(#BFB9BF){&bold(){ならば貴方の身柄を私が買います。今日から、私&ruby(・・){だけ}の&ruby(もの){剣}になりなさい」}}} &size(18){&color(#BFB9BF){&bold(){「身の丈に合わぬ椅子に座る私。何処の誰かも明かせぬ貴方……}}} &size(18){&color(#BFB9BF){&bold(){ここでは共に、異端たる醜い家鴨の仔……}}} &size(18){&color(#BFB9BF){&bold(){故に、我々を取り囲むあらゆるものが潜在的な敵と心得なさい」}}} &bold(){その宣言は、冷たく響いた。} &bold(){――孤独に苦しみ、しかしその痛みに耐え忍び続ける道を選んだ少女の、秘めた心の叫びを滲ませながら。} &size(21){&color(#BFB9BF){&bold(){「私たちは一蓮托生にして、共犯者……裏切りは、決して許しません」}}} &size(20){&color(#BFB9BF){&bold(){「今日、この瞬間から}――&bold(){」}}} そして、トシローの手に、震えるニナの両手が重ねられ―――この時よりはぐれ者同士の間に&bold(){新たな&ruby(しばり){誓約}が課せられた……} ---- #comment
発言者:[[ニナ・オルロック]] 対象者:[[トシロー・カシマ]] 二人の&ruby(男女){主従}――その初めての出会い。 &size(17){&color(#BFB9BF){&bold(){「私が、北米西部&ruby(ディアスポラ){鎖輪}公子}――&bold(){ニナ・オルロックです。}}} &size(18){&color(#BFB9BF){―――&bold(){貴方が、噂に聞く“サムライ”ですか&size(17){」}}}} それが、紛争に揺れる鎖輪に現れた謎めいた来訪者への、&ruby(プリンシパル){公子}ニナの最初の言葉だった。 &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){他者にそう見えることを意識して形作った、凛と張り詰めた表情と物腰。}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){その為に費やした努力の量。それを支える&ruby(モチベーション){動機}と精神力。}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){それら代表者として評価されるべき美点。}}} &size(15){&color(#040414){――&bold(){同時に、そのどれもがどこか浮足立っているという危うさ。}}} それが[[過去>https://w.atwiki.jp/vermili/pages/40.html]]を隠し、生き場を求めて流れ着いたトシローの、ニナ・オルロックに対する最初の印象であった。 直に接触してきた公子に元々の鎖輪、自分達に協力してきた目的を問われても、真意の掴めない回答を重ねるトシロー。 ただ……彼が日本、その闘いの技と深く関わりがあると告げ、本名を明かすと、ニナは、一人の素直な少女のように目を輝かせた。 &size(13){&color(#BFB9BF){&bold(){「トシロー……だなんて。有名なサムライ映画の俳優と同じなのね。つい奇遇に思って」}}} &size(14){&color(#BFB9BF){&bold(){「……サムライとは、一度忠誠を誓った相手は決して裏切らないと聞いています。}}} &size(14){&color(#BFB9BF){―――&bold(){本当にその通りなの?」}}} &bold(){その最後の問の言葉に、強い思いが籠っていること}をトシローは見逃さなかった。 トシローは、眼前の公子に武士、武士道について、自分の考え―― &bold(){名誉を美徳とする戦士階級にして、その「道」とはその生き方を規定し、縛りを与える概念である}――を説いた。 その上で、目の前の女性の真なる望みを見透かすように、 &bold(){士は、死すらも厭わず尽くす……} &bold(){しかしそれは深く己を理解し認める存在に対してであって、誰しもがその資格に値するものではない}と告げる。 &size(14){&color(#040414){&bold(){「ただ命令のままに動く剣。それが侍と思ってもらっては困る」}}} そしてトシローは、邂逅の初めから気になっていた点に切り込む。公子という大任を負うにしては、どこか縛血者として幼さを感じるニナの雰囲気に。 その答えは―――&bold(){彼女がまだ&ruby(バプテスマ){[[洗礼>洗礼(Vermilion)]]}を受けて二年……まだ幼童の時期を抜けたばかりの縛血者にして、血親より地位を継いだ、}というもの。 それは、鎖輪の基本的な慣習――血統と経年を重んじ、かつ中立公正を保つため公子位は世襲を避ける――からは信じがたい「異常な」事実であった。 少女・ニナはその問いに怒りを交え、同時に自分に必死に言い聞かせるようにして告げる。 &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){「しかし、私を公子に任じたのは、父上……先代にして初代公子であるベラ・オルロック卿その人です」}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){「彼は偉大な統治者でした。その父上が……オルロック卿が、}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){私ならその務めを果たせると認めてくれたのです……!」}}} &size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){「故に公子としての私に対する侮辱は、その父上の聖断を侮辱する事……決して許しませんよ」}}} 彼を力強く見据え、ニナは彼がこの土地で見せた剣の腕前を評価しているとし、その上で改めて告げる。 &size(16){&color(#BFB9BF){――&bold(){私には貴方の力が必要です。サムライとして、私に忠誠を誓ってくれますか?}}} 答えは……拒絶。言葉を無くすニナにしかし、トシローは&bold(){別の答え}を提示しようとする。 &size(17){&color(#040414){&bold(){「だが、御身の剣にはなろう。その意志のまま振るわれる剣には」}}} &size(18){&color(#040414){&bold(){「侍としてではなく、一振りの剣として……そう扱ってくれて構わん。}}} &size(18){&color(#040414){&bold(){理も由も問わず、斬れと言われた敵を斬ろう。ニナ・オルロックの命じた敵を」}}} そう語るトシローの脳裏に過ぎるのは、&color(#1B1947){かつて[[愛する者>https://w.atwiki.jp/vermili/pages/275.html]]と引き換えに[[武士としての道を棄てた苦い過去。>https://w.atwiki.jp/vermili/pages/904.html]]} &color(#1B1947){&bold(){仕えるべき主君を、掟を裏切った&ruby(落伍者){不忠者}……そんな&ruby(きず){過去}を抱えた己には、未来永劫侍として生きる資格などない。}} &color(#1B1947){&bold(){ただ誇りを持たず、命令のままに動く剣として、生きることがふさわしいのだろうと。}} 当然、その語られぬ過去など知る由もないニナにとっては、男の答え、そこに秘められた願いは掴めず…… &bold(){それでも、公子としての道を違わず歩み続けるために、屈辱を噛み殺して。}彼女は冷たい眼差しを向けて、答える。 &size(19){&color(#BFB9BF){&bold(){「判りました……私では、サムライとして仕えるに値しない主君と言う訳ですね」}}} &size(20){&color(#BFB9BF){&bold(){「では、トシロー・カシマ。}}} &size(20){&color(#BFB9BF){&bold(){ならば貴方の身柄を私が買います。今日から、私&ruby(・・){だけ}の&ruby(もの){剣}になりなさい」}}} &size(18){&color(#BFB9BF){&bold(){「身の丈に合わぬ椅子に座る私。何処の誰かも明かせぬ貴方……}}} &size(18){&color(#BFB9BF){&bold(){ここでは共に、異端たる醜い家鴨の仔……}}} &size(18){&color(#BFB9BF){&bold(){故に、我々を取り囲むあらゆるものが潜在的な敵と心得なさい」}}} &size(21){&color(#BFB9BF){&bold(){「私たちは一蓮托生にして、共犯者……裏切りは、決して許しません」}}} &size(20){&color(#BFB9BF){&bold(){「今日、この瞬間から}――&bold(){」}}} &bold(){その宣言は、冷たく響いた。} &bold(){――孤独に苦しみ、しかしその痛みに耐え忍び続ける道を選んだ少女の、秘めた心の叫びを滲ませながら。} ---- #comment

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: