ならば貴方の身柄を私が買います。今日から、私だけの剣(もの)になりなさい

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ならば貴方の身柄を私が買います。今日から、私だけの剣(もの)になりなさい - (2020/05/12 (火) 13:45:57) のソース

発言者:[[ニナ・オルロック]]
対象者:[[トシロー・カシマ]]


二人の&ruby(男女){主従}――その初めての出会い。


&size(17){&color(#BFB9BF){&bold(){「私が、北米西部&ruby(ディアスポラ){鎖輪}公子}――&bold(){ニナ・オルロックです。}}}
&size(18){&color(#BFB9BF){―――&bold(){貴方が、噂に聞く“サムライ”ですか&size(17){」}}}}


それが、紛争に揺れる鎖輪に現れた謎めいた来訪者への、&ruby(プリンシパル){公子}ニナの最初の言葉だった。


&size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){他者にそう見えることを意識して形作った、凛と張り詰めた表情と物腰。}}}
&size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){その為に費やした努力の量。それを支える&ruby(モチベーション){動機}と精神力。}}}
&size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){それら代表者として評価されるべき美点。}}}
&size(15){&color(#040414){――&bold(){同時に、そのどれもがどこか浮足立っているという危うさ。}}}


それが[[過去>https://w.atwiki.jp/vermili/pages/40.html]]を隠し、生き場を求めて流れ着いたトシローの、ニナ・オルロックに対する最初の印象であった。

直に接触してきた公子に元々の鎖輪、自分達に協力してきた目的を問われても、真意の掴めない回答を重ねるトシロー。

ただ……彼が日本、その闘いの技と深く関わりがあると告げ、本名を明かすと、ニナは、一人の素直な少女のように目を輝かせた。


&size(13){&color(#BFB9BF){&bold(){「トシロー……だなんて。有名なサムライ映画の俳優と同じなのね。つい奇遇に思って」}}}

&size(14){&color(#BFB9BF){&bold(){「……サムライとは、一度忠誠を誓った相手は決して裏切らないと聞いています。}}}
&size(14){&color(#BFB9BF){―――&bold(){本当にその通りなの?」}}}

&bold(){その最後の問の言葉に、強い思いが籠っていること}をトシローは見逃さなかった。

トシローは、眼前の公子に武士、武士道について、自分の考え――
&bold(){名誉を美徳とする戦士階級にして、その「道」とはその生き方を規定し、縛りを与える概念である}――を説いた。

その上で、目の前の女性の真なる望みを見透かすように、
&bold(){士は、死すらも厭わず尽くす……}
&bold(){しかしそれは深く己を理解し認める存在に対してであって、誰しもがその資格に値するものではない}と告げる。

&size(14){&color(#040414){&bold(){「ただ命令のままに動く剣。それが侍と思ってもらっては困る」}}}


そしてトシローは、邂逅の初めから気になっていた点に切り込む。公子という大任を負うにしては、どこか縛血者として幼さを感じるニナの雰囲気に。
その答えは―――&bold(){彼女がまだ&ruby(バプテスマ){[[洗礼>洗礼(Vermilion)]]}を受けて二年……まだ幼童の時期を抜けたばかりの縛血者にして、血親より地位を継いだ、}というもの。
それは、鎖輪の基本的な慣習――血統と経年を重んじ、かつ中立公正を保つため公子位は世襲を避ける――からは信じがたい「異常な」事実であった。
少女・ニナはその問いに怒りを交え、同時に自分に必死に言い聞かせるようにして告げる。


&size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){「しかし、私を公子に任じたのは、父上……先代にして初代公子であるベラ・オルロック卿その人です」}}}

&size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){「彼は偉大な統治者でした。その父上が……オルロック卿が、}}}
&size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){私ならその務めを果たせると認めてくれたのです……!」}}}

&size(15){&color(#BFB9BF){&bold(){「故に公子としての私に対する侮辱は、その父上の聖断を侮辱する事……決して許しませんよ」}}}


彼を力強く見据え、ニナは彼がこの土地で見せた剣の腕前を評価しているとし、その上で改めて告げる。

&size(16){&color(#BFB9BF){――&bold(){私には貴方の力が必要です。サムライとして、私に忠誠を誓ってくれますか?}}}

答えは……拒絶。言葉を無くすニナにしかし、トシローは&bold(){別の答え}を提示しようとする。


&size(17){&color(#040414){&bold(){「だが、御身の剣にはなろう。その意志のまま振るわれる剣には」}}}

&size(18){&color(#040414){&bold(){「侍としてではなく、一振りの剣として……そう扱ってくれて構わん。}}}
&size(18){&color(#040414){&bold(){理も由も問わず、斬れと言われた敵を斬ろう。ニナ・オルロックの命じた敵を」}}}


そう語るトシローの脳裏に過ぎるのは、&color(#1B1947){かつて[[愛する者>https://w.atwiki.jp/vermili/pages/275.html]]と引き換えに[[武士としての道を棄てた苦い過去。>https://w.atwiki.jp/vermili/pages/904.html]]}
&color(#1B1947){&bold(){仕えるべき主君を、掟を裏切った&ruby(落伍者){不忠者}……そんな&ruby(きず){過去}を抱えた己には、未来永劫侍として生きる資格などない。}}
&color(#1B1947){&bold(){ただ誇りを持たず、命令のままに動く剣として、生きることがふさわしいのだろうと。}}

当然、その語られぬ過去など知る由もないニナにとっては、男の答え、そこに秘められた願いは掴めず……

&bold(){それでも、公子としての道を違わず歩み続けるために、屈辱を噛み殺して。}彼女は冷たい眼差しを向けて、答える。


&size(19){&color(#BFB9BF){&bold(){「判りました……私では、サムライとして仕えるに値しない主君と言う訳ですね」}}}


&size(20){&color(#BFB9BF){&bold(){「では、トシロー・カシマ。}}}
&size(20){&color(#BFB9BF){&bold(){ならば貴方の身柄を私が買います。今日から、私&ruby(・・){だけ}の&ruby(もの){剣}になりなさい」}}}


&size(18){&color(#BFB9BF){&bold(){「身の丈に合わぬ椅子に座る私。何処の誰かも明かせぬ貴方……}}}
&size(18){&color(#BFB9BF){&bold(){ここでは共に、異端たる醜い家鴨の仔……}}}
&size(18){&color(#BFB9BF){&bold(){故に、我々を取り囲むあらゆるものが潜在的な敵と心得なさい」}}}


&size(21){&color(#BFB9BF){&bold(){「私たちは一蓮托生にして、共犯者……裏切りは、決して許しません」}}}


&size(20){&color(#BFB9BF){&bold(){「今日、この瞬間から&size(21){────}」}}}


&bold(){その宣言は、冷たく響いた。}
&bold(){――孤独に苦しみ、しかしその痛みに耐え忍び続ける道を選んだ少女の、秘めた心の叫びを滲ませながら。}


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- 俺もニナ様に買われたい  -- 名無しさん  (2020-05-12 13:40:22)
- ↑伯爵に薔薇は不似合いだで殺される枠かな?  -- 名無しさん  (2020-05-12 13:45:57)
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