「一次元」について思いをめぐらせていた。この宇宙の始まりは一次元だという。一次元ということはどういうことだろう。この世界が三次元、平面が二次元、ただの点が一次元。点ってなんだ?その点が球体なら三次元、モニターにあらわれるドットが欠落した部分のようなものなら二次元。ゆっくりと三本の軸が伸びていき、それらがが交わるところに灰色の点ができる。そこでゆっくりと軸を消し去ろうとしてみるが、うまくいかない。もう一度。今度は三本の軸が交わらない。ゆっくり、慎重に。いつもやっているようにモニター目標物にロックをかけるように。ドットが正確に重なるように。二本にしてみよう。二本なら簡単なはずだ。そこにズームアップしていく。本当は大きさもないはずだ。しかし、点ときいて小さなものを考えていたが、大きければどうだろう。巨大な点だ。巨大な点がはじけ飛んで真っ黒な宇宙が拡散していく。どこまでもどこまでも。白い星がまじりながら拡がっていく。
「うあっ」
フェデリック=L=コースマスは素っ頓狂な声を上げて飛び起きた。いつもの悪夢だ。滞在中の一週間は見なかったのに、タイタンの重力圏から離れてからは、もう三日も続いている。伸びきったヒゲをなでながら、樹脂で成型されたクリーム色の船室から這い出した。交代の時間だ。左腕にはめた端末を掲げるとコクピットのドアがわずかな稼働音を立てて開いた。
「おう、眠り姫。起きたかよ」
口の端をゆがめてイタオスが皮肉混じりに声をかける。あまたある火星民族のうち、一番屈強な体を持つペノーカ族。赤い肌には筋肉が盛り上がっている。彼がトレーニング室で過ごす時間が一番長い。口は悪いがよく働く、フェデリックのパートナーだ。
「ああ。いまどのあたりだ?」
「ガニメデまであと四日はかかるな。じゃあ当直も終わったし、おれはもうメシ食って寝るぜ」
灰色の縮れた髪をゆらしながら操縦席のシートから立ち上がり、作動音がかすかに鳴りイタオスの気配がドアの向こうに消える。小さく柔らかな操縦席に座ったフェデリックは大きなため息をついた。地球育ちの二八歳にはない切れ長の目に、疲れがにじんでいる。交代直後は体がじんとして目の奥に何かが沈んでいくようだ。どろりとした比重の重い液体がゆっくりと流れ込んでいくような。さっきみた夢の感覚が残っている。
あのときだ。俺はまだあのことを悔いているのだ。
コクピットの小さなメインスクリーンがにじんでいる。航路と目的地までの距離、時間が刻々と変化していく。宇宙のしじまのなかをこの「空間」が移動している物的証拠のように航路上にちいさな点が映り始める。といっても、光のないこの宇宙では擬似的に描きだされた便宜的な「画像」にすぎない。「ゴミ」だ。彼らはそう呼んでいる。漫然とガニメデへの航路を確認しながらフェデリックはつぶやく。
「ここも汚くなったもんだな」感慨ではなく変化を報告するような、とても小さな声だった。
人類がその領土を宇宙空間に拡げ初めてまだ数十年しかたっていないというのに、遺棄されたゴミが星という星を覆いつくしている。肉眼で確認はできないが、球体のまわりをびっしりと小さな点がおのおの異なった弧を描きながら回転している。
それゆえに惑星にエントリするには航路演算の大半の時間をこの「ゴミ処理」に使うようになった。しかもガニメデのように質量が巨大になればなるほどゴミだらけだ。旧型のメカを積んでいては、物理的な航行速度より「頭のよさ」でそのスピードは左右される。ナビゲーションシステムが見落とせば即衝突、自身もゴミ衛星の一部と化してしまう。
「ま、だから俺たちのようなスイーパーが成り立つんだけどな」
テューボがその巨体を揺らしながら床面のハッチをあけた。すこし、窮屈そうに背をまるめてコクピットに入ってくる。メインスクリーンを覗き込んだ彼は、フェデリックの脇から見慣れた数字たちを眺めながらいつものようにキーをたたく。2、3ウィンドウを続けざまに切り替えて値をチェックした。
義手が黄土色に鈍く輝いている。そのゆっくりとしたなめらか動作には重いグリスがしっとりとなじみ、少しも軋む音などしない。
フェデリックはモニターから目を逸らし、天井を見上げて、大きく息を吐いた。
相対的な理由だが、一般に船は年々航海速度が遅くなっていく。不思議に思えるが今だに技術というものは進歩する。だからといって船を買いかえる、買いかえられるのはごく一部の金持ち企業だけだ。個人では船の認可を受けるのも面倒なうえに、到底手が出せる金額ではない。
頑丈だけが取り柄の船。テューボがかつて廃船班にいたころ、職務上スクラップから再生させた船だ。その特殊用途ゆえか、度重なる改造ゆえかこの3人の船は異質なフォルムをしている。基本設計は当時一流だった素体も今では鉄屑同然の価値だ。一般人ではもうこんな船に乗っている人間はいない。そのフレームに旧式部品の寄せ集め。テューボが手を入れているからまあ動いているようなものの、タイタンーガニメデ間で1週間もかかるようではポンコツの名もいただけない。とはいうものの彼らの「業務」に必要なフックやドリルを動かす動力を搭載するにはいたしかたない。星間飛行のスピードよりその日のメシだ。彼らの職業はスイーパー。認可をうけているれっきとした公務員だ。
惑星の軌道上にある無数の廃船、鉱物、廃棄物。ありとあらゆるものを回収して、物質をとりだし、還元する。物質に応じてそれぞれ、チームに分かれている。この3人は特殊鉱物班。表向きはそういうことになっている。
「フェド、荷物は重いがいまのところ問題なしだ」
牽引している巨石は、質量からして船の何倍かわからない。スイコミと呼んでいる吸引装置でホールドし、ワイヤーフックががっしり
と爪をたてている。大きさに違いがありすぎて船か岩かどちらが牽引しているのかわからない。
「船は悲鳴はあげているようだけどね。おまえの船、というよりおまえにはほとほと感心するな。他の船とは音が違うからな」
顔を上にむけたまま、フェデリックがいう。
「そうだフェド、どこぞの巨大企業がこの星のゴミを丸ごと買い占めるって話、きいたか」
「GCの話か」
「ゴミとそのなかに埋まってる物質の総量を試算したんだそうだ。そいつを天秤にかけて」
そのときだ。眼前のスクリーンに「HIT」の文字が赤く明滅する。まもなく鈍い衝撃が船全体を揺らした。
ー
冒頭
ストーリーを大きく隠喩させる
設定の説明>キャラクター仕事、
これまでのあらすじ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1
タイタンからガニメデへ向かう船があった。
乗り込んでいるのは地球育ちのフェデリックと火星民族のイタオス。
2
彼らの職業はスイーパー。
もう一人、半身がメカのミュータント、テューボがこのチームのメカニック担当だ。
3
そこへ星間難民の船が衝突する。
単身船外へ乗り出すフェデリック。
4
難民船で発見したのはコールドスリープの女だった。
地球の女は絶滅したはずだ。
5
女の精神はプログラムにコピーされ
フェデリックの業務用コンピュータに寄生する。
スイーパー業は続けられなくなってしまった。
6
女とフェデリックの祖国、地球はいまやGEABの管理下にあるという。
7
明らかになるGEABの狂った思想と月の開拓史。
8
地球を目指す一行。ひとまずガニメデのセンターへ。
プラネットクロニクルという書物と巨悪の存在。
9
星間光速航海法、異種交配技術、グラブ。
3つの技術がこの宇宙時代を支えてきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10
ガニメデプラネット・センターの入港審査には長い列ができていた。
その順番待ちをしているあいだ、BBB号船内では真剣な会議と暇つぶしのゲームがだらだらと続いていた。
議題はハルカをどうやって「持ち込むか」という問題。とその処理係の決定。
物理的に棺桶をどこに隠すかということ、プログラムチェックをどうクリアするかということ。
方法としては偽装するか、ブツをどこかへ逃がすかの二択。さて・・・
11
ようやく入港できたガニメデのセンター。
フェデリック一行が向かったのは世話になっている換金屋だ。
12
スイーパー業で処理するのは、
違法に投棄された産業廃棄物、難破した船や小さなコロニーの建築物、開拓時に粉砕した巨石。
大義名分は掃除屋だが、彼らのような小さな船ではその給料だけでは喰ってはいけない。
取引の換算は質量であるため大手のデカイ船がスケールメリットを生かして金を荒稼ぎする。
だから彼らは宇宙ゴミに含まれているレアメタルを狙う。
分別して精製してレアメタルだけを換金する。そんなまわりくどい商売は大手はやりたがらない。
とりあえず、ここんとこの稼ぎを換金にきたのだ。
そして地球までの燃料食料その他の買出しが必要だった。
12.1
換金した金は送金しなければならない契約だ。
フェデリックたちのチームは特殊鉱物の回収を主としている。
特鉱班は現在、4つのチーム(船)で編成されている。
その4つを束ねているのが直属の上司となるロゴスという男だ。
自身も船を所有している。
巨船だが動きがよい。速いわけではないがとりまわしがいい。
彼を象徴するような船だ、そうテューボが漏らしていたっけ。
組織の中でもリーダーは幾人かいるが、とくに優秀という評判だ。
ただ、それゆえに敵も多く、フェデリックたちも直接面会する機会はない。
12.2
それにしても、とイタオスは思う。
留守番で残された船内には彼一人だ。
フェデリックという地球人はつくづくお人よしだ。
長い旅の中で船の中に何があるかはすべて把握している。
あせることはない。まずはキッチンで飲み物をつくろうじゃないか。
12.3
ロックグラスを傾けながら、巨大なスクリーンに向かってイタオスの独白。
火星人の迫害の歴史。
(イタオスはクロニクルをさがしているスパイで、
イタオスはフェドがクロニクルを探す任務についていると想定している)
その動機が明らかになる。
火星の復興。祖国への思い。
そして地球との融和。
12.4
そしてプラネットクロニクルの伝説。
『P☆C』は7つある。宇宙の歴史がすべて詰まっている。
『P☆C』とは欲望、魂の救済、絶対的なものへの帰依。
「死ねばみんなクロニクルの一部になれる」
なぜ書物なのか、誰が書いているのか。
書物といううわさだが、本当なのか。
12.5
GC長官の部屋。
風景描写。
12.6
プラネットクロニクル本文
12.7
夜。
遠景からのBBB号の描写。
(カメラズームしていく)
イタオスらしき男が脱出する。
離反。
13
船に戻ったフェドとテューボは驚愕する。船が荒らされていたのだ。
もともと金目のものなどないが、留守番で船に残ったイタオスが失踪し、困ったことに
例の棺桶、ハルカの肉体が盗まれてしまった。
14
「あのカセイ野郎・・・」「まだアイツが犯人と決まったわけでないさ」
それにしてもこれは厄介なことににまきこまれた。やはりただごとではなかったのだ。あれは。
犯人探しと死体消失の謎。船も動かないこの状況でどうする?
14.1
送金に対してロゴスからのチームへの返信。(一方通行)
イタオスの独白。
ロゴスへの疑念。
15
フェデリック一行は古い知り合いらしいあるミュータントの店へ行くという。
しかし突如狙撃を受けるなど、この星の治安は最悪だ。
16
かつては猥雑な喧騒にあふれていた場所も廃墟と化していた。それでも迷路をくぐりぬけてたどりつく。
しかし当然、目的の店も何年も前からの「本日閉店」の札が赤く明滅しているだけだった。
17
そこで語られる今回の目的とテューボとフェドの因縁。
あの事故のエピソード。
18
ここへきたのはテューボの半身を造ったテューボのおやじなら、ハルカに肉体を与えられるのでは?
そう思ったからだった。
19
そこでテューボのメカが反応した。店の移転場所が明らかになる。
表の世界の荒廃ぶりと一転して地価都市の繁栄ぶりはすさまじいものだった。
20
クリーンで冷たい完全な世界。ミュータントたちは治安の悪い地表をさけて地下に完全都市を作り上げたのだ。
確かに指定の場所におやじはいた。ただ以前より若々しく情熱と野心にあふれた様子だ。「技術と時代だ」という。
21
アンドロイドとして完成したハルカ。
人間の肉体とはココロとは?倫理をめぐって困惑するフェデリック。
22
さらにチューンアップされ別人のように生まれ変わったテューボ。
いつかは訪れると悟った別れ。
22.1
ところで『P☆C』のうわさをきいたことがあるか?
23
「まあ金で買えるものはまた買えばいいだけのことさ」商売道具の船も質草に失ってしまった。
これで本業にはしばらく戻れないことが物理的な意味でも確定してしまった。
24
高度な文明の発展をみせたミュータントたちの間では、あらたな技術の開発がなされれていた。
新航海法!それをもってすれば全宇宙の事実上の掌握などたやすい。そう考えている巨大企業GCの存在があった。
25
「いずれにしても地球には向かう、女も生き返らせる」彼のおおきな夢はまだこれからだ。
船の代わりに手に入れたGC社製のコンピュータで新航海技術のうわさを聞きつける。
26
そして、それを利用してテューボのクラッキングによってあっさり手に入れた新航海法。
27
そんな時、いまや宇宙的な企業であるCG社主催の大規模な賭博レースが行われようとしていた!
その名を「プラネット・ワン」ーー賞金は新星の運営権!最終ゴールは地球!!
28
必ずイタオスも出走してくる。そう確信したフェデリック。
出走を決意する。
29
コンピュータの売却で手にした金で再び船を手に入れる。こちらには新航海法がある。
手に入れた船が馬鹿に派手で目立つ。これじゃあ旗印を掲げているようなものだ。
30
いよいよ開始されるレース!
しかしそこにレギュレーション違反である新たな航海法を持ち込むフェデリックたち。
31
「プラネットクロニクル」を掲げた不気味な狂信者たち。ミュータントとエスパーと称する人間のチーム。
壮絶な新航海法の奪い合い。
32
予言書「プラネットクロニクル」に仕える狂信者たちの目的とは?
レースの本当の目的と真の黒幕とは?
33
そして訪れたイタオスとの一騎打ち。
ハルカの肉体と新航海法との交換取引をもちかける。
34
イタオスを討ち肉体を奪還。
35
レースに優勝するフェデリック。
新星の運営権とは地球のことだった。
36
地球はGEABの完全制御のため、通常では入港すらできない。
この新技術の売却を条件にGEABにのりこみ、ハルカのロックキーを手に入れようとする。
37
そこはGEABによって「うつくしい地球」へと回復を始めていたが、人類は滅亡していた。
38
「かなたより帰りしものがこの星の王となる」GEABの崇高な計画と人類再興の鍵をにぎるハルカ。
39
売却したGCコンピュータからモメンタム航法はいずれ漏れるだろう。
40
長い眠りから目覚め、王となったハルカの決断は完全な武装解除という方法だった。
41
事実上GEABに武装解除させたGC。
各勢力が牽制し、地球への侵略はとまる。
42
一方、新しい航海法によって大宇宙への航路が広がり、人類の興味は外へ向かうこととなった。
はたしてプラネットクロニクルに記された通り歴史は進行するのか?
大いなる宇宙意思の真理をめぐって物語はあらたな幕を開ける。
(第1部 FIN)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最終更新:2009年07月04日 10:47