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Bul Bous Bow BUNGEI[バルバスバウ ブンゲイ] No.011 発行:2010年1月1日
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あけましておめでとうございます! 『バルバスバウ・ブンゲイ』。早いもので2年目に
突入しました。年も改まったところで不況・デフレ・賃金カットにあえぐ社会を尻目にロ
ケットスタート。新連載2本、ベテラン勢も勢ぞろいの「読むお年玉」です!
▼今月号の謹賀新年ラインナップ▼
1:新連載! 正統派ラブストーリー……『最終電車は2人で』 by 葛野葉 直
2:人生という名の裏山……『裏日本通信』 by 蛙
3:新連載の本格推理!……『私立探偵おばあちゃんの知恵袋』 by 梨木湧水
4:激怒から始まるコミュニケーション……『スーパービジネスマン養成セミナー』 by ミ
スター・パーフェクト
5:ついに姿を現した成功欲の化身……『世界ナンバーワンの仕事術』 by マーク塚原
6:歴女たち、この人を見よ……『脳内裸族』 by 電網ニート
7:「嫌すぎるシチュ」続きます……『日常に潜む魔』 by 凡布工心
8:小出しにされる「萌え」ポイント!……『大江戸フェティシズム奇譚』 by ななみ
9:さあ今日はどんな「自分」が「発見」できるだろう?……『自分さがし、はじめました
』 by 三木勉三
10:明かされる手塚一族の秘密……『ハンドヒーラー手塚』 by 高砂詩音
※『新世紀うたあはせ』『最終人生相談』は終了しました
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■ 『最終電車は2人で』 by 葛野葉 直
──リアル・ワーキング・ラブストーリー
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【フラグメント;01 縁遠き世界】
─「あなたは忙し過ぎる」
2年前に別れた彼女の最後の言葉がふと頭をよぎった。
これで今年5人目。また同僚が1人職場を去るらしい。
システムエンジニア、いわゆるSEとして入社して3年。その間、部署内の退職者は既に
18人に達し、12人いた僕の同期も今や半分以下だ。休日出勤、終電逃しは日常茶飯事。
深夜早朝でもお構いなしに叩き起こされる。そのくせタクシー代も出ない。そりゃあ病め・・・
もとい、辞めるのが人間として正しい選択だろう。
さらに離職率に比例して離婚率も高い。連夜の出勤で奥さんがノイローゼになっただの、
帰宅したら自宅が無人だっただのという悲しい離婚理由を持つ人はどの部署にも必ず1人
はいる。僕は未婚だが、2年前の失恋理由は彼らと似たようなものだ。
確かに気持ちがすれ違うには十分過ぎるほどに2人の時間が持てなかった。会えなくても
電話やメールで─。始めは2人ともそんな風に思っていた。しかし遠距離でもなく同じ県
内在住の2人が何週間も会えないというその状況自体に彼女は、そして僕自身も次第に耐
えられなくなっていった。そしてある日、最後の言葉を残して彼女は去って行った。
それからは、恋人の「こ」の字もない仕事漬けの日々を黙々と送り続けている。この業界
に居る限りは・・・と最近では半ば諦めてもいた。そんなある日だった。あの人に出会った
のは。(続)
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■ 『裏日本通信』 by 蛙
──厭世的な、あまりに厭世的な……
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【 第9回 枯山 】
冬の雨は素敵だ。冷ややかに落ち着いた冷気を里山に与える。クヌギやコナラは葉を落
とし、その枝のフラクタルをあらわにしている。視界をさえぎるものの少ない山肌にパラ
パラと常葉樹が暗緑色にこもるのみである。
里山は虫の声も絶え、くすんだ色で統一されている。ため池が、曇り空を写しにびいろ
に光る。思い出したように鳥の声が高く響き静寂を強調していた。足元から雨にうるんだ
枯葉を踏みしだく音のみが聞こえる。
視界をさえぎるものは少なく。ふと、これまで見えなかった細道が新たに増えているの
に気がつく。だが、この道はいけない。踏み入れるとぷつりと絶え、枯れた茂みと丸裸に
立ち尽くす木に囲まれてどこへも行けなくなる。
と、カタカタ。 山のものではない音がした。驚いてふと立ち止まる。開かれた視界の中、
辺りに見当たるものは無い。どうやら荷物の中の何かがいたずらに音を立てただけらし
い。
がらんとした山はかえって私の五感を研ぎ澄ます。
昔、里山にまだ鹿やサルがいた昔、旅人や迷い人が、ふと立つ音や枯れ木の向こうによぎ
る影に、心驚かしたのはこんな時ではなかっただろうか。
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■ 『私立探偵おばあちゃんの知恵袋』 by 梨木湧水
──事件の解決に必要なものは、知能、勇気、そしてあなたのメールだ!
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【 回答受付中の事件1 芋とマシマロと鳥肉 】
──ムリムリ、あたし絶対こんなとこで生きてけないから!
それが、この村の第一印象。リストラされて、農業をやるんだと言い張る父に連れてこ
られた山の中。電車はないしコンビニはないし猿は出るし、ありえないことだらけの毎日
に、ちょっとだけ慣れてきたかなぁと思って迎えたお正月。初詣でこんな目にあうなんて
思ってもなかった。
「京香ちゃん!大変やさ!夜番しとった若い衆が、しし死んで…!」
鳥居の向こうから叫びながら駆け寄ってきたのは、向かいに住むおばちゃん。わぁわぁ
言うのをしばらく聞いていたら、ようやく事態が飲みこめてきた。大晦日から焚火の番を
していた20代の兄弟が、朝、冷たくなって見つかったのだ。争った跡や目立った傷は見
当たらないらしい。
ちなみに兄弟は最近大阪から引っ越してきたばかり。この村では、一定期間農業の研修
をすると、耕作放棄地になっている土地をタダで借りることができる。あたしのとこはう
まくやってるほうだけど、まぁたまに、新しい人と村人の間で、ちょっとしたいさかいも
あるみたい…。
「それでな、兄弟は焚火でいろいろ焼いて食べとったんよ。ほやから、みんなその中に毒
が盛られとったんやないかって言うとるんやさ。食べとったのは焼き芋とマシマロと鳥肉
よ。実はな、焼き芋は兄弟の前に番をしよった佐々木の爺さんが入れてったものやけな、
みんなそれを怪しんどるんやさ。」
さらに、兄はベジタリアンで弟は菓子が嫌いだったらしい。だから三つの食べ物のうち、
二人とも口にできたのは焼き芋だけ。やっぱり爺さん怪しい。
「僕も一緒に焼き芋食べたんだよ!」
神社にいる野次馬たちがどよめいた。その声の主は、爺さんが目に入れても痛くないほ
ど可愛がっている小学生の孫。そして、どうやらこの子が第一発見者らしい。早朝、兄弟
と一緒に焼き芋を食べたあと家に戻り、約一時間後に忘れものを取りにきたところ、倒れ
ている二人を見つけたとか。爺さんには神社に行くことを伝えたと言っている。もし爺さ
んが毒を入れてたなら、絶対止めるよね…?じゃあいったい、誰が?どうして兄弟は毒を
口に…?
…っていうか警察はいないのこの村!?えっ、雪で道路が閉鎖されて来れないって!?
なにそれ推理小説みたいじゃん!やっぱりありえない、ありえないからっ!(続)
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■ 『スーパービジネスマン養成セミナー』 by ミスター・パーフェクト
──謎のスーパービジネスマンが魅せる「パーフェクトな成長戦略」!
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【 OJT3日目 切れる刀におさまる鞘はなし 】
《佐久間リョウコ》……。(ふ、ふざけるなっ!)
《MR.P》どうだ?図星じゃないのか?社内でも「キレ者」とあだなされるキミのことだ、
こういうことをいわれて心中おだやかなはずはないんだろうね。
《佐久間リョウコ》……。(くっ、こいつッ)
《MR.P》くりかえすが、キミのプライドには1銭の価値もない。
《佐久間リョウコ》
《MR.P》あ、ほんとに3分ジャストだ。はいは
~い。ここまでー。すわってすわって。
《佐久間リョウコ》……。(は?)
《MR.P》いやあ、怒らせるようなこと言ってごめんね。はいこれ、つめたいオシボリ。
《佐久間リョウコ》!(ぬあっつ!!!)
《MR.P》あはは。そんなカオしないしない。キミは笑顔がかわいいのに。冷静に考えてみ
てごらん?そのオシボリと外界は全く関係がないんだ。オシボリがあつかろうが冷たかろ
うが外界のあらゆるもの、たとえば今日の天気には別に影響しないよね。
《佐久間リョウコ》……。(あれ?そう、…かな。)
《MR.P》まあひらたくいうとそのオシボリがキミだ。キミがブチ切れようがなにしようが
出来上がった仕事の成果物とはなにも関係がない。キミはキミのそのオレンジのスカーフ
をデザインしたデザイナーの気分を考えたことがあるかい?
《佐久間リョウコ》……。(う、そりゃあ、ない、ですけど。。)
《MR.P》佐久間リョウコさん、僕はあなたが好きです。
《佐久間リョウコ》……。(え、え、なんなの)
《MR.P》じゃ話をつづけようか。聞いてくれるかな?
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■ 『世界ナンバーワンの仕事術』 by マーク塚原
──マーク塚原。後に世界を救う「特異点のビジネスパーソン」
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【 第9回 セレンビティティを身につける 】
オフィスで、ボクとキースはポール誘拐事件について意見を交わしていました。
「で、マークよ、セレンビティが悪用されると一体どうなるんだ?」
天井を見つめてゆっくりと息を吐くと、ボクは「知」のフレームワークが導き出した恐
るべき予測を語りました。
「世界を揺るがす新発明や発見、技術革新なんかを、犯人は簡単に、次々と出せることに
なるね」
「なんだと? そりゃ一体どういうことだ」
「セレンディピティは、一種の超能力と言ってもいい。湯川博士が夢うつつの中で中間子
の存在を予見したような、『ひらめき』の力なんだ。普通は偶然にしか起こらない。でも、
それが自在に扱えるようになるということは……」
「すべてを悟ることができる、ということか?」
「そう、犯人は、どの程度セレンビティを扱えるかどうかわからないが、仮に100%だと
すると、そんなことはないと信じたいけど、世界はもう彼、あるいは彼女の手に落ちたに
等しい……」
そのとき突然、オフィスの電話が鳴りました。新人クンが受話器を取り上げて、「はい、
マーク……」と言った瞬間、バタリと床に倒れ伏します。
──音声催眠(ヒュプノシック・ヴォイス)!
キースがこちらを見てうなずきます。反催眠のフレームワークを発動しながらゆっくり
と受話器を耳に当てると、落ち着いた男の声が聞こえてきました。
「もしもし……世界NO.1ビジネスパーソンのマークさんですか……。お世話になっており
ます。ククク……この声に耐えるとはさすがですな」
「……こちらにもコミュニケーション系スキルの達人がいるんでね。小細工はよして、さ
っさと用件を聞こうじゃないか?」
「おやおや、気が早いことだ……。国際競争力が低下し続けている日本人とは思えんね」
(続く)
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■ 『脳内裸族』 by 電網ニート
──ニート+サブカルチャー=∞ ひそかに人気の新世代エッセイ
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【 第8回 「ニートvsゲーム」 その4 】
冬ですね。ガチで寒い季節になってきましたが、僕はクリスマスケーキよりもTVゲ
ームに飢えている。前回の続きとさせていただく。
追加パックでのシナリオモードでは新登場の文明での英雄達の伝説が描かれている。
アステカやスペイン・本能寺の変やバイキングの北米大陸進出等である。
中でも圧巻なのがフン族の王アッティラ。こいつはすごかった。作中でも屈指の規模で
再現されていている。
主人公、もとい語り部はフランスの老司祭の従者であるが、老人が思い出話を語ると
いう形で物語は進められて行く。なんとなくサラティンの章と展開が似ているが、アッテ
ィラは「壊し、奪い取る」という行為で名をなした男であり、どちらかというとダークヒ
ーローに描かれている。
信じる物は己の力と野望のみ。驚異的な統率力と征服欲を持っていた。敵から奪った王
冠を頭につけ、ローマの軍神マルスの名をつけた剣をふるい、大帝国を恐れもせずに斬り
刻んでいく。
アッティラの章の山場は「カタラウヌムの戦い」と呼ばれる一大決戦の所である。こ
れは当時のガリア(現在のフランス)ならびに、ローマ帝国およびゲルマン族・フン族の
勢力争いの縮図とも言える。司祭は話が終盤になるにつれ、理性のタガが外れ狂気が混じ
った口調になっていく。とにかく規模の大きい戦いであり、絶えず軍隊を生産(=召集)
していないと数に押され粉砕されるという展開になりがちである。
当然大群同士がぶつかりあう価値となり、このゲームは兵士の死体のグラフィック(
幸い洋げーの割にはあまりグロテスクには見えない)が一定時間表示されている。つまり
そこは、「死体の山」である。作中では「河は血で染まり、戦が終わった後も亡霊たちは
3日間そこで戦い続けた」と例えられている。こんな戦を強要されれば例えローマ帝国と
いえども滅亡やむなしというところだろう。所詮はデフォルメされたゲームの光景なのだ
が、僕は所謂もののあわれのようなものを感じてしまった。
文にすると大げさであるが、それだけ感情移入させられたとも言える。グラフィック
が強化されたと言っても10年近く前の話であり、 さすがにいま見ると汚い。それにも
関わらず、今年になってプレイしてもこの効果を与えたのである。もしも狙って演出して
いたのなら、製作側のセンスには光るものがあるといえよう。(続く)
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■ 『日常に潜む魔』 by 凡布 工心
──「それ」はいつもあなたのそばにいる……
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【 第5回 電話】
リリリリリ…リリリリリ…リリリリリ…
-今日も、鳴ってる。
アパートの管理人室の脇を通り抜けながら、僕は心の中でつぶやいた。
僕の住んでいるマンションには管理人室と思われる部屋がある。思われるというのは、そ
こに管理人がいるのを見かけたことがないからだ。マンションの玄関を通り抜けた正面に
あるその部屋にはこぢんまりとした小窓があるだけで、小窓にはいつもカーテンが引いて
あるので、中の様子もよく分からない。なんとなく地元にあった寂れた病院の受付みたい
だな、と入居の時に思ったのを覚えている。
最近、その部屋から電話のベル音がするのだ。夜遅く仕事から帰ってきたときや、深夜に
コンビニへ買い物に行くときなど気づけば電話が鳴っている。電話は部屋の中にあるよう
なので、ベル音に気づいても何もすることはできないのだが。
コンビニから帰ってきた僕が「今日も」鳴ってる、と思ったのも当然のことだろう。ただ、
今日はいつもと少し違っていた。古いプッシュ型の電話機が小窓の外に出ていた。その
電話機は、ひたすら機械的なベル音を発し続け、まるで僕に電話を取ってくれといってい
るようだった。
…しばしの逡巡の後、好奇心に負け、僕は受話器を恐る恐るとってみた。
「くっくっ…」
最初に聞こえたのはくぐもった男の笑い声。そして、その後ろで微かに聞こえる、洋楽。
それは、僕が自室で繰り返し再生している曲。数分前にも部屋で耳にしていたその曲は、
僕の心臓の鼓動に合わせるようにテンポを上げていった。
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■ 『大江戸フェティシズム奇譚』 by ななみ
──【fetishism】1.物神崇拝 2.物に異常に愛着を示すこと。性的倒錯の一種
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【 第五話 家光の刀(三) 】
年の頃なら15、6といったところだろうか。いや、女性の年齢について自信はないの
だが、大人、というには何処となく幼さの残る面立ちだった。それが顔を真っ赤にして目
には涙を溜めている。…ついでに言うと鼻水も垂らしていた。しかしそれ以上に目を奪わ
れたのは、なによりその整った容貌だった。すっとした目鼻立ちと薄い唇、透けるような
肌は、菊池契月の描く少女に似ていると思った。私が観察しているのに気付いたのか、女
は一瞬動きを止めてたじろぐ。初めて目が合い、気まずい空気が二人の間に流れた。その
時である。
「どっこいしょお~っ!」
間の抜けた掛け声とともに、建て付けの悪い収蔵庫の木製扉を、ガラガラと引く音がし
た。今度こそ正真正銘の坂崎さんである。これが話の通じる相手だったら、私もこんな行
動を取らなかっただろう。しかし、話がややこしくなる…その思いが頭をよぎった瞬間、
私は目の前の女をつかまえて作業台の下に隠れていた。頼むから静かにしてくれ、とジェ
スチャーで訴える。私がよほど困った顔をしていたからだろう…女はおとなしく聞き入れた。
「わんこたん、わんこたん、お仕事ですよ~。」
先に入った人間が奥で作業していると思ってか、坂崎さんは大きめの一人言とともに、
目の前を通り過ぎて行く。どうやら狛犬を展示に出すらしい。
「体調はいかがですか?そうですかそうですか~。しっぽは大丈夫かな?」
…チェックがなかなか終わらない。嫌な汗が出てくる。
「はいはい。じゃあ一緒に行きましょうね~。」
ガラガラ…ガタン、と扉の閉められる音がした。はぁぁぁと、深いため息が出る。作業
台の下から這い出した私は、ようやく、一番聞きたかったことを問いかけた。
「…それで、あなたは何でここにいるんですか?」
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■ 『自分さがし、はじめました』 by 三木勉三
──SM(searching myself)歴27年のプロが語る青春の日々
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【 探索3 とある昼食 】
なんだか少しむさくるしさに飽いたので、少し高い金を払ってこの安宿ではないホテル
で食事をとることにした。ついてみると間が悪いことに団体客と鉢合わせの時間帯だった
らしい。「少し待ってくれ」とのことで、しばらくロビーで時間をつぶすことにした。
座ってTIMESをめくっていると、上品な紳士がボーイと二三言交わしていた。と、斜め
前に腰をおろす。濃いめのつくり、愛嬌のある目元。カナダ人だろうか、どうやら私と同
じように食堂が空くのを待つらしい。ふと目が合う。
「食事をお待ちですか。」
と声をかけられる。
「ええ、どうも満席の様で。」
「私も予約を入れていたのですが、ちょっと早く来てしまいましてね。」
「こんなに混むものですか?」
「いつも、ここで料理を特注しているので、よく来るのですが、今日のようなのはたまた
まですよ。」
「特注!ほう、どんなものですか」
「ちょっとした菜食料理ですよ。日本の方ですか?」
「ええ。」
「でしたらご存知でしょう。精進料理というやつですよ。私、日本に行った事がありまし
てね。その味をインド風にアレンジしてもらったのですよ。」
「それは面白いですな」
「どうです。友人と予約していたのですが、どうもこれないようなのですよ。よろしけれ
ば、ご一緒にどうですか」
「ホントですか。ええ!よろこんで」
据え膳を食わない手はない。
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■ 『ハンドヒーラー手塚』 by 高砂詩音
──医者は何のためにあるんだ! 真の「癒し」を問うストーリー
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【 治療その2 手塚一族の秘密! 】
「お先に失礼しまーす」
またハンドヒーリング目当ての患者さんが来たら大変だ。勤務時間が終わったので、慌
ただしく荷物をまとめて一刻も早く立ち去ろうとしていると、
「手塚せんせー、きょうナースルームのみんなで飲みに行くんですけどー、来てくれませ
んかー?」
後ろで、看護大の卒業したての新米ナース、優羽クンの声がした。看護チームの中でも
酒豪で有名なコだ。
「いや、ちょっと症例についての調べものがあるから……、また今度ねっ」
「もー、たまにはストレス発散しないと病気になっちゃいますよー」
まだ六時だというのに、外はとっぷりと日が暮れていた。そうか、よく考えればもう年
末か、仕事に追われて気がつかなかった。
「もうやめなきゃ……」
ふと声が漏れた。きょうハンドヒーリングした患者さんは、きっと誰かに話すだろう、
話がいつの間にか広がって、大学病院の勤務医がハンドヒーリングをしているなんて噂に
なったらどうしようか。自分だけじゃなく、病院のみんなに迷惑がかかる……
「くそっ!」
なんで、いいことをしているのに、患者を治しているのに、悩まなきゃならないんだ?
「なにをブツブツ言っておる!」
目の前に、和服姿の父がいた。考え事をしているうちに、自宅に近すいていることに気
がつかなかったのだ。
「ああ親父か、おどかすなよ」
「ふん、顔を見ればわかるわい、仕事の悩みじゃろう。手塚流家の跡取りが、毛唐の医術
なんぞにのめり込むからそんなことになるんじゃ! これを見い!」
父はそう叫ぶと、右手を天に掲げて、大きく息を吸い込んだ。節くれ立った右手が、闇
の中で金色に輝いた。
「これが手塚家が代々で守ってきた活生法『手当術』じゃ!」(続く)
━━「バルバスバウ」より━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●編集後記
▽生牡蠣がたべたい、ぢゅるんと(宣)▽みかん風呂は危険、肌を刺す痛み(岩)▽ガス
コンロで焼きマシュマロ(亜)▽ごっくんしたい(創)▽クリスマスキャロルを見る(池)
▽冬は湿度低いのが一番うれしい(野)▽近所に鯛焼き屋ができた(大)
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最終更新:2010年01月14日 02:25