あきれみ時々尾行組
少年が一人、ぽつんと立っていた。周囲の賑わいをよそに、ぼーっと宙を眺めている。その顔立ちは可愛らしいもので、髪型がポニーテールとなっているせいか、少女に近い外見にも見えた。
「おーい、レミングー!」
そこに少女が手を振りながら駆け寄ってくる。レミングと呼ばれた少年は少しどきまぎした様子で手を小さく振り返した。
「わっりわり、ちょっと道中からまれちまってな、連中フルボッコにしてやってたらちょっと時間食っちまった」
「別にそんな待ってないから……ってちょっと、大丈夫なの!?」
お約束どおりの言葉を口にしようとしたレミングだったが、少女の言葉で急に慌てだす。
「おう、任せとけ。無傷だぜ!」
少女はへへへ、と笑いながらこともなげに答えてみせる。何を任せればいいのかわからないが、まぁ無事だということを強調したいのだろう。
「……ホントにアキラってケンカつえーんだなぁ……」
レミングは少女―アキラ―を羨望の眼差しで見つめる。大多数の少年にとって、喧嘩の強い存在というのに憧れるということは無理もないことである。
「そうでもねぇよ。な、それよりも早く行こうぜ。遅刻しちまったあたしが言うのも何だけどな」
アキラがに、と笑って手を差し出す。レミングはそれをおずおずと握り、二人は並んで歩き出した。
「おーい、レミングー!」
そこに少女が手を振りながら駆け寄ってくる。レミングと呼ばれた少年は少しどきまぎした様子で手を小さく振り返した。
「わっりわり、ちょっと道中からまれちまってな、連中フルボッコにしてやってたらちょっと時間食っちまった」
「別にそんな待ってないから……ってちょっと、大丈夫なの!?」
お約束どおりの言葉を口にしようとしたレミングだったが、少女の言葉で急に慌てだす。
「おう、任せとけ。無傷だぜ!」
少女はへへへ、と笑いながらこともなげに答えてみせる。何を任せればいいのかわからないが、まぁ無事だということを強調したいのだろう。
「……ホントにアキラってケンカつえーんだなぁ……」
レミングは少女―アキラ―を羨望の眼差しで見つめる。大多数の少年にとって、喧嘩の強い存在というのに憧れるということは無理もないことである。
「そうでもねぇよ。な、それよりも早く行こうぜ。遅刻しちまったあたしが言うのも何だけどな」
アキラがに、と笑って手を差し出す。レミングはそれをおずおずと握り、二人は並んで歩き出した。
「とまぁそういうわけで、尾行開始ですわ」
アキラとレミングから少し離れた位置で、ミナが意気揚々と拳を握る。
「ちょっと待った」
が、その横にいた諏訪が待ったをかけた。
「なんですのー? 早くしないと見失ってしまいますわよ?」
不満げに諏訪のほうに振り返るミナ。それに対し、諏訪は頭痛をこらえながらけだるそうに口を開いた。
「うん、私は確かに楽しみだって言ったわ。あの二人の行く末を見守ってやろうと思ってここにいるってことも否定しない! でもね……」
「でも? なんですの?」
ミナがきょとん、と首をかしげる。
「だからって、その装備はありえないわよ!」
ずびし、という効果音が聞こえてきそうなほど、諏訪はミナを強く指差した。
「仕方ありませんわー。私は普段から冷気に襲われていますもの。これぐらい着込まないことには寒くてやってられませんわー」
「そこじゃない! そこは知ってるわよ! 私が言いたいのはね、なんでそんなカッコしてるのってトコ!」
ミナの服装は全身黒ずくめであった。上から下まで全身真っ黒、さらにまだ秋口というのに北国の真冬を思い起こさせる完全防寒装備。尾行が目的といった割には、忍ぶ気のかけらもない服装である。周囲から浮きまくっている上に、投げかけられる奇異な視線。諏訪はそれに耐えられなくなったらしい。
「あら、雰囲気はやっぱり大事じゃない?」
「一番重視してるのそこなの!?」
対する諏訪はというと、普通の女子高生の私服、といった趣である。流石に面が割れないように帽子を目深に被ってはいるが、それでもミナのように周囲から浮いている訳ではない。
「……あ、諏訪さん、ターゲットは店に入りましたわよ。冗談はほどほどにして、私たちも行きましょう。見失ってしまいますわ」
と言って、ミナは黒装束を脱ぎ捨てる。黒装束の中身は、―まぁ季節外れではあるけれど―そこらの店で売っているような冬物の服装である。
「冗談言ってる自覚あったの!? 余計むかつくわ!!」
諏訪のツッコミを華麗にスルーしつつ、ミナはターゲットである二人―アキラとレミング―から付かず離れずの距離を保ちながら商店街へと入っていった。諏訪は文句を言いながらもミナの後をついていく。
アキラとレミングから少し離れた位置で、ミナが意気揚々と拳を握る。
「ちょっと待った」
が、その横にいた諏訪が待ったをかけた。
「なんですのー? 早くしないと見失ってしまいますわよ?」
不満げに諏訪のほうに振り返るミナ。それに対し、諏訪は頭痛をこらえながらけだるそうに口を開いた。
「うん、私は確かに楽しみだって言ったわ。あの二人の行く末を見守ってやろうと思ってここにいるってことも否定しない! でもね……」
「でも? なんですの?」
ミナがきょとん、と首をかしげる。
「だからって、その装備はありえないわよ!」
ずびし、という効果音が聞こえてきそうなほど、諏訪はミナを強く指差した。
「仕方ありませんわー。私は普段から冷気に襲われていますもの。これぐらい着込まないことには寒くてやってられませんわー」
「そこじゃない! そこは知ってるわよ! 私が言いたいのはね、なんでそんなカッコしてるのってトコ!」
ミナの服装は全身黒ずくめであった。上から下まで全身真っ黒、さらにまだ秋口というのに北国の真冬を思い起こさせる完全防寒装備。尾行が目的といった割には、忍ぶ気のかけらもない服装である。周囲から浮きまくっている上に、投げかけられる奇異な視線。諏訪はそれに耐えられなくなったらしい。
「あら、雰囲気はやっぱり大事じゃない?」
「一番重視してるのそこなの!?」
対する諏訪はというと、普通の女子高生の私服、といった趣である。流石に面が割れないように帽子を目深に被ってはいるが、それでもミナのように周囲から浮いている訳ではない。
「……あ、諏訪さん、ターゲットは店に入りましたわよ。冗談はほどほどにして、私たちも行きましょう。見失ってしまいますわ」
と言って、ミナは黒装束を脱ぎ捨てる。黒装束の中身は、―まぁ季節外れではあるけれど―そこらの店で売っているような冬物の服装である。
「冗談言ってる自覚あったの!? 余計むかつくわ!!」
諏訪のツッコミを華麗にスルーしつつ、ミナはターゲットである二人―アキラとレミング―から付かず離れずの距離を保ちながら商店街へと入っていった。諏訪は文句を言いながらもミナの後をついていく。
「クッキー作るのはいいけどさ、道具とかはどうすんのさ?」
アキラとレミングの二人は人ごみの中を並んで歩く。
「道具はなくても作れるぜ? 台所にあるものを上手く使えばなんとかなるからさ。ま、あるにこしたことはねーけど」
「へー、そういうもんなのかなぁ……。どの道具を使えばいいとかって、どうやればわかるの?」
「まー、普通に本に書いてあったり、自分で考えたりな。そういうとこも結構面白いぜ?」
「うーん……。アキラってさ、やっぱすげーんだなぁ……」
「そんなほめんな、昔からやってるだけだからって」
アキラはひらひらと手を振りながらも、まんざらでもないようだった。
アキラとレミングの二人は人ごみの中を並んで歩く。
「道具はなくても作れるぜ? 台所にあるものを上手く使えばなんとかなるからさ。ま、あるにこしたことはねーけど」
「へー、そういうもんなのかなぁ……。どの道具を使えばいいとかって、どうやればわかるの?」
「まー、普通に本に書いてあったり、自分で考えたりな。そういうとこも結構面白いぜ?」
「うーん……。アキラってさ、やっぱすげーんだなぁ……」
「そんなほめんな、昔からやってるだけだからって」
アキラはひらひらと手を振りながらも、まんざらでもないようだった。
「傍から見てると、カップルっていうよりも仲の良い姉妹ですわねぇ」
「姉妹って。まぁ彼、どっちかっていうと……じゃない、完全に可愛いってタイプだし」
ミナと諏訪は、二人との距離を保ったままソフトクリームを嗜んでいた。季節外れな感もしないでもないが、食べたくなったものは仕方ない。
「ターゲットはどうやら材料を仕入れるようですわね。普通の家なら薄力粉や卵なんかは置いてるでしょうから、ココアパウダーあたりでも買うのかしら?」
ミナがスプーンでソフトクリームをつつきつつ、ターゲットの動向を推測する。スプーンを介するとは上品な食べ方にも見えるが、ミナが直接触れるとソフトクリームどころかハードクリームになってしまう。それではせっかくの口当たりが台無しだ。彼女にとってはそれが一番の大事なのである。
「どうかなぁ。案外そういうの家になかったりして」
休日の商店街は流石に人が多いのだが、ミナ達はそれを気にする様子も無く、むしろ場慣れした感じだ。
「……あ、洋菓子店に入りましたわね」
「まさかここの厨房借りるとか? それだとお話終わっちゃうじゃない」
アキラとレミングが入ったのは、商店街にたたずむ小さな個人経営の洋菓子店である。さすがに店内に入ればバレてしまうので、ミナ達は入り口周辺から中の様子をこっそりとうかがう。
ほどなくして、二人が店から出てくる。レミングの手には小さな袋があった。諏訪は話をこのまま進められることで思わず胸を撫で下ろす。
「姉妹って。まぁ彼、どっちかっていうと……じゃない、完全に可愛いってタイプだし」
ミナと諏訪は、二人との距離を保ったままソフトクリームを嗜んでいた。季節外れな感もしないでもないが、食べたくなったものは仕方ない。
「ターゲットはどうやら材料を仕入れるようですわね。普通の家なら薄力粉や卵なんかは置いてるでしょうから、ココアパウダーあたりでも買うのかしら?」
ミナがスプーンでソフトクリームをつつきつつ、ターゲットの動向を推測する。スプーンを介するとは上品な食べ方にも見えるが、ミナが直接触れるとソフトクリームどころかハードクリームになってしまう。それではせっかくの口当たりが台無しだ。彼女にとってはそれが一番の大事なのである。
「どうかなぁ。案外そういうの家になかったりして」
休日の商店街は流石に人が多いのだが、ミナ達はそれを気にする様子も無く、むしろ場慣れした感じだ。
「……あ、洋菓子店に入りましたわね」
「まさかここの厨房借りるとか? それだとお話終わっちゃうじゃない」
アキラとレミングが入ったのは、商店街にたたずむ小さな個人経営の洋菓子店である。さすがに店内に入ればバレてしまうので、ミナ達は入り口周辺から中の様子をこっそりとうかがう。
ほどなくして、二人が店から出てくる。レミングの手には小さな袋があった。諏訪は話をこのまま進められることで思わず胸を撫で下ろす。
「アキラって顔広いよなぁ。アキラ見た店の人、態度違ったじゃん」
「広いってわけでもねーよ。ただの常連客ってだけでさ」
「それにしてもそんだけで材料わけてくれるって、太っ腹だよなぁ」
レミングは袋の中を確認しながら、ちらりとアキラを見上げる。彼女の肌は健康的な日焼けをしていて、それはどんな化粧よりも綺麗に見えた。
「広いってわけでもねーよ。ただの常連客ってだけでさ」
「それにしてもそんだけで材料わけてくれるって、太っ腹だよなぁ」
レミングは袋の中を確認しながら、ちらりとアキラを見上げる。彼女の肌は健康的な日焼けをしていて、それはどんな化粧よりも綺麗に見えた。
「なるほど、あの店から材料をもらったんですわね。それに、あの量だと今日作る分だけでしょうね、きっと」
うむうむと推理のポーズをとりながらミナが推測する。
「会話聞こえてるの?」
隣の諏訪は感心しているような、呆れてるような、複雑な表情をミナへ向ける。
「人間半分やめてますから」
「……冗談に聞こえないわ!」
ミナとしては冗談ではなかったのかもしれないが。
「それにしても……」
諏訪はため息をつきつつ、前方のターゲットに視線を向ける。二人は手を繋いで、楽しげに歩いているが、それ以外に変わった点は見当たらない。ミナが言ったように、仲の良い姉妹、もしくは姉弟のようだ。
「あれじゃ半年間も進展がないのも頷けるわね……」
「でしょう。まぁあの二人の性格ですもの、人前でいちゃつくとはないと思いますけど。それであってももっと積極的であってしかるべきですわ。……あれでとっくに既成事実があったりなんかしたらショックどころじゃありませんけど」
「ないない、それはない!」
古今東西、恋愛談義の嫌いな女子はいないのである。
うむうむと推理のポーズをとりながらミナが推測する。
「会話聞こえてるの?」
隣の諏訪は感心しているような、呆れてるような、複雑な表情をミナへ向ける。
「人間半分やめてますから」
「……冗談に聞こえないわ!」
ミナとしては冗談ではなかったのかもしれないが。
「それにしても……」
諏訪はため息をつきつつ、前方のターゲットに視線を向ける。二人は手を繋いで、楽しげに歩いているが、それ以外に変わった点は見当たらない。ミナが言ったように、仲の良い姉妹、もしくは姉弟のようだ。
「あれじゃ半年間も進展がないのも頷けるわね……」
「でしょう。まぁあの二人の性格ですもの、人前でいちゃつくとはないと思いますけど。それであってももっと積極的であってしかるべきですわ。……あれでとっくに既成事実があったりなんかしたらショックどころじゃありませんけど」
「ないない、それはない!」
古今東西、恋愛談義の嫌いな女子はいないのである。
「ターゲットは仲良く並んで座っていますわねー」
「近ッ!? あれって狙ってやってんのかしら? それとも天然?」
ミナと諏訪の視線の先には、電車の座席に二人並んで座っているアキラとレミングの姿があった。電車の中は空いているにも関わらず、二人の間隔はとても狭く、肩と肩が触れ合うような距離である。
「アキラ的にはあれ、天然ですわね。そしてそれがレミング君をテンパらせていることに気付いてないのはお約束って奴ですわ」
レミングは赤くなって、そわそわもじもじと落ち着きがない。まぁ、好きな相手に接近されればそうなるのも無理はない話なのだが。ミナはその様子を見て思わず笑みを浮かべる。
「あぁ、天然でああいうことやるから、余計に進展しないわけね」
何かに納得したかのように、諏訪が小さく頷いた。
「ところで彼ら、どこに行くのかしら?」
「この道順ですと、多分レミング君の家ですわね。惜しいですわー。アキラの家でしたら修羅場が見れましたのに」
「修羅場って」
またそんな、とでも言いたそうな諏訪であるが、その目は残念そうでもあった。そんな光景を見てみたかったのであろう。
「近ッ!? あれって狙ってやってんのかしら? それとも天然?」
ミナと諏訪の視線の先には、電車の座席に二人並んで座っているアキラとレミングの姿があった。電車の中は空いているにも関わらず、二人の間隔はとても狭く、肩と肩が触れ合うような距離である。
「アキラ的にはあれ、天然ですわね。そしてそれがレミング君をテンパらせていることに気付いてないのはお約束って奴ですわ」
レミングは赤くなって、そわそわもじもじと落ち着きがない。まぁ、好きな相手に接近されればそうなるのも無理はない話なのだが。ミナはその様子を見て思わず笑みを浮かべる。
「あぁ、天然でああいうことやるから、余計に進展しないわけね」
何かに納得したかのように、諏訪が小さく頷いた。
「ところで彼ら、どこに行くのかしら?」
「この道順ですと、多分レミング君の家ですわね。惜しいですわー。アキラの家でしたら修羅場が見れましたのに」
「修羅場って」
またそんな、とでも言いたそうな諏訪であるが、その目は残念そうでもあった。そんな光景を見てみたかったのであろう。
「……っ!?」
「? どうかしたのか?」
「……いや、何か急に寒気が」
ぞっとしたものを感じたレミングは周囲を見渡した。特に何が見つかったわけでもない。きっと修羅場という単語に過剰反応したのであろう。
「んー、大丈夫か?」
寒気を「背筋が凍るようなもの」ではなく「純粋な寒さ」だと勘違いしたアキラは、レミングをすっと抱きすくめた。
「わ、ちょ、えぇっ!?」
一気に顔を赤くするレミング。
「いや、寒気とか言うからさ。大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫、だけど……えっと……」
すごく近いところで視線と視線がぶつかり合う。それでレミングはさらに顔を赤くした。アキラの優しげな瞳が彼を見つめている。
しばらく二人は何か喋るでもなく、行動を起こすでもなく、ただ見つめあっていた。
そして流れた車内放送で、二人はどちらからともなく離れるのであった。
「? どうかしたのか?」
「……いや、何か急に寒気が」
ぞっとしたものを感じたレミングは周囲を見渡した。特に何が見つかったわけでもない。きっと修羅場という単語に過剰反応したのであろう。
「んー、大丈夫か?」
寒気を「背筋が凍るようなもの」ではなく「純粋な寒さ」だと勘違いしたアキラは、レミングをすっと抱きすくめた。
「わ、ちょ、えぇっ!?」
一気に顔を赤くするレミング。
「いや、寒気とか言うからさ。大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫、だけど……えっと……」
すごく近いところで視線と視線がぶつかり合う。それでレミングはさらに顔を赤くした。アキラの優しげな瞳が彼を見つめている。
しばらく二人は何か喋るでもなく、行動を起こすでもなく、ただ見つめあっていた。
そして流れた車内放送で、二人はどちらからともなく離れるのであった。
「えー!? ちょっと、そこはもうちょっと何かあるべきなんじゃないの!?」
「車内放送マジでKYすぎですわ……」
これに地団駄を踏むのは尾行組である。尾行を始めてようやく甘々な展開を拝めると期待した矢先にこれだ。
「どうもハードルはかなり高いようね……」
「最初からクライマックスですわ……」
アキラたちが電車から降りていったので、二人も人にまぎれて電車から降りる。
ここまで、それらしいことは一度もなし。やや失望しつつも、これからが本番とばかりに気合を入れなおす二人であった。
「車内放送マジでKYすぎですわ……」
これに地団駄を踏むのは尾行組である。尾行を始めてようやく甘々な展開を拝めると期待した矢先にこれだ。
「どうもハードルはかなり高いようね……」
「最初からクライマックスですわ……」
アキラたちが電車から降りていったので、二人も人にまぎれて電車から降りる。
ここまで、それらしいことは一度もなし。やや失望しつつも、これからが本番とばかりに気合を入れなおす二人であった。
「レミングんちに来るのって二回目だなぁ」
「そ、そうだね……」
一回目の訪問を受けた時にメイド服で色々ご奉仕されたことを思い出してレミングは思わず赤くなる。あのときのハンバーグおいしかったな、とかも考えつつ。
「そういや、今日も家の人いねーのか?」
「うん、最近ちょっと忙しいみたい」
「そっかー。できたら挨拶しときたかったんだけどなぁ。まぁ忙しいんだったら仕方ねーよな」
挨拶、という言葉で無駄に妄想を膨らますのは男のサガというものである。
ともあれ、扉を開けてレディーファースト。アキラを先に家の中へ案内し、そうして二人はマンションの一室に消えた。
「そ、そうだね……」
一回目の訪問を受けた時にメイド服で色々ご奉仕されたことを思い出してレミングは思わず赤くなる。あのときのハンバーグおいしかったな、とかも考えつつ。
「そういや、今日も家の人いねーのか?」
「うん、最近ちょっと忙しいみたい」
「そっかー。できたら挨拶しときたかったんだけどなぁ。まぁ忙しいんだったら仕方ねーよな」
挨拶、という言葉で無駄に妄想を膨らますのは男のサガというものである。
ともあれ、扉を開けてレディーファースト。アキラを先に家の中へ案内し、そうして二人はマンションの一室に消えた。
「二回目って、何、どういうことなの?」
「以前アキラにメイド服を貸して押しかけさせたことがありますのよ。ここの住所はその時にハーゼさんから聞きましたの。ふふ、あの時はあの時で傑作でしたわ」
「ちょ、連続確信犯!? 前からこんなことしてたのね……」
「だぁって本当に何も進展がないんですもの。……あ、こっちに監視のベストポジションがありますわ」
部屋の中に入ってしまったターゲットの姿を見れる場所を求めて、尾行組はマンションの周囲をうろつく。
「……なるほど、ココからならよく見えるわね」
「でしょう?」
二人がたどり着いたのは、マンションの裏手にある小高い丘だった。東屋には双眼鏡が備え付けてある。よく見れば、マンションの反対側はなかなかの景勝地だ。そのための双眼鏡であろう。マンションの住民としては迷惑なのか、多くの部屋がカーテンを閉め切っている。
「まぁ、日が翳ってくるとカーテンで遮られてしまいますけどね。前回もいいところでしたのに、それで断念せざるを得ませんでしたわー」
ターゲットであるレミングの部屋は、無用心にもカーテンが全開である。諏訪はそれをいいことに双眼鏡で覗き込んでいたが、ミナの言葉で双眼鏡から目を離す。
「いいところって?」
「アキラが耳掃除をしてあげてましたわねー。今でも続きが気になりますわー」
「なるほど、それは気になるわね。……ってことは、これは期待できるかも」
「ですわー」
交互に双眼鏡を覗き込みながらも、ノリノリな二人であった。
「以前アキラにメイド服を貸して押しかけさせたことがありますのよ。ここの住所はその時にハーゼさんから聞きましたの。ふふ、あの時はあの時で傑作でしたわ」
「ちょ、連続確信犯!? 前からこんなことしてたのね……」
「だぁって本当に何も進展がないんですもの。……あ、こっちに監視のベストポジションがありますわ」
部屋の中に入ってしまったターゲットの姿を見れる場所を求めて、尾行組はマンションの周囲をうろつく。
「……なるほど、ココからならよく見えるわね」
「でしょう?」
二人がたどり着いたのは、マンションの裏手にある小高い丘だった。東屋には双眼鏡が備え付けてある。よく見れば、マンションの反対側はなかなかの景勝地だ。そのための双眼鏡であろう。マンションの住民としては迷惑なのか、多くの部屋がカーテンを閉め切っている。
「まぁ、日が翳ってくるとカーテンで遮られてしまいますけどね。前回もいいところでしたのに、それで断念せざるを得ませんでしたわー」
ターゲットであるレミングの部屋は、無用心にもカーテンが全開である。諏訪はそれをいいことに双眼鏡で覗き込んでいたが、ミナの言葉で双眼鏡から目を離す。
「いいところって?」
「アキラが耳掃除をしてあげてましたわねー。今でも続きが気になりますわー」
「なるほど、それは気になるわね。……ってことは、これは期待できるかも」
「ですわー」
交互に双眼鏡を覗き込みながらも、ノリノリな二人であった。
「よっしゃ、ちょっと時間押してるから、ちゃっちゃっと作ろうか」
「うん」
二人はそれぞれ自前のエプロンを身につけて、台所に立つ。
「……」
準備を始める前に、アキラはレミングの服装をしばらく見ていた。思わず身構えるレミング。
「な、なんだよ?」
「そのエプロン、懐かしいなー」
レミングが身につけているエプロンは、小学校の給食の時間に使うような、割烹着のようなエプロンである。まぁ、自前のエプロンを持っている男の子は少ないのだろう。
「これしかないんだから、しょうがないだろ!?」
「うん、ま、そういうもんだろーなぁ。懐かしかったから、ついな」
アキラが恥ずかしそうに笑い、レミングの頭をぽん、と軽く叩く。
「じゃ、まずは材料の計量からだなー」
「はーい」
「うん」
二人はそれぞれ自前のエプロンを身につけて、台所に立つ。
「……」
準備を始める前に、アキラはレミングの服装をしばらく見ていた。思わず身構えるレミング。
「な、なんだよ?」
「そのエプロン、懐かしいなー」
レミングが身につけているエプロンは、小学校の給食の時間に使うような、割烹着のようなエプロンである。まぁ、自前のエプロンを持っている男の子は少ないのだろう。
「これしかないんだから、しょうがないだろ!?」
「うん、ま、そういうもんだろーなぁ。懐かしかったから、ついな」
アキラが恥ずかしそうに笑い、レミングの頭をぽん、と軽く叩く。
「じゃ、まずは材料の計量からだなー」
「はーい」
「あのエプロン、懐かしいわねぇ……」
「どれどれ……。……あぁ、確かにそうですわねー。よく似合ってますわ」
近所のコンビニで買って来たお菓子を口に運びつつ、交互に双眼鏡を覗き込む二人であった。
徐々に日は暮れてきている。が、窓の向こうのターゲットは何か特別なことをするでもなく、生地作りに勤しんでいた。
どうやら今回の尾行は徒労に終わりそうだ。諏訪は思わずため息を漏らした。
「どれどれ……。……あぁ、確かにそうですわねー。よく似合ってますわ」
近所のコンビニで買って来たお菓子を口に運びつつ、交互に双眼鏡を覗き込む二人であった。
徐々に日は暮れてきている。が、窓の向こうのターゲットは何か特別なことをするでもなく、生地作りに勤しんでいた。
どうやら今回の尾行は徒労に終わりそうだ。諏訪は思わずため息を漏らした。
「あとはオーブントースターで焼くだけっと。簡単だろ?」
「うん、意外なぐらい……」
オーブントースターにクッキーの生地を入れて10分ほど焼く。それで完成。レミングはやや拍子抜けしていた。
「ま、本格的にやればもっと色々できるんだけどな。今日はお前の初体験ってことで」
アキラの言葉のあと、沈黙が場を覆った。オーブントースターのタイマーの音だけが台所に響く。
「あのさ……」
「そういやさ……」
まったく同じタイミングで言葉がぶつかる。見下ろすアキラと、見上げるレミング。二人の視線もぶつかっていた。
ほんの少しだけ、レミングはアキラに近寄った。
「うん、意外なぐらい……」
オーブントースターにクッキーの生地を入れて10分ほど焼く。それで完成。レミングはやや拍子抜けしていた。
「ま、本格的にやればもっと色々できるんだけどな。今日はお前の初体験ってことで」
アキラの言葉のあと、沈黙が場を覆った。オーブントースターのタイマーの音だけが台所に響く。
「あのさ……」
「そういやさ……」
まったく同じタイミングで言葉がぶつかる。見下ろすアキラと、見上げるレミング。二人の視線もぶつかっていた。
ほんの少しだけ、レミングはアキラに近寄った。
「諏訪さん、来ましたわ! 今回は車内放送もありませんわよ!」
「え、ウソ!?」
もはや諦めた感じで携帯をつついていた諏訪だったが、すぐに双眼鏡を覗き込む。部屋の中には、しばらく見つめ合っている二人の姿があった。
「ここまで来ていい雰囲気じゃない! これは期待できそうね!」
「ようやく報われた気分ですわ……」
が、そう上手くは進まなかった。二人は急に離れて、他人行儀にオーブントースターからクッキーを取り出している。
「えー!?」
「えー!?」
残念がるというよりも、驚いたのは尾行組である。自宅という何者の邪魔も入らない空間で、さらに家の人も留守なのに、なぜこんな展開になってしまうのか。
「なんで!? なんでここまで来て何もなしなの!?」
「これじゃまるで男坂ですわ……!」
そして完全に日も暮れ、見慣れない人物がカーテンを閉め、尾行はここで打ち切られたのだった。
「え、ウソ!?」
もはや諦めた感じで携帯をつついていた諏訪だったが、すぐに双眼鏡を覗き込む。部屋の中には、しばらく見つめ合っている二人の姿があった。
「ここまで来ていい雰囲気じゃない! これは期待できそうね!」
「ようやく報われた気分ですわ……」
が、そう上手くは進まなかった。二人は急に離れて、他人行儀にオーブントースターからクッキーを取り出している。
「えー!?」
「えー!?」
残念がるというよりも、驚いたのは尾行組である。自宅という何者の邪魔も入らない空間で、さらに家の人も留守なのに、なぜこんな展開になってしまうのか。
「なんで!? なんでここまで来て何もなしなの!?」
「これじゃまるで男坂ですわ……!」
そして完全に日も暮れ、見慣れない人物がカーテンを閉め、尾行はここで打ち切られたのだった。
「うん、美味いじゃないか」
「そっか? ちなみに、あたしは作り方教えただけで、ほとんどレミングがやったんだぜ」
レミングが近寄った後、急に家のドアが開き、何者かが入ってきたのだった。その人物の名前はローズアイ。レミングの保護者である。
「まぁ、邪魔してしまったようだな」
ローズアイが申し訳なさそうに笑う。アキラとレミングは、互いに苦笑を浮かべるのみだった。
「よし、私は今から飲みに行くよ。『二人』は留守番しててくれ」
「……う、うん、行ってらっしゃい!」
ローズアイが笑って部屋から出て行った。
そして再び、アキラとレミングは二人っきりになるのだった。
「そっか? ちなみに、あたしは作り方教えただけで、ほとんどレミングがやったんだぜ」
レミングが近寄った後、急に家のドアが開き、何者かが入ってきたのだった。その人物の名前はローズアイ。レミングの保護者である。
「まぁ、邪魔してしまったようだな」
ローズアイが申し訳なさそうに笑う。アキラとレミングは、互いに苦笑を浮かべるのみだった。
「よし、私は今から飲みに行くよ。『二人』は留守番しててくれ」
「……う、うん、行ってらっしゃい!」
ローズアイが笑って部屋から出て行った。
そして再び、アキラとレミングは二人っきりになるのだった。