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ミュークト名鑑
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ミュークト名鑑

サンプル!

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タイトル;サンプル
作者:水無月五日



 初めまして私、諏訪加奈!
 とある学園に通ってる高校二年生、華も恥じらう十七歳よ。
 今日はホント大変だったわ! 朝起きたら遅刻ギリギリの時間なの。今まで皆勤だから遅れるわけには行かない、私はパンを咥えて学校まで乙女の猛ダッシュ!
 曲がり角で知らない男の子とぶつかっちゃった♪
 でも、その男の子、信じられないの! 
 顔は結構いいほうなんだけど、尻餅をついた私に一言、「汚い物を見せるな」よ。信じられる? 毎日新しいのに変えてるというのに、そういう事言う、普通!
 朝から不愉快な気分になって、教室に行くと、なんと転校生が来るらしいの!
 噂だとスッゴク格好良い人だって。どんな人が来るかわくわくしながら、待っていると、先生が転校生を連れてやってきたの。
 なんと、その転校生は……!

 ……ごめん、限界だわ。
 せめて明るく主人公やろうと思ったけど、私には無理よ。
 とりあえず仕切りなおしね。
 私は諏訪加奈。とある学園に通う高校二年生。
 自分で「一般人」っていう奴に限って、なんかすごい能力とか持っているのがセオリーなんだけどさ、それでも言うわ。
 私は普通に何の変哲もない一般人よ。これだけは信じて。
 周りには奇人変人跋扈しているけどね。


 今日は折り畳み傘もいらないと言う予報だった。
 こんな日は気分も上々。鼻歌を歌いたくなりながら通い慣れた通学路を歩く。
 いつもより遅い時間に家を出たって言うのに、学校までの道はガラガラ。同じ学校の制服を着た生徒とは会わないわ。
 私の通う学園の制服はセーラー服とブレザーがある、奇妙な学校。どちらのデザインも、着用し初めて街中を歩くには度胸がいるデザインだけど。
 今はもう慣れっこよ。
 そりゃ最初は漫画やアニメに出てくるようなデザインの制服は抵抗があったけど、「赤信号、皆で渡れば怖くない」って言うように、周りの奴が堂々と着ていたら、恥ずかしがるのも馬鹿みたいじゃない。
 学校の校門通りを歩いてると、流石に同じ制服を着た人たちの姿が見える。
 少し離れた場所に飛行機すら入るんじゃないかって程の大きすぎる正門が見えてきた。
 校門でそんなに大きいのだから、敷地内はもう荒野よ。長い事学園に通っているけど、まだ行った事のない場所があるわ。
 恐らく、在学中に敷地を全部回ってみるなんて不可能だと思うの。どこぞとの愛好会は学園の敷地を一周しようと躍起になってるみたいだけど。
 学校の校門にはなにやら人だかりが出来ている。それが服装検査だと即座に理解した。
 制服はフリーダムなのに、なんで検査を必要があるかはわからないけど。
「おい、スカートの丈が短すぎる。もう少し長くしろ」
 検査を行っているのは、フリーダム授業で有名な野田太郎。
「おはようございまーす」
 生徒達はびくびくしながら、野田太郎の脇を通り抜ける。
 勿論、怪しげな素振りを見せた奴は持ち物検査まで行われる。
 野田太郎が検問となっており、人が二人ほど入れる程度しか開いてない校門を通らないと敷地内には入れないようになっている。
 飛行機が入れるぐらい広い校門なら見つからずに柵を乗り越えればいいって思うかも知れないけど、それは無理よ。
 横は飛行機並みの大きさで、塀の高さが普通ってありえるわけないじゃない。塀も柵もとてつもなく高い。
「おい、シャツが出ているぞ」
 指摘された箇所を直しながら生徒は敷地内へと消えてゆく。
 待ち時間は十分ぐらいで私の番になる。
「おはようございますー」
 おかしいところは無いはずだ。特に制服のスカートなんか弄ってないし。
「おい、ちょっと待て」
 野田太郎の低い声が通過しようとしていた私を呼び止める。
 何、何かおかしいっけ?
「ヘアピンが少し派手だ。もう少し地味な奴にしろ」
 野田太郎が手を差し出す。これは没収よね。
 そりゃ少し派手かなーって思ったけど、ヘアピンぐらい見逃してよ。ついてないなぁ。
 渋々ヘアピンを外すと野田太郎に渡す。野田太郎は十本で百円ぐらいの安っぽいヘアピンを変わりに私の手に乗せる。
 とほほ……これダサいのよね。
 ヘアピンを没収され、私の気分はブルー。心の中では大雨洪水警報が発令。
 あと何人没収されるのかなと、後ろを振り向いてみる。
 ちょ、何あれ!?
「朝日の光は正義の光。校門服装検査は正義の検査! 野田君、おはよう!」
 明らかに変な服装の奴が野田太郎に挨拶をする。
「おう、正義、おはよう」
 変な服装の奴を説明するなら、戦隊もののヒーローが変身したままで学校に通ってるって言った方がわかりやすいかしら?
 制服はなんの変哲もないブレザー。でも、ヘルメットが余計。
 正義と呼ばれた変人はそのまま校門を通過しようとする。
 いや、明らかに余計でしょ、ヘルメット!
「おい、正義!」
 野田太郎は正義を呼び止める。そりゃそうよね。あんな格好で授業なんて受けられるはずがないわ。
 もし、あの格好がスルーされると言うなら、私はスカートは身に着けないでパンツのようなものを穿いただけの前衛的なファッションで登校するわ。パンツじゃないから恥ずかしくないわ!
「シャツの裾が出ているぞ」
「あ、すいません……」
 正義はあせりながら、自分の服装をチェックすると、後ろの裾が出ている事に気がついた。
 指摘、まずそこ? ヘルメットじゃなくて、裾なの!?
 尻尾のようにはみ出したシャツを急いでズボンの中に入れる。
「よし、行ってよし」
 いやいや、ちょっとおかしいでしょ、変でしょ!?
 なんで私はヘアピンが派手という理由で没収されたのに、アイツはスルーなの!?
「ジャースティスウォッチ!」
 颯爽と左手の甲を顔の前に持ってくる。
 制服の裾の中から、黒い筒が飛び出す。
 トラックのブレーキのエア抜きのような音が響く。
 閃光は一瞬。正義の左手の直線状にあった木は幹に大きな風穴が開いて、煙が立ち上っている。
「うぉ、間違えた! 時計は右手だった!」
 ちょっと、学校に武器持ち込んでるわよ、あの馬鹿!?
 しかも時計は手首の方向についている。女巻きじやない!?
「撃つ時は出来る限り撃つと叫べ、正義!」
 野田太郎が次の生徒の服装をチェックしながら正義を注意する。
 何で銃がセーフで、ヘアピンがアウトなの、おかしいでしょ!?
 頭を抱えながら、私は教室に向かった。

「おっはよー」
 教室の扉を開けると、此処は本当に学校かと思える髪の色の奴らばかり。赤やら青やら金やら。
「お、諏訪ちゃん、おっはよー」
 金髪の本当に学生かと思える男子生徒、ハーゼが話しかけてくる。性格を一言で言うと、馬鹿。二言で言うと、めっちゃ馬鹿。
「今、ちょっと練習をしていてね」
「なんの練習?」
 どうせくだらない事だろうけど、練習なんて言われたら気にならないわけないじゃない。
「それを言っちゃ意味ないぜ。まぁ、とりあえずバンザーイ」
 目の前でハーゼが万歳をする。私も同じように万歳をする。
「いまだ、さなだん!」
「応!」
 天井に向けられた手を背後から掴まれる。
「俺の瞳は禁断の三角地帯を逃さない!」
 ハーゼの腕が下にリフトダウンし、再び勢い良く上へリフトアップ。
 何が起こったか理解できなかった。
 下斜め四十五度の視界には捲れあがるスカートと、しゃがみ込むハーゼ。
 数秒して、私は今更ながら、スカート捲りを食らったのだと理解した。
「なっ……」
 頭の中にはいろんな言葉が思い浮かんだのだけど、どれもこれも優先順位が高く、言葉が出てこなかった。
「ちょ、ハーゼ、俺見えなかったぞ!?」
 背後から聞きなれた声。真田槍助の声だ。
「ちょっと待って、俺地獄の鬼どもに今熱い抱擁を受けてるところだから……」
 顔面を押さえてのた打ち回るハーゼ。
「くそ、完璧な作戦だったのに、諏訪セキュリティはそれ以上に厳重だったか……まさかあの状態で膝蹴りが来るとは予想できなかった。恐るべし、諏訪ちゃん」
「いや、ハーゼ、お前騙したな!? お前を手伝えばきっと、俺も見えるって言っていたのに、見えるのは諏訪の鬼のような顔だけだぞ!」
「ふっ、敵を欺くにはまずは味方から。甘いねさなだん!」
 初めから真田を利用するつもりだったと告げるハーゼ。真田は私の手を開放して、ハーゼに掴みかかる。
「はい、諏訪さん」
 立ち振る舞いからお嬢様のオーラが漂う淑女が呆然とする私の手に木材を握らせる。
「さーて、お楽しみのトコ悪いけど……覚悟はいい?」
『や、やらしくしてね……?』
 全く反省の色のない二人には正義の鉄槌が必要かしらね?

「お見事なお手前だこと」
 私以上に残虐な方法でバツを下しそうなミナがぼやく。
「ほらほら、みんな、先生来るよー♪」
 渚が手を叩いて、皆を席に促す。
 本当にいろんな髪の色した生徒がいるわね。
「はーい、皆さん、時間になりましたよー」
 フード姿で目を包帯をした緑色の髪をした女性が教室に入ってくる。
 シルフィーナといって、この学校の教師だ。皆からは汁先生といわれてるけど、由来は誰も知らない。
「今日の会議で決まったんだけど、今週からイベント強化月間として、様々な学校行事を予定するから、みんながんばってね」
 当然ブーイングの嵐。
「ほら、面白そうだし、皆も友達との結束力を固められるいい機会じゃない?」
「いや、十分にあるし」
 口答えする生徒に流石に頭に来たのか、汁先生は教卓を叩く。
「そんなに文句があるなら掛かって来なさい、肉体言語でわからせてあげるわ!」
 口による説得を諦めた汁先生。いや、おかしいでしょ!?
「おーし、わかった」
 クラスメイトの大半が一斉に汁先生の元へと向かう。
「……れ、冷静に話し合おうよ?」
 勝機がないことを悟った汁先生は席を立った生徒をなだめる。
「んー。でも楽しそうッスよー?」
 稀石明菜がにこやかな笑顔でクラスメイトに言うと、汁先生の所に殺到していた生徒達が納得し、それぞれの席に戻ってゆく。
「す、すさむわぁー……」
 汁先生は咳払いを一回。
「とりあえず、今日の連絡はそれぐらいね、皆、一日がんばってね」
 普通なら此処で先生は退場だけど、一時間目がHRとあって、このまま居座る気ね。
「とりあえずあっついなー。もう少し涼しくならない?」
 年から年中暖房器具のアキラはセーラー服の胸元を仰ぎながら机にへばりつく。
「あら、私はこれぐらいが丁度いいですけど?」
 アキラと対照的なミナ。二人に前後を挟まれる形となった影山ユウジは死にそうな顔をしている。
 前は暑くて後ろは寒い。そりゃ地獄よね。よく身体を壊さないものね。
「冷たいもんでもあれば少しは楽になるんだけどねー」
 アキラはそう呟くが、持った瞬間ジュースにならない?
「それだったら、ジョウにアイスクリームを買いに行かせれば問題解決ですわ」
「ミナさんのためなら例え火の中水の中、何処なりと行くッス!」
 全身からパシリ臭を匂わせているジョウが勢いよく立ち上がる。
「じゃぁ、俺チョコミント」
「俺はガジガジ君」
 すかさず真田とハーゼがジョウの肩を叩く。
「え?」
「……ウルトラカップ、全種」
 当然のように、ディレイラも。そんなに食べてお腹を壊さないか心配だわ。
「わはー、ジョウ君、アイスクリーム買ってきてくれるの? じゃぁ私はねー」
 渚も唇に手を当てながら悩む。
「ちょっと待て! 私には聞こえたぞ、弱者の声なき正義の声が!」
 教室の扉を開けると、正義が入ってきた。
 休み時間にまで別の教室にやってくるなんて、自分の教室に友達いないのかしら?
「私のアイスはソフトクリームのバニラ味! 頼んだぞ、ジョウ君!」
 いや、ちょっと待って、正義!?
 あんた弱者を助けに来たんじゃないの!?
「みんな、あんまりッスよ! これじゃジョウ君がかわいそうッス!」
 ジョウの境遇に同情した明菜が割って入る。
「何を今更。あかりちゃん、よく考えるんだ。ジョウが冷たいアイスクリームを買ってきてくれるんだぞ。此処でとめたらそれを食べられないじゃないか」
「そ、それはそうッスけど……」
 真田の囁きに大きく揺れる明菜。
「それはそれは甘くて美味しいアイスクリームですわ」
 ミナもすかさず援護射撃。
「それもそうッスねー。じゃぁ、私ソーダバーで!」
 明菜陥落。
 今にも泣きそうな顔をしているジョウ。私には見えないわ。
「ちょっと、それは見過ごせないわ!」
 汁先生が口を挟む。流石にこれは見過ごせないよね。あーあ、アイスが。残念。
「私はチョコモナカ!」
 ちょっと待って、教師! 生徒をパシリに使うな!?

 クラスメイトに見送られ、ジョウは駆けて行った。
 なんか少し泣いてた気がするのは気のせいよね。
 数分後、息を切らしてジョウが両手にコンビニビニールをぶら下げ帰還。
「かか、買ってきたッス!」
 クラスメイトにアイスクリームを配るジョウ。
 そういえばこれはお金払ってないわね。もしかして自腹?
 まぁ、いいわ。アイスが冷たくておいしー。
「ちょっと待ってくれ、私のソフトクリームバニラ味がない!?」
「私のチョコモナカもよ!?」
 今日も今日で学園は平和です。
 嘆く汁先生と正義と氷漬けにされるジョウと、それに巻き込まれるユウジ以外は。



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