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夢の遠足リベンジ 前編

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夢の遠足リベンジ 前編


作者 水無月五日


「先日の遠足は残念だったわね~。直前までの天気予報じゃ雨なんか降らないって予報だったのにね、誰か珍しい事やったから雨降ったんじゃないの?」
 六時限目のHR時に汁先生こと、シルフィーナ先生が教卓に頬杖をついて言った。
「やっぱ一番の原因は普段何があっても遅刻欠席のない正義が学校休んだからだろ?」
 真田槍助は椅子に座り、足を机の上に乗せた状態で手を頭の後ろで組んだ。
 って、姿勢悪すぎ。そんな風に四脚ある椅子の後ろ二つの脚だけでバランスを取って座ってるとすぐに椅子が痛むわよ。これは教材なんだから、少なくとも六年は使われるのよ。
「でもそれは遠足中止の連絡網が回る前に張りきって集合場所に行ったから、欠席になった訳で正義が休んだから雨が降ったとは言わないんじゃなくて?」
「でもよー、結果論としては正義が休んだわけじゃん? だから雨降ったんじゃねーの?」
 真中に影山君を挟んで席の前後で会話するアキラとミナ。挟まれている影山君は死にそうな顔をしている。まぁ、いつも覇気のない顔してるけどね。
 あの日の雨の真相は正義が欠席したから雨が降ったのか。正義が欠席するから雨が降ったのか。一種のタイムパラドクスのようで、深く考えると思考の海に沈んでしまう。深く考えない方がいいわね。
「これはあくまでも噂なんだが、皆勤達成ができなくなった正義の落ち込みっぷりは酷かったらしいぜ? 毎日のようにコンドル先生の所に行って、「俺のジャスティスはジャスティスじゃ無くなってしまったんです、私からジャスティスを抜いたら何が残るのでしょうか? ノンジャスティスとして生きていくにはジャスティスが足りない日々なんです。正義を待ちわびる子供たちにどんなジャスティスライトを与えれば良いのでしょう?」って、相談して毎日のように追い出されていたって話だぜwww」
 主語ジャスティスばっか。なんで彼はそんなにジャスティスに拘るのか私にはミクロンも理解できないわ。
「正義君ねー。彼に関してはこちらにも落ち度があるから一応欠席は取り下げることにしたわよ。っていうか、コンドル先生がとうとう音を上げたと言えるけど」
 右手の上でペンを三回転させて汁先生がつぶやく。何気にペン回しの技術がすごいんだけど。
「はぁー。遠足楽しみにしてたのになー。それに遠足気分で学校に来て六時間ずっと授業ってのはちょっとショックだったなぁー」
 やる気のないゆる系癒しマスコットのように机に突っ伏した渚ちゃんは額を机板につけて完全ダウナーモード。どれだけ遠足を楽しみにしていたかが伺えるわね。
「まぁまぁ、その代りに明日バス遠足なんじゃないの、文句言わないのー。例え男が果てるのが早くても女は文句は言ったらいけないのよ!」
『はぁ!? それ初耳!?』
 汁先生の何気ない一言でクラス全員の声が一斉にかぶった。
「あら、皆お・ま・せ・さ・ん・ね? よぉーし、先生張りきって教えちゃうぞー!」
 今にも暑苦しそうなフードを脱ぎ捨てそうな勢いで立ち上がり、汁先生はチョークを握った。
「まず、男の子は自らの限界が近くとも、腰を……」
『そっちじゃねぇ!?』
 一斉に黒板に向けられてカッターナイフやハサミが飛ぶ。汁先生をかすめながらカッターナイフが黒板に突き刺さる。
「いや、確かに発言はあれだったけど、やりすぎじゃない!?」
 いくら汁先生といえども、このような仕打ちを受けて起らないはずがないわ。
「ごめ~ん、女の子の方だった? 女の子はね……」
『そっちでもねぇ!?』
 一斉に黒板に向けられてカッターナイフやハサミが飛ぶ。汁先生をかすめながらカッターナイフが黒板に突き刺さる。
「ちょっと待って、なんで学校に二本も三本もカッターナイフやハサミを持ち込んでるわけ!? 通常の学校生活にそんなにカッターナイフやハサミは必要ないはずよ!?」
「ちょっとしたお茶目なジョークなのに……キレる十代は怖いわぁ~」
 クラスメイトの数人が机を手にして流石に汁先生もビビったようだわ。学級崩壊という言葉がこんなにしっくりくるクラスはないわね。
 ちょっと鳩尾あたりが痛くなってきたわ……あとで胃薬飲も。
「せんせーバス遠足ってどこに行くんですかー?」
 やる気を完全になくしていた渚ちゃんの瞳に炎が宿ったような気がしたわ。机に突っ伏していた姿が嘘のよう。しっかりと斜め四十五度に手を挙げて質問している姿はいつもの渚ちゃんだわ。
「本来ならまた歩いて公園に行く予定だったんだけど、他の学校と日程がかぶっちゃってねー。急遽バス遠足になったのよ~」
「他の学校と一緒だと何かいけないッスか?」
 そういえば目的地が他の学校とかぶるなんてそう珍しい事じゃないわよね。大抵は不可侵領域を決めてやるもんなんだけど、なんでかしら?
「楽しい遠足がトラウマになるじゃない……他校の生徒が。もう少し自覚持ってよ……」
 呆れた様子で呟く汁先生。いや、大概先生こそ自覚を持ってくださいよ!?
「俺は別に他の学校と一緒でもいいけどな、つか、一緒の方が断然良いんだが」
「そうだな、出会いの神様の一番弟子のハーゼさんも大賛成だ」
「あは、他の学校の人と知り合いになりたいなー」
 いや、真田にハーゼに渚ちゃん。問題児筆頭のあなた達が居るからこそできないんだってば……。
 というか、綺麗にバス遠足の連絡が前日に来たって事皆忘れてない? 普通延期になった遠足の予定はすぐに出るはずなんだけど? 絶対これは汁先生が連絡を忘れていたとしか思えないんだけど。
「ちなみに高等部は科学博物館で、中等部が動物園。小等部は水族館よ」
「ちょっと待てぇぇ!? なんでみんな一緒じゃない!?」
「レクリェーションはどうなったんですかー!?」
 なに、この俄然不満爆発の二人は!? 確かに前回も滅茶苦茶楽しみにしている素振り見せてたけど!?
「しょうがないじゃない、流石に丸一日公共施設を貸切なんて出来ないんだから!」
 そんな感じで突発的な遠足の前日になったのでした。


 ……流石に、流石に前日に連絡はないわ……。
 遠足の準備かなり大変だったわ。帰りのHRで本当に明日日付の遠足案内をお母さんに渡して、遠足のおやつを買いに行ったり、使い捨てカメラを買いに行ったりと大変だったわ。それにバスで移動とあって、集合時間が早くて準備もバタバタやった感じだし。ほんと何を考えているのかしら?
 当然バスの席順なんて決める暇もないから、いざバスに乗り込もうってなった時は大混戦だったわ。皆後ろ方の席に座ろうと一斉にバスに乗り込むから、コントみたいにバスの入口でみんな詰まっちゃうし。
「はぁーい、みなさーん出発するわよ~」
 学校の外に出るから汁先生もいつもより少しおめかしした格好。何だかんだで、こういう行事って先生たちも乗り気よね。
 身体に悪そうな色をした排気ガスをその場に残してバスが出発する。
 今日は外に出るとあってみんな学校指定のちょっと派手な色をしたジャージに身を包み、網棚にはリュックサックが大量に並んでいる。
「集合時間五時半ってなってたけど、結局出発は六時じゃねーか。ったく、これだから最後尾のバスは嫌だよなぁ。帰りも最後尾だし、なにか教師の連中ら俺たちに恨みでもあるのかよ」
 座席を二つも使うVIP座りでくつろぐ真田。あんた、ちょっと前の方見なさいよ。補助席にも座れなくて立ってる生徒居るんだけど?
「まぁ、いいじゃねぇか。解散集合はみんな揃ってからだ。一番最初に出発したバスなんか目的地に着いてから三十分以上待たなきゃいけないんだぜ。そう考える俺らVIPじゃね?」
 ハーゼ、あんたも一度前の方を見なさい。席に座れなく、吊革すらないバスの中で目的地に着くまでバランス感覚を鍛える修行をしなきゃいけない人が居るのよ。名前は解らないけど。
「でも、出発まで三十分も待っているんですわ、プラスマイナスゼロというよりマイナスの方が大きいと思うけど?」
 流石にミナは一人分の座席に座ってるけど、隣の座席に座ろうというチャレンジャーは存在しない。
「アタシ科学博物館って行った事ないんだよなー。どんなところかワクワクするなあ!」
 アキラの隣の席も当然空席。この二人の席に座ろうと言う強者はこのクラスに存在……したわ。
 乗車時の混雑を避け、座れる席に座ろうという魂胆だった影山君は当然補助席。隣の存在を知らずにその席に座って、左右をアキラとミナで挟まれた時の絶望的な表情は忘れないわ。
 というか、なんで影山君はこんなにもこの二人に挟まれるような席順ばかりなの?
 もう、天性的に運がないとしか言いようがないわ。
『まっ、待ってくれぇぇ!!』
 全員乗り込んだはずのバスの窓ガラスを誰かが叩いている。
 皆して窓の外を見ると、ジャージにマスク姿という非常に情けない恰好の正義が必死に走り出したバスと並走している。
 あれ、正義が乗るはずのバスって先に出たんじゃないの? というかいまだにこいつの所属するクラスが判らないわ。他のクラスで体育をしているかと思えば、当然のようにウチのクラスで授業を受けてたりするし。
 それよりも、遅刻したならこうやって置いて行かれるのは理解できるけど、正義って確か学校に一番に来てなかったっけ? 二番手は誰かって? さあ、誰でしょうね?
『ば、バスに、の、乗る前に、お手洗いと、酔い止めを飲んでおこうとトイレに行ったのだが、戻って来てみれば、ば、乗るはずだったバスはおろか、最後のバスまで出発している、で、ではないか!』
 ちょっと、全力で走りながらしゃべるのは危ないわよ、わき腹が痛くなっちゃうわよ、危険だわ!
「ちょ、せ、先生、正義がバスに乗り遅れてます!」
「あ、あらあら、困ったわ、運転手さん!」
 汁先生が運転手さんに声をかけると、乗車口が開く。バスはそのままの速度を維持してる。
 何このスタントは!? 何かの映画の撮影なの!?
『ま、待ってくれ、お、お腹が急に痛くなってきた……』
 正義は右わき腹のあたりを抑え苦しそうに呻く。ほら、言わんこっちゃない。全力で走りながらの私語は危ないわよ。
「というか、運転手さん止ろうよ!? 流石にこれはひどいわ!?」
「正義、もう少しだ、がんばれっ!」
「大丈夫、ジャスティスの神に祝福されたお前なら出来る!」
「がんばって、正義さんっ! もう少し!」
「ファイトっス、もう少しで届くッス!」
「正義、がんばれ! あと少し!」
 みんな窓から身を乗り出してエールを送る。誰か手を貸そうよ!?
「ディレイラさん、手を貸してあげて!」
 見ていられなくなり、乗車口近くに座っていたディレイラに声を掛ける。他にも座ってる人はいたんだけど、咄嗟に名前が出てこなかったわ。ぶっちゃけ、クラスメイトの三分の二の生徒の名前が判らないわ。
「ん……わかった」
 じ○がりこをかじっていたディレイラは静かに立ち上がり、開け放たれた乗車口に立ち、窓の淵を掴んで片手を差し出した。その片手には一本のじゃ○りこが握られている。
 ちょっと待って、そんなにじゃが○こは万能じゃないわ! 確かに硬いけど、人一人がつかんだら砕けちゃうわ!?
「すまない、恩にきる、ジャースティースハーーーうぎゃぷらっ!?」
 正義が握ったじ○がりこは当然のように砕け、バランスが崩れた正義はバックミラーから消えていった。

 結局正義は信号待ちでようやくバスに追いついて乗る事が出来た。高速に乗る前で本当に良かったわね。
「はふー、流石に二時間もバスに乗っているのは疲れるねぇー」
 やけに隣の席の子にくっつく渚ちゃん。相手はだれか言わなくても解るわよね?
「あ、あの……ち、近いです、渚さん……こ、これはこれでいいんですけど……」
「しかしだね、こうもバスに乗っている時間が長いと、何かしなければ時間が無駄になった気がしないかい?」
 ひざ小僧や裾あたりに正義と書かれたワッペンを貼り付けた正義が立ちあがる。もともとはほころびひとつないジャージだったんだけど、先ほどの大転倒でジャージはボロボロ。上着を脱いでシャツ姿でワッペンを張っている姿は滅茶苦茶シュールだったわ。
「でもさ、かといって汁先生にこの場を盛り上げるトークが出来ると思うか?」
「そりゃ無茶だな」
 胸に正義と書かれたワッペンを付けた真田とハーゼがう○い棒をかじりながらつぶやいた。別に正義ワッペンが今のトレンドという事はなく、ただ単に二人が正義ワッペンを見て「カッコいい、くれ、正義!」とねだったから。珍しいものにはすぐに食いつくのよね。
「でもさ、こうやって貼った時はすげーカッコいいって思ったワッペンだったけど、今冷静になって考えてみれば何やってんだろうな、俺」
「それは同感www」
 二人してワッペンを剥がし、バスの床に捨てる。ちょっ!?
「あんた達ねぇ、せっかくもらった物を捨てるなんて信じられないわよ」
 流石にこれは問題あるなと思って注意したんだけど……。
『だってレイラだって』
 そう言って二人は前の方の座席に座るディレイラの足元を指差す。ディレイラも正義を助けようとしたお礼だとか言ってワッペンを貰っていたはずだけど……。
 ちょ、捨てるのはや! というか、歯型ついてない? 食べようとしたの!?
「では、ここは私が盛り上げてこそジャスティス!」
 そう言ってどこからともなくアンプとマイクを取り出し始めた。
「こほん、では一曲……」
 歌うの!?
 どこからともなく、誰でも一度は聞いたことのある音楽が流れてきた。
「はっくぶつかーんにつーいたーら、はっくぶつかーんについたーら、ともだっち百人出来るっかな♪」
『いぇーい、せーいぎーっ!』
 煽るな!?
「ひゃーくにーんで回りたい隅から隅までまわりたい! わっははわっははわっはっは!」
 ちょっと正義!? あんたが言うと切実に聞こえるんだけど!?
 正義の一曲を皮切りにみんながマイクを奪って歌いだす。
 っと、なんかあかりちゃんがずっと静かなんだけど?
「どうしたの、あかりちゃん、元気がないみたいだけど?」
「お、おやつ食べようと思ったっスけどおやつがすべて……」
 ねるねる○るねじゃないの!? 何考えてんのよ!?
 水が必要なお菓子をおやつに選ぶ時点でどうかと思うんだけど……。
「はーい、みなさん、もうすぐ着きますよー!」
 汁さんが号令を掛ける。窓の外には巨大な建物が見える。へぇ、予想よりも大きいじゃない。

 つづく。


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